「ねえねえ、よくテレビとかでさ、おばちゃんが温泉に入って『あー、若返るー』とか
言うじゃん。あれって、比喩じゃなかったら面白いよねー」
気付けば春だった。
私は敷きっぱなしの布団の上をゴロゴロしながら師匠に言ってみた。
師匠はニコニコしながら、やってみようか、と言った。そして、パソコンを立ち上げ、
生放送で温泉巡り番組をやっている所をいくつかピックアップした。
――ぱちん。
手と手を合わせる。合掌。そして、少しずつ手のひらを離していく。
その隙間には誰が見ても吐き気を感じるような破綻した色彩が蠢いている。
━━━━━━━━━━━━━━━━番組1
今、元アイドルのおばちゃん三人が裸にバスタオルを巻いて温泉に入ろうとしている。
それは全然サービスショットじゃないし、それは本人達もスタッフも承知の上だ。
あくまでも、のどかな温泉巡り番組なのである。
――の、はずだった。
三人が同時に温泉に脚を入れる。
温泉に近寄り過ぎたカメラのファインダーが白く曇る。
カメラマンがタオルで拭く。
――多少ぼやけた画面の中、彼女たち3人はアイドル全盛期の身体に戻っている。
「……ち、ちょっと!! 何これ!?」
そのとき、カメラマンのプロ根性が無意識的に発揮された。
彼女たちの魅力的な若い身体を舐めるように写していく。
驚きふためく彼女たちの姿は十分に30年前の輝きを取り戻し、色めいていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━番組2
ムツゴロウさんが老犬と一緒に今、まさに温泉に入ろうとしている。
その犬は16年も生きた『ムツゴロウ王国のボス』であった。
「いやー、ジロウはねー、温泉が大好きなんですよねぇー」
ジロウが若返った。ムツゴロウさんも。
━━━━━━━━━━━━━━━━番組3
温泉に、今まさに長年使用されたノコギリやキリが投入されようとしている。
この地域特有の大工道具供養である。当温泉は塩化イオン濃度が非常に高く、
もともとサビている金属は3日もしない内に溶けてなくなってしまうのだそうだ。
新品のような大工道具になった。
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「弟子。どう?」
「死ね」