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 前日に引き続き、股間に違和感を感じて舞衣は目覚めた。しかし、あの生温い、なんともいえない  
いやな感触とは違い、今朝のものはたった一つの単語であらわせられるものである。  
(かいいよお。すごくかいいよう)  
 場所ははっきりしている。特殊パンツと鍵つきカバーに覆われた、少女のもっとも秘すべき場所で  
ある。しかしその厳重さ加減が仇となって、目的の場所には指がまるで届かない。  
(ん、んん、うあ)  
 ズボンをひざまでずりおろし、腰から、太ももからと何とか侵入を試みるが、これ以上ないくらい  
体型にフィットした鍵つきカバーは、指一本の侵入すら許さなかった。どうしてもかゆみに耐えられず、  
カバーの上から該当の個所を押さえつけて刺激を与えるが、そんなものではまるで足りない。  
(看護師さんを呼んで外してもらわないと……)  
 しかし、看護師にはなんといえばいいのだろう。昨日のようにトイレと告げたところで、部屋から出て  
行ってくれる保証はない。部屋に残っていたら? 服の上からでさえ、誤解を招きかねない行為その  
ものだというのに、裸になって、人前でできることではない。  
 そもそも、ここには触るなといわれていたのではなかったか。  
(バイ菌のせいで、こうなっちゃったのかな)  
 そうだとすると、何か薬がもらえるのではないか。カユミ止めになる薬か何かを。しかし、そうだと  
しても、おそらくその薬は看護師か医師に塗ってもらうことになるのだろう。トイレのあとでさえあの  
ように執拗に拭かれたのだから、まず間違いあるまい。  
 そう思うと、ついためらいがちになってしまう。  
(なにか、いい方法は――)  
 あたりを探す。何の変哲もない台が、舞衣の目に止まった。  
(…………)  
 舞衣は台の一点を見て考え込む。かゆみを何とかするためには患部に刺激を与えなくてはいけ  
ないが、鍵つきカバーは外れず、カバーの上から押さえることくらいしかできない。舞衣の力では  
とても満足できるだけの刺激は与えられず、かゆみはおさまらない。  
 『あれ』を使えば最大、体重分の力で刺激を与えることができる。それなら、今の舞衣の力よりも  
はるかに強いだろう。しかし、誰にも見られていないとはいえ、それは実行するには恥ずかしすぎる行為だ。  
 
(…………)  
 苦悶の末、舞衣は誰もいないのはわかっていたが、あたりをもう一度見回してから、起き上がった。  
かゆみにはとても耐えられない。やるしかない。もしものためにズボンはきちんと上げておく。  
 台の上に両手をつき、体を持ち上げ、その立方体の三辺が交わる部分――つまり角の部分――に  
股間を押し当てる。  
「ん、んぁ……」  
 思ったとおり、これまでにない刺激が秘部に伝わった。力が入り過ぎないように、足りなくないように、  
両手両足を使って体をわずかに上下させる。  
「ん……いい、あぁ」  
 かゆみを解消させるだけではなく、頭をぼうっとさせる快感が織り交ざって、舞衣は知らず知らずの  
うちに声を出していた。  
「んん、んあ、あー」  
 ぎゅーっと性器を押し当てているうちに、いつのまにか舞衣の股間のかゆみは消えていた。しかし、  
舞衣はその行為を止めることができず、さらに大きな刺激を得られるように足を浮かせるように折り  
曲げていく。  
(ああ……やだ、キモチいい……あっ、あっ、ああん)  
 快感が増大していくのが心地よい。知識はともかく、ほとんど経験のない行為であったが、かなり悪く  
ない。思わず我を忘れて夢中になってしまったが、神経はむしろ鋭敏になっていくのがわかる。  
(あ、あひ、はあ、あぁん、あぁー)  
 感覚器官は研ぎ澄まされて、快感はいよいよ頂点に――達しようとしたそのとき、その研ぎ澄まされた  
五感が、ドアの外に人が近づいたことを舞衣に知らせた。  
(!?)  
 自分でも信じられないほど手足がすばやく動き、次の瞬間には舞衣をベッドの元の位置に移動させていた。  
「おはよーってあれあれ? 舞衣ちゃんは今日も早起きだね。顔が赤いけど熱があるんじゃないかな」  
「はぁっ、はぁっ、お、おはよう、ございます」  
 かろうじて平静をつとめながら、舞衣は布団を手繰り寄せて下半身を隠した。本当にいつ休んでいる  
のか知らないが、河村看護師は昨日と同じ時間に舞衣の部屋にあらわれたのだった。  
 
 朝食が終わってしばらくすると、村松医師が診察にやってきた。  
「検査の結果が出ましたので、今日からは本格的な治療に入りたいと思います」  
 相変わらず村松医師は、彼にとっては小さな女の子であるはずの舞衣にも、丁寧な口調で話し  
かけてくれる。  
「舞衣さんの病気は、治すだけなら定期的な投薬、つまり決められた時間にちゃんと薬を飲みつづ  
ければ治ることは治ります。ただ、病気の進行と治療の過程で、体のあちこちにいろいろな症状が  
出てくるので、そういったものに対しても治療が必要になる、ということになります。具体的には消化  
器系の不良、触感の鈍化あるいは鋭敏化、皮膚の赤み、硬化、色素の沈着、かゆみ、粘膜の炎症、  
筋肉の弛緩、といった症状などです。できものがあらわれることもあります。ただ、これらの症状は  
個人差が大きく、すべてがすべて問題となるわけではありません。部分的に悪化することもあります  
が、快方に向けての一時的なものですので、病気事態は心配いりません。しかし、体の部位によって  
は外的要因が重なって劇症となることがありますので、そういったことにならないよう、治療中はこちら  
の支持をしっかり守ってください」  
 飲み薬だけで治るという言葉は舞衣を喜ばせた。とっくに説明されたのを舞衣が忘れていただけか、  
あるいは、周知のこととうっかりしていたのか、これまでははっきりそう伝えられていなかったのである。  
『手術』という言葉が持つ恐怖に比べれば、『薬だけ』というのは本当にほっとする。村松医師の説明  
でようやくこのことがわかったが、その言葉の中のある単語を、舞衣は聞き逃さなかった。  
(かゆみ……)  
 現在はそれほどでもないが、やはりあれは病気のせいだったのだ。治療してくれるというし、そういう  
ことならこれからは心配することはないだろう。  
「今いったような症状はありますか?」  
 本来なら正直に答えるべきなのだろう。しかし、舞衣はあまり正確なことは話したくない。  
「えっと、今はあまりありませんが、少し前にかゆかった場所がありました」  
 いいながら舞衣は、(しまった)と思った。こんないい方では、「それはどこですか?」と訊ねられれば、  
同姓に対してでも恥ずかしいその場所を、男性に対して示さねばいけなくなってしまう。しかし、意外  
なことに村松医師は「そうですか。今あまりかゆくないんなら薬の塗るのはあとでいいかな」といった  
きりだった。舞衣もあえてその話題を続けたくはなく、了承した。  
「ところで」  
 いいづらそうに、村松医師は舞衣に続けた。  
「すでになんども説明してきたと思いますが、舞衣さんの病気を治療するにあたって、詳細な記録を  
取らなければいけません。さらにその際、補助と学習のために学生……将来医者や看護師となる人  
たちが何人か同席することになります。もう一度訊きますが、よろしいですね?」  
 その問いの答えには、舞衣の選択肢はない。断ってしまえば、母にこれまでにない負担を強いること  
になるだろう。  
 この問いは、最後の一線だ。踏み出してしまえば戻れない。とうとう、来るべきものがきたのだ。  
 この問いの答えは、一つしかない……  
「はい。わかりました」  
 舞衣は静かに、しかしはっきりと村松医師にいった。  
 
 
 舞衣は、処置室のさらに先に行った部屋で、一〇人もの人間に囲まれていた。部屋は舞衣の通う  
学校の教室の半分程度で、医療用のベッドや道具、大小いくつかのテレビなどが並べてある。舞衣  
のかたわらには村松医師と河村看護師、それにもう一人の看護師がいて、少し離れたところに五人  
の男性と二人の女性がいた。彼らは村松医師や二人の看護師よりも若く、おそらくは学生なのだろう。  
全員白衣を着て、思い思いの顔で舞衣を見ているようだった。二〇もの目に囲まれて、舞衣の中で  
かつてない不安感が高まっていく。  
(やだ……)  
 五人の男子学生は、みな真面目で実直そうな顔をしているが、緊張とともにこの状況に対する期待  
が確かに見て取れた。どういった検査や治療をするにせよ、これから舞衣は服を脱いで、隠すものの  
なくなったその素肌を彼らの前に惜しげもなく見せつけなければいけない。彼らは、少女から大人へと、  
きわめて微妙な年齢にいる少女の裸体を、存分に眺め回すことができるのだ。いや、眺め回すだけ  
ではなく、それ以上のことができることを期待しているはずだ。そんなことは一般社会ではとても  
不可能だし、彼らが医者になったとしてもそうそう訪れるかどうかわからない機会だろう。  
 
 一方、女子学生の一人は、同情とも取れる目つきで舞衣を見ていた。しかし、もう一人の女子  
学生はそういった目つきではなく、口に手を当てながら実に愛しそうに舞衣を見つめていたのである。  
 舞衣はときどき、年上の女性からこういった視線を受けることがあった。要は小動物を見て『かわ  
いい』と思う感覚なのだろう。親戚のあまり少し歳の離れていない姉のような女性にも、会うたびに  
「かわいいなあ。舞衣は」と力いっぱい抱きしめてくる人がいたが、舞衣自身は自分がそれほど  
騒がれるような顔であるとは思っていなかった。一般的な『美人』とは違うし、というと、舞衣の魅力は  
そんなものではない、と彼女は語った。彼女にいわせると、舞衣のおとなしそうな雰囲気もスマートな  
肢体も、肩に届くか届かないかというところではねた髪も、キョロキョロと動く瞳も小さな鼻も困った  
ときに唇をかむ癖も、まるで一人ぼっちにされて震えている仔犬のようで、『たまらない』というのである。  
 ここしばらくはそういった露骨な視線を受けてはいないと思っていたが、これから自分の体を診る  
人間たちの中にそういった趣味(ここまできたらそう表現してもいいだろう)の女性を見つけてしまい、  
舞衣は複雑な気分になった。  
(あれは……)  
 学生の一人がセッティングしたビデオカメラと三脚を見て、舞衣はいっそう憂鬱になった。初日の  
こともあるし、写真をとられるであろうことは覚悟していたが、それだけではなくビデオもとられるらしい。  
それもカメラは一つではないようだ。確かに教材としてみれば、写真よりも音と動きが入るビデオの  
ほうがはるかに優秀なのだろうが、とられるほうにしてみれば、はるかに恥ずかしいのである。  
 さらに、それよりも舞衣の心に重くのしかかるものがあった。通常の診察に使われる白いシーツの  
ベッドの横に、黒光りする皮張りの大きな椅子が置いてある。その椅子には肘掛だけではなく奇妙な  
形をした見慣れない二つの受け皿のようなものがついている。受け皿にはベルトがあり、位置からして  
そこにはひざを当てて固定するのだろうと思われた。存在自体は舞衣も聞いたことがある。両足を  
開かせ、すみやかな診察を可能にする産婦人科用の検診装置。内診台と呼ばれる物体である。  
 
しかもその内診台は電動式になっているようで、背もたれや足受けがスイッチ一つで自在に動かせる  
仕組みらしい。  
(服を脱がされるだけじゃなくて、あんなものに乗せられたら……)  
 がっちりと足を捕らえた二本のアームは舞衣の非力な抵抗をあざ笑うかのようにその足を限界まで  
開かせることだろう。そして、少女自身の秘裂どころか、自分ですら見たことのない、普段は小さな  
おしりにはさまれて隠された不浄の穴も、そのしわの一本一本にいたるまでこの二〇の眼の前に  
さらしだされることになるのだ。  
(それだけはいや……!)  
 体が震え、足ががたつく思いだ。もし「ここに座れ」といわれたら、なんといったら許してもらえる  
だろう? 泣き叫んだら止めてくれるだろうか。幸い、ここには河村看護師がいる。彼女なら――  
彼女ならきっと舞衣を助けてくれるのではないだろうか。  
「ではみなさん、これから始めますが……彼女は、同じ病気で苦しむ人の役に立てるのなら、医療  
の発展の一助となるのなら、とまだ幼い身ながら高潔な奉仕精神をもってその身体を提供してくれて  
いるのです。敬意を持って、真剣に接してください」  
 村松医師はまったく真面目な表情でそう語るが、舞衣はそんなことは嘘だとわかっている。治療費  
のために、こんな人体実験みたいな真似をさせられて、見せものにならなくてはいけないのだ。しかし、  
(お金のためにこんな目にあわなくてはいけないなんて)と思うよりは、彼のいうとおり(世の中の  
役に立つんだから)と思い込んだほうが、まだ自分を納得させられるものだ。  
「上着をめくってください」  
 まず初めは一般的な診察から入るようだ。舞衣が上着をめくるよりも早く河村看護師の手が  
伸びて、白い小さなお腹や、成長の過程にある胸を露出させた。これが舞衣の、羞恥の生体解剖  
の第一歩となった。学生がビデオを操作するのを見て、すでに撮影は始まっているのを知った。  
小さなテレビの一つに、舞衣の姿が映っている。  
「後ろを向いて」  
 村松医師はいろいろと学生に説明しながら舞衣を診るが、それ以外は通常の診察と変わらない。  
「そのままこちらに横になってください」  
 
 と村松医師が指したのは黒光りする椅子ではなく、通常の白いベッドだった。ひとまずほっとして、  
そのまま横たわる。以前のように、腰の下に枕が入れられた。横になると、いよいよ俎板の鯉の  
観がして、抗う気力も失せてくる。すぐにまた服をめくられ、肩だとかお腹だとかを触られた。強く  
圧迫されるが、痛いというよりはくすぐったい。一通り終わると、いったん上着は閉じられた。  
「ひじを曲げて手は頭の横に置いてください」  
 いわれたとおりにすると、看護師の一人に両手とも手を握られ、押さえられた。これでは舞衣の  
腕は自由に動かせない。そのとき看護師の名札が読めたが、『山内』とあった。  
「次に何をするかわかりますか?」  
 村松医師が学生たちに語りかける。質問というより確認であったらしいが、目があったのか、一人  
が「検温です」と答えるのが聞こえた。  
「そうです。家庭ではわきの下にはさんで測定するのが一般的ですが、今回はそれに加えて口内と  
膣内、腸内の温度も同時に測定します。これらがそうですが――」  
(えっ……!?)  
 とんでもないセリフを聞いた気がする。  
(口と……膣と腸って……)  
 他に考えようがない。測定するといったら、測定するのだろう。  
「河村さん、ズボンとカバーを脱がしてやってください。……この病気では陰部全体を清潔に保つ  
必要があるので、この特殊抗菌パンツを着用させていますが、取り外すときは多少注意が必要です」  
 舞衣の混乱がおさまらないうちに、河村看護師はさっさと舞衣のズボンとカバーを取り払って  
しまった。さらに、パンツ自体も取り外される。  
(ああっ……そんな)  
 三脚を伸ばされたビデオが斜め上から舞衣の体全体をなめまわすように映しとる。さらに照明が  
つけられ、舞衣の陰毛を中心にライトアップした。舞衣を中心に囲むように学生たちが集まってくる。  
神秘の割れ目は餅のような白い肉にはさまれかろうじて細い一本の縦筋となっているが、あちら  
こちらから光をあてられ、陰となっている部分はない。恥毛すらも赤茶色に輝いているようだ。  
テレビモニターを見ると、自分の顔がみるみるうちに赤く染まっていくところだった。『顔が赤くなる』  
という表現があるが、その言葉どおり舞衣の顔は本当に耳まで真っ赤に染めあがっていく。  
 
 舞衣のパニックをよそに、村松医師は次の行動に出た。  
「このように両足をそろえて腹部に押し付け、肛門を露出させます」  
(うそっ……)  
 村松医師と河村看護師の手により舞衣の両足はひざを曲げて持ち上げられ、ちょうど体操座り  
のようにひざを抱える姿勢をとらされた。この体勢では、舞衣の未熟な性器はおろか、肛門さえ  
余すところなく学生たちの目にうつしだされていることだろう。  
(……やだ、やだぁ)  
 これでは内診台に上がらされるのと大差ない。機械によるか、人の手によるかの違いくらいだ。  
さらに、カシャリカシャリという音が舞衣に追い打ちをかけた。光に照らされた舞衣の股間を、写真  
でも記録しているのだ。頭が真っ白になった舞衣は、つい身をよじらせてはかない抵抗を試みた。  
「動かないでください。体温計を挿入しますから、動かれると危険です」  
 即座に注意を受け、身を固くする。  
「あぁん」  
 肛門に異物の侵入を受け、舞衣はせつない悲鳴を漏らした。続いて膣にも体温計が差し込まれる。  
「んぁ」  
 その間もシャッター音は止まらない。デジタルカメラか通常のカメラかはわからないが、舞衣の  
小さな裸身を、そのレンズの中の筐体に永遠に残しつづけていくのは間違いない。それから両足  
はゆっくりと下ろされ、ベッドの上に伸ばされた。短い時間だったが、舞衣にとってはかつてない  
恥辱の時間であった。  
「もっと小さなお子さんの場合は、動いて体温計を折る危険性がありますので、検温中は足を  
しっかりと押さえておく必要があります。この姿勢で押さえておけば患者がりきんでも体温計は  
抜けにくいのです。口とわきの下にも体温計を設置して、五分ほど待ちます」  
 パジャマの上着が今度は片側だけめくられた。女らしいまるみを持ちつつあるが、いまだ少女  
特有のスレンダーな肉体が、頭から足の先まで看視者たちの前に示された。片胸は隠されている  
が気休めにもならないだろう。手をバンザイの形のまま押さえつけられた舞衣には、二本の棒が  
生やされた股間はおろか、必死に屈辱に耐える顔さえも隠すことができないのだ。  
(こんなのって……こんなのって)  
 
 そして、それらのすべては、写真だけではなく、ビデオというこれ以上ない忠実な記憶装置に、克明に  
記録されている。もちろん写真も、舞衣の上着が広げられたその瞬間を逃さず、すかさずシャッターがおりる。  
 わきの下に体温計が置かれると、体温計を締めつけるためにそちらの手だけはひじを伸ばし、  
下ろすことを許されたが、横から腕を添えられ、これまでのように動かないように押さえられた。  
めくられた上着も元に戻され、前で軽くあわされる。すぐに最後の体温計が口に入れられた。  
「さて、この間にこの数日間の患者の分泌物から病状の変化をみてみましょう。こちらのモニターを  
見てください」  
 村松医師が一番大きなテレビを指差す。いっときでも自分から注意がそれ、舞衣は吐息とともに  
緊張が緩んだ。だが、それは大きな間違いだった。大きな画面に鮮明に映し出されたそれは、  
これまでで最大の衝撃を舞衣に与えたのだ。  
 そこに映し出されたのは、二日前脱がされた、舞衣自身のパンツだった。子供っぽく飾り気の  
ないそれは、ただ単に陳列されているわけではなく、裏返しにされ、秘所を覆っていた部分を剥き出し  
にされて、映し出されていた。洗ってもなかなか落ちることのなくなった黄ばんだシミや、脱いだ  
直後からこびりついていたのだろう、薄茶のスジ状の汚れなどが、大画面いっぱいに拡大され  
表示されたのだ。  
「いや、いやあ、見ないでっ」  
 髪を振り乱し叫ぶ舞衣に、村松医師や学生たちは驚いて振り向いたが、すぐに気を取り直した。  
村松医師は咳払い一つすると説明を再開する。手を握っていた山内看護師だけでなく、河村  
看護師も舞衣を慌てて押さえつけたが、もともと懇願の叫び以外は、暴れるようなことはしていなかった  
ので、すぐに力は緩められた。  
(みんな、見てる……)  
 これまでは、丸出しにされた下半身を見つめられてきた。しかし、それはおしっこのたびに清められた  
場所であったし、肛門といっても、前日ウォッシュレットを使用してからは汚れるようなことをしていない。  
見られることも半ば覚悟の上であったし、治療のためと思えば何とか我慢してきた。だが、今、  
注視されているのは、ほとんど何の準備もしないまま身につけてきた下着である。汚れ、使い  
古されてきたそれは、完全に舞衣の覚悟の外にあった。  
 
 裸どころか、膣と肛門に体温計を入れられてもおとなしくしていたのに、どうして急に叫んだのだろう。  
学生たちの中にはこう思っている者もいるかもしれない。だが、それは違う。汚れた下着を見られる  
ということは、舞衣にとっては性器や肛門を見られること同様、いやそれ以上に耐えがたいことなのだ。  
たとえば、肛門が自分でもみたことのない場所だというなら、大写しにされているそのパンツは、  
いまだかつて誰にも見せたことのないものだ。幼いころはともかく、今では母親にさえ見せたこと  
はない。忙しい彼女に代わり、家では洗濯は舞衣の仕事だ。舞衣も、汚れが染み付き、ところどころ  
変色してしまった下着に替わって、新しいものが欲しかったが、家庭の事情がそれをためらわせて  
きた。そんな舞衣のみじめさの象徴ともいえるパンツを、学生たちは誰一人目をそらすことなく  
見つめている。  
 おねしょを見つけられるよりも、さらにひどい仕打ちだ。パンツのシミをいちいち指示棒で示しては、  
「これは、おそらく以前からのもので、病状の進行によるものではないでしょう」という村松医師の声を  
聞くと、舞衣はあまりの恥ずかしさでめまいがする思いだった。  
「それで、これらが入院後のものです」  
 舞衣からギリギリ目が届く台には、これまで舞衣がはかされてきた特殊抗菌パンツが並べてあった。  
といっても、そのものが並べてあるわけではなく、直接舞衣の股間に当てられてきた最も内側の  
部分だけが取り外されて並べられてあるようだった。舞衣のパンツだけがテレビに映されていた  
のは、汚れがこれ以上シミにならないようにと、実物はとっくに洗濯されたからだろう。並べられた  
パンツには、例の、おねしょのときのものもあるのだろうか。河村看護師がなんとかしてくれたか、  
仮にあったとしても、とっくに乾いてしまってわからなくなっているはずだと思いたい。  
「――液に浸すことによって、菌の増殖具合が顕著となります。このように、あきらかに病状が  
移行しているのがわかります。……最後の、今朝のものは、女児自身の分泌物が――」  
 その言葉が抜き出されて聞こえ、舞衣はさぁっと蒼ざめた。  
(そ……それって)  
 
 まさか、まさかとは思うが、ひょっとして今朝、舞衣が何をしたか、彼らにはわかったのではない  
か。確信はないとしても、十分に想像はつくのではないか。自分の発想におびえながら、舞衣は  
学生たちのほうを見た。  
(あ……そんな)  
 彼らのうちの何人かは舞衣の顔を見ていたのである。それまでは一度として振り返らず、村松  
医師の言葉に集中していたというのに。目があうと、さっとそらしてしまったが、「ふうん」とか「へえ」  
といった軽い驚きが彼らにあったように舞衣には思われた。  
 惨めさに体を震わせながら、舞衣はそれでも必死にこの恥辱に耐えるしかない。  
 
 
 
 
(続く)  

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