「伊藤君・・・あのね、その・・・。」  
人気の無い廊下で声をかけられるのもこれで4度目だ。  
「ううん、なんでもないの!それじゃ!」  
「まてやコラ」  
逃げ去ろうとする彼女の腕をがっしと掴む。  
「ええっ!?なに?どうしたの!?」  
「それは俺が聞きたいので、こういう手段を取る。」  
ふんづかまえた左手を引き寄せ、右手に持った布で  
彼女の口元を覆った。  
「ふぐ・・・むぅ・・・。」  
しばらくもがもが暴れていた彼女は、俺の腕の中でくたっとなる。  
「手間かけさせやがって。」  
 
「う・・・ん・・・」  
「お、目を覚ましたか。」  
「あれ、伊藤君・・・ぅ、頭が痛い・・・。」  
薬品の匂いが篭る理科準備室。  
「さあて、田中さん。今日と言う今日は俺に  
 何が言いたいのか聞かせてもらうぞ。」  
「な、なに!?私なんで簀巻きにぅぐっ!?」  
「よく噛んで、舐めるんだ・・・。」  
「ふぁひほえ、ひがいおぉぉ(何これ、にがいよー!)」  
「これは、とあるサボテンの一種なのだ。まあ・・・大丈夫だと思う。」  
「ふぁーっへはひー!!!(まあ、ってなにー!?)」  
暴れる彼女をしばらく押さえ込んでいると、抵抗が弱まってくる。  
「ほーら、真理子ちゃん?ボクに何が言いたかったのかなー?」  
「イトウ君がぁ〜、好きれすぅ〜〜・・・」  
なんと!彼女は俺に好意を持っていたのか!!  
 
「ずっとぉ、いひゃいひゃ(いちゃいちゃ)したいとかぁ〜  
 きふ(キス)しらいとかぁ〜、おもっれまひたぁ〜。」  
学年のマドンナであり、我が憧れの君である田中真理子さんが・・・  
俺とキスしたいと!!これは快挙だ!  
ブラボー俺!やったぞ俺!なんかした覚えは無いんだけど!  
「委細合点承知!では、いただきまーす!!」  
 
むちゅぅ〜〜〜  
 
苦い。とてつもなく苦い。吐きそうだ。  
「ってシマッタ、まだサボテンがアーッヒャッヒャッヒャッヒャ(゚∀゚)」  
「うふうふむふふふふふアーッヒャッヒャッヒャッヒャ(゚∀゚)」  
 
ファーストキスはメスカリンの味がした。  
 
 
翌日。  
 
「伊藤君・・・あのね、その・・・。」  
またか。しかし今回はもう口ごもる理由も無いはずだが?  
「なにかな?マイスゥイートハニー!」  
ことさらに昨日の告白が有効であることを伝えてみる。  
「いやそのね、そうじゃなくて・・・。」  
なんだなんだ?どうもそわそわして落ち着かないようだが?  
田中さんはごくりと唾を飲み込み、潤んだ瞳で俺を見つめている。  
これはアレか?俺に何もかも捧げたいという意思表示か!?  
「あのね・・・。」  
「うんうん(ハァハァ)」  
「薬・・・。」  
「は?」  
「お薬ちょうだいーッ!!ヤク!!!ヤクくれよヤクぅぅぅぅぅ!!!」  
「おちつけーーーーーーーッ!!」  
 
すぱぁんっ!!!  
 
「ったく。昏倒したあんたを哲雄が運んできたときは何事かと思ったわよ。」  
「うぅっ、ごめん真由子・・・。」  
気がつくと私の教室。あのあと、伊藤君が私をここまで抱えて  
連れてきてくれたらしい。  
「しっかしあんにゃろう、族長からの友好の証をこんなところで使うとはね。」  
「友好の証って・・・昨日言った苦いサボテン?」  
「そうそう。ウチ一家がネイティブアメリカンの人たちのところに  
 フィールドワークに行ったときにね。哲雄が族長と意気投合して貰ったんだって。」  
伊藤哲雄、真由子の双子の兄妹(姉弟?)は人文学者の家の生まれだそうだ。  
伊藤家のリビングにはそういった怪しい代物が満載だと聞いている。  
「うー。まさかいきなり上履きで張り倒されるとは思わなかったよー。」  
即頭部に靴裏の跡がくっきり残ってる。とほほ・・・落ちないよぉ。  
「その前は、クロロフォルム嗅がされて理科準備室に連れ込まれて自白剤だしねえ。」  
「・・・。」  
「・・・。」  
「・・・。」  
「あんた、なんでアレが好きなの?」  
「・・・あはは・・・自由なところ・・・かな。」  
「アタシ、犯罪と自由は違うと思うんだけどなぁ。」  
 
しかし驚いたのはあのおしとやかな才媛であるところの田中真理子嬢が、  
ネタで「ヤク中のまねぇ〜」をやったところだ。真由子の仕込みらしいが。  
 
放課後、大宇宙から謎の電波を受信して体操用のマットめがけて  
ルパンダイヴの練習を繰り返しながら、俺はいろいろ策を練っていた。  
真理子嬢のブレーンに真由子がついていたというのは誤算だった。  
というか、俺は奴と彼女が親友であると言うことすら知らなかったのである。  
 
「これはいかん!」  
 
がばっとマットから跳ね起きて帰り支度を整える。  
「お?もういいのか?」  
ロードワークから帰ってきた体操部の部長だ。  
「おう、敵を知り己を知れば百戦危うからずと言うからな!」」  
「??・・・よくわからんが、がんばれ。」  
「ありがとよぉ〜。」  
 
 
一週間後。  
 
「ったく。アタシがなんで真理子を送らないといけないのかな。」  
「ごめんねー、真由子ちゃん」  
「こういうのは、彼氏の役目だろうに。」  
「まだ彼氏と決まったわけじゃないよう。」  
「自白剤とはいえ告白して、唾液ちゅぱちゅぱ交換するほど  
 ディープキスかましといて何を言うかな、このカマトト娘は!」  
「うわーん!!そのことは言わないでよう〜。」  
ここ一週間ほど、真理子が帰宅中に後をつけられているらしい。  
追い詰められてのクソ度胸だけは据わっているものの基本的に  
気の小さい真理子は、すっかり怯えきってしまい・・・  
こうして私に護衛を頼んできたわけだ。  
「しかし、あいつも出来立てのホヤホヤの彼女を  
 ほったらかしてどこをほっつき歩いているのやら。」  
「まだ彼女じゃないってばぁ。・・・修行って言ってたんだよね?」  
「己に勝つために出来ることをする!だってさ。口だけは回るよね。」  
「・・・。」  
傍らを見ると、真理子は手帳に何か書き込みをしている。  
ちょっと気に入った言葉を聴くといつもこうだ。  
以前見せてもらったところ・・・何気に哲雄の常用する  
言い回しが数多く記録されている。  
「やれやれ・・・アタシ、馬鹿みたい。」  
「??」  
 
今日は、ターゲットはボギー1(真由子)の護衛つきである。  
その情報を事前に入手した俺は、今日のところは標的宅の周辺捜査で  
身の安全を図ることにした。  
 
>1人で、いつも行く標的宅でを張り込みをしていたら、勝手口から年配風の女性がでて来て、それが標的宅の女中!  
>僕がボーと見ていると彼女がゴミを持ったまま収集所へ行きました。  
>5分位して帰って来たので、いま捨てたのか?今行けば彼女の  
>生活ゴミが見られるかもと思い僕も集積所に行きました。集積所は男女兼用です。  
 
>ゴミ袋を開けると香水の香だけでした。失敗かと思い念のため小さいビニール服を  
>開けると、ありました温もりの残るナプ!  
>感激して広げると信じられない位の量の生レバーがドッサリと乗っていました、  
>思わずその場でガッツポーズその場で全部口に  
 
「やめんかど変態ぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!!」  
すっ飛んできた飛び膝を後ろ手で払い、勢いでくるっと半身を回転しながら  
「ちぃっ、帰宅ルートが違うだろ!!寄り道はいかんぞ寄り道は!!」  
「黙れ犯罪者ァ!!真理子つけ回してたのもアンタねーーーっ!?」  
正中線に沿った急所に的確に叩き込まれる拳を払う払う払う払う払う払う払う払う  
「ちょっ、おまっ、やめっ・・・」  
「このバカチンがぁ!」  
「おふぅンっ!?」  
一番ヤバイ急所を脛で打たれながら昏倒する俺の目に映ったのはおろおろする  
ターゲット、真理子嬢。  
「今日は・・・縞パンかっ・・・・・・!!」  
「死ね!!」  
俺は、意識を失った。  
 
「引用部分は読者向けのネタだからな。アレはただの生ゴミだぞ。」  
意識を取り戻すなり一応釈明してみた。・・・あれ。誰もいねーや。  
自分が、以前真理子嬢にやらかしたように簀巻きになっているのはわかる。  
ただ、暗くて何も見えないのはいささか不便だ。  
「とりあえず元ネタについては汚物入れ 生レバー ガッツポーズあたりでググ・・・」  
「うるさい黙れ」「はい」  
とりあえず釈明を続けようとしたら、真由子の声でさえぎられた。  
「あーんーたーはー!!スレタイくらい見なさいよ!ここ何スレ!?」  
「楽屋ネタは読者に引かれると思あだだだだ!?」  
どうやら足だけは外部に露出しているらしい。足の甲を思いっきりつねり上げられた。  
「じ、純愛スレっす。」  
「なら純愛貫けやこのタコ野郎ーッ!!」  
「ギブ、ギブ、ギブーーーーーー!!!」  
アキレス腱固めはヤバイ、マジヤバイ!  
「真由子よ!相手のことをもっと深く知りたいと考えるのも純愛と考えるがいかに!」  
「そこでストーカー行為ですよ旦那ァ・・・とでも言うと思ったのかこの阿呆がー!!  
 そこぉ!真理子もメモ取ってんじゃないわよ!!」  
「ギャーーーー!!」  
針は、針はやぁめぇてぇ〜〜〜〜〜  
 
「で?」  
ひとしきり俺のぷりちーな足を嬲って満足したのか、今のところ俺は  
光の下にいる。相変わらず簀巻きにされたままではあるが。  
「うむ。マイハニーがおまいと親友であったと言う事実すら知らなかった  
 俺はいたくショックを受けてだな。」  
「それでストーカー行為に頭がすっ飛ぶあたりがあんたよねえ。」  
「まあな・・・そこでこの一週間、マイハニーの生活に密着取材を  
 敢行したわけなのだよ。」  
「か、帰り道だけじゃなかったんですね。」  
「で、あるからしてこの部屋が純和風のスーパーお屋敷・田中邸の離れに  
 ある茶室であることくらいもわかるわけなのだ。」  
「す、すごいです!」  
「そこ、感心するところじゃないよ。」  
真由子がげんなりした声を出した。  
「だいたい、家の間取りなんか調べてどうする気?」  
「うむ。ミソはそこでだな。しがない3流大学教授のわが家と地元に知られた  
 旧家である田中家の娘・・・と来れば鬼のようなおじい様に結婚を  
 反対されるのは疑いようも無いわけでだな。」  
「結婚!」  
真理子さんがぼぼっと紅くなる。うは、かわいいな。  
「日本刀を構えて迫り来る爺さんから確実に逃れるための逃走経路は  
 バッチリと確保済みなんだな!これが!!」  
「頭痛い・・・」  
そこで茶室の障子ががらすぱーんと音を立てて開き、当のおじい様が現れて  
「気に入ったァ!!その若さにして凄まじい行動力!調査技能!  
 入念な下調べに孫に対する行き過ぎた心遣い!その全てが真の漢!  
 真理子の婿に相応しい資質じゃァ!!」  
「お褒めに預かり恐悦至極!!」  
などと言うものだから、さらに真由子の頭痛の種が増えたわけなんだなあ。これが。  
 

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