「春樹、美緒ちゃんが来てるよ」  
母親にそう言われた春樹は、遊んでいたゲームの電源を落とし、玄関へ向かった。  
「勝手に入ってくりゃいいのに」  
美緒は近くに住む幼馴染である。家族ぐるみの付き合いなので、遠慮なんていらない。  
玄関が開いていたら勝手に入って来れば良いのだし、また今まではそうしてきた。なの  
に、今日に限って何故──春樹は頭を掻きながら玄関にやって来た。  
 
「春樹」  
「どうしたんだよ、お前。勝手に入って来れば・・・」  
玄関に佇む美緒は雨にでも降られたのか、全身がずぶ濡れである。しかし、春樹が言葉  
を詰まらせたのは、そのせいではない。  
「お前、泣いてるのか?」  
「・・・うん」  
「上がれよ。母さん、タオルもって来て!」  
美緒が泣いている。雨のしずくではない。顔をくしゃくしゃにして、悲しそうに涙をこぼしてい  
るのだ。春樹はとりあえず濡れた美緒の肩を抱いて、自室へといざなった。  
 
「引越し?お前んちが?」  
「うん・・・そうなの」  
美緒は春樹の服を借り、濡れた髪をタオルで乾かしている。涙は止まったが、相変わらず  
泣き顔のままだ。  
 
「どこへ?」  
「東京」  
「いつ?」  
「来週の日曜」  
「そりゃまた急だな」  
部屋の中に重い空気が流れた。引越しに関しては仕方がないとしても、出発が早すぎる。  
十七歳になる今日まで、同じ時間を多く共有してきた二人には、別れを惜しむ時間も長く  
必要である。春樹も美緒も、その気持ちは同じだった。つまり、離れたくない──  
 
「学校はどうするんだよ」  
「向こうの公立に行くの。もう、決められちゃってて」  
美緒の瞳は涙でキラキラと光っている。化粧っ気のない素朴な顔立ちだが、誰からも愛さ  
れる美緒を、春樹は好きだった。  
「どうしようもないのか」  
「みたいだね・・・」  
二人はうつろう時間の中へ、取り残されたかのように沈んだ。何も言えない。口を開けば、  
泣き言しか出てこないからだ。  
 
「春樹」  
「なんだ」  
「ごめんね」  
「バカ。お前が謝るな」  
東京か──遠いな、と春樹は思った。この田舎町からじゃ、おいそれとは訪ねてはいけ  
ない距離である。それは事実上の別れを意味している。だから美緒は詫びたのであろう。  
春樹にはその気持ちが痛いほど分かる。  
 
「東京行っても、俺のこと忘れないでくれよ」  
「嫌ッ!あたし、さよならなんて嫌よ!」  
美緒が春樹の足元へすがった。しかし、嫌がっても何とかなるものではない。親の都合  
であれば、子供は従うしかないのだ。  
 
「東京なんて行きたくないよ」  
ぐすんと鼻をすする美緒。もう、ずいぶん泣いたはずだが、涙はちっとも枯れなかった。  
「美緒・・・」  
「・・・春樹。抱いて」  
美緒の手が春樹の背中に回った。二人は音もなく、絨毯の上へ転がる。  
「下に母さんがいるから、あまり派手にはやれないぜ」  
「うん。分かってる。下だけ脱ごう」  
春樹はジーンズとトランクスを脱ぎ、美緒は借りたショートパンツとショーツを一気に脱い  
だ。ベッドを使うと音が響くので、絨毯の上に座布団を敷き詰める。  
 
「あたし、何もしてあげられない。さよならするのに」  
「俺だって同じだよ」  
まだ濡れている髪を春樹は指で掬い、目を閉じた美緒に軽くキスをした。二人ともじわっと  
体が熱くなり、服を着ていることがもどかしくなる。  
 
「あたしを無茶苦茶にして。壊れてもいいの。春樹と別れるくらいだったら」  
「バカ言うなよ。これが最後の別れにするつもりか」  
敷き詰めた座布団の上に美緒を寝かせ、春樹はそこに体を重ねた。前戯すらももどか  
しいのか、二人は早々と一つになった。  
 
「ああ!」  
無垢ではないとは言え、前戯も無しの男根挿入は美緒も辛い。しかし、少しきつめの肉  
交は、春樹の存在を深く感じる事が出来て、嫌な気はしなかった。  
「美緒」  
「春樹」  
二人は見詰め合うと、またキスをした。手と手を取り合い腰を動かすと、お互いの存在を  
強く感じる。それぞれが思い出にならぬよう、春樹も美緒も肌と肌をなるべく密着させて、  
激しく求め合った。  
 
「中に出したらまずいよな」  
「いいよ・・・今日、大丈夫な日だから・・・」  
美緒は開いた足を春樹の腰に回し、もっと奥へ──と、腰を捻る。いずれ放たれる子種だ  
って、自分の中に入れて欲しいと、愛らしい顔立ちとは裏腹に、いやらしいおねだりをした。  
 
「お前の中でいっていいか?」  
「うん・・・あたしの中でいって・・・」  
美緒の息遣いが荒くなってきた。絶頂が近い。  
 
「いくぞ」  
「あ、あたしも」  
肉と肉がぶつかり合う音が大きくなり、二人の腰使いが極まった。美緒は背を反らし、  
春樹の背中に爪を立てる。  
「ああ!」  
いく瞬間は背中を中心に空へ浮くような感じになる。美緒は春樹の子種を膣内で受け  
止めながら、そんな事を考えていた。  
 
「美緒、大丈夫か?いつもより激しいような気がしたけど」  
「大丈夫・・・あれ?」  
美緒の目の端に、水の粒がたまっている。言うまでもなく、涙だった。  
「春樹が・・・やさしくするから・・・バカ」  
美緒は手で顔を覆ってしまった。しかし、指の隙間からは涙が筋を作って落ちてくる。  
それを見て、春樹もまた泣いた。  
「美緒」  
「別れたくない・・・別れたくないよ」  
窓の外は雨。美緒と春樹は繋がったまま、しばらくそのままで抱き合った。せめて涙が  
枯れるまで一緒に。そう思っていた。  
 
 
次の日曜は快晴だった。美緒は家族と共に駅からこの町を去るというので、春樹も  
家族と一緒に見送ることになった。これが本当のお別れになる。二人の心は張り裂け  
んばかりだった。  
 
「いい天気だね。海が良く見えるよ。二人で良く遊んだよね」  
と、美緒は言う。泣きはらした目を、白い帽子で隠しながら。  
「ああ。この町の景色だって捨てたもんじゃない。忘れるなよ」  
春樹はうつむいたまま呟いた。こっちも帽子で泣き顔を隠している。  
「東京行ったらすぐ、メール打つから」  
「ああ」  
「時々、こっちに帰ってくるね。春樹もたまには東京に来てね」  
「ああ。おっと、汽車が来たぞ」  
田舎路線のディーゼル機関車が汽笛を鳴らして、ホームへ滑り込んできた。出発まで  
あと数分。美緒と春樹は手を取り合った。  
 
「さよならなんて言わないから」  
「うん」  
「またね、にしよう。また会えるように」  
「そうだな。それがいいな」  
美緒が家族と汽車に乗った。その姿を、春樹は静かに目で追う。  
 
「さよなら、春樹君。今まで美緒と仲良くしてくれて、ありがとう」  
そう言ったのは美緒の母親だった。さよならなんてやめてくれよ、と春樹は思う。  
「またね、春樹」  
汽車が動き出した。美緒は窓を開け、手を振っている。しかし、春樹には白い帽子が小首  
を傾げているようにしか見えなかった。涙でにじんで、美緒の姿かたちが分からないのだ。  
 
「美緒!」  
汽車につられて走り出す春樹。海風に帽子を奪われて、顔がさらされるとすっかり泣いて  
いる。  
「走っちゃ危ないよ!春樹!」  
「俺、きっと東京に行くから!待っててくれ!」  
「うん、待ってる!ずっと、待ってるから!」  
春樹が手を伸ばすと、美緒も身を窓から乗り出して手を差し出した。彼女も、涙で顔がくしゃ  
くしゃだ。  
 
「美緒!」  
「春樹!」  
汽車が加速したために、互いの手が触れる事は無かったが、二人は確かに誓い合った。  
いずれ近い未来に、きっとまた会える。その時を待とう──と。  
 
 
「美緒・・・」  
ホームの端から汽車を見送る春樹。別れのひと時にさえ、幸福な思いを残していく美緒  
を想い、ただ佇む。  
「絶対、行くから・・・な」  
この未来へ流す涙を糧にして、春樹の心は僅かながら強くなった。いつか近い未来、きっ  
とまた共に暮らせる日がやってくる。それを信じ、春樹は汽車が視界から消えるまで、ず  
っと駅のホームに立つのであった。  
 
おしまい  
 
 

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