―――ボクは、夜空を見上げる。  
   
頭上には月が、綺麗な満月が輝いている。  
何度も見た、見てきた。ほとんど変わらない、けど見飽きることのない風景。  
   
ボクは出ない溜息を吐く。  
   
感嘆の吐息、何度見ても美しい景色にそんなものをこぼしたい気分だった。  
今夜はいい夜だ、いつも思っていることだが、いい夜だ。  
月明かりの下、静かな森の中にある、何の変哲もない草原に一人佇んでいる。  
静かで美しい世界を、優しく包む月光。心地よい夜風、静寂と言う名の夜のさざめき。  
闇を淡い光が照らし、その姿を浮き彫りにしている。本当に静かで、綺麗だ。  
   
でも、聞こえてきた叫び声のせいで静かな夜はぶち壊された。  
草原の片隅、朽ちた人工の建造物からその声は聞こえてくる。  
せっかくの夜を邪魔されたのもあるけど、何となく興味が湧いた。  
何が行われているんだろう、あんな声を出したんだから、凄いことに違いない。  
それに、なによりお腹が空いた、今夜はまだ何も食べていない。  
好奇心と空腹感に突き動かされ、ボクは朽ちた建物を目指して歩きだした。  
   
今夜はとてもいい夜になる、そんな予感がした―――  
 
 
―――朽ちた廃墟、もとは何かの施設だったのだろうが、今は見る影もない。  
そこに六人の男女がいた。内、五人は男で、一人の少女を二人の男が抑えつけていた。  
泣き叫びながら、必死に男達から逃れようと暴れる。が、男二人の力の前では、少女の  
力など、あまりにも非力すぎた。  
それを離れたところから、三人の男が見ている。  
三人の内の一人、少年は床に倒れ込んでいた。酷く殴られたのだろう、顔の所々は腫れ  
上がり、鬱血している。  
その傍らで二人の男が、少年を見下ろして嘲笑っていた。  
少年は、唇を噛んだ、体中が痛み、怖くて動く事も出来ず、助けを求め、自分の名を叫  
ぶ恋人を助けることのできない、自身の無力さが情けなくて、何も出来ず、只、唇を噛  
みしめていた。  
   
「いいねぇ、ピンチに名前呼んでもらえるなんて、うらやましいねぇ」  
楽しげな声で、少年の傍にいた、あご髭を生やした男は呟く。  
「ははは、まったくだ、あの娘、結構いい体してるし、おまけに可愛いし、おめぇには  
勿体ねぇ」  
と、傍にいるもう一人、夜なのにサングラスをした男が笑いながら少年を足で小突く。  
   
少年は涙を流した、痛くて、悔しくて、情けなくて………  
 
「ああ? こいつ泣いてんぜ?」  
「心配すんな、オレらがヤった後、ちゃんとお前にもまわしてやっから」  
男達は少年を見下ろし、とても楽しげに笑う。  
   
事の発端は何でもなかった。少年と少女に、車に乗った男達が道を聞いてきた。  
気のいい彼女は男達に道を教え、そして強引に車に押し込まれる。  
彼は止めようとしたが、簡単に男達にのされ、ついで、とばかりに車に乗せられた。  
四人の男達にとって、別に少年がいようがいまいがどうでも良かったのだろう。  
彼らにとってコレは、単なる“お遊び”にすぎないのだから……  
   
「いやあぁぁぁーーー!! やめて、いやぁ! 離してぇ!」  
少女の体を、二人の男が押さえつけている。  
一人は少女の体の上に乗り、もう一方は少女の腕を掴んでいる。  
「いい加減、大人しくしろよ……」  
溜息混じりに、少女の上に乗っている長髪の男が言う。  
「そうそう、あんまり暴れると、痛い思いしちゃうよー」  
腕を掴んでいた短髪の男は、薄く笑いながら少女に囁く。  
それでも少女は暴れる、長い髪を振り乱し、必死に抵抗する。  
「チッ」と、舌打ちをして、長髪の男はナイフを取り出し、少女の顔のすぐ横に突き立てた。  
 
「暴れんな、つってんだろ? ああ?」  
「あ……ああ……」  
自分の顔の真横に突き立てられた、白銀の凶器を見つめ、顔を青くして抵抗をやめた。  
「そんな感じで最初から大人しくしとけばよかったんだよ、大丈夫、すぐ終わるよ、こ  
いつ早漏だから」  
「なにぃ!?」  
笑いながら言う短髪の男に、長髪の男は、怒りを露わにする。  
少女の服が引き裂かれ始める。その音を聞きながら、無表情のままで一筋の涙を流す。  
「なんで……こんな……」  
   
「初っぱなから中に出すなよ!」  
大声で笑いながら言う髭の男に、長髪の男は手をヒラヒラと振って答える。  
少女に視線を落とす途中で、男の動きが止まる。  
「なんだよ? ひょっとして、もうイッちまったのか?」  
にやにやと笑う、短髪の男には答えず、男は特に何の感情もこもっていない言葉をこぼ  
した。  
「何だあれ?」  
その言葉をきっかけに全員の視線がその先、ドアの無くなった建物の入り口に向けられ  
る。  
   
そこにそれは佇んでいた。  
人の形をしているが、明らかに人ではなかった。ゼリーのようなゲル状の体に手足のよ  
うなものがあり、二本足で立って男達を見ていた。  
 
見ていた、と言っても、それには目鼻口、というものが無く、頭にあたるであろう、突  
起があるだけだった。  
体長は大柄な成人男性ほどで、半透明の体からは向こうの景色が透けて見えていた。  
   
全員が絶句していた、突如現れた、謎の物体に目を奪われ沈黙していた。  
「何だおまえ、何だよ? 何なんだよおまえは!?」  
その沈黙を破り、長髪の男が右手でナイフを握り、奇声を上げながら物体に突進してい  
った。  
それの体に、あっけなくナイフが突き刺さる、ナイフを持つ右手と共に。  
男の右手は肘まで埋もれ、引き抜こうとしても、ずぶずぶと引き込まれていく。  
   
突然男は素っ頓狂な悲鳴を上げた。見れば、男の手はナイフと一緒に消え始めていた。  
正確に言うと、消えるように、融けて無くなり始めていた。  
見る間に男の腕は先端から消えていく、握られていたナイフは、既に無くなっていた。  
腕を抜こうと後ろに引くが、それでも男の手は、引き込まれていく。  
それを払い退けようと、出した左手も飲み込まれ、消えていく。  
「うわああぁぁぁーー!! 助けて! 助けてくれーーー!!」  
その声に弾かれるように、髭の男は、長髪の男の元へ走り出した。  
 
突如物体の体がうねり、長髪の男を包み込む、叫び声を上げる間すらなく男の体が飲み  
込まれ、融けて無くなった。  
「あ……」  
髭の男はそれを見届け、立ち止まるが、近づき過ぎていた。  
それは、体の一部を手のように伸ばし、近づいてきた男の頭を包む。  
そして、首の無くなった男の体が、地面に倒れた。  
   
「うわああぁぁぁーーー!!」  
「ひ、ひぃぃぃーーー!!」  
それが合図になったかのように、二人の男は、別々の方向へと逃げ出した。  
それを追って、物体は、一つの塊に変形して、地面を獣のような速さで這っていく。  
   
サングラスの男は入り口から逃げればいいのに、窓から逃げようと手を伸ばしている。  
それを、物体は後ろから包む。  
短髪の男は錯乱したように、どこかに落ちていたのか、棒きれを振り回している。  
物体は、それをそのまま捕らえる。  
   
一部始終を見終え、少年は我に返って少女の元へと駆け寄り、その手を掴む。  
「逃げるんだ!」  
そう叫んで、少女を引っ張り出口に走り出そうとして、そのまま転ぶ。  
何事かと、自分の足を見て言葉を失う。少年の足には、足首がなかった。  
 
痛みも、出血も無く、まるでその部分が最初から無かったかのような感覚だった。  
「あ……あ……」  
何か言おうとしたのか、少年の口が動くが何の意味も為さない嗚咽だけがこぼれる。  
物体が彼の足首を内包し、同じ目線の位置にいる。心なしか、その体が少し大きくなっ  
ていた。  
少年の足首は融けて消え、物体は幾つもの手を伸ばし、少年に迫る。  
   
死を覚悟した時、物体の伸ばした触手が、少女の悲鳴で動きを止めた。  
「きゃああぁぁぁぁーーー!!」  
悲鳴と共に少女は走った、髪を振り乱し、わざわざ自分を助けにきた恋人を置き去りに  
して……  
   
それが災いしたのか、物体は少年ではなく少女に触手を伸ばした。  
触手に絡めとられ、その動きを止められる。  
「ひっ、あ、や、いやぁ! 離して、やだ、助けてぇ!」  
暴れる少女の体を触手が這う。すぐに融けて無くなるかと思われたが、少女は消えず、  
引き裂かれ、その役目のほとんどを失っていた服と下着だけが、消えていく。  
「ちょっ、なにこれ! やだ、やめ、いやぁ!」  
とっさに露わになった肌を隠そうと、手を動かす。が、その手を触手が捕らえ、その動  
きを封じ込める。  
 
少女の白い柔肌の上を、ゼリーのような半透明の触手がその数を増して這い回る。  
嫌悪感と恐怖、そして、温度を持たない物体の触手故か、少女の肌に鳥肌が立ち、その  
上をそれがなぞる。  
「あ、う……い、や、たすけ、ひっ!」  
二本の触手が少女の太股に巻き付き、足を広げ、別の触手が大きめの乳房を包み込む。  
物体の触手に包まれた少女の胸が、うねるように形を変えていく。  
物体の本体が少女の元に、ゆっくりと這っていく。  
   
少年は見つめていた、魅入られたように、少女の裸身を、そこに伸びる何本もの半透明  
の触手を。  
触手が蠢き、恋人の体を犯し、弄ぶ様を見つめ、この上なく興奮していた。  
物体自体が少女に近づき、そこから更に多くの、より太い触手が伸びていく。  
「あ……あ………」  
少年の口から、嗚咽を漏れる。恋人の姿を見て、どうせ逃げられない、という諦めと、  
これから起こるであろう、眼前の恥辱に期待して……  
   
物体から逃れようと、手足を動かすが、やはり少女の力は、あまりにも非力だった。  
泣き叫び、助けを請うが、そんなものが通じる筈もない。  
何の表情もない半透明の手が、少女の肌を撫で回す。  
 
開かれた股の間に太めの触手が滑り込み、陰部を擦り始める。  
少女の体が強ばる、恥ずかしい部分に触れられ、羞恥からか顔を耳まで紅くする。  
「あ、く、やぁ……そんな……」  
固くなっている乳首が包み込んだ触手の中で捻られ、引っ張られ、その形が醜く歪み、  
秘裂を擦る触手の動きが、より速く、強くなっていく。  
股を閉じようとしても、太股に絡む物体の手が、それを許さない。  
冷たい触手が全身に絡みつき、少女の体を軽々と持ち上げ、体中を這い回る。  
   
「う、くぅ、っん、い、や、いやぁぁ! やめっ……んぐっ! んんっ……むぅぅ」  
少女の叫び声がうるさかったのか、触手がその口を塞ぎ、喉奥まで入り込む。  
「ぐ、んぅ、ぐぇ、ごぼっ、う、ぐ……」  
その感触を楽しむかのように、触手が更に奥まで進み、少女の喉がいびつに膨れ、脈打  
つ。  
涙と涎、鼻水を垂れ流し、自身の顔をぐしゃぐしゃにしていく。  
   
その間も下の触手は動きを止めず、秘裂を擦り続ける。こちらも感触を楽しむように、  
更に激しく律動を繰り返す。  
股の間から黄色い水がこぼれ、触手と太股を伝い、地面に滴り落ちるが、特に意に介さ  
ないのか、先程と同じ、いや、一層激しく触手が動き回る。  
 
物体は少女の体をゲル状の自分の体の方へと引き寄せた後、その身を波打たせて、再び  
幾つかの触手を伸ばし、白い裸身に這わせる。  
喉奥まで侵入した触手は、既に彼女の呼吸を酷く困難なものにしていた。  
先程まで漏れていた呻き声すら、最早、聞こえて来ないが、時折ひくつく体が彼女が、  
まだ生きていることを知らせている。  
   
もう満足したのか、口の中を蹂躙していた触手が、ずるり、と引き抜かれる。  
「むぐ、んぐぅ……っ! がはっ! はっはっ、うえぇぇぇ、ごほっ、げほっげほっ、  
げほっ、ぐぅぇぇぇ……ふーふーふー」  
ようやく解放されて激しくむせかえり、胃液を吐きながらも、必死に呼吸を再開する。  
そんな苦しげな少女の事などお構い無しに、股間にあった温度を持たない冷たい触手の  
先端が、少女の無防備なそこへと、あてがわれる。  
   
「え……? あ………あ……」  
少女の顔から血の気が引いていく、体が小刻みに震える。  
先程まで、前後に動いていただけの触手の動きが、全く違うものになり、一瞬戸惑う。  
だが、それも一瞬の事、すぐにその動きが、自分を貫こうとするものだと気づいた。  
 
「や、め、ひっ、くっ……う、あ、許し、てぇ……」  
緩慢になった体を必死に動かし、何とかそれの侵入を阻もうと試みるが、まだ力の入ら  
ない体と、くわえて何本もの触手に絡みつかれ、拘束されている為に、そのささやかな  
抵抗は何の意味も持たらさなかった。  
「やぁ、やめ、う、あ、おねが……い? あ! あぐっ、うああぁぁぁーーー!!」  
一切の躊躇も、微塵の慈悲も無く、それが彼女の体を貫いた。挿入された触手は、更に  
太さを増し、体内を圧迫していく。  
   
「あ、ぐ、う、いや、ぬい……てぇ……」  
何ら異物を受け入れる準備もできていない秘部を、固いゴムのような弾力を持つ太い触  
手に貫かれ、強烈な異物感と苦痛に襲われる。  
頬を涙が伝うが、それを拭うものは何もない。体の中を抉るように、冷たい触手が蠢き  
始める。  
少女の口から呻くような嗚咽がこぼれる、苦しみに、痛みに耐えるような、哀れで、無  
駄な泣き声を。  
   
自身の体温より低い、ひんやりした触手に犯され、それは更に奥へと侵入を続ける。  
がくがくと体が震え、体内に入り込んだ異物を追い出そうと、下腹部に力を込めるが、  
そんなもので触手の進行を止められる筈もなかった。  
 
「ひっ、あ、う……やめ、くるし、ひ、ぐ、くぅ」  
ゆっくりと、確実に奥へと侵入していく。太い触手が隙間なく埋められ、少女の陰部が  
裂けそうなほど広がっている。  
苦痛と圧迫感に曝され、犬のように断続的な呼吸を繰り返す。  
   
太さを増しつつ、膣内を更に進み、ヒトの体を侵していく。  
「ひィっ!」  
短い悲鳴が上がり、びくんと、少女の体が大きく仰け反る。  
進み続けた触手の先端が、とうとう子宮の入り口に達してしまったのだ。  
「ぐあ、ひっく、う……あ? ああ、っあ! あああぁぁぁぁーーー!! うあああぁ  
ぁぁーーー!!」  
狂ったように髪を振り乱し、物体に持ち上げられた体勢のまま暴れ、その口から凄まじ  
い絶叫が上がる。  
それもそうだろう、子宮口に辿り着いた触手は、先端から更に細い触手を伸ばし、狭い  
入り口から子宮内に侵入、そのまま胎内て蠢いているのだから。  
「うあぁぐ、がっく、ひぐ、ぅあっ、はあ!」  
体を痙攣させ、開かれた口からは涎がこぼれ、目から涙が溢れ、全身からは汗が吹き出  
る。  
長い髪が、涙と汗に濡れた顔に貼り付く、腹部がいびつに盛り上がり、触手が妖しく蠢  
き、胎内を掻き回していく。  
 
細めの触手が、小刻みに震えている背中をなぞる。ひやりとした感覚が、背筋を伝い、  
そのまま臀部へと下りていく。  
   
びくっと体を強ばらせ、触手の動きに驚く、臀部を這う触手が菊座に触れる。  
「やぅ、んあぅ、ゃめ、そ、ちが……あぁああぁああ」  
少女の声を無視して、半透明の魔手が無慈悲にねじ込まれる。  
触手が菊門を押し広げ、排泄する為だけの器官に侵入し、腸内を突き進む。  
さっきまでの感覚を更に凌駕する激痛と、吐き気を催す異物感が全身に走る。  
「が、く、はっ、かはっ、ぎ、きひっ、ぃう、ぐぅぅぅ」  
腹に腸の形が浮き彫りになり、まるで蛇のように蠢き、波打つ。  
少女の体が、壊れた人形のようにがくがくと痙攣し、口から胃液を吐き出す。  
   
何が哀れかと言えば、こんな状況になっても彼女の精神が壊れることなく、保たれてい  
ることだろう。  
痛みと苦しさで気がふれそうになるが、痛みと苦しさで正気に戻される。  
終わりの見えない、地獄のような繰り返し。だがそれも、長くは保たない。  
   
触手の動きが激しさを増し、少女の体と心を掻き乱していく、腹部が波打ち、四肢が小  
刻みに痙攣して、股間から小水を垂れ流す。  
 
体の中を蹂躙する触手、通常なら受けることのない痛みと刺激、それが少しずつ少女の  
精神を突き崩していく。  
   
「あ、がはっ、っぎあ、ひぐぅ、ん、ふあ……」  
体が受け入れようとしているのか、触手の動く音に、ねとついた水音が混ざり始めた。  
少女は考えた、どうすれば楽になれるか。拒むが故、味わったことのない刺激を理性が  
受け付けない。  
受け付けないから痛く苦しい、逃れることは出来ない、自分もあの男達と同じように物  
体に取り込まれ、吸収される。  
どうせ助からない、そんな事が脳裏をよぎる。  
ならば拒んで苦しい思いをしても仕方ない、と。  
   
「はぅ、くひっ、ん……あ、あは、あう、んん、くあぁ」  
少女の腰が、触手の動きに合わせるように動き出した。  
彼女は諦めた、諦めて受け入れた、ヒトには与えられない刺激、味わうことのない感覚を  
、それらを快楽として受け入れ、それ以外のものを捨てた。  
身を震わせ、口から矯声がこぼれる、その刺激に恍惚の表情を浮かべ、腰を動かす。  
視界に入るのは、物体の半透明の手ではなく、呆然と自分を見つめる恋人でもない、窓  
から見える綺麗な満月だけが、少女の目に映る。  
そうして、何かが確実に終わりを告げた……  
 
無数の触手に全身を犯され、悦びの声を上げ、淫らに腰をくねらせ、乱れる。  
紅潮した肌、悦楽に狂った表情、飛び散る汗と淫水、上気した頬、垂れ流される涎。  
狂気を孕んだその姿も、淡く射し込んでくる月光の下では、どこか美しくもあった。  
   
雌の体を味わうように触手が蠢く、更に奥、もっと激しく。それに合わせるように、少  
女の腰も動く。  
「くあぅ、ん、ぐあっ、っはぐ、こんな、のっ、すご、すごいぃぃ、あっ、ひぃっ、あ  
ぎっ、ひ……ちぃい、きもちいいっ! いやぁ! きもちいいよぉ!」  
激しくなる触手の動きに、少女は涙を流して狂喜し、歓喜の雄叫びを上げる。  
まるで妊娠しているかのように、少女の腹部はいびつに盛り上がり、不気味に蠢く。  
彼女はそのおぞましい光景を、嬉々とした表情で見下ろしている。  
   
少女は喉を反らせ、快感に身を打ち震わせる、最早痛みは感じない、否、痛みすら快楽  
に感じていた。  
ある意味究極の快楽を味わい、その果てに辿り着くのはすぐだった。  
「あぁぁっ! らぁめっ、あぅぅ、ひやぁ! っくっ、ひっちゃっ、ひゃめぇぇ!   
ひんぎゃう! ひんぎゃうぅぅぅ!!」  
とうとう少女は、意味を為さない謎の叫びを上げ始めた。  
 
その声に反応したのか、触手が腹を突き破らんとするかのように激しく動き、少女の体  
が弓なりに反り返り、ガクガクと痙攣する。  
「ぎっ! あ、あ、ぎ、っきゃあああぁぁぁぁーーー!!」  
断末魔のような叫びと共に、少女の股間から透明の液体が勢いよく吹き出された。  
   
痙攣している体が、糸の壊れたマリオネットのように触手に支えられ、空中にぶら下が  
っている。  
少女の頭には何も浮かんではいない、思考は白く塗り潰され、只、全身を覆う虚脱感に  
酔っていた。  
   
物体がその体を動かし、ぶら下がっている少女を、下から包み始めた。  
「あ、ん……ふぅ」  
それを感じたのか、少女の口から吐息が漏れる。  
空中にあった体が、ゆっくりと下ろされ、その体を物体の半透明の体が覆う。  
「あ? あぁー……あはっ、あはは」  
自分の体を見て、少女は笑い始めた。見れば、彼女の体がゆっくりと消え始めていた。  
暴れる事もなく、泣き叫ぶ事もなく、恍惚とした表情でそれを見つめている。  
   
彼女は只、身を任せた、絶頂の余韻、眠るように薄れていく意識、自分が融けて無くな  
り、別なものに混ざり合い、取り込まれていく感覚に。  
 
そうして少女の姿は消えていく、恐怖もなく、何かに包み込まれていくような妙な安心  
感に身を委ねながら。  
そして、肉の一片、骨の一欠片も残さず、融けて無くなった。  
   
少女を吸収し、再び人の形となった物体を、少年は魅入られたように見つめる。  
物体が一歩、また一歩と、ゆっくりと少年に近づいていく。  
「は、は……はは」  
それを見つめ、彼は笑う。  
消えた愚かな男達を、化け物に犯され、淫らに狂った少女を、こんな怪物がいるという  
事も知らず、平然としている世界を、そして、最後まで無力だった自分を。  
只、全てを嘲笑っていた。  
物体の体が波のようにうねり、壊れたように笑う少年へと迫る。  
   
   
後にあるのは静寂と月明かり、少年も少女も男達もいない、残ったのは人の形をした半  
透明の物体。  
夜のさざめきの中、佇んでいるそれを、月だけが照らしていた―――  
   
 
―――ボクは、建物から出て大きく伸びをした。  
   
驚いた、まさかあんなにたくさんいるなんて、嬉しさのあまり四匹程すぐに平らげてし  
まった。  
せっかくの御馳走なのに……  
でもその内の一匹で遊んだからいいとしよう、多分あれは雌だな。  
   
あの生き物はいい、なんと言っても持ってる情報が他より多く、様々だ。  
他の生き物のように、本能に基づいた画一的な情報じゃない、個々に取り込んでいく独  
自の情報、似通ったものはあるが、同じではない。  
それがボクの舌には合っている。まあ、無論これは比喩なんだけど……  
それに、色んな刺激を与えれば面白い反応を返してくるし、あの感触もボクの好みだ。  
   
空には月が輝いている、辺りには静寂、夜はまだあるんだろうけど、もう満腹だ。  
さすがに一度に六匹はきついか、今夜はもう動く気にはなれない。  
   
ボクは地面に体を横たえた。  
天上の月はやはりどこまでも綺麗だ。  
   
次の夜まで眠ろう、次は、そうだな、街に行こう。  
きっと選り取り見取りに違いない。  
だから眠ろう、次の夜まで、次に目覚める夜まで……  
   
―――次の、満月の夜まで。  
   
   
                    END  
 
 

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