「未郷、みーさーとーっ」  
地獄からの呼び声が聞こえる。俺は無視を決め込んだ。  
「未郷ってば!いないのー?」  
いません。未郷君などいません。  
声はそれ以上続くことなく、勉強は再開される。が、すぐさま諦めた。  
呼び鈴のかわりに「おじゃましまーす」と元気のいい声が聞こえ、階段を上る足音が聞こえたからだ。  
声の主はノックもなしに部屋のドアを勢いよく開け、ずかずかと入り込んで開口一番、  
「いるんなら返事くらいしなさいよ、バカ」  
 
 
俺=山田未郷と、声の主=牧野真紀は、いわゆる幼ななじみである。  
真紀が誕生した3年と3か月後に俺がおぎゃあと生まれ落ち、  
その瞬間から「真紀様の玩具」という道を歩み始めたのだった。  
いや、幼い頃から玩具としての自覚があったわけではない。  
少なくとも俺が小学校に上がるまでは、働いている母親に代わって遊んでくれる  
「おとなりのまきちゃん」だったはずだ。  
初めから乱暴されていたら、さすがに母親だってお隣りに俺を預けて働いたりしなかっただろう。  
いつの間に「恐怖の真紀様」になってしまわれたのか。  
思わず遠い目をして考えてしまった。  
 
元・まきちゃんは「ほい、差し入れ」と缶ジュースを差し出しすと、  
ベッドの上にあぐらをかいた。  
「めずらしいな、真紀さんがまともな物くれるなんて」  
と言いつつ、穴を開けた形跡がないか確認する。  
「何疑ってんのよ。毒なんて入ってないっつーの」  
毒は入ってなくても、飲用に適さないものが混入している恐れがある。  
しかし改造された形跡は見当たらなかった。  
「じゃあ、いただきます」  
プルトップを開ける。  
飲む。  
沈黙。  
「…あの、何しに来たの?」  
「んー暇だからマンガでも読もうかと思って」  
俺んちはマンガ喫茶か?貸してやるからせめて自分の部屋で読め。  
という言葉は飲み込んで、「いいよ、好きなの読んでて」とやさしく言い、  
俺はまたノートへと向かった。  
どうせすぐ中断させられるのだ。そんなの想定の範囲内だ。  
案の定、5分もしないうちに「ねーねー」と邪魔が入った。  
「なんか面白い話ないの?」  
腹立たしい話なら今ここで展開されてるよ、なんて言えない。  
こっそりとため息をつく俺に、真紀さんはにやにやと笑って言う。  
「カノジョの話とかさ」  
 
半年前に星野かおりに告白されて、付き合うことになった。  
何だか白くて小さくてふわふわしている子で、  
「星野かおり」という名前をもとに創造されたような子だった。  
それなりにそれなりなお付き合いをしてきた。  
遊園地行ったり、映画見に行ったり。  
金も気もふんだんにつかったつもりでいた。  
しかし彼女の方はそうは思えなかったらしい。  
一週間ほど前、他の男と腕を組んで歩いている彼女の目の前に俺が出現して、  
その翌日、逆ギレ気味にフラれた。  
わけがわからん。もう女なんか知るか。勉強しよう、明日からテストだし。  
というのが今の俺の状況なわけだ。  
 
俺は不機嫌な声で言う。  
「…別れたよ」  
知ってるくせに。  
真紀さんは満面の笑みで「あらぁそうなの!んまー」とか言っている。  
無性に腹が立った。  
俺はいつまでこいつのご機嫌を伺ってなきゃいけないんだ。  
「真紀さん、俺さ、明日から試験で勉強しなきいけないんだよ。  
悪いけど暇つぶしは他当たってくれないかな」  
真紀さんは玩具の初めての反抗にも怯まず、  
「未郷く〜ん、言うようになったじゃない」と言い返す。  
むかつく。  
「真紀さんもちゃんとした彼氏作って、そっちで遊んだら?」  
 
真紀さんの恋愛は大体1週間から2ヶ月で終わる。  
そりゃあこの性格じゃな。愚痴を聞く度に当然だと思っていた。  
真紀さんをちゃんとあしらえるのは俺くらいのもんだ。年季が違う。  
幼い頃からの修行により、俺の心は海よりも深い。  
 
しかしなぜか今はアスファルトの水溜まり並に浅くなってしまっていた。  
真紀さんは俺の言葉に相当頭にきたらしく、本気で怒り出した。  
「あんた何様のつもり?」  
「何様も何もないだろ。学生が勉強しちゃいけないのかよ」  
「今更シコシコやっても無駄よ無駄」  
「やらないよりいいだろ。いいから出てけよ。迷惑だ」  
完全なる否定の言葉。  
しまった言い過ぎたと思って、いやいやこれでいいんだ、  
もう遊ばれるのはうんざりなんだと思い直す。  
真紀さんは無言で立ち上がって、あろうことかこう言い放った。  
「童貞のくせに!」  
「なっ…」  
無茶苦茶だ。何だよそれ。  
「真紀さんだってニートじゃねぇか!」  
真紀さんの顔色がさっと変わって、拳がふりあげられた。  
殴られる!考えるより先に体が動いて、俺は真紀さんの手首を掴んでいた。  
あっと思ったときにはバランスを崩し、そのままベッドに倒れこんだ。  
「な、何すんのよ!」  
 
真紀さんが俺の体の下でもがくのを見て、そうだ、と気付く。  
俺、もう高校生なんだ。  
小さい頃からビシビシ殴られていて、何となく真紀さんには敵わないと  
思いこんでいたけど、3つ上の女の子ぐらい簡単にねじ伏せられちゃうんだ。  
「バカ未郷、早くどけっ!」  
容赦なく蹴りつけてくる足の間に自分の足を潜り込ませた。  
「…ド変態!」  
俺は興奮していた。  
本気で暴れる真紀さんに。  
それをたやすく押さえこむ自分に。  
 
細い両手首を片手で拘束して、空いた手をTシャツの裾から差し入れる。  
フロントホックのブラジャーと格闘してようやく前留めを外すと、  
真紀さんの態度とは真逆の小ぶりな乳房が現れた。  
掴む、というほどの分量はないそれをゆるく揉みながら、  
「前から思ってたんだけどさ、真紀さんのおっぱいってかわいいよね」  
と言うと、真紀さんは「もう死ね」と呟いて、おとなしくなった。  
薄い胸の上で、桃色の小さな突起がきりりと立ち上がっていた。  
小さな丘のてっぺんで一人がんばっているような乳首が可愛くて、  
やさしく舐めてやった。  
「っ!」  
真紀さんがぎゅっと目を閉じる。声は出さない。  
それに構わず舌先でコロコロとくすぐる。  
乳輪をなぞるように辿る。  
ちゅっと吸って、そっと噛んでみた。  
「っ…」  
もう片方の乳房は押しつけるように揉みしだき、たまに乳首をつねってみる。  
真紀さんの呼吸ははぁはぁと荒く、体からは力が完全に抜けているようだった。  
押さえていた手を放して、スカートの中に手を入れる。  
いきなり目的地にいくのはためらわれて、太股をさわさわとなでた。  
真紀さんは無抵抗で顔を背けている。  
瞳が潤んで、妙にかわいく思えた。こんなこと思うのは初めてだ。  
 
頃合を見て下着の上から触ってみると湿っていた。  
少し力を入れて擦ってみるとますます濡れてきた。  
下着を取って直に触れると、ぬるぬるした蜜が指にまとわりついた。  
ぬるぬるを広めるようにいじると、クチュクチュという音が部屋中に響いた。  
「真紀さん、感じてるの?」  
真紀さんは首を横に振る。  
「嘘だぁ、これ何?」  
と勃起したクリトリスを弾くと、初めて「ふぁっ」と声を上げた。  
そのままクリトリスをぐりぐりしていると、真紀さんの腰がだんだん浮いてきた。  
「ちゃんと言ってみなよ、気持ちいいって」  
「よ…よくない…っ」  
ホント強情だな。思わず苦笑いが洩れた。  
「真紀さん、かわいいよ」  
こういうのが屈辱なのかなと思いつつ甘く囁く。  
ぬるりと奥に入ってしまった指を出し入れする度に、液があとからあとから溢れてくる。  
もうそこらじゅうがべとべとだ。  
指で中をかき混ぜるとぐちゅぐちゅと音を立てた。  
「聞こえる?エロい音」  
そのとき真紀さんの体が一回びくんと跳ね、中がきゅっと締まって、  
そのあとびくんびくんと波打った。  
「もしかして、イっちゃった?」  
目を閉じて、ぎゅっとシーツを握りしめている真紀さんを見ていたら、  
何だか愛しくなってきてしまった。  
俺自身はすでに破裂しそうになっている。  
 
「挿れていい?」  
返事はなし。しかしだめとも言われない。  
俺は体を起こして真紀さんの腟を確認してから、ゆっくりと自分を沈めた。  
何せ初めてなもので、どこに何があるのかよく判らないのだ。  
真紀さんの中は温かく湿っていて、ひだの一枚一枚がゆるゆると絡みついた。  
たまらなくなって腰を打ち付ける。真紀さんは相変わらず声を出さない。  
指を噛んで耐えているみたいだ。たまにちゅぅと音を立てて吸っている。  
俺は真紀さんの上に覆い被さり、吸われている指に舌を這わせた。  
すると指がいなくなって、そこには真紀さんの舌だけがあった。  
腕が背中に回された。  
真紀さんのてのひらが俺の頭を引き寄せた。  
俺たちは舌を絡ませあった。  
「真紀…、真紀さ…、ま…」  
名前を呼びたいのに、真紀さんが吸い付いてくるのできちんと呼べない。  
やっと気付いたこの思いを伝えたいのに。  
「真紀さん」ようやく舌が離れた隙に、耳元で囁く。  
「好きだよ」  
今度は軽く唇を触れ合わせ、「好きだ」  
もう一度舌を絡ませてから、「好きなんだ」  
真紀さんは何も言わないけど、俺にしがみつくこの腕が答えだと思っていいんだろ?  
真紀さんの中がびくんとうねった。  
「真紀さん、もう出そうだ」  
頭の芯がじんじんする。  
「真紀さんと一緒にいきたい」  
真紀さんが痛いくらいにしがみついてくる。  
「みさ…あ、あ」  
今まで柔らかく蠢いていた中がきゅううと締まって、世界が真っ白になって、弾けた。  
 
 
星野かおりは気付いていたのかもしれない。自分でも気付いていなかった俺の本心に。あいつも本当に自分を想ってくれる奴と幸せになれればいいよな。  
などと俺はうとうと考えていたが、思考は重たい眠気に絡まれて、すぐに散っていった。  
 
この翌日、テストは散々な結果に終わるのだが、そんなこと未だ知る由のない俺は、  
真紀さんの腕の中で、泥のような眠りに引き込まれていった。  
 
―おわり―  
 

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