放課後、机の中に手紙が入っていることに気付いた。
用件は簡潔に言えば『話があるから図書室に来い』
一目で男のものでないとわかる綺麗な字でそんな手紙をもらったら、行くしかないだろう。
自慢にもならないがこれまで生きてきて女性に好意を持たれたことなどおそらく皆無。
行かないわけがない。
この学校の図書室は暗くて面白みがなく、誰も寄り付かない。一年以上この学校に通っているが、この部屋に来るのは始めてであった。
そんな薄暗い図書室の一番奥の棚の前で、その女の子は待っていた。
腰の辺りまである長い黒髪と小動物のように保護欲をそそる気弱そうだが可愛らしいその顔。上履きの色から一年生だと分かる。
こんな子が俺に用事なんてあるはずもないのだが、この部屋に俺とその子以外には誰もいないのも事実。俺はその子に近づいていった。
「あ、先輩…来てくれたんですね…」
俺が来たことに気付き、その子はおどおどと見た目から受ける印象そのままの態度で言った。
どうやら手紙の主はこの子で間違いないようだ。
そこで俺は思い出した。この子がそうだ。クラスの連中が四月ごろ話していた、ありえないほどに可愛い新入生。
最近はあまり話題に出てこないから忘れかけていたが、この子がそうだ。
確か名前は…
「曲常、理(まがつねことわり)…」
「それ、わたしの名前ですね…知っていてくれたんですね…嬉しい」
俺が思わず名前を呟くと、曲常はうれしそうにはにかむ。
「それで、なんの用?」
内心ドキドキしながらも冷静を装い俺が尋ねると、その子は一瞬ビクリと振るえてから、ゆっくりと口を開いた。
「あの……怒らないでくれますか?」
「ああ、怒らない怒らないだから早く言ってくれ」
「あ……ごめんなさい…わたし、こういうこと言うの初めてで…その…緊張していて…」
こっちだって女の子にこんな所に呼び出されるのは初めてでビクビクしているが、そんなことが言えるはずもない。
彼女は下を向きながら、勇気を振り絞るようにして、ぎゅっとスカートの裾を握り締める。
「先輩…好きです……」
「っ………!!!」
口から心臓が飛び出すかと思った。
何度か妄想したことのあるシチュエーションだし、そのつもりでここまで来たが、現実になるとやはりびっくりする。
「それで…ですね…先輩…」
びっくりしている俺を尻目に、彼女はまだ話を続ける。
「先輩…キス…していいですか?」
曲常は耳まで真っ赤にしながら、そう言った。
「キス…キスねぇ…あぁ、キス!?」
俺の頭の処理能力が追いついていない。
「今…ここで…?」
俺の問いかけに曲常は恥ずかしそうにコクリと頷き、
「わたしとじゃ…嫌ですか…」
泣きそうな顔になる。
「全然、全然そんなことはないけど…」
「じゃあ…してくれますか……」
恥ずかしがっている割に、曲常は強情だ。
しかし、どこをどれだけ考えても俺に断る理由など微塵もなかった。むしろこっちからお願いしたい。
「わかった…」
と無理して気取った返事をする。
曲常は心の底から嬉しそうなそれでも真っ赤な顔をしながらも、俺の肩に手を置き、俺を真っ直ぐに見つめてくる。
彼女の柔らかそうな唇から、かすかに潤んだ瞳から、目が離せない。
「恥ずかしいですから…目、瞑っててもらっても…いいですか?」
言われるがままに俺は目を閉じる。
「…それじゃ…いきます…」
そう宣言して、曲常は俺に顔を近づける。目を瞑っていても、彼女の呼吸が段々と近づいてくるのが分かる。
彼女の唇が、俺の唇に触れそうなほどに近づき、そこで躊躇するかのように止まる。
死にそうだ。
少しして、彼女に動きがあった。
が青臭くて甘ったるい世界に浸れたのはその瞬間までだった。
なぜなら彼女の唇が触れたのは、俺の唇ではなく、俺の首だったから。
かぷり。
「は?」
状況が理解できず混乱しているうちに、彼女は俺の頚動脈に、歯を突き立てた。
血がちゅうちゅうと吸われているのが分かる。
「!!っ」
逃げようとするが金縛りにでもあったかのように身体が動かない。
「ん、んん…」
曲常が悶えるような声を上げる。
なんとか視線を下げると、彼女の頬がさっきまでのような恥ずかしさではなく、快楽の赤に染まっていくように見える。
「んぅ…んん」
切なげな息が彼女の口から漏れてくる。
それを聞いたからか、それとも血を吸われること自体が実は気持ちよかったのか、俺の愚息は固くなり彼女の下腹部に当たっていた。
しばらくすると、曲常は満足したのか俺の首から唇を離す。
血と唾液が糸を作り、切れる。
きっと血を吸われたためだろうか、眠い。どうしようもないほど眠い。
俺はその場で足元から崩れ落ちて、寝た。
そのときに微かに見えた曲常の髪の色は、黒ではなく輝くような金色をしていた。
「先輩、起きて下さい」
重い。誰かが俺の上に乗っているようだ。
頬を叩かれた痛みと、優しくも冷たい声に起こされて気付く。
はて、いつの間に寝たのだろうか?
「やっと起きてくれましたね…」
横になっていた頭を動かさずに見えるのは漫画や映画でしか見たこともないような高そうな家具ばかり。
はて、ここはどこだろう?
「…ぱい……か?」
誰かの声が聞こえるがそんなことはどうでもいい。ここがどこかのほうが問題だ。
「先輩!聞いてますか!?」
マウントポジションを取っていた奴が俺の顔を掴みぐいっと、正面を向かせる。
その人はセーラー服姿で金髪の女の子。
はて、この子は……あれ、曲常だ…なんで金ぱ……
と、俺はそこで思い出した。この俺の上でマウントポジションを取っている少女に、血を吸われたことを。
「うわぁああぁっ!!」
逃げ出そうとするが、この可愛い顔した吸血鬼に動く気配はなく、ただ手足をばたつかせることしか出来ない。
「暴れないでください」
彼女が俺の首に手をかけると、その手足動かすことができなくなった。
「くぬう」
頑張って動かそうとしたが、ミリッ、と骨が悲鳴を上げる。逃げられない。
「やっと大人しくなってくれましたね…」
「俺を…どうするつもりだ?」
恐れおののきながら、訊いてみると、曲常は身体を倒し、唇が触れ合うほどに顔を近づけて答えた。
「先輩には、わたしのお弁当になってもらいます」
「お、おべんとう!?」
「ええ、そうです。お弁当です」
つまりあれか俺はおにぎりや冷凍のコロッケや唐揚げになるということか?
などとアンポンタンなことを考えていたがそういうわけではなかった。
「つまりですね、先輩からはお昼休みや夕ご飯が無い時に、血と…」
曲常はそっと右手で夕方噛み付いてきた場所に触れ…
「精液をもらいます。」
そして左手を俺の股間に伸ばした。
今気づいたが俺は今下半身はトランクス一枚しか穿いていない。
というか待て。
「せ、精液!?」
言いたいことはいろいろあったがなんとか言えたのはこれだけだ。
この子が吸血鬼なのは非現実的ではあるが理解できた。というか体験した。しかし精液?何故?
「わたしのパパは吸血鬼なんですけどね…ママは淫魔なんですよ」
俺の疑問に答えるように曲常は言った。
「だから、血だけじゃなくて…精液も必要なんです」
言い終えると同時に、曲常は学校にいたときには考えられないような淫靡な笑みを浮かべ、俺の股間をトランクス越しにまさぐりだした。
いまいちよく分からない理由だが、動くことができなのでどうすることも出来ない。
「う、うわ…」
初めて女の子に触られたということもあり、あっという間に勃ってしまう。
「先輩、まだ触っただけですよ…なのにもうこんなに硬くして、恥ずかしくないんですか?」
曲常はいたぶるように言いながら、お尻を中心にして身体を百八十度旋回させ、両手でトランクスを脱がした。
勃起したために少しだけ皮のむけた俺の愚息が現れる。
曲常はその皮をむき、亀頭を撫でながら言った。
「先輩、仮性包茎だったんですね…そのくせこんなに大きくして…何考えてるんですか…」
言い終わりフッと息を吹きかける。
「う、うわ」
思わず声をあげた俺を曲常はいじめまくる。
「気持ちいいんですか?先っぽがぬるぬるしてきましたよ。ちょっと弄っただけなのに…」
「い、言うな…」
「何が言うなですか、先輩なんて…今日告白してきたばかりの相手にいじめられて、感じてる…変態のくせに」
曲常は亀頭を指先でつまみ、こすりだす。
「う、うわぁぁ」
「ほら、もう出ちゃいそうなんですよね?ビクビクしてますよ。普段弄られないから、先っぽが、気持ちいいんですよね?」
「う…あぅ……」
「ちゃんと答えてください。」
俺が答えられないでいると曲常は亀頭をつぶれるほどに強く握る。
「いっっ!…そう、です…気持ち…いい…です…」
思わず敬語になる。
「ふふ…先輩、ホントに変態なんですね…そういえば、さっき血を吸われたときも、ここ大きくしてましたよね…変態」
曲常は立ち上がり俺を蹴り転がしてベッドから落とす。
「こんなスケベなおちんちんに触ってたら手が汚れちゃいますし、変態さんにはこっちのほうがお似合いですよね。」
曲常は指に付いた先走りの汁を舐めながらベッドの端に腰掛け、黒の靴下を穿いた足で俺のモノを軽く踏みつける。
「ほら、どうですか?先輩…先輩みたいな変態さんは…足でいじめられるのがいいんですよね?」
裏筋をしたから上へとなぞりながら曲常は言う。
「そ…ん…なことはな…」
「ありますよね…嘘ついちゃ駄目ですよ?先輩…さっきより硬くしてるじゃないですか…」
曲常の顔を見ると、興奮してるのか顔が上気していて、それがほんの少しだけ恥ずかしがっているようにも見えた。
「先輩なんて…変態ですよ…こうやって後輩にいじめられて喜んでるマゾです…」
亀頭を、靴下を履いた両足で撫でながら、曲常は俺を蔑む。まるでそれによって自分自身を勇気付けているかのように感じられる。
「お…い……れ…」
「なんですか?先輩…聞こえませんよ」
「片方だけ、靴下脱いで…ほしい…」
俺自身にもなんででたのか分からない言葉に曲常は陶酔しきった表情を変えることなく答えた。
「本当に…変態ですね先輩は…なに命令してるんですか?」
言いながら、段々と足の力を強くしていく。
「うぁぅっ…」
「そんな頭の悪い変態さんにはおしおきですよ」
曲常は右の靴下を脱ぎながら左の足で引っ張るようにして皮をむいた。
「えい」
素足になった右の指でカリのあたりを挟むようにしてしこしことこする。
「そんなに足が気持ちいいんですか?おちんちんビクビクしてますよ」
カウパーでぬるぬるになった足が、ぬちゅぬちゅと卑猥な音を立てる。
「うっ…も、もう…」
「イッちゃいそうなんですか?変態の先輩は足でされて…イッちゃうんですね?」
もはや答えることも出来ずコクコクと頷くしか出来ない俺を、曲常は左右の足で激しく責める。
「出しちゃえ、変態」
ぎゅっ、と少し強めにカリを刺激され、俺は射精した。
ほんの少しだけ曲常の黒い靴下を白くすることが出来たが、曲常が足で角度を変えたせいで、ほとんどが俺自身にかかった。
「ふふ…いっぱい出してくれましたね」
口の辺りにかかった精液を曲常は舐め取り、軽くキスをしてくれた。
鼻に来る青臭い匂いのするファーストキス。哀れ俺。
そんな哀れな俺に曲常の書けた言葉は
「ごちそうさまでした…」
だった。
「俺は…弁当じゃなかったのか…」
部屋の隅にきちっと多端であった制服をガサゴソと着ながら、なんとなく言ってみる。
「ごめんなさい…晩御飯が…なにもなくて…」
「ああ…なるほど…」
納得してドアのほうに歩いていく。
「先輩、どこ行くんですか?」
帰ろうとする俺に曲常が言ってきた。
「帰るんだけど…」
「どこに帰るんですか?今日からここが先輩の家ですよ」」
ビクビクしながら答えたが、曲常は許さない。というか待て、今なんて言った?
「先輩の家には伝えてありますから…」
「はぇ?」
「先輩は今日からわたしと暮らすんです」
事態の飲み込めていない俺に構わず、曲常は付け加えた。
「それに言いましたよね?先輩はわたしのお弁当になってもらうって…お弁当が他人の家に置いてあるのはおかしいでしょう?」
そんな筋の通っていないことを言われても困る。吸血鬼なんかと一緒にいたら殺されるかもしれない。俺は歩き出そうとしたが、また動けなくなった。
曲常は俺にだんだんと近づいてきて、俺を後ろから抱きしめた。
「先輩…行ったら…駄目です…………殺しちゃいますよ」
最初は悲しそうな声で言ったのは、一片の慈悲も存在していない、冷たい言葉。
というか待てと殺すって何事かと。
「こんな変態といっしょにいたらどうなるかわからないぞ」
情けないことこの上ない言葉だが逃げるためなら何でもしよう。
「知ってます……先輩は…変態ですけど血も精液も、美味しいですし、…それに………それに…」
少しの沈黙の後、曲常は学校にいたときと同じ、おどおどとした弱い声で言った。
「先輩のこと…好きですから…」
泣いているのか声が震えている。
「だから…一緒にいてくれないと…嫌です、悲しいです……だから…殺します」
泣きながらそんなことを言う曲常が、なぜかとてもかわいらしく感じられた。我ながら頭がおかしいのではないかと思う。
しかしよく考えてみれば、多少問題はあるが可愛い後輩と一つ屋根の下。しかも何故かはわからないが俺のことが好き(らしい)。断る理由など微塵も存在していなかった。
俺は、結局この家に住むことにした。
終