今時の若者にしては、自分はかなりの変わり者であろう。  
自分は今年で23歳になるわけであるが、世間で言えばこの  
年齢は大学を卒業したばかりの、社会人成り立ての若者に  
相当する。彼ら『娑婆』の23歳の若者たちは未だに学生気分が  
抜け切らぬ、といったところであろう。まだまだ遊び足らない年頃である筈だ。  
 学生気分が抜け切らない未熟な若人である彼らの一部は、  
社会人一年目で社会とは肌が合わないことを知り、社会人で  
いることに耐え切れなくなって今の自分を投げ出してしまう。  
そしてその結果が『ニート』と呼ばれる無気力な人間の誕生である。  
 一応前もって言及しておくが、自分は少なくとも『ニート』と呼ば  
れる無気力無生産階級の人間ではない。むしろ、命を文字通り  
張っている職業に就いている、それなりの誇りを持ってもいい人間である筈だ。  
 命を文字通り張っていると言ったが、その通りの職業内容である。  
命を張っているという点に於いては、命を張って仕事をしているという、  
仕事に対して情熱と熱意を以っている一部の『娑婆』の人間に  
も当てはまることかもしれないが…だが、自分の場合は直接的な  
命の危険に直面する可能性が遥かに高いという意味での『命を張る』ということである。  
 先程から『娑婆』だの『命を張る』などと言ってはいるが、自分は  
極道とかそういった危ない職業柄の人間ではない。彼ら極道も  
いざとなれば『命を張る』ことになると思うが、自分の場合は彼ら  
極道が自分達の組の為に『命を張る』よりも崇高で気高く、且つ規模が大きい。  
 自分が『命を張る』対象は、この『日本』という独立主権国家である。  
つまり、自分は国家公務員という『日本』の公僕である。公僕は  
税金によって其の身を養われ、『日本』そのものである『日本国国民』の  
生命と財産をどのような形であれ、守っている。   
 
 更に言及しておくが、自分は警官ではない。警官は犯罪者の  
手から『日本国国民』の生命と財産を守るが、自分が所属する  
組織は警察組織よりもあらゆる面で秀でているのを相手にしな  
ければならない。警察など、その相手を前にすれば遥かに矮小  
でみすぼらしい存在に成り果ててしまう。自分が所属する組織が  
彼らの相手をするとしたら、この亜細亜全体、否、世界を巻き込  
む事態に発展するかもしれない。やや大袈裟すぎる気がしない  
わけでもないが、恐らく事実だろう。自分が所蔵している組織は  
犯罪者ではなく、外国からの『軍隊』かもしくはそれに準ずる敵対する  
武装勢力、又は警察で対処できない武装勢力を相手にする組織である。  
 自分が所属する組織の行動範囲は広い。この『日本』全土を  
行動範囲として定めており、陸海空に常に展開し、周辺諸外国から  
想定される侵攻に対しての防御行動を行っている。此処まで  
言ってしまえば、自分、というよりも自分が所属している組織の  
正体に気付く人間はこの時点で多数いることであろう。  
 前置きが長くなってしまったが、自分が所属している組織の  
名称は『自衛隊』である。英名で『Japan Self-Defense Force』と呼ばれる、  
『軍隊』ではない『軍隊』的な戦力である。更に細かく言えば、自分は  
『陸上自衛隊』に所属している一人の『陸上自衛官』である。  
 『自衛隊』なる『軍隊』のように攻撃性が強いのだが弱いのだか  
よく分からない組織は、既に創立されてから半世紀以上の時間が  
経過してしまった。長い間、『自衛隊』はかの有名な平和憲法である  
『日本国憲法第九条』に違反するのではないのかと偉い政治家の先生方の  
間で議論が交わされてきた。確かに、『戦争』を憲法で否定した国家が、  
『戦争』の根本的問題の発起とも言える『軍隊』を保有するのは矛盾していることだろう。  
それに、『軍隊』を持ちさえしなければ、確かに、戦う者がいないから『戦争』は  
起こらないかもしれない。だが、引き起こされるのは一方的な蹂躙だ。  
 『自衛隊』は輪郭が曖昧な存在である。『日本国』の為に尽くしている筈なのに、  
その存在を否定され続けてきている。だが、完全に否定されているわけでもない。  
が、その存在を完全に容認されているわけでもない。  
 
 全く以ってあやふやな存在である。世界の何処の国を見ても、  
『自衛隊』以上に変な組織は存在しないと思われる。  
 自分は別に『自衛隊』問題について話し合いたいわけではない。  
ただ、『自衛隊』という組織が曖昧という点に於いては、自分との  
共通項であると言っておきたい。  
 話は最初の方に戻るが、自分は変わり者であろう。23歳で『自衛隊』に  
身を置いているなど、青春を無駄にしているとしか言い様が無いと思われる。  
だが、何も23歳で『自衛官』なのは自分ひとりではない。  
…まぁ、自分は昔の軍隊で言えば軍の幼年学校に相当する少年工科学校から  
『自衛官』をやっているのだから、自分以上に若くして自衛官になった人間がいるとは思えないが…  
 少し前の方で、自分は『自衛隊』という存在の曖昧さという点に於いては  
自分との共通項であると言った。自分の何が曖昧なのか。  
 この職業に誇りを持っているし、何より『自衛隊』という組織に  
魅力を感じて、普通の高校生として過ごす道を拒否した。自分は『自衛官』としては  
当たり前の自覚を持ってはいる。だが、ただ漠然とした何かが曖昧なのである。  
曖昧なままの自分が、確かな決断力を必要とする組織でよくも遣ってこれたと  
我ながら感心してしまうが、そこのところは生来の要領の良さで乗り切ってきたとでも言っておこうか。  
 だが、いい加減そんな自分に嫌気が差してきた。曖昧なまま、  
宙ぶらりんのままでこの職業に留まり続けるのは決して良い事ではない筈だ。  
 曖昧なまま自分は自衛官として過ごしている。最近では、その曖昧さの  
正体を突き止めようとする焦りが表面化してきたのか、妙な焦燥感に  
駆られる事が多くなってきた。それは自然と態度に表れ始め、同僚に  
「何を焦っているんだ?」と言われる事などしばしばである。  
 『自衛官』の全てが曖昧さを持たずにこの職業に就いているわけでは  
ないと思うが、妙に焦りを感じているのは自分ぐらいだろう。  
 これは、漠然とした曖昧さを抱える自衛官である自分こと『雑賀誠一郎』  
とその周辺人物達の物語である。因みに、彼らの青春は灰色である。  
 

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