僕の名前は幸島豊(こうじま ゆたか)。  
 私立大和学園2年生で学力はトップクラス。運動能力は低くは無いが高くも無い。  
「雪宮さんお昼一緒にどう?」  
 学年が変わってから1ヶ月程。朝倉は雪宮を毎日昼食に誘っている。  
 毎日断られているのに、懲りない女だ。  
「雪宮もこっちで食べないか?今日は雪宮の分も席を用意しておいたんだぞ」  
 今日は朝倉に助け舟を出してやろう。  
 さすがに毎日同じやりとりに飽きてきたからな。今日は雪宮と木戸の反応を見るのも面白いだろう。  
 案の定、木戸の隣の席を空けておいたらあっさりと承諾したか。  
 わかりやすい性格だ。  
「というわけで、幸島。席を替わるぞ」  
「何がどうというわけなのかわからんが、それはしない方がいいんじゃないか?」  
 何を言っているのだ?この馬鹿は。  
 おかしい。僕の見立てでは、木戸も雪宮に対して悪い感情は抱いていないはずなのだが。  
 ほらみろ。結局、雪宮は君の隣に座ったではないか。  
 最初から僕の言うとおりにしておけばいいんだ。  
「幸島、ありがとね」  
「なんの話だ?」  
 僕の隣に戻ってきた朝倉が頭を下げる。  
「だって、幸島が木戸の席の隣を空けておいてくれたから雪宮さんが一緒に食べてくれたんだし」  
「あれは僕の趣味的欲求を満たすために自分で行っただけだ」  
 朝倉香月(あさくら かつき)は、僕の妹の花音(かのん)の中学の時からの部活の先輩らしい。  
 今までも何度か妹を訪ねて家に来たこともあったが、こうしてクラスメートとして話をするのは初めてだな。  
「あっそ。そんな風に言われるなんて、微妙にお礼言って損した感じだな」  
「勝手に礼を言っておいて、勝手に損をするとは。面白い性格だな」  
「……アンタ、馬鹿にしてるでしょ………ったく、そういえば、趣味的欲求って、アンタの趣味ってなに?」  
 それを聞かれて僕は一緒に昼食をとっているクラスメートを見まわす。  
 ふっ。まさに十人十色。面白い状況だ。  
「僕の趣味……人間観察さ」  
 
 その日は用事で学校に残っていたら、帰りにはもう日が落ちてしまっていた。  
「あ、幸島!今帰りか?」  
「朝倉か。あぁ」  
 朝倉の手にはラクロスのスティックが握られている。どうやら、部活帰りのようだな。  
「珍しいな、こんな時間に」  
「生徒会の仕事が残っていてな。生徒会長と会計はまだ残っている」  
「そっか。副会長だもんね」  
 大和学園は、ほぼ全ての行事を生徒会が取り仕切る。  
 つまりは、生徒会に入れば行事の分だけ学生を観察する時間が増えると言うわけだ。  
「そういえば花音は?今日は部活に顔出さなかったけどなにか知らないか?」  
「あぁ。アイツなら風邪だ。友達と花火をしに出かけて、帰ってきたときには発熱していた」  
「そうか。ドジだなぁ」  
 僕が朝倉と同じクラスになって3ヶ月あまり。  
 だんだんと朝倉という人間が見えてきた。  
 よく言えばボーイッシュ。悪く言えばガサツ……いや、これでは全国のボーイッシュな女性に失礼だったな。  
 まぁ、よく言うことが出来ないほどに少々デタラメな部類の女性だ。  
「あ、幸島。今日は暇か?」  
 日が落ちた後にも関わらず暇かと聞いてくるあたりがまずどこかおかしい。  
「家に帰るだけだが」  
「なら、どっかで軽く牛丼でも食わないか?」  
 牛丼は軽くないと思う。  
 男の僕よりも男らしいんじゃないだろうか。  
「どうせならハンバーガーにしよう。僕は家に帰ったら晩御飯があるから」  
「私だってあるけど。ん〜〜……まぁ、それでもいいか」  
 その上、気が強い。  
 今の場合だっていいならいいと言えばいいのに、一度、難癖をつけて自分を上位に立たせる傾向があるようだ。  
 見た目は悪くは無い。  
 むしろ、同じ学年の中ではスタイルもいほうだし、顔立ちも綺麗な方だろう。  
 同姓に好かれるタイプというやつだな。  
「何してんだ!早く来いよ!!」  
 自分勝手で自己顕示欲が強い。それが僕の出した彼女の性格だった。  
 
「幸島ってあんまこういうとこ来ないと思ってたよ」  
 朝倉の前にはハンバーガー……いや、ダブルバーガーが3つ。  
 この調子なら牛丼屋に行っていたら特盛を頼んでいたに違いない。  
「ここはありとあらゆる人間が来るから。観察するにはとても適した場所なんだ」  
「あぁ…その悪趣味ねぇ」  
 僕自身も人間観察はいい趣味だとは思っていない。  
 思っていないが誰に迷惑をかけてるわけでもないし、やめる必要もないだろう。  
「ん?あれ…木戸と雪宮さん?」  
 窓の外を知った二人が歩いている。  
 普段は車で帰っているはずだが。  
「仲いいよね」  
「付き合ってるからな」  
「そうなの!?」  
「わからなかったのか?一月ほど前から二人の雰囲気が変わっただろ。木戸は雪宮の家に住んでいるみたいだしな」  
 二人に何があったのかは知らない。別に過程は知る必要もないし。  
 ただ、確実に二人の雰囲気は変わっている。  
 以前はお互い惹かれあっている程度だったが、今は間違いなくお互いを支えあっている。  
「いや。あの二人の態度ってあんま変わってないし……わかるのは幸島だけだって」  
 確かに付き合っているのを隠そうとしている節は見受けられるが。  
 授業が終わった後のあからさまなアイコンタクトなど、以前には見受けられなかったことだしな。  
「ショック。木戸のこと結構好きだったんだけどなぁ」  
「……僕の見立てでは、その程度で君が参るとは思わないのだが?」  
「うあ……いくら人間観察が趣味でも、なんでもわかってるように言わないでよ」  
 ふむ。朝倉が木戸に好意を持っていたのは感じていた。  
 だが、ショックを受けるほど好きだったのだろうか?  
「そりゃぁ、失恋ってほど苦しくは無いけど」  
 やはり、僕の思った通りで間違いはなかったわけだ。  
「なんで……………かな」  
「何か言ったか?」  
「なんでもないよ。バ〜カバ〜カ………どんかん…」  
 
「ふぅ。ごちそうさま」  
「おかしい、最初に出してくるのはグーだと思ったんだが」  
 食事後、どっちがお金を払うかでジャンケンを行った。  
 過去の観察では朝倉は最初にグーを出してくる可能性が一番高いはずだったのだが。出したのはチョキ。  
 パーを出していた僕は負けて、朝倉の食べた分も支払った。  
「だから、遠くから見てるだけじゃダメなんだって」  
「そんなものか。まぁ、いい。それじゃあ、僕はここで。また明日」  
「あ……あ、あのさ。公園に行かないか?」  
 は?  
 僕は今から帰ると言っているのに何を言っているんだ?  
 そもそもコイツはこんなにも唐突なことを言うタイプだったか?  
 確かにこんな時間に女子高生の一人歩きは危ないか。  
「わかった。公園というよりも、家を送るよ」  
「へへ、サンキュ」  
 どうしたんだ?送ると言っただけで急に笑顔になりだして。  
 再観察が必要そうだな。  
「あのさ」  
「ん?」  
「木戸と雪宮さんのことホント?」  
「確認はしてないが、多分そうだと思っている。なんだ、やはり木戸に未練でもあるのか?」  
 朝倉が首を横に振る。  
「……なんで、二人のことは気づいて私のことには気づかないかな」  
「なんの話だ?」  
「私が……幸島を好きだってこと」  
 ……………は?  
「ずっと好きで、花音に会いにいくふりして家にお邪魔したり……人間観察が趣味って聞いて、バレてたかと思ったらそうじゃないし」  
「な、なんで」  
「なんでって!……一目惚れなんだから、理由なんてないよ」  
 朝倉の顔が真っ赤に染まる。  
 薄暗い街灯の下でもはっきりとそれがわかるほどに。  
「うぅ、なんでこんなこと今言っちゃったんだろう。ごめん、忘れて。じゃ、じゃあね」  
 背を向けて走り出す朝倉を、僕は見送ることしか出来なかった。  
 

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