伊織は薄暗い、恐怖と羞恥と痛み、そして汗と精液と肛門から漏れる排泄臭が混ざる 
噎せ返る臭いが支配する空間にいた。 
そこに車のドアが開き太陽の光が射し込む、そしてあの人の良さそうな黒髪の男がやや呆れ顔で 
茶髪の男に「お前、まだソイツのケツを掻き回してたのかよ」と言って中に入って来た。 
 
 「そう言うけどよ、コイツのアナル良いぜ! ホレ、お前もヤッてみろよ」 
 「ホレッて、糞がこびり付いてんじゃねぇかよ汚ねぇな! ケツの中のモノ全部 
  出させてからにしとくわ、取り合えずマンコだ。 さっきからずっと我慢してんだよ」 
 「ま…って……あの…もう許し……これ以上………体が持ちま…」 
 「ふざけんな! 俺はまだヤッてねぇんだよ、ぶっ壊れてもヤリまくってやるよ、オラ 足広げろ。」 
 「…そんな……ヒッ、ィダァ……」 
 
 
伊織は黒髪の男に一縷の望みを掛けて助けてくれる様に願って見たのだが、 
当然のごとくその望みは打ち砕かれるのだった。 
 
 「さぁて、それじゃあ浣腸の用意でもするか、1リットル位でいいか」 
 「それ多くね?」 
 「大丈夫だろ…たぶん…」 
 「えっ…何? 恐いよ、もう変な事しないで…」 
 
脅える伊織に茶髪の男が彼女の排泄物の付いたペニスを顔に近付けて来る。 
 
 「オメーの糞で汚れた俺のコレをよ、舐めてキレーにしてくれよな」 
 「…ウソ…ヤダよ、そんなの無理……いくら自分のでもそんな汚いの口にするなんて…、 
  イヤ 近付けないで、お願い! イ…イヤァァァ…………」 
 
この中に伊織の願いを聞いてくれる者など誰も居なかった。  
 
暗闇の中、伊織の悲鳴が部屋に響き渡る。 
  
 「………ァァァアア…ハァ、ハァ…ここは……」 
 
ガバッと上半身を飛び起こした伊織は一瞬状況が把握できず周りを見渡し、 
やっと自分が夢を見ていたのだと理解した。 
 
 「私…また、あの時の夢を……」 
 「伊織姉ちゃん、どうしたの?」 
 
 
隣に寝ていたサキが心配そうに伊織を見上げていた。 
明花はケガをして保健室で寝ているユウに付き添っているため、 
今 部屋には伊織とサキの2人しか居なかった。 
 
 「…サキちゃん……ごめんね、起こしちゃったね」 
 「伊織姉ちゃん、恐い夢を見たの? 凄い汗だよ、それに……泣いてるよ…」 
 「えっ? ぁ…これは何でも……」 
 
サキに言われ、頬に手をやると未だに目から涙が溢れ出ていた。 
サキから見れば大人の自分が泣いたりして、弱い所を見せると子供のサキが不安になるであろうと言う事は 
分ってはいるのだが、涙を、そしてなにより自分自身の不安や恐れを止める事が出来ず思わずサキを抱き寄せた。 
 
 「泣かないで、伊織姉ちゃん」 
 「ウッ…グスッ、うん……ごめ…ね……サキちゃ…ゥッ」 
 
伊織はサキをギュッと抱き締めたままいつまでも泣き続けるのだった。  
 
 
12日目の朝 
唯は伊織達の部屋のドアをコンコンとノックした。 
「は〜い」と言うカワイイ返事と同時にサキがドアを開けて出て来る。 
 
 「よぉ サキ、おはよう!」 
 「あっ ユイちゃん、オハヨ〜」 
 「サキちゃん、誰が……三上さん…」 
 
 
伊織は自分が不用意だったにしろ恥かしい過去を知られた事もあり、思わず唯から目を伏せた。 
唯は自分の目を疑った! 
『自分の目の前に居るのは本当にあの橘 伊織なのか?』と……。 
以前からたまに廊下で見掛けたり、擦れ違ったりした時も…そして何より3日前の戦いの時の 
まさに威風堂々としていた者と同一人物とは思えないほど弱々しく何かに脅える様にオドオドしていたからだ。 
 
 「…な…何か様…なの」 
 「ぇ…あぁ、私これからユウの見舞いに行くんだよ。2人も行くだろ、どうせなら一緒にと思ってさ」 
 「うん 一緒に行く〜!」 
 「私は……やめとくわ…あまり気分がすぐれないから…」 
 「そうか…確かにあまり顔色が良くないな……って、これから保健室に行くんだからさ、 
  ついでに見てもらえばいいじゃねぇか」 
 
俯いたまま何も言わない伊織を見て唯は「本当に大丈夫か?」と伊織の額に手を伸ばした瞬間、 
伊織は「イヤッ!!」と悲鳴をあげ、一歩後退り、 
唯は「えっ?」と思わず手を引っ込めた。 
 
 (な…なんでそんなに脅えるんだ? やっぱり強姦された事を知られたのと関係があるのか? 
  いや、でも…私は女だし、それで橘を揺すったり、周りに言い触らす気もないし……) 
 「ご…めんなさい……本当に大丈夫だから……寝てれば治るから………」 
 
唯は「そ…そうか、じゃあ私等だけで行くけど……我慢できなかったり、困った事があったらすぐ保健室にこいよな」 
と言って伊織を気にしながらサキを連れて保健室へと向かう。 
結局、伊織は最後まで唯と目を合わせる事はなかった。  
 
保健室に着いた2人はソッと様子をうかがいながら入って行く、ユウはまだ寝ていた。 
ミンはそんな2人に気付いて声をかける。 
 
 「ぁ 唯、それにサキちゃん、早上好! 早いのね」 
 「ミン、お前もしかして寝ないで看病していたのか?」 
 「うん、梨木先生は大丈夫だって言ってたけど、もし急に体調が変化したらと思ったら心配で寝てられないもの」 
 「確かにそうだな…それにしてもミンは、もうすっかり本当のお姉ちゃんだな」 
 
 
唯にそう言われ、ミンは嬉しそうに「パァッ」と明るく笑う! 
そして「ねぇ、伊織はいつ頃来るの?」と2人に尋ねた。 
唯もサキも顔を曇らせながら答える。 
 
 「橘は…なんか調子が悪いらしくて、部屋で寝てるって言ってた」 
 「えっ、伊織が…」 
 「あのね、ミン姉ちゃん……伊織姉ちゃん、昨日の夜、恐い夢を見て飛び起きたの……。 
  凄く恐い夢みたいだったよ、私を抱き締めて泣いてた…朝まですっと…凄く可哀想だったよ」 
 
 
サキの話を聞いて明花の表情がいっきに変わる。 
「ミン、その夢って…」と言う唯の言葉に明花は無言で頷く、そしてその表情がだんだん険しく悲痛なものへとなって行った。 
唯はそんな明花を見てこう思った。 
 
(ミンは橘の事を誰よりも分っているんだろうな、たぶん橘もミンの事を誰よりも分っている。 
 そう言えばこんなのを聞いた事があったな…… 
 『人間は一生涯の中で1人か2人、自分の事を本当に理解してくれる、信頼できる親友が居る人は幸せ者だ』 
 とかなんとか……私にはそんな親友が居るだろうか?) 
 
 
唯は深く考える、すると同時に3人の顔が浮んだ。 
・向こう見ずな性格や好きな食べ物など色々と接点が多い『メイ』 
・いつも穏やかに微笑みかけてくれ、よく気を使ってくれる『べス』 
・友人とは少し違うが、真面目な話からどうでもいい話まで、 
 何かと構ってくれる面倒見の良い姉的存在の『大野先輩』 
 
 (彼女達と出会って半年以上たつけど、私の事を全部理解してくれているかと言うと正直、 
  自身がない…私自身、彼女達の事を全部分っている訳じゃないから……でも、ミンと橘は 
  半年そこらでその関係を作り上げたんだ、スゲェよな……お前達が羨ましいよ。) 
 
 
俯き思い悩む明花に唯は「橘の所に行ってきてやれよ」と言う 
 
 「えっ?」 
 「心配なんだろ、ユウとサキは私が見てるからさ、昨日みたいな事にはならねぇよ。 
  だから行ってこいよ、今頃きっと参ってるぜ…今の橘を支えられるのはミンだけだ!」 
 「唯……ありがとう、じゃあ悪いけど2人をお願いね」 
 
そう言って明花は(伊織、今から行くね)と保健室を出て駆けて行った。  
 
 
部屋の前までやって来た明花は入る前にドアをノックして、 
「伊織 私、明花よ、入るね」と声をかけてから入って行った。 
 
部屋の中は朝だと言うのに電気がつけられていて、明花がメインルームまで行くと 
伊織はベッドから上半身を起こして明花を見詰め、明花は優しく微笑む。 
 
 「こんな明るいウチから大切な電気をつけていたら先生に怒られるわよ…消すね」 
 「…明…花…ウッ、ウゥッ……明花ぁ…ヒグッ、ウアァァン……」 
 
 
伊織はベッドから飛び出し、明花の胸の中に顔を埋め、子供の様に泣き出した。 
明花はそんな伊織の頭を撫で、まるでユウやサキに接する時と同じく、あやす様な優しい口調で言葉をかける。 
 
 「サキちゃんから聞いたよ、恐い夢を見たんだって? もう、バカね…そんな日に限って 
  1人になるのが恐いくせに、なんで唯達と一緒に来なかったの?」 
 「グスッ…だって…1人になるより……部屋から出るのが恐かったんだもん…ヒック…」 
 
 
明花は伊織を抱き締めながら 
「大丈夫、今は私がそばに居るから恐くないよ」と言って伊織が落ち着くまで頭を優しく撫でるのだった。 
そしてしばらくたって明花は声を掛ける。 
 
 「どう? 少しは落ち着いた?」 
 「うん…ごめんね、迷惑ばかりかけて……」 
 「迷惑だなんて思った事なんて一度もないわよ、それより少し眠ったら? 夜中からずっと起きていたんでしょ」 
 
 
それを聞いた伊織は首を左右に激しく振って睡眠を拒んだ。 
 
 「イヤ! 眠ったらまたあの夢を見る…また犯される…眠りたくなんかないよ」 
 「で…でも眠らない訳にはいかないじゃない、身体にも悪いよ…本当に病気になっちゃうわ」 
 「……もう4年も経つのに……せ…性器に入れられる痛みや、アイツ等の…精液の味や匂いが今でもリアルに……、 
  実際に犯されたのはその日だけなのに…その後、夢の中で何百回も同じ相手に犯され続けて……一体いつまで続くの? 
  明花、私…眠るのが恐いよぉ……」 
 
 
明花は何も言えなかった……。 
いくら自分が傍についていても夢の中まで一緒に居てあげられたり、襲われている所を助けてあげられる訳でもないからだ。 
だが、それでも明花は優しく伊織を抱き締め、こう言い聞かせるのだった。 
 
 「ダァ〜メ、ちゃんと眠らなきゃ…病気になったらユウ君やサキちゃんが悲しむわ、もちろん私もよ。 
  ホラ、こうしてずっと抱いていてあげるから……恐がらないで、伊織は1人じゃないよ」 
 「…明花……」 
 
 
「うん」と言って伊織はソッと目をつむる、そして僅か数分で「スゥ〜」と寝息をたてた。 
明花は伊織をベッドに寝かせ、自分もその隣に向かい合って寝転がる…。 
寝ずの看病のため、すぐに睡魔がやって来た! 
遠のく意識の中、明花は伊織の寝顔を見ながら「ごめんね、こんな事しかしてあげられなくて……」と呟く 
 
伊織にとってはこれだけでも十分なのは分ってはいるのだが、 
明花はもっと伊織の苦しみを取り除いてあげたかったのだった。  
 
 
昼過ぎになって部屋に戻る事を許されたユウをサキと共に連れて唯は部屋の前までやって来た。 
一応ドアを「コンコン」とノックして声をかける。 
 
 「ミン、ユウとサキを連れてきたぞ………? お〜いミン…橘?……」 
 (返事がない……まさか…カギは……掛ってないな、ヨシッ!) 
 
 
「ミン姉ちゃん達、どうしたんだろ?」と話す兄妹に唯は真剣な眼差しで言う。 
 
 「ユウ、サキ、私はこれから1人で部屋に入って行くけど、もし私に何かあったら……、 
  要するに悲鳴とか変な物音とか聞いたら中に入って来ようとかせずに急いでメイやべス、 
  大野先輩の居る保安部に行くんだ! いいな」 
 
 
状況を察した2人は「僕達だけ逃げるなんて…ャ、ヤダよ」「ユイちゃん…私もヤダ……」と声を潤ませる。 
唯は「フッ」と微笑んで兄妹の頭の上にポンと手を置いた。 
 
 「逃げるだけじゃないぜ、2人が早く保安部に行って皆を連れて来てくれたらそれだけ私や、 
  ミン姉ちゃん達が助かり易くなるんだ、それに何かが居るって決まった訳じゃない、用心の為だよ」 
 
 
そう言って兄妹を無理からに納得させ、唯はソッと部屋の中に入って行く。 
(こう言う場合、ドアを開けっ放しにした方が万一の時に逃げ易いが…、 
 もし私がソッコーでやられたら今度はあの子達に危険が及ぶ事になる) 
そう考えた唯はドアを閉め、後ろ手でカギを「カチリ」と掛けた。 
 
 「さぁて、まずは洗面所だが……特に何かが居る気配は無いな、やっぱメインルームか…」 
 
 
唯は音をたてずソッと警戒しながら歩いて行く、その時、かすれる様に小さな「もう許して…助けて…」と言う声を耳にする。 
(この声は橘……まさか犯られちまってるのか? クッソォォー!) 
唯は素早く拳にナックルをはめて、メインルームへと飛び出した。 
 
 「橘! ミン! 助けに来たぜ…………アレ?」 
 
 
だが唯が目にしたのは、まるで恋人同士の様に仲良く向かい合って寝ているミンと伊織の姿だった。 
 
 「何だよ寝言かぁ…そう言えば2人は寝てなかったんだよな、まあ 何もなくて良かったよ」 
 
 
わずかの間とは言え極度に緊張した状態から解放され、唯はドッと疲れが出て肩を落とした。  
そしてチラッと2人を見る 
ミンはスヤスヤと眠っているが、伊織は夢にうなされているのがよく分った。 
 
 (サキが言ってたな…昨日、恐い夢を見て泣いてたって、それにミンのあの態度の変わり様……、 
  しょっちゅう見ているんだろうな、起こしてやった方が良いよな……) 
 
 
そう思い、唯は伊織の体を手で押して揺すり起こした。 
 
 「おい 橘、起きろ……起きろって…」 
 「う……ん…ミン…花?……」 
 
 
伊織は寝ぼけ眼でよく見えておらず、唯が明花だと勘違いをしていた。 
だが、唯の「オッ、起きたか?」と言う声で伊織の背筋が凍り付く、そうなってはもはや男女の区別すらつかなくなる 
(!? 明花じゃない! じゃあ私の体に触れているのは誰なの?) 
そう思った瞬間のはもう大きな悲鳴があがっていた。 
 
 「イヤァァァァ――――」 
 「うわぁ、なんだよ?」 
 「何? どうしたの、伊織!……アレ? 唯、どうしてここに居るの? 伊織に何をしたの?」 
 「わ…私は何も……ただな…」 
 
 
唯は手早く簡単に状況の説明をした。 
その間、伊織はベッドの隅っこで壁を背にして、たまに唯をチラッとうかがいながら 
小さく丸まる様に座っていた…「そこまで嫌がらなくてもいいのに」と思う位に……。 
 
 「そうだったの…でも伊織はよっぽど心を許した人じゃないと触れられるのが嫌な娘だから……、 
  あっ、気を悪くしないでね。私も最初はよく怒られたり、避けられたりしてたから」 
 「それはやっぱり昨日の『アレ』と関係があるのか?」 
 「……うん…」 
 
 
『アレ』とはモチロン、伊織が強姦された事である、 
そして唯は自分の考えを言う事にした。 
 
 「あのさ、私 昨日、保健室を出た後に考えていたんだけど……。 
  橘! 私と友達になってくれないか?」 
 「…急に……どうして?…」 
 「昨日の『アレ』を見ちまうとさ、なんか……助けてやりたいな、て思って…それで……」 
 「嫌よ!!!」 
 
 
伊織のキッパリとした言葉に唯は「えっ?」と意外そうに声をだした。 
まさかそんなにはっきりと断られるとは思わなかったからだ。  
明花の方は「やっぱり…」と言う感じで「ハァ〜」と深く溜め息をついていた。 
 
 「…どう…して……」 
 「当たり前じゃない! 三上さんは昨日の私を見て友達になろうと思ったんでしょ。 
  私の事を不幸だ、可哀想だ、って…私は哀れみで友達なんかになってほしくないの!」 
 
 
さらに伊織は「今まで私の事なんか見向きもしなかったクセに…」と吐き捨てる様に言い放った。 
この言い方に明花は怒って「伊織! 今の言い方、いくらなんでも酷過ぎるわよ!!」と抗議する、 
だが唯は「いや…いいんだ」と言って明花を止めた。 
 
 「橘の言う通り哀れんでいたのかもしれない、私だって哀れみの友達なんかいらない……。 
  でも、橘を助けたい気持ちは本当なんだよ! 橘が女にとって嫌なことをされて、 
  今でもそれで苦しんでいるのが分っちまった以上、どうしても力になりたいんだよ!」 
 「…わ…私がどんな事をされたか知らないクセに、今でもあの時の夢を見る位なのに……、 
  どうしたらいいか分らないのに、そんな私の事を助けるなんて無理に決まってるじゃない」 
 「…伊織……そんな事を言ったら…私のして来た事も無駄だって事だよ……」 
 
 
伊織は「ハッ」として明花を見る、そこには今まで見た事がない様な、涙ぐむ明花の顔があった。 
「違うの…私、そう言うつもりじゃ……ごめんなさい、明花…本当にそんなつもりじゃ…そんな……」 
そう言って伊織の体がガクガクと震える。 
それは軽率な言葉で大切な親友を傷つけてしまった事からのものだった。 
 
だがその時、「助けてやるよ」と言う決意を固めた唯の言葉に、 
2人は『えっ』と注目する。 
 
 「橘が苦しい時、悲しい時はどこに居たって助けに行ってやるよ! 夢の中でもな」 
 「…『夢の中でも』って…それこそ無理だわ……」 
 「無理でも、やってやるさ!!」 
 「な……」 
 
 
唯の自信に満ちた言葉に思わず伊織が言葉を失った時、部屋のドアを「ドンドン」と叩く音がして、 
「三上! 橘! 李! 大丈夫かー』と言う房子の声が聞えてきた。 
唯は「あぁ! 忘れてたぁ〜」と頭を抱える。 
そして「何かしら?」とドアを開けに行こうとするミンに 
「なぁ、ミン…開けない方がいいんじゃないかなぁ」と言うが、ミンは怪訝な顔をして 
「なに言ってるのよ、唯? そんな訳にはいかないでしょう」と言いながら 
ドアを開ける。  
房子、皐月、べス、そして部長の静香とあと数名の保安部員が入ってきた。 
そして辺りを見回して一言「これは一体どう言う事だ?」と房子。 
唯は「いや…その…ぁ、あのね…」と説明をする……。 
 
説明が終った後、 
「ハァ〜」と溜め息をつく者、「チッ」と舌打ちをする者、何も言わないが明かに顔が怒っている者、 
とにかく保安部の全員が怒っていた。  
そんな中、ユウとサキが泣きながら部屋に入って来る。 
 
 「ミン姉ちゃん、伊織姉ちゃん」 
 「ユイちゃ〜ん」 
 「ユウ、サキ、悪い心配させちまったな…でもチョット早とちりだぜ」 
 
 
そう言って2人の頭を撫でる唯の後ろに房子が回り込んでこめかみの部分を拳で「ゴツッ」と挟んだ。 
 
 「お前さぁ、友人が1人で部屋に入ってから、悲鳴が聞えてくるって状況を考えて見ろよ」 
 「…は……はい……」 
 「誰・だ・っ・て・勘・違・い・す・る・よ・な!」 
 「痛い痛い痛い痛い痛い痛いごめんなさいぃ」 
 
 
房子は拳をこめかみに捻じ込む様にグリグリと動かして唯を叱り付ける。 
 
 「まったく唯ったら…ユウ君とサキちゃん、可哀想だったんだよ」 
 「そうですよ、急に部室に入って来て『助けてよ、ミン姉ちゃんと伊織姉ちゃんが…』 
  『ユイちゃんが死んじゃうよぉ』て泣きだしたんですよ」 
 「…ごめん メイ、べス……ユウもサキも本当にごめんな」 
 
 
ユウは「皆が無事なら…いいよ」と涙を拭いながら言う、サキは「グスグス」泣きながら頷く。 
静香はそんな二人を見て微笑んだ。そしてすぐに顔を引き締めて! 
「さあ皆、撤収よ! ぁ、それと三上、貴方にはまだ話があるから一緒に来てもらえるかしら」とやんわりと言う。 
が、もちろん強制的に連れて行かれる事となる、その証拠に唯は首根っこを房子に押さえられていた。 
(私、泣かされるかも……いや、絶対に泣かされる) 
そう思いながら歩き出そうとするが、「そうだ!」と言って伊織を見る。 
 
 「私がさっき言った事、本気だぜ! 信じてくれよな」 
 「…三上さん……」 
 
 
皐月とべスは「何を言ったんだろ?」と顔を見合わせた。 
房子は口の端をあげて一瞬笑い、「オラ、キリキリ歩けぃ」と唯を連れて行く。 
そして部屋の中にはユウ、サキ、ミン、伊織の4人だけとなった。 
 
 「何が『夢の中でも助けてやる』よ、ふざけてるわ…」 
 「伊織…唯は本当に………!?」 
 
 
怒りの声をあげる伊織を振りかえった明花はその顔を見て、優しく微笑んだ。 
「伊織姉ちゃん、泣きながら笑ってるよ」と言うユウに明花は「嬉しいのよ…伊織は今日とても嬉しい事があったのよ、とっても」 
そう言ってユウを抱き寄せる 
 
 「困ったお姉ちゃんね、嬉しい時は笑うだけでいいのに怒る事と泣く事と笑う事を 
  一度にするなんて……器用なんだか不器用なんだか…」 
 (伊織 今、真剣に貴方の事を心配してくれる娘が手を差し伸べているわ。勇気を出してその手を掴むのよ) 
 
「ペタッ」と抱き付くサキの頭を撫でる伊織を見ながら明花はそう思うのだった。 
 
 
   「漂流女子校〜友情〜」 
                完  
 

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