「そーいや、今日は七夕だってね」  
そんなことを思い出して、テレビを見ていた目を、顔ごと傍らに向ける。  
「……それがどうかしました?」  
テレビにも話題にも興味がないのか、律は文庫から視線をそらさない。  
素っ気ないそぶりがあまりにらしくて、苦笑いと一緒にため息が出る。  
期末試験も終わって、せっかく二人きりだというのに、ムードもなにもあったもんじゃない。  
外は生憎の雨模様。  
二十光年向こうの恋人たちは残念ながら一年に一度のチャンスを逃してしまったらしい。  
「雨だなぁ……」  
「雨なんて、関係ないですよ」  
なんでもない呟きからこちらの胸の内を読み取ったのか、律は僅かに文庫本から視線をあげてこちらを見た。  
 
「年に一度しか会えないってだけでも理不尽なのに、あんな薄っぺらな雲のせいで邪魔していいわけないんです。  
雨が降ろうが、槍が降ろうが、天の川が氾濫したって、必ず――――会いにいきます」  
言いながら彼等と自分を重ねているんだろうか。  
彼女の口調は珍しく情熱的だった。  
「しんどそうだな……、幸せなのかね、それで」  
「愛し合ってるのなら、勿論です」  
間を置かず、言い切った。  
なるほど、律もれっきとした女の子だった。  
気付けば完全に本から顔を上げていて、心なしか無い胸を張っている。  
「なるほど、それじゃあ――――」  
「ええ、一年中、いつでも会える私たちは、誰よりも幸せです」  
 
言おうとしたとっておきのセリフを奪われた。  
それも、微かに照れで頬を朱にして、言葉通り本当に幸せそうな笑みを添えて。  
 
――ああ、もうっ!  
可愛いなこいつはっ!  
 
え? それからどうしたって?  
そら、もう辛抱たまらんって抱きしめて……  
いや、野暮ったいことは言いっこなしだぜお前。  
 

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