G'HARNE FRAGMENTS  
『深淵にて』  
 
 
 クトゥルフが眠る彼らの本拠地、ルルイエ。幾つかの記録に登場するが、その  
位置は全てで異なっていた。カロリン諸島東部の火山島沖であったり、ニュージ  
ーランド沖だったりと。だがそれも、ルルイエが海底を動くのだから当然だろう。  
ユリの解説によれば、沈没した島ではなく、移動要塞といった物なのだそうだ。  
 現在位置を特定し、米軍を主体とした各国軍が総攻撃を掛ける。その方針に従  
い、文宏達はルルイエへの入り口があるという岩礁内を降りていた。  
 岩礁はアメリカ東北部の、インスマスという港町の沖合にあった。かつて住民  
の多くが半魚人と化したらしく、大がかりな軍事衝突が起こり。町が寂れるほど  
の逮捕者を出し、海底へも徹底的な攻撃が行われたそうだ。  
「しっかしさ、本当に良い体してるわね」  
 周りを囲む米兵を見ながら、メルが大きな胸を揺らした。男達は分厚い胸板や、  
細身でも鍛え抜かれた筋肉を持っている。この数時間、変化の無い洞窟にいて彼  
女が飽きていないのは、彼らのおかげだろう。  
 舌なめずりするメルを止めようと、文宏が首を振ってみせた。  
「英語で話さないと、彼らには伝わらないと思うよ」  
「それじゃ、伝わっても良いのね。だったら遠慮無く、質感なんかもじっくりた  
っぷり調べさせて貰うわ」  
「この人達は仕事中なのだから、邪魔をするのは止めたまえ」  
「あら、妬いてくれるんだ。文宏も思ったより、可愛げがあるのね」  
「それが、邪魔してるんじゃない。真面目にやってる人の脇で、ふざけるのは失  
礼っつーか、むしろ失礼、かえって失礼なのよ。少しはワタシみたく、お淑やか  
にしてれば良いじゃん」  
 そう言うガタノソアも、文宏と腕を組んで半分デート気分だった。お菓子を彼  
の口へ放り込んで感想を求める様子からすると、割合は半分より多いかもしれな  
い。  
 文宏も頷きつつ、平然とプレッツェルなんかを食べている。反対側の腕を取っ  
たメルを横目に、ユリは携帯端末を操作し続けていた。  
『前方クリア、異常ありません。次の指示を願います』  
「了解した。状況に変化があれば、すぐに報告せよ。別命あるまで待機だ」  
「待って、終わったわ」  
 偵察部隊を待たせて、隊長がユリを振り返った。  
 単なる洞窟に見えるのだが、ネットワークなどもあるらしい。米兵以外の四人  
がコンピューターに認識されないジャミングは、侵入前に終わっていたが。速や  
かに行動すべく、ユリは監視網にハッキングを仕掛けたのだ。  
 彼女の持つ端末に、長い通路を主とした地図が表示されている。通路は広い空  
間に続いており、そこで赤い光点が動くのが分かった。  
「偵察部隊から、ざっと一キロというところね」  
 フィート換算して伝える隊長の脇で、ひと仕事終えたユリが首を回した。  
 米兵達はユリやメルの外見へ好奇もあるようだが、隔意は余り感じられない。  
接見した政府関係者と同じく、彼らもユリ達を協力者と思えたようだ。懸念した  
よりも、双方がコミュニケーションを取る事は容易いのだろう。  
 それはクトゥルフ達も同じだからこそ、戦争になる。価値観の共有が無ければ、  
争いなど起こらないのだ。象が蟻を踏み潰しても、戦いとは呼ばないように。  
「ようやく、これが仕事だって気がしてきたぜ」  
「無駄口を叩くな。まあ、同じ景色ばかりで、俺もうんざりしてたが」  
 意気込む兵士を叱りながらも、下士官は苦笑を混ぜた。警備が手薄過ぎるので、  
ハズレなのではと思っていたのだろう。そんな彼らを安心させるべく、ユリが説  
明を加えてやった。  
「計測された反応値に、間違いは無いわ。警戒していない理由は、施設を廃棄し  
て引き上げたからでしょう。奴らは低脳だから、ここの重要性が理解出来ないの  
ね」  
 普段が冷静沈着な為に余計なのだろう。ユリから噴き出した嫌悪感に米兵達が  
たじろぐのを見て、メルが呆れながら尋ねた。  
「あんたらって、なんでそんなにクトゥルフ達を嫌ってるわけ?」  
 
「別に、面白い話じゃないわよ」  
「聞かせてくれないかな」  
 文宏にも尋ねられ、軽く息を吐いてメルが話し始めた。  
 彼らは元々、サイオフという惑星に住んでいた。地上はエルダーシング、海は  
クトゥルフ族を主に、多種多様な生物の暮らす豊かな星。争いも確執も差別もあ  
ったが、知性体の住む星ではよくある事だろう。  
 だが、クトゥルフ族に新たな神官が即位してから、歯車が狂い始めた。  
 彼らの政体は政教一致で、大クトゥルフとも呼ばれる神官が、宗教と政治の頂  
点に立つ。創世論という選民思想と、終末論を軸とした教義などはありふれたも  
のだが。  
「その神官の属していた、『知的設計思想』学派が問題だったのよ」  
 宇宙は神が造ったという事を、科学的に証明したらしい。  
 合理主義者のエルダーシングは、穴だらけの理屈に失笑するしか無かったが。  
政情や生活の不安と結びつき、宗教への狂熱が吹き荒れた。そして高まり過ぎた  
宗教の権威は、簡単に権力を暴走させたのだ。  
 創造主である神が絶対的に正しいなら、その意志を実行する宗教も正しいのだ。  
 政敵や政治力の低い金持ちは、神の敵として裁かれた。被告の債権も代行して  
取り立てたが、親切心からではない。処刑費用の一切は被告が払わされ、残りは  
全て宗教勢力の収入となる。魔女裁判と同じく、それは莫大な利益を生む『殺人  
事業』だった。  
 魔女裁判の狂奔が吹き荒れ、それに対する反乱が頻発すると。他種族も巻き込  
み、大戦争に発展した。  
「クトゥルフ眷属の内乱だからと、我々は介入しなかったのだけれど。それが過  
ちだと知ったのは、全てが手遅れになってからだったわ」  
 戦争で使われた爆弾が、惑星サイオフを消滅させてしまったのだ。察知したエ  
ルダーシングでさえ、種族の半数以上を失うほどで。ほとんどの種が、星と運命  
を共にさせられてしまった。  
「母星を失った我々は、ユゴス星を経て地球に辿り着いた。クトゥルフの眷属が  
生き延びて、地球へ来るとは思っていなかったけれどね」  
「つーことはさ。博士達が連中と敵対してんのは、母星の恨みなわけね」  
「違うわよ」  
 納得するガタノソアに、ユリが首を振って訂正した。  
「奴らはここでも、同じ過ちを繰り返しかけたの。我々との戦争で例の爆弾を使  
おうとしたから、こちらで爆破してやったわ。クトゥルフの眷属どもは、ルルイ  
エもろとも海の藻屑と消えた……のだけれど」  
 宇宙を構成する最小単位は、波だ。クトゥルフの精神を構成する波は拡散せず、  
自我を保ちながら留まったらしい。  
 意識は無い為に、眠っているのと同じ状態らしいが。いずれ予測される目覚め  
に備え、エルダーシング達も眠りについたそうだ。  
「使命感ってわけね」  
「そんな、格好良いものじゃないわ」  
 少し戸惑うメルへ、ユリは肩を竦めながら自嘲気味に笑った。  
「我々の傍観が、母星を消滅させてしまったのよ。連中が、他で同じ事をするの  
を、見過ごしてしまったなら。我々の抱いた後悔は、嘘だった事になるじゃない」  
 ユリが当たり前のように言った事は、周りの者達を感心させた。メルやガタノ  
ソアだけでなく、漏れ聞いた米兵達も深く感じるところがあったらしい。そんな  
彼らの思いを代表するように、文宏が一番感心すべき部分を口にした。  
「ユリ君は、かなり長生きなんだねえ」  
「確かに長生きだけれど、今のは体験談じゃないわよ。私、この星の生まれだも  
の」  
「すると、地球人だったのかい?」  
「そういう事ね。南極と日本とで出身地は違っても、同じ地球人同士。改めて、  
よろしくお願いするわ」  
「こちらこそ」  
 二人が和やかに握手する脇で、そこじゃねえだろと全員が強く思っていた。  
 多少遅くとも、何かツッコむべきだろうか。ガタノソアが頭を悩ませるところ  
へ、偵察隊からの切迫した連絡が入る。隊長が発砲許可を与えて走り出すと、一  
行は戦闘態勢に気持ちを切り替えていった。  
 すぐに辿り着いた広間への入り口で、他の兵達も銃撃戦に加わる。ノズルの火  
で敵を数えると、隊長がユリを振り返った。  
 
「どちらですか?」  
「右よ」  
 端的な答えに、隊長が部下へと命令を下す。半数、1ダースの行う援護の中を、  
残りの隊員が駆け出して行く。ボールペンを握る文宏に手を重ね、ユリは他の二  
人にも抑えるよう目で訴えた。  
 これはあくまで、米軍が岩礁の半魚人を掃討しているのだ。ルルイエに着くま  
では、ユリ達の存在を気付かれるわけにはいかなかった。  
 一人が倒れ、他にも二人が負傷したが、米兵達は半魚人を広間から後退させた。  
 向こう端で行われる戦闘を見ながら、隊長が先導して右へと向かう。端末の画  
面を注視していたユリが合図すると、壁にしか見えない場所に米兵が飛び込んだ。  
クリア、クリアと続いた声が止み、中から腕が手招いてくる。  
「これは、また」  
「ぼろっぼろだねえ」  
 メルとガタノソアが、面白そうに辺りを見回した。  
 ホログラフィの壁を越えた部屋は、放置された機械類で埋められていた。計器  
や入力装置と思しき物に、びっしりと埃が積もっている。割れたパネルに砂が入  
り込み、レーダーサイトのような物から水が滴り落ちてきた。  
 ざっと調べたユリが、口笛を吹いて浮かぶ樽を呼び出す。幾つかの工具で蓋を  
開けると、何本かのコードを引っこ抜いて樽に接続した。  
「見つけた。すぐに扉を開くわ、部屋の中央に集まって」  
 目的が施設の復旧ではなく、ルートを探る事だけだとしても、かなり早い仕事  
だった。  
 エルダーシングの科学力があれば、空間移動に大がかりな設備などは必要無い。  
自分達を基準に考えた、半魚人どものミスだろう。ユリは目で嘲笑いながら、五  
芒星の描かれた石で結界を張り巡らせた。  
「行くわよ」  
 文宏の腕を取るガタノソアと、しなだれかかるメル、銃を構えた米兵達。彼ら  
と頷き合って、ユリが最後の手順を実行する。  
 そして、扉が開かれた。  
 
 玄関は小さかったが、きちんと整頓されていた。こちらを向いたスリッパは、  
すぐ履けるような気遣いが感じられる。微かに漂う柑橘系の香りが、胸を澄ませ  
るようだ。  
 落ち着いたデザインの黒い靴箱の上に、小さな水槽が乗せられてあり。中では  
蛙が無数のピンク色の舌を伸ばし、餌を食べている。水槽前の黒い猫の置物とい  
い、ちょっとしたセンスを感じるような空間だった。  
 文宏は後ろで閉まり掛ける扉に、慌てて背後を振り返る。だが外には、ありふ  
れた、団地かアパートのような廊下しかなかった。  
「お帰りなさい」  
 部屋の中から、ぱたぱたという足音が近付いて来た。何か得体の知れない不安  
に駆られながら、文宏は相手を待つ。だが、民芸品の簾を潜って現れたのは、黒  
いメイド服を着た少女だった。  
「ご飯にします? お風呂にします? それとも、わ・た・し?」  
 本人は色気たっぷりのつもりだろうが、外見は高校生以下にしか見えない。妖  
艶というよりも、戦慄するほどの可愛さと、精緻なまでの怖さしか感じないだろ  
う。  
 にっこりと微笑んだまま、ニャル様は待っていたのだが。部屋に上がらない文  
宏に、小首を傾げてみせた。  
「どうかした?」  
 差し出す両手に、いつの間にか持っていた鞄を預け。なぜか着ているスーツの  
ネクタイを緩めながら、文宏は一番の疑問点を尋ねた。  
「なぜ、メイド服なんだい?」  
「たまには、こういうのも良いかと思って。けっこう好きでしょ」  
「僕の趣味よりも、ニャル様の趣味だと思うけれどね」  
 樹木の格好で鞭打ちしたり、太った女の姿になったり。エジプトのファラオや、  
顔の無い三本脚の獣、三つ目の夜行生物等々。彼の『妻』は、お茶目なコスプレ  
をするのが趣味でもあった。  
 苦笑しながら上がろうとした文宏を、指で制してニャル様が留まらせる。無粋  
な質問がされる前に、彼女は名状し難いほど可憐に目を閉じた。  
「お帰りなさいのキスが、まだだよ」  
 
「こういうの、恥ずかしいんじゃないかな」  
「知りませんよ、だ。しないと、入れてあげないんだから」  
 ふふん、と笑う口へ文宏がキスすると、ニャル様は満足そうに踵を返した。  
「ご飯が先で良いよね」  
「ああ、お腹空いた。忙しかったのか、昼も食べて無い気がするよ」  
「今日も一日、御苦労様でした」  
 優しい恐怖に満ちた笑みは、足が竦むほどに美しい。そんな混沌に満ちた顔を  
見るだけで、文宏から疲れが抜けていくようだった。  
 食事の最中、いちいち料理の感想を求められるが。美味しいの一言でニャル様  
が喜ぶので、苦どころか幸せしか感じられず。食べ終えて歯を磨いた文宏は、ご  
ろごろしながら、食器を洗う後ろ姿を眺めていた。  
「そういえばさ。僕達っていつ結婚したんだっけ?」  
「どうでも良いじゃない、そんなの」  
 それもそうかと納得する文宏に、洗い物を終えたニャル様が這い寄って来る。  
べたべたと引っ付いてテレビを見ながら、文宏は馴れ初めを思い出そうとしてみ  
た。  
 確か、湖に小箱を沈めたのだ。  
 赤い線入りの、限りなく黒に近い卵形の結晶体。それは七つの支柱から伸びる  
金属の帯で、中央に吊り下げられていた。その小箱の蓋を閉じ、湖の底へと沈め  
たから、結婚する事になった。  
 それがいつかは思い出せず、思い出せるはずがなく、思い出にあるわけが無か  
ったが。  
 部屋は狭くとも、愛しい妻が自分を待ってくれている。それに比べれば、他の  
全ては些細な事柄だろう。開いた扉が、ここの玄関では無かった気がする事や、  
そんな違和感が次第に消えていく事なども。  
「そろそろ、お風呂にしよっか」  
 同意する文宏の背中に、ニャル様が甘えながら飛び乗る。そのまま脱衣所へ着  
くと、下りた彼女はスカートに手をかけた。  
 文宏を呼んで、ゆっくりとたくし上げていく。顕わになっていく白い足は、根  
元にもストッキングとガーターベルトしか見えない。剥き出しになった陰唇を晒  
しながら、彼女が妖艶な笑みを形作った。  
「ね? 玄関で『私』と言われても、応じてあげられたんだよ」  
「寒く無いのかい?」  
 そう返されると、ニャル様は一瞬にして子供っぽい雰囲気に戻った。  
「少し、ううん、かなりかな。早いとこ、暖まりたいよね」  
 ちろっと舌を出して笑う彼女から、おののくような美と静謐な恐さが溢れ出す。  
やや反応しながらも文宏が手早く服を脱ぐと、ニャル様も並んで浴室に足を踏み  
入れた。  
 座らせた文宏の背中を、ニャル様が流し始める。上下に動く度に、小柄だが柔  
らかそうな胸が、二人の間でふるふると揺れていた。  
「ねえ、あなた。良かったら、私の体で洗ってあげようか」  
「遠慮させて貰えないかな」  
「む。小さい胸には、小さいなりの良さってものがあるんだぞ」  
「違うさ、ここで始めたら風邪を引くじゃないか」  
 ニャル様が抱きついてくると、文宏が自分の股間を指差す。時折、わざと触れ  
させた乳房に、しっかり反応していたようだ。肩越しに益荒男の臨戦体勢ぶりを  
見て、彼女は嬉しそうに彼の頬へ口付けた。  
 お互いを隅々まで洗ったせいで、頬を上気させたが。湯船に抱き合いながら浸  
かると、芯から暖まる心地よさが勝ったらしく。二人とも気持ち良さそうに、目  
を細めていた。  
「なんか、こうしてると落ち着くねえ」  
「そうだなあ」  
 益荒男は、ニャル様の恥丘に触れて勢いを増していたが。  
 ただ、華奢な彼女の体を抱き留め、その滑らかさを感じていると。文宏は心の  
奥底から、幸せという言葉を理解した気になれた。  
 風呂を出て体を拭き、ドライヤーでニャル様が自分の髪を乾かす。終わってか  
ら文宏のもやろうとして、腹につきそうな陰茎に謝った。  
「ごめんね、もうちょっとだけ我慢してて」  
「どこに話し掛けてるのさ」  
「こっちの方が、辛そうだったから」  
 
 唇をぺろりと舐めたニャル様が、伸び上がって文宏の髪に熱風を当てる。  
 届かないからと彼を少し屈めさせ、陰茎を股の間へ挟み込んだ。滑り込む先端  
を陰唇が受け止め、入り口の方でくわえ込む。彼女も待ち望んでいたらしく、た  
っぷりとした涎が流れてきた。  
 ニャル様の動きにつれ、細い肢体が目の前で揺らぐ。未発達なようにも、文宏  
の知るどんな女よりも成熟しているようでもあった。  
 ただ、例は一人も挙がらない。顔見知りや、芸能人まで含めても。  
「お待たせ」  
「僕はまだ、我慢出来ない事も無いさ」  
 それが嘘である証拠に、血管の浮いた益荒男が苛立ちに震える。祭りだ、踊ら  
せろと叫ぶのを、文宏は無視しようとしたのだが。彼を覗き込むようにして、  
ニャル様が切なく見上げてきた。  
 悍しい美と、穢れ無い恐怖を撒き散らしながら。  
「いじわるしないで」  
 陰茎を伝う涎が増すのを感じると、彼女を抱えて文宏が突き入れた。それに応  
じて反らされた喉から、満足気な吐息が洩れ出してくる。  
 ニャル様の膣内は、どこまでも優しく、全てを受け止めるようだった。  
 恐怖も後悔も怨恨も、決意も情熱も意欲も。あらゆる負の感情と、あらゆる正  
の感情を呑み込んでいき。心の傷の一つ一つ、狂気さえもが包まれてしまう。  
「このまま、ベッドまで運んでね」  
 囁かれた言葉に頷き、繋がったまま文宏は歩き出した。歩く度に奥を突き上げ、  
二人が同時に悦楽の声を洩らす。ただ、狭い家だけに、すぐに部屋へと辿り着い  
てしまった。  
 彼女は軽く、全身でしがみつかれるのも気持ち良い。何時間でも抱えていられ  
そうだったが、ベッドが目に入った文宏は我慢出来ずに押し倒した。  
 思うがままに、ニャル様へ突き入れたいと。  
 華奢な体を乱暴に抑えつけ、腰を掴んで強く引き寄せる。無理な体勢で荒々し  
く往復されながらも、彼女から上がる声は紛れもない快楽だけ。喘ぎながら求め  
るように出された舌に、文宏は吸い付いていった。  
「心の底から、何もかもを私に晒け出して。文宏君の思いも、悔いも、その純粋  
な狂気も。全て、私が受け止めてあげるよ」  
 掌に収まる乳房は握る力に変形し、打ち付ける度に小柄な体全体が揺れた。ベ  
ッドの軋みを掻き消して、粘液にまみれた肉の絡む音が響き渡る。  
 文宏も時折、余りの自分本位さに我に返りかけるが。その度に、ニャル様の快  
楽に蕩けた笑みが、彼を溶かした。  
 細くて滑らかな脚に引き寄せられ、蠢く膣内へと呑み込まれていく。両手を抑  
えつけ、絶望的なまでに美しい顔を見ながら、文宏は彼女の柔らかさを体全部で  
味わう。流れる汗が混じり合う感触さえもが、陰茎を脈打たせた。  
「やっぱり夫婦なんだし、お父さんになりたいんでしょ」  
 ニャル様は微笑みながら、子宮口で彼に口付けた。  
「それとも、私をお母さんにしたいのかな」  
 文宏に乗られた腹が、呼吸の為にか大きく上下する。それで、嘲り笑うような  
声に、甘い喘ぎが混ざっているのが分かった。  
 彼女の体が余すところなく、彼を求めている。  
 沸いた実感に支配され、文宏が更に激しく膣内を蹂躙した。顔を左右に振る  
ニャル様を、どこへも行けないように抱き締める。悲鳴じみた声が尾を引くのを  
聞きながら、彼は最奥を突き上げた。  
 どくんっ、どくっどくどくっ  
 長い射精を繰り返し、文宏は倒れ込んだ。満足そうな顔のわりに、陰茎は萎え  
る気配も無く膣内を埋め尽くしている。  
 ニャル様の手が伸びて、呼吸を整える彼の髪を撫でていく。優しく、慈しむ微  
笑は、全てに赦しを与えるようでもあったが。混沌そのものである彼女を、理解  
し得る者など存在するはずがないだろう。  
「心の底まで、癒してあげるね」  
 再び動き始めた文宏には、普段の爽やかな笑みが浮かんでいなかった。さっき  
までのような、一心不乱に快楽を貪る様子も無い。相手も高める動きを続けなが  
ら、彼の胸に理解が広がり始めた。  
 何か言いかけた唇をキスで止め、ニャル様は実に楽しそうな笑顔で言った。  
「そして、君に資格があるか試させて貰うよ」  
 
 
 自転車の椅子に、落ち葉が乗っていた。持ち上げた葉子の表情は余り動かない  
が、風流さを感じているのだろう。自転車置き場の外へ目をやって、銀杏の木と  
見比べてみた。  
 高校三年の秋になると、多くの生徒が受験で忙しくなる。特に志望校の無かっ  
た彼女は、学力に応じて何校か選んだだけなので、暇な方だった。  
 進路は大学に入ってから決めれば良いし、駄目なら就職した後も悩み続ける。  
死ぬまで分からずとも、別に構わない。悩み相談を持ちかけた周りは、外見を裏  
切らない冷めた中身を再確認しただけになった。  
 駅前に寄って、銀杏並木を歩いてみる。  
 行動方針を決めた葉子は、陽が落ちる前に帰れるように、自転車を押し始めた。  
入り口を塞ぐカップルが見えたが、脇を抜ければ良いだけだ。  
「あのね。文ちゃんに、聞いて欲しい事があるの」  
「なんだよ、改まって」  
 小柄で長い髪をした女生徒と、ぶっきらぼうだが優等生風の男子生徒。いちゃ  
つくなら、邪魔の入らない場所にすべきだろう、と。彼らの位置だと割って入り  
そうな事に気付いて、葉子は少しだけ面倒に思った。  
 彼女は今まで恋人を持たなかったが、興味を抱けなかったからだ。何度か交際  
を申し込まれたものの、応じる理由が無いので断り続けてきた。  
 といって、男女交際に理解が無いわけではない。どこで何をしようと、他人に  
迷惑さえかけなければ本人同士の問題だ。要は、自転車置き場の出口を塞いで、  
通行の邪魔をしなければ良いのだ。  
「いざとなると、けっこう緊張するもんだね。ええっと、その。笑わないで聞い  
てくれる、と良いんだけど」  
「聞かないで分かるか、ったく。話によっては思う存分笑ってやるから、早く言  
え」  
「う。なんでそうやって、いちいち言い難い方へ持っていくかな」  
 バカップルぶりを発揮しようが、葉子にとってはどうでも良かったものの。二  
人が動いたせいで通り抜けられなくなり、邪魔だと思っていた。  
 声を掛けて退かせる必要があるので、少年と少女を見比べる。息を吸ったり吐  
いたりする少女の方は、話し掛けても無駄だろう。少年へと視線を移した葉子の  
耳に、少女の思い切ったような言葉が聞こえてきた。  
「好きです、付き合って下さい」  
 カップルじゃねえのかよ、こんなとこで告白するなよ。  
 どちらを思ったのか、単にバランスを崩しただけか。葉子が引っかけた自転車  
は、他に並んだものも巻き込んで倒れていった。かなりの作業量が確定した事を、  
空回りするタイヤが教えてくれた。  
「あ、悪い。俺らが邪魔してたからだな、手伝うよ」  
「え? ああ、助かる」  
 葉子より先に動き出した少年が、せっせと自転車を起こしていく。見ているわ  
けにもいかず葉子も取りかかり、少女も手伝い始めた。  
 お人好し。  
 初対面で葉子が抱いた文宏の印象は、それ以上でもそれ以下でも無かった。  
 妙な出会い方をした後、たまに見かけて話し掛けるようになり。映画の趣味が  
同じと知ってから、三人で遊びに行ったりして、よくつるむようになった。葉子  
が志望校を彼らに合わせた時は、それが気に入ったからだと思っていたのだが。  
 二回生に進んだ頃に、葉子は本当の理由に気が付き。そして当然の結論として、  
彼女は文宏を誘惑した。  
 梢は、ごく普通の女の子だった。恋人同士になっただけで満足し、普通のカッ  
プルがやるような事をやって楽しむ。幾つか暗黙のルールを信じ、浮気はしない  
のが前提だと思っていた。  
 葉子は、そんな女では無い。  
 自分が奪おうとするなら誰かに奪われるかも、といった程度ではなく。恋人に  
なろうが結婚しようが、人の気持ちは変わるかもしれないのだ。  
 だから彼女は、一生ずっと文宏を口説き続けるつもりだった。結婚して年老い  
ても、常に自分を好きでいて貰う為には、懸命に努力しなくてはならない。それ  
は葉子にとって、考えるまでもなく当然の事だった。  
 ゼミに入った時、まだ文宏と梢は続いていたが、実質的な恋人は葉子になりつ  
つあった。そのまま何も無ければ、卒業する頃には名実共に、恋人同士になって  
いただろう。  
 
 だが梢は死に、文宏の中で永遠となった。  
 
 薄暗く広大な空間へ移動したと、すぐに肌で感じられた。視界が効かなくとも、  
さっきの計器があった部屋と違う事ぐらいは分かる。身を震わせる寒さが、彼ら  
の呼吸を白く変えていた。  
 目的地に着けたか確認すべく、ユリ達が行動を起こそうとする。そこへ、戸惑  
うようなガタノソアの声が掛けられた。  
「ちょっと、博士。戸川文宏がいないよ。メル=ブランも、見当たらないけど」  
「まさか。途中ではぐれるはずが無いじゃない」  
 振り返り掛けたユリへ、強い光が浴びせられた。  
 手を翳した一行は、それが投光器による物だと気付いた。続いて照明が点けら  
れると、見えてきた辺りの光景に息を飲んだ。  
 ホールか何かだろう、球技場の何倍かはある空間を、半魚人が埋め尽くしてい  
る。並んだ石柱が霜や氷で覆われ、元々の姿は判然としない。だが数階分の通路  
でもあるらしく、上の方からも半魚人達の持つ銃口が向けられていた。  
 ユリ達の向かいに、魚頭のブルーノや二つ結びの七瀬が立っていた。ブルーノ  
の周囲を固めた半魚人はともかく、七瀬の周りにいる三人は、いずれもショゴス  
だろう。鋭い目つきをした、金髪セミロングの女。褐色の筋肉を隆起させた男と、  
すらりと背の高い細身の黒人男。  
 だが、ユリに嫌な笑みを浮かべさせたのは、彼らではない。広間中の敵が、変  
なサングラスをかけている事でも無かった。  
 下に階段のような物を透かす氷が、部屋の中央に数段高く盛り上がっている。  
頂点には円筒形のシリンダーが置かれ、その左右から、巨大な魚人達が見下ろし  
ていた。  
「いきなり、ダゴンやヒュドラの前に出るとはね」  
 蟹に似た節足や、吸盤の付いた腕が無ければ、ほとんど魚だろう。彼らの体は、  
半魚人の中でも頭一つ大きなブルーノより、確実に二回りは大きい。戦車数台分  
はある巨体が、滑らかな動作で会釈してきた。  
「古き者よ。あなた方にしては、お粗末な行動でしたね。ラーン=テゴスを先行  
させたのは、攪乱の意味でもあったのでしょうか」  
 シリンダーの左に立つ僧服を着た魚人が、高い女のような声を出した。反対側  
の黒い鎧姿の方は無言のまま、油断なく様子を窺っているようだ。  
「言っている意味が、よく分からないわ」  
「ミス・ユリ、あの筒の中だ」  
 背後から米兵の一人に声を掛けられ、ユリもシリンダーの中身に気が付いた。  
 メルは意識を失っているのか、ぐったりと横たわっていた。周りを満たした液  
体の中で、豊満な胸と黒髪が揺らぎ。場違いなほど、幻想的な雰囲気を醸し出し  
ている。  
「だが、おかげで我が一族の悲願も叶うというもの」  
「どうでもいいんだけど、さっきから御託を並べ過ぎ。なんだか分かんない、あ  
れだのこれだの、凄いっぽそうな色々はどーでもいいわ。メル=ブランは戸川文  
宏の女なんだから、返して貰うわよ。そんなわけで、あたしの点数稼ぎになって  
ちょーだい」  
 一息に言い切ったガタノソアが、ゆっくりと目を開く。彼女に視線が集まった  
はずなのに、半魚人の一体として石化する者はいなかった。  
「ふえ?」  
 間抜けな声を出して、ガタノソアが目を閉じる。ユリに顔を向けると、白衣に  
手を突っ込んで解説が行われた。  
「あの偏光眼鏡ね。七色に光る材質といい、ラフ金属製なんでしょう」  
「流石は古き者、その通りです。永い年月の間、我々が何ら対策を練っていない  
はずが無いでしょう。特に、ガタノソアには苦しめられましたから」  
「がーん」  
 ガタノソアが両手を頬に当てて、ショックを口でまで表現している。そんな様  
子からして、どうやらまだ余裕がありそうだった。  
 銃を構えた米兵達も、圧倒される戦力を前にしながら冷静だった。ユリが白衣  
のポケットの中で、友軍に位置情報を伝えたのは分かったのだ。まず最低限の任  
務は果たせた以上、胸を張って帰れるだろう。それが家か、アーリントン墓地か  
はともかく。  
「それより、ヒュドラ。あなたはメル、その彼女をどうする気なの?」  
「生贄です」  
 
 ユリは会話を続けながら、彼らのサングラスを観察していた。  
 その金属はガタノソアの石化能力だけでなく、光も通さないはずだ。それでも  
見えるという事は、カメラやセンサーなどから情報を得ているのだろう。  
「正しく星辰は揃いました。ラーン=テゴスの血肉を糧に、我らが主、大クトゥ  
ルフ様が甦るのです。復活の奇跡を経て、主は真に神となられます。そして、あ  
まねく神の御威光に満ちた、地上の楽園を作られるでしょう」  
 何を使ってデータを得ているのか、ユリは気付かれないように辺りの走査を始  
める。チャンスは一度きり、しくじれば後は無いだろう。  
「せっかく、おいで頂いたのです。あなた方にも、神の降臨を御覧いれましょう」  
「結構よ」  
 ユリが樽で、米兵が銃で狙いを定めたのに対し、半魚人達も武器を構えた。  
「無駄な真似は、止めるのだな。うぬらが仕掛けてどうなるか、分からぬはずが  
あるまい。儀式が終わり次第、捕虜として遇する事を、我が約束しよう」  
 黒い鎧を鈍く光らせながら、ダゴンが静かに告げる。今攻撃しても、確かに無  
駄死にするだけだろう。ユリは米兵達に銃口を下ろさせながら、現在位置を発信  
してからの時間を計算していた。  
 距離にもよるが、太平洋のどこであっても、数分で攻撃可能なはずなのだ。息  
を潜める彼らに満足したのか、ダゴンはヒュドラへと頷いた。  
 ヒュドラは僧服を靡かせて前に出ると、澄んだ声を広間に響かせ始めた。  
「そは永久に横たわる死者にあらねど、測り知らざる永劫の下に死を超えし者。  
ルルイエの館にて死せるクトゥルフ、夢見るように待ちいたり」  
「フングルイ、ムグルウナフ、クトゥルフ、ルルイエ、ウグルウナフ、フタグン」  
 続けて辺りを埋め尽くした半魚人達が、同じ言葉を唱和していく。歌うような  
その声が、氷に反響して空間を満たしていった。  
「仕方ない、やるわよ!」  
 ユリの叫びと共に、米兵達の銃が火を吹いた。  
「そう来ると思ってたわ、元マスター」  
 七瀬が両腕を大きく板状に変形させ、ユリ達の前に広げる。銃弾はことごとく、  
その腕に叩き落とされてしまった。口笛を吹いて、ユリも樽に光線を撃たせたが。  
ブルーノが微笑と共にステッキを振ると、それを合図に噴き出した霧が威力を減  
散させる。拡散されたビーム兵器など、単なる光以上のものではない。  
 銃撃の下を抜けようとしたガタノソアも、三体のショゴスに足止めされた。の  
っぽと筋肉と鋭い目の女は連携が取れ、突破の隙を与えなかった。  
 焦燥を募らせる彼らの前で、半魚人達の詠唱は終わりを迎えた。  
「イア! イア、クトゥルフ、フングルイ、ムグルウナフ。クトゥルフ、ルルイ  
エ、ウガフ、ナグル、フタグン!」  
 最後の言葉に合わせて、女の絶叫が上がった。シリンダーの中で三つの目を限  
界まで開いたメルが、どろりと体を融解させていく。液体に血の筋が糸を引き、  
すぐに増した赤へと染まっていった。  
 溶けたメルの残骸の間で、細い腕が動く。幾らか残った黒髪に絡まりながら、  
深い緑色の髪が泳ぎ。血の色に覆われつつも、瞳がはっきりと紅く光る。  
 開かれたシリンダーから、裸身の少女に見えるモノが足を踏み出した。  
 血を滴らせる彼女に、ヒュドラが恭しく法衣を被せる。袖を通して髪の水気を  
払う神官へ、半魚人達が歓喜の声を洩らしながら敬意を示していく。彼女は膝を  
屈するヒュドラとダゴンに目をやり、言葉を待っているのを理解した。  
 如かして、クトゥルフはかく語りき。  
「目覚めよ」  
 それを見たユリが舌打ちし、七瀬に牽制の銃弾をばら撒いている、米部隊の隊  
長に叫んだ。  
「今すぐ、総攻撃を要請しなさい! 今ここで仕留めないと、被害がどこまで膨  
らむか分からないわよ」  
「勿論、そのつもりで、既に通信していたのですが」  
 困惑する彼に耳を寄せて、ユリは相手先の声を聞こうとしたが。目に入った物  
に、隊長の襟首をひっ掴んで後ろに転がった。  
 間近から半魚人の放った銃弾が、彼らの上を通過する。仰向けになりながら応  
戦した隊長は、倒れた相手の格好に呻いた。軍服も装備品も、どれもが隊員の持  
ち物だったのだ。  
「いや、まさか、そんな。合衆国の軍人に、裏切り者がいるなど」  
「違うわ。彼の先祖に半魚人がいて、その血が覚醒したのよ。となると、上で何  
が起きてるかも分かったわね」  
 
 ユリは溜め息混じりに呟き、ボールペンを抜いて盾に変化させた。飛び込んで  
きた七瀬の斬撃は防いだものの、威力に吹き飛ばされてしまった。  
 追撃を加えようとする七瀬に、至近距離から隊長が発砲する。何発食らっても  
穴一つ空かない相手だろうと、怯ませているのを見て踏み止まった。部下の一人  
が加わると、七瀬は忌々しそうに後退した。  
 十二人いた隊員のうち、二人が半魚人となり、四人が今までに戦死してしまっ  
た。  
 半減した彼らは密集隊形を取って、半魚人達の接近を食い止めようとする。彼  
らの援護で端末を操作していたユリが、整った準備に顔を上げた。  
「ガタノソア、撤収するわよ!」  
「へい、りょーかい。ってわけで、あんた達の相手はここまでね」  
「そう簡単にいくと思ったら、大間違いザマスよ」  
 黒人男に、筋肉も鼻息荒く同意する。無言で腕を錐状に伸ばす金髪女を払いの  
け、ガタノソアは陽気に下命した。  
「イア! ロイガー」  
 手の平から光の球が現れ、三体のショゴスに襲いかかる。ガタノソア配下のエ  
ネルギー体は、息を吸い込むように、彼らから気力を奪い取っていった。  
「なんザンしょう、急に面倒になってきました」  
「あっしなんかが生きてて、本当に良いんでヤンスかね」  
「てけり、り」  
 相手がショゴスだけに、どれだけ続くかは分からないものの。ガタノソアがユ  
リのところへ走る時間くらいは、充分に稼げたようだ。  
 お待たせ、というガタノソアの声に、すぐさまユリが五芒星の描かれた石を投  
げる。そして、インスマス沖の岩礁へ移動しようとしたのだが。何度実行させて  
も、エラー音しか返って来なかった。  
「ミス・ユリ、余り聞きたく無いのですが」  
「聞かなくったって、わかるっしょ。大ぴーんちってわけさね。いやもう、こ  
りゃ笑うしか無いかな。あはははは」  
 ガタノソアの乾いた笑い声が響く中で、結界が外から強制解除された。  
 誰が解除したのかは、もう問題では無いだろう。クトゥルフ達三人が興味無く  
見下ろす先で、ユリ達を無数の銃口とショゴスが狙っていた。だが、翻る白衣の  
上の表情を見て、ブルーノは賞賛を込めた拍手を贈った。  
「グレイト。実に素晴らしいです、古き御方よ。脱出路を封じられ、死を間近に  
控えながらも、そのように美しい表情をなさるとは。宜しければ、理由を教えて  
頂けませんかな」  
「まだフミヒロがいるからよ。ここで私達が倒れても、彼になら託せるわ」  
「そうですか。戸川さんにお会いした時に、お伝えしておきますよ」  
 お前に出来るなら、と口の中で呟いてユリがボールペンに手を掛けた。決死の  
覚悟を固めた横顔に、他の面々も潔い目で半魚人達を眺める。そして、自爆装置  
のスイッチにユリの手がかかった時、楕円状の物体が壁を突き破って現れた。  
 柱が何本か、周りの壁や半魚人ごと薙ぎ倒されていく。黒塗りの気球じみた部  
分が開き、幾筋もの光線が放たれていった。  
『てけり、り』  
「よく来てくれたわ、お前達」  
 ダイアー・ウィリアム教授号の外部スピーカーから、馴染みのショゴスの声が  
聞こえると。ユリは目の回りの険を落とし、口元を緩めた。  
「助けが来たからって、行かせると思うなら」  
「大きな間違いよ」  
 引き留める七瀬の言葉を先んじて、ユリがにっこり笑う。その不気味さを知り  
尽くす七瀬は、怯えながら後退った。ユリはボールペンを放り投げながら、仲間  
に小声で、伏せるように助言した。  
 空中で弾けたボールペンが、激しい音と光を撒き散らす。  
 サングラスをかけた半魚人達には、意味が無いように思えたのだが。起き上が  
った米兵達は、視覚を失って彷徨う者どもを見る事になった。ユリの先導に従っ  
て走りつつ、表情には疑問が浮かんでいる。そんな彼らへ、白衣の肩が竦められ  
た。  
「彼らは視覚を、外部からの情報に頼っていたのよ。それを潰してあげただけ。  
電磁波対策が取られていたら、何の効果も無かったでしょうけれどね」  
 対策を練ってないのはこっちもだ、と米兵達は言いたかったらしいが。懸命に  
も、口には出さなかった。  
 
 一行を収容して、ダイアー・ウィリアム教授号が脱出し始めた。崩れた壁から  
入り込んでいた海水は、塞ぐ物が無くなって、一気に量を増していく。混乱する  
半魚人達へ、水の中へも良く響くダゴンの声が掛けられた。  
「追うのだ。ガタノソアを放置するわけにはいかぬ」  
 泳ぎ出すブルーノの横で、金髪ショゴスが体長の何倍もの翼を生やして飛び立  
つ。彼らの去った王の間は、次第に水の中へと没していった。  
 
 上への報告に通信室へ急ぐ米兵と別れ、ユリとガタノソアはロビーに向かった。  
出迎えた葉子達に、メルの死が伝えられる。表情が変わらないのは葉子だけで、  
直子とレアは沈痛な顔となり、葵などは声を上げて泣き出してしまった。  
 そんな彼女達の中で、アルタの態度は不可解だった。諦観のような、悔恨のよ  
うな表情を浮かべている。まるで初めから、そうなる事を知っていたかのように。  
 問い質そうとしたユリの上で、緊急警報が鳴り響いた。  
「何があったの!」  
『深き者の侵入を許しました。侵攻状況から、そちらに向かっている模様』  
 近くの端末で確認すると、忌々しそうに船の前方へと目をやる。頭の中で地図  
を組み立てながら、周りの者に声を掛けた。  
「とりあえず、ここから逃げるわよ。すぐに来るわ」  
「もう来ちゃった」  
 えへへ、と笑う声を振り返って、全員が背筋を凍らせた。ナニかを知る者達か  
ら血の気が引き、知らない直子と葵も膝が震えている。立ち尽くさなかったのは  
アルタだけだが、彼女は黒いメイド服を着た少女の前に跪いた。  
 相手をちらりと確認し、ニャル様は面白がるように嘲笑った。  
「どうだった?」  
「主が仰せられた通りに御座います。何度訴えても、戸川君は私を下僕にしてく  
れませんでした」  
「残念だったね。文宏君は自分を責めてたし、お前ごときを嫌うわけがないよ。  
憎悪するんだったら、やっぱり私じゃないと。あの純粋な狂気が、殺意で一心に  
塗り固められたらと想像するだけで、ぞくぞくしちゃう。ま、そこまでは高望み  
かな」  
 少し口を尖らせながら、ニャル様がスカートのポケットに手を入れた。  
 そこから、構造的には収まるはずの無い、バールのような物を取り出す。手の  
中でくるっと一回転させると、それは先に円のついたエジプト十字に変化した。  
 ニャル様が振り付きで踊りながら、十字架を振っていく。口ずさまれる呪文も  
あって、さながら魔法のステッキでも扱っているようだ。足を竦ませた者達は、  
止める事も出来ずに眺めるしか無かった。  
「にゃる、しゅたん。にゃる、がしゃんな。にゃる、しゅたん。にゃる、がしゃ  
んな!」  
 最後の言葉に合わせて、杖の先から光る粉のような物が迸った。  
 何も起こらないかに見えたが、葉子には明確に作用した。苦悶の声を上げて蹲  
り、頭を抱えながら震え出している。それで金縛りが解けたのか、ユリがニャル  
様を睨み付けた。  
「ヨーコに何をしたの!」  
「その娘だけじゃないって。みんなを癒してあげたの。無理矢理興奮させられる  
体とか、壊れた心とかをね。もっとじっくりもやれるけど、それは文宏君だけ」  
 サービスだしと嗤うニャル様は、見開いた目を向ける葉子に微笑んだ。  
「葉子ちゃんも、けっこう良い素材<マテリア>なんだけどね。でも、文宏君を  
知っちゃったから、物足りないな。アルス・マグナ・エル・ウルティマに耐えら  
れそうな器なんて、そうそういないし」  
 窓の外に水飛沫が舞い上がり、広がる景色が水中から大空へと変わる。流れる  
水滴が飛ばされていく中、ロビーに繋がる扉が開け放たれた。  
 半魚人達は目標のガタノソアを確認すると、すぐに発砲した。その後から出て  
きたブルーノが、黒い少女に気付いて止めたものの。既に放たれた弾が戻るはず  
もなく、音速を超えて空気を切り裂いていった。  
「邪魔」  
 ニャル様が呟いただけで、銃弾が消え去る。続いて、ばかでかい銃を胸ポケッ  
トから取り出すと、適当な狙いで撃ち返した。  
 数体の半魚人が、銃を構えたままの格好で体を吹き飛ばされた。ある者は上半  
身全てを、他の者は右側や、左半身を。円状にくり抜かれ、そこにあった物が全  
て壊れていった。  
 
「銃口を上げてはなりません。あの御方に、ほんの少しでも興味を抱かれたら終  
わりです」  
 タキシードで魚頭に浮いた冷や汗を拭いながら、ブルーノが部下達に命じた。  
動揺する半魚人達の声に、言っても分からないのかと溜め息混じりの目を向ける。  
だが、倒れた者達の様子を見て、彼の喉の奥に息が引っかかった。  
 飛び散った内蔵や血が、逆回転する映像のように体へ戻っていく。破壊と創造、  
死と再生、顕現する混沌の御業に、言い知れぬほど圧倒的な畏怖を抱かされる。  
 しかし、ほとんど元通りになった後で、半魚人達は崩壊した。体表面が滅茶苦  
茶に振動し、肉塊と化したり、どろっとした液体になっていく。絶叫と異様な汁  
の噴き出す様を見ながら、ニャル様は下らなそうに口にした。  
「こいつらなんか、秘術の一端だけでこれだもんね。文宏君みたいに、全く元通  
りになれとまでは言わないけど。もうちょっと強い自我を持ちなさいよ」  
 鼻で笑ったニャル様が、ばかでかい銃をガンマンのように回転させる。すると  
それは、蓋の閉じられた金属製の小箱へと変化した。  
「輝くトラペゾヘドロン。賢者の石<デ・ラビデ・フィロゾフイコ>、ですか」  
「あれ、よく知ってるね」  
 小箱をしまいながら、ニャル様がブルーノを見た。魚頭は目を伏せたまま、自  
分の持つ知識を披露した。  
「黒き御方を招来し得る、この世の真実への鍵。賢者の石とも呼ばれる箱の中の  
石は、偉大なる秘術<アルス・マグナ・エル・ウルティマ>に欠かせない物。い  
え、このくらいでしたら、紳士の嗜みですよ」  
「人のいうそれとは、少し違うんだけど」  
「心得ております」  
 興味を持ったようなニャル様の視線に、だらだらと冷や汗を流してブルーノは  
耐えた。口に出した己を呪いつつ、至高の存在に認識される栄誉も感じる。他の  
半魚人達は、視線の余波だけで、呼吸すら苦しくなってきたようだ。  
 ユリは絶好の機会と見て、周りへ声に出さずに逃げ道を示す。駆け出そうとし  
た彼女達を、残念そうにレアが呼び止めた。  
「少し、遅かったようですわ」  
 彼女の見る窓の外で、鳥のような影が大きくなってきた。近付いたそれが人型  
だと分かってすぐ、窓を突き破った彼らがユリ達の前に転がり込んでくる。真っ  
先に立ち上がった七瀬が、ユリに指を突きつけながら宣言した。  
「これでもう、逃げ場は無いわよ」  
「てけり、り」  
 目つきの鋭い金髪女に肩を叩かれ、煩そうに七瀬が彼女を見た。だが、指差す  
先を追っていくと、一気に顔を強張らせた。  
「げ。なんで這い寄る混沌がこんなとこに」  
「気にしないでいいよ、私は邪魔しないから」  
 ニャル様は七瀬達に軽く手を振って、すぐに姿を消した。いなくなったという  
よりも、初めからニャル様など、そこに存在しなかったかのように。あっさりと  
何の痕跡も残さず、彼女は彼らの前から去っていった。  
「……文宏君は知らないけど」  
 笑いを含んだ、そんな一言を残して。  
 飛び込んだ時の勢いは躓いたが、前後を挟み撃ちにしている事を改めて確認す  
ると。七瀬は気を取り直したのか、顎を反らして傲慢に指を突きつけた。  
「とにかく、逃げられないの。大人しく降参しないと、痛めつけるわよ」  
「お前が、かしら?」  
 七瀬を上回る高慢ちきさで、ユリが顎を上げる。その仕草だけで七瀬の顔面が  
沸騰し、鼻どころか、口からも息を吐き出し始めた。それを見ても、ユリはつま  
らなそうに頭を振るだけ。髪を逆立てさせた七瀬が、両手の狙いをユリの首に定  
めながら突っ込んだ。  
 他の三体のショゴスも、警戒しつつ後に続く。その途中で金髪女は、自分達が  
サングラスをしていない事と、ガタノソアがいる事に気付いた。慌てて七瀬に呼  
び掛けたが、頭に血が上った彼女は真っ直ぐにユリへと襲いかかり、  
 その前に、文宏が現れた。  
 俯いた顔は、前髪に隠れて見えない。忽然と現れた彼が、どこから来たのかも  
分からない。嫌な予感を振り払うように、七瀬は攻撃目標を切り替えた。  
「来ると思ってたわ、戸川。どこから現れたか知らないけど、この前の借りを返  
してあげる。勝負は勝てば良いのよ、勝てば!」  
 
 七瀬が片腕を刃に変えて、至近距離から斬り掛かる。続いたショゴス達も、彼  
の登場の仕方に危険を感じ、援護を仕掛ける。棒立ちだった文宏の右手の中で、  
ボールペンが幾本もの鞭へと変化して、先端が浮き上がった。  
 腕を弾かれた七瀬が、続く気配に反対の腕を翳す。しかし、そのガードもこじ  
開けた鞭に、床へと叩き伏せられた。  
 這い蹲って開いた目の前に、鞭の先端があった。  
 他の三体も同様に打ちのめされ、喉や眼前に切っ先が突きつけられている。彼  
らは何かを悟ったのか、静かに深く頭を下げた。  
「やりますね、戸川さん」  
 賞賛するブルーノの声へ、ゆっくりと文宏の頭が向けられる。だが、俯いたま  
まの顔は、どんな表情を浮かべているのかも分からない。その手に握られた鞭が  
動きかけると、七瀬が床を見たまま口を開いた。  
「待って下さい、マスター。あの程度の相手に、御手を煩わせる必要はありませ  
ん」  
 止まる鞭を合図にして、七瀬が走り出す。金髪セミロングの女と、褐色と黒人  
の男も同時に動き出した。  
 身構えたユリ達の上を飛び越し、ショゴス達が半魚人へと腕を伸ばす。理解出  
来ないまでも、身を守る為に銃弾が放たれたが、決定打とはならない。ステッキ  
で褐色の男を払いながら、ブルーノは次々に倒れる部下達に目を剥いた。  
「馬鹿な。あなた方、裏切る気ですか?」  
 その腹を突き破って、七瀬の腕が背中へと抜ける。血を吐くブルーノに顔を寄  
せ、冷たく獰猛な笑みで七瀬が答えた。  
「忘れたの? あたし達は戦闘兵器なのよ。ダゴンが強かったから従っていただ  
け。より強大な存在が現れれば、それに従うまで。簡単な理屈じゃない」  
「たかが人間に、ダゴン様よりも強い何があるというのです」  
「狂気よ」  
 七瀬の跳ね上げた腕により、ブルーノは上半身を割られて倒れていった。  
 殺戮の後に残されたのは、血溜まりに転がる半魚人達の死体だけ。四体のショ  
ゴスは浴びた返り血を気にする様子も無く、ゆっくりと文宏の下へと向かう。  
 自分達の間を通り抜けるショゴス達を、ユリは黙って見送る。彼女とレアは好  
奇心が勝っているようだが、他の者には困惑しか無いようだ。ショゴスの背中を  
目で追った彼女達は、割れた窓へと歩み寄る文宏に気が付いた。  
「駄目だ、行くな!」  
 呪縛された人々の中で、葉子が床に手をつきながら顔を上げた。  
 見慣れた無表情ではなく、怜悧な顔立ちに似合う、冷たそうな表情をしていた。  
酷薄そうな目つきも、鋭い雰囲気と共に彼女の魅力となっている。ただ、今の葉  
子からは激しい瞳と同じ、悲痛な怒りが感じられた。  
「なぜ、お前が背負い込まなければならない」  
「俺が最低だから、だろうな」  
 振り返った文宏に浮かんでいたのは、ひどく壊れやすそうな笑顔だった。  
「ダゴン教団が狙ったのは、ニャル様を殺した人間だったらしいぜ。山田先生は、  
俺と間違われて殺されたんだと……なのに。助けようとするどころか、俺は逃げ  
る事しか考えない最低野郎でさ!」  
 拳を握り締めた文宏が、食いしばった歯の間から息を洩らす。その手に握れな  
かった者達への、謝罪を込めるようにして。  
「何もかもが、そのせいで始まったんだ。梢や、ゼミのみんな、メル、米軍の人  
達。これから起こる戦争では、更に何人もが死んでしまう。その全部が、俺のせ  
いなんだよ」  
「知るか! 誰が死のうが、人類が滅びようが私の知った事じゃない。あらゆる  
者が死に絶えたからって、それがどうしたというんだ。世界にただ一人、お前が  
いてさえくれれば、他の物なんかどうだって良いだろうが!」  
 葉子は叫びながらも、止められないのが分かって涙を滲ませた。何を言っても、  
彼を苦しませるだけだろう。だから、顔を伏せながら口の中で呟くしか無かった。  
「恨むぞ、藤野。生きてる時から嫌いだったが、死んでますます嫌いになる。頼  
むから……お願いだから、文宏を自由にしてよ」  
 窓枠に足をかけた文宏の下で、海面から巨大な影が浮かび上がってきた。鱗に  
覆われた人間を、醜悪にイカへと変形させたような、島ほどもある生物。なんと  
か準備出来たらしい米軍戦闘機の編隊が、それを見つけてミサイルを叩き込んだ。  
 だが、巨大イカの体が霧状に変化し、攻撃を素通りさせた。離脱にかかる戦闘  
機を、細長い翼で飛んだイカが追い、鉤爪で数機を撃ち落とす。  
 
 ぎりっと歯を噛み締めた文宏が、申し訳なさそうな顔で振り返った。  
「みんなにも心から謝るよ、ごめん。マジで悪い事したと思ってる。何人もに手  
を出すとか、本当、最悪だよな。特に直子なんかさ、妊娠させちゃうなんて」  
 何か言おうとしかけた直子を、きっぱりと首を振って文宏が止めさせた。ニャ  
ル様に正気に戻されたなら、もう偽物の感情に縛られる必要は無いと。優しいの  
は分かっているから、気を遣わないで欲しいと。  
 そう言う彼に、否定するのは簡単だったのだが。そんな言葉、今は届かない事  
も直子は良く分かっていた。  
「どういう形でも、直子の希望通りに責任取るから。ただ、俺が帰って来れなか  
ったら、うちの両親に言って欲しい。ちゃんとやらないようだったらさ、俺が化  
けて出るとでも脅しておいて」  
 目つきの鋭いショゴスが外に飛び出し、背中に体の何倍もある翼を広げる。七  
瀬や二人の男も続いて跳び、それぞれが手足に掴まっていく。  
 文宏は背中を向けて、最後に葉子達へと言い残した。  
「それじゃ、元気で」  
「文宏!」  
 葉子の叫び声を背に、文宏を抱えたショゴスが飛び上がった。落ちそうなほど  
身を乗り出す葉子を、後ろからレアとアルタが抱き留める。窓から下を覗いた葵  
は、海面下に大きくなっていく碧色の影を見つけた。  
 そしてダイアー・ウィリアム教授号の見守る中、ルルイエが浮上した。  
 碧色をした城壁や建物から、海水が滴り落ちていく。どの建造物にも直線など  
はなく、あらゆる輪郭が歪み、悪夢じみた美しい都を形作っていた。  
 ルルイエから沸き出した無数の黒い影が、蠢きながら海と空を覆い始める。離  
脱を指示するユリの視界に、白っぽい鳥が羽ばたくのが見えた。長い鞭が尾を引  
きながら、大軍の中へと翼を持った金髪のセミロングが飛び込む。  
 離れ行く飛行船からは、その姿は影の中に呑み込まれ、すぐに見えなくなって  
しまった。  
 
 
終  
 

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