G'HARNE FRAGMENTS  
『epilogue』  
 
 
 残暑も終わろうとしていたが、文宏の目覚めは暑苦しいものだった。  
 ぼんやりした頭で、高まった射精感を堪えようとする。だが、すぐに膣内にい  
るのに気付いて、我慢せずに吐き出した。  
 どくっ、どくどくどくっ  
 腰を震わせたハンナが、倒れ込んで来た。子宮の中まで迎え入れた陰茎から、  
一滴も零さず精液を飲んでいく。膣全体で擦り上げながら、文宏が起きた事に気  
付いて唇を重ねた。  
「てけり、り」  
「おはよう」  
 ハンナは金髪を撫でられて、うっとりと嬉しそうに目を細めた。  
「あ、おはようございます」  
 挨拶と共に差し出された乳首に、苦笑しながら吸い付く。張り詰めた直子の乳  
房は、いっぱいの乳を溢れさせてきた。  
「文宏さん、今日から学校でしたよね」  
「まだ、ゆっくり出来る。二限からだから」  
「いつもの感覚でいると、遅刻しちゃいますよ」  
 さっぱりと甘い喉越しを味わいながら、文宏は部屋の中を見回した。以前住ん  
でいたアパートが戦禍で焼け落ちたので、広い部屋に移ったのだが。八畳ある寝  
室も、十人で寝ていると狭く感じられた。  
 良い夢でも見ているのか、涎を垂らしたアルタが子供っぽく笑い出す。隣でガ  
タノソアの蹴った布団をかけ直し、葵が憤慨したように言った。  
「お腹冷えちゃうって」  
「そなたも、いっぱしの母親じゃな」  
 上体を起こしたクトゥルフが、腹を撫でながら微笑んだ。もうじき産まれそう  
な葵と違い、彼女もガタノソアも大して膨らんではいない。葵は腕を伸ばしてか  
ら、少し苦しそうに息を吐いた。  
 文宏が片方の乳房を飲み干した頃に、部屋の扉が開かれる。顔を見せた七瀬の  
後ろから、赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。  
「直子」  
「今日は早く起きたみたいですね」  
 頷いた直子は、文宏とキスを交わしてから立ち上がる。彼の吸っていない方の  
乳房は張り、少し漏れ出ていた。  
「朝御飯、もうすぐ出来るから。マスターも今日から学校なんだから、いつもみ  
たいにシてると遅刻するわよ」  
「分かってるって」  
 七瀬は疑うように、ハンナとの間に水音を立てる彼を見たのだが。葵の大きな  
腹が目に入って、自分の腹を撫でてみた。これがあんなになるんだ、と改めて感  
心したようだが。台所から葉子に呼ばれ、慌てて戻っていった。  
 停戦合意から、ふた月が経とうとしていた。  
 処女性と共に神官の資格を失い、クトゥルフが退位したので。戦後処理はヒュ  
ドラが全権をもって当たっていた。  
 ルルイエは確かにハワイ沖の会戦で甚大な被害を受け、現在も南太平洋で修復  
中だ。しかし、だからといって彼らの戦力が衰えたわけではない。戦闘は中止さ  
れたが、占領は今だ継続中だった。  
 戦略的に防衛戦に向かない地区からは、撤退が行われたが。これはむしろ、戦  
力の集中しか意味しない。下手に勝利を宣伝した事で、世論は補償を求めており。  
その圧力と、実力で排除し得ない現実は、為政者達を悩ませていた。  
 占領地区への半魚人の入植が行われ、元の住民達が反発する。戦争中の反目や、  
半魚人への反感から、各地で有形無形の差別が社会問題となった。  
 他にも、中国とロシアの各地では独立運動が活発化しており。米国の軍事的影  
響力の低下が、反米諸国を先鋭化させた。クトゥルフ族の間でも、似たような内  
紛は起きているらしい。  
 そんな中、今後に向けた取り組みも行われた。  
 
 ユリが催淫効果の治療薬の完成に、あちこち飛び回っているのも、その一つだ  
が。クトゥルフ族達との為替レートの制定や、漁業権などの各種権益。通商や文  
化交流など、様々な話し合いもされている。  
 各国で復興計画や、他国への支援策なども検討され。戦争の激化と共に閉鎖さ  
れた学校なども再開し、次第に以前の生活が戻りつつある。  
 多くの火種を抱えながらも、世界はゆっくりと復興し始めていた。  
「おはようございます」  
 身を起こしたレアが、上品に微笑んだ。細い体をシーツが滑り落ち、汗ばんだ  
乳房を覗かせる。あちこちにある吸い付かれた跡と、しっかり閉じた陰唇から流  
れる精液が艶めかしかった。  
 ハンナを突きながら抱き寄せて、文宏がレアの唇を奪う。彼の首筋に腕を回し  
ながら、レアは体を密着していった。  
「学校が始まる前に、わたくしも孕ませて下さると思っていましたのに」  
「葉子とは一年ぐらいずっとしてても、出来なかったからな。まあ、すぐに妊娠  
させてやるよ」  
「期待しておりますわ。後は、デルシャフトさんとヴェグさんだけでしたわね。  
最後の一人になって、戸川さんを独占するのも捨て難いですが」  
「違うじゃろう」  
 服を着ながらクトゥルフが言うと、レアは口元を抑えて頷いた。  
「私とした事が。ユリさんと島津さんを忘れていましたわ」  
「じきアオイも胎が空くのじゃ。順番など、細かい事を気にするで無いわ。フミ  
ヒロは、自分の女を孕ませるのが好きじゃからのう。儂はもう、こやつの種を宿  
し続けるつもりでいるぞ」  
 彼は反論したかったようだが、ハンナの子宮に注ぎ込む快楽に言葉にならなか  
った。満足そうに息を荒げる彼女の頬を撫で、抜いた陰茎をレアの中に突き入れ  
る。  
 ラッパのような息を吐いて、レアは大きく頷いた。  
「確かに、わたくしが間違っておりました。戸川さん、たっぷり私に注いで、種  
つけして下さいませ」  
 ごくりと唾を飲んで腰使いを荒げる文宏に、激しい羽音が降ってくる。まだ眠  
気の残った顔で、アルタが彼を睨みつけていた。  
「人が寝てる間に、何してくれやがってますか」  
 しかし腕に抱かれると、怒りも霧散したらしい。誤魔化されないと呟きつつも、  
甘えるように彼の首筋に頬を擦り寄らせる。両腕で彼女達を包みながら、文宏は  
レアを突き上げていった。  
「飯出来たぞ」  
 部屋を覗き込んだ葉子が、その彼らに気付いて軽く肩を竦めた。シャワーの用  
意が必要そうだ、と。  
 
 五つの恒星を持つ、ある星系にヤディスという惑星があった。ミミズに似た生  
物に滅ぼされた為に、住民は宇宙船で脱出したのだが。故郷を離れて別の星に降  
り立っても、ヤディス星人として暮らしていた。  
 シルエットは人間に近いが、昆虫のように関節の多い体は鱗で覆われており。  
特徴的な獏の鼻を見れば、すぐに分かる者達だ。  
 その一人であるズカウバの様子が、最近少しおかしかった。  
 陰気な魔術師として知られていたのに、近頃はとても紳士的なのだ。ヤディス  
星人達は、心境の変化だろうと納得しかけていたが。黒いメイド服の少女が彼を  
訪ねたのを見て、名状し難い理由なのだと推測しない事にした。  
「お久しぶり、カーターさん」  
 何か書き物をしていた魔術師は、苦笑混じりに羽ペンを置く。広げられた羊皮  
紙には、几帳面な英語が綴られていた。  
「しばらくですね。ただ、今の私はズカウバなのですが」  
「なんだったら、ハワードと呼ぼうか?」  
「カーターで構いません」  
 綺麗に整頓された部屋を見回していたニャル様は、紳士へと首を傾げた。  
「うちの方が集中出来ると思うけど」  
「シャールノスの黒檀の宮殿で、思索に耽られる者などいませんよ。それより、  
何か御用でしょうか。別に逃げ隠れする気はありませんが、少し書き物をしてい  
る途中でして」  
「おみやげ持ってきたの。といっても、物じゃないんだけど」  
 
 ニャル様が嘲り笑いながら、どこかから取り出した椅子に腰掛ける。恐怖と共  
に、好奇心を刺激されるのだろう。ランドルフ・カーターは、お茶の準備をすべ  
きかと考えながら手を組み合わせた。  
 彼の興味を引いたのを感じて、にんまりとニャル様が笑う。子供っぽい可愛ら  
しい表情だったが、相手の紳士には何の感銘も与えなかったようだ。  
「ついさっきまで、幾つかの宇宙が生まれて消えるのを見てたんだ。一人の少年  
によって、あなたのいた宇宙も作られては無くなっていった。彼の住む世界には、  
ウィアードテイルズもクトゥルフ神話も存在しないんだよ」  
 少し間があってから、何の事だかカーターも理解したらしい。  
「そういえば、そんな風に名付けられたんでしたっけ。しかし、少し寂しい気が  
しますね」  
 彼はクトゥルフ神話という一連の小説群が生み出される、中心にいたのだから。  
しかしすぐに、それも当然か、と考え直した。  
 カーターの住んでいた地球には、アーカムやインスマスといった土地は無い。  
海の底にルルイエも沈んでいなければ、ユゴスやサイオフといった惑星も無かっ  
たのだ。それらのある世界に、彼が存在しているとは限らないだろう。  
 更に深く考察しかけた彼を、悪戯っぽい微笑でニャル様が遮った。  
「代わりに、クトゥルフ達と戦争やってたよ。これから、彼らがいるのが当然と  
なっちゃう地球。興味無い?」  
「紅茶でしたよね」  
 頷くニャル様を見ながら、紳士はお茶の準備に取りかかった。  
 
 エルダーシングの都市であるガールンには、数多くの資料が集められていた。  
ジャンルを問わずに蒐集した、一大図書館のようなものであり。科学資料なら豊  
富な彼らにあって、ほぼ唯一の大がかりな歴史書も書かれている。  
 地球に来た時に編纂し直されたそれは、都市の名を取って『ガールンの書』と  
呼ばれていた。  
 今回の戦争も書き加えられ、これからも著述は増えるだろう。エルダーシング  
が滅んだとしたら、途中で終わるかもしれないが。どちらにしても、歴史書とは  
そのように、未完であり続けるのだ。決して完結しないガールンの書の事を、彼  
らはこう呼んでいた。  
 ガールン断章<G'HARNE FRAGMENTS>、と。  
「卒業までは、なんとか通いたいものだな」  
 葉子が海を眺めながら、束ねた教科書を振った。公園になっている海岸通りに  
は、秋の涼やかな海風が流れてくる。  
 さらさらと靡くセミロングを見ながら、文宏は鞄を抱え直した。  
「心配いらねえよ。また戦争になるにしても、そのぐらい保つって」  
「どうせ、あちこち行かねばなるまい」  
 オーストラリアと北アフリカで今も続く戦闘や、人間同士の諍いは別として。  
人と半魚人の調停役を、文宏は日米の両政府から求められていた。彼本人の能力  
などに、そこまで大きな期待はされていない。  
 大クトゥルフの夫という肩書きこそが、重要なのだ。  
 今だ彼らに強い影響力を持つクトゥルフの連れ合いなら、相手も話し合いに応  
じ易かった。  
 現在は学生という身分もあって、バズとリーブが代わりを務めているが。事態  
が急を要すれば、彼の都合など考慮されないだろう。  
 勿論、文宏も戦争の防止に役立てるなら望むところであったし。何より、彼の  
歳では難しい高給が魅力的だった。出産費用もタダでは無いのだ。  
 両親には甲斐性があるなと誉められ、笑いながら仕送りを止められており。必  
要な生活費を、彼に出来るバイトで賄えきれるはずもない。人類の未来は、金と  
打算に左右されているようだった。  
「まあ、俺で役に立つか分からないけど、生活の為だからな。でも別に、お前は  
学校行ってても構わないだろ」  
「馬鹿だな。一人にして無闇に女が増えたら、お前が後で困るだろ」  
「そこまで節操無しじゃないぞ」  
 文宏は軽く言い返したが、呆れきった失笑を聞いて本気になったらしい。どう  
やって言い負かそうかと考える彼に、笑うような口笛が降ってきた。  
 海の上に浮かんだ樽の上で、白衣を着た五本腕の女が足を組んでいる。ユリは  
興味深そうな、からかうような目で言った。  
「少年、尋ねても良いかな。君じゃ、ヨーコに叶わないのは分かってるわよね」  
 
 髪を掻き上げる彼女に、文宏も出会った時の事を思い出したようだ。晴れた空  
から差し込む光は穏やかで、潮を含んだ風は心地良さを感じさせる。けれど、あ  
の時と一番変わったのは、彼自身なのだろう。  
 体中の怪我や、死んだ魚のような目が癒されただけでなく。少しだけ大人びた  
顔で、文宏がユリを見返す。  
「取引しないか?」  
 久しぶりの挨拶に替えて、彼はそう笑いかけた。  
 
 
完  
 

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