そこは、酷く薄暗い場所だった。
月明かりよりも頼り無い明かりに照らされた、酷く薄暗い部屋。
そこに、二人の触手が居た。
太く長い触手を持つ触手と、素朴な顔立ちの触手。
細い触手を何千本と群生させた、端正な顔立ちの触手。
二人の風体はまるで魔法少女にボロボロにされたかのようにボロボロだった。
触手は何本かが千切れ、粘液とはまた別の液体に塗れていた。
「ニョロロ〜・・・・ニ、ニョロンロロロンロ〜♪」
細い触手をユラユラと遊ばせて、細い触手が言った。
これが彼の特技でもあり、処世術だった。彼が持つ空気、いや瘴気とでも言うべきものには、えもいわれぬ魅力があるのだ。
空気を和ますような、柔らかくさせるような、無理矢理犯っても和姦のような、そんな空気を放っている。
だが、太い触手から返って来た言葉は、意外な物だった
「・・・・にょろ・・・ニョロロ・・・・」
その言葉に、細い触手は触手に付いた複眼を見開いた。それほどまでに、彼から出てきた言葉は意外だった。
こればかりは、細い触手も我慢が聞かなかった。
「・・・・・ョッ!!」
緑色の触手に血管を浮かせて、その触手の体を凪いだ。
「ニョロッ!・・・ニョロロォロロロロ!!!!」
止まらなかった。
「ニョロロロン!ニュルニリュ!!」
止めようとすら思わなかった。
何でそんな事を言うんだ。今までのアレはなんだったんだ。それくらいでへこたれる触手なら、俺はここまで付いて来なかった。
幾つもの思いが駆け巡るが、興奮した思考には、怒り以外の作用は施さない。
怒りに突き動かされて、
「ニョロ〜ロロ!?ニルニュルルルロっ!!!」
「・・・・・・・!」
「・・・・・・ニョ・・・・」
言ってから気付いた。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
彼の心の傷を深く抉ってしまった事に。
しかし・・・・
「・・・・・・・・・」
それにすら、彼は何も言わない。
そこに、また怒りを掻き立てられる。
世界が止まったように、数秒。
太い触手を絡めていた細い触手を引く。
「・・・・ニョロ・・・・・ニュルルロ・・・・」
それが、彼の最後の言葉になった。
その声は、決意や、憐憫や、意地や、寂しさや、悲しみや、怒りや、劣情や、そういった感情がないまぜになった声音だった。