目に写るのは土が剥き出しのあぜ道と、そこに規則的に、けれど力なく振り出される自分のつま先。  
もう日が沈んでいるから、細く、しかも凹凸のあるこの道を歩くのに足元を見ないのは自殺行為だ。  
どうせ顔を上げても見えるのは田んぼだけだし。  
8歳の時にここに引っ越してきて、最初はあまりの何もなさに驚きもした。  
だけど今日はその何もないことが少しだけありがたい。  
私が視線を下げたまま歩いているのには、もう1つ理由があったからだ。  
柄にもなく、私は悩んでいた。  
その内容は年頃の少女らしく恋の悩み。  
今日、私は付き合って4年ほどになる彼氏とファーストキスってやつを経験した。  
ファーストキス。  
思い出しただけで頬が熱くなって、そこを撫でていく土と草の匂いをはらんだ風が心地いい。  
だから今日という日は、大切な思い出として、いつまでも心の中で宝石のように輝き続けるはずだった。  
なのに。  
なのに、アノヤロウ、そのままそれ以上の行為にまで至ろうとしやがったのだ。  
そんな青春の甘酸っぱさを焼き尽くすように、心の奥から黒い炎が燃え上がってくる。  
友人達の体験談を聞く限り、キスまでに4年というのはなかなか長いらしい。  
だからあいつが焦れていたのは感じていたし、家に行ったら両親と祖父母が村の集まりで出払っていると聞いたとき、もしかするととは思っていた。  
思ってはいたけど、いざその段になると腰が引けた。  
それはもう、ホント言葉通り腰が引けた。  
で、まあ逃げ出すように、というよりまんま逃げ出して、こうやって独りとぼとぼ歩いているというわけだ。  
あいつが追い掛けてくる気配はない。  
あっちはあっちで今頃悩んでいるんだろう。  
ケケケ、悩め悩め。  
こっちばかりが悩んだんじゃ不公平というものだ。  
そんな少々意地の悪い思考にたどり着き、少しだけ気分が軽くなる。  
その、少しだけだけど軽くなった心に押し上げられるように、私は久しぶりに顔を上げた。  
 
「は……?」  
前方上空に見慣れないものがあった。  
UFOだ。  
これは別にその言葉本来の意味を持ち出してきて、未確認の飛行物体はすべからくUFOだとかそういう話ではない。  
って、すべからくを全てという意味で使うのは間違ってるって、この前テレビでやってたっけ。  
などと、一瞬ずれかけた思考を引き戻す。  
目の前で浮いているのは、間違いなく宇宙人の乗り物という意味でのUFOだ。  
なにせその形は、てっぺんから、半球、スカートのように広がった部分、上についてるものとは逆さまの半球×3。  
大きさは上側の半球の直径が5メートルくらいだろうか。  
あまりにも突然の事態に、一介の女子高生である私は「ははは、すごいぞ。アダムスキー型は本当にあったんだ!」なんて喜べるはずがない。  
だいたい、私のお父さんはビリーバーじゃないし。  
むしろ私がその手の特番を見ていると、あまりいい顔をしないくらいだ。  
と、また微妙にずれた方向に思考が向いていた。  
そんな私が見ている前で、そのUFOの下部からスポットライトのような光が真下に向けて放たれる。  
その光の中を重力を無視した速度でゆっくりと降りてくるのは、全身を銀色の肌に覆われた身長1メートルほどの宇宙人が1人。  
こういう宇宙人はリトルグレイとか言うんだっけ。  
私は慌てて周囲を見回した。  
周囲に広がるのは田んぼばかりで、私の他に人影はない。  
さすが田舎!  
ああ、それに加えて今日この辺の大人達は村の集まりで公民館にいるんだった。  
 
逃げないと、そう思う一方で、私はある誘惑に駆られていた。  
その葛藤で足が動かせない私の視線の先、ついに宇宙人が地面に降り立ち、光が消える。  
そして、頭部にある小さな口がピクリと動き、  
「ワレワレハ、ウチュウジンダ」  
宇宙人の黒目しかない大きな目が、さらに一回り大きくなった。  
わかりにくいけど、たぶんあれは驚いている。  
私はそう確信した。  
さっきの言葉は宇宙人の放った言葉ではない。  
宇宙人が言葉を発しようとした瞬間、私がそれに先んじて言ったのだ。  
宇宙人の口から、改めて金属を擦り合わせたような音が放たれる。  
たぶん「バ、バカな。なぜ私が言おうとしていたことを!?」とか言っているんだろう。  
伝統と格式を重んじる英国貴族のように、ここまで徹底的に典型的な展開だからまさかとは思ったけど、ここまではまるなんて。  
勝った!  
お父さん、お母さん、私は地球人代表として、立派に宇宙人に勝利しました!  
そんなことを思って喜びに打ち震えていると、不意に鼻の奥がムズムズした。  
まずいと一瞬思ったけど、1度自覚してしまうとその生理現象を止めることはできない。  
 
「ハックショイ、チキショウめ!」  
花の女子高生が人前――というか宇宙人前だけど――でするには、いささかはしたないクシャミが出てしまう。  
さすがに恥ずかしさを感じながら顔を上げると、宇宙人が思いっきり引いていた。  
目はさらに見開かれ、口がわなわなと震えている。  
おまけに片足が一歩下がっているくらいで、まさに全身から引いてますオーラが放たれている状態。  
家族友人問わず、皆から治せといわれている悪癖だけど、さすがにそこまで引かれると少し傷付いた。  
この場合、謝罪と賠償を要求するべきだろうか。  
だけど、さっきはこちらが驚かせてしまったし、これでおあいこということでいいかもしれない。  
「……ん?」  
そこであることに気が付いた。  
宇宙人の視線がさっきより下がっているような気がする。  
私を見ているというより、私の斜め後ろの地面を見ているような。  
気になって私もそちらに目を移す。  
水が張られた田んぼ。  
そこに植えられている青々とした稲の隙間に別のものがあった。  
こちらにその一端を向けるような状態で、小さな棒状の何かが斜めに刺さっている。  
視線を戻すと、宇宙人はまだ固まっていた。  
 
頭の中を整理しよう。  
その何かとUFOを結ぶ線上に、ちょうど私の頭がある。  
ということはあれだろうか。  
UFOから発射されたあれが私に当る直前、たまたまクシャミをしたせいで避けることができた?  
何十年前のコントだよ!?  
平成お笑いブームをなめんな!  
「ドウヤラ、ホントウニ、コチラノシコウヲ、ヨムコトガデキルラシイナ」  
ようやく硬直から解放されたらしい宇宙人が言う。  
例の金属を擦り合わせたような声で、しかもたどたどしく紡がれる言葉はひどく聞き取りずらい。  
この状況で典型的な宇宙人が言いそうなことを予想し脳内補正をかけてやることで、やっと何を言っているかがわかるくらいだ。  
「あ、いや、それはもうこれ以上ないってくらい誤解ってやつで……」  
敵意がないことを示すゼスチャーとして、これが宇宙共通のものであることを祈りながら、両手を挙げつつ説明する。  
次の瞬間、UFOの方からプシューという音が聞こえた。  
続いてくるのは鼻の奥を刺激するようなツンとする匂い。  
「ハックショイ、チキショウめ!」  
もう1度クシャミをした直後、視界がそのまま回転した。  
膝がカクンと折れて地面が近づいてくる。  
これはもしかして麻酔ガスってやつ?  
「ガスならば、例えわかっていても避けられまい!」ってことですか?  
頬にあたる柔らかい土の感触。  
それもすぐに感じられなくなる。  
ああ、この服結構お気に入りだったのに泥がついちゃう。  
意識を失う前、最後に私が考えたのはそんなことだった。  
 
目を覚ますと、一面銀色の壁で囲まれた部屋で仰向けに寝かされていた。  
私が寝かされている台のようなものは、これもまた金属的な銀色の表面のわりに感触は柔らかく、痛いとかそういうことはない。  
意識の方は浮かび上がってきたけど、体の方はまだ痺れていて動かない。  
つまりはあの後さらわれたってことなんだろう。  
いまいち危機感が湧いてこないけど、これは結構ピンチなんじゃないだろうか。  
この後は定番の展開だと体の中に何かを埋め込まれてから、記憶を消されて帰されるといったところ。  
まあ、記憶を消されるなら、未来の私にとってはなかったことも同じだから問題ないのかな。  
そんなことをぼんやり考えていると、突然部屋に宇宙人の声が響く。  
「ドウヤラ、メガサメタミタイダナ」  
ああ、なんてお約束な台詞。  
危機感が湧いてこないのは、あまりにも宇宙人が予想通りのことしか言わないから妙な安心感があるせいだ。  
目の動きだけで周囲を探っても宇宙人の姿はない。  
「ムダダ。ワタシハ、ベツノヘヤニイル」  
それもまあ予想できたことだ。  
ただでさえ聞き取りにくかった宇宙人の言葉が、今はそれに輪をかけてひどくなっている。  
UFOを作る技術があるなら、もう少し音質に気を遣ってほしい。  
「あの、1つ聞いていいですか?」  
声が出るか心配だったけど、特に問題なく喋ることができた。  
よく考えたら瞼や眼球は動かせているわけだし、起き上がるとか手足を動かすみたいな大きな動作でなければ一応可能なんだろう。  
 
「ナンダ?」  
圧倒的に優位な立場にいるという余裕からか、ちゃんと聞いてくれるらしい。  
「ここって、月の裏側ですか?」  
機械を通した向こう側から、無言の動揺が伝わってくる。  
「コ、コレダケハナレテイテモ、ソノチカラハ、ユウコウトイウコトカ」  
いけない、またやってしまった。  
「だから、それは誤解も誤解、これ以上ないってくらい豪快な早とちりで……」  
「マアイイ、タシカニソノチカラハ、キョウイテキダガ、カラダガウゴカナケレバ、ナニモデキマイ」  
なんか、段々どうでもよくなってきた。  
言葉で説明しても信じてくれないし。  
「シカシ、サスガノソノチカラヲモッテシテモ、ジブンガズットカンシサレテイタコトニハ、キヅカナカッタヨウダナ」  
監視? ずっと?  
なんだか聞き捨てならない単語が聞こえた気がする。  
「キヅイテイレバ、アノヨウニ、ヒトリニナルコトナド、デキルハズガナイカラナ。  
 ソレトモ、キヅイテイナガラ、ソレデモソノチカラガアレバ、ドウニデモナルトオモッテイタカ」  
得意げな――実際には声音とかよくわかんないけど、たぶん得意げに言っているに違いない――  
宇宙人の言葉を聞き流しながら、さっきの言葉の意味を考える。  
監視。  
ずっと。  
当然お風呂とかトイレとかも?  
「こ、この変態! 痴漢!」  
羞恥と怒りで頭が沸騰し、自分の命を握られているということも忘れて叫んでしまった。  
「ヘン……タイ……ダト?」  
宇宙人の声が少しだけ低くなった気がした。  
あ、やばい、怒ったかな?  
 
「スコシ、マテ」  
部屋に沈黙が訪れる。  
その沈黙に、さすがに私の心にも恐怖が込み上げてくる。  
どうしよう、謝ったら許してくれるかな?  
だけど、そりゃあ宇宙人だって変態呼ばわりされて怒ったかもしれないけど、乙女の秘密を覗かれた私の怒りはそんなものじゃないのだ。  
だいたい宇宙人にだって盗撮や盗聴を禁止する法律くらいないんだろうか?  
あ、でも、宇宙人にしてみたら、地球人を監視することなんて動物学者が野生動物の生態を観察するくらいの気持ちなのかもしれない。  
そこで、ふと自分の心臓の鼓動以外に聞こえる音があることに気が付いた。  
パラリパラリと紙をめくるような音。  
さらに耳を澄ませてみれば、宇宙人が小声でぼそぼそと言っているのも辛うじて聞き取れた。  
「ハ……ヒ……フ……ヘ……ヘ、ヘン、タイ……ヘンタイセイヨクヲモツモノ、ダト? ヘンタイセイヨクトハナンダ? ム、ソノセツメイハ、コチラカ」  
一瞬の溜め。  
「バカナ! チキュウジンニ、ソノヨウナカンジョウヲ、モツハズガアルマイ!」  
頭が痛くなってきた。  
これは麻酔薬の副作用だろうか。  
「ツギハ、チカン、ダッタカ」  
また紙をめくる音が聞こえ始める。  
「痴漢ってのは、その変態性欲を持った人のことよ!」  
辞書的には少し違うかもしれないけど、私が言いたかったことはこれで概ね間違っていないはずだ。  
そう考えると重複表現だったかも。  
まあ強調のために、あえて重ねたってことにしておこう。  
「ワタシヲ、バカニスルキカ!」  
教えてあげたことへの感謝の言葉はなく、代わりに宇宙人の叫び声が聞こえてきた。  
 
それにしても、お風呂やトイレのことは横に置いておくとして、  
――ホントは横において置けるような軽い話ではないけど、そこはまあ心頭滅却すれば覗き魔の視線も涼しの境地で置いておく――  
宇宙人のずっと監視していたという言葉で、私の中にずっとあった違和感が氷解していく感覚があった。  
引越す前の私の環境は、こう言ったらなんだけどいたって普通の環境だった。  
家族構成は会社勤めの父と、専業主婦の母、そして一人娘の私。  
住んでいるのは3LDKのマンションで、特別裕福でもなければ貧しいというわけでもない経済状態。  
それが崩壊したのは、忘れもしない8歳のあの日。  
帰宅したお父さんを玄関まで迎えに行った私は、そこで驚くべきものを見た。  
お父さんが玄関で涙を流していたのだ。  
そして、初めて見る父の涙に驚いて動けなくなった私の目の前で、お父さんは拳を握り締めて叫んだ。  
「今、稲作が熱い!」と。  
その後はトントン拍子でお父さんは会社を辞め、今住んでいる場所へ引越すことになった。  
お母さんは止めるどころか積極的に賛成して、「そうよね、日本人として生まれた以上、1度は稲作農家にならないとね。お米万歳!」なんて言い出す始末。  
ずっと不思議に思っていたけど、あれは宇宙人が私を監視しやすいように、人の少ない場所へ移動させるためにやったことだったんだ。  
UFOを作れるくらいだから、洗脳装置を作ることくらい朝飯前に違いない。  
そう考えればお父さんがUFO特番にいい顔しなかったのにも納得がいく。  
今までは、年頃の娘がかじりつくようにしてUFO特番を見ている姿を心配しているんだと自分を納得させていたけど、  
宇宙人の手先になってしまったお父さんにしてみれば、私がその手の情報に触れることはあまり嬉しくなかったのだろう。  
自分の周囲にあったものが、他人によってお膳立てされたものだったという認識は、ひどく苦いものだった。  
果たして、それはどこまで広がっているのか。  
それを考えると恐ろしくなる。  
 
「マッタク、ワレワレハ、サンネンモマッタノダ。ナノニ……」  
変態呼ばわりされた怒りの残る声で宇宙人が言う。  
「……3年?」  
「ソウダ、ワレワレハサンネンマエカラ、オマエヲカンシシテイタ。ソノヨウスダト、ホントウニシラナカッタラシイナ」  
こちらが驚いている様子が見えているのだろう、宇宙人の声に余裕が戻った。  
たぶん宇宙人は、私が3年も前から監視されていたことに驚いていると思っているのだろうけど、私の驚きの理由はむしろ逆だ。  
「もっと前からじゃないの?」  
「ナニヲ、イッテイル?」  
宇宙人が嘘を言っているようには感じない。  
そもそもこちらが心を読めると思っているのだから、わざわざ嘘をつこうとも思わないだろう。  
「だって、私を監視しやすいように人が少ない場所に引越しさせたんじゃ?」  
「ワレワレハ、ソンナコトナドシテイナイ。ソモソモ、カンシスルナラ、ナルベクテヲダサズニ、シゼンナジョウタイヲ、イジスルコトナド、アタリマエダ」  
ということは7年前のあれは、お父さんとお母さんのナチュラルな行動?  
ただ、宇宙人の言葉には決定的な矛盾があった。  
「な、なら、どうして、今こんなことしてんのよ!?」  
とてもじゃないけど、今のこの状況は自然な状態とは言い難い。  
 
「ソレハ、オマエノセキニンダ。ワレワレハ、チキュウジンノメスガ、ハジメテコウビスルトキノデータヲ、トリニキタノダ。  
 ソシテ、マダコウビノケイケンガナク、シカシソノタメノアイテガ、スデニソンザイシテイタ、オマエニメヲツケタ」  
それは要するに、付き合っている相手はいるけど、まだエッチはしていない状態ということだ。  
確かに3年前の私はその条件に当てはまる。  
「ナノニ、イツマデマッテモ、オマエトソノアイテハ、コウビヲシヨウトシナイ。ソレデモ、ワレワレハ、マチツヅケタ。  
 ソシテ、キョウコソ、ソノクロウガムクワレルト、オモッタノダ! オモッタノニ!!」  
機械の向こうで血の涙を流しているのではと思うほどの悲痛な叫びだった。  
ただ、その内容は聞いてるこちらにとっては恥ずかしすぎるもの。  
「それなら別の人にすればいいじゃない」  
「ソウハイカンノダ。ミカイノワクセイト、ソコニスムセイブツヲ、ホゴスルタメ、イチドノチョウサデハ、カンシタイショウハヒトリダケニ、セイゲンサレテイル。  
 クワエテ、トチュウデノヘンコウハ、シテハナラナイト、キマッテイルノダ」  
宇宙人は宇宙人なりに気を遣ってくれているらしい。  
「な、なら、もう3年も待ったんだし、もう少しくらい待ちなさいよ」  
あと1年くらい待ってくれたら、もしかしたら私も覚悟ができていたかもしれないのに。  
「ソレモムリダ。サスガニソロソロ、データヲオクラネバ、ワレワレノ、ケンキュウヒガモタン!」  
うわ、いきなり世知辛くなりやがった。  
「オシャベリハ、ココマデダ。フホンイデハアルガ、ムリヤリニデモ、データヲトラセテモラウ」  
研究費という現実的な単語に、熱くなっていた宇宙人が少し落ちつきを取り戻した雰囲気が伝わってきた。  
 
天井に穴が開き、先端に3本の指がついたアームが何本も下りてきた。  
その内の2本が私の足を掴んで持ち上げていく。  
腰が上がるほどまで持ち上げたところで、今度は頭の方へとアームが移動していくと、私の全身にビキビキと痛みが走った。  
「いた、いたたたた。むり、折れる! 折れるって! ていうか、むしろ切れる!?」  
私の悲鳴に、アームが少し戻って動きを止めた。  
自慢じゃないけど、私は人並み外れた体の固さが自慢なのだ。  
「ム、ソウダッタナ。オマエノジュウナンセイハ、チキュウジンノヘイキンヲ、オオキクシタマワッテイルノヲ、ワスレテイタ」  
次の瞬間、喉の右側にチクリとした痛みが走った。  
視線をやると、先端に細い針の付いた注射器のようなものを持ったアームが離れていくのが見える。  
そして、足を掴んだアームの動きが再開された。  
さっきは限界だと思った場所を通過しても、体に痛みはない。  
最終的に取らされたのは、両膝が頭の左右につくような姿勢。  
普段の私なら10秒も耐えられないその姿勢になっても、肉体的な苦痛はない。  
だけど、それはあくまで肉体的なものに関してだ。  
年頃の少女がこの状態に何も感じないはずがない。  
スカートが捲くれ上がって、下着1枚に包まれた股間が丸見えになっているのだ。  
この姿勢、本人がいない間にあいつの部屋で色々探したときに見つけた本で見たことがあった。  
たしかまんぐり返しとか言うじゃなかっただろうか。  
そのあまりのネーミングに、あの時は思わず吹き出してしまったけど、まさかそれを体験する日が来るとは夢にも思っていなかった。  
仮に、あいつがエッチの時に望んだとしても、普段の私には物理的に不可能だし。  
「ソレニシテモ、ナニユエコンナニモ、カラダニフカノカカルシセイデ、コウビヲスルノカ。  
 ダガ、カワラデカイシュウシタ、サンコウシリョウニハ、コウアッタシナ」  
お前は近所の小学生か!  
喉まで出かかったツッコミを、辛うじて止めることができた。  
監視のことを聞いたときは、つい口を滑らせてしまったけど、まな板の上の鯉状態な今、不用意に宇宙人の機嫌を損ねるのはまずい。  
 
先端にあるのが指ではなく、医者が使うメスのような小さな刃物を持ったアームが下りてきた。  
それが体の中心線をなぞるようにして、襟元からおへそのあたりまで服を切り裂き、そのままスカートまでも切り裂いていく。  
「ちょ、やめて……」  
重力に引かれたスカートがはらりと落ち、そして左右から来た指付きのアームが、ブラごと切り裂かれた服を左右に広げていった。  
残されたまともなものはショーツだけになってしまう。  
せめてもの救いは体に傷がなかったことくらい。  
この状態で、顔に血液が集まっていくのは、重力が理由だけではなかった。  
胸の膨らみで外気を直に感じる。  
今までも監視されていたというなら、裸も数え切れないほど見られていたんだろう。  
だからといって、それで恥ずかしさが消えるわけじゃない。  
露わになった乳房に、また別のアームが近づいてくる。  
先端に、ちょうど乳房を覆えるくらいのヒトデのようなパーツが付いたアーム。  
案の定、それは私の両胸にそれぞれ被さってきた。  
「う、んん……」  
そのアームによって再び乳房は宇宙人の視線から隠されたものの、それを素直に喜ぶ余裕はない。  
覆い被さったヒトデのようなパーツが、ウネウネと蠢いて乳房を揉みしだき始めたからだ。  
「ひっ……」  
上半身に気を取られていた私は、いきなり股間に風を感じて息を飲んだ。  
スカートがその役割を放棄し、唯一股間を守ってくれていた下着がアームに摘まれて、太股の半ばまで下ろされていた。  
淡い茂みとその下にある縦筋。  
足を開かされているせいで、その隙間からピンク色の肉が見えている。  
ここまで間近で自分の性器を見たのは当然初めてだった。  
その向こう側にある排泄のための穴が、私の怯えを代弁するようにヒクヒクと蠢いている。  
 
「いひぃっ!?」  
突然、胸の先端から痛みが生まれて肺から空気を絞り出す。  
外的な刺激で強制的に勃起させられた乳首を、石臼で潰されたような激感。  
確か本物のヒトデはその中心に口があったはずだから、このアームも同じような仕組みになっているのかもしれない。  
「も、もうやめてよぉっ!」  
今度は股間に新たな刺激が生まれる。  
アームについた指が大陰唇を摘むようにして、左右に引き伸ばしていた。  
そして露わになったそこにある、小さな粒へと別のアームの指が伸びていく。  
「そ、そこは……」  
チョンと摘まれただけで全身が震えるほどの刺激が駆け抜ける。  
なのに、その指はあろうことか細かく振動まで開始したのだ。  
「や、あ、ああ、こんな、だめ」  
乳房全体を揉み解すようなヒトデの動きと、その先端を噛み潰すヒトデの口。  
そしてクリトリスに与えられる微振動に、目の奥でいくつもの火花が散っているような錯覚を感じた。  
涙で滲む世界の中心で、むりやり広げられた大陰唇の中で膣口が照明を反射してきらりと光る。  
それは感じているわけじゃなくて、防衛本能のよるものだと、そう自分に言い聞かせた。  
そうしないと、そのまま流されてしまいそうだったからだ。  
 
「あ、ふぅ……お、おねがいだから、もう……」  
自分の吐息に苦痛以外のニュアンスが混ざり始めていることには気付いていた。  
私自身が分泌した蜜も、どんどん量を増している。  
それが見ていられなくて、1度は目を閉じた。  
だけど、暗闇の中ではそれまで以上に刺激を鮮明に感じてしまい、怖くなって目を閉じていられなくなった。  
乳首から生まれる痛みも、いつしかジンジンとした痺れのようなものになる。  
クリトリスへの微振動は、腰がドロドロに溶けてしまいそうなほどの甘い感覚。  
頭の中が白く霞んでいって、心が空に飛んでいってしまいそうだ。  
それほど時間を待たずして、自分でしていた時とは桁違いの絶頂が近づいてきているのがわかった。  
「ジュンビハ、コレクライデ、イイダロウ」  
宇宙人の声に全てのアームが動きを止める。  
助かったと、心から思った。  
イケなかったことを残念に思う気持ちなんてむりやり振り払う。  
だけど、宇宙人はあくまで準備と言っていた。  
交尾のデータがほしいらしい宇宙人が、この段階で止めるなんて当然思えない。  
宇宙人に観察されながら、機械で処女を散らす羽目になるくらいなら、あの時そのままあいつにあげてればよかった。  
ああ、どちらにしろ、宇宙人には観察されながらになるんだっけ。  
それでも相手は好きな人が良かった。  
あの時拒絶したのは怖かったからで、別にあいつとエッチをするのが嫌だったわけじゃないのに。  
 
 
 
目を覚ますと、全身にぐっしょりと寝汗をかいていた。  
加えて下着には汗とは別のぬるぬるした感触がある。  
「あちゃー」  
私は夢の内容を思い出して、溜め息をついた。  
いつもなら起きればすぐ忘れてしまうはずの夢の内容を、今日の私ははっきりと覚えていた。  
そこで感じた恐怖も、後悔も、はっきりと。  
カーテンを開けると眩しい光が部屋を満たしていく。  
外は胸がすくようないい天気だった。  
ぬけるような青空に、胸にしこっていた恐怖が氷のように溶けていく。  
そして残ったのは後悔だけ。  
私は自然とある決意をしていた。  
あの夢はいつまで経っても一歩が踏み出せない私の背中を押すために、神様が見せてくれたのかもしれない。  
もしかするといつまでも私がOKしないことで募ったあいつの怨念が、見せたのかもしれないけど。  
まあ、もう付き合って4年だし、そろそろいいよね。  
今日はあいつの家に遊びに行くことになっている。  
「よし、がんばろ」  
1人で呟き、そして何をがんばるのかを考えて頬を熱くする。  
それでもその熱が冷めない内に、私はクローゼットを開いた。  
替えの下着――せっかくだから可愛いものにしよう――と、お気に入りの服を取り出すために。  
 
 
 
とかなんとか、そんな爽やか展開にならないものだろうか。  
だけど動かない腕では自分の頬をつねることなんてできないし、そもそもこの体勢を取らされるときは冗談にならないくらい痛かった。  
いくらトンデモ展開とはいえ、どうやらこれは夢じゃないらしい。  
そこで、すごい解決策が閃いた。  
思い付いてみると、なんで今まで気がつかなかったのか不思議過ぎるくらい簡単――実際にすること自体はそこまで簡単でもないけど――  
少なくとも今の状態よりははるかにマシな方法。  
それにこれは宇宙人の側にもメリットがあるはずだ。  
「ね、ねえ。あなたって、私が彼とエッチするのが見たかったんだよね?」  
言ってて恥ずかしくなるけど、今はそれどころではなかった。  
正に生きるか死ぬかの瀬戸際。  
少女にとって初めてってのはそれくらい大事なことだ。  
それを守るためなら、ちょっとやそっとの羞恥プレイがどうだというのか、いやどうということもない。  
私の質問に反応はない。  
機械による自動化が進んで、もうあの宇宙人はこっちをみていなんじゃないかという不安が込み上げてくる。  
この格好を見られたいわけじゃないけど、この声が届いていないととてつもなく困る。  
「あのさ、私を帰してくれたら、すぐにでもエッチするからさ。だから帰してくれない? あなただってできれば自然な状態がいいって言ってたよね」  
しばらくの沈黙があった。  
アームも停止したまま、宇宙人の声も聞こえない。  
答えを待つ自分の心臓の鼓動が、ひどくやかましかった。  
「……ソレハ、ムリダ」  
 
「な、なんでよ!?」  
ようやく返ってきたのは、私の望むものとは正反対の回答だった。  
「マンガイチ、ワレワレガチキュウジント、セッショクシタバアイ、ソノコトニカンスルキオクヲ、カンゼンニケサナクテハ、ナラナイカラダ」  
それは一応予想していたことだ。  
「ダカラ、タトエコノバデヤクソクシテモ、カエスマエニ、ソノヤクソクジタイノキオクヲ、ケサナクテハナラナイ」  
つまりは帰された時点で、またエッチを怖がってた私に逆戻り。  
それでは、いつになったらするのかわからないということか。  
「いや、だから、それは一時的に覚えたままで帰してもらって、エッチしたら改めて全部消してくれれば」  
「キオクヲ、ホジシタママデ、ホカノチキュウジント、セッショクサセルワケニハ、イカナイ」  
「そこをなんとか。あなただっていいデータがほしいでしょ?」  
「……デキナイモノハ、デキナイ」  
一瞬の間は、研究者としての好奇心と、研究者としての倫理観がぶつかっていたんだろう。  
こんな直接的な行為に出たんだから、もう1個くらいヤバイことやってもいいだろうに。  
それでも結局はお役所的な回答があって、それ以上の問答を拒絶するように宇宙人は別の話題を振る。  
「ソロソロ、アイテノホウモ、ジュンビガデキタヨウダ」  
その言葉と共に、小さな作動音が聞こえた。  
音のした方に視線をやると、いつのまにか床に穴が開いている。  
アームが出てきた穴に比べて随分と大きく、人間ならそれなりに余裕で通れそうな穴。  
さっきから聞こえる音――たぶんモーター音だと思うけど――は、その穴から聞こえてくる。  
私の相手とやらを乗せたステージが上がってきているんだ。  
もしかしたら、あいつが乗っているんじゃ。  
それが私に残された最後の希望。  
だけど、宇宙人が私以外の地球人に手を出すことはないだろうと、さっきのお役所回答の経験からも薄々気づいてしまってもいた。  
 
透明な板に囲まれたステージに乗って現れたものは、私の期待を裏切り、予想を肯定するものだった。  
いや、正確には予想の遥か上を飛んでいかれた感じと言えるかもしれない。  
ぱっと見た感じは巨大なナマコというのが1番近いだろうか。  
暗紫色の表面は濡れていて、触らなくてもぬるぬるとした感触が想像できた。  
その背中、たぶん頭部と思われる方から人間の指より細そうな触手、  
背中の中央あたりからは人間の手首ほどの太さの触手が、それぞれ2本ずつ生えている。  
細い方は手ではなく感覚器になっているのか、周囲をさぐるように常にゆらゆらと宙をさまよっていた。  
「ちょ、本気!?」  
「スグニジュンビガデキルナカデ、コノウチュウセイブツ“ゾルゲ”ガ、モットモチキュウジンノオスニチカイト、ハンダンシタ」  
「どんな選考基準だよ!」  
今度は止められなかった。  
あまりにも生理的な嫌悪感を催させる化け物を見せ付けられて、あろうことかこれからそれと交われて言われている。  
冷静でいられるわけがなかった。  
それにしても、宇宙人の目には、地球人とこのゾルゲとかいうのが近いものとして写っているのだろうか。  
だいたい、百歩譲ってゾルゲは名前だから見逃すとして、その前の宇宙生物って肩書きはなに。  
それとも地球人の外見は宇宙でも極めて特殊過ぎて、この化け物でもまだ近い方なんだろうか。  
いや、でもあの宇宙人は各パーツのバランスはともかく手足2本ずつの直立型だった。  
だからといって、あの宇宙人が股間についた性器を勃起させて入ってきたら、それはそれで嫌だけど。  
あ、でもさらわれる前に見たあの宇宙人の股間には、何も付いていなかった気がする。  
別に意識して確認したわけじゃないけど、それでも狸よろしく風もないのにぶらぶらしていたらさすがに目に止まるはずだ。  
最初から構造が違うのか、それとも服を着ているようには見えなかったけど、実は銀色の全身タイツだったのかも。  
 
「ゾルゲハ、アタタカクシメッタアナニ、サンランスルセイシツガアル。  
 ソシテ、ソノサイニダス、サンランカンノフトサガ、ボッキシタチキュウジンノ、ペニスニチカイノダ。  
 クワエテ、サンランジニホウシュツサレルネンエキガ、チキュウジンノセイエキニ、オンド、ネンド、リョウホウノメンデ、キワメテチカイ。  
 オマエタチノコトバデイエバ、コノゾルゲハ、チキュウジンノオスノカワリトシテ、ウッテンバッテン、トイウノダッタカ」  
現実逃避も兼ねて、取りとめもない思考に没入していた私に、宇宙人が質問の答えを返してくれる。  
「選考基準はペニスと精液!? ついでにいえば、うってんばってんじゃなくてうってつけ!」  
変態も知らなかったくせに、なんでうってんばってんなんて知ってんだよ!  
そんな風に続けようとして、ツッコミ所が違うことに気付いた。  
産卵とか言った、今?  
マジで?  
「本物がだめなら地球人そっくりのロボットとかないの!?」  
「ソンナモノヲヨウイスル、ヨサンガナイ。ソレニ、ヤハリ、イキテイルアイテノホウガ、セイシンテキナメンデ、シゼンニチカイダロウ」  
乙女心の機微ってやつを、これっぽっちも理解していない台詞。  
「金、金、金、それ以外に言うことはないの!? だいたい精神的にどうこうっていうなら、こんな、ふぐぅ!?」  
……化け物とする方がはるかに精神的に悪影響があるわ!  
そう続けようとした言葉が、今度は自分の意思とは関係なく、突然口の中に押し込まれた何かに遮られた。  
口内粘膜と舌で感じるそれは、穴がたくさん開いたピンポン玉という印象。  
「ふむぅー! んぁー!」  
その穴のおかげで空気はちゃんと通り抜けるけど、言葉はまともに話せない。  
さすがにうるさすぎると感じたのだろうかと思っていると、  
「クチニ、サンランサレテモ、データニナラナイカラナ」  
ということらしい。  
確かに温かくて湿った穴というなら口もその候補に入るかも。  
 
それにしてもこの口の中のボール、確かあいつのエッチな本で見たことがある。  
慌てて舌で押し出そうとして、けれどアームが外側から押さえていて吐き出せない。  
そして、少しだけ持ち上げられた首の後ろで、カチリと金具が組み合わさった音がすると、もうアームが離れても動かせなくなった。  
これって宇宙共通だったんだと妙な感心を覚えていると、  
「チキュウジンモ、ナカナカベンリナモノヲ、ツクルモノダナ」  
どうやら現地調達したものらしい。  
よく考えれば、あの宇宙人のおちょぼ口じゃ、このボールは入らないか。  
「ふむぅ!?」  
しばらく放って置かれた股間に何かが擦り付けられる。  
それは見たことがない道具だった。  
円盤の上にいちごをくっつけたような形。  
円盤をアームの指が掴んでいて、いちごみたいな形の部分を、さっきの余韻でピリピリする膣口に擦り付けられる。  
あの化け物を見る前だったら、それが自分の処女を散らすものかと思ったかもしれない。  
ただ、擦り付けていたのはその道具に愛液をまぶすためだったらしく、ぐるりと一周させるとすぐに離れていった。  
だけど、それはすぐにまた私の別の部分に、丸みを帯びた先端を付ける。  
そこでようやく何をするためのものかがわかった。  
わかったけど、腰を逃がすことはできず、唸り声を上げることしかできない。  
 
剥き出しにされた性器の向こう側にある、セピア色の窄まり。  
そこにその道具の先端を強く押し付けられる。  
私は必死に抵抗したけど、ぐりぐりと力任せに押し付けられていると表面にまぶされた愛液のせいもあって、徐々に先端が入ってきてしまう。  
緩やかに増していく直径に合わせるように、私の排泄のための穴が拡張されていく。  
何日かぶりのお通じの時にも似た痛みを伴う感覚。  
ただし通っていくものの方向が逆向きだ。  
そして、その道具の中でも最も太い部分に差し掛かる。  
肛門が切れてしまいそうなほどの太さ。  
それでも私のそこは裂傷を作ることもなく、なんとか乗り越えた。  
アームが円盤から手を離し、そこからはそれが徐々に細くなっていくせいで、伸びきった肛門が締まろうとする力を利用してひとりでに潜り込んでくる。  
いちごと円盤の接合部分、先端を除けば最も細いそこまで入ると、もう前にも後ろにも動かなくなった。  
細いとはいって、小指ほどはあるそれのせいで、肛門にはものすごい違和感がある。  
加えて、お腹の中に入っている分の圧迫感と痛み。  
それを少しでも和らげるために、私は長い息を繰り返し吐いた。  
口の端から、よだれが流れ出していくのがわかったけど、それどころじゃない。  
 
ようやくその感覚に多少だけど慣れてきた頃、ズルズルという不吉な音を私の耳が捉えていた。  
いつのまにかステージを囲っていた透明な板が取り払われ、私とは対照的に自由を得たゾルゲが身をよじりながら進んできたのだ。  
普通に歩いても絶対追い付かれない自信がある、そのゆったりとしたゾルゲの歩み。  
だけど動けない今は、それがさらに恐怖を増幅させる。  
やがて、私がいる台の下までやってきたゾルゲが、細い方の触手を私に向かって伸ばしてきた。  
触手がその先端を私の肌に触れるか触れないかの場所でヒクヒクとさせながら移動していく。  
その動きはまるで匂いを嗅いでいるような感じで、実際匂いではないにしても何かを調べているかのよう。  
しばらくすると、触手の動きに変化が生じた。  
口の両端から流れたよだれの跡、右側のものをつんつんと突かれる。  
それは首の後ろから徐々に上ってきて、その源泉たる口にまで到達した。  
ボールによって割り開かれた唇を刺激した後、ボールに開いた穴に潜り込み始める。  
「うぶぅ!?」  
口の奥に、ボールを抜けてきた触手の先端を感じてえずきそうになる。  
さらには左側のよだれの跡をたどって来たもう1本の細い触手も加わってきて、一層強く喉の奥を刺激された。  
しばらくそうやって喉の奥を突ついた後、触手がゆっくりと後退していく。  
 
そこで、突然目の前が真っ暗になった。  
ハチマキのような帯で目隠しをされたのだ。  
頭を持ち上げられ、その後ろで再びカチリという音がして目隠しも固定される。  
喉を突かれて目に浮いた涙が、その布に吸い込まれていくのがわかった。  
その目隠しの上から、ちょうど涙が染み込んだあたりを細い触手がちょんちょんと突いてくる。  
段々とその触手の目的がわかっていた。  
どうやら濡れている部分を探しているらしい。  
喉の奥を突かれたことを思い出し、目隠しをされていなければどうなっていたかを想像して背筋が寒くなった。  
そこを諦めた触手は、別の場所を探して移動を再開する。  
身体の表面を掠めるようにして移動していく触手の感触を、視覚を閉ざされて敏感になった肌が知らせてくれた。  
「んああ!?」  
突然それまで停止していた胸と股間のアームが動きを再開させた。  
不意打ちの性感に、膣がキュウっと締まる感覚。  
さっきの行為で中に溜まっていた愛液が、押し出されるようにしてとろりと下腹部を伝わっていく。  
その雫はおへそのあたりまで滴り、一旦そこで流れを止めた。  
そこに、頭の方から下ってきた触手の先端が触れ、おへそをほじるように刺激される。  
「ふむぅーー!」  
くすぐったさと、これから起こることへの恐怖が私の心を占領していった。  
案の定、そこがただの凹みだと理解した触手が移動を再開させる。  
そこに溜まっていた液体の源泉を求めて。  
 
アームの指で摘まれ、今も微振動を与え続けられているクリトリスの横を触手が通過していく。  
そして、ゾルゲはようやく自分が求めている場所に到達した。  
口の中と同様に、細い触手が中へと潜り込んでくる。  
胸とクリトリスへの刺激でそれなりに解されていたそこは、指より細い触手を飲み込むことに抵抗はなかった。  
だけど、いっそ痛い方が良かったのかもしれない。  
痛みがない分、そこが本当に自分の目的に適した場所かを探るために蠢く触手の感触が、嫌というほどわかってしまう。  
それどころか、胸やクリトリスの強烈な刺激と混ざり合って、その刺激が――  
ちがうちがうちがうちがう。  
私はこんなので感じたりしていない。  
できるなら奥歯を噛み締めたかった。  
だけどボールを詰められ開けっぱなしになった口から漏れるのは、自分でもわかるほどいやらしい吐息。  
自分の口が、まるで私自身に自分のいやらしさを認めろと言ってきているようだ。  
そうこうしている内に、触手による検査が終わったらしい。  
細い触手が引き抜かれ、中からの刺激が中断された。  
少しして、アームの作動音に紛れて、ゾルゲが移動していた時のような、  
けれどボリューム的にはそれよりは小さい気がするズルズルという音が聞こえてくる。  
肩に触れる何か。  
2種類の触手の中間ぐらいだろう太さのそれが、鎖骨を乗り越え、ヒトデ型アームに捏ねられる乳房の間を通っていく。  
どうやら私のそこはゾルゲのお眼鏡に適ったらしい。  
私にしてみれば、最悪なことだったけど。  
 
「んんんんんぅーーーー!!」  
さすがに今度は痛みが来た。  
股間から体が引き裂かれるような激痛。  
望んでいたそれは、けれどすぐに胸とクリトリスからの圧倒的に快感に飲み込まれてしまう。  
狭い膣肉を力任せに押し広げられていく感覚。  
あいつのあれも、これくらい太いのかな?  
どうせ見えないんだから、せめて頭の中でくらい好きな相手と。  
快感に包囲された思考が最後に見つけた逃げ道がそこだった。  
当然見たこともない実物を想像しながら、必死に全身が性感帯になってしまったかのような快感に耐える。  
1度最奥にまで到達した後、産卵のためには人間同様そこに刺激を与えないといけないのか、産卵管は前後に動いていた。  
それが、不意に1番奥で動きを止める。  
産卵管の膣口のあたりにある部分がぼこりと体積を増し、その膨らみが膣の中を進んでいくのがわかった。  
それが何を意味しているか想像できる。  
だけど、むしろ私はそれを望んでいた。  
それが終われば、この最悪な記憶を消してもらって、またあの場所に帰れるんだ。  
それまで心が壊れないように自分を強く持つ。  
それは大津波を前にして、朽ち果てた木にしがみつく程度の行為かもしれない。  
でも、今の私にできることはそれくらいで、  
そして産卵管の先端を膨らみが通過した直後、お腹の中で爆弾が爆発したような衝撃を味わうことになった。  
 
愛する人との子どもを育む場所に、熱くドロドロした液体と、ビー玉くらいの大きさの固体が流れ込んでくる。  
液体の方はまだしも、固体の方は人との行為では経験できない刺激。  
その感覚が、頭の中で描いていたあいつの姿を、おぞましいあの化け物へと塗り替えていく。  
1度の放出で、お腹が張るほどの量を流し込んでから産卵管が抜けていった。  
それに合わせてアームの動きも停止したけど、お腹の中にはまだ粘液と卵の両方の感触がある。  
この姿勢では重力に任せていても、それらは流れ出ていかない。  
とにかく一刻も早くそれを出したかった私は、妊婦さんが出産の時に息む感じを想像しながらお腹に力を入れてみた。  
「うふぅっ」  
膣口から少しだけ粘液が溢れ出した感触はあったけど、卵の方は子宮の中でぐるりと位置を変えたくらいで出ていった感じはない。  
それどころか、弾力を持った卵が子宮壁を擦っていく感触にはしたない声を上げてしまった。  
何度かそれを繰り返し、結局無理だと悟る。  
その頃には、ゾルゲが移動する時のズルズルという音が台の下から遠ざかり始めていた。  
ゾルゲが1度で満足してくれたことに、心の底からの安堵が込み上げてくる。  
あとは早くアームを外してほしかったけど、それを要求するための言葉は、いまだ入れっぱなしのボールに封じられていた。  
 
ゾルゲが出てきたときに聞いた、ステージが動く時の作動音。  
これでこの部屋にいるのは私だけになった。  
なのにまだアームは離れてくれない。  
お腹の奥の卵も当然そのままだ。  
しばらくその状態が続き、不安のあまり言葉にならないのを承知で宇宙人に訴えかけていたときだった。  
自分の呻き声に紛れて、ステージが動く音が聞こえた。  
それが止むとズルズルという、もう二度と聞きたくなかった音がしはじめる。  
この部屋の下で何かをされて、また産卵ができる状態にされたのだろうか。  
口の中にボールがなければ、奥歯がぶつかりあってガチガチとやかましく鳴ったはず。  
絶望と恐怖で体の震えが止まらなかった。  
細い触手が皮膚の傍を掠めていく。  
そして、今度は真っ先に膣から溢れ出した粘液の流れを発見した。  
その流れを遡るように触手の先端が肌を突つく。  
まもなくそれらは膣口にたどり付き、前回と同じように中を探り、抜けていった。  
次に来るのは産卵管。  
そう思っていた私は別の刺激に身を強張らせた。  
太い何かがお腹の回り、位置的には胸の下あたりと言ってもいいあたりにぐるりと巻き付いたのだ。  
見えないけど、前回は特に使うことがなかった太い方の触手だろうというのは想像できる。  
 
何が起こるのかと身構えていると、その触手はチューブから中身を搾り出すように、締め付けながら胸の下から下腹部まで扱き始めた。  
粘液と卵に満たされた子宮を、外からむりやり圧迫される。  
逃げ場を探したそれらは押し出されるように、膣口から次々に外へと出ていった。  
どうしてわざわざ1度は産みつけた卵を出してしまうのかわからないし、  
結構強く締め付けてくるので少し苦しかったけど、卵を出してくれるのはありがたい。  
もしかするとゾルゲは見た目はあんなだけど実は良いやつで、  
本当はあんなことをしたくなかったんだけど、あの宇宙人にむりやりやらされていたのかも。  
そしてこの部屋の下に帰った後、命令を果たした彼を労いに来た宇宙人を隙を見てやっつけたとか。  
そうやって自由を得た後戻ってきて、同じくあの宇宙人の被害者と言える私から卵を出す手伝いをしてくれている。  
卵が膣を通り抜けていくのを感じながら、頭の中でそんな荒唐無稽かつ超ご都合主義的ストーリーが組み上げられた。  
しばらくしてあらかた卵が出尽くすと、それを確認するように細い触手がまた中に入ってくる。  
今度はさっきほどの嫌悪感は湧いてこない。  
言葉が出せるなら、「もう大丈夫だよ」って言ってあげたかった。  
まだ幾つか残っている感じはするけど、それでも随分楽になったのも確か。  
何より味方ができたという認識が、私の心を救ってくれた。  
まあ、言葉は通じないかもしれないけど。  
あ、でも見た目で差別してはいけないんだ。  
結構賢くてこちらの言葉を理解できるかも。  
 
肩に触れる産卵管の感触に、馬鹿な想像に浸っていた頭が一気に醒めた。  
それはさっきと同じ経路で私の身体の上を這っていく。  
そして、これもまたさっきと同じように私の中へと潜り込んできた。  
産卵を促すための力強い前後動。  
それを感じながら、私はわけがわからなくなっていた。  
このままいけば、また大量に卵と粘液を注ぎ込まれる。  
どうしてそんな二度手間なことをするのか。  
そこで、私は1つのことに気がついた。  
今、差し込まれている産卵管は、前回のときより少し細くなっている気がする。  
考えるだけで悪寒がするけど、2度目だから私のそこが慣れてしまったのかもと思った。  
だけど何度も擦られている内に、その違いが疑惑から確信といえるレベルにまで変化していく。  
その事実から導き出される結論。  
前回と今回は別の個体だということ。  
それならわざわざ前の卵を追い出していたのも頷ける。  
男性器の先端が膨らんでいるのは、前の牡が出した精液を掻き出すためだって、以前テレビで見たことがあった。  
この2匹目のゾルゲも、自分の子孫を残すために前のゾルゲの卵を排除しただけ。  
それは最悪の想像だった。  
その予想が正しいなら、ゾルゲはいったいあと何匹残っているのか。  
どれだけ受け入れれば、宇宙人のデータは満足できるほど集まるのか。  
走行距離を知らされないままでマラソンのスタートを切らされたようなものだ。  
そんなものに耐えられる自信は、今の私にあるわけがなかった。  
 
 
あれから何匹のゾルゲに卵を産み付けられただろう。  
卵を産み付けられ、次のゾルゲがそれを搾り出し、そしてまた新たな卵を産み付けられる。  
5匹までは数えていたけど、そこから先は空しくなって数えるのを止めてしまった。  
新しいゾルゲが来るたびに、この1匹こそが最後だと信じて、そして同じ回数だけ裏切られた。  
そんな中で、辛うじてでもこうして心が残っているのは奇跡だったかもしれない。  
まあ、端から見て本当に心が残っている状態といえるのかはよくわからなかったけど。  
「あ、ふあ、あああ」  
止まっていた胸とクリトリスのアームが動き始め、甘ったるい吐息がボールの中を抜けていく。  
あれから宇宙人は一言も喋らなかった。  
代わりとでも言うように、これらのアームが不定期に動き出しては一方的に快感を流し込んでくる。  
アームの動き出すタイミングは全く予想できなかった。  
ある時は今のように挿入中に、ある時は次のゾルゲを待っている間に、そしてある時は卵を搾り出されている最中に。  
動いている時間もバラバラで、複数のゾルゲの行為に跨って動き続けることもあれば、  
極端な場合、動いたと思った次の瞬間に止まってしまう場合もある。  
それは動きの強さにも言えることだった。  
多少のばらつきはあるにせよ、だいたいどの個体も同じくらいの太さの産卵管を持ち、  
同じくらいの時間前後動させて産卵していくゾルゲの行為の単調さを補うように変化を付けた刺激。  
あの宇宙人なりに気を遣っているんだろうか。  
だとしたら大きなお世話もいい所だ。  
投げやりな気分でそう思う。  
 
自分のくぐもった喘ぎ声を、別の人間が出しているような気分で聞いた。  
今回のアームの動きは持続時間、強さともにかなり強力で、膣壁を擦られる刺激と合わせて絶頂が近づいていく。  
それすらも、どうでもいいことだ。  
この行為の中、初めて絶頂を迎えたのは4匹目のゾルゲに挿入されているときだった。  
それまでは必死に堪えていたのだ。  
イッてしまえば、一緒に心も砕かれてしまうような気がしたから。  
だけど、延々と与え続けられる快感に、心より体が先に音を上げた。  
頭の中が真っ白になって、何も考えられなくなる感覚。  
その嵐が過ぎ去って、でも私の心はまだ砕けなかった。  
幸か不幸か砕けなかった心を満たしたのは、化け物にイカされてしまったという認識から来るそれまでとは別の種類の絶望。  
鼻をつくのはかすかに漂うアンモニア臭。  
気付かない内に失禁していたことに追い討ちをかけられた。  
あの時のことは、もう随分前のことのような気がする。  
今では絶頂も簡単に乗り越えられる小波のようなもの。  
無理に逆らわず、身を委ねていればすぐに通りすぎていく。  
このまま待っていれば、その内この悪夢も終わるだろう。  
磨耗した心は、最初の頃のような怯えも絶望も無縁になっている。  
そうする以外、心を守る術がなかった。  
だけど、家に帰ったとして普通の生活なんて送れるんだろうか。  
ここにいる間の記憶はなくなっているにしても、体の方はどうだろう。  
 
いつか、あいつとエッチをすることになったとき、自分では初めてのつもりなのに、ユルユルになってしまっているんじゃないだろうか。  
血だって出ないだろうし、あいつからは別の相手と初めてを終えていたと思われて。  
あいつと付き合い始めたのは中学に入ってすぐだから、別の相手としているとしたら  
それよりも前の小学生の頃か、それとも付き合い始めてから、つまりは浮気という形になってしまう。  
どちらにしても、いい印象は持たないだろうな。  
怒るんだろうか、それとも気にしてないとぎこちなく笑うんだろうか。  
しかも私自身はどうして自分の体がそんななのか全然わからなくて、必死に説明してもあいつには言い訳にしか聞こえないかもしれない。  
それでも、帰りたいなぁ。  
周囲には田んぼばっかで、都会にあるような遊ぶ場所は何もないけど、そこには家族がいて、あいつがいて、友達がいて。  
目頭が熱くなる。  
久しぶりに浮いてきた涙が、流れ落ちることもなく、とっくにグショグショになっている目隠しに吸い込まれていく。  
宇宙人の技術なら、記憶だけじゃなく、体の方も元に戻してくれないだろうか。  
ああ、いけない。  
また楽天的な方へ思考が向いている。  
諦めたはずなのに。  
希望を持っても裏切られるって、文字通り身をもって知ったはずなのに。  
親父くさいクシャミと違って、いつも前向きに考える私の楽天思考は、むしろ良い癖だと周囲には言われていた。  
『お前はいいよなぁ、いつでもポジティブでさ。俺も見習いたいよ』  
あいつもそう言ってくれた。  
そこに含まれる若干の馬鹿にしたような、呆れたようなニュアンスも感じていたけど、それでもそれ以上に誉めてくれているのもわかった。  
私の初めて、あげれば良かった。  
ううん、あいつにこそ貰ってほしかった。  
 
絶頂感が全身を駆け抜け、拘束された全身がそれでもガクガクと痙攣する。  
ほぼ同時に産卵が行われ、お腹がむりやり拡張される。  
アームの動きもそれに合わせて止まり、少しだけ息をつく間を与えられた。  
でもそれは一瞬のことだろう。  
アームがいつ動き出すかわからないし、すぐに新しいゾルゲが来る。  
そう思っていると、予想とは違うものがやってきた。  
「コレデ、トリアエズ、データノシュウシュウハ、シュウリョウシタ。キョウリョクヲ、カンシャスル」  
むりやり協力させたくせに、何が感謝する、だ。  
その言葉に最初に思ったのがそれで、一拍遅れて前半の意味が頭に染み込んでくる。  
終了、確かにそう言った気がする。  
だめだ、だめだ。  
また悪い癖――やっぱり悪い癖だと思う――の楽天思考が、都合のいい聞き間違いを引き起こしたに違いない。  
疑心暗鬼こそが生き残る術だ。  
それに、仮に宇宙人の言った言葉が終了でも、なにせうってつけとうってんばってんを間違えたこともある相手、何か別の言葉と間違えているはず。  
この世の出来事はすべからく最悪な方向に向いている。  
って、だからすべからくは違うんだった。  
停滞していた頭がぐるぐると回り始め、取りとめのない思考を吐き出していく。  
終了という言葉を与えられて、勝手に気持ちが上に向こうとしている。  
ダメなのに。  
裏切られるだけなのに。  
そうだ、確か、とりあえずって言ったぞ。  
とりあえずってのは、とりあえずってことだ。  
少しだけ休ませて、そのあとすぐに第2ラウンド開始! くらいはあの宇宙人なら言いかねない。  
 
そうだ、そうに違いない。  
最悪な想像にたどり着いて、けれど私は鬼の首を取ったかのような晴れやかさを感じていた。  
ここまでいくと、もはや強迫観念に取りつかれた困ったちゃんな気もするけど、  
ネガティブシンキングな女子高生も最近の流行なんだ。  
口数が少ないってのは実践できないかもしれないけど、この際そっちにキャラを乗り換えるのも悪くない。  
「うはぁぅ!?」  
お尻の穴をむりやり広げられる感覚に声が漏れた。  
ほら来た。  
終わったとか言いながら、乙女の恥ずかしい排泄口に何かするなんて外道行為もいい所。  
そう思っていると、すっかり慣れてしまっていたお腹の中の圧迫感が抜けていく感覚があった。  
そういえばお尻の穴に栓をされてたんだっけ。  
それを抜くってことはやっぱりこれで終わり?  
でも、結局これは何のために入れていたんだろう。  
行為の最中に粗相をしないように?  
でも小さい方は初めての絶頂の時に、結構盛大に出してしまった。  
あの時はすごく恥ずかしかったし、今でも思い出すと恥ずかしくなるけど。  
まあ大きい方と小さい方じゃ色々と違うだろうし、前の方に栓をするのは大変かもしれない。  
ああ、だめだ、恥ずかしいなんて感覚が戻ってきている。  
ぬるんと栓が抜けていく感覚に、私は意識してその穴を締めた。  
そうしないと開いていることに慣れたそこから、乙女としては他人に見られたら死にたくなるようなことをしてしまいそうだったからだ。  
 
次に頭を少し持ち上げられ、喉の後ろで金属音を聞いた。  
そして、口の中に入っていたボールが取り去られる。  
こっちも開きっぱなしに慣らされてしまったせいで、閉じるとなんだか違和感があった。  
「ほ、ほんとに……もう終わったの」  
久しぶりに出した意味を持った言葉は、ひどく掠れていて聞き取りにくそうだった。  
まるで宇宙人の声だ。  
「アア、オワッタ」  
その言葉にようやく実感が湧いてきた。  
「じゃあ、帰してくれるんだよね?」  
どうしよう。  
体の方も元に戻せないかって聞いてみようかな。  
図々しいって思われないだろうか。  
正直、ここまで酷いことをやったんだから、それくらい当然だと思うけど、何かの拍子に機嫌を損ねられたら困る。  
記憶を消してくれるのは確定事項なんだから、とりあえずそれで手を打った方がいい気もする。  
そんなことを考えていたら、首の横にちくりとした痛みを感じた。  
確か、この体勢を取らされるときに体を柔らかくする薬を打たれた時と同じ痛みだ。  
何の薬を打たれたんだろう。  
麻酔薬?  
それで目を覚ましたら、もう何も覚えてなくて、家に帰ってるのかな。  
 
けれど、予想に反して意識は全く薄れていかなかった。  
むしろ意識がはっきりしてきて、皮膚の感覚が今まで以上に鮮明に感じられる。  
途中から痺れたようになって、そこから生まれるのが快感だとぼんやりとわかっていたけど最初の頃の敏感さを忘れていた膣が、燃えるように熱く――、  
「ワルイガ、ソレハデキナイ」  
自分の変化に戸惑いながら、宇宙人の声を聞く。  
宇宙人の第一声を聞いたとき、金属を擦り合わせたような音だと思った。  
だけど、この一言ほど無機質さを感じさせる硬い声は初めて聞いた気がする。  
一瞬、ソレが何を示すのかわからなかったけど、自分が最後に言ったことを思い出して愕然とした。  
「ちょ、どういう、ふああ、なによ、これぇ!?」  
意思に反して膣が、子宮が蠕動し、最後のゾルゲが産み付けたままになっていた卵が押し出されていく。  
卵が膣を通過していく感覚。  
脳が焼けそうな快感。  
「ワクセイガイノセイブツノ、タイエキニフレテシマッタバアイ、カエスコトハデキナイノダ」  
ステージが動く作動音。  
「サッキウッタクスリハ、チキュウジンノ、セイテキカイカンヲ、ゾウフクスル。  
 ナルベク、シゼンナハンノウガミタカッタタメ、イママデハ、ツカエナカッタモノダ。  
 オマエタチノコトバデハ、ザヤク、トイウノダッタカ」  
ズルズルと湿ったものを引き摺るような音が、幾つも同時に聞こえてくる。  
目隠しはされたままなので見ることはできない。  
それはそうだ。  
目隠しがなかったらゾルゲの触手が眼窩に入ってきてしまうんだから。  
だからゾルゲとエッチする前に取るわけにはいかなかった。  
それでも、鋭敏になった感覚は、何匹のゾルゲがこちらに向かっているのかを知らせてくれる。  
何かの勘違いかと思わせる数だった。  
 
細い触手が私の体をまさぐっていく。  
1匹のものは今までのものと同様に膣に狙いを定めていた。  
別の1匹は口の中を探り、今はそこが十分な広さを持っていることを確かめていく。  
そしてもう1匹は、性器の向こう側、排泄のための穴に先端を潜り込ませていた。  
栓でずっと拡張され続け、そこはもう侵入を阻むだけの力を失っている。  
腸壁を突つかれるという初めての感覚。  
それすらも今は、  
「いい、気持ちいいよぉ、お尻の穴なのに、お尻の穴なのにぃ……」  
口に入っている触手に舌を絡めるようにしながら、恥ずかしすぎる言葉を放つ。  
ようやくあの栓の役目がわかった。  
温かくて湿った穴というなら、そこも確かに条件を満たしている。  
口と、膣と、肛門の3箇所に、それぞれ産卵管が潜り込んでいく。  
あぶれたゾルゲは順番待ちの退屈を紛らわすためなのか、  
それとも他にもどこか卵を産める場所があるんじゃないかと期待しているのか、細い触手を蠢かす。  
「チキュウジンハ、クチヤコウモンデモ、コウビヲスルトキイタ。  
 コヲナサヌソノコウイニ、ドンナイミガアルノカ、リカイシガタイガ、タノシンデホシイ。  
 ソレガワタシニデキル、セメテモノレイダ」  
宇宙人が何か言っている。  
だけど何を言っているのかまでは理解できない。  
鼓膜の振動すら言葉という情報ではなく、快感としか認識できなくなっていた。  
アームの動きが再開される。  
その瞬間、頭の中の何かがプツンと音を立てて切れた気がした。  
 
 

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