「ねぇ……海の日ってさ、なんなのかな?」  
穏やかというには暑すぎる昼下がり。先日購入した文庫を開いている俺に、彼女はそう尋ねてきた。  
「昭和16年以来『海の日記念日』として海運、造船、港湾などの海事産業や……」  
「うー、そういうことじゃなくってさぁ〜」  
扇風機の前に寝そべっていた彼女は上半身だけ起こし、不満げな声を上げる。  
こら、膝を立てるな。パンツ見えてる。  
「必要なのかな〜って。だってその7月の第3月曜でしょ? もう夏休みだし〜。  
今まで一度も恩恵受けたこと無いよ〜」  
前々からユルいユルいと思っていたが……。  
俺はやれやれとため息を吐いて、文庫本を閉じる。  
目の前にあるこの可愛らしい頭に少しは将来のことを叩き込んでやらねばなるまい。  
「お前な、それは俺達が学生だからだろ。社会人にとっては休日は貴重なんだぞ。  
休日が増えるっていうことは、体を休めたり家族とのふれあいの時間が」  
そこまで言って何だか馬鹿馬鹿しくなってきたので、ベッドにもたれかかり、説明を打ち切る。  
こいつに将来のことを考えさせるのはまた今度にしよう。  
 
「ま、そのうちわかるさ」  
そう締めくくって、俺は再び本の世界の住人となる。  
横から「う〜ん」とか「む〜」とか唸り声が聞こえてきたが、いつものことなので気にしない。  
そうして、4ページほど読み進めたとき、  
「やっぱ私には関係ないや〜」  
彼女はまことに簡潔な答えを出した。ここで無視すると彼女は拗ねて、  
後で俺の蔵書がひどいことになるという因果関係は立証されているので、仕方なく相手してやる。  
「何でだよ?」  
すると彼女は俺に身を寄せて、笑顔で言い切った。  
「だって私、卒業したら専業主婦になるんでしょ〜?」  
「ばっ!」  
危うく文庫を落としそうになった。  
「あ、照れてる〜」  
「うるせえっ」  
こんなことだから。  
こいつが図に乗っても困るので。  
プレゼントしてやろうと思って買っていた指輪を渡したのは、1ヶ月以上も後になった。  
 
 
 
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「働かざるもの喰うべからずだ。というわけで、お前も働け」  
「それってプロポーズ〜?」  
 
 
 
(おわり)  

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