沈みかけの夕日がものすごく綺麗だ。
そういえばあの時もこんな夕日を見たっけ。
そう思った瞬間、私は胸を締め付けられるような郷愁の想いにとらわれた。
その想いのまま横の恒治に聞いてみる。
「ねぇ、私の五歳の誕生日に約束したこと覚えてる?」
恒治は少し考えた後、ばつが悪そうな顔をして応えた。
「あー、ごめん。覚えてない」
もうこのセリフは何千回と聞いてきた。
「そう……ならいいわ」
なるべくそっけなく言って、平静を装う。
「なんだよ。気になるじゃん」
だんだんと腹が立ってくる。こっちはその時の約束に今でも縛られているというのに、
こいつときたらまったく覚えてないのだから。
「うっさい! 覚えてないならいいわよ!」
幼馴染みのあまりのメモリー不足にすっかり腹を立てた私は怒鳴って足を速める。
やっぱり覚えてくれてないのか。
少し早足で歩いてからそう思うと、さっきまでの怒りが悲しみに変わってきた。
私を縛る五歳の誕生日の約束――
「おとなになったら、けっこんしよう」
「えっ?」
「えーと……しあわせにするから、もう美奈のことなかせないから、
だからぼくとけっこんしよう」
「……うん!」
自分でも馬鹿みたいだなって思う。そんな約束を今でも信じてるなんて。
きっと恒治のことだからその約束をした翌日にはもう忘れていたのだろう。
でも……それでもいい。
「何怒ってんだよ? あっ、こら待て」
そう言って、追いかけてきてくれるから。
「ふうー、追いついた。勝手に行くなよ」
こう言って、また隣で歩いてくれるから。
大好きな幼馴染みが横で一緒に歩いてくれる。
それだけでこんなに幸せな気分になれるのだから。