/1.  
 
父が亡くなって幾らか日が経つ。  
ほとんど悲しみが湧かないのは忙殺されていたからではなかった。  
自分にとって近しい存在でないのだから知らない人の死とさほど変わらない。  
厄介なのは、格式の高い家を若い兄妹だけで維持していかなければならない、  
ということくらいのもので。  
「仁科、兄様の食事の用意はできて?」  
流れるように扉を開け放つ。細かい動作にも自然と典雅さを纏っていた。  
それが却って厨房では場違いな雰囲気を持ってしまうが気にも留めない。  
「あー、朱夏お嬢様。あたしが持っていきますんで。  
お嬢様はお部屋でごゆっくりなさってください」  
勝手に入っていく朱夏を料理人が止めようとする。  
本来なら厨房は当主であっても不可侵の領域なのだが、そのことを咎めているのではなく  
単にお嬢様のお手を煩わせてはいけないという義務感からの行為だった。  
しかし朱夏は育ちの良さを馬鹿にしたような口振りに反発して料理人から食器を取り上げた。  
「その程度のこと、私にだって出来ますわ」  
今まで使用人に任せきりにしていたからといって、  
子供にもできることが自分にできないわけはない。  
少しでも見栄えが良くなるようにと一所懸命にトレーに並べ、  
首を傾げる料理人を尻目に厨房を出て行く。  
 
兄は、父が存命だった頃に仕えていた使用人たちをほとんど解雇してしまった。  
それは朱夏にとっても賛同したいことだった。  
いくら名家であっても贅沢を続けていては没落してしまうし  
何より朱夏は父が囲っていた妾たちに嫌悪感を持っていた。だから兄の采配に肯いた。  
雑多なことを自分でこなさなければならないのは慣れなくて不便ではあるが、  
こうして初めてのことを体験するのも驚きや発見があって面白い。  
そういうわけで、使用人の代わりに朱夏が兄の昼食を運んでいる。  
遺産や家督の処理に追われる兄の負担を少しでも軽くしようと躍起になっていた。  
朱夏は兄を慕っている。自分勝手で意地悪な兄だが、  
世間知らずな朱夏にとっては父以外に知っている数少ない男性だ。  
一度は家を出ていったが、父が亡くなると急遽海外から舞い戻って  
家のことをあらかた片付けてしまった。  
ひとり家に遺されて親類への対処に困惑するばかりだった  
朱夏の許へ、兄は颯爽と駆けつけてくれた。  
妹よりずっと優秀で更に見目も流麗なのだから、憎からず想うのも無理はなかった。  
 
控えめなノックに穏やかな声が返ってくる。大きな背中は昔に見た姿と重ならない。  
兄はもう大人の男性なのだ、と、まだ大人になりきれない妹は双眸に憧憬を浮かべた。  
「兄様、お疲れさまです。休憩中ですの?」  
精一杯の優美さを振り撒く。しかし兄は一瞥したきり視線を手許の紙片に戻した。  
「抽斗にあった書類に目を通していたところだ」  
「昼食をお持ちしましたわ」  
「悪いな」  
「いえ、兄様のご苦労を思えば、このくらいのことは当然ですわ」  
兄の眼は自分のほうを向いていないというのに、朱夏はとびきりの笑顔で応えた。  
ともすれば冷たく見られがちな整った顔立ちを愛らしく綻ばせる様子は  
大抵の男を骨抜きにできるだろう。とはいえそれも、見る者がいなければ意味がない。  
「…跡を継ぐつもりはなかったんだが、まぁ仕方がない。好きにやらせてもらうさ」  
素っ気ない態度に残念そうに項垂れ、それでも再び表情を整えるとスカートに手を添えた。  
「お食事が済む頃にもう一度参ります」  
使用人のように仕付けよく出来たかしら、と心の中で確かめながら礼をして踵を返す。  
「朱夏」  
去ろうとする朱夏の背後から兄の声。  
「……? 何ですの?」  
「待て。足下に蜘蛛がいる」  
「きゃあっ!!」  
はしたなく飛び退って胸に手を遣る。  
先程まで自分がいたところを確かめるが、何もいない。  
きっ、と兄を見遣ると勝ち誇ったように笑っている。  
「騙されやすいのは純粋でいいことだ」  
「っ…ごきげんようっ!」  
使用人を真似た礼節も忘れたまま、大きな音を立ててドアを閉めた。  
取り乱してしまったことへの羞恥で顔を紅くしている。  
妹に対して意地悪をする兄の性格は子供の頃から直っていないらしい。  
兄の前では特に淑やかでいるよう努めているのに、いつもからかわれてしまう。  
せっかくの行儀よい立ち居振る舞いも水泡に帰し、溜め息を洩らして自分の部屋へ戻った。  
 
 
「藤村」  
夕刻、懶げに窓から外を眺めていた未有に声をかける。  
苗字で呼んだのは仕事中であることを示す暗黙のルールだった。私事であれば名前で呼ぶ。  
未有は数年前からこの家に仕えている使用人だが、齢は朱夏より少し低い。  
幼くして保護者に棄てられたか売られたかしたところを父が連れてきたのだと聞いている。  
「あ、お嬢様…すみません! お掃除の途中で…」  
「別にいいわ。それほど汚れていないもの」  
ほとんど人の通らない廊下がどこまでも続いている。  
数十を超える部屋も全く使われていない。  
「この館も静かになったわね」  
先程まで未有が見ていた窓の外に眼を向ける。広大な庭と広大な西洋館。  
以前は多くの使用人たちがいたが、いまは数えるほどもいなかった。  
住み込みで働いていた者も行き先が決まり次第ここを離れるはずだ。  
「はい、旦那さま個人にお仕えしていた方がほとんどでしたから…」  
それは仕えていたのではなくて父の相手をしていたのだ、と未有は知っているのだろうか。  
もしかしたら未有も…と考えて、慌てて頭を振る。  
訊いても詮無いことだと、その疑念をすぐに霧散させた。  
「けれど、あなたが残っているなら私には充分ね。大抵の事は自分で出来るもの」  
自分で出来る、のあたりを心なしか強調して言った。  
過保護に育てられてきたことへの劣等感からでもあった。  
「あの…私も、お暇を出されるのだそうです」  
「えっ!?」  
控えめな声に聞き捨てならないものを感じて振り向く。  
「ですから、ここを出て行かなければならないと、白秋さまに……」  
「なんですって…? 聞いてないわ! あなたは私に仕えていたのではなくて?」  
この家に引き取られたものを、歳が近いから話し相手になるようにと父が朱夏に宛がったのだ。  
周りに親しい者のいなかった朱夏と、使用人たちの間で浮いていた未有は、  
仕事外の空いた時間には一緒にいることが多かった。  
だから二人は幼い頃から単なる職掌としてだけではない深い絆を持っている。  
その未有まで辞めさせるとは、いったい兄は何を考えているのか。  
「私も旦那さまに拾われた身ですから…」  
聞き終える前に朱夏は部屋を飛び出していた。  
 
「兄様。白秋兄様」  
廊下を遽しく行き来していた兄を呼び止める。  
「兄様、お待ちになって」  
「どうした朱夏。血相を変えて」  
兄が振り向く間に胸に両手を置いて息を整えた。お嬢様らしからぬ慌てようを反省する。  
「藤村のことですけれど…」  
「…? あぁ、あの小さな使用人か。今週付けで辞めてもらうことにしたが」  
「どうしてですの?」  
「父がいなくなった今、ここには俺と朱夏しかいないのだから必要ないだろう。  
料理人と運転手だけで充分だ」  
「藤村は、よく働いてくれていますわ。一人くらい残しても良いのではありません?」  
未有には他に行くところもないことを知っている。  
それに、支配と被支配の関係とはいえ心を許せる唯一の相手だった。  
「いてもいいが、いなくてもいい。ならば切り捨てる」  
「それでは、あんまりですわ…」  
「今や永源家の権限は全て俺にある。俺は父と違って無駄に金を遣ったりしない。  
もちろん余計な召し使いを置いてやる気もないし、女を囲う心算もない」  
だから未有は要らない、と。  
贅の限りを尽くす父親を朱夏はそれほど好いていなかったが、  
兄もそう考えていたのだ。そのことには少し共感した。  
しかし、未有は朱夏にとって必要だ。辞めさせられては困る。  
 
「あの子には、身寄りがないんです」  
「知っている。遠い親戚を当たってみるそうだ」  
知っていながら意思を変えないと言う。  
納得できずに憤りを感じるが、たとえ妹であろうと当主への僭越は許されない。  
それでも涙を溜めて食い下がる。  
「どうしてそんな意地悪をなさるんです…?」  
「意地悪しているわけではない。俺のやりたいようにやっているだけだ」  
合理的で余りに慈悲がなく、取り付く島もない。  
この家を継ぐものとして当然の資質であることは朱夏にも理解できる。  
兄は正しい。徹底的であることを標榜するならば自分のために大切なものも  
切り捨てなければいけないのだ。  
「使用人になど頼らなくても生活できると、言わなかったか?」  
「言いました…けれど、藤村は……」  
返す言葉もなくなって黙り込んだ。叱られた子供のように俯いて、兄の前から動けない。  
昔はもっと、意地悪だったけど優しかったのに、と朱夏はぎゅっと悔しさを噛みしめる。  
その様子を無表情で眺めていた兄は、思案してから妹の髪を撫でた。  
子供の頃の面影を懐かしく感じながら、その思い出に返って気紛れを起こす。  
 
「では朱夏、賭けをしようか」  
「賭け、ですの…?」  
「藤村をこの館に残したいんだろう? ならば一つ、こうしよう」  
涙を拭って小首を傾げる。  
未有を残してくれるという淡い期待に兄の眼をじっと見つめた。  
「子供たちの遊戯に、電気あんまというのがある」  
「……?」  
「知らないのか」  
「…私は、兄様のように自由にはさせていただいてませんもの」  
その口調には少しの皮肉が込められている。  
兄は子供の頃からよく父に連れ出されて色色なものを見て回っていたが、  
箱入りに育てられた朱夏は館を出る機会も少なく、外の世界をほとんど知らない。  
学園でも、永源家のご令嬢とあっては話しかけてくれる学友さえあまりいないのだ。  
未有との会話と読書による知識が全てといえるくらい世間知らずだった。  
「俺がいいと言うまで耐える。ただそれだけさ」  
さも簡単そうに言うけれど、きっとそうではないのだろうと朱夏は感じた。  
不敵に笑っている兄のことだから、思うよりずっと困難に違いない。  
「藤村はどこにいる?」  
「今は、客間を掃除していると思いますけれど…」  
「では行こう」  
とりあえず訳が解らないままでも兄に附いていくしかなかった。  
 
兄はノックもせず無作法にドアを開けて入った。後に朱夏が続く。  
未有は残された時間を惜しむように、一心にテーブルを拭いていた。  
「白秋さま、と、お嬢様……」  
「掃除は切り上げていいぞ」  
「あ、いえ…でも、もう少しで終えますから」  
「君に用がある」  
二三瞬きして布巾を置く。これから辞めなければいけない使用人に何の用があるのだろうか。  
兄が一通り説明すると、まず未有は朱夏の行動に驚いた。  
自分のような役立たずのために働きかけてくださるなんて、と。  
そして、これから行われることに一抹の不安を持った。  
未有は前当主の計らいで学校へは通わせてもらっていた。  
そのため、白秋の言う戯れがどういうものか知識として一応は知っている。  
だから電気あんまなど知る由もない朱夏が心配でならなかった。  
「そういうことだ」  
「あ、はい…ですが…」  
未有の言葉は聞き入れられない。  
「朱夏、ここに座ってみろ」  
「え、ええ。座るんですのね」  
言われるままに床に腰をつけると、兄は朱夏の膝に手を置いて脚を大きく割り開いた。  
「あっ…兄様、このような格好は…!」  
「気にするな。こういう遊びなんだ」  
承服しがたいものを感じながら、それでも抵抗することはなかった。  
何をするのかさえ解っていなかったし、元より兄の言うとおりにする以外の選択肢はない。  
 
「藤村は知っているだろう?」  
「あの……はい…」  
「ならば丁度いい」  
そう言って朱夏の前に座らせる。  
兄は一歩下がって腕を組み、壁に寄りかかって二人を見下ろした。  
既に当主として場を支配する表情を持っている。未有は使用人の本能からか恐怖を感じた。  
自分の主人は朱夏であって白秋ではない。  
そう思っているのに、さらに上の立場があることを意識せずにいられない。  
「足の裏を股間につけろ。…あぁ、スカートの上からで構わない」  
「なっ…兄様!?」  
驚いて頬を染めながら、落ち着かない様子で視線を泳がせる。  
人前で脚を広げているだけでも充分なほど羞恥心を煽られているのに、  
兄はそれ以上を求めている。いくら兄妹といっても無遠慮に過ぎる。  
徹底的に清楚可憐であるよう躾けられた朱夏にとって余りに酷な辱めだった。  
「直に触れるわけではなかろう。それとも、やめておくか?」  
兄の声に弾かれてそちらを見つめる。挑発するように朱夏を嘲笑っていた。  
止めるということは、未有を見捨てるということだろう。  
それはどうしても、受け容れられない。深く息を吸って吐いて決意を固めた。  
「…藤村、そのまま膝を伸ばしなさい」  
上履きを脱いだ小さな足が、中心に宛がわれる。静かに触れると朱夏は唇を固く結んだ。  
ロングスカートがずり上がって白く細い脹脛が見える。  
うっすらと浮かぶ血管と柔らかく締まった筋肉がひどく艶かしい。  
普段から露出の少ない服しか着たことのないお嬢様の脚を目の当たりにして、  
未有は同性ながら顔を赤らめた。その白さに眼を奪われている自分に気づき我に返る。  
一瞬でも主人に邪な視線を向けてしまったことを自戒した。  
 
「次に、このまま足を振動させる」  
「どう、なるんですの?」  
朱夏にはそういった経験が全くないため想像も及ばない。  
屈辱的ではあるけれど、それに耐えるだけで賭けは成立しないだろうと思う。  
「やってみればわかるさ。何でも体験して知っておくほうがいい」  
外の世界をよく知っている兄は無知な妹を軽く会釈った。  
「あの…白秋さま…」  
「従えと言っている」  
未有が口を開いた途端に意見を封殺する。どうやら未有は兄を止めようとしたらしい。  
だがそれも叶わず、爪先に力を入れて事を始めるしかなかった。  
おそるおそる膝を震わせていく。お嬢様の大切なところを労わるような弱さで。  
「……」  
ふとももに手を添えて朱夏は眉を顰めた。躰の底に湧き起こる想いに戸惑っている。  
未有の足が敏感な部分に掠る度に小さく息を洩らす。  
その振動が拙い所為もあって、まだそれは快感と呼べるものではなく  
触れている部分が少し熱を持つくらいの微小なものだった。  
「どうだ? なかなか悪くないだろう」  
「…仰有っていることが、よく解りませんわ」  
くすぐられているような淡い感覚と灼けるような羞恥心。  
それがどうして「悪くない」のか、朱夏には解らない。  
 
「まだ耐えるか」  
「ええ、この程度の辱め、耐えて見せます」  
強気な妹にやれやれと苦笑したがすぐに不敵な表情へと戻る。  
「藤村、もう少し強くしてやれ」  
「ですが、白秋さま…」  
加減していたことを看破されてうろたえる未有。  
「今すぐにここを出て行きたいのか?」  
「…藤村、構わないから兄様の仰有ることをお聞きなさいな」  
「はい…」  
朱夏の声に応えて未有は少しだけ足に力を入れた。  
「それでいい。ゲームはスリルがないと面白くないからな」  
内腿から脚の付け根にまで震えが行き渡る。  
そしてその中心に、震えの源が強く押し当てられている。  
「あっ…な、なんですの…? これ…」  
一瞬、初めての感覚に戸惑って朱夏は腰を浮かせた。  
逃げようとするが足首を掴まれていて動けない。  
未有の右足に手を添えたところで、抵抗してはいけないと自分に言い聞かせて留まる。  
「ん……んっ…!」  
喉の奥から自然と声が洩れた。  
朱夏は無知ではあるが愚昧ではなく、自分の躰がどうなっているのか察することは出来ていた。  
知りたくない感情を無理矢理に知らされている。  
そのことに対する不安と嫌悪、それと同時に未知への好奇心が心の中で燻っていた。  
このまま刺戟を受け続けたいとも思ってしまっていた。  
くすぐったさを心地好いと感じているのだと気づく。  
それが気持ちよさに変わるのに時間はかからなかった。  
 
「ぃ、いやっ……」  
「どうした朱夏。もう止めておくか」  
慌てて首を左右に振る。腰に届く滑らかな髪が躍った。  
快感を素直に受け取ることへの怯えを隠そうとする。  
「つらそうだな」  
興味深そうに兄は朱夏の顔を覗き込んだ。  
朱夏がどういう感覚に襲われているのかを知っていて、応答を面白がっている。  
「くっ、このくらい…何ともありません」  
気丈に言い切ってみせた。  
ここで音を上げれば、未有はこの館を出なければならなくなる。  
だから絶対に止めるわけにはいかない。  
そして、慕っている兄に失望されるのが厭だった。  
恋をしているという自覚はなくとも憧れは昔から懐いていた。嫌われたくないのだ。  
とはいえ、初めて経験する浮揚感に躰が次第に順応していくと、  
朱夏は何度も負けを宣言してしまいそうになっていた。  
こんな風になるなんて知らなかった、と燃え上がる熱情に驚き  
圧倒的な淫欲に逆らえないという諦めに支配されそうになる。  
「はぁっ……あ、んんっ…」  
殆ど運動をしたことのない朱夏には珍しいくらい汗をかいていた。  
水滴が首筋を伝って胸元に落ちる。その水分を吸ってブラウスが薄く湿っていく。  
 
「兄様…まだ…終わりませんの…?」  
「あと半刻ほどか」  
それまで我慢すれば…。朱夏は希望に気を持ち直した。  
しかし逆に未有は絶望する。始めてからかなりの時間が経過しているのに、と。  
「未有、きっと……」  
「お嬢様っ…」  
名前で呼ばれたことに過敏に反応する。もはやお嬢様にそんな余裕はないのだろう。  
「だ、大丈夫よ……んっ…んっ…」  
朱夏の言葉に首を振る。白秋には初めから止める気などないと察していた。  
もう自分のことはどうでもいいから屈してほしいと思った。  
それでも健気に耐える朱夏を見ると、言い出せなかった。使用人という立場もあって、  
ただ命令されるままに足を動かし続けるだけで止めるのは決して許されない。  
「あ…うっ……未有…そこっ……」  
それどころか、自分が主人に快感を与えているという事実に興奮している節さえあった。  
未有は幼いとはいえ性的なことを少しは知っている。  
そこを刺戟することによって、本人の意思はどうあれ朱夏の躰は悦んでくれている。  
そのことを正直に嬉しいとも思い、まるで奉仕しているかのように錯覚していた。  
だから、本来の目的に反することであろうと未有はお嬢様の局部を足で叮嚀に愛撫し、  
その淫欲を高めようと一心に感じる点を探り当てる。  
 
「ぅぁっ!?」  
股間に当たる角度が変わって、びくんっと跳ねた。  
快感の裏に密かにあった尿意が明らかに大きくなっていく。  
それは焦りを強めるだけでなく、快感と連動して朱夏を責める要因ともなった。  
「兄…様っ……! 私…あ、あぁっ……」  
慌てて兄のほうに振り向く。こともなげな冷ややかな表情。  
「どうした?」  
ここで終わっては面白くない、と兄は故意に知らぬ振りを決め込んだ。  
「っ…あっ……ん! な、なんでも、ありません…」  
俯いて首を振った。あと少しで賭けに勝てるのだからと気をしっかり保つ。  
絶え間ない刺戟に躰を弛緩させてしまいそうになり下腹部に力を入れる。  
と同時に未有の爪先が朱夏のいちばん弱い部分である突起に当たって、  
これまでになく激しい電流に襲われた。一瞬だけ、腰から下の力が完全に抜ける。  
「はぁんっ!!」  
思わず自分の洩らしたはしたない声に赤面する。  
必死に我慢したがおそらく少し零れ出してしまった。朱夏は感触でそれを知った。  
恥ずかしい失敗に泣きそうになる。  
未有に知られるのは仕方ないとしても兄にだけは気づかれないようにと祈った。  
それでも与えられ続ける快楽に長い黒髪を振り乱して悶える。  
 
「あっあっ……そんなっ…!」  
抑え込んだはずの波が止め処なく押し寄せて朱夏の思考を麻痺させる。  
このままでは全て溢れてしまう。けれど、そうして解放してしまいたい。  
「お嬢様……」  
「未有っ…! ぃ、や…あっ……あぁっ!」  
朱夏は恍惚とした眼で未有を見た。それは謝っているようにも見えた。  
もう耐えられない、と、言葉にならないが未有には伝わった。  
「はい、お嬢様…」  
視線を交わらせて朱夏の限界が近いことを察し、  
白秋との賭けを諦めたうえで、主人を最後まで導こうと足の振動を速める。  
「ああん! だ、だめっ……くぅっ!」  
既にロングスカートの前あたりもぐっしょり濡れていた。  
足をつけているのだから気づかないはずはない。  
先程からそれを感じている未有も共に下着を濡らしている。  
深い絆で結ばれるように情を同じくしている。  
 
「はぁっ! あんっ…未有……もうっ……!」  
朱夏の声に応えて敏感なところだけを執拗に刺戟した。  
主従さえ忘れて、むしろ立場を逆転させたように、  
ただ目の前の少女を絶頂させるために足を動かす。  
もはや朱夏は朦朧としたまま未有の行為に身を任せきっていた。  
「っ…ふああっ…! んっ、んっ…」  
お嬢様、気持ちいいですか…。心の中で語りかける。  
とどめとばかりに、多少乱暴に突き上げた。  
「はっ…い、いやぁ……兄様っ…ああっ!? ん〜〜〜〜〜っっ!!」  
「お嬢様ぁっ!!」  
思わず未有も叫んでしまう。朱夏の官能は頂に達していた。  
ぞくぞくと奥底から恐ろしい勢いで駆け上る快楽に綺麗な顔を歪める。  
強く引き絞るように躰を捩り、スカートの上から下腹部を押さえてぎゅっと固く眼を閉じた。  
朱夏の意思に関わらず勝手に腰が激しく痙攣する。その反動で下半身を脱力させた。  
必死に押し留めていたものが堰を切って流れ出し、水を吸わない床に広がっていく。  
そうして未有の足まで伝って、白いタイツは仄かに黄色く染まっていった。  
 
「み、ゆ……許して……」  
「止めてやれ」  
言われるまでもなく振動を止める。すべて済んでしまったのは明白だった。  
朱夏は顔を覆って、自ら溢れさせた小水に服を汚して泣いている。  
「……。残念だったな」  
降ってくるような優しい声にも慰めの色はない。  
未有を守れなかったこと、兄に失望されただろうこと、人前で粗相をしたことが  
頭の中で混ざり合って、突き放された朱夏はすすり泣くことしかできなかった。  
快感に身を許してしまった自分を後悔しても、もう遅い。  
「藤村、面倒を見てやれ」  
満足そうに微笑して遠ざかっていく兄の足音を聞きながら、  
背中に添えられた掌の温かさに、余計に悲しくなって涙が溢れる。  
洋服と床を汚したまま動けずにいる朱夏の悔しさは未有の小さな胸にまで沁みていった。  
 

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