「―――ッ!?」  
俺は今、確かに自分の部屋に入った。  
ベッドには、馴染みのある顔が見えるけど…  
 
【春夏秋冬】  
 
俺の名前は秋山 冬樹。中2の13歳だ。成績は…  
自慢じゃないが(自慢だが)、体育と英語は5だ。んで理科と音楽は4。他のは教えない。  
容姿は普通だと思う。誰にも触れられた事ないし。  
――アイツにけなされた事を除いては。  
アイツの名前は春野 夏江。同級生で同い年。成績は…  
自慢したくないが、内申点の「ランク」は俺より3つも上らしい。それ以上の比較はしない。  
学級代表とかやってやがる。俺も体育委員やってんだが。  
…その割に、俺は俗に言う問題児らしい。いや、俺も解ってる。  
俺がなんかするたびに夏江にはいつもうるさく注意(?)されている。  
廊下でサッカーボールをリフティングしてて誤って職員室に放ってしまった時は悲惨だった。  
それは夏江に注意(?)された時にやめるべきだったと今も思うほどだった。  
…どうでもいいことはこれくらいにして、何から話すか。まず再会した時のことを話すか。  
 
 
中2ホヤホヤの春、俺はこの「葉伏中学校」に転校してきた。そののっけからの日に大問題が起きた(俺が起こした)。  
教室に入る時、俺は先生をも退けて教卓の前に飛び込んでいった。いや、マジメにさ。  
そこでは笑いとか呆れとかの声の前に、俺の運動能力を「すげー!」と言う様な声が上がった。まあそれが当然の事になる様な飛び込み方をしたんだが。  
……今ので解る様に俺は今冷静に独白で紹介してるが、凄まじくぶっ壊れた性格で、凄まじくぶっ壊れた行動もするのだ。  
その後の職員室での出来事は教えない。………そろそろ前置きの独白も疲れたから、物語に入るか。  
 
――…冬樹が職員室から出てきてすぐの廊下には、夏江が居た。  
「うそ…………冬樹?」  
「お前…………夏江じゃねぇか」  
そう、これは再会である。冬樹と夏江は小学1〜4年生の頃、家が隣同士で同じ学校に通っていて、どういうわけかクラスもずっと一緒だったのだ。  
いわゆる幼馴染というやつである。  
「はぁ………どうしてアンタはいつもそうなの…?ちょっとは問題を起こさずに大人しく出来ないわけ?」  
「中学校なんて堅過ぎなんだよ。これくらい元気なのがいいんだ」  
ちゃっかり自分のした事を説明し、当たり前の様に言う冬樹。  
「で、何で此処に転入してきたの?」  
「父さんの会社の転勤」  
「……あっそ」  
こんな普通のノリで会話しているが、実は冬樹はとても嬉しいのだ。  
―――夏江も同じく。  
「ところで」  
「何?」  
「お前、元気でやってっか?」  
「……へ?」  
「いや、普通にさ」  
「…うん、すごく」  
しばらく会話が途切れる。二人とも、顔をほんの少し背け、顔を多少赤らめている。  
「………じゃあね」  
「おう」  
 
 
〜春夏SIDE〜  
冬樹と逢った時、心臓が見えるかと思った。少し本当かどうか疑った。  
冬樹が話している間は、すべて胸の高鳴りを抑えるのに使った。  
…ただでさえずっと冬樹に会いたいという気持ちが強まっていた。  
それに追い討ちをかけるかの様に、冬樹の成長した姿を見せられた。  
当然の様に背は冬樹の方が高くなってる。それに、いい具合に成長し逞しくなったような体。  
何より雰囲気が、冷静というかそんなイメージがあった。性格は相変わらずシッチャカメッチャカだけど。  
でも、何より。  
「嬉しい・・・!」  
―自分の部屋のベットにうつぶせに上半身を預けながら、力をこめて呟いた。  
まさかこんな所でこんな時に会えるとは思ってなかった。  
冬樹が転校した時は、そりゃあもう泣いた。ちょっと離れて、会える時間が少なくなるだけなのに。  
……「この気持ち」は昔から持ってたと思う。ただ、冬樹が転校してから気付いただけ。  
冬樹の事が好き。大好き。  
でも、告白はしない。恥ずかしいから。  
………それに、私達は既に充分近い関係、幼馴染。もし告白して、しらけられながら断られたりした時の事を想像すると、告白なんてできない。  
……このまま。このままで、いい。現に、あの4年間はそれで十分幸せだった。  
 
 
〜秋冬SIDE〜  
さっき俺は一瞬こう思った。こんなの夏江じゃないと。いや、それは言いすぎか。  
小さい頃、夏江は特別かわいいという程でもなかった。まあそれでも俺は夏江の事が…  
好き、だったわけだが。  
さっき夏江を見た時、それが夏江だと判断することは容易かった。俺の気持ちなめんな。  
でも、はっきり言って可愛すぎる。それにちょっと色っぽい。  
俺より背が低くなってるのも可愛い。  
…それで、なるべく平静を保って夏江に話しかけた。あんまし自分で何言ったか覚えてないが。  
今になって変な事言わなかったか心配になってきたぞ。  
………どうも俺は独白では無駄な事を言うんだよな。  
夏江は、その容姿で周りの男子から人気者らしい。ちょっと不機嫌になったじゃねーか。女子から嫌われてるわけではなくて安心したが。  
この学校はそういう事を公言しても恥ずかしいという雰囲気はない。  
俺が夏江と別れて教室に戻った後、何人かのクラスメートに色々言われた(された)。  
…まあ転入生が早々にそんな夏江と二人で気軽に喋ってたら無理ないのかな。  
しかし…こんな俺でも、不安になってきた。  
俺は、夏江の事が、…大好きだ。  
その事をその夏江に言ったら…うん。言えるわけが無い。  
俺らは幼馴染なんだから、改めて夏江が女として好きなんて言ったら…うん。だから言えるわけが無いんだってば。  
その前に、夏江が俺を好きな確率なんて指折り%くらいだろう。そうなると、その幼馴染という充分恵まれた関係を大切にする事が先決になるんだ。  
約4年前とは変わったけど、あの頃の様に、普通に付き合えばいい。今の生活が物足りないわけではないからな。  
 
 
今は秋の後半、学校祭が大方片付いた頃だ。なので夏の様に学校の隣の住宅に教室の窓から怒鳴り声が聞こえたりはしない。  
「秋山ぁーっ!」  
「うおっ、どうしたよ」  
「おおお前!い今夏江ちゃんとは、話して、歩いてこ、と、飛んで、え、呼んで、すて、飛んで…」  
「落ち着けって、どこから「飛んで」がきたんだよ」  
今慌ててるのは信多 昂(シノダ ノボル)。「冬樹と同じく」サッカー部に入っている。  
その昂が何故登校してきた冬樹にいきなり食らいついたかというと。  
「俺は見たぞ、今お前夏江ちゃんと一緒に歩いてたな」  
「…(まためんどくせー事になるのか)…おう、登校中偶然会ったんだ。それがどうした?」  
「その上お前夏江ちゃんを呼び捨てにしてただろ」  
「…そうだけど、それが」  
「どうしたとは言わせねぇ!」  
「どうした」  
「………お前、いくらなんでもこれだけこの学校で過ごせば夏江ちゃんがどういう子か解るだろ」  
「おう」  
「……(-_-メ)……お前と夏江ちゃんてどーいう関係なんだ?」  
「小学生の頃家隣りだった…簡単に言えば幼馴染かな」  
「お、おさなななじみ!?」  
「(1個多い)うおっ、どうしたよ」  
同じ言葉を30秒間に2回使う。  
「ゆるさんぞっ!お前ごときが夏江ちゃんと幼馴染となつななじみと…」  
「だーからー、落ち着けって。それに只の幼馴染だろ」  
「只のとはなんだ!幼馴染とは最高の萌え物だーっ!」  
昂の感情が高ぶり、ネジが一本外れる。  
「…(本性を表したかこのオタクめ…本当にサッカー部かよ全く)…わーったわーった」  
さっき「この学校で」と昂が言った様に、夏江のそれは他の学年でも同じである。  
冬樹や昂と夏江は、幸か不幸か違うクラスである。  
 
全くあいつは…まあどーいう関係か深く突き詰められなくて良かったがな・・・  
それにいやな視線もあいつが全部引き受けてくれたしな(あんなこと教室の入り口付近で叫べば当然である)  
・・・しっかし…それより…朝言い忘れたな…  
 
「夏江ーっ」  
「なに?」  
給食時間、水飲み場で話しかける。  
「稲葉先輩が、昼休みに屋上に来てくれってさ」  
「……ふーん。わかった」  
「…その、また、断るのか?…」  
「うん」  
…ちょっと安心。  
「はは…やっぱ?それにしても先輩もそうだったとはなー。実に可哀想だ」  
「うるさいわね・・・・・・これで合計6回目よ……?」  
「ところで…何でそう断るんだ?2回目の奴とかイケてなかったか?」  
「…ひみつ」  
「あん?」  
「ばーかっ」  
そう言って教室に入っていく。  
「ム・・・何だぁ?アイツ」  
 
昼休みの屋上。夏江が足を踏み入れると、既に人が居た。  
冬樹もそこに様子見に行こうとしたのだが、こんな時に限って先客が居たので、断念した(流石に夏江を覗くのを見られるとヤバい。先程の昂との会話もかなり教室中に聞こえてたし)。  
「夏江ちゃん………えっと、その…僕、その、」  
お前僕なんて使う性格かよ、と失礼にも先輩に向かって思いながら、夏江達から隠れて覗いてる女子から見えない所で待機し声だけを聞く冬樹。  
ようやく、そのサッカー部の先輩という―稲葉 司良(シロウ)は、柄にも無く緊張しながらも、その想いを伝えた。  
夏江はというと、既に答えは決まっていた。いきなり切るのはアレなので少し間を置いてから、  
「…ごめんなさい」  
司良のテンションが黙ってても解るくらい下がる。  
「・・・・・・夏江ちゃんは…どうして、僕やみんなの告白をすべて断るんだい?」  
「…好きな人が、居るんです」  
躊躇う様に、でも迷わず言った。  
「他の人にも、そう言ってあります」  
「・・・そうか」  
余談だが、一人目の告白者は実は昂なのである。当然クラッシュしたが。  
夏江に好きな人が居る事は、流石夏江を想っていた人と言うべきか、誰も漏らしたりしていない。  
…今回は2人ほどに既に知られてしまってアウトだが。冬樹を含めた。  
 
 
「好きな人…か」  
部活も終わった帰り道で、冬樹が呟く。  
―そこまで考えてなかったな。夏江に好きな人、か。  
そういや昔より大人しくなってた気がしたな、夏江。当たり前といっちゃ当たり前かな。  
もしかして。冷めた、とか…?  
幼馴染という充分恵まれた関係を大切にしたいと思ってんのに。  
…なんて考えててもしょうがねぇか。  
しかし…夏江の事だから好きな人とは結ばれるよな、多分。  
駄目だ、いやマジで。本気で。どうする、俺。  
例えば…告白したとして、今までの関係を保てるか。  
…無理だと思ったほうが良いか。  
でも夏江が仮に誰かと結ばれたらそれこそ保てないな。  
どうするよ、俺…  
―目を閉じていた冬樹は石垣の隅に小指をぶつけてしまう。  
「っつ…いやな予感しかしないな全く…」  
 
「夏江ちゃんってさー、好きな人居るんだねー」  
「…えっ?」  
夏江は友達の―真苗の―突然の爆弾発言に焦りつつ、  
「ちょっと真苗、何言ってるの」  
と、弁解しようとするも、構わず  
「昨日の昼休みさ、夏江屋上で」  
…と周りに聞こえる声量で続けるので一旦口を塞いだ。  
「……どうして、そんな事」  
小声になって続けた。  
「気になったからついてって覗いちゃった。それより、」  
―お願いがあるんだけど。  
 
「冬樹!何やってんのよっ!まったくもう」  
「なんだよ、これくらいで」  
教室の入り口にあるドアの上の窓に腋でぶら下がりながら言う。  
「とにかく降りなさいよ」  
「わーったわーった」  
―ま、いつも通りだな。  
「ってかお前の教室2つ隣だろ?何で此処にいんだよ」  
「あ、そうそう、……用事があって来たの」  
「ん?」  
「真苗ちゃんからなんだけど」  
「?」  
「…昼休みに、屋上に、来て、って。」  
―それは、つまり…その、まさか。  
「ふ、ふーん。じゃー宿題は今やっとかなきゃなぁー」  
言葉が少し不自然になる。  
「…なにアンタ、今日の塾の宿題も終わってないわけ?」  
夏江も心なしか歯切れが悪くなる。  
それには全く気付かない冬樹は、後ろからの視線が気になり席についた。  
 
 
昼休み。いざ行くとなると冬樹も緊張する。  
―答えは、決まってんだけどな。  
屋上に足を踏み入れると、やはり既に人がいる。  
「沙田」  
冬樹から声をかける。  
「秋山くん」  
沙田 真苗は夏江と友達である。なので冬樹とも知り合いである。  
―一回二人で話したことはあるけどあれだけで好きになったのかな。  
…いや、さすがに自意識過剰か。  
「その…私」  
ああ、でもやっぱり?  
「秋山くんのことが好きです」  
真苗の容姿も結構なものである。  
告白のその時の仕草も加えて、冬樹の心は少し揺れた。  
―答えは微塵も揺るがないけどな。  
「……ごめん」  
真苗はすぐに意味を察した。  
が、沈黙がしばらく続く。  
「…っ」  
「沙d」  
「ぅん……じゃあ、ね………いいの、わかったから」  
冬樹は黙ってその場で真苗を見送る。  
その後姿が見えなくなって1分ほど経ったかという時に動き出す。  
…泣き声を聞いてまた止まる。  
しゃくりあげる音だけが微かに聞こえただけだったが。  
―これは、俺が泣かしたんだよな…  
チャイムが鳴った事は、この二人の頭に入らなかった。  
 
 
放課後、冬樹は柄にもなく静かに教室を出た。  
―人をふる。その上泣かすってのは後味が悪いものだな。  
後悔はしてないけどな。  
「冬樹」  
「…お、おう夏江」  
「断ったのね」  
…いきなり、かよ。  
「ああ」  
「アンタだし相手は真苗ちゃんだからOKすると思ってたけど」  
「おい!あのなあ」  
「それで、なんで?」  
「え?」  
「理由聞いてなかったんだってね。泣いてたよ、真苗ちゃん」  
「……ああ…」  
面倒には…なりたくないしなあ…。  
「お前と同じ、かな」  
「私と同じ……えっ!?」  
「好きな人が居るんだろ?」  
「あ、ああ……うん」  
それで納得するなら何で驚いたんだ。  
「ふーん……あ、じゃあ私塾あるから、じゃあね」  
「おう」  
…あれ?塾ってこんなに早かったっけ?  
 

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