「まぁ、この糸割符制度っってゆーのは五都市で施行されたわけだが…」  
司は、江戸時代についてとうとうと授業を続けている男に見とれていた。  
顔はさほどいいわけではない。けれど、さわやかで、明るくて、人をひきつけるものを持っている顔だ。  
学生時代スポーツをしていたという体はたしかにしっかりとしまっていて、うらやましい。  
「―おい高槻、聞いてるか?」  
呼ばれて、司の意識は授業に戻る。聞き逃すほど間抜けではない。  
「聞いてまーす」  
そらっとぼけたように答える司に、それを確かめる問いが向けられる。  
「よし、じゃ糸割符制度が施行された五都市、言ってみろ」  
「えーと…江戸、堺、長崎、京都…と、何でしたっけ」  
「大阪。うーん。中途半端に聞いてやがるからイジリがいがないな」  
男―三宅隆也―の言葉に、教室の空気が緩む。生徒の好意を集めている隆也は、司の視線に気付かない。  
気付くはずはない―司は、男子生徒としてその前に座っているのだから―  
 
 
「じゃーなー、司」  
「おう、また月曜な」  
放課後の教室に、司は一人残っていた。部活には入っていない。  
家に帰っても誰かが待っているわけではない。  
ついでに週明けからはテスト期間だ。少し自習でもしようと、司は苦手な数学の問題集を開いた。  
一時間、二時間はあっという間に過ぎた。  
暗くなり始めた窓外に目をやると、がらりと教室のドアが開く音がした。  
「おお、頑張ってんな〜」  
隆也だ。司の心臓がはねる。  
「あ、先生。そりゃ頑張りますよー。テスト前だし。先生はもう問題できたの?」  
敬語とタメ口が混ざる程度には、二人は仲がいい。  
「ばっか、お前は人の心配するより自分の心配しろっつーの」  
ぽんと、手にした日誌で司の頭をたたく。司は笑いながらあたまをさすって、ふざけてみせる。  
「生徒の心配してくれるならさ、問題教えてよ。数学教えろとは言わないから」  
「コラ、いくらなんでもそりゃできないっつーの」  
ふたたび日誌の背で頭をたたいて、教師の顔で言う。  
「くだらないこと考える暇あったら歴史事件のひとつでも覚えろって」  
 
「ちぇー、しょうがない。地道にやるか…と」  
机に向き直ろうとした手が消しゴムをはじいてしまい、司は落ちた消しゴムを拾おうと身をかがめた。  
隆也の視線はなんとはなしにその動作を追い、ふと目にしてしまう。  
「ん〜?お前、怪我でもしてんのか?胸に包帯なんか巻いて」  
何気なく言ったはずの一言に、司はびくりと肩をすくめ、表情を凍らせる。  
「あ、まー、そんなとこ…です」  
「そっか。まぁ怪我には気をつけろよ」  
「はい…」  
司の頭をぽんぽんとたたく隆也は、気付いていない。けれど、司はおちついていられない。  
「あ、じゃあ、そろそろ帰ります…」  
「おう。あ、何なら送ってやろうか?」  
「いや、そんな…先生テスト前で忙しいんじゃないですか?それに女の子じゃあるまいし…」  
逃れようとする意思も伝わらないのかと、司ははがゆい思いをする。隆也は、優しい。  
「だからさっきも言ったろ?人の心配より自分の心配しろって。  
 大体な、テスト問題なんてもんは適当に…」  
ひとつ咳払いをする隆也は、にくめない。  
「適当って、先生…」  
 
「とにかくだ、あんなもんより生徒の身の安全の方が大事なんだよ。先生にとってはな」  
我ながらいいことを言った、と満足げにうなずく隆也を見ると、一人身構えている自分が馬鹿らしくなる。  
生徒が大事だ、というせりふをこそばゆく感じながら、司も調子に乗ってみる。  
「正直送ってもらうより問題教えてもらうほうが嬉しいんだけど…。  
 どうも先生が送りたいみたいなんで、送ってください」」  
「あのな、お前に問題を教えるということはだ。  
 テストで良い結果を出すために努力しているほかの生徒を裏切ることになるんだぞ?  
 悪いがそれだけは頼まれたってできないな」  
「わかってますってそれくらい」  
日誌でびしっと指され、それに苦笑で返し…結局そのまま、司は隆也の車に乗り込んだ。  
 
助手席に座った司は、ふと隣を見た。こういう角度でこの男を見るのは、初めてかもしれない。  
同じ目線で、横顔を。きっとここには…  
「先生。ここに座る彼女とかいないんですか?」  
自然に言えた、と司は胸をなでおろす。  
「彼女〜?んなもん、とうの昔に別れたよ」  
忌々しげに言って窓を開け、隆也は煙草をくわえた。  
煙が窓に吸い込まれるようにして外に逃げてゆく。  
 
「…お互い職持ってフリーな時間が正反対になっちまってな……自然消滅ってやつかな」  
その仕草も、話の内容も、司には遠い。  
「そーなんですか…」  
けれどその事実は、嬉しい。  
「じゃ、ここはしばらく空席ってことですね」  
「そうだな〜。教師なんてやってると出会いもなかなか無いし、しばらくはお前みたいに生徒専用かな」  
隆也にとっては何気ないその表現が、ひとくくりの中に自分がいることを痛感させる。  
司には、少し痛い。  
「まぁ、可愛い生徒がいれば寂しくないでしょ?」  
窓外に目を移していた司の言葉に、隆也は明るく笑って言う。  
「ああ、そうだな。生意気なところも含めて可愛いよ」  
司の視線は、窓から離れない。離せない。  
きっと、見られてはいけない顔をしている。体温があがった。  
「あ、このへんです。ウチあそこなんで」  
「お?おお、あれな」  
隆也は気付かない。司の家の前に車を止め、また司の心臓を打つ。  
「はいよ、お城についたぜ、お姫様」  
 
今度は、顔を背けるわけにもいかなかった。頬をかすかに染めて、司は言葉を返す。  
「どーもありがとうございました…冗談にしても気色悪いですから、それ」  
「はは。親御さんによろしくな」  
笑って、窓を閉めようとする隆也の笑顔が、愛しい。  
離れたくない。今日ならきっと、もう少しだけ一緒にいられる。  
「…ああ、うち今日両親いないんですよ。先生、夕飯まだですよね?食ってきます?」  
俺を拒絶しないで、と司の中で叫ぶ思いがある。隆也はそれには気付かない。気付かないけれど。  
「ん?良いのか?なら姫様の手料理とくと拝見いたしましょうかね」  
「だーかーらー!そういう冗談はよそでやってください、よそで」  
安堵をむくれた表情で押し隠して、司は玄関をくぐる。  
隆也はおもしろそうにはいはい、と返事をしながら、それに続いた。  
「あ〜……しかし親御さんがいないとなんかきまずいよなぁ…」  
隆也をリビングに案内した司は、荷物を置いて隆也に向き直る。  
「気まずい、ですか?あ…俺は楽でいいですけどね〜」  
家の中で使うあたし、という単語が口からでかかって、慌てて台所に足を向ける。  
「まぁテレビでも見ててください。適当になんか作りますから」  
言われるままソファに腰をおろした隆也は、テレビをつけニュースを見始める。  
「そりゃあお前さんは気楽かもしれんが、  
 突然親御さんが帰ってきた時に俺はどういう顔すりゃいいのかって事だよ」  
 
「あぁ、そーゆーことだったら問題ないですよ。  
 オヤジは短期出張中、母さんは昨日から二泊三日の温泉旅行ですから」  
司は冷蔵庫をあさりながら言う。家族の話をするうち、思考が家での日常に戻った。  
「まったく何考えてんですかねー、娘一人置いて…って、あ… 」  
司の動きが止まる。表情が凍る。失言をなかったことにするかのように、慌てて手を動かし始める。  
けれど隆也はニュースを見ながら、平然と言い放つ。  
「なかなか豪胆なご両親だな。こんな可愛い娘置いて家空けるなんてな」  
そこに違和感はない。思わず、司の手元がすべる。  
「っいっつぅ…!」  
指の皮を切り、鮮やかな赤が滴る。司はそれを口に含んで血を吸い取る。  
心臓が不規則な動きをしている。鉄の味を舌に感じながら、落ち着け、と自分に言い聞かせる。  
そうだ、耳に入ってくるニュースのキャスターのように。落ち着け。  
「ん? おい、大丈夫か?」  
隆也が司の側に歩み寄る。 そして。  
「指切ったのか? 見せてみろよ」  
自然と、司の手を取る。  
「せんせっ…」  
もう、平然となどしていられない。司の目は不安のためか、大きく見開いている。  
 
「先生、知ってたんですか!?俺が女だって…」  
「は? 女?」  
興奮気味の司の声と、対照的に落ち着いた隆也の声。  
「お前、熱でもあるのか?」  
隆也はどこまでも平然としている。興奮した様子の司の額に手を当てて、目を覗き込む。  
じっと、見返した司の目に、涙がこみあげる。  
隆也の胸が、どきりと鳴った。自分が泣かせたわけではない、はずだ。けれど。  
司は乱暴に手を払いのけて、傷の手当てもせずに、料理を再開しようとする。  
「…っもう、いいです、大丈夫ですからっ! 」  
「っ……おい……」  
呆然とする隆也の声に、答える余裕もない。  
短い沈黙の間に、隆也の頭の中で何かがつながる。さっと、顔色が変った。  
「……なぁ、その、悪いが一つだけ答えてくれるか? あの、さっきは俺が悪かった。すまん 」  
頭を下げられたところで、司の心が落ち着くわけではない。  
ざわざわと、涙の波を寄せるざわめきは止むどころか激しくなっている。  
「…いえ、悪いのは、俺ですから…」  
隆也の困惑した表情が見える。彼を困らせたのは自分だ。それも、至極勝手に。  
 
自分に嫌気がさして、司はそれ以上話す気になれなくなった。  
「………ごはん、作りますから…」  
声は震えたまま、まな板に向き直ろうとした。それを、硬い声が引き止める。  
「いや、その前に一つだけ教えてくれ。その、お前、女だってのは……マジなんだな?  
隆也の眼差しは、声と同じく真剣だ。その眼差しに、はぐらかしは通用しない。  
「…はい…。今まで、嘘ついててすいませんでした…」  
はぐらかせない代わりに、司は頭を下げた。視線から逃れた。  
今までは伝えたくて仕方なかった自分を、今は伝えたくなくて。  
けれどざわざわとした波はもう静まりそうにはなくて、言葉だけが口をついて出てくる。  
顔を上げることは出来ない。  
「…だから、先生、わかっててあんな冗談言ったのかと思ったら、悲しくて…」  
あんな冗談。自分を男と偽っている…女である司には、辛かった。  
「俺、からかわれてるのかなって…」  
そんな悪意がないことは、少し考えればわかるはずだった。けれどそう感じてしまった。  
特別な相手だからこそ、ざわざわと、ざわざわと胸が騒いでしまって。かすかに、肩が震える。  
その肩に、隆也の手が置かれる。  
「いや……お前が悪いんじゃない。  
 知らなかった事とはいえ、生徒を悲しませるようじゃ教師失格だな…… 」  
 
深く頭を下げた隆也に、すぐには言葉が返せない。 ただ、首を横に振る。  
「…いえ、俺が勝手に…嘘ついてたくせに、一人でドキドキしたり怒ったりしただけで…」  
思い返せば思い返すほど、自分の一人相撲だ。隆也には何の非もない。なのに頭を下げさせて。  
「…っ」  
ぽろぽろと涙がこぼれる。これ以上、困らせたくはない。司は無理に笑ってみせる。  
「…はは…女だってわかってたら、いくらなんでも親がいないのにうちにあがったりしませんよね」  
そうだ、このまま終らせよう。そう思ったのに。  
「そんなことにも気付かないで、俺…ほんと、バカみたい…」  
涙が止まらない。頬を流れる涙を手の甲でぬぐう。  
「まあ、なんだ……お前にも色々事情があるだろうから、深くは聞かないよ」  
肩に乗っていた手が、ポンと優しく頭を撫でる。その優しさが、余計に泣かせるともしらないで。  
「…ありがとうございます…」  
頬を赤くして、司は思う。  
きっと自分は、この人への思いを断ち切れない。それは絶望に似た、けれど喜ばしい感情だった。  
そう思ったとき、隆也が口を開いた。自分でも不思議な台詞が口を付いて出てくる。  
「ただな、今だから言えるが、可愛いってのはホントだ。全部ひっくるめてな」  
照れ隠しに、咳払いまでして。  
 
「…っ…先生、それ、ずるいです…」  
司はますます頬を朱に染めて、上目遣いに隆也を見やる。  
仕草も声も、隆也の知らない、少女のそれだ。  
「お、お前だってズルいぞ……。そんな目で見ないでくれ……」  
教師としての皮はずるずると剥がれ落ち、女の子を前にしてただ狼狽するしかない男がそこにいる。  
「だってそんな…可愛いとか、言われたら…」  
耳まで真っ赤に染めてうつむいた司の口からは、か弱い声が漏れる。  
「…口説き文句じゃないですか…」  
―あぁそうだ、口説き文句だったんだ。  
隆也の中で、すべてがつながった。そうだ、生徒としてではなく。ただ目の前にいる少女を。  
「……イヤか……?」  
自分でも不思議なほど、落ち着いた声だった。  
ぴくり、と司が身を震わせる。  
答えを待つのがもどかしい。  
俯いたまま、かすかに震える唇から…決して聞き逃してはならない言葉が発せられる。  
「…イヤじゃない、です…」  
おずおずと顔を上げ、涙で赤く染まった目で見つめ返した。  
 
隆也は黙って頷いた。この言葉の少なすぎるやりとりが、一つの契約であったように。  
「俺は今から男として、お前を一人の女と見る事にする。だからお前も、俺を教師として見ないでくれ……」  
我がままだということはわかっている。お互いに都合のいい詭弁であると。それでも、言わずにはいられなかった。  
これから、自分が彼女に何をするのか、わかってしまったから。  
逡巡と罪悪感を追いやって、細い司の背に腕を回し、そっと抱きしめる。  
「…はい…」  
広い背に細い腕を回して、相手の鼓動を肌で聞く。  
どくどくと、心臓の音が重なり合う。  
隆也の唇が司の頬に落とされる。恥ずかしげに目を伏せた司も、そっと顔を上げて。  
「………」  
自分から唇を重ねる。  
柔らかな少女のそれを、味わい尽くしたい。頭を抱き寄せるよう腕を回し、何度も何度も、唇をついばむ。  
「んぅ…ん、ん…」  
ドクドクと打つ心臓の音を聞きながら、司は隆也の背中にしがみつき、つたない舌の動きで口づけにこたえる。  
それに応えるように舌を絡み付かせ、隆也は少しだけ唇を離して呟く。  
「……全く……可愛い過ぎるぜお前は……」  
「…ん、んはっ…はぁっ…」  
息の上がった司の耳にその呟きが入り、思わず耳まで真っ赤に染める。  
「…タラシでしょ、先生…」  
「ひでぇな……」  
くっ、と喉を鳴らして苦笑した隆也に、司は眉をしかめてみせる。  
「…だって、恥ずかしいことぽんぽん言うから…」  
「あのくらいの台詞がポンポン言えるような図太い神経じゃないと教師なんかやってらんねーって」  
「う、それはそーかもしれないけど…」  
 
口ごもる司の腕を持ち上げてわきの下をくぐり背後に回りこんで。  
「これでも一途なんだぜ、俺は」  
後ろから抱きしめ、その身体の細さを実感する。  
「ひゃ…ちょ…先生、ここ、台所…!」  
くすぐったそうに首をすくめる司の反応を可愛らしく思って、頭に顔をつけて、そらっとぼけたように言う。  
「ん? 何か問題あるか?」  
その手は悪戯に司のお腹周りを撫で回す。  
「っん…ある!問題ある!…教育者なんだからもうちょっと生徒に優しく…っ」  
司に腕を押さえつけられても、焦りは感じない。  
「残念、教育者の時間は定時で終わってっから」  
指先でお腹をわきわきしながら耳たぶを甘噛みまでして、司を赤面させる。  
「う、ふぁっ…ほんと、ずるい…」  
隆也は、自分の口元が緩むのを抑えきれない。顔を見られなくて良かった。  
「ま、姫様のご希望は聞かなきゃならんわな。やっぱりベッドがお望みですか? お姫様……?」  
また司をからかうように行って、更に首筋へキスを落とす。  
「っん、だからそれは…!」  
お姫様、という単語にかみつこうとした司は、結局言葉につまる。  
隆也にからかわれるのは気に食わないけれど、嬉しい。だからむくれたように言う。  
「…ベッドがいい、です…」  
それを聞いた隆也は、耳元でうやうやしく答える。  
「かしこまりました、姫……」  
そのまま、背中と膝裏あたりに腕を回してお姫様抱っこをする。  
「うわっ…と…自分で歩き……もういいや…」  
 
あきらめた司の腕が首に回され、満足げに笑んで。  
「それでは寝室へ御案内下さいませませ」  
額へキスして、お姫様のご指示を仰ぐ。 キスに軽く目を瞑った司も悪戯っぽく笑う。  
「…ニ階、ですけど…階段きついですよ?」  
「こう見えても学生時代はバリバリの運動部だったんでね。お前一人抱えるぐらいどうって事ないさ」  
言葉どおり司を抱えたまま苦も無く二階へ上がり、司の部屋の前で立ち止まる。  
「さて、両手がふさがっているのでドアが開けられません。ここは一つ姫様自らお願いしたく存じまそうろう」  
「はいはい…」  
司が手を伸ばしドアを開けると、持ち主の性別がわからないような部屋が目に飛び込んでくる。  
「お邪魔しますっと……何か一貫性の無い部屋だなぁ……」  
ぐるりと見渡して苦笑した隆也に、司は丁寧に説明をしてやる。  
「あぁ、親の趣味を自分の趣味に塗り替えてる途中だから…」  
「…あ、片付けてないや…」  
司の呟きを聞き、机の上に教科書をみつけ、思わず教師としての感想が口をつく。  
「なんだ、ちゃんと勉強してるんだな……感心感心……」  
「まぁ、流石にこの時期になったらやっとかないと…っ!?」  
不意に唇を重ねられた。 突然のことに驚き、思わず隆也の首を抱いていた腕に力が入る。  
頬は、きっと赤い。  
「…っなんなんですかイキナリっ…」  
「ん? ご褒美。努力出来る奴は好きだぜ」  
しれっと言い放った隆也に唇を尖らせ、司は視線をそらす。  
「…今は教師じゃないとか言ってたくせに…」  
隆也は司を抱えたままベッドに座り、膝の上に司を座らせる。  
 
「ま、細かいことは気にすんなって」  
笑って、隆也は司の髪をかきあげ、再び唇を重ねる。  
「…ずりぃなぁ…」  
司は大人しく膝の上に座り、されるがままになっている。  
戸惑いが胸を満たしていて、自分から動く勇気が無い。  
けれどそれが、健気にも見える。  
「……本当に良い女だよ、お前は」  
唇を離した隆也は真面目な顔つきで呟いて、足を開き、その間に司を座らせて後ろから抱き締めた。  
「…センセ…俺…」  
とくとくと鳴る心臓の音が聞こえてはいないだろうか。  
後ろから抱きしめられて、その腕をつかんで、搾り出すように呟く。  
「本気で、惚れちゃうよ?」  
 
何てことを言ってくれるのだろう、この少女は。隆也の声は自分が思っているより優しかった。  
「お前に惚れられるなら大歓迎だよ……」  
後ろから司の耳たぶを甘噛みし、更に首筋を責める。  
「…っ…っんぅ…や、そこ…ダメ…っ」  
耳たぶへの愛撫に続く首筋への責めに、震えて声を漏らす。  
その反応に気を良くしたのか、隆也は耳から首筋のラインを執拗に責め、胸の辺りをまさぐり服のボタンを外していく。  
「ひぁ、ダメ、だってばぁ…」  
ふるふると首を横に振るが、抵抗はしない。  
「たまらないね、その仕草……。ますます燃えてくるぜ……」  
口元が緩む。対して司からは、余裕が無くなっていく。  
「……今は邪魔だよな、これは」  
片手で露出したお腹を撫でながら、きつく司の胸を押さえているサラシを解いていく。  
「はぁ、ふ…うん…」  
隆也の手の動きに、司はくすぐったそうに身をよじる。  
それにもかまわずサラシを解きさって、露わになった胸を下からすくいあげるように鷲掴みして  
左右でリズムを変えて優しく揉んでいく。 手触りのよい胸は大きくは無いが、感度は良さそうだ。  
「んは、ん…んぅっ…はぁ、はぁっ…あ、はっ…んはぁっ…」  
鼻にかかった高い声が漏れ、行き場のない手がシーツをつかむ。予想通りだ。隆也はこっそりとほくそえむ。  
「良い声だ……もっと聞かせてくれよ……」  
胸を揉む力に強弱と緩急をつけてじっくりと愛撫し、時折乳首をツンと弾く。  
「はぁ、はっ…やぁっ…ふっ…はぁっ…あぅ…せん、せ…っ」  
 
乳首をはじかれるたび悲鳴のような声が上がる。羞恥心は、思ったほどみられない。  
きっと、赤い顔も、その表情も、隆也からは見えないからだ。  
「ん? ここが良いのか……?」  
両乳首を軽くつまみ、指先で優しく転がす。  
「ひぁ、やぁっ…は…んくっ…はぁ、はっ…あぁっ…」  
快感に嬌声をあげ、シーツを握りしめていた手を口に持っていき、指をくわえる。  
声を押さえ込もうとしているのだろうが、うまくいかない。  
厭らしい司の声に耳を奪われ、隆也の口数が少なくなっていく。  
右手で胸を愛撫しながら左手を腹部へ滑らせ、司の下半身を守るズボンの封を一つまた一つと外していく。  
「はぁ、は…あ…せん、せっ…」  
胸への愛撫に声をあげながら、下半身に触れられ思わず隆也を呼ぶ。  
けれどそれは、拒絶ではない。じっとりと濡れているそこに触れられるのを、司はおびえながらも待ち望んでいる  
「ああ……」  
優しい声色で返答し、ズボンのファスナーを下ろした隙間から手を差し込んだ。  
手のひら全体で股間を撫で、指先で恥丘をくすぐる。  
「は、はぁ…あ、は…んふっ…はぁ…」  
ぞくぞくと走る快感に、次第に頭が働かなくなって、舌足らずな声で誘う。  
「せんせぇ…気持ち、いいっ…」  
「ん、ありがとよ……。へへっ、今のお前……最高に可愛いぜ……」  
その言葉さえ、今の司には肉体的な快感になって背を走る。  
隆也は乳房から手を離してお腹を撫で、股間に潜り込ませた指を恥丘から生暖かく湿った柔らかい溝へ食い込ませて擦っていく。  
「はぁ、ふ…は…ん、はっ…ひぁ…あっ…」  
布地を隔ててぬめりの上を指が這う感覚に喘ぎ、思わず脚を閉じようとする。  
「おっと……まだまだこれからなんだぜ……?」  
 
お腹を撫でていた右手で司の右足を膝の裏から持ち上げ、ベッドの上に立て膝をさせる。  
「え、あ…」  
戸惑う司の足を抑えながら、左手を下着の中へ差し込んで無防備になった生の股間を直に愛撫していく。  
やわらかな花弁を指先で押し開き、なぞる。  
「っん、ふっ…はぁっ…はっ…」  
腕の中で、熱い体が震える。  
ねっとりとした愛液にまみれた溝に指を滑らせ、その奥にある秘穴に指を潜り込ませた。  
「っあっ…!」  
指の質感に、反射的に膣が締まる。  
「凄い……締まりだな……」  
しめつけられた指を動かして絡みつく膣肉を押し開きながら、襞を引っかくようにゆっくり指を出し入れする。  
「…んぅっ…は…あ…は、んっ…」  
内側への刺激に、感じたままの声をあげて、口を閉じることも出来ずにいる。素直な反応だ。  
「……ヤバい……もう、我慢出来ない……。良いか……?」  
聞きながら、きっと頷くと確信している。  
「はぁっ、は…はい…っあ…っ!」  
熱い吐息の合間に聞こえる返事は予想どおりだった。  
指で膣内をほぐしながらクリトリスへ軽く触れると、司は鋭い刺激にびくりと身体を震わせた。  
色付いたうなじに口を寄せる。軽く汗ばんだそこからは、女の匂いがする。  
「……ありがとな……」  
司の腰を浮かせてズボンとパンツを膝まで下ろし、秘穴を露出させる。  
自分の勤め先の学生の制服、しかも男物(いや、女物ならいいというわけではないが)を脱がせるのは、少し変な気分だ。  
けれどそこから現れた腿の滑らかさは、隆也の目を喜ばせる。  
 
下半身をさらされて、司は一瞬肌が粟立った。  
「後はお前のペースに合わるからな……」  
お腹を抱えて司の身体を持ち上げ、秘穴の入り口と取り出した肉棒の先端を密着させる。  
抵抗がなかったせいだろうか。この身体を味わうのは自分が最初ではないと感じた。  
「…ん、は、はい……っ…いれます、よ…」  
一瞬の躊躇がみられたが、そのうちゆっくりと腰を下ろし始めた。  
「ん、くっ…あ、はっ…はぁ…っ」  
少しずつ、濡れた中心に男を飲み込んでいく。司に余裕はない。  
隆也は目を閉じ、暖かく柔らかいものに肉棒が包み込まれる感触に酔いしれる。  
「お前の中……熱くて、ヌルヌルで……気持ち良いぜ………」  
酔ったような言葉とともに、司の中で肉棒が更に膨張し、ビクッと跳ねる。それを感じて、司の背も跳ねる。  
「っはぁっ…は…んんっ!」  
それでも息を乱しながら少しずつ腰を下ろし、しっかりと根元までくわえ込む。  
安堵と、隆也と繋がったという喜びに、ようやく司の表情が緩む。  
「…あ…は…先生ので、なか、いっぱい…」  
しばらく肩を上下させていたが、ふと呟く。  
「はぁ…せんせ…キスして…」  
喜んで、と心の中で返しながら、司の身体を片腕で支え、空いた手を頬に添えて振り向かせ、唇を塞ぐ。  
「……んっ……」  
膣内の躍動に呼応するかのように肉棒がビクッと跳ねる。  
「ん…ふ、あっ…」  
勝手に交合を始める膣内に翻弄され、司が唇を離してしまう。  
恥ずかしそうに笑う。いまさらのその反応も、愛らしい。  
 
「…せんせ…動くよ…」  
言って、腰が動き始める。ゆっくりと、浅いストロークから…徐々に深く、早くなっていく。  
「…っは、はぁ、あっ…あ、ひゃっ…んっ…は…」  
腰の動きに合わせて、媚びる様な悲鳴がため息に混じる。それが粘りつくような水音とともに、隆也を興奮させる。  
「せんせ、気持ちいい…?」  
快感に酔ったように問いかけられれば、頷かないではいられない。  
「っ……ああ……ヤバいぐらい、気持ち良い……」  
段々と隆也の息も艶が帯び、司の耳に熱い吐息とともに囁きかける。  
「んは、はぁっ…っは、あ…んうっ…ふ、やぁ…!」  
司は自ら腰を揺らし喘ぎながら、耳に吹きかけられた吐息にも敏感に反応する。  
「ん……」  
時折腰を動かして司の膣内をえぐるように挿入角に変化をつける。  
「…っく、あ、あっ…」  
不意に与えられる刺激が司の頭の奥の方にちりちりと火花を散らす。  
「は、ふぁ…あっ、んんっ…あふっ…」  
「はぁ……はぁ……はぁっ……! 」  
少しでも長く繋がっていようと、沸き上がる射精感を堪えながら司をギュッと抱き締める。  
そんなことにはおかまいなしに、腰の動きにあわせて淫らな肉壁までもが男を翻弄しようと収縮を繰り返す。  
「せん、せ…せんせぇっ…」  
司自身の快感も抑えきれなくなって、理由も分らないまま涙がこみあげてくる。自分を抱きしめる手を握る。  
「……っ……う……ヤバい……出そうだ……」  
絡みつく膣肉の魔性の如き質感に急速に射精感を促され、肉棒が肥大して司の中で暴走を始める。  
「はぁ、あっ…んんっ…いい、よ…?先生…っ!」  
 
自分の中で脈打つモノの感触と苦しげな声に、喘ぎながらも穏やかな声を返す。  
司はこんなにも穏やかに受け身なのに、どうしたことだろう。この別の生き物は、隆也を責め続ける。  
「つか……さ……」  
隆也ははすんでのところで射精を堪えた。司の名を呼びながら両手を使って乳首とクリトリスを同時に刺激する。  
「っ!ひあ、あっ…あっ…あぁっ…やぁ、イっちゃうっ…!」  
強すぎる快感に悲鳴を上げ、司の身体がびくびくと震える。  
「はぁ……はぁ……つかさ……っ! 」  
乳首とクリトリスを激しく刺激しながら、意を決したように腰を振り始める。  
「はぁ、は…あ、んっ…せんせぇっ…っ!!」  
弱い場所への同時の責めと内側を侵しつくされ、司の限界が近付く。  
隆也も絡みつく膣肉を無理矢理突き抜けて子宮口を何度も何度も突き上げて快楽の絶頂を昇りつめていく。  
―耐えられない。  
「っ……! 出るっ……!!」  
射精の寸前に力の限り司の身体を持ち上げ、秘穴の入り口に多量の白濁液をぶちまける。  
「…あっ―!!!…は、はぁっ、は、はぁっ…!」  
司は絶頂を迎えると同時に引き抜かれる快感に震え、ぶちまけられた熱いものを感じる。  
ぐったりと隆也の胸に倒れこんで、息を整える。  
「…は…せんせぇ…」  
「はぁ……はぁ……」  
荒く息をつきながら司の身体をゆっくり膝の上に下ろし、寄りかかってきた身体を優しく抱き締めた。  
頬に涙の後がある。泣いた、らしい。いや、この場合泣かせた、というのが正しいのだろう。二回目か。  
「……最高だったぜ……司……」  
頭を撫でながら呟き、微笑む。司は安堵に目を細め、上気した頬をさらに赤くする。  
「…ん、俺も…気持ちよかった…」  
 
ふと、司の目が隆也の目をのぞきこむ。  
「…先生、服汚れちゃったけど、どうする?」  
言外に誘いを含ませて、いたずらな笑みで問いかけた。その真意が、いまいちつかめない。  
「ん……? お前、そんなもん大した事ねぇって」  
「じゃなくて、まさか帰るなんて言わないよね?」  
まいった。これは断れない。  
「………ん……」  
不意に司にキスをし、そのままベッドに寝かせた。  
「……お前こそ、身体は大丈夫か? 」  
頭を撫でられた司は目を細める。  
「ん、へーき………あ。」  
思い出した、という表情の司の顔をのぞきこむ。  
「…おなか空いた。ごはん作ってたんだった…」  
司は隆也の手を引き、甘えるように身体をすり寄せた。  
「…もう少しこうしてても、いい?ちゃんとご飯作るから…」  
 
 
結局、この日はテスト勉強どころではなかったという…  
 

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