「せっかくの休みなんだから旅行したいな。」  
 
誰からともなくそんな話になった。  
高校の夏休みが始まってから一週間ほどたったある日のことである。  
場所はとあるファミレスで、久しぶりに気の置ける男女六人が集まって  
馬鹿話に花を咲かせていたところだ。  
 
「いいねえ、旅行かあ。」  
「せっかくだから遠出したいよね。」  
「ついでだから泊まっちまおうぜ。」  
「え〜、泊まるの?」  
「大丈夫、大丈夫。だって、夏休みだし。」  
「・・・それって、関係あるの?」  
「気にするな!夏休みだから!」  
 
なんとなく「夏休み」という言葉のノリと勢いで話が進んでいるが、そこはそれ  
みんなで遊びに行くのに異存はなかったので、話はトントン拍子に進んでいった。  
 
「・・・じゃあ、予定は一週間後でいいな。宿の予約とかはしとくから。」  
「おう、頼むわ。じゃ、俺達こっちだから。」  
「バイバイ。旅行楽しみにしてるからね。」  
 
それぞれに別れの挨拶をかわしながら俺達は家路に着く。  
残った四人が顔を合わせて何か企んでいる事にも気づかずに。  
 
「しっかし、旅行なんて久しぶりだな。」  
「まあね。それより健太、旅行のお金持ってるんでしょうね?」  
「あ、あたりまえだろ。」  
「ふ〜ん・・・ま、私は貸さないわよ。」  
「ぐっ・・・」  
「なによ、図星ぃ?」  
 
おどけた口調ではるかが笑った。  
 
今俺と話をしてるのが幼馴染のはるかだ。  
はるかとは家も隣同士で、幼稚園からずっと同じ学校である。  
昔から男勝りで、幼い頃も男の子の輪の中に入って毎日泥だらけになるまで遊んでいた。  
おまけにたかだか数ヶ月早く生まれただけなのにもかかわらず、俺にいろいろ命令したり  
なんだか妙な世話を焼いたりしていた。  
流石に最近は泥だらけにこそなりはしないが、ジーンズにスニーカーといった軽装な服を好み  
髪をポニーテールにまとめていつも飛び回っている。  
割と華奢な体のどこにそんなパワーがあるのか、あきれるやら感心するやらだ。  
周りの奴は、「キリッっとした美人」なんて表現もするのだが別に俺はそんなこと思わない。  
いや、俺が認めたくないのかもしれないが。  
胸なんかもそこそこあるのかな、なんてボンヤリと考えていると。  
 
「なに、ボッ〜としてんのよ。」  
「してねえよ。ちょっと考え事をしてただけだ。」  
「考え事〜?どうせろくなことじゃないんでしょ?」  
「バッキャロ〜、いいか人生とはなんぞやという高尚な思索を・・・」  
「ふ〜ん、それで人生とは?」  
 
「えっ、いや、だからじんせいとは、その、つまり。」  
「つまり?」  
「ようするに。」  
「ようするに?」  
「お腹がすくものだな。」  
「・・・・・・」  
「・・・・・・」  
「・・バ〜カ。」  
「んだとう!」  
 
あきれた口調ではるかが応じたが、目元は笑っていた。  
なんだか機嫌はいいらしい。そんな事はなんとなくわかる。  
いつもの日常の、いつもの風景。  
俺とはるかはそんな仲だった。  
 
 
それから三日後、旅行の予定が決まったと電話あった。  
 
 
 
「正志と蛍子がこれないって?」  
「ああ、今朝方連絡があった。」  
 
旅行当日集合場所に行ってみると六人のはずが少し事情が変わっていた。  
俺とはるかはなんとなく顔を見合わせる。  
聞くところによると、正志は親が勝手に夏期講習の申し込みをしたらしく、脱出を試みたものの  
あっさり看破されそのまま予備校に行かされたらしい。  
蛍子のほうは急な親戚の不幸があり今回は辞退するとの事だった。  
 
 
「なんだかな。」  
「しゃ〜ない、こうなっちまった以上俺達四人だけで行こうぜ。」  
「・・・まあしょうがないよね。」  
「そうね。じゃ、行こうか。」  
 
俺達は気を取り直して、長距離バス乗り場へと向かった。  
話によると最寄の駅からバスで三時間くらいのところにあるらしい。  
目的地は風光明媚なところで、旅館は終点の近くにあるという。  
なんだか露天風呂もあるらしい。  
なんとなく気分も高揚してきた所で席に着こうとすると  
 
「あ、お前とはるかは別の席。」  
「へ?男同士で座るんじゃないの?」  
「せっかくの旅行で男同士なんて何が楽しいものか。ほれ、行った行った。」  
 
というわけで俺が席を移動すると既にはるかは席に着いていた。  
そして俺をみるなり憎まれ口を叩く。  
 
「な〜んだ、健太か。」  
「なんだとはなんだ。仕方なく座ってやろうというのに。」  
「ふ〜んだ、仕方ないから座るのを許可してあげるわ。」  
「へえへえ、ありがとよ。」  
「素直でよろしい。それじゃあこれをあげよう。」  
「・・・なにこれ?」  
「ボケまで始まってるの?これは、クッキーというおかしだよ。」  
「んなこたあわかっとるわ!」  
「まあ、いいから食べてみなさいよ。」  
「・・・ま、いっか。」もぐもぐ  
「どう?」  
「・・・・・んまい。」  
「やったね!」  
 
満面の笑みを浮かべて勝ち誇るはるか。  
俺はそんなはるかを横目で見ながら、結局全部食べてしまった。  
なんでみんなの分を残さないのかと後で怒られたのだが。  
そんなこんなで目的地の旅館近くに到着した。  
 
 
「ここで別れる? なんで?」  
 
着くなりいきなりの申し出がこれだった。  
もう一組の男女、さとると陽子はさも当然のごとくだ。  
 
「俺達が付き合ってるのは知ってるだろ?」  
「そりゃ知ってるが、しかし・・・」  
「んじゃそういう事だ。これが、旅館の住所を書いたメモな。部屋はお前の名前で取っておいた。」  
「っておい、ちょっと!」  
「それじゃあ達者で暮らせ、友よ。」  
 
そういうなり、さっさと行ってしまった。  
陽子もそれに従い、別れ際ウインクをひとつ投げてよこした。  
なんだかエールのような感じもしたのだが気のせいだろうか。  
 
「・・・どうする?」  
「どうするって言われてもなあ。どうしたい?」  
「う〜ん、ここまで来て帰るのもなんだし。」  
「そうだな。とりあえずこのメモにしたがって宿まで行ってみるか?」  
「そうね、日も落ちかけてるしそれしかなさそう。」  
「よし、じゃ行くか。その荷物持ってやるよ。」  
「ありがと。優しいんだ。」  
「失敬な。俺はいつでも優しい。」  
「・・・そだね。」  
 
ここぞとばかりに憎まれ口が飛んでくるかと思ったが  
なんだか素直にはるかがうなずいたのは意外でもあった。  
しばらく雑談しながら歩いていると件の旅館に到着した。  
古風ながらも落ち着いた様相である。  
 
「うわぁ、結構立派だね。」  
「確かにな〜。とりあえず入ってみようぜ。」  
 
俺達はそのまま受付に向かい、来訪を告げた。  
愛想のいいおばちゃんが出てきて、いらっしゃいませだの遠い所からようこそだの  
いろいろと話している。かなりの話好きのようだ。  
ようやく話が一段落した後で、部屋の鍵をもらった。  
 
――1つだけ。  
 
 
あれからおばちゃんに詳細を尋ねると、部屋は元から1つしか予約されていないこと。  
他の部屋は予約で埋まっており、今から部屋は取れないとの事。  
俺達は抗議しようとしたが、おばちゃんは柳に風とばかりに受け流し  
とりあえず俺達はうやむやのままに部屋のほうに案内されてしまった。  
部屋のほうは落ち着いた和室であり、テーブルやテレビが置いてある部屋と  
襖でしきられた寝室があった。  
しかたなく俺達は、荷物を置いて一息入れることにした。  
 
「お、お茶でもいれよっか?」  
「え、あ、うん、頼む。」  
 
普段見ないまろやかな動作でお茶の用意をするはるかを見て、なんとなく俺は目をそらした。  
しばらく沈黙が支配し、食器の音だけが場を支配する。  
 
「はい、どうぞ。」  
「サンキュー。」  
「・・・・・・・」ズー  
「・・・・・・・」ズー  
 
「「あの・・・」」  
 
「あ、なに、健太?」  
「い、いや、その、なんか妙な事態になっちまったな。」  
「そ、そうだね、なんか妙な事態になっちゃったね。」  
「・・・・・・・」ズー  
「・・・・・・・」ズー  
 
「「あの・・・」」  
 
「な、なんだ?」  
「あ、あの、成り行き上、なんか一緒の部屋になっちゃって、その、だからって、別にその一緒に  
 休むってことじゃなくて、つまり、えと、男女七歳にして同室せずっていうか、だから、あの・・・」  
 
はるかは、顔面真っ赤になってしどろもどろになりながら、身振り手振りも踏まえて何とか説明を  
しようするが、言葉にしようとすればすればするほど支離滅裂になっていく。  
俺はそんなはるかを見て、ふっと落ち着いた気持ちになった。  
 
「・・・だから、あの・・・」  
「要するに、布団は放して寝るって事だろ?」  
「え、あ、うん。」  
「それとも一緒に寝たいのか?」  
「バ、バカ言ってんじゃないわよ!」  
 
俺達はそれからいつものような憎まれ口を叩きあいながら、お互い調子を取り戻していった。  
そのうち、はるかはお風呂に入ると言い出して出て行ってた。  
俺は少しぼんやりしていたが、せっかくなので風呂に行くことにした。  
 
その旅館の露天風呂はウリのひとつらしく、なかなか豪勢だった。  
俺は手早く服を脱ぐと、露天風呂に飛び込んだ。  
時間帯のせいか他に人もいなくて、ちょっと優雅な気分になりながらその辺りをぶらついていると  
思いがけない方向から、物凄い速さで何かが飛んできた。  
その物体は俺の顔面を直撃し、朦朧とする意識の中なんとか正体を確認する。  
それは桶だった。  
 
「な、な、な、なんで健太がここにいるのよ!」  
 
充分すぎるほど聞き覚えのある声が耳に届いた。  
湯煙の中目を凝らすと、体にタオル一枚つけただけのはるかが怒りをあらわに立っていた。  
髪を洗ったのだろうか、普段のポニーテールをおろしロングヘアーが光っている。  
普段見ることのない両足が目に飛び込み、慌てて視線を上げると上気したはるかの顔にぶつかる。  
俺はこんな状況にもかかわらずはるかを凝視すると、お返しに二個目の桶が顔面にヒットした。  
 
「信じらんない!こともあろうに女湯に忍び込むなんて!」  
「ちょ、ちょっと待て、それは誤解だ!ていうか、なんでお前がここいるんだ?」  
「問答無用!天に変わってこの私が天誅をくれてやるわ!」  
「ほんとに誤解なんだってば!俺の目を見ろ、これが嘘をつく目に見えるか!?」  
「・・・・・」  
「陸に打ち上げられた魚のような目をしてるわ。」  
「なんっじゃそりゃ!・・・っておい、誰かくるぞ。」  
「誤魔化そうたってその手に乗るもんですか!」  
「ホントだって。よく見ろ。」  
「え、うそ!?」  
 
困惑するはるかをよそに、大柄の男性が鼻歌混じりに近づいてきている。  
俺は咄嗟にはるかの手を取り、近くにある人工物の隙間にはるかを押し込んだ。  
 
「いや〜、露天風呂はエエなあ、なあ兄ちゃん!」  
「そ、そっすね。アハハハ・・・」  
 
はるかを押し込んだ後、俺は自分の体で蓋をしてはるかを見えないように隠した。  
その男性は俺を見かけると、陽気に話し掛けてきた。  
俺は失礼の無いよう無難に話を合わせていると、その男性は興が乗ってきたのかいきなり歌い始めた。  
俺もついつい手拍子なんぞを打ってしまう。  
 
「(バカバカ、なに手拍子なんかしてんのよ!)」  
「(しょうがね〜だろ!成り行き上こうなっちまったんだから。)」  
 
俺は必死になって弁解するのだが、その男性の視線を逸らす事と同時に気になる事があった。  
はるかを押し込んだ隙間が狭かったせいか、右の胸が背中に当たっているのである。  
タオル越しとはいえ、十分な弾力を含んだそれは俺の感覚を集中させるのに十分だった。  
おまけに、不意の動作で触れる素肌の感触、おもわず漏れるはるかの吐息が首筋を撫でる。  
結果的に俺のアソコは反応し始める。  
 
「(待て待て、静まれ俺!)」  
 
胸の感触と、アソコの反応と、男性への対応を気にしながら俺がパニックになりかけていると  
その男性はようやく気が済んだのか、じゃあな兄ちゃん楽しかったでえなどと言うセリフを残して  
ようやく去って行った。  
 
「やれやれ一難去ったか、なあはるか。」  
「・・・・・」  
「はるか?」  
 
はるかの返事がないのでいぶかしく思いながら振り返ってみると、はるかが目を閉じて俯いている。  
体を揺すってみると反応がない。どうやら湯にのぼせてしまったらしい。  
 
俺は状況を理解すると、即座にはるかを抱いて秒速で更衣室に移動した。  
幸い誰の姿も見かけなかったので、俺は可能な限りはるかの体を見ないようにしながらタオルを  
取って体を拭き、浴衣を着せるというよりは巻きつけるといった感じではるかの体を隠し、  
音速で自分の着替えを済ますと、再びはるかを抱いて神速で自分達の部屋に移動した。  
そして、布団を敷いてはるかを寝かせると団扇ではるかを扇ぎ始めたのである。  
 
「なにやってるんだろうな、俺・・・」  
 
団扇を扇ぎながら、何とはなしにつぶやく。  
俺は何気にはるかの方に視線を向けつつ、こいつの寝顔を見るのはいつ以来だろうと考える。  
昔は一緒に泊まったりもしたが、こうしてはるかの姿を見ると17年の時が過ぎたのだと実感させられる。  
はるかは、綺麗になった・・・のだろうか、いや、多分そうなのだろう。  
素直にそれを認めたくない、認める事で何かが変ってしまうのではないだろうかと怯える自分がいる。  
そんな事を漠然と考えながら団扇を扇いでいると、はるかが目を覚ました。  
 
「あれ・・・私・・・」  
「ああ、まだ寝てろよ。お前風呂場で気失ったんだよ。ここまで運んでくるの大変だったんだぜ。」  
「そっか・・・健太、私の裸見たでしょ?」  
「み、みてねえよ、ちょっとしか。」  
「ふ〜ん、ちょっとでも見たんだ。エッチ。」  
「しょ、しょうがないだろ。」  
「嘘だよ。健太、ありがとう。」  
 
恥ずかしそうにお礼を言うはるかと、気にしてねえよなどとつぶやく俺。  
その後、俺が止めるにも関わらずはるかは立ち上がろうとする。  
思わずよろけたはるかの肩を掴んだ俺の視線とはるかの視線が交錯し、しばしの沈黙。  
 
「お客さ〜ん、お料理お運びしましょうか〜。」  
 
例のおばちゃんの声がドア越しに聞こえ、俺達はどちらからともなく笑いあった。  
 
はるかの着替えを取りに行く時間も含めて、10分後に食事を頼む俺達。  
間もなくして、おばちゃんが再び現れ手慣れた手つきで食事の用意をしていく。  
その手より三倍以上早く動く口で、新婚さん?いいわねえ。とか、ここそこが観光にはいいとか  
果てはこの地方に伝わる怪談話まで話し出す始末だ。  
おばちゃんはようやく口を閉じると、ごゆっくり〜などと呟いて出て行った。  
 
「ほんっとによく喋るおばちゃんだな。」  
「でも陽気で頼りがいのある人だよね。」  
「まあな、じゃあ、早速いただくか。」  
「そうだね、いただきま〜す。」  
 
食事は想像以上においしく、リラックスした気分で俺達の会話も盛り上がった。  
あらかた食べ終えた後ふと見ると、徳利が二本置いてあるのに気づく。  
注文した覚えはないが、どうやらサービス?らしい。  
如何した物かと思ったが、結局その場の勢いで飲んでしまう事にした。  
地元の地酒らしく、口当たりの甘いのと物珍しさも手伝ってどんどん酌が進んでいく。  
 
「ふわっ〜、なんか体がポカポカしてきちゃった。」  
「おいおい、はるか顔が真っ赤だぜ。」  
「健太だって人の事言えないでしょ。」  
 
はるかは胸元を少し広げパタパタと仰ぎながら体の火照りを冷まそうとしている。  
俺はその姿を眺めながら、もうちょっとで見えるかな?とか、さりげなく角度をずらすかな  
でもそれだとバレまくりだ、などど本当にしょうもない事を考えていた。  
俺はとりあえず少し残った料理を食べようと箸を手にしたが、酔いのせいか取り落としてしまう。  
慌てて下を覗き込むと、浴衣の裾からはみ出たはるかの素足が飛び込んできた。  
風呂場で見た時より鮮明で至近距離の映像に、俺の心臓が一瞬高まる。  
思わず頭を上げようとして強かに頭をテーブルにぶつけ強打する。  
その様子を見ていたはるかの朗らかな笑い声が室内に響き渡った。  
 
どうやら外は雨が降り出したらしい。  
 
食事を片付けてもらった後、俺達は他愛もない雑談をしたりテレビを見たりして過ごした。  
そんな中、はるかは時折雨音が聞こえる窓の方に視線を向け、何か思い出しているように見えた。  
段段会話自体も少なくなり、そろそろ寝るかという話になった。  
俺はテレビのある部屋を片付けてそこに寝るつもりだったのだが、はるかはどういう心境の変化  
なのか、一緒の部屋に布団を敷いていもいいと俺に告げた。  
 
「へ?いいの?でもお前あんなに・・・」  
「別に深い意味があるわけじゃないよ、折角だから話でもしようかなって思って。」  
 
枕を胸元に抱いて伏目がちに答えるはるか。  
俺も別に断る理由もないので、はるかの隣に布団を引き直す。  
消灯して布団にもぐりこむがすぐに眠れるわけでもなし、なんとなく今日の出来事を思い出していた。  
旅行のメンバーが四人に減ったと思ったら、二人きりになり、露天風呂でのドタバタ、二人きりの食事  
やはるかが作ってくれたクッキー等々、今日はなんだかはるかづくしだ。  
おまけに、最後ははるかと一緒の部屋で寝る羽目になった。  
外ではいまだ雨が降っている。  
そういえば、あの日も今みたいに雨が――――  
 
「・・・健太、まだ起きてる?」  
「起きてるよ、ちょっと考え事してた。」  
「どんな事?」  
「今日一日いろいろあったなって。後ちょっと昔の事を思い出してた。」  
「昔の・・・事?」  
「そう、ガキの頃の話だよ。」  
「そっか。」  
 
俺達は再び沈黙した。  
そしてその静寂を破るようにはるかが口を開く。  
 
「ねえ、健太、あの日の事覚えてる?」  
 
あの日―――はるかの父親が出張先で事故に遭い、母親がはるかを俺の家に預けて飛び出していった。  
はるかは「パパがジコにあったの。ママもいないの。」と言いベッドの中でしくしく泣いていた。  
俺は普段明るいはるかが泣いているのに驚き、なんとかしてなぐさめて上げようとベッドに入って  
いろいろと話し掛けた。無論話の内容は大した事ではなく、内容も覚えていない。  
覚えているのは、「オレがはるかのそばにいてやるから!いつでもいっしょにいてやるから!」  
と繰り返しはるかが泣き止むまで言い続けた事だけだ。  
あの日も今日みたいに雨が降っていた。  
 
「覚えてるよ、俺もその事思い出してた。」  
「私、うれしかったよ・・・」  
「はるか?」  
「ホントに、ホントにうれしかったよ。」  
 
俺は布団から上半身を起こしはるかの方を向いた。  
はるかも同じ様に俺のほうを向いていた。  
俺は何かを振り切るようにはるかに向かって手を伸ばす。  
はるかが両手でその手を握った。  
俺は何も言わず、何も言わせず、はるかを引き寄せて抱きしめた。  
はるかも逆らわなかった。  
 
「・・・側に居てくれる?」  
「当たり前だ。俺がいつでも一緒に居てやる!」  
 
どちらからともなく顔が近づき、俺達は初めてのキスを交わす。  
 
―――そして俺はそのままはるかを布団に押し倒した。  
 
雨音と自分の心臓の音だけが鳴り響く静寂の中、俺は思わず野暮な事を言い出す。  
 
「はるか、その、お、俺でいいのか?」  
「健太・・・」  
「その、俺は凄くしたいけど、俺なんかでいいのか?だから、つまり・・・」  
「違う、違うよ健太。」  
「え?」  
「健太ならいいんじゃないの。健太じゃないとイヤなの。」  
 
かすれそうな小声で答えるはるかを見ると、俺の中の欲望が体の底から湧きあがってきた。  
俺ははるかに近づき、再び口付けを交わす。  
そして、はるかの浴衣の帯をほどいて俺はゆっくりと浴衣を左右に広げた。  
 
「あっ・・・」  
 
思わず目をつぶるはるかとは対照的に俺ははるかの体に釘付けになった。  
ほっそりとした首筋になだらなかな肩、手足は思ったより細く力を入れたら折れてしまう  
のではないかと思える程である。  
そして、想像していたより大きめの乳房には小さめの乳首。  
そのきめ細やかな素肌はほんのり色付き、暗闇の中で白く浮かび上がるはるかの体は  
何か幻想的な雰囲気を醸し出していた。  
 
「そんなに・・・見ないで・・・」  
 
俺はそれに答える代わりに、素早く衣服を脱ぐと三度はるかにキスをする。  
だが、今度は徐々に慣らした後で素早く舌を絡めていく。  
はるかは戸惑いつつもおずおずとそれに応えてくれた。  
俺は、頭の芯がボウッとするような恍惚感に浸りながら、はるかのそれを夢中で貪った。  
お互いの舌が絡み合い、息遣いが荒くなるのを感じながら俺の手ははるかの胸に伸びていく。  
 
「あ、く・・・ん・・・」  
 
はるかが思わず吐息をもらす。  
はるかの胸は弾力に富み、俺はこの世にこんなに柔らかい物があるのだと不思議な感慨を感じながら  
その感触を堪能した。  
両の乳房を揉み、乳首に触れ、軽くこねてみたり、乳首に吸い付きなどしてはるかに刺激を与える。  
はるかはその刺激を受けるたびに、くぐもった声を漏らしながら徐々に乳首を硬くしていく。  
やがてはるかの乳首はプックリと膨れ上がり、俺はそんなはるかに興奮を隠せなくなり思わず  
きつく胸を握ってしまった。  
 
「い、痛い!」  
「あ、す、すまん。」  
「ううん、ただ・・もう少し優しく・・・お願い・・・」  
 
俺は少し冷静さを取り戻し、はるかに優しくキスした後首筋や脇腹、おへその回り等に様々な愛撫を  
加えていく。はるかは思いもかけない個所からの刺激に戸惑いながらも、俺にしがみついてくる。  
そんな中、俺は頃合を見計らってはるかの最も大事な部分に手を伸ばした。  
 
「はるか、少し濡れてる。」  
「バカァ、言わないでよ・・・」  
 
俺の問いかけにはるかは、顔面を真っ赤に染めながら弱弱しく反論する。  
そんなはるかを愛しく思いながら、俺ははるかの下着を脱がしはるかの秘部に指で直に触れてみる。  
その瞬間はるかは今までで一番の反応を示し、俺はそれに釣られるように指で擦り、入り口を広げ  
中を掻き回しながらクリトリスに刺激を与え、そして直接口で愛撫を始める。  
はるかはだんだん堪えきれなくなってきたのか、徐々にあえぎ声が高まり秘部を自身の愛液で  
しとどに濡らしはじめた。  
ピチャピチャと音を鳴らして愛撫していた俺は、やがて俺は内部から沸き起こる衝動に耐えられなくなり  
自身の分身をはるかの秘部にあてがった。  
 
「いくぜ、はるか。」  
「うん、来て、健太・・・」  
 
俺は最初は少し戸惑ったもののやがて重心を下げてある場所にたどり着くと先端が入り始めた。  
はるかの中は想像以上に狭く、俺の分身が進めば進む程柔肉が絡みつき締め上げてくる。  
それでも俺は初めての感触に夢中になり、少しづつはるかの中に進入していく。  
半分くらい埋まった所でふとはるかを見ると、はるかは目に涙を浮かべて痛みに必死に耐えていた。  
俺は罪悪感を感じもうやめようと思ったのだが、意外にもはるかは続けてくれと言う。  
 
「でも、痛いんだろ?」  
「うん・・でも、健太をもっと・・・感じたいから・・・」  
 
俺はその言葉で度胸を決めると、再びはるかの中に進入していく。  
相変わらずキツイ締め付けだが、どうにか全て挿入することができたのではるかの様子を伺うと  
はるかもその視線に気づきゆっくりとうなずいた。  
俺は少しづつ腰を振り始め、はるかもぎこちないながらもそれに応えてくれる。  
そして、徐々に痛みが快感に変化し始めたのだろうか、はるかの喘ぎ声が高まり、胸を揺らしながら  
無意識の内にどんどん俺の分身を締め付けてくる。  
俺もそれに呼応するかのようにはるかの中を動き回り、やがて限界が近くなってきた。  
 
「けんた・・・わたし、もう、ダメ・・・」  
「俺もそろそろ・・・」  
「なにか、なにか、くるよ・・・わたし、わたし、・・・けんたぁ・・アアッ!」  
 
はるかの絶叫が響くと同時に、俺は自分の分身を引き抜いてはるか目掛けて己の欲望を放出した。  
 
 
翌朝目がさめると、はるかの姿がなかった。  
俺はふと昨日の事は夢だったのだろうかなどと考えていると、突然襖が開いた。  
そこにはいつものポニーテールで軽装なはるかが立っており、朝食の用意ができたと告げた。  
俺が少し呆然としていると、まだ寝ぼけてるの?といいながら俺に近づき頬に軽くキスをしてくれた。  
・・・どうやら、夢じゃなかったらしい。  
 
 
<エピローグ>  
 
食事を終えて俺達はチェックアウトする為に玄関に向かった。  
そこには例のおばちゃんが居て、いつもの早口で機関銃のように喋りながら、また来てちょうだいねと  
暖かく送り出してくれた。  
駅へ向かう途中で、はるかが手を繋いでもいい?と聞いてきた。  
俺は、気恥ずかしさを感じながらもはるかの手をそっと握る。  
そして、駅の近くの角を曲がった途端クラッカーの音が響いた。  
驚いて前を見ると、そこには正志、さとる、蛍子、陽子の四人が立っていた。  
 
「お、おまえら、なんで・・・」  
「いやいやその様子だとうまくいったらしいな。」  
「うまくって、お前等・・・」  
「さて、六人そろった所で旅行再開と行きますか!」  
「賛成!」  
 
状況が掴めずに硬直している俺を尻目に、正志達はさっさと歩を進める。  
俺は唖然としながら、ふとはるかの方に目を向ける。  
はるかは少しはにかみながらも優しい笑顔で俺を見つめている。  
俺はなにか問いただそうとしたが、はるかの笑顔を見るとなんかどうでもよくなった。  
前方からはやくこいよ!という呼び声が聞こえる。  
俺は強く手を握り返しながら、はるかに向かって言った。  
 
「行こうぜ、はるか。」  
「うん!」  
 
はるかが最高の笑顔で俺に応えてくれた。  
今日も暑い一日になりそうだ。  
 
【終】  

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