萌拳演義・中編1  
 
「なっ、なんで……ぼ、ボクは男だっ」  
 威嚇するように大声を張り上げるレンだが、その声には明らかな動揺があった。  
 正確な年齢はファンにはわからなかったが、見た目どおりの年齢だとすればまだ少女と言っていい年代。  
 想定外のことに動揺せずに切り返せるだけの度胸と経験はまだ無いんだな、とファンは納得しながら盆を机の上に置く。  
「証拠は、その胸」  
「…………っ!?」  
 身を乗り出した際に布団が上半身から離れていた。ファンが指差す先には、先ほどの決闘で敗れたレンの胸元が隠すものをなくして露わになっていた。  
 それに気が付き、慌てて右手で少年のような平らな胸元と、その先にちょこんとついているまだ豆粒のような小さな乳首を隠すレン。  
「さっきの決闘で、お前一瞬だけそうやって隠したろ。まあ、決闘の最中だったし、女だってバレないようにすぐ隠すのやめたけど、男だったら胸が見えたって一瞬でも隠したりはしねぇさ。  
 一瞬といえど隠すのは、見られて恥ずかしいから。つまり女だからだ。違うか?」  
 
 胸を隠したままでレンは押し黙る。必死に否定したかった。だが、否定の言葉が口から出てこない。あの一瞬でバレるとはレンも想像していなかった。  
 あの時は胸が見えようと、そんなことより男として、いや牙心流の師範代としてファンを倒すという強い目的があったからこそ女としての恥ずかしさを忘れ、戦いを続けることが出来た。  
 だというのに、どうして今はこんなにもこの姿が恥ずかしいと思えてしまうのか。  
 目の前に男がいて、しかもその男が自分を女だと認めている。状況はたったそれだけしか変わっていないのに、今はたとえ自分の胸が男のような平らな胸であろうとも、見られることにすごく抵抗がある。  
 と同時に、すでに目の前の男に胸を見られたんだっけという事実を認識し、レンの顔は差し込む夕日よりも赤くなっていく。  
 それは、レンが男ではなく女としての自覚を持ったからに他ならないのだが、まだレンにはそこまで自覚するだけの余裕は無かった。  
 
「……ひとつめの、答え」  
 口を固く結び、沈黙すること数十秒。手で胸元は隠したまま、観念したかのようにレンが口を開く。  
「……ボクは、小さいころから父様に憧れていたんだ」  
 
 レンが物心ついた時には、すでに彼女の父・チュンは近所では名を知らぬ者は無き拳法家だった。  
 父の構える道場に遊びに行っては、多くの門下生たちに稽古をつける父の勇姿を見つつ自分も稽古の真似事をする。  
 そんな自分を、苦笑しながらも暖かく見守り、時には稽古をつけてくれる優しい父や門下生。  
 彼女にとって父は幼い頃からの英雄であり、師であり、目標であった。  
「でも、そんな父様が初めてボクの目の前で破れた……」  
 悲しそうにレンが言う。それがレンの父と自分が戦った、あの武闘大会のことだろうとファンは理解する。  
(そういえば、あの時客席でオッサンを応援してたチビっ子がいたっけな)  
 その当時はまだ幼女と言ってもいい外見でしかも髪を伸ばしていたため、レンと再会したファンにはその時の幼女だとは最初は気がつかなかった。  
「で……オッサンはどうしてるんだ?」  
 一番気になる事をファンは尋ねてみた。  
「元気だよ……。今もピンピンしてるし、負けたからって酒に溺れたりもしてない。今日も道場で豪快に門下生のみんなをしごいてるんじゃないかな」  
 父の様子を想像したのだろう。ここでようやく、子供らしい笑みをレンが垣間見せる。  
「じゃあいいじゃねぇか、別に恨まれるような事じゃ……」  
「恨みじゃないよっ!」  
 垣間見せた笑みは、すぐに悲壮な表情に変わってしまい、ファンはしまった、と後悔した。  
「ボクはただ、父様が……父様が完成させた最強の拳法が、負けたなんて認めたくなかったんだ!」  
 大会が終わり、負けたことを悔しがりながらも勝者のファンを称えながら笑っていた父。  
 そんな父の姿を安心しながらも、それを傍らで見ている少女の胸の中には父以上の悔しさが渦を巻いていた。  
 
 父様が負けたのは、実力のせいじゃない。  
 あんなお遊びみたいな大会で、父様が全力を出せるもんか。  
 父様は世界一強いんだ。全力を出せば、誰にも負けない。  
 
 ……証明してやる。 父様に勝ったあいつを倒して、父様の牙心流が世界最強だって!  
 
「だからボクは……お前を倒して、父様が……父様の牙心流が最強だって……証明したくて……」  
 最後のほうは聞き取りにくいほど声が小さくなっていった。  
 話していくうちにまた敗北の悔しさを思い出したのだろう、とファンは察する。  
 それでも健気に顔を上げ、レンは言葉を続ける。  
「ボクは強くなろうとした。けど、父様の道場は男しか弟子になれなかった。  
小さい頃は娘として遊びに行っていたから父様も許してくれたけど、本気で拳を学ぶつもりなら娘といえど例外は許さないって……」  
「……お前、兄弟は?」  
「弟が一人。でも、まだ四年前に産まれたばかりで……」  
 まだ拳法をやれるほどの歳じゃないってことか、と納得する。  
「でも、父様はお前に再挑戦する気は全然なかったから、どうしてもボクがやらないと、って思って……」  
 伸びていた髪を切り、父が昔使っていた古い男子用の動着に身を包み、言葉遣いも女らしさを捨てた。それから一晩かけて説得して、ようやく父が折れレンは本格的に父の跡を継ぐ形で拳法の道に入った。  
 拳を身に付けて初めて分かる父の強さ、師の厳しさ、修行の過酷さ。  
 何度もボロボロになり、何度も倒れながらも三年間、一度も涙を流すことなくレンは常人の倍以上の修行に耐え抜き、驚くべき早さで牙心流の師範代として父に認められた。  
「それが二つ目の答え。でも父様は、ボクが修行をするのは認めてくれたけど、お前を探して挑戦するのはやめておけって言った。  
 それでもボクは反対を押し切ってお前を探して、やっとこの山にお前が住んでるって噂を聞いたんだ」  
「で、今日、俺を見つけて挑戦して負けたわけだな」  
「……うん」  
 気を遣おうと努力しても、つい素直に突っ込んでしまうのがファンの悪い癖である。  
 落ち込んでうつ向いてしまったレンを見て、内心しまったと頭を掻く。  
 
「……まあ、お前の事情は分かったが、だからって俺も痛い目にあいたくはないからよ……」  
「分かってるよ……。  
 ボクよりお前が強かった。勝負の世界はそれが全てだから……」  
 レンは力なく声のトーンをさらに落とし、両膝を抱えこむ。  
 
 お互い何も言わないまま、数分が過ぎた。女性経験の無いファンには、こういうときどう声をかけていいのか分からない。  
 途方にくれたまま、去るわけにも行かずレンのそばに突っ立っている。  
「……すっ、ぐすっ」  
 沈黙を破ったのはレンのほうだった。だが、ファンの聞く限りそれは……会話の糸口になりそうな話ではなく、緊張の糸が切れたがためにそれまで耐えてきた感情が一気に噴き出しての涙声であった。  
「っく…悔しい……悔しいよ……父様の強さは本当なのに……ボクは……父様の息子として、負けちゃいけなかったのに……  
 ボクじゃ……ダメだった……うっ、うあっ……」  
 膝を抱える両手が震えていた。  
 
「どうして……? やっぱりボクが女の子だから……? だからボクは弱いの……?  
 ねぇ、教えてよ……ボクがホントの男の子だったら、こんな想いはしなくてすんだの……?」  
 藁をもすがるように、布団の上についていたファンの左手の袖口をレンが掴む。レンの大きめの瞳から流れる涙が一滴二滴と零れ落ちてはファンの袖口を濡らした。  
 反射的に、ファンは空いている右手でレンの頭を撫でた。  
「うう……えうっ……」  
「そんなの俺には分からねぇけどよ……たぶんお前の親父さんは、お前が俺に勝ったからって喜んだりはしなかったと思うぜ。  
 もちろん、お前が俺に負けたからって、そのことで失望したりなんかしねぇよ。  
 お前はたぶん、親父さんが予想していた以上に努力して、予想以上に強く頼もしく成長した。  
 そこには男も女も流派も関係なく、おまえ自身の問題だけのもので、それだけで十分だ、って俺なら思うけどよ……」  
 大切なのは、誰に勝ったかでもどれだけ強くなったかでもない。誰と比べるものでもない。どれだけ己自身が、己の信ずるままに正しく成長できたか。  
 それだけのこと、というのが彼の師の最後の教えであった。  
「でもっ……でもっ……! ボクの……気持ちは……そう、簡単には、割り切れなっ……」  
 さっきまで果し合いをしていた相手ということも忘れ、レンはひたすらファンの胸の中で子供のように泣きじゃくった。  
   
 
 ようやくレンが落ち着きを取り戻した頃には、既に日は暮れ、山頂には黒い帳を淡々と彩る月が鎮座している時刻となっていた。  
 すっかり皺(しわ)になってしまった粗末な寝具の上で、ファンの身体にもたれかかりながらレンが意を決したように呟く。  
「ねぇ、一つ……お願いしてもいいかな」  
「ああ、何だ?」  
 その声には殺気や闘気は微塵も感じられない。暗闇の中で何かにすがろうとする子供みたいだな、と思いながらファンは優しい口調で答える。  
 
「あのさ、その……」  
 だが、どこか言いにくそうに言いよどむ。緊張で身体が強張っているのが使い古された男性用の道着を通してファンにも伝わる。  
 
「ぼ、ボクを……今だけ女の子として、お、犯して欲しいんだっ!」  
 子供が懸命に懇願するような強い意思を持ったレンの頼み。しかしその内容にどう考えても子供らしからぬ単語が混じっているように聞こえて、ファンはハニワのような顔になった。  
「…………悪い、ちょっと俺の耳がおかしくなったみたいだ。もう一度頼む」   
「あ、あんな恥ずかしいこと二度と言えるか――っ!」  
 ファンに背を預けたまま振り回したレンの肘がファンのわき腹に直撃する。思わず悶絶するそれなりの常識人ファン君。  
「ぐふっ!? い……いや待て、何のつもりか知らないが、嫁入り前の女の子がそんなこと頼むもんじゃないっての」  
 そりゃそうだ。世の中どこに、今日果たしあった相手に犯してくれと頼む少女がいようか。  
 
「わ、分かってるよ……」  
「いいや分かってない。いいからゆっくり寝て冷静になれ」  
「お願い……これでも一生懸命考えたボクなりのけじめなんだ」  
「けじめ?」  
「上手く言えないんだけどさ、いまボクの頭、すごくぐるぐる混乱してて、ぜんぜんスッキリしなくて、このまま帰りたくなくて、これからどうしていいか分かんなくて、って感じなんだ。  
 だから一度……一度でいいから、ボクの持ってるもの何もかも捨てて、滅茶苦茶にされて、その、気持ちを生まれ変わらせたいというか、全部忘れたいというか……それしか、ボクがこれから前に進むにはない、って思って。  
 それに、ボクは……お前のこと、もっと知ってみたいと思ったから。戦いだけじゃなくて、他のことでも……お前のこと、知りたい」  
 言ってることは理解は出来るが共感はできないな、とファンは思う。  
 気持ちの整理をつけるためとはいえ、普通そんな方法で上手くいくという保障があるはずもない。下手すればさらに一生立ち直れない心の傷を負う可能性だってある。  
 だが、『馬鹿なこと言うな』と一蹴することがどうしてもファンには出来なかった。  
 あのままでは、レンは自分が女であることを理由に全てを諦めてしまっていたかもしれなかった。  
 それをレンがどれだけ不器用に、真剣に考え抜き、一度つまづきかけた壁を越え、引き篭りかけた殻を破るためにその方法を決意したか。  
 ファンにはそれが分からないわけでも、その勇気を無下にできるわけでもなかった。  
 
「本当に後悔しないな?」  
「うん。後悔しないためにしてもらう……ううん、されるんだもん」  
 
 これからなにをされるか分からないわけではないだろうに、今日会ったばかりのファンを信頼して澄み切った目をしている、目の前の少年の姿をした少女を、ファンはゆっくりと寝具の上に押し倒した。   
 
 やや緊張気味に手を伸ばしながら、ファンはレンの動着の帯に触れる。  
 白色の細い帯の先を引くと、しゅるっという軽い音を上げながらレンの腰から帯が引き抜かれた。  
 完全に帯が外れると、その時にめくれた動着の奥にレンの白くて引き締まったお腹が、そしてその中央には小さく窪んだ可愛いへそが見えた。  
 昼の果し合いで破れた胸元はまだ破れたままで、その奥からはちらちらとレンの白い胸元が覗かせていた。  
 力無く体の両脇に投げ出された両腕をファンが掴むと、レンは一瞬体をびく、と震わせたが直ぐに力を抜く。  
 一度確認するようにレンの顔を覗き込み、ファンはレンの両腕をレンの頭上に持ってくると抜き取ったばかりの帯で両の手首を固めに縛った。  
「……あのよ、ホントにいいのか?」  
「……うん」  
 手を縛るのはやりすぎかな、と思わないでもなかったが、レンがとくに嫌な顔はしなかったのでそのまま続ける。  
 
 レンの華奢な身体にのしかかるような体勢で顔を近付ける。すぐ目と鼻の先にお互いの顔があった。  
 小動物のように顔に不安な色を浮かべながら、レンはファンから視線をそらさずに言う。  
「んっ……」  
 不意打ちとも言えるファンの口付けだった。熱を帯びたファンの唇が、何か言おうとするレンの口を塞ぐ。  
 息をするのも忘れ、レンは初めての口付けの感触を半ば放心しながら味わっていた。  
 
「んんっ!?」  
 またも不意打ちのように肌に直に触れられる感覚に、レンの意識は現実に引き戻される。  
 帯を解かれ、前面をさらけ出された動着の中に差し込まれたファンの右手。それがお腹の辺りを愛しそうに撫でる。  
 くすぐったさと羞恥心で身をよじらせるレン。  
 そこから徐々に、ファンの大きく硬い手はレンを求めて上へと上っていく。  
 可愛いへその中を指先で愛撫しながら、肋骨の上を撫でるように滑らせていく。  
 逃げるように体をくねらせるレンだが、両腕を頭の上で縛られていてはどうしようもない。  
 必死に耐えるレンの顔を見ながら、ファンは離れていた唇をもう一度レンの唇に重ねた。  
 くちゅ、と互いの唾液が混じり合う音を立てながら、やや乱暴にファンはレンの唇を求める。  
 
(やだ……ボク……なんでこんな、恥ずかしい、こと……)  
 レンはその音や行為を、気持ちいいとも悪いとも感じない。  
 感じるのは、ただ唇を重ね合わせるというだけのこの行為にひどく胸が高鳴っていく自分への戸惑い。  
 そんな今までの自分とは違う自分がここにいることに、理由も知らずひどく恥ずかしいような気がした。  
(……!!)  
 ついにファンの右手が胸へと到達した。  
 肝心の胸の中心には触れず、まずはまだ微妙に胸元にひっかかっている動着を払って脱がせる。  
 サラシもしていない、というよりも必要のない、まだ膨らみの無い平坦な胸が露にされる。  
「や……」  
 一度見られているとはいえど、やはり偶然見られただけなのと故意にじっくりと見られるのとではその意味もまるで違う。  
 羞恥心で顔を真っ赤に染めながら、レンは耐えるように目を瞑る。  
 不安がるレンを安心させるように、そっとファンの右手が胸に触れる。  
 ぴくん、と体を浮かせて初々しく反応するレン。まだ未成熟な果実を潰さないように、優しく撫でるように手の平を動かす。  
(見られてる……触られてる……ボクの胸……)  
 まだ膨らみの無い胸や、申し訳程度にしか育っていない乳首はファンが攻めてもあまり快感を生じさせない。  
 それでもレンは、ファンが胸の上に置いた手を動かすたび、そして手の平が胸の先端の小さな乳首を擦るたび、胸元から全身に広がる奇妙な感覚に身を震わせる。  
「痛くないか?」  
「……わかんない」  
 声を押し殺して耐えるレンを気遣いファンが尋ねる。それにレンは正直なところを答えた。  
 まだ性感帯の未発達なレンにとっては、その感覚が痛みなのか快感なのかも区別がつかなかった。  
「やめるか?」  
「やめなくていいよ……ボクは大丈夫だからお前の好きにしてよ」  
 それも本音だった。 いやらしい、という嫌悪感はなかったし、恥ずかしいけれどこの行為をやめられるのは後でもっと嫌な感じになる気がした。  
「……んっ……はっ」  
 円を描くようにファンは広く手の平を滑らせる。空いていた左手も加え、両手でレンの平原の双丘を大きく愛撫する。  
 右と左、時には交互に、時には同時に襲い来る胸への刺激にレンは必死に漏れてくる声を押し殺す。  
 
(……やべ、気持ちいい)  
 未知の感覚に戸惑っているのはファンも同じだった。恩師からの話や書物、森で見た獣の行為などで知識はあるが、彼も自分の手で女体に触れるのは初めてのことである。  
 自分の体とはまるで違う、力を入れれば壊れてしまいそうなその体の柔らかさ。  
 まるで天女が着る羽衣に使われている天上の絹糸のような、手にぴったりさらさらと吸い付く肌の滑らかさ。  
 仙人を気取るつもりは無いが、女に溺れる俗人の気持ちが少しだけ分かったような気がした。  
 やがて手の平で感じる感触の中に、一際硬いものが感じられるようになってきた。  
 二、三度手の平でその硬い部分を擦ると、レンが切なそうに声を漏らす。  
 見ると、それまで平らだった胸先に申し訳程度についていた乳首が、それなりの固さを持って勃っているのが見えた。  
 色もさっきまではあまり周囲の肌色と変わらなかったのが、いつの間にか花が可愛らしく咲き誇るが如く淡い桃色に色づいている。。  
 試しに指で摘まんでみると、レンがそれまでに増して大きく体をのけぞらせる。頭上でレンの両手を拘束している帯が苦しそうにギリギリと音を立てた。  
 悪いかな、と思いつつファンがその立派に自己主張している乳首をこね回したり引っ張ったりする度に、  
 レンが体を跳ねるように反応しながら、声を出すのを必死に耐える姿が見えた。  
「ここ、気持ちいいのか?」  
「……はっ……はっ……違う……そんなこと」  
 一生懸命瞑っていた目をうっすらと開け、弱々しい声で否定するレン。  
 それなら、とファンは顔を胸元に近付ける。半人前に勃起したレンの乳首を間近でよく観察した後、口をさらに近付けるとレンの乳首を唐突に吸った。  
「あああああっ!?」  
 レンの我慢が限界に達し、それまで溜めてきた声を一気に出すように大きな声で鳴いた。  
 充血して感度が上がっていた乳首への口での責めのもたらした感覚は、経験の無いレンの防波堤を一気に打ち破った。  
「ひゃあっ……くふっ……あんっ!」  
 口の中に含んだ乳首を舌で転がすたび、そして赤ん坊のように音を立てて強く吸うたび、もはや完全に快感と認められるほどの大きな刺激が胸いっぱいに広がる。  
 全身に力を入れて耐えようにも、未知の快感で完全にとろけさせられた体には思うように力が入らない。  
(ボク……気持ちいいの? こんな、男の子と変わらないような小さな胸で……)  
 女であることなど、父の跡を継ぐと決めた時から捨てたはずだった。  
 思春期を迎えても一向に膨らまなかった胸や、まだ生えてこない性毛、未だに来ていない生理。  
 それらは男として牙心流を継ぎ、いつか父を破った相手を倒して牙心流が最強だと認めさせるために神様がくれた理想の体だと思っていた。  
 それがまさか、その相手の男によって女であることを自覚させられるなんてなんという運命の悪戯だろうか。  
 レンの頭の中は次第に真っ白になっていく。小さな口から漏れる声も切なそうな溜め息から、次第に荒い喘ぎ声へと変わっていく。  
 
 

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