目が覚めた。
・・・それも目覚ましより遙かに早くだ。いつも二度寝、三度寝はざらな私としては奇跡そのものだ。
ふと、壁にかけてあるカレンダーに目を向けてみる。
「やっぱり・・・今日だ。」
20年来の付き合いとなるアイツにコクられたというか、コクったというか、まぁ私たちは晴れて幼馴染から恋人へ昇格したわけなのだが・・・
いくらなんでもありえない。小学生じゃあるまいし・・・興奮で早起きするなんて・・・たかだか初デートだというのに・・・
初デート・・・いや、違うかな。それ以前から良く買い物に行ってたし、映画を見に行ったり、ライブイベントに行ったりと一緒に出かける事は良くあった。
でも、やっぱり初デートと呼ぶべきなんだろうなぁ・・・一応は。
それはともかく、準備をしよう。着る服は夕べのうちに決めておいたけど、念のため最終チェック。
・・・違う。何かが違う・・・何が違うのかは分からないけど。
通常の3倍は長く時間をかけて服を決めたら、今度は化粧。
・・・普段はあまりしないから、慣れてないんだけどね。でもだからって・・・口紅をつけようとしただけでこんなに手が震えますか、私。
こっちも通常の3倍は時間をかけて、とりあえず今日のスタイルは完成。・・・鏡に映ってる私、何か別人。
そうこうする内に、目覚ましが出発の時間を告げた。よし、出発!!
外に出ればいつもの景色。
流れ行く人の流れも、立ち並ぶ街路樹も、街を彩る花々もいつもと一緒・・・のはずなんだけど、違って見える。
そう、昔からよくアイツとの秘密の待ち合わせ場所のカフェも、やっぱりちょっと違って見える。
私がついてからあまり経たないうちに聞きなれたモーター音が。アイツ愛用のバイクの音だ。
アイツの姿を見たら、なんか拍子抜け。・・・いつもと変わんないじゃない。そりゃ、白のタキシードとかバカな事は言わないけどさ、もうちょっと着飾ろうよ。
・・・って、あたしが言えたモンじゃないか。
妙に高鳴る鼓動。我が事ながらあきれ返るほどに緊張してる。となりのアイツはホント、いつも通りだっていうのに・・・
何か悔しくなったので、アイツの手を握ってやった。
・・・湿ってる。平然としたような表情をしてても、やっぱ緊張してるんだ、と思ったら何か安心。肩がくっつくほどに接近してみる。
握られた手にわずかに力がこもる。・・・あったかい。
緊張しながらも楽しい時間はあっという間に過ぎるモノ。本来ならそれぞれの寝床に帰る時間だ。
でも・・・
でもね・・・
今日は、今日ぐらいは、お約束の、とっておきのセリフ、言っても良いよね・・・?
「あのさ・・・今日・・・帰らなくても平気なんだけどさ・・・?」
そして、私たちは少しずつ、本当の「コイビト」になっていく・・・