*       *       *  
 
 
ぶるぶるぶる……ぶるぶるぶる……。  
弛まない細かい振動が沙耶のまだ若草が生えたばかりの秘裂を襲う。  
「うっ……。くっ……!」  
振動を感じるたびに沙耶は太股を捩り合わせて少しでも股間への責めを軽減しようとするが、  
唇を噛み締めながら耐えている表情を見ると殆ど効果は無さそうだ。  
体の中心からこみ上げてくる、むず痒いような、締めつけられるような、切ない気持ち。  
手でマットの端をつかんで力を入れていないと、気がどうにかなってしまいそうだ。  
 
「直にそこを責められるのって、どんな気持ち?」  
慎也がドキドキしながら聞く。女の子の生のここに電気あんましたのは慎也も初めてだった。  
若草の柔らかい感触も、すべすべした太股の触り心地も、全てが新鮮で刺激的だった。  
慎也自身の男の象徴も下腹を打たんばかりに屹立し、すぐ下にある袋状の物が揺れる姿も  
沙耶からは見えていた。  
(慎也……興奮しているんだ)  
私に電気あんまをして――。そう考えると胸がキュンと締め付けられる。  
 
「い……言えないよ……恥かしい……あん……」  
沙耶が答えなくともその表情は沙耶の気持ちを雄弁に物語っていた。恥かしく、気持ちよく、  
そして切ない――慎也は喋っている間も足責めを緩めない。秘裂に沿うように上下させながら  
小刻みに震わせたかと思うと、沙耶が高まってきた頃を見計らって、徐々にペースダウンさせ  
たりする。恥かしい期待をやや裏切られた形で沙耶の切ない気持ちが高まっていく。  
 
「慎也……も、もっと強くしても……いいの……」  
沙耶が恥かしそうに言う。慎也の行動を促しているが、要するにおねだりだ。経験の少ない  
慎也にすら簡単に見破れる。  
「だめだよ。これでいいんだ」  
「慎也……?」  
「秘技、生殺しアンマだ。これで長時間悶えさせてやるよ」  
「な、なにが、なまごろし……うぅ……ん!」  
少し鎮まった所を見計らって再び慎也は振動を速めていった。沙耶の気持ちがまた高まっていく。  
「はぅ……ぅ……あっ!」  
股間は大変な事になっていた。シャワーの水でなく、もっとぬるぬるした粘性の液が沙耶の  
股間と慎也の足の裏を濡らしていた。振動を与える音がクチュクチュ……とイヤらしく  
バスルームに響き渡る。  
 
「へぇ……。今度は濡れるのが随分早いじゃないか」  
得意気にいやらしい笑いを浮かべる慎也の顔を蹴っ飛ばしてやろうかと思うが、その名の  
通り、逝くに逝けない生殺し状態を続けられ、細かい振動だけでなく、息が詰まりそうな  
圧迫も与えてくる。圧迫やクールダウンなど、逝くのを止めるバリエーションもあり、  
経験の少ない沙耶には対抗する術がなく、一方的に弄ばれている。  
 
この様な状態が10分も続けられ、沙耶は耐え切れなくなってきた。  
慎也に全面的に降伏して、許してもらおうか……? このままでは気が変になってしまい  
そうだと、沙耶が考えていた時に、突然電気あんまがストップした。  
 
「う……ん? 慎也……?」  
「沙耶、ただ電気あんまするだけじゃつまらないし、ちょっとした賭けをしないか?」  
「えっ……?」  
全然つまらなさそうじゃないくせに――。沙耶は心の中で思いながら慎也の言葉を待つ。  
何か言い返そうにも電気あんまに耐えるのに懸命で体力も消耗し、思考能力も落ちて  
言葉が浮かんでこないのだ。  
 
だが、慎也は賭けの話をしながら、次の言葉を待っているのになかなか言わない。  
この陰湿さに腹が立つが、主導権を握られた今はどうすることも出来ない。  
 
「か……賭けって、なぁに……? 早く言ってよ……」  
「そうだな……おっと♪」  
「…………!!」  
振動を止めた慎也がバランスを崩したように足を滑らせ、踵で沙耶の秘裂の辺りを  
踏んだ。突然の強い刺激に沙耶は声にならない悲鳴を上げる。  
「悪ぃ……ちょっと足が滑っちゃったな。踵でアソコを踏まれた感じはどうだ?」  
「わ、ワザとやってるくせに……!」  
沙耶はキッと慎也を睨みつける。今のはちょっと衝撃があった。そんなに痛くは  
なかったが股間から重い突き上げを喰らい、息が詰まった。  
 
「賭けは……そうだな。まずルールだけど、おばさん達が帰ってくるまでに沙耶が  
電気あんまを耐え切ったら沙耶の勝ち、それまでに逝ってしまったら俺の勝ち、でどうだ?」  
「ど、どうだって……。そんなルール、私が一方的に不利じゃない……それに、お母さんが  
帰ってくるまでって……。帰ってきたら大変だよ、そんなの……」  
この現場を見られたら自分の母や慎也の母はその場で卒倒するだろう。  
まだ高校生と中学生の従兄妹がお風呂で裸になり、足を絡ませて恥かしい所を刺激  
しているなんて――。  
 
「フフフ……」  
いきなり自分に有利な勝利条件を突きつけて沙耶の反応を楽しむと、慎也はゆっくりと  
電気あんまを再開した。今度は秘裂に押しつけた足を左右に軽く捻りながら震わせる。  
「あ……! うう……ん……くっ!」  
沙耶は今までと違う刺激に思わず仰け反った。  
「俺が勝ったら……そうだな。今年の夏休み、沙耶は俺の奴隷になるんだ。いいな?」  
「ど……」  
慎也の言った言葉は、電気あんまされながらも思わずポカンとなりそうなものだった。  
どれい――。沙耶の様な少女には社会科の教科書ぐらいでしか見るはずがない。  
無論、非人道的で差別的な意味の言葉だ。  
(だけど――)  
沙耶自身はその言葉を違う意味で知っていた気がする。  
 
沙耶が読むには少し大人の女性誌の性関係の特集でそういうのがあった。  
セックスの特集があったので後学のために?ドキドキしながらティーン誌で  
サンドイッチにしながら買ったのだ。たまたまそれが「SM特集」だったのだ。  
男の人が女の人を縛ったり、或いは反対に女の人が男の人を踏みつけたりしている  
写真やイラストがあった。なんか凄いものを買っちゃったかも……と思いながら、  
沙耶は母の目を盗みながら自分の部屋で読み耽った。だから、沙耶はその意味は  
知っているといえば知っている。  
 
とは言え――。  
「そ、そんなの……だめだよう……」  
沙耶はかぶりを振った。いくらなんでもいとこ同士でそんな背徳的な関係は――  
だが、力一杯拒絶しないのは何故だろう。沙耶が話を出来るように少し緩めた  
電気あんまに弄ばれながら、沙耶は自分からは承知できないまでも、明らかな  
拒絶は見せなかった。  
 
「だめか? でも、沙耶が勝ったら沙耶の思い通りなんだぞ? 東京に遊びに  
来れば渋谷でも原宿でも連れて行ってやるし、ディズニーランドでデートだって……」  
「…………やる」  
「うん?」  
「その賭けに乗るよ、慎也……」  
荒い吐息をつきながら沙耶は慎也の目を見て、いきなり返事を変えた。  
『デート』の言葉を聞いたとたんに、である。  
 
「い、いいのか? そんな状態じゃ勝ち目ないだろ?」  
慎也が上ずった声でワザと冷やかすように言う。自分も内心はドキドキものだった。  
「こ、ここからだって反撃できるもん……その代わり、本当に約束したからね……  
慎也とのデート……」  
「あ、ああ……」  
何故か慎也のほうが気圧されてしまう。慎也にとっては勝っても負けてもいい条件だ。  
沙耶とデート。さり気無く盛り込んだつもりだったが、その言葉を言う時に噛みそうに  
なった。  
(こいつとそんな事を意識するようになるなんて――)  
負けたっていい。綺麗に着飾った沙耶はきっと人目を引くだろう。  
通り過ぎる男達が自分の事を羨むに違いない。想像するだけで慎也の心はドキドキする。  
 
だが、逆に勝ってしまったら――。  
慎也はそれを思うと背筋がゾクゾクした。沙耶の体が――いや、身も心も自分の物に  
なるのだ。この少女を得て自分は何をしたいのか。  
沙耶が想像した事より、実は慎也の方がその意味を理解していないのかもしれなかった。  
 
 
          *       *       *  
 
 
「勝負となると方針を変えなきゃな」  
「え?」  
「今までの様に『生殺し』じゃなくなるのさ」  
慎也は一気に電気あんまのペースを上げた。振動を細かく早く、そして圧迫も強くする。  
「うぐっ……! ……はぅん!! あ……ああああ〜〜〜!!」  
いきなり押し寄せる切ない快感と甘い苦痛の嵐。沙耶は悶えながら悲鳴を上げ、慎也の  
足を両手でギュッと掴んだ。そうしないと耐えられないからだ。  
その苦悶を表すかのように、沙耶のスリムな太股はきゅんと内股になりながらプルプルと  
震えている。額や胸、お腹の辺りにはねっとりとした汗が浮き上がり、股間は――。  
(こいつは……凄い……)  
慎也が思わず生唾を飲み込む。沙耶の表情は正しく快感に悶える大人の女性のもので  
あり、股間はぐっしょりと濡れ、若草も恥丘にべったりと張り付いていた。  
慎也が動かすたびに、クチュクチュと、淫靡で恥かしい音が響く。  
 
「こんなになったんじゃ、もう限界だな……」  
「う……。うう……」  
「降参するならいつでも止めてやるぞ?」  
「し……しないもん……。くっ……! ううっ……!」  
沙耶は頭を振りながら懸命に耐えている。乱れて濡れた髪は艶めかしく肩や胸に  
張り付き、艶めかしい。  
「い、いつまで我慢できるかな……?」  
慎也は沙耶の姿態に引き込まれそうになりながらも責めを続けた。  
「う……くっ! ……だ……だめ、まだ……まだだもん……はぅん!」  
慎也の電気あんまに少し疲れが見えたのか、ペースが乱れがちになる。だが、それが  
逆に沙耶にとってはリズムを電気あんまを耐えるリズムを狂わされ、何度も逝ってしまい  
そうになる。  
しかし、懸命に沙耶は耐えていた。失神したり逝ってしまわないように唇を噛み締め、  
かぶりを振って悶える姿に慎也の股間のイチモツははちきれんばかりに勃起する。  
 
「まだ我慢するつもりか?」  
「う……。うう……」  
沙耶は頭を大きく頷かせ、肯定の意志を見せる。  
「お……お母さんが帰ってくるまで……だもん……。絶対に耐えてみせるよ」  
息も絶え絶えに宣言した。自分からはギブアップしないつもりらしい。  
「そうか……」  
そう言うと慎也は沙耶の両足を放し、一旦電気あんまから沙耶を解放した。  
「あ……。うう……」  
ハァハァと息を荒くしながら沙耶はぐったりと力を抜く。足が少し開いた状態のため、  
慎也の位置から覗けば見えてしまいそうだが、気にしていられる状態ではない。  
振動と圧迫から解放された股間の秘裂はヒクヒクと蠢いていた。思わずそれに見入って  
しまう慎也だが、シャワーの栓を捻り、緩めの水流でノズルを沙耶の体に向ける。  
 
「ひゃん!? ど、どうしたの、慎也?」  
沙耶が驚いてぐったりした状態のまま慎也を見る。  
慎也は沙耶の体を洗ってやっていた。電気あんまの快感で沙耶が分泌した愛液や  
懸命に耐えた時の汗で彼女の体はベトベトに濡れていた。同じく汗だくの髪も  
丁寧に洗ってやる。淫猥に濡れていた沙耶の体はさっぱりと綺麗になった。  
 
「あ、ありがとう……。慎也」  
慎也の意図を図りかねたが、優しくしてくれた事を沙耶は素直に嬉しく思った。  
だが、慎也の表情は真顔の状態だ。  
「このまま普通に電気あんまを続けていても、耐え切ってしまいそうだったからな」  
慎也は沙耶の股間を見つめながら言う。それに気がついて沙耶は恥かしげに股間を隠した。  
それでも慎也はそこから視線を外さない。沙耶は目で犯されている感じがして思わず  
体を捩ってそこを守りたそうにした。  
「だから、もう少しエッチなやり方をする。流石にもうすぐタイムリミットだろう」  
「もう少しエッチな……電気あんま?」  
「そうだ。電気あんまで逝かせないと俺の負けだからな。容赦しないぞ」  
慎也の言葉に沙耶もごくりと唾を飲んだ。どうやら慎也はあまり時間が無いと踏み、  
最後の電気あんまを仕掛けてくるつもりのようだ。  
 
「どんな……電気あんま?」  
沙耶がドキドキしながら聞く。最後の勝負とは言えあまり時間は無い。慎也が仕掛けて  
くる電気あんまのやり方によっては耐え切る事も可能なのだ。先ほどまで疼くように  
体中を駆け巡っていた高まりも少し落ち着いてきた。  
だが、慎也の勃起はまだ全く収まっていなかった。それどころか、さっきより更に  
膨張しているか? その証拠に慎也は時折痛そうに顔をしかめている。  
 
(あれって、辛いのかな……?)  
なんとなく沙耶は出口を指で閉めたまま元栓を捻ったホースを思い出した。行き場の  
ない水が溜まって内圧でパンパンに張り、今にも破れそうなホース。  
(私が触ってあげれば楽になるのかな……?)  
沙耶は心の中で思う。口に出しては言えなかったが、慎也に奉仕するのは全然苦では  
なかった。むしろ自分からしてあげたいと思っている。  
同時に男の子と女の子は感じ方が違うんだな、とも思った。慎也の衝動的な行動を  
見ているとどうやら男の子は一気に性感が高まるようだ。そして、本で読んだ知識だが  
その後一気に放出し、女の子のオルガスムスに似た快感を得る。  
男の子はきっと自分の武器で女の子を征服するカタルシスを得るために性衝動が  
高まるのだろう、と理屈までは分からないが、なんとなく沙耶はそう感じた。  
だから、それが満たされないと内圧だけが高まり、欲望は歪な方に向かっていく。  
慎也の行動がどんどんエスカレートしていくのはそのせいもあるのかもしれない。  
 
自分も含めた女の子は違う。じわじわと体の奥から泌み出る様に高まってくるのだ。  
そして一度火がついた炎はなかなか消えない。じんわりゆっくりと静まっていく。  
(だから電気あんまは女の子がされるほうが向いてるんだ……)  
時間をかけてじっくり楽しむのにこれほど向いているエッチ技は他にないだろう。  
二学期に学校に行ったら早速仲良しのアイや美由紀にしてあげよう――と沙耶は思った。  
 
とは言え、それは女の子同士でお互いに楽しみあう意志を持った場合の話だった。  
今の状況では慎也は自らの欲望を放出しないまま沙耶を攻め落とそうとし、どんどん  
行動がエスカレートしてきている。沙耶はイヤではなかったが、何をされるか分からない  
不安を感じていた。  
そのせいか、背筋にぶるっと震えが起こった。これはもしかして――。  
沙耶は立ち上がり、何も言わずに風呂場から出ようとした。  
 
「どこへ行く?」  
出口の扉に手を掛けたところで慎也に呼び止められ、沙耶はぎくりと硬直した。  
「あ……あの……。その……ちょっと用を……さ、最後の勝負の前にね」  
どうやらトイレらしい。沙耶はごまかす様な笑顔を向けてから出て行こうとする。  
「だめだ」  
慎也の口調は冷静だったが、何か有無を言わせない迫力があった。  
「――するなら、ここでしろ」  
沙耶は一瞬、唖然とする。自分の聞き間違いだろうか? だが、慎也は真顔だった。  
「そ、そんなの……イヤ……」  
さっきまでの拒絶と違い、反抗しながらも沙耶の口調は弱々しい。  
慎也の事が怖かったからだ。既に慎也の要求は悪戯の域を越えていた。だが、  
それだけに怒りに火をつけると何をされるか分からない、自分を征服しようとするもの  
への恐怖があるのだ。  
 
「なんでおしっこに行きたいんだ?」  
慎也が問い詰める。沙耶は恥かしさと怖さで身を竦ませながら、それでも懸命に勇気を  
振り絞り、逃げないで慎也の目を見た。  
「だって……。さっきからここばかり刺激されて……それで……」  
「だったらそれも電気あんまの成果だな。勝負が終わるまでおしっこは我慢するんだ。  
それが出来なければお前の負けにするからな、沙耶」  
「そんな……!!」  
(絶対に無理だよぉ〜!)  
泣きそうになりながら絶句する沙耶を無視して、慎也は濡れタオルを取り出して固く絞った。  
何をするつもりなんだろう……? 沙耶には慎也の全ての行動が自分を苛む為のものの  
様に見えた。事実そうだったに違いないが。  
 
「時間にして30分ぐらいかな……」  
慎也が呟きながら沙耶の手を取って自分の方に引き寄せた。おそらく、親達が帰ってくる  
時間を想定しているのだろう。だが、沙耶はこれからの不安とおしっこを我慢している  
焦りで思考はネガティブになっていた。さっきはその時間を耐えてみせる、と慎也にも  
宣言していたが、今は逆にその時間ひどい事をされる、と考えてしまう。沙耶にとって  
その30分間は3時間にも感じられた。  
 
「ちょっとひどい事をするからな」  
慎也は沙耶の手を取り、タオルを手首に巻きつけた。  
(じゃあ、今まではひどい事じゃなかったの?)  
心の中でつぶやきながら沙耶は慎也のされるがままになっていた。慎也は両手首を一本の  
タオルで縛り、沙耶の自由を奪った。  
(これって、『SM』ってやつよね……)  
沙耶が読み耽った『指南書』にも書いてあった。女の人が縛られて男の人に悪戯される。  
当然のごとく、縛られる女の人は苦しそうでもあったが、中には気持ち良さそうに上気し、  
頬を染めて感じているらしき写真もあった。  
初めてそれを見た時、沙耶にはそれがどうしてなのか理由が分からなかった。だが、  
こうして体験するとなんとなくその時の女の人の気持ちも理解できる気がした。  
 
「こっちに来るんだ」  
慎也は沙耶の縛った手を引き、壁際に連れて行った。沙耶が上を見るとそこには  
シャワーフックがある。慎也は沙耶を壁を背にして立たせ、縛った手を上に上げさせた。  
そして、タオルをシャワーフックに引っ掛ける。  
「――よし」  
フックが沙耶の重みに耐えられるのを確認し、慎也は満足そうに頷いた。  
沙耶はシャワーフックに吊り下げられる状態になった。足は辛うじてマットに着いている。  
だが、完全に無防備な状態でまだ幼さの残る裸体を晒す事になった。  
(あ……)  
慎也が真顔で舐めあげるように自分の姿を見ている。下から上へ、そして上から下へ。  
股間の所を念入りに注視され、沙耶は恥かしさに足をもじもじさせた。  
(まるで目で犯されてるみたい――)  
沙耶は全くそのとおりである事を、知らずのうちに直感で思っていた。世の中には女体に  
対してそういう楽しみ方がある事を、流石に耳年増ではあっても中学生の沙耶は知らない。  
SMごっこを強要されている屈辱と恥かしさ、体を吊り下げられている苦痛。  
そして、おしっこを我慢している恥辱的な辛さ――。  
 
さらに――。  
 
慎也は沙耶の足元に座り込み、沙耶の両足を少し広げてその間に自分の体を入れた。  
そして、両足の踝を掴んで、自分の足を沙耶の太股の間に割り入れた。  
「あん……」  
慎也はそのまま足を突き上げ、沙耶の股間を押し上げた。体勢としては座り電気あんまを  
90度回転させた格好だ。だが、沙耶にはこの段階で座り電気あんまと違う苦悶を  
感じていた。  
(あそこが……押しつぶされちゃう……)  
今、沙耶の自重は慎也の足の裏だけで支えられていた。全体重が敏感な股間に掛かっている。  
これだけで経験の少ない沙耶には十分な責めになっている。  
 
「名づけて『木馬式電気あんま』。『三角木馬』なんて言葉、知らないだろうけどな」  
ニヤリと慎也が笑う。  
(……知ってるもん)  
沙耶は反抗的に心の中でそう思った。知識だけは沢山蓄えているのだ。三角形の台座に  
跨らせられ、責められる女の人の写真は何度も見た。それが何であるかは理解しきれ  
なかったし、自分がそれを体験するだろうとはその時には夢にも思わなかったが――。  
 
「これで軽く震わすだけで……」  
「…………!!!」  
慎也が沙耶の股間に振動を与えると、電流の様な衝撃が沙耶の股間から脳天にまで  
走り抜けた。  
「きゃあ……うん!?」  
悲鳴を上げ、ガクガクと吊り下げられた体を揺する沙耶。確かに今までとは段違いの  
快感と苦悶が彼女を襲っていた。  
(な、なんなの……これ……?)  
次から次に押し寄せる快感の波と切ない苦悶――。ビクビクビク……! と股間や  
太股が震え、思わずおしっこが漏れそうになった。  
「くあぁ!……あああ……くっ!!」  
唇を噛み締め、懸命におしっこに耐える。快感で逝かない様に耐え、苦悶に負けない  
ように耐え、おしっこを漏らさないように耐える――全く休まる事のない責めを受け、  
身を捩じらせて悶える沙耶。  
まだ初潮を迎えて半年ぐらいの少女が受けさせられるのだ。他の同年代の子は勿論、  
大人の女でさえ、今の沙耶に匹敵する性感・苦悶・我慢責めのコラボレーションを  
体験した者はそういないだろう。  
 
「はぁああん!……だ、だめ……」  
沙耶は全体重が掛かる股間の位置を少しでも楽にしようと体を捩じらせるが、両手を  
拘束されて吊り下げられた状態ではどうすることも出来ない。しかも股間への突き上げは  
慎也が自由自在にやってくる。足の裏でブルブル震わせたり、踵を性器の部分に  
あてがったりした。  
「あ……う……! 慎也……それは……」  
踵責めは沙耶にはかなり堪えた。何しろ、自分の全体重が慎也の踵だけに掛かるのだ。  
股間への圧迫は強烈なものだがある。沙耶は懸命に太股で慎也の足を挟みこんで  
耐えようとするが、不規則な波で押し寄せてくる苦悶と快感が全身を走るたびに  
力が抜け、ますます股間に喰い込ませてしまう。  
 
しかも慎也はその踵をグリグリと動かしてくる。食い込みが激しいところを捻られる  
のだから普通ではいられない。沙耶が悲鳴を上げるたび、彼女の蜜壷はそれに耐えられる  
ように何度も蜜を溢れさせ、慎也の股間責めしている足をびしょ濡れにした。  
(おしっこも混ざっているだろうな)  
だが、慎也はそれは不問にしていた。これだけの股間責めをされながらそこにある  
尿道が無事であるはずが無いからだ。完全に漏らす以外は見逃す事にしている。  
しかし、沙耶にとっては必ずしもそれが幸せかどうかは分からなかったが。  
もしかしたら、その些細な事を追求され、失格にされたほうがましなのかもしれない。  
そうすれば、この責めは終わるのだから。  
 
「慎也……私……私、ヘンになっちゃうよぉ〜……」  
沙耶は既に泣き続けていた。だが、それでも降参しない。慎也は  
慎也でさえここまで強烈な責めになるとは想像もしていなかった。エッチな悪戯心が  
昂じて起こったこのSM電気あんま責め。自分を慕う、年下の従兄妹をここまで  
いじめて彼自身の良心は痛まないのだろうか?  
(沙耶が悪いんだ――)  
慎也は本気でそう思っていた。沙耶が自分を誘惑したうえに様々な挑発し、最後は  
意地を張り続ける。そのどれかが無ければここまで沙耶を虐める事は考えつきも  
しなかっただろう。  
 
(私が誘ったから――私が意地を張るから――でも――)  
沙耶自身もそれを感じていた。だが、  
(私が意地を張るのは――慎也の……『お兄ちゃん』のせいだもん)  
慎也にはさっき言った約束が、私にとってどんなに大切なものか、きっと分かって  
ないんだ、と沙耶は思った。  
 
(『東京に遊びに来れば渋谷でも原宿でも連れて行ってやるし、ディズニーランドで  
デートだって――』)  
 
慎也は軽く言ったつもりだったのだろう。彼にとっては所詮はプレイの延長線上の  
約束事であり、ゲームを楽しくするための商品に違いなかった。  
だが、沙耶にとってはそれは命に換えても惜しくないぐらい、大切な事だったのだ。  
憧れのお兄ちゃんと都会で楽しくデートする――沙耶が抱いたささやかな夢であり、  
雑誌で都会の写真を見るたびにその光景を目に浮かべるのが一番の楽しみだった。  
 
それが実現すると分かった時、沙耶は瞬時にどんなに恥かしい事でも耐えてみせる  
決心をした。電気あんまの苦悶ですら、ちっとも苦にならない、そう思った。  
(だけど――)  
それは完全に沙耶の間違いだった。明らかに沙耶は電気あんまを甘く見ていたと言う  
しかない。慎也が優しく気を使った電気あんまを、それが全てだと思い、こうやって  
責めに徹した電気あんまが女の子にとってどんなに辛いか、今身をもって知らされている。  
 
(それに……おしっこが……)  
おしっこ我慢責めとの複合も沙耶を悩ませた。電気あんまだけでも辛いのに、この  
下腹や太股が震えてもじもじしてしまう辛さ。電気あんまと似て非なるこの感覚に  
沙耶は耐えるのが辛かった。  
しかも、その間、電気あんまが緩む事はない。慎也が休んでいても沙耶は電気あんま  
された状態のままなのだ。慎也は単純に踵を股間に当ててグリグリするだけでよい。  
それだけで沙耶は自分の体重で自分の股間を責め立てられて苦悶する事になる。  
この悪魔の様な知恵が慎也の頭に浮かんでしまった事こそが沙耶の不幸だった。  
 
「あ……あああ……。……うっく!……だ、だめ……」  
沙耶の額は冷たい汗でびっしょりになっている。額だけでなく顔全体、いや、体全体  
から汗が噴出している。沙耶には股間を突き上げるような電気あんまが何時間も続い  
ている様に感じられた。だが、慎也が風呂場の時計を確認すると、実際にはまだ10分  
ぐらいしか経っていなかった。  
「はぁ……はぁ……はぁ……。くっ!」  
沙耶の吐息は熱く、荒くなっている。目を閉じて上気した頬は妖艶さすら感じさせた。  
溜め息の様な熱い吐息の合間に、電気あんまに耐える小さな悲鳴を上げ、聞くものの  
性衝動を更に刺激する。  
 
「ギブアップするか、沙耶?」  
慎也はそれでも沙耶に降伏を促した。チャンスを与えると言うよりは降伏の機会を  
与えながら沙耶に拒否をさせ、自分の良心の疼きを抑えるためなのかもしれない。  
沙耶に意地悪してるのではなく、沙耶が降伏しないから悪いのだ、と。  
「い……いや……」  
沙耶は吊られた状態でかぶりを振った。降伏を拒絶したのだ。  
だが、その姿に慎也の内心には別の気持ちが湧き上がってきた。  
 
「そんなに……俺の奴隷になるのがイヤか?」  
慎也はやや気落ちしたように呟いた。ここまで虐めたのだから嫌われても仕方が  
ないのだが、それでも偽りの降伏さえ拒むほど嫌われているのか? と思うと、  
ちょっと辛かった。  
だが、沙耶はその言葉に反応する。慎也の思惑とは違う風に。  
 
「イヤじゃ……ないよ……」  
電気あんまをされながら沙耶は息も絶え絶えに返事をする。  
「私……慎也の奴隷になるの……イヤじゃないよ……」  
「でも、ギブアップしないじゃないか?」  
「それは……勝ちたいからだもん……。慎也が望むなら……勝った時も奴隷に  
されてもいいの……」  
「ど、どういう事だ?」  
慎也が目を丸くする。奴隷になりたくないからこんなに辛い事を耐えてるんじゃ  
ないのか? 驚きの目を向ける慎也に沙耶は汗だくの顔でニッコリと微笑む。  
「慎也って……全然……女の子の気持ち……分かってない……」  
電気あんまされて悶えながらもクスクスと忍び笑いする沙耶。慎也にはその沙耶の  
心理状態がわからない。  
「わ、分かってないって……どういうことさ?」  
「ナイショ♪ 自分で考えて……」  
うろたえる慎也を面白そうに見る沙耶。  
(奴隷として与えられるのと、自分でデートを勝ち取るのとは全然違うもん♪)  
沙耶は心の中でつぶやいた。女の子の心理を理解できず、困った表情をしている慎也を  
少しいい気味だと思った。  
 
だが、現実はもう少し状況が厳しい。  
ちょっとした意趣返しはしてやったものの、沙耶が責め落とされるのはもう時間の問題  
だった。  
(あと15分もある……)  
それにその時間はあくまで最小限の想定で、一番早く帰ってくる日の時間に合わせた  
予想だった。平均すればもう1時間ぐらいは母親達の帰宅は遅い。  
(とても……我慢しきれないよぉ……)  
沙耶は悶えながら、絶望に陥ろうとしていた。  
(せめておしっこだけでも……)  
この状態でおしっこが我慢できなくなった状態を想像したくは無かった。  
(慎也に……まともに掛かっちゃう……)  
慎也だって凄くイヤだろう。だが、それよりも自分が物凄く恥かしかった。そんな光景を  
見られた日には、奴隷どころか、それこそ生きていけない。よりによって一番な好きな  
人に見られてしまうのだ。その事だけは絶対に避けないと……沙耶は思考能力が低下した  
頭ですらそう考えた。しかし……。  
 
「このまま、止めを刺してやる。沙耶、覚悟しろよ?」  
股間への踵木馬責め以外、あまり動かなかった慎也が、体を深く沙耶の足の間に入れて  
きた。どうやら決着をつけるべく、最後の行動を開始したようだ。  
「し、慎也……。その前に……」  
沙耶は慎也を懇願する表情で見つめる。  
「なんだ?」  
ちょっと怒った様に慎也が聞く。さっきの奴隷の事を教えてくれなかった事が不満  
なのだろう。  
「やっぱり、その……お、おしっこだけは先にさせて……」  
全身を真っ赤にし恥かしそうに沙耶が言う。  
「だめだって言ったじゃないか」  
「こ、ここでしてもいいの……慎也が退いてくれればこの状態でも……」  
沙耶は懸命に言う。吊られた状態でおしっこするのを見られるのは屈辱的で恥かしいが、  
このまましてしまうよりは何千倍もマシだ。  
「電気あんまされたままだと……慎也にも掛かっちゃう……だから……」  
沙耶は身も世もない表情で言った。これだけでも恥かしくて死んでしまいそうだが、  
慎也にかけてしまうよりは全然良い。  
 
「…………」  
慎也は少し考えていたが、沙耶の顔を見ずにサラリと言った。  
「だめだ。このまま電気あんまを続ける。おしっこがしたけりゃその状態でするんだ」  
「…………!! そんな!!」  
沙耶は絶句した。まさか、と思う。  
「わ、私がここでおしっこしたりしたら……し、慎也にもかかっちゃうんだよ?」  
かかるどころの騒ぎではない。それこそシャワーの様に全身に浴びてしまうだろう。  
そんな光景、想像するだけで沙耶は死にたくなってしまう。  
「別にいいさ。その場合、俺の勝ちだしな」  
「よ……良くないよ!! し、慎也……お願い、考え直して……」  
「じゃあ行くぞ。ここからが『木馬責め電気あんま』の真骨頂だ」  
「だめ……! ダメだよ、慎也……。……はぅん!!」  
問答無用とばかり、慎也はとどめの振動を踵から沙耶の股間に突き上げた。  
重く、しかも速さのある振動を女の子の急所に受け、沙耶はまたしても全身を貫く電撃に  
悲鳴を上げる。  
 
「ああああ……!! だ、だめ……、慎也。そこは……!!」  
踵の位置をクリトリスに持ってきて慎也はブルブルと踵を震わせた。そこは尿道にも近く、  
沙耶は快感とおしっこのツボを責められ、強制的に悶絶させられる。  
「ふぁ……!! ……あああ!! だめ、このままじゃ……!! 慎也、お願い!  
どんなに意地悪な責め方をされてもいいから……お願いだからそこからは退いて!!」  
沙耶の懸命な願いも空しく、慎也は薄笑いを浮かべただけであった。勿論、その位置から  
退いてしまうと沙耶を責める事は出来なくなってしまうが。  
 
「ふわ……あ……ああああ……!!」  
全身を思い切りシェイクされる沙耶。しかも股間には自分の全体重が掛かったままだ。  
長時間責め続けられながらも懸命に耐えられたのは、そこが絶え間なく蜜を溢れさせ、  
痛くないように潤してくれたので、本来苦痛であるべき事が快感に代わってくれたから  
かもしれない。  
だが、それはそれで、快感の得方が歪んでしまい、いわゆる『クセになる』状態に  
なってしまうかもしれないのだが――今後、沙耶が本来のセックスで得る快感が  
電気あんまのそれを上回ってくれるかどうかは保障できないだろう。  
 
だが、それは別の話。  
今の沙耶はさすがにこの責め方には耐え切れないだろう。ガクガクと腰が震え、背筋を  
反らせて悲鳴を上げる姿はもう陥落目前だ。  
「だめ……。もう……力が入らないよぉ……」  
沙耶は泣きながら悶えている。既に我慢する力はどこにも無かった今震えているのは  
痙攣に近い動きである。圧迫を受け、充血した股間の秘裂も今はヒクヒクと痙攣し、  
そしてついに少しずつ、汗とも愛液とも違う生暖かい感覚が慎也の足に伝わりだした。  
 
「慎也……お願い……見ないで……。うっく……ああああ……!!」  
性感の高まりが抑えきれず、おしっこが我慢できなかった沙耶。そして、その何かを  
失った失墜感は今まで張り詰めながらも耐えていた沙耶の心の糸をプッツリと断ち切った。  
「あぁ……慎也……私……もう……」  
「逝けよ、沙耶。俺が……沙耶の全てを受け止めてやる……!」  
「でも……! でも……! うん……わかった……慎也……。あああ……もうだめ……  
しんや……しんやぁぁあああああ〜〜〜〜!!!」  
 
ぷしゃぁああ…………。  
 
沙耶の心を支えていた慎也への想い。しかし、それにも限界があったか。  
強烈な電気あんまを受けながら、溜まっていた小水とオルガスムスを迎えて一気に  
噴出した蜜が、電気あんましている足の隙間から下にいる慎也の全身にシャワーの様に  
降りそそいだ。  
 
「あ……ああ……」  
沙耶はガクガクと腰を震わせ、太股が慎也の電気あんましている足をぎゅ〜っと締め付け、  
昇り詰めた最後の痙攣が途絶えるまで蜜のシャワーは続いた。  
「しん……や――」  
沙耶に失墜が訪れ、がっくりとシャワーフックにぶら下がったまま失神し、閉じた目から  
一杯に溜まった涙が溢れ出た。  
 
 
          *       *       *  
 
 
「ひっく……ひっく……うう……」  
ぺたりとお尻をつけてマットに座り込んだ状態で、慎也にシャワーで体を洗われながら、  
沙耶はさめざめとすすり泣いていた。  
それも仕方が無いのかもしれない。沙耶にとってはどうしても見られたくなかった  
シーンを見られたのだ。多感な十代にはあまりにも恥かしすぎる状況であった。  
 
冷静になると流石に慎也もバツが悪かった。いくらなんでもここまでするのはやりすぎだ。  
幸い、タオルで縛った手は少し赤くなった程度だが、体のダメージよりも沙耶の純真な  
心を傷つけてしまったと、かなり後悔している。  
「その……。ごめん、沙耶……」  
慎也はひとしきり自分と(自分も沙耶の粗相を全て被ったのだからかなり大変ではあった)  
沙耶の体を洗うと、泣いている沙耶に謝ろうと声をかける。  
だが、沙耶は振り返りもせずにすすり泣いたままだ。ひたすら泣いて蹲っているだけ。  
慎也を非難するわけでもなく、ただ、泣く。この姿を見ているのは慎也には結構堪える。  
これなら一層の事、大声で罵られたほうがマシだ、と彼は思った。  
 
「沙耶……。もうすぐおばさんたちも帰ってくるし、とりあえずバスルームから出ようよ」  
「…………しくしく」  
「沙耶、ゴメン。部屋に帰ったら何でもするから……。今はここから出てくれないか?」  
「……お母さん達に見られるのが……そんなに心配?」  
「い、いや……その……」  
漸く口を開いてくれたと思えば、この言葉……。慎也はほとほと困り果てた。  
陽も傾きかけ、いつ母親達が帰ってきてもおかしくない。内心焦るが……。  
泣かしたのは自分だし、強引に連れ出すわけにも行かない。一体どうすれば良いのか。  
だが、沙耶だってここにいると立場が悪くなるのは同じだ。それなのに何故……。  
 
(あっ……)  
そこまで考えて、慎也は沙耶が何故立ってくれないか、ようやく気がついた。  
「沙耶、悪かったよ……」  
慎也はバスタオルを取り出し、裸の沙耶を優しく吹きながら耳元で囁くように言った。  
「……何の事?」  
「目の前で沙耶が泣いているのに、おばさん達のことばかり気にしてさ……」  
「…………」  
「まずは沙耶の事を気にしなきゃいけないのにな。水で濡れたままだし、このままじゃ  
風邪を引いちゃうよ。沙耶が泣いてるのは俺のせいなんだから、部屋に帰ってから  
どうこうなんて自分に都合のいいことばかり言っちゃだめだよな……」  
沙耶は慎也の言葉を黙って聞いていた。そして、バスタオルを被ったまま呟くように言う  
 
「……責任、取って」  
「え……? あ、ああ……」  
ようやく沙耶が口を開いてくれたので少し慎也はホッとする。  
しかし、『責任とって』とは――。最初に言われた時はちょっとドキッとしたが、  
そう何度も通用はしない。慎也はクスリと笑う。  
「分かったよ。今度はどんな責任を取るんだ……?」  
優しく甘やかすように慎也は沙耶の頭を撫でながら聞いた。だが、沙耶は笑わなかった。  
 
「責任を取って……私を慎也のお嫁さんにして――」  
 
バスタオルを取った沙耶の表情は真剣だった。  
 
 
          *       *       *  
 
 
三十分後――。  
 
慎也と沙耶は居間で二人して寝転がっていた。部屋の中心に八の字の状態で、頭の方を  
近づけ、慎也は仰向けで団扇を揺らしながら、沙耶は猫の様に横向きに寝ている。  
勿論、もう裸ではない。慎也は黒のノースリーブシャツとカーキ色のハーフパンツ、  
沙耶はベージュのワンピース姿だった。慎也が沙耶を見ると沙耶のボディラインが  
くっきり見える。ミニのワンピースは太股が完全に露出し、思わずドキッとする。  
沙耶と視線が合うと沙耶はニッコリと微笑んでいた。慎也は慌てて視線を宙に戻す。  
慎也が照れた表情を浮かべるのを見て沙耶はクスクスと忍び笑いする。  
二人は手を繋いでいた。慎也が右手を出し、沙耶がその手を悪戯っぽくつまむ様に  
繋いでいる。何故か慎也はちょっと困ったような顔で、沙耶はこの上なく嬉しそうな表情で。  
 
「ねぇ、慎也――」  
「うん?」  
「私たち、とうとうしちゃったんだね……ファーストキス♪」  
「う……。あ、うん……」  
沙耶がフフフ……と慎也の手を何回もつまむ。慎也は暑い振りをして思い出したかのように  
団扇で扇いでいた。沙耶はその瞬間を思い浮かべるかのように、瞳を閉じる――。  
 
 
 
(私を慎也のお嫁さんにして――)  
(沙耶――)  
(だって……私、慎也に全てを見られたんだよ。私の恥かしい姿を全部。もう他の人の  
お嫁さんになんて行けないよぉ……――)  
 
恥かしさのあまり泣きじゃくる沙耶。慎也はその沙耶を見つめていたが――。  
 
(……わかったよ、沙耶――)  
(え――?)  
(沙耶を……俺のお嫁さんにしてあげる――)  
(慎也――)  
(これは――その誓い――)  
(あっ――)  
 
慎也は沙耶を優しく抱き、その顔を上げさせ、優しく唇を近づけた。  
沙耶が目を閉じ、そして――二人は唇を重ね合わせる――。  
 
 
 
「でも、ヘンだよね……あれだけエッチなことした後にファーストキスだなんて」  
「え? あ、ああ……そうだな。ハハハ……」  
その責任は勿論慎也にある。なんとなく後ろめたさを感じ、慎也は乾いた笑いで  
ごまかそうとしたが、沙耶はその内心を読んでいるかのようににんまりする。  
「心配ないよ――」  
沙耶の大きな瞳はキラキラと光を湛え、慎也を映し出している。  
「慎也だけじゃなく、私もエッチだもん」  
沙耶の零れんばかりの笑顔を見て、慎也は自分が優位に立ててない事を悟った。  
三つも年上なのだが……。  
 
「私たち、もうあの頃には戻れないんだね」  
「あの頃……?」  
「去年の夏、だよ。何も知らずに二人で兄妹として遊んでた夏――私たち、この夏で  
凄く変わっちゃったもん――」  
沙耶が瞳を閉じて微笑みながら言う。瞼の裏にその情景を思い浮かべているのだろうか?  
「ああ――」  
慎也は団扇の動きを止めた。  
「そうだな――」  
 
陽は傾き、夏の夕日は濃い紅で部屋の奥まで差し込んでくる。  
慎也はその夕日に萌える沙耶の顔を見た。瞳を閉じて感慨に耽る沙耶の顔は子供では  
無かった。思わず頬に触れたくなったが、その顔を見ていたいので我慢した。  
これから先、二人っきりになった時、去年までのように無邪気ではいられないだろう。  
童心に帰るのは誰かに見られているときだけ――二人っきりの時はきっとお互いを  
求め合うに違いない――。  
 
もう、あの夏は戻らないのだ――。  
 
「ねぇ、そう言えば――」  
沙耶がむっくりと起きて自分の顔を覗き込んで来たので慎也はドキッとする。  
その状態ではノーブラの沙耶の胸元から膨らみかけた蕾が見えるのだ。慎也はさり気無く  
視線を逸らせる。  
「私、慎也の事、『ご主人様』って呼ばなきゃいけないのかな?」  
「な、何を言ってるんだお前は……?」  
慎也は驚いて半身を起こす。  
「だって……」  
沙耶は真顔で言う。  
「私、賭けに負けたら慎也の奴隷になるんでしょ?」  
「うっ……あれは、その……」  
慎也の背筋に冷や汗が流れる。あれは一時の成り行きで……ともいいにくい。  
「あ〜あ、勝ってたらディズニーランドだったのにな〜」  
沙耶は凄く残念そうな表情をする。ジャンケンで負けたようなノリの話し方だったので、  
慎也は思わず噴出しそうになった。  
「でもいっか。可愛がってくれるのなら奴隷でも……可愛がってくださいね、ご主人様♪」  
沙耶はネコの様にゴロゴロと喉を鳴らして慎也に擦り寄る。慎也は微笑んで沙耶の  
小さな頭を自分の膝元に招き寄せた。  
(ディズニーランド、連れて行ってあげなきゃな――)  
慎也は帰ったらバイトをしようと決心した。無論、遊園地に連れて行くぐらいの小遣いは  
貰っているが、慎也としては自分が頑張って沙耶を連れて行ってあげたいのだ。  
記念すべき初デートには――。  
 
その時――。  
 
「ただいまー!」  
玄関の方から数人の大人が帰ってきた物音と沙耶の母の声が聞こえてきた。  
「あ、お母さんだ!」  
沙耶がぴょこん、と慎也の膝枕から起き上がる  
「沙耶――慎也君――もう帰ってる?」  
呼びかける声に沙耶は嬉しそうに反応する。  
「お帰りなさい、お母さん――! 今晩のオカズ、なぁに?」  
ミニスカートが翻るのも構わずに子供の様に駆け出していく沙耶の姿を、慎也は  
微笑ましげに見つめていた。  
 
 
                            (了)  
 

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