空を見上げる。今夜は月がきれいだ。
ろくに前も見ずにアルは帰路を辿っていた。
黒い毛並みである彼は暗闇に溶け込んでいる。
月夜に猫はよく似合う。そう思いながらただただ足を動かしていた。
しばらくすると大きな旅館の前で足を止め、彼は中へ入っていった。
引き戸を開くと今までの闇ととって代わり、明かるい空間が目の前に広がる。
もう夕飯の時間なのだろう、煮物のにおいが漂っていた。
「いらっしゃいませ… あら?アルじゃないの。お帰りなさい」
美しい黒猫が彼の前に現れた。彼の妻であり、この旅館の若女将であるアサミ。
「いまひと段落着いたのよ。ちょうど良かった。」
アサミはいつも通りにアルを奥の部屋へと招く。夫婦の為の少し小さめの二部屋。
畳の上の座布団にどっかりと腰を下ろす。彼女が寄り添うように脇に正座した。
「さっきっから和食のにおいが凄いな、今夜はそんなに人が多いのかい?」
「あら?和食はお嫌い?それじゃあ私と一緒に生活できないわよ?」
アルは東方の女性と結婚したい、と言い、わざわざ東に越してきた。
そして初めてとまった宿、それがこの旅館だった。
アサミは時計を見ると「そろそろ貴方も御飯にする?」と聞く。
その時奥の部屋で赤ん坊の泣き声が聞こえた。
慌てた様子でアサミは部屋を出て行く。泣き止む気配はない。
泣き声はだんだん大きくなる。アサミが赤ん坊を抱いて部屋に入ってきた。
「今日はねえ、この子あんまりお乳を飲まないの。大丈夫かしら…」
赤ん坊に乳を飲ますべく着物を肩から下ろして乳房を出す。
「ん?なんだい、ちゃんと飲んでるじゃないか。
まあ少しぐらい少ないからって心配する事はないよ」
母親の乳を懸命に吸っている我が子を目を細めて見ながら言った。
「そうかしら?…よしよし、いい子ね…」
やはり両親が黒だけに赤ん坊も黒い毛並みであった。
黒い子猫は乳を吸い終わると再び眠りに就いた。
「おやすみ、坊や…」
頭を撫でるとアサミは奥の部屋に赤ん坊を寝かしに行った。
まもなく戻ってくると部屋の障子を閉め、アルの横に座った。
「ねえ、どうする?先にお風呂入っちゃう?お客さんが入る前に。それともいま御飯にする?」
顔を覗き込みながらアサミが言う。
アルが考え込んでいると、アサミはアルの首に腕を回しもたれかかってきた。
「私っていう選択肢もあるわよ…?」
「じゃあそっちにするかな」
アサミが微笑む。アサミが唇と合わせようとする。
アルも顔を近づけると唇を合わせ、舌を這わせる。
舌を絡め合い、二人の唾液が混ざる。唇を離すと舌と舌の間に唾液が糸を引いた。
アサミの帯を解き、着物を肌蹴させる。大き目の乳房があらわになる。
乳房を上から軽く押すと乳が染み出てきた。