明治二年、西暦にして1869年、
一人の少年が異国の空の下、深い森の中で道に迷っていた。
「…黒海とかいう海に出た方が天竺まで早いと思ったんだけど……」
少年はふと視線を感じ、荷物と刀を片手に下ろしたマゲを後頭部で無造作にくくいた尾っぽをなでながら辺りを見渡し、
止まったことで疲れの出た少年は倒木に座るというよりもへたり込んだ少年は呟く。
元々西洋医学に興味が有り、その為に蘭語をやってた彼はちょっとした縁でいち早く西洋文化に触れ好奇心にかられるまま、
家出から密航の放蕩息子コンボを発動し一年以上、東洋人への差別も何のその図太く欧州をふらふらして見て回り折角なので天竺、清を見てやろうと東に向かった。
……までは良かったのだが、
ここに来て彼の旅は今までにない危機を迎えていた。
トランシルバニアとワラキアの間に横たわる山を越えようとした彼は、かれこれ2週間迷っていた。
おまけに生水が原因か、下痢を起こして5日、
降雪こそまだだが、10月の夕暮れ時の冷えた空気は容赦なく少年の体温を奪って行き、
「……あ…ふぁ」
体温の低下は急激な眠気となって少年を襲う。
「…まいったなぁ」
少年は気温の低下する時間に体を休めてしまったことに遠のく意識の中で後悔し、
眠気に抗おうと欠伸をかみ殺すが、すでに弱りきった彼の体はその程度で眠気に抗うことが出来ずに彼の意識は睡眠の深淵へと沈んでいった。
少年が気を失うように眠りについてから2日。
「…ん……うん…」
少年は、凍えることなく目を覚ます。
「…ふぁあ〜〜…って、ここは?」
久しく遠ざかっていた穏やかな目覚めから序々にはっきりと覚醒し状況を認知し始めた彼の頭に疑問符が浮かぶ。
目に差し込む暖かかな日差しはガラスの窓を通して降り注ぎ、彼の体は清潔な布団と毛布に包まれている。
少年が目覚めたのは明らかに眠りについた森でなく民家のベッドであった。
「……助かった?」
感慨深げに呟やいた少年が体をベッドから起こしベッドから抜け出そうとすると、
「まだ……寝てないと駄目です……」
少年はその小さな言葉と同時に横から急にベッドに押し戻された。
「っ…」
その突然の出来事に特に痛みがあったわけでないが、驚いた少年の口から息が鋭く洩れる。
「あぅっ…ご…ごめんなさい」
その少年の声に反応し、横から押さえた力が緩み先ほどと同じく小さくな声が少年の耳に届く。
簡単にベッドに押し戻され身体の疲労を実感した少年は大人しくベッドに戻されたその姿勢のまま、自分をベッドへ押し戻した主を確かめるために声の方に首を捻る。
「あ…痛かったですか?」
そこには、片手を少年の肩に乗せたまましきりに心配しおろおろとする少女が居た。
少女が視界に入った瞬間、少年の心臓の鼓動は跳ね上がった。
陽光に透け輝く褐色の髪、
翠玉のような瞳、
少し赤みがさした白い肌、
西洋人が東洋人の彼を自分たちと何か別の生き物と感じるように、彼にも奇異な物としか感じられなかったはずの西洋人を構成するパーツのはずなのに、
何故か彼女のそれは一目で少年を虜にしてしまった。
少女は、少年のそんな様子に気づかずに彼が大人しくベッドに収まったので彼の肩を押さえた手を離すと、脇に置いてあった皿を両手で彼に差し出す。
「あの…これ……」
たっぷり入った液体の注がれたその皿は少年の目の前に差し出された瞬間、たぷんと揺れ臭気を放ち、
「いつっ」
その異様な臭気は少女に見とれる少年の目に染み、彼を現実に引き戻す。
我に帰った彼は、ようやくに状況を理解し口を開く。
「…君が助けてくれた?」
「はい…その…庭先で疼くまってましたから」
少女は少年の質問に、そっと窓の外を指さしながら呟くように小さく答える。
「なるほど……」
すぐ近くにある家に気づかなかったのは可笑しいが、確かに少女の指さす先に窓辺に黒猫の寝ている窓があり、
そこから自分が座った倒木が見えると納得した少年は、窓から視線を外し少女に向き直し、
「有り難う」
と助けられたことに対して素直に礼を述べると、
「…はい…それで、その……これ、栄養があるので……」
少女はうつ向いていた顔を少し上げると、再び先ほどの皿を差し出す。
「……ああ、栄養ね……因みに材料は何?」
助けてくれたんだし別に毒ではないだろうと、怪しげな臭いに怯みながらも皿を受け取った少年は、なるべく表情を崩さないように心がけながら彼女に問いかける。
「き…聞かない方が良い…と、思います…」
少年の問いかけに少女は、突然に慌てながら答えるが、直後に
「イモリの心臓のスープに蝮の血と潰した肉、各種薬草を加え、最後に揚げたゴキブリをすり潰した粉末を振りかける」
少女が答えなかった皿の中身の解説を横から、いつの間にか日当たりの良い窓辺から少年の寝ているベッドに移動していた黒猫が答える。
「ハウさんっ!しゃべっちゃ駄目って言ったじゃないですかっ!!」
唐突に喋り出した黒猫に、少女は慌ててベッドの上の猫に目掛けて飛びつく。
黒猫は少女の動きを余裕を持って一瞥すると、彼女の手が届く寸前にひらりと軽やかにかわし、
空振りした彼女のその全体重は更に高さ分の力がかかったまま、
「ぐふっ」
何が起こっているのか理解出来ずに見ていた、少年のまだ下痢から立ち直ったばかりの腹部を直撃し腹痛を再び呼び覚まし、
その上、先ほど少年が受け取った皿はその衝撃で宙を舞い、中身は少年の頭から胸元までを濡らした。
「あああああっ!
ごめんなさいっ!!ごめんなさいっ!!」
少女は、その体勢のままおろおろと手を動かし、その痛みにうずくまる少年にしきりに謝る。
当の黒猫の方は、軽やかに少女をかわした後再び窓辺に戻りその様子を眺め、くくっと愉快そう堪え笑いするとその日当たりの良い窓辺で丸くなった。
「本当にごめんなさいっ」
叫びながら慌ててベッドから起き上がった少女は、少年が頭から被った液体を拭くためにシーツの濡れてない端を持ち上げる。
「いや、良いってっ」
近づいてくるその少女の手に気恥ずかしさを感じた少年は少女の手から、そのシーツをひったくるように奪い、
「そもそも、助けて貰くれた恩人にそんなに謝られても困る…んだけど」
気恥ずかしさを悟られないように彼女の目を見れないまま、頭を拭くついでに顔を隠し呟く。
「助けてもらった…ねえ……」
少年の言葉に再び、先ほどの黒猫が口を挟む。
「駄目ですってっ!」
慌てて再び、少女は黒猫に飛びつこうとするが、
黒猫は一跳びすると、今度は逃げずに少女を飛び越えると後ろ足で少女の後頭部を軽く蹴ると、
「あわわわわわわ」
少女は体勢を崩し、そのまま壁に向かって転がって行った。
「どうせ、すぐに知られるんだからさっさと言ってやった方が良いんだよ」
少女を踏み台にした黒猫は、ベッドに着地すると少女に向かってそう言うと少年を見上げる。
「なんだよ」
少女を足蹴にした黒猫の行動に不快感を感じた少年は、少し強めの声色で聞き返すと、
黒猫はその少年の言葉を跳ね飛ばすようにきっぱりと答える。
「お前、もうここから出られないぜ」
「う〜ハウさん…言っちゃいましたね」
転がった末に頭を壁にぶつけたらしく、頭をさすりながら涙を目に滲ませた少女は黒猫に呟くと、少年の方を向き直し、
「ご免なさいっ!!
……でも…あの…ほっとけなくて……」
頭を下げる。
「その…その猫の言うこと本当なの?
いや…そもそもその猫、今更だけど何故にしゃべっている?」
突然の出来事に混乱し麻痺していた少年の頭はその少女の態度でそれを事実だと理解し、唐突の麻痺していた混乱が吹き出した。
「俺のことを猫っていうなよ、小僧。
いいか、俺様は36もの悪霊軍を支配する魔界の公爵、全てを識る者だぜ?」
混乱する少年を余所に猫と呼ばれた黒猫は、少年をギラリと睨んで、
「その気になれば、おまえなど魂ごと消し炭に出来るんだぞ。
良いか、これからお前もここで暮らすんなら覚えとけ、俺様を怒らせちゃあいけない…ってな」
言葉を続ける。
「もうっ!ハウさんは黙ってて下さいっ!!」
その言葉が終わるか終わらないかで、少女はその黒猫に怒鳴り言葉を遮ると、
「説明しますから」
と少年に向かって小さく呟く。
「……混乱していると思いますから、出来るだけ簡単に話しますが、良いですか?」
少女はベッドの横の椅子に腰掛け少年の方を向き話しはじめる。
「出来れば、あの自称貴族様は何様なのかは省かないでね」
少年は話しはじめようとする少女に一番の混乱の原因、言葉を少女に遮られてからベッドの上で大人しくしている黒猫をちらりと見て少女に話しを促す。
「ハウさん…私はそう呼んでいるんですが、
私の御先祖様が使役していた悪魔の一柱なのだそうですが」
少女はそこで一息つくと
「御先祖様が亡くなる時に封印したはずなのですが、その封印を解いてしまった方々が居て、
ようやくハウさんだけは私が見つけてここに魔法で閉じ込めたんです」
一気に話を続ける。
「悪魔…バテレンの疫病神みたいな物だったね?
で……君はそれを捕まえた魔女ってわけだ」
少女が話を終えたのを見た少年は少女の声を聞きながら黒猫をまじまじと見つめる。
「…つまんねえ奴だな。驚かねえのかよ?」
少女がこくりと頷くと黒猫は少年の反応に本当につまらなそうに呟くき、少年はそれに、
「しゃべる鳥とか見たからね、それに政治よりは恐くはないさ」
と微笑みながら答えると、黒猫はフンと鼻を鳴らし
「そんなもんと一緒にするな」
と呟き、その場に丸くなった。
少年は丸くなった黒猫から目を外すと、唐突にすくっと立ち上がると、
「…えっと、僕の荷物と刀は?」
少年の質問に少女がベッドの自分とは反対側に視線を飛ばしたのを確認した少年はその方向に視線を移し、
自分の荷物を確認すると、それをひっ掴み刀の紐を肩に掛けると
「魔法…ね。
いや、うちの国は真面目に官僚が占いやってるし良いんじゃないかな?
ところで外に出る扉はあれかな?」
と扉を指さすとははっと笑いながら、少女の返事も待たずにベットから這い出し扉を開けるとふらふらと出ていった。
「あの小僧、静かに混乱するタイプだな」
その少年の様子を見た黒猫は、丸くなったまま首だけ上げてぽそりと少女に話しかけ、
「そう…みたいですね」
それに答えた少女は、ハッとして叫ぶ
「駄目じゃないですかっ!
彼まだ本調子じゃないんですよっ!」
と、大きな音をたて椅子から跳ね降りると少年の後を追った。
少年が少女の小屋を出て二時間後、
小屋から直線距離で500m程離れた森の中、
少年は木々の隙間の空間に手のひらをかざすと、その手をまるで壁でもなぞるように平行に動かす。
「はは……本当に出られないや」
少年は指を軽くを曲げると頭の後ろまで引き、一気に降り下ろした。
降り下ろした手は音もなく、先ほどまで少年がなぞっていた空間に当たると一寸もそこを越えることなく、何か壁にでもぶつかったようにぴたりと止まってしまう、
少年は小屋を出てここまで真っ直ぐ歩き、その後ずっと幾度となくその行動を繰り返していたが、
いい加減に諦めた少年の膝が、その見えない壁に手を突いたままずるずると折れ、少年はその場にへたり込んだ。
「……ごめんなさい」
へたり込んだ少年に背後から、そう声がかけられる。
少年を追って小屋から出た少女だ。
真っ直ぐ歩いた少年と違い、どこに向い歩いたか判らない少年を探し歩いた少女はようやく少年を見つけ追い付いてきた。
「……おかしいよな」
その少女を少年は振り向かずに、小石を拾い自分が通り抜けられない見えない壁に向かって投げた。
「こうやって石とかは抜けられるんだけど」
投げられた石は全く難なく、その境界を越えると少し先の木に当たると横に跳ねそのまま茂みに消えていった。
そして、その石の軌跡を追うように少年の腕が伸ばされるが、件の境界にある見えない壁に遮られそれ以上進まない。
「僕の体は無理みたいなんだ」
「本当にごめんなさい……
一度、私の家に招き入れてしまうと、この範囲からもう
出られないんです」
少女は伸ばされた少年の腕をそっと抱きかかえ、謝る。
「謝るくらいなら、ここから出してくれよっ!」
少年が叫びながら立ち上がり、絡んだ少女の腕を振りほどくと、
その勢いで跳ね飛ばされた少女の体が軽く浮き、例の見えない壁にそのままぶつかり、
「あぅ…っん」
彼女は呻き声を洩らし地面に転がった。
「あっ、御免」
その光景に、動転し思わず力を入れすぎてしまった事に気づいた少年は慌てて彼女に手を差し伸べようと近づいて彼女の足に気づいて取り乱したとはいえ、怒鳴ってしまったことに後悔した。
彼女の足はまだ血が滲むほど新しい細かい切り傷、
おそらくは草などで切ったであろう傷に無数に傷ついていた。
それを見れば混乱しどこへ行ったとも知れない少年を彼女がいかに慌て、いかに必死に探してくれたかが一目瞭然である。
少年はその少女を突き飛ばしたのだ。
それに少女が助けてくれば、少年は今生きてさえ居なかったことにさっと血の気の引いたせいで熱くなっていた頭が冷静に回り出すと思い出し、少年の胸がずきりずきりと痛む。
少女はよろよろと立ち上がると、その痛みに歪む少年の顔をそっと
「ごめんなさい、私は大丈夫ですから……そんな顔しないで下さい」
小さな両手で包む。
少女のその行為で、落ち着いた少年は少女から離れるとその場に座り、
「助けてくれたんだよね、取り乱して御免」
と頭を下げる。
「いえ…そんな、そのせいで貴方はこの山から出られなく…」
その少年の感謝の言葉に否定的にうつ向こうとする少女の言葉を、少年は手を彼女に向かいかざして途中で制止し頭を上げると、
「別に良いよ。どうせ国に帰っても公家の生活なんて閉じ込められたのと大差無い。
それに、出られなのが気に入らないなら腹でも切って死ぬところからでもやり直すさ」
と少しでも彼女の気を楽にできないかと、軽口のつもりで彼女に笑いながら言った。
が、さすがに死を織り込んだ言葉は冗談とするには質が悪く、
また、彼女も冗談を受け入れるには真面目すぎた。
「駄目ですっ!!死ぬだなんてっ!!」
間に受けた彼女はほとんど思考など成す時間もないほどの刹那、少年が肩にかけた刀を押さえようとそれ目掛けて飛びついた。
刀を押さえようとし勢いよく突っ込んだ彼女、
それに中途半端に反応して居座ったまま、さっと片膝の動きにてかわすがそれが災いした。
避けられバランスを崩し大きく彼女が腕を振った拍子に、
肩にかけられた紐に彼女の指が引っかかり片膝を軸に反回転していた少年を巻き込み、その場に転がった。
少年の肩を引きながらなだれ込むように倒れる少女と、それに引っ張られる少年は狭い木々の間を縫うように転がった結果、
少女が上になる形で密着し、少女の胸の膨らみが少年の頬に押し付けられる形で二人は体を絡め枯れ葉の上に転がった。
「…あぅぅ……」
その状況に慌てた少女は、ろれつの回らない言葉を漏らしながら、少年の上から起き上がり降りようと地面に手を付き腕に力を入れ少女のその体が少し浮き少年から離れようとし瞬間、
少女はぐいっと強く少年に抱き寄せられた。
「えっ?あれ?」
思わず、洩れた少女の疑問府の言葉に彼女を抱きながら、
少年は序々に荒くなっていく呼吸の合間に答える。
「ごめん……
でも、おかしい…んだ。すごく熱くて…その……」
少年は呼吸や動悸とともに激しくなる、抑え切れない股間のうずきを訴えるようにちらりと自分の下半身に視線を送る。
その視線に釣られ、少年の股間に目をやった少女はそこで衣服を隆させるモノを見た少女は、
「あぅ…ごめんなさいっ!
多分さっきかぶった薬のせいです。強いすぎた…のかな?
貴方の体力が思ったより回復してたみたいです……」
真っ赤に赤面しつつ、ぺこぺこと頭を下げながら少年の様子を自分なりに分析した結果を少年に説明する。
「回復してたみたいですって…あのねぇ」
少年は言葉こそ柔らかいが、かなりせっぱ詰まった口調で言葉を漏らす。
「ごめんなさい、こ…今晩一晩我慢してもらえば治まると思いますから……」
少女は、そう言うと再び少年の腕から抜けでようと力を入れる。
しかし、その抵抗は再び無駄に終わった。
少年はがっしりと少女を掴んだまま、離さない。
いや、離せないままでいた。
離さなければ、少年もそうは考えていた。
そうは考えてはいたが、考えた答が頭からかぶった薬によって熱を帯びた体で実行出来るほど彼は大人ではなかった。
少女が離れようとする度、少女を離そうと思う度に少年の心に始めて少女を見た時の感情が強く沸き上がり、それが少年の体を耐え難いほどに熱くし彼の行動を支配した。
「はぁ…はぁ……」
鼻での限度を超えた呼吸が少年の口から漏れ出る。
なんとかギリギリで少年はそれ以上の線を踏み越えまいと耐える。
そんな少年の様子を少女は見つめ、
一旦、目を伏せた後、
「……辛いんですよね?」
少年に問いかける。
「かなり……」
少女の声に少年は、
「その辺の棒っきれで僕を殴り倒して、気絶でもさせた方が良い……」
ちらりと辺りを見渡すと、自分で出来ない抑制を彼女に託す。
「ごめんなさい…私のせいですよね……」
「いや…気にしてる暇があったら、さっさと…」
半ば以上、おかしくなっている頭で必死に自分を抑えながら話す少年の予想外の答えが彼女から返ってくる。
「いいです…よ」
「…え?」
「その…実は山で迷っている貴方をずっと水晶で見てたんです……迷ったままなら……
助けるためなら結界に招き入れてもきっと仕方ないよね……ここに一緒に居てくれないかな……って考えてました……」
そして、少女は最後に小さくごめんなさいと呟く。
それだけ言い切ると、少女は体の力を抜きゆっくりと少年の唇に自らの唇を優しく重ねた。
「……え?…あ?」
それは少年が突然のことに混乱している間に終わるほど短い口付けだったが、
「……今のは魔法です。
優しくしてくれるようにって魔法をかけました…かかりましたか?」
唇を離した少女が微笑むと、
それだけで依然として少年の体は熱いままだが、頭はすっと風が通り抜けたように治まった。
「うん…」
少年は少女に微笑み返すと、今度は少年の方から少女に唇を重ねる。
少女からされたのとは違う深い口付け。
何度か歯をぶつけながら互いの唇をこねその柔らかさを味わい、少年はそのまま興奮に任せ舌を彼女の口内に差し込む。
「あっ…」
驚きの声が彼女の鼻から抜ける息とともに漏れ、
危うく彼女の口が閉じられそうになり舌に彼女の犬歯が少し食い込み、幽かな痛みが走るが少年は構わずに少女の口内の更に奥へ舌を伸ばし、
歯の裏、舌、歯肉など彼女の口内のありとあらゆる場所を味わい
呼吸が苦しくなるほどに少女に口付けた少年は、
少女の唇から自分の唇を離すと彼女の下から抜け出し、もう一度、口付けを交わしながら彼女をゆっくりと枯れ葉の上に押し倒した。
少女に覆いかぶさった少年は、かさり…かさり…と枯れ葉の音をさせながら、彼女の衣服を丁寧に脱がしていく。
そして、少年が少女のかぼちゃパンツの紐を下げようとしたところで、それまで少年に任せていた少女の手が、さっと下げられようとするパンツを掴んだ。
「…あの…大丈夫ですか……
私、変なところ有りませんか?」
「多分……比較があるわけじゃないけど、綺麗だから」
まだ経験の少ない少年は、判断基準の判らないまま素直に答ながら、ゆっくりと彼女の指を解くと彼女が掴んでいたパンツを膝下まで下ろすと、
下着から解放されたやや固い質で彼女の髪と同色の茂みが、蒸れた彼女の香り放ちながら少年を誘惑する。
「……ごくり」
その誘惑に焦った少年は緊張に喉を鳴らし、唾を飲み込むと彼女の股間に顔を埋め茂みに隠れた彼女の秘裂に口付けし、
たっぷりの唾液を舌にからませながら丹念に嘗めあげていく。
「あっ…」
その強い刺激に短い声を漏らした少女は、
「……あぅ…あぁっ」
反射的動作で腰をくねらせ少年の愛撫から逃れようとしするが、少年はそれを両の手で押さえ続ける。
押さえられた少女の体は、それでも尚逃れようと力を入れた事で汗をかき少年を誘惑する香りは更に増していき、
その誘惑に我慢の限界を迎えた少年は、自分自身を取り出すとまだ少年の唾液で僅かばかりに濡れただけの少女の秘裂に当てがった。
「…ん」
ぴとりと少年の先端が入り口に当てられる感触に少女の口から声が洩れ、
それを合図にゆっくりと、少女の秘裂に少年の先端が沈み込まれていく。
「……っ!」
入り口まだ充分にほぐれていない、閉じられた入り口をこじ開けられる痛みに、少女の額に苦悶のしわが浮かび痛みで萎縮した体は更に固く、少年の進入を拒む。
少年にもっと余裕があれば、この先端を押し返される固さにそれ以前にもっと他にしようがあったのだが、
焦った少年は、体重を使い強引に少女の中へ自分自身を沈みこませていく。
「……っ……くっ」
そして、多めの出血をともない少年が少女のもっとも奥に到達し、
その動きが止まり少女の食いしばった歯から息が漏れ痛みに止まっていた呼吸が再開された時、
ようやく自分のことで手一杯だった少年は少女のその状況に気づき、慌てて
「ご…ごめんっ」
腰をひき、彼女の中に収まった自分自身を抜き出そうとする。
「待って…」
少女はそれを、少年が引こうとする腰を両手で抱え止めると額に脂汗を浮かばせ、瞳に涙を滲ませながら少年に
「ゆっくり…しよ」
と微笑む。
少女の言葉を受けた少年は抜こうとしていたモノを止め、
彼女が慣れるまで気を逸らすために、先に疎かにしてしまった愛撫をはじめる。
ゆっくり、耳から首筋にかけて何度もキスし、
手は彼女の柔らかい胸を優しく揉み、その固くなった先端をさするようにゆっくりと刺激していく。
やがて、少しずつ
「くぅん…あっ…んん……」
彼女の息遣いの中に甘い声が混ざりはじめる。
その声を聞いた少年は、
彼女の胸から手を離すと自分と少女の繋がっている辺りの上にちょこんと乗った小さな突起に手を伸ばし、
赤く充血したそこの包皮めくり上げる、先ほどの乳首への愛撫よりもゆっくりと優しく愛撫する。
「きゃっ…あぅん」
少年は突然の鋭い刺激に彼女が大きく漏らす声を無視し、少しづつ彼女から溢れる液体をそこに塗り付け、
何度も何度も繰り返し、そこをさすり上げていく。
「あっあぁつあっあっ」
それにともない彼女の声が高く断続的になって行き、それに伴い少年と少女の繋がりから溢れる彼女の液体もその量を増していく。
「そろそろ動くよ」
その液体により充分に繋がっている部分が潤ったと感じた少年は少女に優しく語りかけると、
愛撫の最中動かさないように気を使っていた腰を、ゆっくり揺らすように動かしはじめる。
「……くぅ」
背筋に痺れるような解放感を伴った快楽が少年を襲い。
不意に果てそうになる波を少年は奥歯を噛みしめて耐え、少しづつ揺らす運動を前後のスライドへ変えていく。
「やっ…だめ…あぅん…あっ」
序々に変化していく少年の動きに合わせ、少女が甘い声の混じった激しい呼吸を漏らし、その呼吸の度に少女の中にある少年のモノが強く締めあげられる。
それが少年の動きも更に加速させていく。
「あっ…ああん」
その二人の相互作用の中、少女はせつなげにあえぎされるだけだった彼女も少しつづ腰を動かしはじめる。
しなやかにくねるその少女の腰の動きにこねられた少年に、先ほど堪えた波が再び訪れる。
「もう…駄目みたいだ」
その波を堪えられない、そう判った少年は少女を強く抱き締め
「あっ…あっあぅん…私も何か変です……」
甘い声を漏らすその唇を激しく奪い彼女の中、最も奥にこみ上げる衝動に任せて放った。
「ふぅ…はぁはぁ……あのさ」
まだ抱き合ったまま呼吸も漸く治まり始めた余韻の中、急に少年が口を開く。
「こういうことしてから…難だけど、まだ僕名乗ってなかったね」
「あっ…ごめんなさい…私も名前も言ってもせんでした」
二人は名前を全く失念していたことに、妙な感覚を覚え互いに顔を見合わせ笑うと、
少年から口を開く「君が助けた男の名前は金刀(コンドウ)武(タケル)、恩人殿は?」
「私はルツです、これからよろしくお願いしますね」
名乗りあった二人はもう一度、強く抱き合うと優しく口付けを交わした。