茜がこぼれるように笑って、可愛い八重歯が覗いた。  
ソファに二人腰掛けて、他愛もない話を繰り返す。  
なんだか分からないけど、幸せな気分。  
 でもそのうち、茜の笑いがぎこちなくなった。私は言葉を止め、茜を見つめる。  
奇妙な沈黙が続いたあと、茜が口を開いた。  
『…あたし、今日お姉ちゃんに会いに行くよ。お姉ちゃんがあたしに、気付いてくれたら嬉しいな…』  
茜の声が、だんだん遠のいていった。  
 私は…ただ、何のことか分からずに黙っていた。茜の姿は薄れて見えなくなった。  
 
目を開けると、カーテン越しの優しい光が目の前を覆った。  
ぼやけた視界が定まっていくのを見ながら、私はついさっきの出来事が夢だと気付いた。  
 見るたび茜は少しずつ大きくなっているし、最後に謎の言葉を残すのも初めてだったけど、  
毎年決まってこの日に見る夢。  
今日は妹の命日だ。  
茜は流産だった。妊娠中の母が何か重い病気にかかった為だそうだ。  
私が四歳の時、母と茜は同じ日に命を失った。  
父は、二人が死んだ後、ばかみたいに仕事をした。働いて、働いて、過労で死んだ。  
だから実質、三人の命日かもしれない。  
 私は親戚に引き取られ、面倒も見てもらってるし、高校にも入れてもらえた。  
だけど叔父さんたちは墓参りには来ない。母たちは嫌われているようだった。  
   
すっかり枯れて散らばった花を取り替え、お墓に水をかけながら、微かに記憶に残る両親に呟く。  
お母さん、私は茜の分も幸せになるよ。お母さんが産んでくれた命だもん。  
お父さん、私が見えなくなるほど辛かったんだね。お母さんや茜と幸せにね。  
毎年同じ事を言っている気がするけど、これ以外の言葉が見つからない。  
 茜のお墓の前に手を合わせた。つけられた名前を一度も呼ばれることなく他界した妹。  
当然私は、その姿を実際に見た事はない。  
でも、あの夢の、写真の母によく似た面影の少女が思い浮かんだ。  
彼女は、今日私に会いに行くと言っていた。  
もしあれが本当に妹なら、霊でも出てくるんだろうか。  
 そんなことを考えていると、急に墓地の周りの森がざわざわ音を立て始める。  
その直後、体がよろめくぐらいの突風が吹きつけてきて、私のかぶっていた麦わら帽子が飛ばされて  
しまった。  
帽子は、森の中へ消えていった。  
 
帽子が飛ばされた先には、大きな沼があった。結構深そうだ。  
帽子は、沼の中央の、少し茶色がかったワカメのような藻が集まっている所にひっかかっている。  
 滅多に人が来ない寂れた墓地の脇のため、まず人に見られることはない。  
だから、私は下半身に着けていたスカートやショーツ、靴下なんかを全て脱ぎ捨てて  
得体の知れない沼に入っていってしまった…。  
 
沼のふちは、私の膝ぐらいの深さしかなかった。   
でも進むにつれてだんだん深くなり、そのうち腰の辺りまでが水に浸かってしまった。  
少し怖くなって戻ろうかとも思ったけど、足元の泥が思ったよりしっかりしてたから、  
私はそれだけで安心して、更に奥へ進もうとした。  
 その時だった。足首に何か冷たいものがひっついたのが泥水の中でもはっきり分かった。  
「ひゃあっ!」  
つい声をあげて、両手を握り締めて震えてしまう。いや、足首だけじゃない。  
ぴた、ひた、とその何かはどんどん私の足にへばりついてきた。  
足の指と指の間、くるぶしの窪み、爪と指の隙間。  
首筋がぞくぞくした。一体何がどれだけくっついてるの?  
 もう帽子どころじゃない。私は悲鳴を上げながら必死で来た道を引き返した。  
わざと足を大きくバタつかせてるのに、それはぴったりくっついたまま離れなかった。  
私は必死になって泥の上を歩いていたけど、自分がどっちへ向かっているかなんて分からなかった。  
実はこのとき私は、来た道とはまるで見当違いの方向へ逃げていた。  
それに気付いたのは、足元にあるはずのしっかりとした感覚が不意に消えた後だった。  
「きゃああ!お、溺れる!!」  
錯乱して慌てた私は、夢中でそばにあった植物を掴んだ。  
なんとか体は支えられた。助かった、ととりあえず安心した時、  
足にはりついてじっとしていたものが、とうとう動き出してしまった。  
伸び縮みしているのか、糸の様な感じと丸っこい感じが交互にして、その感覚がだんだん  
上にあがってくる。這い上がってきている。しかもやけに早い。  
「いやああぁ!は、離れてよー!!」  
私は大声で叫びながら、また足をバタつかせた。  
でも、やっぱり無駄で、一番上のはついに太腿に這い登ってきた。  
手で払いたいけど、両手でやっと体を支えてる状態だからそんなことも出来ず、  
肌の上を何かがうごめくのを感じて訳のわからない悲鳴を上げながら足を滅茶苦茶に暴れさせるしか  
無かった。  
 
私がどれだけ激しく抵抗しても、本当に何の意味もないみたいで、  
太腿にいた何かは、とうとう私の一番大事なところに近づいてきている。  
薄く生えた毛が引っ張られるような感じがしたとき、私はもう我慢できなくて、  
植物から右手を離してその何かのうちの一つを掴んだ。  
残った左手で沈みそうになる体をなんとか支えながら手の平を開く。  
 それを見て、私は本当に気が遠くなりかけた。  
「…あ、ぁ…こ、これ、まさか…ひ、蛭?…そんな、うそ、何で…」  
ヒル、たしか血を吸う生物。確かにそういうタイプのものとは思ってたけど、  
私の日常にとってその生き物は馴染みがなさすぎた。  
怖いのか気持ち悪いのか、気付くと私は声も出さずにそれを放り投げていた。  
遠くでポチャンと音がした。投げた手の平が震えている。  
あんなものがまだ私の体に無数にはりついている。  
一瞬だったからよく分からなかったけど、結構大きかったはず。  
すぐ体中の蛭を掴んで放り投げようと思った。  
全部は無理かもしれないけど、せずにはいられない感じで。  
 でもその時、耳の奥で何か微かな音が聞こえた。  
よく聞いてみると、それは囁くような「声」だった。わずかに「た」「たょ」と聞き取れる。  
もっと注意してみた。確かに言葉を話している。一瞬遅れて、それが頭の中で繋がった。  
 『 あ た し だ よ 』  
その声には聞き覚えがあった。というか、何度も聞いているうちに思い出した。  
だってそれは、朝、夢の中で聞いたばかりだったから。  
そういえば、夢の最後にいっていた気がする。会いに行く、気付いてくれたら…とか。  
皮膚に貼りついて這い回る、この気持ち悪い蛭が妹…?  
「どこ?茜、どこにいるの?」  
正確にはどれ?だった。体を這い上がってくる蛭全てが茜というわけじゃないだろうし。  
いやそもそもその中に妹がいるなんて信じたくもないけど、今の声を聞く限りそうとしか思えない。  
 何度聞き返してみても、もう返事は無かった。  
その代わり、蛭たちの動きが更に激しくなっていく。  
茂みに何匹も集まって割れ目をなぞっているし、お尻の穴をくすぐっている蛭もいる。  
足にもあいかわらずいっぱいついているし、とうとうお臍にまで顔を埋めだした。  
 お臍の蛭は泥水から出ているので、私は改めてその姿を見ることになった。  
半透明で、何か粘液のようなもので光っていて、でも大きさは小指の先ぐらいだった。  
シャツをたくし上げたままその蛭を眺めていると、その横から別の蛭がぞろぞろ水面上に姿を現した。  
吐き気さえ覚える光景だった。  
 
何十匹いるんだろう、汗の固まりのような蛭が服の中に入り込み、お腹と背中を埋め尽くして、  
首の辺りまでむず痒くなってきていた。  
そう、なんだか蛭が通った後はやたらと痒かった。  
しかも、水の中では別に感じなかったけど、体から出た粘液が肌を刺激するのか、少し熱い感じ。  
恥ずかしいところをさする蛭の動きが、特に激しくなってきてる。まさかと思うけど…  
「あうっ!ああ、いやあ!そこへ入っちゃだめぇ!!」  
本当に入ってきてしまった。  
たまに、いや実は割とよく自分を慰めるためにそこへ指を入れたりはしてたけど、  
まだ指以外のものは経験が無い。  
 嫌なことに、同時に乳房に群がっていた蛭まで乳首に登りだした。  
例の変な粘液が染みて、すごい変な痛みが乳腺から入ってくる。  
 すぐに、割れ目にもう一匹入ってきてしまった。  
これはさすがに気持ち悪すぎる。本気で吐きそうになってきた。  
掻き出そうと思って、また右手を離して割れ目にあてがうと、そこに集まっていた何匹かが  
驚いたようにお尻と前の穴に逃げていく。  
そこからとりあえず中指を入れてみようとしたけど、今の姿勢ではこれが結構難しい。  
身を屈めるようにして、なんとか差し込む。  
人差し指も入れて、二本の指でなんとか蛭を掻き出そうとする。  
でも指が触れるたびに二匹の蛭はどんどん奥へいってしまうし、自分の指とはいえやたらに  
膣の中を掻き回すのは気分のいいものじゃない。  
てこずってるうちに、ついに指を付け根まで入れても蛭を上手く掴むことが出来なくなってしまった。  
 思いっきりお腹に力を入れてひり出そうとするけど、柔らかい蛭に意味は無い。  
というか、締めつけたことでより一層蛭の存在を知ってしまい、膝が笑い始めた。  
敏感な所の更に内側に、あんな得体の知れない液が染みてるんだから仕方ない。  
お腹の中を炙られているような感覚と、舌で嘗め回すような感触に、私は奥歯を噛み締める。  
 何とかしてもっと深く指を入れて、蛭を潰してでも出さなきゃいけない。  
そう思った時、耳の裏を這い回っていた蛭が突然耳の穴の中へ潜り込んだ。  
「ひゃあああ!、だ、駄目、いや、なんなのよー!!やめて、出てってぇ!!」  
割れ目からすぐに右手を抜き取って耳たぶを引っ張って、頭を傾けたけど耳の穴にきっちり収まった  
蛭は出てこない。私は不安で堪らなくなって泣き出した。  
バリバリっと厚い紙が破れるような音、ゴゾゾって何かが蠢く音、チョパッと言う粘り気のある水音。  
そして何より、耳の穴をいっぱいに満たす柔らかい感触。頭がぐわんぐわん鳴った。  
 脳に響く轟音に気が狂いそうになりながら、私は何かを気にしていた。  
耳の中に響く―そうだ、茜の声。『あたしだよ』って、あの時…  
思い出して、私は背筋が冷たくなった。  
そうだ、この中に茜がいるんだ。つぶすなんて、だめだ…。  
 
指が抜けた割れ目に、また何匹か入ってきた。  
でもさっきとは違って、むやみに蛭に触れられなくなった私は、ただ両腕で体を支え、  
すっかり疲れきって動かせなくなった足を水に漂わせているだけだった。  
蛭たちはしばらくのんびりと私を責めた。  
 耳の中でたまに動き、腋の下をかすかにくすぐり、乳首の周りを這いずり、膣壁をへこませながら  
進んだり戻ったりしている。  
 そのゆっくりとした責めでも、確実に私の体には変化が起きていた。耳全体が熱く火照り、脇から  
腕にかけて痺れたようになり、乳房が張って乳首がすっかり硬く突き出しているのを感じる。  
泥水は冷たいのに、水から出ている体からは体中の水分かと思うほどの汗が噴きだし、上に羽織った  
ブラウスまでぐっしょり濡れて肌に張り付いてくる。  
あそこの中は…もう、言うまでもなくとろとろになってる。  
 蛭はまるで私を焦らしているようだった。尖った乳首に絡み付いてこりこりと刺激していて、私が  
首筋を這い上がる快感に呻き声をあげると、急に体を離してしまう。  
クリトリスは皮を剥かれ、時々ちぎれそうになるほど強く引っ張られながら無造作に弄られるけど、  
本当にイキそうになって無意識に腰をくねらせた途端、刺激は敏感な突起から微妙に外れ、  
快感も薄れていってしまう。  
 どれだけの時間、寸止めのまま中途半端に昂ぶらされただろう。  
何の前触れもなく、突然その責めは激しくなった。  
尿道とお尻の穴にはりついていた蛭が、急にその二穴をつついてきた。  
そこは全く開いていないから、さすがに一匹も入ることは出来ない。  
でも、それは私が力を入れていたらの話で…  
次の瞬間、胸がちぎれそうな痛みが背中まで突き抜けた。  
「いっ、ぎいいー!!…いぃ、う、ぅぎ…ひっ……」  
こういう痛みの時、イ行でうめくのは見苦しいだろうか。  
そんなことを一瞬思いながら、私は歯を食いしばったまま喉から空気を搾り出し、その後もしばらく  
歯の根が合わなかった。  
上着をたくし上げて覗いてみると、二匹の蛭が思いっきり私の乳首に吸い付いている。  
痛いはずだ、皮膚を破って血を吸うような生き物がかぶりついたんだから。  
半透明の体から、真っ赤になった乳首が透けて見えている。あれが血でないのなら、いつもと比べて  
ずいぶん変わったものだ。  
 …さっきからやたらと呑気なことを考えるのも、痛みが強烈すぎるからだ。  
気を紛らわさないと、意識をどこかに持っていかれてしまう気がする。  
 でも、胸に気を取られて上半身ばかり強張らせているうち、下のほうでは、閉じることを忘れた二穴  
にそれぞれ無理やり軟体生物が半身をめり込ませていた。  
急いで力を入れなおすと、そこで二匹の侵入は止まった。  
でも安心したのもつかの間、今度は下半身に衝撃が走った。  
膣の少し奥のほうで、蛭が狭い弁のようなものを通り抜けた感じがした。  
子宮口かとその時は思ったけど、よく考えてみるとそれにしては手前すぎるから、多分通過されたのは  
処女膜だったんだと思う。  
 その感覚はすごかった。処女膜に触れられているのに、痛くは全然なかった。  
むしろ、あまりにも気持ちよすぎたのかもしれない。  
だってそのせいで、下半身の力が完全に抜けてしまったんだから。  
「あう、あ、あん!ふううー、くく、ううぅ…っ!はあぁっ…!!」  
大きい方と小さい方、二人の排泄の穴は、ついに異生物を迎え入れてしまい、  
代わりに私の口からは感極まった情けない声があがった。  
 
 
「い、痛い!いたい!広げちゃだめ、やめて、お願いだからぁ!!」  
尿道の中の蛭が動き回ると、何かが裂けるような感覚に襲われて、本当は痛いなんてものじゃない。  
違和感の広がるお尻にも、尿道にも沼の水が入り込んで、火傷したような粘膜を刺激する。  
 でもぼんやりしてきた頭は、その苦痛から痒みと熱さだけが残り、はっきりと背筋を痺れさせる  
快感に変わるのを感じている。  
「くふっ…ん、ああっ…あ…んん、んうっ…!!」  
背骨に電流が走るような感覚がずっと続き、その背中を中心にしてあらゆる所からの刺激を体中に  
伝えている。  
なんだか背中でばっかり快感を感じている気がして、背骨のない蛭が少し可哀想になったりした。  
 すっかりピンク色に上気した腕にも、きりきりと痛む乳首にも、蛭が吸い付いては離れ、  
離れては噛み付いた。  
うなじも、鎖骨の窪みも、脇腹も、口の中でさえ蛭の粘液にさらされない所はなかった。  
生臭い味が鼻から抜けていき、何匹もに吸い付かれた舌は痺れ切って、口を閉じることもできずに  
だらしなく涎まで垂らしてしまっているけど、もう拭う気力もない。  
 膣の中の蛭が、また活発に動きはじめた。一番奥の何匹かが、今度こそ本当に子宮口の入り口近くを  
刺激し続けている。まさか初めてそこを突くのが蛭だったなんて…。  
でも、なぜか嫌とは思わない。  
今まで全く味わったことのない快感に、つい腰をくねらせて催促してしまう。  
『お姉ちゃん、ここがすごく気持ちいいんだね。もっともっと、気持ちよくなってね』  
また頭の中に声が響いた。私は、ただゆっくりと頷くだけだった。  
 数匹が膣の最奥のくぼみをなぞるのとは別に、膣の入り口近くで動き回る蛭たちはさっきから何度も  
一人でしていたとき触るとたまらなかったしこりを擦り続けていた。  
お尻の穴の蛭もどんどん数を増してきているし、ついには割れ目の上に突き出た突起まで再び蛭の口に  
飲み込まれ始めた。  
 つい体を支えていた腕の力が抜けてしまったけど、溺れているのかどうかさえ分からなかった。  
ただあらゆる所からの快感のみが頭を巡り、私は何度も絶頂を迎えた。  
 
気がつくと私は、上半身だけ服を着たまま、元いた沼のほとりに倒れていた。  
近くに脱ぎ捨てたスカートやショーツがある。  
ふと足元を見て、ぎょっとした。そこにはおびただしい数の蛭が並んでいた。  
私は、ただ黙って蛭たちを見つめていた。そして、声が響く。  
『お姉ちゃん、会った事もないあたしのために、毎年来てくれてありがとう。  
怖い思いさせてごめんね。こんな姿に生まれ変わったあたしは、まともな感謝もできないの。  
お姉ちゃんの中、とっても気持ちよかった。バイバイ…』  
 茜の声が遠のく。私は…妹が嫌いじゃない。行って欲しくない。  
茜に聞こえるように、私は大きく息を吸い込んだ。  
 
 
それから数年後、私は一人暮らしを始めた。新しい家の窓からは、大きな沼が見える。  
私は今日も、妹の待つ沼へ出かける。    
   
 あれから、あの夢は見ていない。  
 
 
                   完  

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