「それくらい頭が柔らかいのなら、私としてもあまり苦労しなくて済むわね」  
「頭が柔らかい訳じゃない。否定の仕様がないから否定しないだけだよ」  
「同じことだわ、どちらにしても」  
ふと、彼女は白い指先でロザリオを撫でた。  
「私が感じた通りの人ね、貴方」  
「え……?」  
「棺の中で貴方の気配を捉えた時、私は思ったわ。  
この人なら私を目覚めさせてくれる、この人なら私を理解してくれる……ってね」  
「何だか買い被られている気がするな。  
さっきも言ったけど、俺はこうして色々と目の当たりにしたから信じているだけなんだよ。  
もし君と道端で出会って『私は吸血鬼です』なんて言われていたとしたら、  
無視するか笑い飛ばすか危ないヤツだなって思うかしていたさ」  
オフィーリアは瞑目して首を振った。  
「そういう意味じゃないわ。自覚していないみたいだけど、貴方は特別な心の持ち主よ。  
だから私の術にもかかった。私を見つけ出して、棺の蓋を開けてくれた」  
「やっぱりあれは君が何かしていたんだな」  
「勘違いしないで。術はほんのきっかけでしかない。私はあの場所に貴方をいざなっただけ。  
棺を開けたのも、私に触れたのも、口付けを受けたのも、全て貴方自身が選んだことよ」  
そう言われると、公彦としては反論できなかった。  
あの時、礼拝堂で異質な感覚に捕らわれたのは確かなことだ。  
だが石室に入ってからは違った。いや――棺に触れてからだろうか。  
オフィーリアの言葉通り、それらの行動に自分の意思が全く無かったとは断言できない。  
「大体、私の未熟な術ではそこまで他人を操ることなんてできないわ。  
それも棺の中で眠りながらなんて」  
「素直に認めるのは、正直、抵抗があるけど」  
半ば不承不承公彦は言った。  
「俺が自分の意思で君を目覚めさせた。まあ、それはそれでいい。  
じゃあ、君は何の用があって俺の前に現れたんだ?  
まさかありがとうを言いに来たわけでもないだろ」  
「どうかしら。それもあるかもしれない……本当よ」  
冗談だろう、と公彦が口にしようとしたのを先読みしたみたいにオフィーリアが言う。  
「三百年も闇に浸かっていれば、太陽の光でさえも恋しく思える。  
あの場所から出してくれた貴方に私が感謝しない道理があるかしら?」  
公彦は黙ったまま、ただ小さく息を吐いた。  
特に意図は無い。単に返事が見つからなかっただけのことだ。  
ただ、オフィーリアの方はそんなこちらの反応を何か否定的なものとして受け止めたらしい。  
彼女は俯き加減に赤黒い十字架を弄った。  
「ごめんなさい」  
「どうして謝るんだ」  
「貴方のことをからかいたい訳ではないの。  
できれば率直にものを言いたいのだけれど、なかなか難しいのよ」  
「言えばいいさ。どんなに気が進まなくなって、  
結局は君が言いたいのなら言うしかないんだろうし」  
「そんなに簡単に割り切れるなら、私は何も悩まずに済んでいるわ」  
オフィーリアは空虚な笑みを浮かべた。  
「どうして私がそれだけ色々と躊躇っているのか、貴方には分かる?」  
「俺の血を飲んだから、かな」  
少しだけ考えてから公彦は答えた。  
「貴方は本当に賢い人」  
どこか哀しげな表情で、それでいて満足そうに、オフィーリアは灰色の髪を揺らして頷いた。  
「私は貴方の記憶を知っている。記憶とは言うけれど、それは殆ど人生と同義。  
人生を知れば、つまり人間性を知ることになる。私は貴方という人を知っている。  
貴方と同等か、或いはそれ以上に。だから何を言えば貴方がどう反応するか、  
私には大体もう分かっている。鏡に向かって話すみたいに」  
「でも君はどうしてもそれを俺に言わずにはいられない」  
「そう」  
「それは俺にとって、どちらかと言えば良いことなんだろうか。それとも悪いことなんだろうか」  
「そんなことは問題じゃないわ」  
とオフィーリアは言った。  
質問に答えるというよりは、自分に言い聞かせるような口調で。  
「私は理解してもらいたいのよ。ただそれだけでいい。  
だって、貴方がどう答えるかはもう分かっているのだから」  
公彦は軽く目を閉じた。  
三百年も眠っていた吸血鬼の少女が他人に望むこと。それは何なのだろう――と想像してみる。  
何もない石室のことを考え、暗闇に包まれた永い眠りのことを考え、  
乾くことのなかった涙のことを考え、三世紀前と今のことを考える。  
 
そして、割かしあっさりと吸血鬼の存在を認識してしまった男のことを考える。  
「君は――」  
目を開ける。  
視界にオフィーリアの姿は無かった。  
背後で、ぎしっとベッドの軋む音。  
「振り返らないで」  
鋭く囁かれ、公彦は動きを止めた。  
仕方なく出窓の方へと視線を向ける。無論、変わったものが見えるわけでもない。  
ベッドの縁に座る自分の姿と、その後ろで顔を伏せている少女が映っているだけだ。  
(なんだ、吸血鬼もしっかり反映するのか)  
小説や映画もあまり当てにならないな、と公彦は思った。  
「続きは?」  
ぽつりとオフィーリアの声が言う。  
「続き?」  
「何かを言いかけたでしょう。『君は――』の続き」  
「ああ……俺なりにだけど、君が何を言おうとしているのかを推測してみたんだ」  
「それで」  
「君は俺を吸血鬼にしたいんじゃないかと思うんだけど」  
低い声は黙したまま何も語らない。  
「俺の勝手な想像だから、間違っていても気を悪くしないで欲しい。  
君は随分と若く見えるし――まあ、せいぜい十六か十七かってところかな。  
もっとも吸血鬼と人間を同じように見てしまっていいのかどうかは分からないけど。  
それはともかく、何百年振りに目を覚ましてみれば町並みは悉く変わり、  
何一つ見慣れたものもなく、仲間もどこにも誰も居ない。  
君はただの一人きりだ。自分と同じ存在を求めるのはおかしいことじゃないだろうし……」  
公彦は石室で棺の前に立った時のことを思い起こし、窓の中の少女を見つめた。  
「あそこで覚えた感情が君のものだったとしたら、むしろそれで納得できる気がする」  
不意に、小さな手が公彦の背中に触れた。  
服越しにもひんやりと冷たいその感触は、どこか物悲しい胸の痛みを喚起させる。  
「まあ、吸血鬼だってちゃんと鏡やらに映るみたいだし、  
血を吸って仲間を増やすってのもどうなんだろうと思うんだけど」  
「そうね。口付けをするだけで貴方を同じにできるのなら、もうとっくにやっているわ」  
くすっ……とオフィーリアが忍び笑いを漏らした。  
「少し震えたわよ。怖がらなくてもいいわ。  
私が何をしても、貴方自身が望まない限り、私と同じになることはない。どう、安心した?」  
「まあ……」  
「でもね、私たちも摂理を埒外に置き去りにするほどの怪物という訳ではないのよ。  
お腹が空けばご飯を食べるし、眠たくなればベッドで横になる。  
血は普通に暮らしていれば一月に一度だけコップ一杯分も飲めば十分。  
強い日差しやニンニク……に限らず強い臭いが辛くなってしまうけれど、その程度よ。  
聖水で肌が溶けることもないし、川や海を泳ぐこともできる。貴方たちとそう変わらないの」  
彼女は重々しく嘆息した。  
「だから当然、独りぼっちになれば、とても辛い」  
「気の毒だとは思う。でも俺も易々と人間を棄てることはできないよ」  
「分かっているわ。分かってはいる。けれど……お願い。  
貴方の体を抱くことを、どうか許してはくれないかしら」  
思いがけない言葉に公彦は声を呑んだ。  
その動揺を察したかのように、すぐにオフィーリアが続ける。  
「ただ文字通り抱きしめさせてもらいたいだけよ。  
大丈夫、それだけで貴方が私と同じになることは絶対にないと保証するから」  
彼女はもう一度深く嘆息して、  
「お願い……迷惑だとは思うけれど、永く触れていなかった温もりを感じておきたいの。  
例えそれが泡沫のような安息だとしても……私には他に縋るものがないから……」  
と弱々しく哀願した。  
 
この様に言われて首を横に振れる人間がいるだろうか。  
勿論、拒絶したところで、それを咎められる理由はない。  
しかし公彦の首は確実に頷く方向へと動いていた。  
――細い腕がゆっくりと胴に絡む。  
公彦を包んだ小さな身体は、やはり酷く冷たかった。背中に寄せられた頬さえも。  
「温かい。まるで春の林苑に差し込む木漏れ日のよう」  
「……それはよかった」  
しばらく迷った末、公彦はそれだけ言った。他にどう返事の仕様があるだろう。  
オフィーリアは少しばかり笑ったようだった。  
「貴方と在ると不安や恐怖が薄らいでゆくのが分かる。  
やはりそういう心の持ち主なのかしら、貴方は」  
「俺は何も特別なことなんてない、ただの平凡な人間だよ。  
多分、君はあの暗く静かな石室にずっと居たから、ちょっと感傷的になっているんだ」  
「いいえ、違うわ」  
きっぱりと彼女は否定した。  
「私は粘りつくような闇にも凍りつくような静けさにも追い詰められることはない。  
それらは生まれたときから友のように寄り添ってくれている」  
だがその語調は、強く張った糸の繊維が一つ一つ切れてしまうように、次第にか細くなっていって。  
「私が恐れるのは、暗闇でも静寂でもない。私が恐れるのは、三百年という茫漠たる時間と――」  
頼りないほどに繊細な彼女の腕が震える。  
「その間、延々と続いた、果てしないばかりの孤独」  
身体が震え、声が震える。  
「寂しかったの。ずっと……」  
公彦は、そっと瞳を閉じた。  
三百年という時間を思い浮かべ、自分にとっては永遠にも等しい孤独を思い浮かべる。  
そして――小さく冷たい、白いオフィーリアの手に、自分の手を重ねた。  
 
 
 
公彦はオフィーリアの方へと向き直り、触れることさえ憚られるほど華奢なその身体を抱きしめた。  
こうすることが正しいのかどうかは分からない。  
ただ、彼女はとても寂しがっていたし、とても悲しんでいた。  
慰められることを望んでいた。  
山のように言葉を積み重ねられるよりも、海のように深く同情されるよりも。  
自分以外の存在の温もりを感じることで、三百年分の孤独から少しでも開放されたいと望んでいた。  
もしかしたらオフィーリアのとってその相手が公彦である必要性はないのかもしれない。  
公彦が彼女を拒絶していたなら、現れた時と同様ふっと姿を消して、  
どこかその辺で手頃な相手を見つけてこの様にしていたのかもしれない。  
しかし、仮にそうだとしても、今この瞬間――  
公彦は自分こそがオフィーリアの悲哀を払える存在でありたいと願った。  
どちらからともなく二人はベッドに倒れこんでいた。  
オフィーリアの手が、何かを探すように、或いは確かめるように、公彦の背中を動き回る。  
公彦はただ黙って彼女の小さな頭や柔らかな髪を撫でた。  
「オフィーリア……」  
その耳元に口を寄せて問う。  
「本当にいいのかな」  
こくん、とオフィーリアは頷いた。  
「俺は君を愛してる訳じゃない。それでも本当に?」  
こくん、とまたオフィーリアは頷いた。  
低く、それでいてよく通る声が囁く。  
「貴方は優しいから。寂しさを理解してくれるから。悲しみを理解してくれるから」  
「やけに自信があるみたいだけど」  
「血は嘘をつかないからよ」  
そう言って微笑んだオフィーリアに、公彦はそっと口付けをした。  
勿論、人間らしい意味での口付けを。  
冷たく柔らかい唇の感触はとても心地良く、そしてあの甘い香りがした。  
「ん……」  
心無し紅潮した頬を指先でなぞると、彼女は軽く眉根を寄せた。  
少しだけ唇を離す。  
「嫌だった?」  
 
「いいえ、ちょっとくすぐったかっただけ。もっと触って」  
公彦は再び唇を合わせた。  
緩く口唇を吸いながらオフィーリアの髪の毛を弄い、うなじを撫でる。  
その手が耳を掠めた時、彼女はぴくりと肩を震わせて小さく息を漏らした。  
僅かに開いた歯列の隙間を縫い、公彦はオフィーリアの口腔に舌を差し入れた。  
「あ……」  
粘膜を舌先で辿ると、細い喉の奥から喘ぎが漏れてくる。  
その声を押し退けて更に深く舌を突き入れ、オフィーリアの舌を探す。  
「はぁ……あっ……」  
ふと舌先同士が出会った途端、彼女は弾かれたように大きな反応を示した。  
閉じた瞳の際から透明な雫が溢れ、音もなく流れていく。  
公彦は親指でそれを拭いながら少女の舌を吸い上げた。  
「ん、んん……」  
徐々にオフィーリアの息も荒くなって、  
しかしそこには苦悶よりも法悦に近い響きが混ざり、やがてはしどけなく口元も緩ませてしまう。  
お互いの歯も歯茎も、頬の内側の粘膜から口蓋に至るまで味わい尽くし、  
それでも足りずに一心不乱に舌を擦り合い、やや息苦しくなったところで小休止。  
そしてまた口を繋げて、吐息を交換し合い、喉を鳴らすことさえもどかしく舌を躍らせる。  
正しく貪るようなキスを交わしたまま、公彦はオフィーリアの身体に手を伸ばした。  
上質な布地越しにもはっきりと感じられるしなやかな肢体。  
それに直に触れてみたくて、闇色のドレスを脱がせようとあちこちに指を彷徨わせる。  
が――どこにもジッパーや紐なども見つけられなかった。  
「えっと……この服、どうやって脱がせればいいんだろう」  
仕方なく公彦は尋ねた。  
「賢いけれど、あまり器用ではない」  
ぬらりと妖しく煌く桜色の唇が微苦笑の形を作る。  
「ちょっと離してくれるかしら。自分で脱ぐから」  
オフィーリアは立ち上がると背中の方へと腕を回し、何かを解くように動かす。  
すると、するりとドレスが彼女の身体から離れ、軽い音をたてて床に落ちた。  
露わになったその乳白色の裸身に、公彦は一瞬、呼吸の術さえ忘れてしまった。  
彼女の身体はお世辞にもそれほど肉感的とは言えない。  
ただ、腰や四肢がとても細いので、下腹部から胸までの曲線が妙に悩ましげに見えるし、  
白蝋のような肌や絹糸のような髪、そして何よりも、  
ただそれを前にした者のみにしか感じられない色香が公彦を刹那に惹きつけた。  
この様な――つまり、視覚的には不完全な筈なのに、感覚的にはこの上なく完璧な――  
肉体を目にしたのは初めてのことだった。  
「……思ったよりも恥ずかしいものね。  
こういう風に他人に裸を見せるなんて……生まれて初めての経験だわ」  
オフィーリアは所在無げにお腹の前で手を組んでぽそぽそと言った。  
「貴方から見ておかしくはない?」  
「あ、ああ……全然」  
「本当に?」  
「本当に、凄く綺麗だ。月並みで悪いけど」  
「いいえ、そう言ってもらえて嬉しいわ」  
薄く笑みを浮かべたオフィーリアを抱き寄せてベッドに横たえる。  
公彦は彼女の額や頬にキスをしながら、細い身体のラインをそっとなぞった。  
瑞々しい肌はまるで白璧のように滑らかでベルベットのように柔らかい。  
こうしてただ触れているだけで、  
オフィーリアよりもむしろ公彦の方が気持ちの良い思いができているような気がした。  
(それだけじゃ駄目だよな……)  
つい先刻の決心を思い出して、公彦は自分を諫めた。  
今は自分のことよりオフィーリアのことだ、と言い聞かせる。  
公彦は彼女の白い喉頸に唇を寄せた。  
石室の時とは立場が逆だ。軽く歯を立てると、オフィーリアは小さく肩を揺らした。  
「ん……なんか、ヘンな感じだわ……」  
噛むことはあっても噛まれるなんてまず無いことだから、と彼女は笑った。  
公彦も軽く笑い返して、今度は首元を吸ってみた。  
鎖骨に舌を這わせ、そのまま唇で腋まで辿っていく。  
オフィーリアの身体はどこを舐めても全くの無味で、どこからもあの蜜蝋のような甘い香りがした。  
そのせいで腋への愛撫もいささかの抵抗も感じずにできる。  
 
「やぁっ……んん……」  
何度も舌を往復させると、オフィーリアは艶かしく鼻にかかったような声を漏らす。  
公彦は腰の辺りを撫でていた手を滑らせ、やや薄めのバストを覆った。  
可愛らしい薄桃色の乳首はもう尖りかけていて、掌でもその感触が分かる。  
順番に指を押し込むとそれに合わせて形の良い乳房が歪んだ。  
「はあ、あ……あぁ……」  
それはオフィーリアにとっては微妙な刺激らしい。  
甘い吐息を漏らしながらこちらの指の動きに合わせてもどかしげに身体をくねらせている。  
公彦が腋から口を離してオフィーリアの顔を覗き込むと、彼女は涙を湛えた瞳で見つめ返してきた。  
「なに?」  
とオフィーリアが首を傾げる。  
「どうかな」  
「……?」  
「つまり、今までのと、今のと――君は気持ち良いかってこと」  
わざわざ訊かなくても手の内で熱を帯びてきている部分が回答を出してくれているのだが。  
それでも口に出してしまうのは、純粋に不純な男の悪戯心だ。  
「ええ、とても。ずっとこうしていたいくらい」  
やや掠れ気味の、それでもはっきりとした声音でオフィーリアは言った。  
正直、公彦にしてみれば期待外れの反応だった。  
頬を染めて「そんなこと訊かないで」と恥ずかしそうに――みたいなのを想像していただけに。  
「そうか。それなら……」  
――もっと気持ち良くなってみるか。  
そう言いかけて、慌てて口を噤んだ。訊く方が余程恥ずかしい。  
「『それなら……』何なの?」  
無邪気に問うオフィーリアの唇を公彦は無言のまま唇で塞いだ。  
音を立てて舌を絡ませ合う。  
「んん……っ」  
オフィーリアも切なげな鼻声を漏らして公彦を求めた。  
公彦は胸を揉んでいた手をずらして充血しきった胸の頂を指の間に挟み、そっと絞り上げてみた。  
「あんっ……や、あぁ……」  
そのまま擦るように刺激すると、オフィーリアは眉根を崩して白い喉を仰け反らせてしまう。  
ディープキスの余韻で口から覗いている紅い舌がとても扇情的に見えた。  
公彦は露わになった首を唇で撫で下ろし、柔らかな胸の膨らみを吸い上げた。  
「ふぁ、ああぁ……」  
乳首には口をつけず、すべすべとした肌を更に下っていく。  
なだらかな腹部に時折吸い付きながら、そこの窪みへと達した。  
躊躇うことなく臍の奥へと舌を這わせる。  
「きゃうぅっ」  
その瞬間、これまでに無いほど高い嬌声が上がった。  
会話の時は淡々とした低い声色だったし、  
これまでの愛撫でも色めきはしていたものの押し殺したような吐息ばかりだったので、  
その無防備な響きは公彦をひどく興奮させた。  
殆ど夢中になって、窪みを掘り返すように舌を出し入れさせる。  
「ひゃっ、あぁっ……あ、やあっ、や……っ!」  
よがると言うよりは殆ど悶えているような、  
艶かしい嬌声と言うよりは切羽詰った悲鳴のような、  
悦楽なのか苦悶なのかも判断しかねるほど大きな反応を示すオフィーリア。  
「あぁっ……そこ、ヘンっ、なのぉ……あ、やあぁっ」  
公彦はすっかり硬くなってしまった乳首から指を離し、  
下腹部へと手を伸ばして足の付け根に触れた。  
彼女の秘裂はまるで定規で引いた一本線みたいに綺麗で、  
無理に大人になろうと背伸びしてみたかのように淡い毛が載っているだけだ。  
そんな未成熟な部分が触れてもいないのに自ら愛液を滴らせている光景はとても卑猥だった。  
「オフィーリア、もうこんなに濡れてる」  
秘所をなぞりながら、わざとらしく公彦は言った。  
オフィーリアは返事をする余裕も無いのか、その細い指を唇にくわえ込んで、  
ぎゅっと瞼を下ろしたまま小刻みに身体を震わせているのみだった。  
まるで何も知らない処女が未知の快楽に怯えているみたいな様子だ。  
「指、入れるよ」  
返事を待つこともせず、公彦はオフィーリアの秘所に中指を差し入れた。  
 

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