スウェーデンの寒空を背景に、その古城はそびえ立っていた。  
城と言っても、戦略的な目的で造られた、所謂『城砦』と呼ばれる類のものではない。  
王侯貴族などが住んでいた『城館』――つまり、宮殿に近いものだった。  
「このお城は、約六百年前に建てられたものだと言われています。  
当時はここ一帯の領主の一族が住んでいたようですが、二、三百年前にその血筋も絶え、  
現在ではこのように一般にも開放されているんです」  
中年女性のコンダクターの説明を聞くともなしに聞きながら、白柳公彦はその古城を見つめていた。  
はっきり言って、外観はそう目を引くようなものでもない。  
勿論、城という建築物の持つ一種の芸術性は当然備えてはいるのだが……  
つまり、絢爛さの面でフランスや同じ北欧の有名な城には数段劣っていた。  
もっとも、公彦がこの数週間のヨーロッパ旅行で貪るように名所を巡って、  
俄かながら目が肥えてしまったのもそう感じる一因かもしれないが。  
目の前の城は、ルネサンス調の作りだった。  
風雨に晒されたせいでややくすんでしまった白亜が、なだらかな曲線美を描いている。  
嵌め殺しの窓には精緻な細工がしてあるのだけれど、その数は非常に少なかった。  
電気など無い時代の建物にしては機能的とは思えない。  
これでは、城の中は昼間でさえ薄暗い筈だ。  
「では、中に入ってみましょうか」  
先導するコンダクターに従って、二十人ほどの旅行者が城門へと向かう。  
公彦はその最後尾に並んで城の中に入った。  
「内部は何度か補修されていますが、装飾や家具類なんかは殆どが当時のままです」  
最初の部屋は左右に二つずつ通路が延びていて、奥には大きな両開きの扉があった。  
コンダクターはその扉を開け、公彦達を中へ招き入れた。  
そこは礼拝堂だった。  
随分と広く、その割には窓が一つも無いのだが、  
そこかしこに置かれているたくさんのランプのお陰でとても明るい。  
祭壇や巨大な十字架、壁や天井に施された壮麗なレリーフは、  
中世の神秘的、浪漫的な雰囲気をいかにもといった風に醸し出している。  
ただ……  
公彦は奇妙な違和感に胸中で首を傾げていた。  
本来ならすべからく神聖であるべき空間の筈なのに、  
あまりにも綿密に作りこまれているせいで強引にそうしてしまったように感じられるのだ。  
上手い表現が見つからないが――あからさまな崇拝で逆に冒涜を表しているような……  
そんなことを思ったのは、どうやら公彦だけらしかった。  
他の旅行客を窺ってみると、みんな感心したようにこの空間を見回している。  
公彦はもう一度、改めてレリーフに目を向けてみたが、  
やはりあまりにも精巧に過ぎていてそれが何を表現しているのかよく分からなかった。  
それでも強いて言うなら、混沌と揺らめく地獄の底の風景にしか見えなかった。  
「では、一時間ほど、ご自由に城内を観賞してみてください。  
動かしたりしなければ調度品などに触れても結構です。  
ただし、盗難だけは犯罪ですから、止めてくださいね」  
最後の言葉はいささか冗談めいた口調で、コンダクターが言った。  
若いカップルがやはり冗談半分に返事をし、旅行者たちは各々の連れと一緒に礼拝堂を後にした。  
公彦とコンダクターだけが最後まで残った。  
「あら、貴方は行かないんですか?」  
訝しそうに首を傾げ、彼女は尋ねた。  
「ええ、まあ……何だか、妙にここが気になって」  
「そうですか」  
コンダクターは頷きながらも少し不審げな視線を公彦に向けた。  
「お一人のようですけど、随分とお若いんですね」  
「大学生です」  
「こちらには、どうして?」  
最近は平気でこういった場所から物を持ち出す不届き者が増えていると言うが、  
もしかしたらこのコンダクターも公彦のことを疑っているのかもしれない。  
まあ、若い男がたった一人で居れば、そんな邪推をされても仕方がないだろう。  
そう思って、公彦は話すことにした。  
「一月前に両親が事故で死んでしまったんです。  
それで、傷心旅行って言うんですかね。  
親戚が遠出でもしてきなさいって勧めてくれたんで、  
今月の頭からヨーロッパをぶらぶらしてるんです」  
 
「あ……そう、でしたか」  
彼女は顔を赤くして俯いた。  
「すみません。辛いことを訊いてしまって」  
「いえ……」  
「あの、私はお城の中を適当に回ってますので、何かあれば声をかけてください」  
では、と彼女は頭を下げて礼拝堂から出て行った。  
公彦はその後姿を見送ると、祭壇の方へ足を進めた。  
その奥に掲げられた十字架は、ランプの光を受けて赤くくすんでいる。  
見様によっては何か趣があるのかもしれないが、  
これも意図したものだとすれば、やはり悪趣味だとしか言いようが無い。  
この様な奇妙な空間に在って、当時の人は何を考えていたのだろう。  
ふと、公彦は死んだ両親のことを思った。  
父親も母親も、あの二人もまた、何を考えていたのだろう。  
幾つもの会社を持って、満ち足りた人生を得て、この世界に何の不満を抱いていたのだろう。  
公彦は小さく頭を振り、溜息をついた。  
旅行はあと一週間程度にしておく積もりだったけれど、もう少し延ばした方が良さそうだ。  
もっともっと――面倒なことなど一切考えられなくなるほど動き回りたい。  
まずはこの城だ。片っ端から歩いて回ろう。  
公彦は踵を返した。  
と――  
不意に、甘い香りの微風が鼻をくすぐった。  
一瞬、香水か何かかと思ったが、ここには公彦以外には誰も居ない。  
大体、窓もないのにどうして風が?  
風が吹いてきたと思しき方向――祭壇脇の壁――へ公彦は歩み寄った。  
じっと目を凝らしてみるが、やはり他と変わらない石の壁だ。  
試しに触れてみても、何の変哲も無い。  
気のせいだったのだろうか。それにしては、はっきりと匂いを嗅いだのだけれど……  
釈然としないまま、公彦は手で壁を押すようにして体を反転させようとした。  
すると、ごりごりという音がして、その部分が僅かに奥へと沈んだ。  
反射的に手元を見やった公彦の目の前で、壁が音もなく横に滑る。  
――隠し扉。  
公彦はしばらくの間、ぽかんと呆けたまま突っ立っていた。  
寂れた古城の誰も知らない秘密の扉。まるで漫画かアニメか映画みたいだ。  
すると次に出てくるのは吸血鬼か? 或いは幽霊? それとも未知の怪物?  
馬鹿馬鹿しい。所詮、昔の人間の悪趣味の一つだろう。  
公彦は胸中で苦笑し、ぽっかりと開いた壁の奥を覗き込んだ。  
隠し扉の向こうには、狭い石段がずっと下の方へと続いていた。  
駄目だ、と公彦の直感が告げた。  
駄目だ。行っては駄目だ。とにかく駄目だ。さっさとここから立ち去れ。  
足を踏み出した。階段の方へと。  
「な……なん、で……?」  
思わず公彦は呻いていた。  
自分の意思とは全く正反対の行動を体が勝手にしてしまっている。  
混乱している間にも一歩、また一歩、足が石段を下っていく。  
もうどうしようもなかった。  
公彦自身は激しく動揺しながらも、迷うことなく着実に深い深い暗闇の淵へと進んでいった。  
コツ、コツ、という足音を何回聞いただろうか。  
いや、何十回――それとも、何百回?  
分からない。  
かなり長い時間下りていたようにも思えるし、実際には殆ど一瞬だったようにも思える。  
どちらにせよ、気がついた時には階段を下り終えていた。  
そこは、五メートル四方ほどの寂々とした石室だった。  
どこにも光源などない完全な闇の中だというのに、  
ぼんやりとながら隅から隅までしっかりと見通せる。  
奥の方に横たわっている漆黒の棺は嫌でも目についた。  
公彦はふらふらと棺に近づいた。  
その前に立った瞬間、不意に、頭の中にある一つの感情が芽生えた。  
それは寂しさだった。悲哀さえ感じるほどの寂しさ。  
涙が滲みそうになるのを眉をひそめて必死に堪える。  
そっと蓋に触れてみると、文字が刻んであることに気付いた。  
 
やはりスウェーデン語だろうか。  
読める筈などないのに、何故かその文章の意味が分かった。  
 
《オフィーリア=ヴィルヘルムソン。永い眠りが幸福に繋がることを祈る。悪意なき闇に光を》  
 
公彦は蓋の縁に手をかけた。  
今度はいくらか自身の意思もあったかもしれない。  
たとえ中に何か入っているとしても、おそらく二百年か三百年前のものだろう。  
生き物(まあ、棺桶に入るのは人間くらいなものだろうが)なら間違いなく死んでいる筈だ。  
そう。死んでいる筈だ。  
ごくん、という音が公彦の頭の中に響いた。  
思わず体を強張らせるが、唾を嚥下しただけだとすぐに気付いて、力を抜いた。  
もしかしたら、誰も知らない新しい発見があるかもしれないのだ。  
怖がる必要などない。  
公彦はもう一度唾を飲み込もうとした。  
できなかった。口の中がからからに乾いていた。  
ゆっくりと手に力を入れる。  
棺と蓋との空隙から、蜜蝋のような香りが漂ってきた。  
その甘い匂いに誘われたわけではないけれど、  
公彦は再び乾いた喉を鳴らし、そして一気に蓋を外した。  
「――っ」  
公彦は、愕然と息を呑んだ。  
棺の中は真紅のビロードで覆われており、そこに一人の少女が納められていたのだ。  
いや……少女、と断じてしまってもいいものだろうか。  
瞳を閉じたその姿は無垢な娘の寝顔にも見えるし、  
人生を悟ってしまった妙齢の女の諦観の表情にも見える。  
ただ、どちらのせよ、人間離れした玲瓏さを備えていることは間違いない。  
灰色の髪に縁取られた白皙の美貌。唇さえも真っ白で、まるで雪の人形みたいだ。  
闇そのものを織ったような黒いドレスを纏って、胸の上で組んだ手の中に血の色のロザリオを握り、  
彼女は世界の始まりから延々と眠っているかの如くそこに横たわっていた。  
とても死人とは思えない。  
魅入られたように少女を凝視していた公彦だったが、ふと、あることに気付いた。  
頬が濡れている。  
暗闇の中にあって、少女の白い頬が透明な何かに濡れてかすかに煌いていた。  
公彦は、ゆっくりと彼女の顔に手を伸ばした。  
指先が触れようとした、正にその瞬間――少女の睫毛が、ぴくりと震えた。  
公彦は咄嗟に手を引こうとしたが、できなかった。  
いつの間にか少女に手首を掴まれていたのだ。  
別段強い力ではない。むしろ、そっと触れられているだけだ。  
それなのに、腕どころか指の一本すら動かせない。  
この状況に対する混乱は、不思議となかった。ただ、代わりに、すうっと体が冷えていく。  
――目を開けるな!  
公彦は少女に向かってそう念じた。  
少女は、ちょっとしたまどろみから覚めるように、あっさりと瞼を開いた。  
その瞳は、濁った血の色をしていた。  
蛇のように縦に裂けた瞳孔が公彦を射る。  
「――」  
少女が僅かに唇を動かして何か言ったが、公彦には聞き取ることができなかった。  
ふわりと少女が立ち上がる。  
明らかに人間には不可能な動作だ。まるで不可視の巨大な手に引っ張り起こされたかのようだった。  
公彦はよろめきながら二、三歩後ずさった。  
相変わらず、動揺はない。と言うより、何も考えられない。  
呼吸だけが荒くなっていく。  
額に浮かんだ汗が流れ落ちてきて、公彦は思わず目を瞬いた。  
少女がすぐ目の前――体が触れ合うほど近く――に居た。  
赤い瞳が、じっと公彦の目を見上げる。  
心臓が早鐘を打った。  
恐怖のためではない。喩えるなら、小学生の頃の初恋に似た感覚だった。  
公彦はそうすることが当然であるかの如く、その場に跪いていた。  
少女の頬に両手を添え、仰け反らせた自らの喉頸へと導く。  
 
白い唇が、首に触れる。生暖かい感触が生まれた。  
それだけだった。  
 
 
 
淡い頭痛を覚えて公彦は目を覚ました。  
明るい色の照明が網膜に突き刺さる。  
「う、ん……」  
反射的に手を翳すと、傍らで誰かが息を呑む気配を感じた。  
「気がつきましたか?」  
心配そうな女性の声。  
目を向けると、あのコンダクターの姿があった。  
「えっと……俺……」  
「あれから一時間経っても貴方だけが集合場所に来なくて、  
探してみたら礼拝堂で倒れていたんです」  
「礼拝堂……」  
「一応、お医者様に診てもらいましたけど、どうやら軽い貧血のようですね。  
多分、気付かない内に疲労が溜まっていたんですよ」  
公彦は瞼を閉じた。  
軽い貧血? 疲労が溜まっていた?  
違う。鼻腔にはあの甘い香りが残っているし、脳裏にはあの白い少女の姿が焼き付いている。  
あれは一体何だったのだろうか。  
彼女は一体何をしたのだろうか。  
思い出せる最後の記憶は、少女の白い唇が自分の喉に触れたところ。  
それから……  
公彦は小さく頭を振った。  
まとわりつく倦怠感を引き剥がして、のろのろと上体を起こす。  
「そういえば、ここは何処なんですか?」  
ベッドの上から辺りを見回し、公彦は尋ねた。  
小奇麗な室内を見る限り、病院という感じはしない。  
出窓にはカーテンが引かれておらず、夜陰に薄っすらと白い霧が浮かんでいるのが見えた。  
「宿泊予定だったホテルです。もう夕食の時間は過ぎてしまいましたけど、  
ルームサービスならある程度の食事はできますよ。何か頼みましょうか?」  
「いえ……あまり食欲はないので。今は食事より、ただ休んでいたい気分です」  
「そうですか」  
彼女は頷くと、静かに立ち上がった。  
「では、私は部屋に戻ります。513号室に居ますので、何かあれば訪ねてください」  
「分かりました。すみません、色々と」  
「お気になさらないでください。早く元気になってもらって、  
旅行を楽しんでもらいたいですからね。明日の朝、また様子を伺いに来ます」  
おやすみなさい、と微笑を残して彼女は部屋を出た。  
「いい人、だな」  
ぽつりと呟き、公彦はベッドに倒れ込んだ。  
静かになった途端、あの石室での出来事がまざまざと蘇ってくる。  
潔癖なまでに白く、卑猥なまでに美しい少女。  
彼女を目にしてから……或いは、その前から、自分はどこかおかしかった。  
自分の意思が体から離れていた気がする。  
まるで、見知らぬ誰かの心を捻じ込まれてしまったかのように。  
もしかしたら……それは、あの少女のものだったのではないだろうか。  
静寂と暗闇が満ちた石室。その中で、少女は孤独に打ち震えていたのではないだろうか。  
濡れていた頬は、どれだけ流したかも分からないほどの涙の証だったのではないだろうか。  
胸を突いた寂しさは、少女の寂しさだったのではないだろうか……  
不意に、甘い香りの風が髪を揺らした。  
窓は閉まっていた筈だけれど――公彦はそちらを見やった。  
思わず、体が強張る。  
いつの間にか、出窓の縁に一人の少女が浅く腰を下ろし、じっと月を眺めていた。  
その横顔から窺える印象があまりにも儚くて、  
自分の呼吸でさえ彼女を消し飛ばしてしまうのではないかと公彦は思った。  
しばらくの間、公彦は少女を見つめ、少女は月を見つめ続けていた。  
……どれだけそうしていただろう。  
 
「蒼い月の夜は……本当に素敵」  
ふと、低い声が言った。  
「とても静かで、とても冷たくて、とても暗くて……  
そんな闇の中に、耳を澄ませば、唸るような喧騒が聞こえてくる」  
桜色の唇から詩でも諳んじるように言葉を紡ぐと、少女はゆっくりと公彦に視線を向けた。  
深い黒色の双眸が、愉快そうに細まる。  
「こんばんは、白柳公彦クン。突然の訪問だけれど、どうか許してね」  
「君は……」  
「棺桶を見たでしょう? 私はオフィーリア=ヴィルヘルムソン。  
貴方たちとは、少しだけ異なる存在」  
少女――オフィーリアは音も無く出窓から離れると、首を傾げてにっこりと微笑んだ。  
「でも、怖がる必要は無いわ。だって、口付けを交わした仲だものね?」  
公彦は何をどう言えば良いのか分からず、ただ黙ってオフィーリアを見つめていた。  
礼拝堂の地下で棺に収まっていた時に比べて、彼女の容貌は多少変わっていた。  
蝋人形のように真っ白だった肌には生者らしい仄かな赤みが差しているし、  
唇は色付いて、瞳も海の深淵を思わせる黒に染まっている。  
艶やかな灰色の長髪に漆黒のドレス、それと、首から下げた赤黒いロザリオはあの時のままだ。  
公彦は、ぼんやりと口を開いた。  
「……人間じゃないのか」  
いささか間抜けな問いだったかもしれない。  
けれど、彼女は嘲りもせずに、柔らかく微笑んだまま頷いた。  
「ええ。色々な呼ばれ方をしたものだけれど、『ヴァンパイア』が一番有名かしら。  
貴方の国の言葉では『吸血鬼』と言うみたいね」  
「……吸血鬼……」  
突拍子も無いと言えば、正にその通りだ。  
だが、逆に彼女の言葉を疑う余地も無い。  
あの石室での出来事。そして、いま目の前で起こっていること。  
どちらも当然のように常識を逸脱している。  
「あまり驚かないのね?」  
「まあ、むしろその方が色々と納得できる部分もあるし」  
「なかなか賢いのね。でもちょっと残念。貴方が驚く顔、見てみたかったから」  
オフィーリアは、くすくすと悪戯っぽく笑みを漏らした。  
「ところで公彦クン、何か私に訊きたいことはあるかしら?  
私はこれから貴方に色々と言わなければならないことがあるの。  
その時に疑念や混乱を抱えられていると少し面倒だから、  
もし引っ掛かりがあるのなら今の内に全てを晴らしておいてもらいたいのだけれど」  
「じゃあ、一つだけいいかな」  
「どうぞ。私に答えられることなら何でも答えるわ」  
「君はどうして俺の名前を知ってるんだ?  
それに、言葉だって普通に日本語を話してる。それがずっと気になってたんだけど」  
「……気になってたのなら素直に驚いて欲しかった。折角、その積もりで演出したのに……」  
と、ちょこんと唇を尖らせるオフィーリア。  
そんな吸血鬼らしからぬ仕草に、公彦は好感とも言えるものを抱いていた。  
――いや。或いは、それより前から……  
「まあいいわ。その答えは、私にとってはとても当たり前のこと。つまり、貴方の血を飲んだから」  
「俺の血を飲んだから?」  
「そう。生き血とは、命の欠片のようなもの。その人間のあらゆるものが溶け込んでいる。  
簡単に言えば、私たちは生き血を飲むことでその人間の記憶を得られるのよ。  
一から十まで、それこそ何もかもをね」  
「なんか……よく考えると、それって少し恥ずかしいな」  
そう公彦が言うと、オフィーリアは小さく笑みを浮かべた。  
「そうかもしれないわね……でも、安心して。  
貴方が小学校の中学年まで夜中に一人でトイレに行けなかったことや、  
中学生の頃、音楽室で初めて女の子とキスしたことなんかを言いふらす積もりはないから」  
「あ、当たり前だ! ……って、そんなことまで?」  
「言ったでしょ、何もかもをって。貴方の頭にあること全てが私の頭にもあるの」  
やれやれ、と公彦は胸中で溜息をついた。まるで彼女に裸でも見られてしまったような気分だ。  
「まあ、タネが分かればなんてことはなかったんだな。吸血鬼のことは俺にとっては新説だし」  
「それで納得してしまう辺り、なかなか凄いと私は思うけれど……」  
と、オフィーリアが微苦笑を漏らした。  
 

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