「き…ぁぁぁぁーーっ!」  
 放課後の教室に叫び声が上がった。  
 
 触手。それは他に呼びようのないものだった。  
 18禁のゲームから抜け出てきたような、赤黒いぬめぬめした肉質の触手だ。全体が甘ったるい臭いのする粘液で覆われている。先端はペニスのようにふくれあがり、縦にスリットが刻まれていて、今にも何かを吹き出しそうに脈打っている。  
 何本あるのかもわからないほどたくさんの触手は2体の異形のモノから生えていた。  
 
「はははははは!悲鳴を上げても誰もきやしないぞ?」  
「ひひひひ!そうだよ〜!  
 こんな時間に校舎の中にいるのは校務員か警備員くらいのものでしょ?  
 二人ともここにいるんだからね〜」  
 そういって笑う異形たちは、確かにこの学校の校務員と警備員の服を着ている。顔も生徒たちが見知っている2人のものだ。  
 だが、それは上半身だけで、下半身からはぬらぬらとした無数の触手が飛びだし、うごめく化物だった。  
 その触手に3人の女生徒が絡め取られ、捕らわれていた。  
 たまたま教室に残っていた少女たちの前に、この怪物たちが突然現れ、触手が自在に伸び動いて、彼女たちを襲ったのだ。  
 3人の娘たちは、触手に腕を頭上で拘束され、両足を左右に割り開かされるという、恥ずかしいポーズで宙に浮いていた。生足の太股、二の腕、顔など肌が露出している部分には触手がからみつき、いやらしい動きで嬲る。  
「たすけてぇ…」「あぁぁぁ…いゃぁ…」「ひぃぃぃ……」  
 捕まった時には悲鳴を上げで暴れていた少女たち。だがしばらくすると弱々しいうめきを上げるだけで、あらがいも弱々しいものになっていく。  
 異形の触手から発する淫気のせいだった。触手から分泌している粘液にも催淫作用が含まれている。  
 異形の化け物たちは女を淫らにする淫魔なのだ。  
 やがて少女たちの瞳に欲望の炎が揺らめき始め、触手に顔を嬲られてもいやがるどころか自分からうっとりと頬ずりするようにさえなった。  
ここまでの間、触手の群れはただ顔や四肢を撫で回していただけで、胸や股間の敏感な部分にはふれてもいないというのに。  
「あぁん……ねぇ…もっと……さわってぇ……気持ち良くしてぇ…」  
 少女の一人がとうとうたまりかねたように訴える。すると残りの二人も口々にわたしも、と言いだし、異形の二人に誘う視線で愛撫をねだった。  
「わはははは!  
 ドスケベなガキどもだぜ!ちょっと撫でただけでもうおねだりか?  
 マンコに触手をつっこんで欲しいのか?ああん?」  
 校務員の顔をした淫魔がそう侮蔑の言葉を投げつけると、少女たちは理性を捨てた顔でがくがくと頷くのだった。  
 
「ほしいぃ!して欲しいのぉ!」「オマンコに触手ほしい!」「はめてぇー!」  
 異形の2体は高笑いをしながら触手を動かし、拘束していた3人を解放した。  
手足の自由を取り戻しても、淫気に心を置かされた娘たちはもはや逃げようともせず、逆に期待に満ちた目で淫魔に歩み寄っていく。  
「うひひ。  
 すっかりヤる気まんまんだね〜」  
「おい、おまえら欲しいなら自分から素っ裸になりな!」  
 そんなことまで言われても、発情顔の少女たちは嬉々として頷きあい、怪物に犯されるために脱ぎ始めるのだ。  
脱ぐ早さを競うように、下着まで全部放り出した3人に向かってご褒美の触手が伸びていく。  
「きゃ〜っ!」  
 少女たちは最初のものとは180度ベクトルの違う悲鳴、歓喜の叫びを上げて触手の群れに自分から身を投げた。  
 3人は触手に腰を抱かれて嬉しげに身をくねらせ、胸にまとわりつく触手を抱くように手を絡め、目の前の触手に自分からしゃぶりついた。  
 そうして、醜い触手に犯して欲しいと全身で訴えるのだ。  
 淫魔たちはそんな淫らな娘たちの股間めがけて、いよいよ触手を向ける。  
「うひひひひ!  
 それじゃ〜、たっぷり楽しもうか?」  
「教室でヤるのも刺激的でいいだろ?  
 俺たちのイチモツは特別製だからな!天国に行かせてやるぜ!」  
 そんな異形の言葉に、背後から別の声が応えた。  
「んっふふ♪  
 だめよぉ、天国なんていっちゃぁ。  
 私たちは闇の使徒なんですからね?」  
 そういってどこからともなく現れたのは、ゴシックロリータ風の衣装に身を包んだ少女だった。異形の魔物たちに向かって立てた指を振ってみせる。  
その仕草、何よりも身にまとう雰囲気が、この少女も闇の眷属、それも異形の魔物よりも上位の魔女だと物語っている。実際、この2体の淫魔、レイプモンスターは彼女が作り出したものだ。  
「あはは〜  
 そうだねぇ。  
 ポルーサー・バイオレット様の言うとおりだ。  
 気持ちい〜闇の底に落としてあげるよ〜、とかいわなくちゃね」  
 警備員の顔をした淫魔がそういって笑うと、ポルーサー・バイオレットと呼ばれたゴスロリの魔少女も笑って頷く。名前の通り紫色のドレスの裾を翻して、触手に舌を這わせている少女のほおをちょん、とつついた。  
「気持ちよさそうねぇ…それでいいのよ?  
 いいこと教えたげる。このレイプモンスターに犯されて、中だしされて逝っちゃうとね?魂まで闇に汚されて、二度と元に戻れなくなっちゃうのよ?  
 あなた達たちは、いやらしいことしか考えられない淫欲の虜になって、誰にでも股を開く学校中のセックスドールになっちゃうの。  
 んふふ……楽しみね?」  
「あぁん………」「すごぉ……い……」「あはは……なりたいぃ……」  
 3人とも、そんな宣告を受けてももはやためらいなどみじんも見せない。それどころか早くそうなりたいと口々に訴えた。  
「おい、もういいだろ?  
 こっちもそろそろ限界だぜ。犯りたくてたまらねぇよ!」  
 どうやら元は校務員だったらしいレイプモンスターがうなった。  
 ポルーサー・バイオレットはくすりと笑って頷き、陵辱開始の合図に投げキスをして見せた。  
「はじめちゃって…ちゅ♪」  
 おう、とレイプモンスターが吠え、少女たちが身がから広げた股間に向かって一回り太い触手が走る。  
 
 そのとき、窓の外から涼やかな鈴の音が響いた。  
 
「そこまでよっ!」  
 
 閉まっていたはずの教室の窓。いつの間に開いたのか、その窓から人影が飛び込んできた。この教室は3回にあり、普通なら外から入ることなどできるはずがない。  
 その人影は炎のような光をまとい、明らかに空を飛んで教室に飛び込んできた。オレンジの光がはじけ、中から一人の少女が現れる。  
 現れた少女は、和服ともチャイナともつかない衣装を着ていた。その少女が闇の魔物たちに向かって叫ぶ。  
「清天使徒リンサー・レッド!  
 今日も私の清めの光で!闇の力を祓って見せます!」  
 少女−リンサー・レッドは、拳を作った右手を前に突き出した。ツインテールにした燃える赤毛が揺れる。手首に巻き付いた紐の先の鈴がシャン!と鳴り、その音が教室に充満した甘い淫気を切り裂き、祓う。  
 厳しい視線でレイプモンスターとポルーサー・バイオレットを突き刺して、リンサー・レッドは身構えた。  
 
「んっふふ♪  
 来たのね、リンサーレッド?  
 いいとこだったのにいつも野暮な子ねえ」  
 ちちち、と立てた指を振るバイオレット。気楽な笑みのまま顔を傾け、自分の指で頬を突いた。何か思いついたのか、ふと眉が曇る。あごまであるウェーブのかかった髪が流れた。  
「んー……  
 今日は気分が乗らないから帰るわ。  
 あなた達、適当にやっといてね?」  
 そんなことを言いだし、ひらひらと手を振ってリンサー・レッドに背を向けてしまう。  
「ありゃ、そうなんですか?」  
「なんだよしょうがねぇな。  
 わかったよ。」  
 主の無気力が伝染したのか、レイプモンスターも投げやりに応じた。  
 リンサー・レッドはそんな不真面目な敵方のやりとりにもペースを崩さず、逃がさないわよバイオレットと叫ぶ。  
 しかしポルーサー・バイオレットはさっさと2体のレイプモンスターの後ろに隠れ、2体も口とは裏腹に主をかばうとリンサー・レッドに向けて触手を飛ばしてきた。  
「ち!」  
 リンサー・レッドは襲ってくる触手から素早く身をかわし、手の甲で打ち払う。鈴の音が凛と響くと、緋色の光が走って打たれた触手がぼろぼろと崩れる。  
「うおっ!」「ぐっ!」  
 レイプモンスターたちはダメージに叫び声を上げた。全裸の少女たちを絡めていた触手が震えて力を失い、3人を解放した。  
 だがポルーサー・バイオレットはこの攻防の間に空間を渡り、姿を消してしまっていた。  
 
「くっ!」  
 ポルーサー・バイオレットが消えてしまったことに気づいたリンサー・レッドは悔しさに舌打ちした。  
 だが、目の前のレイプモンスターは浄化して人間に戻さねばならない。リンサー・レッドは魔物たちに向かって指を突きつける。  
「主は居なくなったわ!もうおとなしく清めの光を受けなさい!」  
 リンサー・レッドはレイプモンスターを一喝した。もともとリンサー・レッドとポルーサー・バイオレットの力は方向が異なる同等のものと思われた。  
つまり眷属であるレイプモンスター単体とレッドではその差は決定的なもの…の、はずだった。もちろん実際の戦いはそう単純なものではないのだが。  
「寝言言ってんじゃねぇ!  
 おまえも触手で発情メスにしてやらぁ!」  
「そうさ!2対1だってことを忘れてるよ」  
 2体は素早く視線を合わせると、警備員を前にして縦一列でつっこんできた。  
 全身の触手が四方からリンサー・レッドを襲う。  
 リンサー・レッドは素早く後退しながら右手首を左手で握り、浄化の力を集中していった。  
「2対1ですって?  
 その程度で……って?!」  
 触手に捕らわれていた3人の少女たちがリンサー・レッドの方に文字通り転がってきた。一人が足下にからみつきそうになるのをジャンプしてかわす。  
 だがその動きのせいで、かわす予定だった触手がリンサー・レッドの足に当たってしまった。触手はすかさず足首を捕らえ、両足に巻き付いて、すごい力で手前に引く。  
 リンサー・レッドの体が空中で水平になる。触手が上下に大きくうねり、次の瞬間ごつっ、という音がして後頭部が床に打ち付けられた。  
「きゃんっ!」  
 常人なら気を失う程度ではすまないダメージだが、リンサー・レッドは超常の力で打ち消した。それでも一瞬目の前に星が飛び散り、集中がとぎれる。  
「くぅぅっ!」  
床を引きずられ体を触手に絡め取られながらも、リンサー・レッドは再び浄化の力を集中しようとする。  
 だが、胸元に引き寄せようとした手が止められた。えっ?と目をやると4本の腕が右手を、2本が左手をつかんで引っ張っている。  
レイプモンスターに襲われていた3人の少女たちが、リンサー・レッドの手をつかんで頭上に引き上げようとしていたのだ。  
「なにっ?やめなさいっ!」  
 リンサー・レッドが叫んでも、全裸の少女たちはけらけらと笑うだけで止めようとしない。もがく隙に触手が全身にからみついて、リンサー・レッドの動きを封じてしまった。  
「きゃはははっ。  
 だめだよっ!いいとこだったのにジャマしちゃあ」  
「そうだよ?あなたも一緒にきもちよくなろ?」  
 快楽の虜になった少女たちは、自ら異形の魔物の餌食になるために、邪魔をするリンサー・レッドもまた触手の生け贄にしようというのだ。  
「だめっ!止めて!  
 正気に戻りなさい!」  
 リンサー・レッドは捕まれている右手の鈴に力を集中した。浄化の気が集まってくる。手首から先をオレンジ色の光がまとう。  
「淫気よ、去りなさいっ!  
 さあ、逃げて!……えっ?」  
 この光だけでも少女を犯した淫気を祓うことができるはずだった。リンサー・レッドは右腕を押さえている少女たちに呼びかけるが、二人とも全く変化が無く、くすくすと笑いながら腕に全体重をかけてきている。  
「そんな、浄化の光がきかない?…そんなはずは!」  
 浄化の光は人間の心を犯した淫魔の邪気を消し去ることができる力だ。邪気の化身であるレイプモンスターにとってはそのまま存在自体へのダメージになる。  
リンサー・レッドにとって淫魔と戦う唯一にして最強の手段と言っていい。現にその力でさっきは触手を破壊しているのだ。  
 
(効いていて、それでも……?そんなこと……!)  
 浄化の光は基本的に闇の淫気を祓うものであって、人の心が自ら生み出した性欲を消すものではない。  
 魂を浄化されれば清らかな気持ちになるのが普通だから、結果的に淫らな気分ではいられないものではあるのだが、それを上回る欲望まで消し去りはしない。  
 だから考えられるのは、浄化の光が効いていてそれでも、今この3人の少女たちは本気で、心から触手モンスターとのセックスを望んでいる、ということだった。  
「そんな……?うそ?」  
 恐ろしい可能性に胸が冷え、動きが止まってしまう。その隙に左手に絡みつくひとりが、顔を耳元に寄せてきた。息を吹きかけるようにして、甘い声でささやいてくる。  
「しょくしゅ、いいよぉ…すっごく…あなたもぉ…なかまになっちゃぉ…ね?  
 うふふふ………楽しいよぉ……?」  
 その声には操られているような気配は全くなく、心の底からの楽しそうな響きを持っていた。  
「な……そんな…ことって…?」  
 リンサー・レッドは困惑してしまい、抵抗がおろそかになってしまった。このときとばかりに触手が何本も体にからみつき、肌を通して淫気を送り込んでくる。  
「ひぁ?…っ!」  
 リンサー・レッドの体内には浄化の気が満ちているから、もちろん触手の淫気に魂が犯されることはない。少し集中すれば体にまといつく触手を破壊することもできる。  
 だが、そうしようとする矢先に、全裸の少女たちが首筋を、胸元をぺろりと舐め、一人が唇を奪う。  
「んんっ?」  
 柔らかな唇の感触に途惑い、口の中に侵入しようとする舌に抵抗している間に、二の腕まで触手に捕らえられてしまった。  
送られてくる新たな淫気を追い出すが、その間舌でうなじを舐めあげられ、こじ開けられた口の中で舌先を弄ばれた。  
「んぁ……ぅ…だめぇ……」  
 首を振って一旦逃れるが、別の少女が反対側から覆い被さって来て、ぺろりと頬と唇の端を舐めあげてきた。  
「あははぁ……おいしそうな唇…あたしもぉ……」  
 あっ、と声を上げる前に、その舌が口内に潜り込んでくる。くちゅり、と歯ぐきを舐められ、リンサー・レッドはうめいた。  
その舌から逃れても、また別の娘が、というように3人が交代で執拗にディープキスを迫ってくる。  
 さらに、そちらに意識が行っている間に触手が太ももの付け根をずるりと撫で上げて淫気を送り込んでくるのだ。  
 リンサー・レッドは少女の愛撫と淫気の波状攻撃に抵抗する力を徐々に削り取られていった。  
特に少女たちの愛撫は闇の力ではないので、与えられる快美感を浄化で消し去ることができず、リンサー・レッドにはつらい責めとなっている。  
 また太股で触手がずるりと動き、下着越しに柔らかい肉の盛り上がりに擦り付けられた。  
「はぅ……」  
 心地よい刺激に力が抜けそうになる。  
「きゃは、このこ抵抗しなくなってきたよ?」  
「うふふ、いい感じにほぐれてきたねぇ……そうよぉ……」  
 少女が耳の後ろを舐めている。唇が唇でこじ開けられ、舌で舌を絡めとられながら、服の胸元をはだけられているのに、あぁ、と吐息を漏らして弱々しい身じろぎをすることしかできない。  
(わたし、感じ始めてる?このままじゃ……)  
 体が快感に順応し始めている。それを自覚してリンサー・レッドは焦りを覚えた。  
 
 闇の淫気は浄化の力で消し続けているため、心が犯されてはいないものの、肉体の抵抗力が弱まってきたため、触手にさわられている部分に気持ちよさを感じ始めているのだ。  
このままでは淫気が魂まで入り込むのを許してしまうことになりかねない。  
(仕方ない…)  
 これまで少女たちには怪我をさせたくない気持ちが働いてあまり無理な抵抗ができなかった。  
そのためここまでいいように弄ばれてしまったのだが、もう手加減している余裕がない。浄化の力と強化された筋力で一気に戒めを振り払うしか無いと決め、リンサー・レッドは一切の抵抗をやめて精神を集中する。  
「きゃははっ、それじゃ本番いってみようかぁー?」  
 少女たちが笑いながら下着に手をかけ、触手がいったん股間を離れて、さらされた合わせ目にねらいを付けている。  
(焦っちゃダメ……  
 いま……っ!)  
 タイミングを計り、力を放とうとする矢先に、何かが腹の上に乗ってきた。  
(なにっ?)  
 ふわりと香る甘い香水。リンサー・レッドに跨っているのはポルーサー・バイオレットだった。このタイミングで空間を渡ってきたのだ。まるでどこかで見ていたかのように。  
 ポルーサー・バイオレットは手に紫の光を宿して、リンサー・レッドの右腕の鈴を握る。  
(あっ?)  
 触手のものとは比べものにならないほどの濃い淫気が浄化の力を包み込む。  
 ウェーブのかかった髪がリンサー・レッドの頬にふれる。  
「んふふふ……チェックメイトよぉ?」  
 バイオレットの唇がリンサー・レッドのそれを捕らえた。  
 唇を通して、どろりとした甘さを伴う淫気が流し込まれてくる。  
 無防備になったリンサー・レッドの股間を、触手の先端が捕らえた。  
 秘められた唇を割り、太い触手が中へ入ろうと脈打つ。  
 どくん。  
 リンサー・レッドの中で何かがはじけた。  
 
「っ……!」  
 声にならない叫びが漏れた。  
 リンサー・レッドの身体の奥で何かがはじけた瞬間、右腕から強いオレンジ色の輝きが放たれ、それが全身に広がっていく。  
「えっ!?」  
 ポルーサー・バイオレットの体が驚きの叫びとともに離れる。浄化の光に押し戻されているのだ。  
 身体にまとわりついていた触手がすべて塵になって消え、覆い被さっていた全裸の少女たちまでがはじき飛ばされたかのように倒れていった。  
 リンサー・レッドは自由になった身体を起こす。その全身からはまだ驚くべき密度で浄化の光が放射されていた。  
「なに?……力が…あふれて……」  
 危機に際して何らかの力が目覚めたのだろうか。リンサー・レッド自身にも理解できない現象だったが、一つだけわかっていることがあった。  
 今の彼女には、闇の力は一切通用しない。心の隅々までが清浄な光で満ちあふれている。何かはわからないが、何かを悟れたような静かな自信と落ち着きが胸に落ちていた。  
「これ以上、あなた達の好きにはさせないわ!  
 私は清天使徒リンサー・レッド!  
 今日も私の清めの光で!闇の力を祓って見せます!」  
 右腕を拳にして掌低を前に突き出す。シャン!と鈴が涼しげな音を響かせ、あふれる浄化のオーラが右腕からほとばしった。  
「あらあらまぁ、なにこれ大逆転ってやつ?  
 ずるいわよねぇ正義のヒロインって理不尽に秘めた力とか出して来ちゃうしっ」  
 あまり危機感のない口調で文句を言いながら、ポルーサー・バイオレットは転げるように距離を取って防御姿勢を取る。  
 リンサー・レッドはバイオレットの軽口にはつきあわず、レイプモンスターを視線と気合いで押さえつけながら精神を集中していた。  
2体のレイプモンスターは触手をほとんど破壊されたダメージと、リンサー・レッドから放たれる光のために身動きを取ることができずにいた。  
 そして、リンサー・レッドは必殺技を放つ。  
「あつまれ、浄化の力っ!  
 消し去れ闇の淫気っ!  
 満ちろ浄化の息吹っ!  
 ホーリー!ビュリフィケーションッ!!」  
 円を描きながら右腕を差し上げ、最後の叫びとともに振り下ろす。集中していたオレンジの輝きが増し、黄色から白に変わって爆発した。  
 空気をふるわせて放たれた光はレイプモンスターを覆い尽くし、飲み込む。身体ごと腕を振って、浄化の光でなぎ払う。光は3人の少女たちも包み、裸身を輝きの中に沈めていった。  
 すべてが終わった後、立っているのはリンサー・レッドだけだった。  
 レイプモンスターになっていた警備員と校務員は人間の姿を取り戻して倒れていた、3人の少女たちも同じく気を失っている。  
 ポルーサー・バイオレットの姿はなかった。今回も間一髪で逃げ延びてしまったようだ。  
 
「ふうっ」  
 リンサー・レッドは息をついた。  
 5人の男女の魂からは、ポルーサー・バイオレットが吹き込んだ闇の淫気はすべて祓われている。それがリンサー・レッドの力であり、使命であった。  
 今回の必殺技はそれだけでなく、全員の魂から、淫らでゆがんだ欲望もそぎ取っている。さらに、全員からたった今起こった事件の記憶も消し去っていた。  
 心や記憶の操作は好ましいことではないが、淫気をぬぐい去られた心にあのような異常な行為の記憶があっては精神に危険が及ぶ可能性が高いのでやむおえない措置であった。  
 リンサー・レッドは気を失った少女たちに服を着せてやると、椅子に座らせて机に伏せる姿勢を取らせた。  
 校務員と警備員を両肩に担ぎあげると、教室の外に運び出す。  
 それぞれの詰め所に放り込んで任務終了とした。これで、気が付いてもいつの間にか眠り込んでいたと思ってくれるだろう。  
 リンサー・レッドはすべてを終えると屋上に飛び上がって校舎と校庭を眺めた。  
 心を澄ませて淫気を探る。ポルーサー・バイオレットの気配は消え去っていたが、学校全体に淫気が澱のようにたまっているのを感じる。  
 ポルーサー・バイオレットの真の目的ははっきりしない。だが、当面の企てとして、この学校にレイプモンスターを使って淫気を吹き込み、淫らに染めようとしている。  
生徒も教師も関係なく倫理と秩序を破壊して乱れた性の地獄へ変えようとしているのだ。  
 リンサー・レッドはいままでの戦いでその侵攻をすべて阻止していた。しかし今日の女性徒のように、繰り返し送り込まれる淫らな波動の影響を受ける者も出始めていた。  
「でも……わたしは、まけない!」  
 自らを鼓舞するように声に出してそういうと。リンサー・レッドは精神を集中した。  
 浄化の光を放ち、学校に溜まった淫気を洗い流すために。  
(そうよ…!リンサー・レッドの戦いはまだこれから。  
 リンサー・レッドはあきらめない。  
 いつかポルーサー・バイオレットを倒し、この学校を完全に浄化する日まで、私は……リンサー・レッドは戦い続けるのよ!)  
 天に向かって腕を突き上げ、リンサー・レッドは叫ぶ。  
「あつまれ、浄化の力!」  
 そして、学校全体が浄化の光に包まれた。  
 
                   了  
 
 
 

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