ここはタウン情報誌を発行するアクノ企画の事務所。  
 留守番を任されたアルバイト記者の森永・ヘレン・真理は、何十回目かの大あくびをした。  
 少しばかりの書類整理を済ませ、手狭な部屋の掃除をしてしまうと完全にやることが無くなってしまった。  
 仕方なく新聞を広げた真理の目にきな臭い記事が飛び込んできた。  
 それは某国の第一艦隊の機能をコンピュータ化し、乗組員の負担を減少させるという軍事ニュースであった。  
「ふぅ〜ん、AIシステム搭載による自動艦隊ねぇ。乗組員の数は大幅に減らされるんだって?」  
 戦闘員の数が減ったとしても、艦隊の機能が低下するわけもなく、真理の望む平和な世界に近づいたとは言えない。  
 むしろこれにより無茶な作戦が立てられ、新たな火種となる可能性の方が高い。  
 その時、卓上の電話が鳴り、真理の頭から自動艦隊のことは綺麗サッパリ消え去った。  
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 次に真理が自動艦隊のことを思い出したのは日後の夜、自宅でTVニュースを見ていた時であった。  
「日本近海で演習中の某国第一艦隊が行方不明ですって?」  
 真理は嫌な予感に襲われて顔を曇らせた。  
「行ってみましょう」  
 真理はマンションの窓を開け放ち、ベランダから虚空へ身を躍らせた。  
「ティアラ・アップ!」  
 落下していく彼女の額に光り輝く黄金のティアラが出現する。  
「チェンジ・ラスキア!」  
 掛け声と共に真理の着衣が弾け飛び、一糸まとわぬ裸体となる。  
 代わりに眩い光の玉が彼女の体に集まっていきエネルギーが満ち溢れる。  
 そして光が四散した時、彼女の体はカラフルなレオタードに包まれていた。  
 白地に赤色のWと青色の星形を象ったラインが大きくデザインされたレオタード。  
 純白のマスクに同色のグラブとブーツ。  
 そして黄金色に輝く腰のパワーベルト。  
 これぞ地球を守る守護女神、流星天使ラスキアの正装である。  
 
「ラスキア・フライト!」  
 変身したラスキアは、その名の通り一個の流星と化して北の空に消えていった。  
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 その日の日本海は濃い霧に包まれていた。  
 眉毛の濃い気象予報士の天気予報が当たった例しは無いのだが、その日の気象条件では霧など出ないのは明らかである。  
「某国の第一艦隊は空母1、戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦1の計5隻の筈」  
 夜間にそれだけの小艦隊を探し出すのは骨が折れる。  
 しかもこの霧の中でである。  
 自然、高度は低めになり、速度も落とし気味にしてゆっくりと探索を続けるしかない。  
 頼みとなるのはパワーベルトの金属探知装置と、後は瞳孔を一杯に開いた自分の目だけしかなかった。  
 ラスキアは瞳孔を自由に開閉でき、猫のように夜目を利かせることができる。  
 それでも目指す第一艦隊は一向に見つからない。  
 そうしているうちに、ベルトに備蓄していたエネルギーが底をつき始めた。  
 ラスキアの超能力を支えるエネルギーは空中イオンから無限に採取される。  
 しかし飛行能力や光線技など、エネルギー消費の著しい行動を取ると、生産が追いつかなくなる。  
 そうなると一時的にエネルギー切れとなり、彼女は変身したまま無力な存在──只のコスプレ女──となってしまう。  
「東京から飛んできたんだもの、仕方がないわ。明日もう一度探索しよう」  
 ラスキアが富山港の灯台を目標に進路を変えた時であった。  
 いきなりベルトの警報装置がけたたましく鳴り響いた。  
「近いっ」  
 思わず身を固くするラスキア。  
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「うるさい蛾が一匹紛れ込んだようだな」  
 旗艦である戦艦の艦橋で提督邪鬼がニヤリと笑った。  
「こちらに気付いたようです」  
 レーダー観測員の邪鬼が、モニター上の光点が反転するのを確認して叫んだ。  
 
「やりますか?」  
 戦闘班長が戦術席から振り返って提督を仰ぎ見る。  
「まだこちらの正確な位置は掴めておるまい。先制攻撃の奇襲を掛けるのだ」  
 提督の命令が下され、たった数人しかいない艦橋が慌ただしくなった。  
 レーダーの情報と共に人工衛星からの観測データがコンピュータに送られ、自動照準システムが作動する。  
 ラスキアの動きを読みとり、未来予測位置が計算された。  
 127ミリの速射砲群が自動的に砲身を蠢かせる様は、無機質な昆虫の動きを思わせる。  
「攻撃準備完了しました」  
 戦闘班長の張り詰めた声が響いた。  
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 あっと思った時には、戦艦の舷側が目の前にあった。  
 次の瞬間、直径80センチもある探照灯が一斉にラスキアを捉えた。  
「アァァァーッ。目がっ……目がぁぁぁっ」  
 一杯に開かれていた瞳孔から眼球に飛び込んできた光が、ラスキアの網膜を灼いた。  
「ワハハハッ、どうだラスキア。我が艦隊の威力は?」  
 スピーカーから提督のがなり声が響いた。  
「この艦は我々夜盗鬼族がいただいた。こいつを使って日本沿岸を畑のように耕してやる」  
 やはり事件の裏には夜盗鬼族の暗躍があったのだ。  
 夜盗鬼族、それは世界征服を企む悪の鬼達である。  
 彼らは全ての人間の男性を捕らえて邪鬼にし、地球を鬼の支配下に納めようとしているのである 。  
 彼らはこの艦の乗組員を鬼化することに成功、艦隊ごと強大な戦力を手中に収めたのだ。  
「まずは目障りな貴様から血祭りに上げてやる」  
 一時的に失明したラスキアに向けて、10門もの対空速射砲が一斉に火蓋を切った。  
 音速の数倍の速度で飛んでくる砲弾が、身動きの取れないラスキアを包み込む。  
 ガンッ、ガンッという音が上がる度、ラスキアの体が木の葉のように宙を舞った。  
 体表に張り巡らせたエネルギーシールドのお陰で弾の貫通は免れるが、衝撃は吸収しきれない。  
 重要な臓器を傷つけられたら、ティアラ戦士とて危険である。  
 
「うぅっ。逃げなきゃ……アァーッ」  
 逃走しようにも、今のラスキアには方向感覚もない。  
 そうしているうちにとうとうエネルギーが切れ、ラスキアは飛んでいることさえ出来なくなった。  
 失速したラスキアが海面に叩き付けられ、激しい水柱が上がった。  
「やったぞ。捜索隊を出して生け捕りにしろ」  
 提督の命令で搭載艇が次々に発進していった。  
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 夜霧を切り裂くようにサーチライトが行き交い、海面を眩しく照らしだす。  
 しかしラスキアの姿は発見できず、ティアラ戦士探査レーダーにも反応がなかった。  
「死んじまったか? 勿体ないことを」  
 戦闘班長が歯ぎしりして叫んだ。  
「やむをえん、捜索隊を収容して夜明けに備えろ。日の出と共に富山沿岸に対して攻撃を開始する」  
 提督の命令で搭載艇が戦艦へと戻っていった。  
 それを悔しそうに見送るのは、ウミガメの裏にしがみついた真理であった。  
 墜落と共に変身が解けたのが幸いした。  
 変身したまま失神していたらティアラ戦士探査装置の網に引っ掛かり、生け捕りにされていたことであろう。  
 真理は黙ったまま夜霧に紛れて消えていく戦艦を見送った。  
「早くエネルギーを溜めないと」  
 ふと東に目をやると、水平線が白み始めていた。  
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 東の水平線が真っ赤に燃え上がり、闇が切り払われた。  
 霧に紛れた艦隊は進路を南に取り、ゆっくりと進撃を始めた。  
「進路そのまま、速力15ノット」  
 提督席にふんぞり返った邪鬼が命令を下す。  
「南南西から接近する飛行物体あり。速度、時速300キロ」  
 レーダー観測員からの報告が入る。  
「小娘が、性懲りもなく。艦載機を出して迎撃しろ」  
 戦闘班長は心なしか嬉しそうに叫び声を上げる。  
 空母の甲板が慌ただしくなり、2機のMig29が発艦準備を整える。  
 カタパルトの勢いで加速されたMigが空中に躍り出た。  
 
「ラスキア・ビーム!」  
 まだ速度の出ていない上昇中の隙を突き、ラスキアの光線がMigに襲いかかった。  
 尾翼を吹き飛ばされたMigは海面に墜落し、水柱を高々と上げた。  
 残る1機は水平飛行に戻してグングン加速して離脱する。  
 それを無視して、ラスキアは第二撃を飛行甲板のエレベータにお見舞いした。  
 エレベータが破壊され、残りの戦闘機は格納庫から出られなくなる。  
 恐ろしい空母を無力化することに成功したラスキアは、急旋回してもう1機のMigに備える。  
 高々度ではマッハ3近く出るMigも、海面近い高度ではマッハ1そこそこしか出せない。  
 それでも時速300キロが上限のラスキアにとっては、超高速であることには違いない。  
 彼女の武器は身の軽さと、標的としての卑小さしかない。  
 あっという間にバックを取られたラスキアはジグザグに飛行する。  
 Migは極限まで速度を落とすが、ラスキアに照準を合わせる暇もなく追い越してしまった。  
 急上昇に移ったMigを背後から追うラスキア。  
「むぅぅっ、凄いパワーだわ。追いつけない」  
 ラスキアを低空に置き去りにしたMigは、ループの頂点で切り返しを見せる。  
 そして低空でモタモタしているラスキアにバルカン砲をお見舞いした。  
 しかし長さで2メートルに満たない標的には、弾丸を掠らせることも出来なかった。  
 水平飛行に戻したMigの腹の下に潜り込んだラスキアが、ビームをパルス状にして撃ちまくった。  
 親指ほどの光弾がエンジン部にプスプスと突き刺さる。  
 直ぐに黒煙を上げ始めたエンジンが機能を停止した。  
 脱出した邪鬼パイロットには目もくれず、ラスキアは旗艦である戦艦に突っ込んでいった。  
「猪口才な女め。総攻撃で夜盗鬼族の威力を見せてやる!」  
 提督の号令で40センチもある巨砲が火を噴いた。  
 合計9個の主砲弾がマッハ3で飛び去る。  
 もちろんラスキアに命中などするはずもなかったが、巨弾の巻き起こす衝撃波は尋常ではなかった。  
 
「キャアァァァーッ」  
 ソニックブームに巻き込まれて、ラスキアが空中で翻弄される。  
 方向感覚を失ったラスキアに、対空砲火が雨霰と襲いかかった。  
「ダメだわ。空中からではあの戦艦に近づくことすら出来ない」  
 ラスキアは失神した芝居で海面に落下する。  
 そして海中に潜ると同時に戦艦の脇腹目掛けて突進を開始した。  
「ラスキア、海中から来ます」  
 駆逐艦のソナーが、海中のラスキアの位置を的確に捕捉する。  
「やはり女の浅知恵よ。爆雷発射」  
 駆逐艦の艦尾からロケット爆雷が発射された。  
 20個の爆雷が輪になって海中に没する。  
「……?」  
 激しい物音にラスキアが海面を仰ぎ見ると、泡を引いたロケット爆雷が群れをなして襲い掛かってくるところであった。  
「ウグゥゥゥムゥッ」  
 水中では衝撃の伝わりかたが大気中より激しくなる。  
 奔流に巻き込まれたラスキアの全身が軋み音を上げた。  
 続いて襲い掛かった第二派は、更に間近で爆発する。  
「キャァァァーッ。コスチュームがぁーっ」  
 余りに凄い衝撃波が、ラスキアのレオタードを引き裂き、彼女はほとんど全裸になってしまう。  
「だいぶ弱ってきたな。よしっ、アクアラング隊を出せ」  
 戦艦の艦底が開き、ボンベを背負ったフロッグメンが出撃する。  
「まずいわ。出直さないと」  
 ラスキアは弱り切った体に鞭打って逃走に入る。  
 フロッグメンは水中スクーターを使って易々とラスキアに追いつく。  
 背後からラスキアにしがみついた邪鬼が、ラスキアの腰からパワーベルトを奪い取った。  
 途端に全ての力を喪失するラスキア。  
「あぁっ、それを返しなさい」  
 身に付けているのが黄金のティアラと目元を覆うマスクだけでは、コスプレ女とも言えず、只の変態姉ちゃんである。  
 フロッグメンは持っていた拘束具をラスキアの裸体に巻き付けて身動きできなくする。  
 黒革のベルトと金具で作られた拘束具は、網状にラスキアの体を包み込んで行動を封じた。  
「放しなさいっ」  
 ラスキアの抗議を無視したフロッグメンは、ギュウギュウ締め付けを強くした。  
 豊満なオッパイがベルトに締め付けられて歪に変形する。  
 股間のスリットに食い込んだベルトは、遠慮無しに敏感な肉芽を押しつぶす。  
「痛いっ、ホントに痛いのよっ」  
 たまらず悲鳴を上げたラスキアの口にボールギャグがねじ込まれる。  
「オゴォォォッ」  
 ギャグのベルトが後頭部で結着され、ラスキアは抗議することすら出来なくなった。  
「ングゥゥッ。ウグゥゥゥムゥッ」  
 声にならない声がラスキアの口から漏れ出す。  
 全くの無力と化したラスキアは、そのままの格好で戦艦の中へと連れ去られてしまった。  
 
 
 ラスキアは拘束衣に包まれたまま、艦橋に連行された。  
「ようこそティアラ戦士。本艦の乗り心地は如何かな」  
 邪鬼と化した提督は余裕の表情を浮かべている。  
 反射的に飛び掛かろうとしたラスキアだったが、全身を網目のように包み込んだ拘束衣がそれを許さなかった。  
 細身の革ベルトが柔肌に食い込み、身が千切れそうな痛みが走る。  
「オゴォォッ」  
 その場にへたり込み、苦痛に耐えるラスキア。  
「おネェちゃん、大人しくしてな。暴れればそのベルトはどんどん締まっていき、しまいにゃアンタの全身をブッ千切ってしまうぜ」  
 戦闘班長が愉快そうに忠告する。  
 革ベルトの締め付けは既にかなりきつくなっており、呼吸をするのも困難になってきていた。  
「さて、これより本艦隊は人工濃霧に包まれたまま富山沖に突入、主砲弾をもって沿岸の原発を都市もろとも壊滅させる。そして時計回りに沿岸を荒らし、最後は東京湾で自爆するのだ」  
 提督の説明を受けたラスキアは、我を忘れて立ち上がろうとする。  
「ムグォォォッ」  
 途端にベルトが締まり、ラスキアはその場に転倒する。  
 肋骨にヒビが入る音が響き、ボールギャグの穴から鮮血が滴り落ちた。  
「まったく、頭の悪いお嬢さんだ……」  
 提督が呆れたようにラスキアを見下ろす。  
「本艦の原子炉を暴走させれば、東京湾を中心に関東一円は死滅都市となる」  
 その光景を想像して、ラスキアの顔が青ざめた。  
 東京には大事な兄や仲間が住んでいるのだ。  
 ティアラ戦士の誇りに懸けてそんなことを許すわけにはいかない。  
「お前には特等席で観賞して貰おう」  
 ラスキアの気持ちを知ってか知らずか、提督は残酷な告知を下す。  
「空母のエレベータが修理でき次第、進撃を開始する。それまでゆっくりくつろいでくれ」  
 戦闘班長の荒々しいエスコートで、ラスキアは艦橋を降りていった。  
 
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「ムグゥゥゥッ」  
 剥き出しの鉄板を張っただけの床に蹴り転がされ、ラスキアは悲鳴を上げた。  
 
「いっちょまえに苦しがってるぜ」  
 戦闘班長が下卑た笑いを浮かべ、周囲を取り囲んだ邪鬼たちが大笑いした。  
「どうだ、ラスキア。最大排水量5万トン、全長250メートルの巨艦が、この50名だけで運用できるのだ」  
 戦闘班長は自慢げに胸を反らす。  
「この科学力を持ってすれば、もはや超聖母ティアラとて怖れるに足らずだ」  
 こんな艦隊に束になって責められれば、如何にティアラ様が強くとも危険だ。  
 ラスキアは恨めしげに戦闘班長を睨み付けるが、このままではどうすることも出来ない。  
 ただひたすらチャンスが訪れるのを待つしかなかった。  
 戦闘班長の自慢話が始まると同時に、ラスキアはそっと腋の下を開き気味にした。  
 そして腋の下のアポクリン汗腺からフェロモン物質アンドロステロンを垂れ流しにして時が来るのをジッと待つ。  
 やがて沸き立つフェロモンが、邪鬼たちの鋤鼻器官を通じて視床下部に直接伝達され、彼らの生殖本能に作用しはじめた。  
 戦闘班長は股間の肉棒がギンギンにいきり立ち、虎皮のパンツを突き破らんばかりになっている自分に気付いた。  
 周囲を見渡せば、どいつもこいつも同じようにパンツの前でテントを張っていた。  
 無論、ラスキアを艦底に連れ込んだのは彼女を犯すためであったが、独占しようとまでは思ってもいなかった。  
 しかし今の彼の頭の中では、獲物を独り占めしたいという独占欲が渦を巻いていた。  
 戦闘班長はラスキアに飛び掛かると、鋭い爪で革ベルトを切断する。  
 ようやく体の自由を取り戻したラスキアだったが、しばらくは身動きせずにジッと身をすくめていた。  
「戦闘班長。アンタ、この女を独り占めする気じゃないだろうな」  
「これだけの美味そうな女、今度いつお目に掛かれるか分からねぇんだぜ」  
 部下の邪鬼たちが殺気立った目で戦闘班長を睨み付けた。  
「うるせぇ、下っ端は引っ込んでろ」  
 その台詞が乱闘の引き金となった。  
 
 気が付けば50人いた邪鬼が10名ほどに減り、そのほとんどが怪我を負っていた。  
「まっ、待て。なんで俺たちが殺し合いをしなくちゃならないんだ」  
 戦闘班長の叫びで我に返る邪鬼たち。  
 
「くそっ、あの女の体臭を嗅いでいたら……おいっ、女がいねぇぞ」  
 当の獲物に逃げられたと気付いた邪鬼たちが騒然となる。  
「探せっ、まだ艦内にいるはずだっ」  
 戦闘班長はラスキアにはめられたことに気付き、真っ赤になって怒りまくった。  
 
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 その頃、ラスキアは主砲塔の階下にある弾薬庫に潜入しようとしていた。  
「ここを爆破出来れば、爆沈に追い込めるわ」  
 弾薬庫のドアを開けようと全力を出すが、パワーベルトを失ったラスキアの手には負えなかった。  
 コンソールの暗号コードを出鱈目に押してみるが、当然都合のいい奇跡は起きなかった。  
「先にパワーベルトを取り返すべきだったわ」  
 やむなく目標をキングストン弁に変更し、艦底へと戻るラスキア。  
 キングストン弁さえ開くことが出来れば、時間は掛かるが浸水により確実に自沈させることが出来る。  
 
 タラップを駆け下りていくラスキアが、出会い頭に邪鬼たちと出くわした。  
「いたぞぉっ」  
「捕まえてフン縛っちまえ」  
 両手を広げて突っ込んできた邪鬼の股間に、ラスキアの爪先が食い込む。  
「ウギャッ」  
 たまらず卒倒する邪鬼を尻目に、ラスキアは降りてきたタラップを上へと駆け出した。  
「追えっ」  
 タラップを登り切ったところで邪鬼が追いすがり、ラスキアが振り返りざまに前蹴りを放つ。  
 宇宙拳法の威力に怯えた邪鬼が、身を屈めて股間をガードする。  
 同時に蹴りの軌道が上方向へ劇的なカーブを描き、鋭い爪先がのど仏にヒットした。  
「ゲホォッ」  
 タラップを転げ落ちていく邪鬼が、後続の仲間を巻き添えにする。  
 それを見たラスキアは、手摺りから身を躍らせて階下に急降下した。  
「ゲヘェェェッ」  
 全体重を乗せた踵が邪鬼のみぞおちに食い込んだ。  
 白目を剥いて邪鬼が卒倒する。  
 
 ティアラパワーを失っても、ラスキアの格闘センスは抜群であった。  
「なかなかやるじゃないか。しかしそこまでだ」  
 いつの間にかラスキアの背後を取った戦闘班長が声を掛けた。  
 元はといえば、彼は厳しいことで有名な某国海軍の格闘技チャンピオンであった。  
 しかも鬼化した今では、以前のパワーを遥かに上回っている。  
 
 慎重に距離を取ったラスキアは、すり足で左へ左へと弧を描く。  
 持久戦など初めからから頭にない戦闘班長は、いきなりロングレンジの右フックを放ってきた。  
 ラスキアがそれをダッキングでかわすと、勢い余った拳が鉄の柱をへし折ってしまう。  
「うぅっ、凄いパワーだわ。アレを貰うわけにはいかない」  
 桁外れのパワーを目の当たりにして、ラスキアの全身に緊張が走る。  
 続いて左のロングフックが唸りを上げて飛んで来た。  
 ラスキアは逆に前へ出つつ、フックをかいくぐる。  
 そして泳いでがら空きになった班長の左脇腹に回し蹴りを放った。  
 爪先を使ったピンポイントキックが肋骨の細い部分に炸裂する。  
 しかし班長の肋骨は折れず、逆にラスキアの爪先が使い物にならなくなった。  
「うそぉっ」  
 本来なら、折れたあばらが内臓に突き刺さり、ダウンしているはずである。  
 狼狽えるラスキアに暴風のような連続パンチが襲い掛かった。  
 一発貰えばあの世行きになりかねない。  
 ラスキアの卓越した動体視力と運動神経が、ギリギリのところでパンチを避け続ける。  
 いつの間にか、息を吹き返した邪鬼たちが2人を取り囲み下卑た笑いを浮かべていた。  
「へへへっ、やっぱり所詮は女だ」  
「戦闘班長にゃ、手も足も出ないぜ」  
 全裸の美女が真剣な顔で男と戦う必死さが、観衆の興奮に火を付ける。  
「ヘイヘイ、ネェちゃん。負けたら集団レイプだぜ」  
「どうしたぁ、ネェちゃん。しっかりやんなよ」  
 心無い邪鬼の差し出した足に引っ掛かり、ラスキアが仰向けに転倒する。  
「アァッ」  
 そこへ覆い被さる戦闘班長。  
 しかしラスキアは落ち着いて両手を伸ばし、班長の右腕を取る。  
 そして下半身を起こすと、両足を班長の肩越しに絡み付かせた。  
 
「ウゲェッ」  
 自分の腕で頸動脈を締め付ける地獄絞めが決まり、戦闘班長の顔から血の気が引いていく。  
「班長が危ねぇ」  
 絞め技を使って身動きできないラスキアに無数のキックが食い込む。  
「あぁっ、卑怯よ……うわぁぁぁっ」  
 やむなく班長から離れたラスキアが、フラフラと立ち上がる。  
 その顔面にいきなりのハンマーパンチが炸裂した。  
 ラスキアは数メートル背後の鉄壁に叩き付けられ床に転がる。  
「うむぅぅ……ぐぅぅむぅ……」  
 白目を剥いたまま立ち上がろうとして、再度仰向けに転がるラスキア。  
 その股間から勢いよく小便が迸り、やがて全身の痙攣がピタリと収まった。  
 
「失神してて、この締め付けは何だぁ」  
「これで起きてりゃ、チンポが食いちぎられちまわぁ」  
 数十人の邪鬼がラスキアに群がり、二つの穴を使った饗宴が最高潮を迎えていた。  
「うぅ〜ん……はぁぁぁ〜ん」  
 意識のないラスキアが切なそうな鼻息を漏らす。  
「この女、寝ながら感じてやがる。スーパーヒロインのくせに、けっこう好きモノだぜ」  
「どっ、どうせ嫌らしい夢でも見てるんだろうよ……おぉっ、またイクっ……オォォォッ」  
 夥しい量の精子がラスキアの直腸に注ぎ込まれ、ペニスが抜けると同時にブビッという音と共に白い液が吹き返す。  
「おぉっ、こっちも……中で出すぞ……ラスキアッ……ラスキアァァァ〜ッ」  
 まるでティアラ戦士を自分の彼女のように扱う罰当たりな邪鬼。  
 膣の中で暴れていた彼のモノが暴発し、ラスキアの神聖な部分を汚していった。  
「これだけ中出しされたんじゃ、妊娠は確実だなぁ」  
 クリームパイのようになったラスキアの股間を見て邪鬼が笑う。  
「いいぞ、神聖なティアラ戦士の子が、夜盗鬼族の血を半分受け継ぐんだ」  
 ドッと上がる馬鹿笑い。  
 
 そんな乱痴気騒ぎの中、戦闘班長だけはラスキアに指一本触れようとしなかった。  
 彼は勝負に勝ったとはいえ、試合では負けていたのである。  
 しかも超能力を失った、丸腰の女を相手にしてのことである。  
 そんな女を相手に性欲が湧くほど、彼のプライドは安っぽくはなかった。  
 
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 異常気象とも言える不審な濃霧を察知したのは、海上J隊の哨戒機であった。  
 レーダー波を乱反射させる霧に不審感を持った海上J隊は、舞鶴基地から護衛艦の艦隊を派遣した。  
 
「例の第一艦隊じゃないだろうな」  
 艦隊司令である辻本一佐は真っ白になったレーダーのモニターを前に顔を曇らせた。  
 行方不明になった位置からしても、その公算は高かった。  
「とにかく相手の正体を見極めるまでは、発砲してはならんぞ」  
 J隊を違憲呼ばわりさせないためにも、それは絶対遵守すべき事項であった。  
 そう思っている矢先、旗艦『たかつき』の直ぐ近くに次々に水柱が上がった。  
「霧の中から砲撃です」  
 幕僚が引きつったような表情で報告する。  
「狼狽えるな。敵もレーダー射撃はできん。見ろっ、あちらさんも盲目撃ちだ」  
 辻本一佐の指差す方向、艦隊の遥か右前方に第二弾の水柱が林立した。  
「ともかくこれで条件は満たされたわけだ。これよりJ隊特措法に従い防衛活動に入る」  
 一佐の形の良い唇がニヒルに歪む。  
「左砲撃戦用意。照準035、距離8000。撃ち方始め」  
 5隻の護衛艦の砲塔が一斉に火を噴いた。  
 
「逆襲です。舞鶴のJ艦隊かと思われます」  
 航海班長から邪鬼提督に報告が入り、直後に艦が激しく揺さ振られる。  
「なかなかやるな。面白い、受けて立ってやる」  
 こうして霧の中と外で、激しい艦砲射撃の応酬が始まった。  
 
「『かこ』に命中弾1、『おおすみ』航行不能」  
 レーダーが使えなくとも、命中弾があれば音響探査で敵の位置は把握できる。  
 最初の一発をどちらが当てるかが全てを決した。  
 となれば、砲門数の多い邪鬼艦隊側に利があった。  
「これまでのようだな。艦隊をまとめろ。戦線を離脱する」  
 これ以上の戦闘続行は無理と判断した辻本一佐は、進路を南東に変えて離脱を図った。  
 それでも巡洋艦2隻を航行不能に追い込み、空母に一撃を与えた一佐の腕前は流石であった。  
 
 入れ替わりに航空J隊の支援戦闘機が上空に差し掛かる。  
 そして霧の中から出現したMig戦闘機との間に壮絶なドッグファイトが始まった。  
 不意を突かれたJ隊機だったが、Mig側には発艦間もなく、速度が出ていない不利があった。  
 Migを蹴散らしたJ隊機が霧の艦隊に迫る。  
 
 その時、忽然と霧が晴れ、遂に邪鬼艦隊がその威容を現した。  
「敵艦発見、攻撃に移る。目標一番艦、対艦ミサイルロックオン」  
 まさにミサイルが放たれようとした時、編隊長が異変に気付いた。  
「攻撃中止。ミサイル発射待て」  
 J隊機の編隊は邪鬼艦隊の上空で急上昇していった。  
 
 編隊長の見たものは、戦艦の舳先に縛り付けられた全裸のラスキアであった。  
 四肢を大の字に固定され、全てを隠しようもなく晒したスーパーヒロインの姿は、攻撃を思い止まらせるのに充分であった。  
「フフフッ、J隊諸君。攻撃するならやりたまえ。お前たちの守護天使を失っても構わないのならな」  
 提督の馬鹿笑いがスピーカーから流れ出た。  
「みなさんっ、私に構わないで攻撃してぇっ。今攻撃しないと……ウワァァァーッ」  
 呼び掛け半ばで、ラスキアの全身に高圧電流が流される。  
「オォォォォーッ」  
 全身を駆け巡る電流に耐えきれず、ラスキアが身をくねらせて悶え苦しむ。  
「くそっ、ラスキアが……」  
 編隊長が悔しそうに下唇を噛みしめる。  
 これまで夜盗鬼族から日本を守り続け、陰に日向にJ隊を支援してくれた恩人ラスキアを攻撃することなど出来ない。  
「ラスキア、頑張ってくれ」  
 今の彼らに出来ることは、電撃にのたうち回っているラスキアを見守ることだけであった。  
「ワハハハッ奴らめ、手も足も出せまい」  
 邪鬼提督が富山沖への進撃を命じ、3隻となった艦隊が一斉に面舵を取った。  
 沿岸の原発を破壊すれば、勝利は手にしたも同じである。  
 勝利を確信した提督は、馬鹿笑いを数オクターブ高くした。  
 
 その頃、機上の編隊長に対し、某衛庁からの非情な命令が送られていた。  
「ラスキアごと敵艦を撃沈しろだと。これまで何度彼女に救われてきたと思っているんだ」  
 編隊長は東京の安全地帯にいて、恩知らずな命令を下す幹部連中に憤りを感じた。  
「全機ミサイル発射装置に異常あり。直ちに帰投す」  
 編隊長の下した現場の判断は、人として間違ってはいなかった。  
 結局、航空J隊の支援戦闘機は南の空に消えていった。  
 
「ワハハハッ。賢明な判断だぞ」  
 邪鬼提督が笑い転げ、ラスキアを苛む電流が更に強力になった。  
「アォオォォォォ〜ッ」  
 悶え苦しむラスキアの意識が遠のいていく。  
「もっ、もう……ダメェ……」  
 
 限界を迎えたラスキアが覚悟を決めた時であった。  
 いきなり電撃が止み、手足の拘束具がパチンと外れた。  
 甲板に倒れ込んだラスキアの足元に、パワーベルトが投げ捨てられる。  
「……?」  
 見上げると戦闘班長が立っていた。  
「勝ち逃げは許さねぇ。それを着けて五分と五分で再試合だ」  
 戦闘班長はプライドを懸けてリターンマッチを申し込んだ。  
「いいわ、その心意気。夜盗鬼族にも骨のある奴がいるのね」  
 ラスキアがパワーベルトを巻くと、コスチュームが再生した。  
「いくぞぉっ」  
 戦闘班長の拳が宙を切り裂きながら飛んできた。  
 しかしパワーの回復したラスキアにとって、邪鬼のパンチなどものの数ではなかった。  
「ラスキア・パァーンチッ」  
 カウンターを喰らった戦闘班長は数十メートルも吹き飛ばされ、主砲の砲身に叩き付けられた。  
 甲板に崩れ落ちた戦闘班長は、それでも満足そうな顔をしていた。  
 
「バカが、全てをぶち壊しにする気か」  
 怒り狂った提督が邪鬼たちにラスキア抹殺を命じる。  
 ラスキアを十重二十重に取り囲んだ邪鬼が一斉に攻撃を開始する。  
「ヤァッ、ハァッ、トゥッ」  
 ラスキアの宇宙拳法が冴えわたり、邪鬼たちは次々に倒される。  
「電流ロープを使え」  
 邪鬼が投げ縄の要領でラスキアにロープを掛ける。  
「なによっ、こんなもの」  
 ラスキアがロープを断ち切ろうと力を込めるより早く、バッテリーのスイッチが入れられた。  
 
「キャァァァーッ」  
 パワーベルトから火花が散り、ロックが自動的に外れた。  
 ベルトの安全装置の秘密は、早いうちから夜盗鬼族に知られてしまった弱点の一つである。  
 邪鬼がスライディングして、ラスキアの足元からパワーベルトを蹴り飛ばす。  
「アァッ、パワーベルトを……返しなさい」  
 慌ててベルトに駆け寄ろうとするラスキアに、邪鬼どもが飛び掛かって甲板に組み敷いた。  
「危ないところだ。やはり早いところ処刑すべきだな」  
 艦橋でホッと胸を撫で下ろす邪鬼提督。  
 しかし息をつく暇もなく、レーダーシステムの警報装置が鳴り響いた。  
「高熱源体接近っ」  
 レーダー観測員の邪鬼が叫ぶのと、隣接した空母の飛行甲板が吹き飛ぶのが同時であった。  
 
*********************************************  
 
「何事だ」  
 提督が立ち上がり、機能を喪失した空母を呆然と見守る。  
「南南西から近づく飛行物体あり。速いっ……音速を超えています」  
 正面の窓に駆け寄り、双眼鏡で南の空を見詰める提督。  
 そのレンズが一つの黒点を捉えた。  
 最初ゴマ粒ほどであった点がみるみる大きくなり、やがて人間の姿をとった。  
 あっという間に旗艦上空に達した人影は、左腕から眩い光の帯を放射した。  
 大爆発が起こり、舷側の対空砲火群が消し飛ぶ。  
 結果を確認した人影は、羽が舞い落ちるような身軽さで、第2砲塔の上に降り立った。  
 
 それは、漆黒のレザーレオタードを身に纏った女戦士であった。  
 二の腕まで覆うグラブと膝上まであるブーツも艶のある黒。  
 そしてスモークグレーのバイザーを下ろしたヘルメットまでが黒に統一されていた。  
 所々を飾る装飾品のシルバーが印象的である。  
 ベルトのバックルは空中イオンコンバーターであるらしく、唸りを上げてエネルギーを生成していた。  
 
「きっ、貴様は何者だぁっ」  
 提督が真っ赤になって憤る。  
「私? 見た通りのスーパーヒロイン。名前はブレイヤよ」  
 赤いルージュを引いた唇が綻び、真っ白な歯が輝いた。  
「猪口才な女め。死ねいっ」  
 10丁の自動小銃がブレイヤに集中弾を浴びせた。  
 しかし飛来した銃弾の雨は、彼女に届く遥か手前で見えない壁に遮られ、虚しく火花を散らした。  
「これであなた達の悪だくみもお終いよ」  
 バックパックのジェネレーターがけたたましい作動音を上げ、左腕のブラスターにエネルギーを供給する。  
 LEDが赤からグリーンに変わると同時に、ブレイヤはブラスターを3連射させた。  
 邪鬼たちが艦橋から逃げ出す間もなく、大爆発が3度起こる。  
 戦艦の艦橋に大穴が3つ空き、艦としての機能が喪失してしまった。  
 艦橋にいたブリッジ要員も全員気を失っていた。  
 
「さぁっ、これで一件落着」  
 ブレイヤは用は済んだとばかり、バックパックに収納していた翼を伸ばす。  
「待って、あなたもティアラ戦士なの?」  
 ラスキアがブレイヤを呼び止めた。  
「さぁ、どうかしら? あなたとはまた会うこともあるでしょう」  
 ブレイヤは唇の両端を吊り上げると、翼のマイクロ・リニア・ブースターに点火した。  
「それじゃ、再開の日まで」  
 曖昧な言葉を残し、ブレイヤが宙に飛び上がる。  
 そしてブースターを全開にすると、音速を超える速度で南の水平線上へ消えていった。  
 
 やがて月面から超聖母ティアラの浄化の光が降り注ぎ、邪鬼と化していた乗組員たちが人間の姿を取り戻した。  
 こうして恥辱艦隊事件は無事に幕を下ろしたのであるが、ラスキアには釈然としないものが残った。  
 戦闘班長の見せた行為は、明らかに彼が人間だった時の性格によるものであるが、人は邪鬼と化しても自分を保ち続けることが出来るのであろうか。  
 そして謎のヒロイン、ブレイヤの正体は。  
 ラスキアは脳裏に渦巻く疑問を振り払うように首を振ると、南の水平線を真っ直ぐに見据えた。  
 

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