前回までのあらすじ。  
 狭い団地の一室でともに育った陽一と貴美の兄妹。  
 勉強やら趣味やら暇つぶしやら、互いに友達のようにウマがあい、ヘタな級友よりも仲がいい。現に妹は兄にオトコを紹介されたり、時には狙ったオトコの攻略法すら二人で考えたりしていた。  
 そんな兄に初めてカノジョが出来た。それを聞いて妹は動揺する。  
 動揺の中で、妹は初めて、兄を一人の男性として愛している自分に気付く。  
 さらに兄が、地元ではなく、カノジョと二人で京都の大学に進学する気だったと知り、その感情のベクトルは、全て自分を捨てていく兄への怒りに転化される。  
 かくして妹の、壮絶なる兄への復讐劇が始まった。  
 
 
 
「ねえ、お兄ちゃん」  
「・・・・・・・・・・・」  
「・・・・・返事してよ・・・」  
「いぐぅっ・・・!!」  
 妹が兄の両耳を引っ張る。全力で、力一杯。  
・・・・・・・・・かわいい。  
 心の底からそう思う。引っ張られて歪な形になった耳も、無言で怒りの抗議をあらわにする目も、激痛をこらえて歯をくいしばる口も、それら全てをひっくるめた表情も、いや、何もかもが愛しかった。  
 後頭部で縛られた両手首。その手首と紐で直結された首。呼吸困難にあえぐ筋肉の流れ。股を閉じられないように鉄パイプを通して固定された両足。  
 いや、それらの存在すべてが、いとしい兄の一部分なのだと思うと、膚が粟立つような興奮を覚える。  
 なぜなら、この兄の肉体を全て自分の好きなように蹂躙できるのだから。もう間違いない。妹は確信した。  
・・・・・・・・・あたしもお兄ちゃんも、きっとこの日のために生まれてきたんだわ・・・。  
   
 妹は耳から手を離し、兄の右手をそっと握り締める。  
    
「ねえ、お兄ちゃん・・・・・・」  
「・・・・・・・・なんだよ」  
「もう、いいわ」  
「え?」  
「もう、あの女と別れてとは言わないわ」  
「・・・・・・・・・・・」  
「いえ、むしろ感謝してるくらいよ、あの人には」  
「・・・・・・・・・・・何で?」  
「だって、あの人がいなかったら、あたしは気付けなかったかもしれないもの。自分の気持ちに」  
「貴美・・・・・・」  
「あたし、お兄ちゃんが好きよ。大好き。自分でもビックリするくらい」  
「・・・・・・・・・」  
「お兄ちゃんはどう?あたしのこと好き?」  
「・・・・・・・・・」  
「・・・・・・・そうだよね。答えられないよね。イキナリそんなこと言われても」  
 
 兄は思わず妹から目をそらした。  
 兄には分かっていた。その質問に自分が答えられないのは、決して質問がいきなりだったからではなく、現時点での自分にとって、貴美という妹は、やはり妹以上の何者でもないからだ、ということを。  
 
「貴美」  
「・・・・・・なに?」  
「これ・・・・・外してくれ」  
「お兄ちゃん・・・・・・・・・」  
「もうやめよう。こんなことして一体何になるって言うんだ」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「お前の気持ちはよく分かった。正直、スッゲェ嬉しいと思うよ、一人の男としてさ。でも・・・・・」  
「・・・・・・・・・でも?」  
「・・・・・・これはいくらなんでもやり過ぎだろう?こんなシチュエーションで告られても、答えようが無いじゃないか」  
「・・・・・・・・・・・・」   
「お前だって少し冷静になれば分かるはずじゃないか。そうだろ?」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「さ、外してくれ。・・・・・大丈夫だ。今夜のことはおれも忘れる。この程度のことで気まずくなったりしないさ」  
「・・・・・・・・・・・・」  
 
 兄の言葉に嘘は無い。  
 それは妹にも分かっていた。  
 
 兄にとって自分は、未だ妹以上の存在ではない。  
 
 兄が言葉を選ぶほど、兄が自分に気を使おうとするほどに、その真意は痛いほど伝わってくる。  
 でも妹には、もはやためらいはなかった。  
 なぜなら、かつての自分もそうだったから。カノジョの出現という事態が、初めて妹に兄への愛を気付かせたように、兄の中にも、未だ本人さえ自覚せざる妹への愛が眠っているに違いない。そう確信しているからだ。  
 しかし、その前に、やっておかねばならないことがある。  
「・・・・・・ねえ、お兄ちゃん」  
「ん?」  
「ほどいてあげるかわりに、一つだけ答えて」  
「なに?」  
「来年受かったら、あの人と二人で京都に行っちゃうって、本当?」  
「・・・・・・・・・誰からきいた?」  
「もちろんカノジョさんよ。お兄ちゃんのね」  
「・・・・・・・・・・・・・」  
「本当なのね?」  
「・・・・・・・・・いつかは話すつもりだったんだよ」  
「お兄ちゃんは、あたしと離れ離れになって、平気なの?」  
「貴美・・・・・・・」  
「お兄ちゃんは・・・・・あたしを、捨てるの?」  
「違う!それは・・・・・あがっ!!!」  
 
 その瞬間、妹は、兄の右手の親指をへし折っていた。  
 
「くすくす・・・・これでもう、お勉強は出来ない・・・よね?」  
 妹は、自分が折った親指を優しく握りながら、兄の肉体の一器官に視線を置く。激痛のあまり、睾丸より小さくなったペニス。  
「でも、まだまだよ。これからじっくり時間をかけて、お兄ちゃんに思い出してもらうんだから・・・・・・」  
「・・・思い出す・・・・!?」  
「うん。ほんとうのことをね」  
 兄には何のことだか見当もつかない。  
 妹は、兄の親指を弄びつつ、規則的な激痛を兄の肉体に送り込み、再び視線をペニスに戻す。  
 
・・・・・・・・・・・おいしそう。  
 
「痛い、痛いよ貴美!もっ、もうやめてよ!お願いだから、もう許してよ!!」  
「だめよ」  
「なっ、なんでだよっ!おれのこと好きなんだろう!?だったら、何でこんな酷いことするんだよ?!」  
「あたしは別に嘘はついてないわ。お兄ちゃんのことは大好きよ。・・・・・でもね、出来ることと出来ないことがあるの」  
「なっ・・・!?」  
「何だと思う・・・・?」  
   
 妹の唾液と兄自身の精液でべとべとの、根元に歯形までついたペニス。まずはぺロリと一舐め。美味しい。自分自身の衝動を抑えきれない。妹はたまらず、ペニスにむしゃぶりついた。  
「あああああああああ!!」  
 兄の悲鳴が部屋に響く。当然、聞き流す。  
 
「・・・・・・・・・・それはね、忍耐よ」  
 
 
 妹の舌が、まるでそれ自身の意思を持った別の生き物のようにうごめき、兄のペニスを舐りまわす。  
「ぐううううう・・・・・!!」  
「お兄ちゃん、痛い?それとも気持ちいい?」  
「き、気持ちいい・・・・・・」  
「そう・・・きもちいいの・・・・」  
 その瞬間、骨折した兄の親指を妹が無造作にひねった。  
「いぎぃいいいい!!!」  
「どう?まだ気持ちいい?」  
「・・・・・い・・いだい・・・です・・」  
「そう、痛いの」  
 妹の舌が再びペニスに絡みつく。それと同時に、親指がまたひねられる。快感と苦痛が同時に兄の脳を襲う。  
「!!」  
 もう声も出ない。身体をよじって逃げようとすると首が絞まる。  
・・・・・・・ころ・・される? おれは・・・たかみに・・・ころされる・・・・・・!?  
 朦朧とした意識の中、目をやると、自分のペニスを一心不乱にねぶりまわす妹が見える。  
 フェラチオ。実際には初めての経験であっても、AV等で見慣れた構図。兄はオナニーの際のフィニッシュは、インサートよりもフェラを選ぶ場合が多かった。  
・・・・・・・・・たかみ・・・・なんて・・・いやらしい・・・。  
 妹は親指から手を離し、サオをしごき、睾丸を優しくもみほぐしながら舌を使う。  
 兄の股間に順調に射精感が高ぶってくる。窒息感とあいまって、妹の姿は、ひどく非現実的なものに見えた。  
「・・・ああ・・・だめだ・・・たかみ・・・・もう・・・・・・!!」  
 その瞬間、妹の前歯がペニスを噛みしめ、右手が睾丸を握り締め、左手が親指をひねった。  
「!!!!!!!!!!」  
 三種類の異なる激痛に襲われ、兄は再び声にならない絶叫を上げる。  
「くすくす・・・・いかせてもらえると思った・・・・・?」  
 兄にはもはや、言葉を返すだけの余力はない。  
「・・・・・でも、まだよ。まだだめ。・・・・・これからもっともっと、お兄ちゃんの身体で遊ぶんだから・・・・・」  
   
「・・・ぁっ・・あそぶって・・・・おまえ・・・?」  
「うん、お兄ちゃんには、たぁっぷり痛い思いと、気持ちいい思いをしてもらうの。・・・・・・これからずーっとね」  
「い・・・いやだ・・・いたいのはもう・・・・いや・・・だよ・・・」  
「だめよ。あたしもう我慢するのはやめたの。だから、お兄ちゃんに好きなことをするの。」  
「・・・・たか・・・・み・・・・」  
「だから、絶対にイカせてなんてあげない。分かるでしょう?」  
「・・・・・・・・うん」  
 分かるわけなどない。妹の言ってることは、文字どうり支離滅裂だ。だが、そう考える理性は、もはや兄の頭には残っていなかった。彼は思わずうなずいた。  
 苦痛と恐怖と快感と興奮、それらがないまぜになった、形容しがたい表情を浮かべる兄。それを見つめる至福の表情の妹。  
 精神的には、ほぼ破壊衝動にまで練り上げられた愛情が。そして肉体的には、これまでの男性経験では味わえなかったほどの興奮が、等しく妹を包んでいた。  
「・・・・・・お兄ちゃんはね、あたしのものなの。あたしだけのおもちゃなの。これはもう、ずっとずっと昔から決まっていたことなの。分かる?」  
「・・・・たかみ・・・・・?」  
「・・・・・・そう、そうなの。きっと、あたしたちが生まれる前から決まっていた約束事なの。でも、お互い思い出せなかっただけなの。そうなのよ・・・・・!」  
 妹は、あたかも自分に言い聞かせるかのようにつぶやくと、硬度を失いつつあった兄のペニスを、またしごきはじめた。  
 
「でも安心して、あたしはもう思い出したから・・・・・」  
 兄は再び勃起した。  
 ペニスへの刺激以上に、これまで以上に淫蕩な目をする妹の妖気に、兄の肉体は耐え切れなかった。  
 そして妹は、そのペニスを騎乗位の形で、自身のヴァギナにインサートしようとする。まるであらかじめ決められた行動をとるように迷いが無かった。その瞬間、わずかに残った兄の理性が覚醒する。  
「だっ、だめだっ、たかみ!それだけはっ!!」  
 その瞬間、妹の手が兄の口をふさぐ。  
「だから今度はお兄ちゃんの番なの・・・・!」  
 兄の先端をあてがう。  
 徐々に、徐々に、体重をかけていく。   
 残り半分。  
 一気に体重をかけ、最後までくわえ込む。  
「はううううっ!!」  
 その瞬間に、妹の全身を電流のような絶頂感が包み込む。  
「ひっ・・・ひぐう・・・はっ・・・おっ・・・!!!!」  
 快感のあまり声すら立てられない。   
 妹が意識を取り戻したのは、さらにそれから数秒後のことだった。  
 この相性のよさは、ただごとではない。  
 とは妹は思わなかった。なぜなら、互いに選び選ばれ、約束されてきた二人には、身体の相性など当たり前のことだったからだ。  
 
「たかみ・・・大丈夫か・・・?」  
 妹のあまりの反応の激しさに、兄はむしろ理性を取り戻したらしい。心配そうな目で妹を覗き込んでくる。こんな状況でなお、相手を心配する兄の優しさに、妹は快感とは別の、心が疼くような暖かさと嬉しさを感じる。  
「大丈夫・・・・お兄ちゃんのが気持ちよすぎて・・・・大丈夫だから・・・・」  
 そのまま妹は身体を倒し、兄の唇を奪う。情熱的に。むさぼるように。  
 やがて妹の唇は、兄のうなじへ、さらに肩、胸、乳首へと這い回る。  
「ああっ!!ぁあああああぁぁぁぁ!!!!」  
「どう、気持ちいい?」  
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」  
「じゃあ、もっとよくしてあげる・・・・・!」  
 妹が腰をゆっくりと動かし始めた。  
「ひぃっ!!ひぃぃぃぃぃぃ!!!」  
   
 妹は満足していた。  
 いま、兄の身体を支配しているのは、兄自身の意識ではなく、100%自分が与える快感なのだ。  
 でも油断は出来ない。うっかり我を忘れてペースを上げたりしたら、たちまちのうちに自分自身が先にイってしまうからだ。  
「お兄ちゃん、イキそうになったら、ちゃんとイクっていうのよ」  
 その言葉がどれだけ正確に兄に届いたのかは疑わしい。そのため、もう一つ予防線を張っておく。  
「あたし今日、危ない日なんだからね・・・・」  
 兄の紅潮した顔色が、まるで信号のように真っ青になる。  
「・・・・・うそだろ・・・たかみ・・・・!!」  
「本当よ。だから、絶対に中で出しちゃだめ。分かった?」  
 妹は再び腰を使い始める。  
 一度冷や水を浴びせておいて、再び快感の渦の中に放り出す。効果は予想以上だった。妹がイカせまいとする以上に、兄自身がイってはならないと思う。その思いこそが相乗効果として兄の快感を増幅させる。  
・・・・・・・そう、我慢しなくていいのはあたしだけなの。お兄ちゃんは我慢しなくちゃいけないの・・・・くすくす・・・。  
 そう思うことで優越感を得たからか、妹は今まで以上に余裕を持って動くことが出来た。  
「だっ!だめだ!・・・・・やめて・・・たかみ・・・もう・・・もう!」  
「いきそうなの?ねぇ、いきそうなの!?」  
「いっ!・・・・・いぐう・・・・やばい!・・・やばいよっ・・・!!!」  
「お兄ちゃん! お兄ちゃん大好きっ!!」  
 その瞬間、兄は両脇に焼けつくような激痛を覚えた。  
 
「ああああああああああ!!!」  
「ああああああああああ!!!」  
 
 射精への高揚感は瞬時にして消えうせ、のけぞるような感覚の中、妹だけが半立ちになったペニスの上で絶頂を迎え、世にもいやらしい顔をしているのが、兄の目に映った。  
 
 そのとき、妹が両脇の毛を力任せに引きむしったということも、兄には分からない。  
 分かるのは、指を折られた時とはまた違う激痛が、不意に自分の肉体を襲ったのだということだけ。  
 しかし、いかなる激痛でも、それが瞬間的なものであり、また、ペニスに絶え間なく与えられる圧倒的な快感がある以上、突然萎えてしまうということはない。兄は今日まで童貞であり、性欲旺盛な十代の少年だった。  
「ぁぁぁあああ・・・・お兄ちゃんスゴイ!・・・お兄ちゃんスゴイよおお!!」  
 妹が自分の腰の上で跳ね回り、よがりまくっている。立て続けに達しているようだ。  
 
・・・・・・・・ずるいよ・・・・ずるいよたかみ・・・・じぶん・・・ばっかり・・・・。  
 
 妹はさらに腰を動かす。兄の射精さえ気をつければ、自分の快楽追及に手を抜くつもりは全く無い。今の自分は苦痛と快楽の支配者なのだ。  
 そして、その快感は再び兄の肉体を侵食し始める。絶え間なく与えられる苦痛と快楽のハーモニーに、兄の脳はもうパンク寸前だった。  
 
・・・・・ねえ、おにいちゃん・・・? なんで、こんな痛い思いしなくちゃならないか・・・・分かってる・・・・?  
・・・・・分からないよ・・・・もうなにも・・・・・わからない・・・・・・かんがえられない・・・よ・・・・。  
・・・・・そう、まだ分からないの・・・・。じゃあ、しょうがないわね・・・まだ、ゆるしてあげられないわ・・・・・。  
・・・・・おしえてよ・・・!! どうすればいいの・・! どうすればゆるしてくれるの・・・・!!?  
・・・・・さっき言ったでしょう・・・? 思い出すの・・・・。  
・・・・・思い・・・出す・・・・・?  
・・・・・そう、お兄ちゃんは、あたしのおもちゃなの。これまでも、これからも、えいえんにあたしのとりこなの・・・・。おもいだした・・・・?  
 
「・・・・・おれは・・・・たかみの・・・・おもちゃ・・・・・?」  
「そう・・・。あたしの、あたしだけの、おもちゃなの。・・・永遠に結ばれた二人なの・・・・」  
「おれは・・・・貴美の・・・永遠の・・・おもちゃ・・・」  
「そう、そうよ!もう一回言って!」   
「おれは、貴美の、永遠の、おもちゃ」  
「もう一回!」  
「おれは貴美の、永遠のおもちゃ」  
「聞こえない!!」  
「おれは貴美の、永遠のおもちゃ!」  
「ああっ!! そうよっ!そうよっ!お兄ちゃん!!!」  
 その瞬間、妹はさらなる絶頂を迎えていた。今までの数倍のエクスタシーが、彼女の脳を焼き尽くしていた。  
 妹は、意識を失った。  
 
 
 妹は夢を見ていた。  
 二人がまだ幼かったあの頃。  
 団地の中庭でうるさく鳴くアブラゼミ。  
 妹に捕まえてくれとせがまれて、木に登る兄。  
 その背中、そのお尻を見上げるうちに、かつて経験したことの無い、むらむらとした感情が、幼い妹を包んだ。  
 
「でっかいあぶらぜみ、みーっけ!!」  
 
 虫取り網を逆に持ち、兄の背中といわず尻といわず叩きまくり、突付きまくる。  
「なっ!なんだよ!?なにすんだよ、たかみっ!?」  
「せみがしゃべっちゃだめでしょう! ほんっと、のりがわるいなあ、もう!!」  
「のっ、のりって!? いたい!いたいいたい!!やめてよたかみっ!いたいよっ!!」  
「だーかーらー、せみがしゃべっちゃだめでしょう! はやくなきなさいっ!」  
「なくって!?・・・いたい!いたいいたい!」  
「はーやーくー!!」  
 虫取り網の竹が、半ズボンからのぞく兄の生足を一撃する。  
「ひぃっ!!」  
 この一撃で、兄は抵抗の気力を失ったようだった。  
「・・・・・・みーん、みーん、みーん・・・」  
「きこえないっ!!」  
「みっ!みーんみーんみーんみーん!!」  
「きゃはっ!きゃはははは!!きゃははははは!!!おもしろーい!!」  
 妹は腹を抱えて笑いながら、なおも攻撃の手を緩める様子はない。  
「みーんみーん・・・・いたっ!いたいよ、たかみっ!!もうゆるしてよっ!!」  
「だから、しゃべっちゃだめだっていってるでしょう!!」  
 
・・・・・・・・・じょじょ、じょじょじょじょ・・・・・・。  
 見ると、兄の下半身から、猛烈な勢いで水が滴っている。恐怖と痛みと混乱で、兄は失禁していた。  
「きゃははははは!!!せみがおしっこもらしちゃった!!」  
 その時だった。必死で木にしがみついていた兄の足が、彼自身の尿でつるりとすべった。  
 兄は木から落ちた。  
 
 妹は目を開けた。  
 焦点の合わない目をうっすらと開け、息も絶え絶えの兄。  
 周囲に目をやる。  
 相変わらず狭苦しい、暑苦しい兄妹部屋。あの頃から変わらない二人だけの空間。  
 少し身体を動かしてみる。  
「ぐううっ」  
 兄がわずかに反応し、くぐもった声を上げる。妹の内部に収納されたペニスは、まだ硬度を失っていないようだ。妹は安心する。  
 夢の内容を反芻する。  
 
 地面に叩きつけられた兄は、近所の人たちに発見され、両親に通報され、病院に担ぎ込まれるまで、意識を取り戻さなかった。  
 そして妹は、兄が目を開けるまで、いや、開けてからも泣き止むことは無かった。  
 
「・・・・えっぐ・・・ひっぐ・・ごめんね・・・おにいちゃん・・・・ごめんね・・・・」  
「・・・・もう、いいよ、たかみ。おにいちゃん、もう、おこってないから・・・」  
「・・・・ほんとう・・・?ほんとにおにいちゃん・・・・・おこってない・・・・?」  
「・・・・おこってないよ。だから、もうなかないで・・・」  
 
 兄は許してくれた。あのときの嬉しさは今でも覚えている。でも、忘れていたことがあった。そして思い出したことがあった。それはあのときの、兄に対するあの感情。独占欲と破壊衝動がないまぜになった、サディスティックな、黒い欲望・・・・・。  
 そしていま、兄は自分の眼前に無防備な裸体をさらし、横たわっている。  
 そう、もう許してもらう必要などない。なぜなら、兄に許しを乞う妹は、もはやここにはいないのだから。ここにいる自分は、兄に許しを与える支配者であり、所有者なのだから。  
 
「・・・・・お兄ちゃん・・・起きて・・・。まだまだ・・・・これからなんだから・・・・」  
 
 妹は、再び腰を動かし始めた。  
 
 
 

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