あの夜、具体的にはあたしがお兄ちゃんのバージンをもらった夜から、さらに数日たった。  
 あたしとお兄ちゃんの関係は、また新たな変化があった。  
 
 まず、お兄ちゃんの、あたしを見る目が変わった。  
 あたしの前では、相変わらずの恥かしがり屋の泣き虫さん  
 でもその目からは、あの例の怯えるような光が消え、その代わりに、照れたような、はにかむような、そんな笑顔を見せてくれることが増えた。  
 
 お兄ちゃんは、あたしに心を開いてくれてる・・・・・・。  
 
 そう思ったら、お兄ちゃんに我慢を強制することが、急に怖くなった。  
 大好きなお兄ちゃんのあの笑顔が、以前の、あたしへの暗い怯えを含んだあの表情に戻ってしまったら・・・・・・。  
 考えたくもなかった。  
 だからあたしは、お兄ちゃんをイカせて上げるようになった。  
 口でも手でもアソコでも、そしてお兄ちゃん自身のアナルでも。  
 でも逆に、それはそれで、前以上にお兄ちゃんはへとへとになっちゃっている。まあ、当たり前よね。一日最低5・6回はしぼってるんだから。  
 口で出されたときの味も、中で出されたときの感覚も、あたしはすぐにやみつきになった。  
 なんでもっと早く、こうしてあげなかったんだろう?  
 普通にそう思うぐらい、お兄ちゃんのザーメンはおいしかったし、体内の深い深いところに熱い粘液をぶち込まれる感覚は、今までの、上から見下ろす征服感とはまた違う、女の歓びというものを心底から実感できた。   
 お兄ちゃんのアナルの感度は日に日によくなり、昨日なんか、指を入れただけでいきなりイってしまった。  
 だから、いまあたしが、お兄ちゃんに強制しているのは、安全日にゴムを外すことだけ。  
 本当は、毎日でも中で出して欲しい。例え、妊娠してもかまわない。お兄ちゃんの子供なら、むしろ産みたいくらいだ。でも、お兄ちゃんを困らせたくない。だから、あたしは我慢している。  
(我慢?このあたしが!?)  
 今までのあたしだったら、想像もつかない。でも全然不快じゃない。お兄ちゃんのために。そう思った瞬間、すべてがあたしのなかで正当化される。  
 この日々が永久に続きますように。あたしは祈らずにはいられない。  
 あたしは幸せだった。でも、この幸せが、文字通り紙一重、糸一本で支えられた危ういバランスで成立していることを、やっぱりあたしは理解していなかった。  
 
 
 その日の朝、食卓に着くと、めずらしく父さんがいた。  
 マイカー出勤のため、いつも渋滞を避けようと早目に家を出るはずなのに。あたしはイヤな予感がした。  
「お前らに話がある。とても重大な話だ」  
 
「あなた・・・・・その・・・・」  
 母さんが何か言おうとするけど、それを父さんは目線で制する。  
「単刀直入に訊く。陽一、貴美、お前らの間に肉体関係はあるか?」  
 
 空気が固定化した。  
 氷のように冷たくとがった酸素が、あたしの全身を貫いているのが分かる。  
 ばれた。それも、よりにもよって親に。  
 父さんから目がそらせない。  
 全身が震えている。手も、足も、心までも。  
 あたしは全身の力を振り絞って、目線をお兄ちゃんに移す。おそるおそる。  
 お兄ちゃんは、震えどころか、眉一筋も動かしていなかった。  
「・・・・・・はい。父さんの言う通りです」  
 
 母さんが、すごい顔でこっちを見ているのが分かる。  
 父さんも、すごい顔でこっちを見ている。いや、にらみつけている。  
 両親が、特に父さんが、そんな目であたしたちを見るなんて初めてだ。  
 あの無口で、地味で、見るからに温厚篤実な風貌をもつ、あの父さんまでが。  
 
「お前たちは、血のつながった実の兄妹だ。それは分かっているな?」  
「はい」  
「分かった上で関係を結んだのか?」  
「はい」  
「・・・・・・・・では、出て行け」  
「あなた・・・・・!?」  
「はい」  
「おっ、おにいちゃん!?」  
 
「あっ、あなたっ!そんな・・・一方的な・・・・・・陽一の言い分も少しは・・・・・」  
「実の妹に手を出すような男を、うちに置いておくわけにはいかん。例えそれが、実の息子でもだ」  
「はい」  
「南部の叔母さんのところに話をつけておく。あそこからなら、ギリギリ今の学校にも通えるはずだ」  
「はい」  
「ちょっと待ってよ父さん!! 違うの!お兄ちゃんじゃないの!誘ったのは、あたしなの!!だから・・・・」  
「違うよ、貴美」  
 お兄ちゃんが椅子から立ち上がる。  
「そいうことじゃないよ。父さんが言いたいのは、そういうことじゃない。そうだろ?父さん」  
 お兄ちゃんと父さんが見つめあう。  
「・・・・・・・進学の反対はせん。だが、受験は地方に限らせてもらう。こっちの大学を受けることは許さん」  
「そんな・・・・・ムチャクチャじゃない! なんで父さんにそんなこと言う権利があるのよ!!」  
「学費を出すのはわたしだ」  
「でも・・・・・そんな・・・・・・!」  
「陽一、今日一日時間をやる。荷物をまとめろ」  
「今日は学校を休んでいい、と?」  
「ああ」  
 父さんはそういい捨てると上着を着込み、出て行った。  
 
 あたしはもうパニックになっていた。  
 父さんがお兄ちゃんを追い出すと言い、お兄ちゃんはそれに、はいと答えた。  
 まるで悪い夢でも見ているようだった。  
 
「・・・・・・母さん!母さんも何とか言って!こんなのって!こんなのってないよ!!」  
「貴美・・・母さん、お前の言いたいことも分かるわ。でも、父さんの言うことだって・・・」  
「父さんの言うことなんて関係ないわ!! あんな一方的な言い方で、あたしたちたちをどうかしようなんて、そんなの・・・許されるわけないわ!!」  
「いい加減にしなさい貴美!あなた、自分が一体何をしたのか分かってるの!?」  
「あたしとお兄ちゃんは愛し合ってるの!それの何がいけないの!!」  
「そんな言葉が世間で通るわけないでしょう!!」  
「だったら、世間が間違ってるのよ!!」  
「やめろ貴美」  
「だって、お兄ちゃん!!」  
 
 お兄ちゃんは椅子に座りなおし、冷めたトーストにハムエッグを乗せると食べ始めた。まるで、いつもの朝のように。  
 あたしと母さんは、お兄ちゃんのそのあまりの冷静さに、毒気を抜かれたように何も言えなかった。  
「おれたちがやったのは近親相姦だ。百人いれば百人が後ろ指を差す。それは事実だ。いいも悪いも、間違ってるとかいないとか、そんなことは問題じゃない」  
「・・・・・お兄ちゃん・・・・・それじゃあ・・・・・・」  
「おれたちは白い目で見られ、陰口をたたかれ、これまでの人間関係もおかしくなるだろう。多分、、一人残らずな」  
「・・・・いいって言うの・・・・・あたしと・・・・離れ離れになっちゃうんだよ・・・・?」  
「おれはいい。お前がおれの尻をなでるたびに、おれはその覚悟をしてきたつもりだ。だから、おれは気にしない。何を言われようとな」  
「あたしだって気にしないわよ!!」  
「おれが気にするのは、お前が白い目で見られて、陰口を叩かれることだ!! 鬼畜な兄貴と一緒になってよがってた妹だと、そういう目で見られるってことだ!!」  
 
「・・・・・・・・ずるいよ。そんなこと言われたら・・・・何も・・・・・言えなくなっちゃうじゃない・・・・・」  
「貴美・・・・・どうしようもないことってのが・・・・あるんだよ。世間にはね・・・・・」  
「じゃあ、あきらめるしかないって言うの・・・・・あたしたち・・・・・?」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「ねえ・・・・ねえ・・・・何とか言ってよ・・・・・・お兄ちゃん・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・・」  
「おにい・・・ちゃん・・・・・・!」  
 
 お兄ちゃんは泣いていた。  
 無言で、トーストを持った手を震わせながら、声も立てずに泣いていた。  
 あたしは・・・・・・・世界が暗闇に包まれていくのを感じた。  
    
 あたしが部屋に入ると、お兄ちゃんが独りで荷物をまとめていた。  
 あたしに一言も口を利かず、それでいて見てるこっちがすがすがしいくらい手際がよかった。  
 いつもそうだった。  
 一緒にいるあたしがパニックになればなるほど、お兄ちゃんは冷静になる。  
 年に数えるぐらいしか見れないけど、あたしが最初に好きになった、頼り甲斐のある『兄』の顔。  
 でも、このときほど、その顔が恨めしく思ったことはなかった。  
「お兄ちゃん・・・・・・」  
 当然返事は返ってこない。  
「あたし、あきらめないからね・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・・」  
「絶対あたし、あきらめないからね・・・・・・・・」  
「・・・・・・・・・・いいのか?」  
 お兄ちゃんが、初めてこっちに目を向けた。  
「・・・・・・・・・本当にいいんだな?」  
 お兄ちゃんの顔は、かすかにだけど、あの例のはにかむような笑みを浮かべていた。  
「・・・・・・・お・・・にい・・・ちゃん・・・?」  
「ドアを閉めろ」  
「・・・・・・・うん!」  
   
「とりあえず、お前は高校を卒業しろ。いますぐおれにくっついて家出なんてマネはしちゃだめだ。それで、おれが大学に入ったら、そこからプランを練ろう」  
「プランって?」  
「決まってるだろ。密会の段取りだよ」  
「お兄ちゃん・・・・・・・・・」  
「お前が進学するにしろ、しないにせよ、いずれお前を迎えに行く。絶対にな」  
「・・・・・・・・信じていいのね?」  
「当たり前だ」  
「だったら・・・・何で父さんに、あんな・・・・・はいはいはいはいって・・・・?」  
「オヤジの言うことは正論だよ。常識そのものだ。それにオヤジは怒ってた。怒れる常識に反論することほどバカげたことはないだろう?」  
「だったら、何で・・・・?」  
「お前が言った通りだよ。常識そのものがバカげてるからさ」  
「じゃあ、お兄ちゃん、最初からそのつもりで・・・・・?」  
 お兄ちゃんは、さすがにその質問には、にやりと笑って答えてくれなかった。  
 
 
 
「どう、気持ちいい!?気持ちいいの、お兄ちゃん!?」  
「はぁっ、はい・・・・ひもち・・・・いい・・・・れすぅっ・・・・!!」  
 
 あれから、さらに三年がたった。  
 あたしはいま、お兄ちゃんのお尻を掘っている。  
 ここはアパート。お兄ちゃんの京都での下宿先。ここにいま、あたしがいることを両親は知らない。  
 
 最初の一年、あたしは泣いて暮らした。  
 お兄ちゃんはああ言ってくれたけど、それでもあたしは寂しくて、何度も何度も泣いた。  
 両親とは口も利かなかった。あたしからお兄ちゃんを奪った親たちを、あたしは許す気にはならなかった。  
 お兄ちゃんとは毎日電話で話したけれど、話せば話すほどに、身体がお兄ちゃんを思い出して、気が狂いそうだった。  
 
 次の一年で、ようやくあたしは、お母さんと話せるようになった。  
 可能な限り、親と和解しなければならない。あたしが家を出ないと、お兄ちゃんと自由に密会なんて無理だからだ。  
 そのためには受験という機会を最大限に利用するしかない。  
 あたしは両親の信用を取り戻すため、そして、お兄ちゃんと会うために、あたしは勉強に励んだ。  
 そしてあたしは、東北の某四年制大学に合格し、父さんと大口論のすえ、そこに進学した。  
   
 そしてあたしたちは、お互いの休みを利用すると、逢瀬をかさねた。  
 
 お兄ちゃんはいま七回目の射精でへとへとになって、あたしの隣で泣きながら眠っている。  
 もう、これからあたしたちがどうなるのか分からない。でも、あたしはもう、お兄ちゃんを手放す気はない。  
 寝息を立てるお兄ちゃんのホッぺに、優しいキスをする。  
 あたしは明日には自分の部屋に帰らなければならない。次に会えるのは、後一ヵ月後だ。それまで我慢出来るだろうか?  
 あたしはもう一度お兄ちゃんを起こすため、そのペニスに舌を使い始めた。  
   
 (終)  
 
 
 
 
 
 

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