彼女が兄の下宿に着いたのは、夜も11時を回る頃だった。  
田舎の高校に通う受験生の彼女は、東京の予備校で二週間の間夏期講習を受けるために、  
この春大学へ進学して上京した兄の部屋に泊めてもらうことになったのだった。  
部屋の中は質素に片付いて、彼女の部屋の散らばり様とは全く違う。  
「荷物はその辺に置いて。風呂は家で入ってきたんでしょ?」  
「うん、入ってきたよ」  
優しく不器用な兄は、荷物を運ぶのを手伝ってくれる。彼女はそれが何だか嬉しい。  
部屋の隅に荷物をまとめて一息ついていると、兄から麦茶の入ったコップを手渡された。  
避暑地から来た彼女に東京の夏は暑く、夜でも汗ばんでくる。  
冷えた麦茶はとても美味しかった。  
次の日から講習が始まるからと、二人は早々と布団を敷いて寝てしまった。  
 
 翌朝。  
「あ、ほら、あれだよあれ。見える?」  
「あの白い建物?」  
「そうそう」  
予備校の校舎までの道を知らない彼女を、兄が案内してくれた。  
電車も乗り換えはなく、駅からも一本道。迷うことはなさそう、と彼女は少しほっとする。  
そして気を抜くと離されてしまう兄の背中を見上げた。彼女はあまり焦ったりしない上、  
元々の歩幅が全然違うのだ。かなり小柄な彼女に対し兄は上背も平均を上回っており、  
体つきもかなりがっちりしている。  
逆じゃなくて良かったよね、と思う。これで兄が女の子だったら、かなり不幸だ。  
少し遅れるたびに小走りに後を追って、彼女はちょこちょこと兄の背中を追っていった。  
「ここだよ。後は大丈夫でしょ?」  
あっという間に着いた校舎の入り口を指し、兄はすぐに立ち去ろうとする。  
それも当然か――実は彼も他の予備校で授業を受けていて忙しい。大学を受けなおすとか。  
「うん、ありがとう」  
微かな汗のにおいを残して、彼は立ち去る。  
その後姿を見送って、彼女はとても心細くなったけれど。  
「……―――よしっ」  
右手をぎゅっと握って気合を入れ、彼女の講習初日は始まった。  
 
 
 そしてその次の日。  
体に纏わりつく汗の不快さに、彼女は日も昇りきらないうちに目を覚ました。  
ぼんやりした頭を振って考える。  
……そうだ、昨日は疲れててお風呂に入らなかったんだ。シャワーでも浴びよう。  
まだ眠っている兄を起こさないように、そっと動き、静かに服を脱いで浴室に入った。  
(えーっと、確かこの蛇口をひねって…?)  
慣れない手つきで湯の温度を調節する。勝手が違うためか、やたらと時間がかかった。  
(これで、これを左に回すとシャワーになるんだよね)  
彼女が手を伸ばした、そのとき。  
  ガチャッ  
突然に、浴室の扉が開いた。  
「―――ッ!?」  
「わぁぁあっ!!?」  
彼女よりも、開けてしまった兄の方が驚いたらしい。その声に、更に彼女も驚いた。  
「ご、ごめん!」  
彼が慌てて扉を閉める。そのとき初めて、彼女は足元にロックがあるのに気づいた。  
ドキドキと、暴れる胸元を押さえる。カギをかけなかった私が悪いのかな……?  
「お前が来てたこと忘れてて、蛇口閉め忘れて寝ちゃったかと――」  
「ううん、こっちこそごめん」  
答えて、シャワーの栓をひねった。ぬるま湯の飛沫が心地よい。  
(いや、あのね――…そこまで驚かなくても、いいんじゃない?)  
まるで巨大ゴキブリでも見たかのような反応。彼女は少し複雑な心境になる。  
一つ違いにしては仲の良い兄妹だと思うけど――妹って、どういう存在なんだろう?  
 顔を洗って目も覚め、汗もしっかり流してから彼女は浴室を出た。兄の背中が見える。  
(……着替えを見ないように気を遣ってくれるのはいいけど、そっぽ向かなくても…)  
彼があんまり気まずそうにするので、彼女もなんだか気まずくなってしまう。  
結局その朝は妙な雰囲気のまま、彼女は予備校に向かった。  
 
 
帰宅して次の日の予習をしていると、夜になって兄が帰ってきた。  
「ただいまー…あれ、勉強してるじゃん」  
「そりゃぁ、曲がりなりにも勉強しに来てるんだから」  
軽口を叩く。朝の変な空気はどこへやら……時間というものは偉大なものだ。  
鞄を肩から下ろして、兄は何か楽しそうにニコニコしている。  
「俺おいしい店知ってるんだけど、夕飯食べに行かない?」  
「いいよー。ちょっと待って、この問題解けたらね」  
あと一問で、数学はカタがつきそうだった。彼女が唸っている後ろで兄は外出に備える。  
結局その問題は解けないまま、二人はお店に向かったのだった。  
 
「からあげ定食一つ」  
「えーと、じゃあ私、野菜炒めの単品お願いします」  
注文を受けて奥へと向かう店員の後姿を、彼女はぼんやりと眺めて思った。  
(きっと私たち、カップルに見えるんだろうな……全然似てないし。)  
そう、二人は余り似ていない。顔立ちが相当に違っているという訳でもないのだけれど、  
まず体つき、そして受ける印象が全く違うのだ。  
この印象を生み出す性格の差異は、幼い頃には決定的な溝をも生んでいたのだが。  
「夏期講習は、どう?」  
グラスの水を一口飲んで、兄が問いかけた。  
「うん、楽しいよ。……学校の授業とは全然レベルが違って」  
そう答える彼女の表情は、あまり明るくはない。  
彼女は昔から勉強が得意で――そう、兄よりも優秀だった。  
こんなヘラヘラした人間が成績優秀とかいったら、腹も立つよね…と彼女は思い返す。  
幼い頃は内心兄からの敵意に怯えていた。できないふり、という発想は彼女になかったし、  
そんなことはしなくて良かったと今も思うけれど。  
彼女の気持ちも知らず、兄の方は呑気に水をがぶがぶ飲みながら、こう言った。  
「帰ったら、数学教えてくれない?わかんない問題があって」  
今ではそんなことを頼んでくる兄の顔を見て、彼女は複雑な心境でため息をつく。  
(妹に、勉強教わる兄かー…まあ仲が良いのは、いいことだよね。)  
「うん、いいよ。私も解けないかもしれないけど」  
 
やがて注文した料理が出てきた。割り箸を上手く割れない彼女を、兄は笑う。  
野菜炒めをほおばりながらも、彼女の表情はいまいち晴れなかった。  
今でも、兄の嫌悪が完全に消えた訳ではない、と彼女は思う。特に性格に関しては。  
埋めようとしても、埋まらない溝はある。当然のこと。それが悲しかった。  
 
 
短い間の東京暮らしは、彼女にとっては予想外に楽しいものだった。  
満員電車にも多少慣れたし、夜でも街は明るい。  
一日だけの休日には、兄と二人で池袋に遊びに行ったりもした。  
そこで手に入れた大量のぬいぐるみが、彼女の荷物の周りに転がっている。  
 
そんな生活も、やがて終わりに近づいてきた。  
今日も彼女は朝早くに目を覚まし、こっそり洗面台に歯を磨きにいく。  
大の字になって寝こけている兄の横を抜けようとして、彼女はあることに気づいた。  
(ぇ――……これって…)  
つい、マジマジと見てしまう。  
男性の、朝の生理作用。兄のソレは大きく膨張して、ややぴったりとしたパンツに、その  
おおよその形がくっきりと表れてしまっていた。  
(本当に、……こんな風になるんだ…)  
ぐっすりと眠っているのに。それが逆に淫靡に感じられて、彼女はしばらく動けない。  
中学生のころ、脱衣所の事故でチラッと見てしまったことはあったけど、  
(……こんなに、大きかったっけ――?)  
「んんー……」  
彼がもずもずと寝返りを打って、彼女は我に返った。  
「そうだ、歯…磨かなきゃ」  
 
シャコシャコという音を耳の裏に聞きながら、彼女はいつまでも歯を磨いていた。  
(そうだよねぇ……お兄ちゃんも、男の人なんだもんね……)  
異性として意識しないからこんな風に気軽に泊まったりできるのも、確かにそうだけど、  
でも、全く異性であることを意識していないという訳ではない。  
ただでさえ、微妙な年頃なのだから。  
(お兄ちゃんも、私が女だって意識すること、全くないのかな……?)  
ないかもしれない。でも、あってもおかしくないとも思う。  
胸の奥が何だかざわついて、彼女は複雑な思いに囚われていた。  
その後、彼の脇を通るたびにそこに目が行ってしまい、彼女はなんだか気恥ずかしくて、  
結局彼を起こすことができないまま予備校へと出発したのだった。  
 
 
「…ただいまー…」  
「おかえり!」  
元気な声に迎えられた彼女は、なんだか疲れていた。  
外はもう真っ暗、これだけの時間を予備校で勉強漬けというのは、さすがにしんどい。  
「コンビニ弁当買ってあるよ。食べない?」  
兄がごそごそとセブ○イレ○ンの袋から弁当を取り出している。  
「……うん、食べよっか」  
 
電子レンジで暖めて、ちゃぶ台を挟んで黙々と食べる二人。  
ご飯粒一つ残さず食べて容器を捨ててから、彼女は明日…最終日の予習を始める。  
兄はもう勉強は終えたのか、パソコンの電源を入れてカタカタといじりだした。  
……数式に没頭しようとしても、彼女は頭の中から、朝の光景を拭いきれない。  
忘れようとすればするほど、色濃く思い起こされる――兄の股間の、アレ。  
何度もかぶりを振って数列の極限の問題に向かい、集中しようとして、  
ついに彼女はシャープペンシルを放り出した。  
「――ちょっと、トイレ行ってくる」  
 
「ふぅ……」  
トイレのドアの内側で、彼女は小さくため息をついた。  
認めたくはない、ないけれど、体がうずうずと何かを求めている。  
(…最近、してなかったから…)  
ショーツを引きおろし、便座に腰掛ける。このトイレは贅沢にもウォシュレット付きだ。  
「ビデ」のボタンを押し、水流が陰部に当たるのを感じてから少し経った後、  
彼女はそれが最も敏感な部分に当たるように、もぞもぞと体をずらした。  
「―――…ぁっ……」  
声をかみ殺す。外に聞こえたらマズい。  
やわらかい水しぶきの刺激と赤黒い背徳感が、背筋を甘く駆け抜ける。  
(き、きもちいい……)  
お兄ちゃんは、少しも私を意識したことは無いの?…気恥ずかしく思う程度にも?  
男であることを主張するアレは――、彼も、一人で慰めたりしていたのだろうか?  
その様子を思い描くと、彼女はよりいっそう自分の性感が高ぶるのを感じた。  
水流を受けている陰核は、徐々に大きくなって皮から頭を覗かせはじめる。  
欲しい、アレが欲しい……叶わないその想いを、彼女は自らの指で埋めようとする。  
 
横から手を入れて膣口に指を二本、ぐっと押し当てる。  
早く、とそれをねだるように、ヴァギナがひくひくと震えた。  
「……ん――っ……」  
一気に挿入すると、それだけで脳内が真っ白に弾けるような快感が訪れた。  
(んあ……も、もう――)  
限界は近い。稚拙な指の動きがもどかしく、彼女は悩ましげに腰を左右にゆすった。  
耐えがたいほどのムズムズとした感覚が過ぎ、彼女は絶頂に達した。  
「――ッ!!!」  
ビクビクと全身が痙攣する。  
膣が貪欲に指をくわえ込んで収縮し、愛液を大量に放出する。  
はぁはぁと荒い息をつく彼女は、やっぱり満たされなかった。  
 
 
「明日、授業が終わったら帰るんだよね?」  
心なしか寂しそうに、兄は彼女に尋ねる。  
電気は消され、彼女はこうして彼と二人で雑魚寝するのも最後だ、と実感した。  
「うん、明日帰るよ。…一回ここに戻るけど、お兄ちゃんとは一緒にならないね」  
「そうだね。じゃあ、明日の朝でお別れかあ」  
うーん、と彼が伸びをする。  
こうして毎晩彼の愚痴を聞いたり、思想を聞いたり、愚痴を聞いたり…  
結局毎晩遅くまで話をして、寝不足で集中できない授業も多かった。  
「……楽しかったなぁ」  
なんとなく、そんな言葉が口をついて出てきた。  
「また、来ればいいよ」  
簡単に言うけれど、そうそう気軽に来れるものでもないのに、と彼女は思う。  
でも、また来たいと思う気持ちもむくむくと沸きあがってきた。  
こうして、彼女のお泊りは終わりを迎えたのだった。  
 
                 終。  
 

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