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ル! { `ヽ, ∧
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ゝヽ _,,ィjjハ、 | \ おニューの
`ニr‐tミ-rr‐tュ<≧rヘ > 服など
{___,リ ヽ二´ノ }ソ ∠ いらない!
'、 `,-_-ュ u /| ∠
ヽ`┴ ' //l\ |/\∧ /
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く__レ1;';';';>、 / __ | ,=、 ___
「 ∧ 7;';';'| ヽ/ _,|‐、|」 |L..! {L..l ))
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ナンダッテー!!
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|'' !゙ i.oニ'ー'〈ュニ! iiヽ~oj.`'<_o.7 !'.__ ' ' ``_,,....、 .|
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「しかし先生。弘法も筆の誤りといいます。今ある服ばかりに固着していてはいかんですよ」
「……商業主義にどっぷり浸かっているね、きみ」
「なんかむかつく」
自転車を漕ぎながらなされる他愛なき会話。それでいいのだ。それ以上を望
むから問題が起こる。千佳が俺を好きでないなら問題ない。俺がどう思っていようと。
幾層にも雲が空を覆い始めた。突然閃光が宙を貫き、街を照らす。
巨大な音が耳を劈いた。雷だ。
「夕立か」
「雨降りそうだね、あっち」
「おう」
俺たちは近くのお店の庇に駆け込み、自転車を置いて雨宿りした。駆け込む
と同時に大粒の雨がアスファルトを叩きだす。雷雨だった。降りしきる雨と、
時折聞こえてくる落雷の音と光。鳥の鳴き声も、虫の音も、車のエンジン音も
何も聞こえない。ただ大雨だけ。
「凄いね。折り畳み傘出しても折れちゃいそう」
「まいるな。つーかこんな雨じゃ出したって無駄だろ」
「うん。ねえお兄ちゃん」
右側にいる千佳が、俺の瞳をみつめた。
「ん?」
「これでサッカーやってたら大変じゃない? 色々片さなくちゃいけないし」
「大雨でもやるよ。霙でもやったし。土がぬかるんでても、それがいいんだよ」
「うっそ〜!?」
「ホントだって」
「びしょびしょになったら大変じゃない」
「いーんだよそんなの」
にやにやと笑う千佳。「本当に、好きなんだね」
「お、おう」
なぜかドキマギする。
「じゃあお兄ちゃん、質問です。私が好きなのは何でしょう?」
なんか嫌な予感がした。
「食べ物か? お子様ランチとか?」
「お兄ちゃんだよ」
「……嘘だろ」
「去年、お兄ちゃんから誕生日プレゼントもらったでしょ? 偽物のグッチの鞄」
「ああ、はいはい」
去年の千佳の誕生日にあげたグッチの鞄は偽物だった。「ン十万の鞄が今な
ら何と一万五千円! 一万五千円での大放出でございます」こんなチラシにほ
いほい騙された俺も悪いのだろうが、偽物と知って買ったのなら値段相応の商
品らしい。千佳がその時とても喜んだのが今でも思い出せる。
目を輝かせて、頬を紅潮させてキャーキャー騒ぎまくる千佳。隣で罪悪感に
かられる俺。つらくて死にそうだった。一時間以上興奮の極致にあった千佳を
どうにも止められず、その後ようやく本当の事が言えた。
「それ、実は偽物なんだ……すまん」
屈辱で最後の言葉が濁った。千佳からどんな罵倒も悲哀の言葉も受け入れる
つもりだった。だが千佳は「グッチって何?」と言った。
千佳は有名ブランドの名前も知らず、兄からデザインの優れた製品を貰えて
有頂天になったのであって、グッチだから喜んだのではなかったのだ。無知と
は偉大だと思い知らされた一日だった。まあ製品としてまともなものを、妥当
な価格で買えたと思えばいい。今でこその笑い話だ。
「なくしちゃった。あの……本当に、ごめんなさい」
「いいよ。また買えばいいから」
千佳は首を振って否定した。
「ううん。あれは世界に一つしかない鞄だから。お兄ちゃんから貰ったただ一
つのプレゼントだから、もう買えないよ。あの鞄じゃないから」
「じゃあさ、千佳。次の誕生日には、また何かプレゼントするからさ。それじゃ、駄目か?」
無くしたと告白した事で文句を言われると思ったのか。いや、本当に残念がっているようだ。
「うん。お兄ちゃん」
「何だよ」
心臓が早鐘を打つ。俺までドキドキしてくる。千佳の声一つ一つが耳に響く。
「ありがとう」
「おう」
「もう絶対になくさないから。なくしたくないから、だから身に付けられるも
のがいいな。指輪とか、ネックレスとか。十万くらいの頂戴」
「インパッシブル(不可能です)」
「あ、やっぱり」
茶目っ気たっぷりに微笑む千佳。
「オフコース(当たり前だ)」
俺たちはどちらからともなく笑いあった。何があっても笑ってしまう、そん
な時もある。俺たちは笑いまくり、気づいたら雨は止んでいた。
辺りは水浸しになっていた。道路も屋根もベランダも電柱も木々も草花も車
も塀も、皆水に濡れていた。冷たい風が漂ってくる。空は曇っていた。俺が軒
下から一歩出ようとしたら、千佳が俺の右腕をぐいっと引っ張った。
「お兄ちゃん。行かないで」
「え?」
千佳は突然、俺の腰にしがみついてきた。ほのかなシャンプーの香り、
腕に廻された千佳の両手と制服越しの胸の柔らかい感触。千佳の鼓動が伝わる。
ドク、ドク、ドク……。早いペースだ。
俺は相変わらず、固まっていた。
「好き」
「……」
千佳が上目遣いで俺を見上げてくる。無防備な視線だ。わずかに開いた口元
が、キスを誘っているように見える。
「千佳」
「何?」
どんなに千佳を傷つけようとも、言わなくちゃいけない。
「好きって言うな。そんなの変だ」
その言葉が胸をえぐる。途端に全身が緊張した。
「変? 変って、それどーいうこと!?」
「兄妹同士、好きなんて言わないよ普通」
お兄ちゃんはこともなげに言った。
「何それ? じゃあ私がお兄ちゃんを好きなのが変だって言うの? 好きだか
ら好きって言っちゃいけないの?」
「そうだ」
「何で!?」
「兄妹だからだ」
「何よそれ? 全然意味わかんないよ。兄弟だから何だっていうのよ」
「お前知らないのか? 兄妹は結婚できないって。だからお前が俺を好きだと
しても、法律がそれを認めないんだぜ」
「はあ? 法律が何だってのよ! ただ私の気持ちを言ってるだけじゃない!
誰も結婚したいなんて言ってないじゃない。ただお兄ちゃんを好きってだけ
でいけないの? 法律違反なの?」
お兄ちゃんはその質問には答えない。だがその頑なな態度が、全てを語っていた。
「……変だよ。絶対おかしいよ! お兄ちゃん本気でそんな事言ってんの?」
「当然だ」
「馬鹿みたい」
泣きたくなった。なぜお兄ちゃんは私を拒むのか、理解できなかった。何で
そんな事が言えるのか。
「お兄ちゃん」
「なんだ?」
「私はおにいちゃんが好き。じゃあお兄ちゃんは? 私の事、嫌いなの?」
「その質問には、答えたくない」
私の予想を遥かに上回る、聞きたくない答えだった。
思い出すのも苦痛だ。避妊に失敗しても責任取れるほど大人じゃないし、千
佳を不幸な目に合わせる気もない。だから、嘘をつくことにした。俺はお前の
ことなど何とも思ってない。いつまでも「お兄ちゃん、お兄ちゃん」言うなと。
そう言おうとしたが、言えなかった。
俺が千佳を好きかどうか千佳は聞いたが、俺の中途な返事が千佳の顔を歪ま
せた。小学生のように泣き喚くわけではなかった。千佳は顔をくしゃくしゃに
して声を出さず、泣き出した。
涙が瞳から溢れ、頬を伝ってアスファルトに零れ落ちた。雫は水溜りに落ち、
波紋を作った。
なぜ千佳を悲しませるのか。他に方法はなかったか。最良の決断をしたはず
なのに、胸に去来するのは重いため息だけだった。
俺は何だ。
千佳の頬を拭う──普段なら何気なくやっていた行為さえ許されなかった。
ただ千佳を見つめた。
その後、千佳は「九時には帰るから」と言ってどこかへ消えた。帰ってきた
のは十一時半。遅れるのに連絡しなかったことをお母さんは怒り、千佳は謝っ
た。どこにいたのかと聞かれて、千佳は「友達の家」と答えた。夕食は食べて
きたらしい。必要最低限のことしか言わず、二階に上がった。
千佳がこれほど気落ちしたことがあったろうか。少なくともお母さんが何度
も仔細を問いただしたほど、千佳の口は堅かった。お母さんの追及は俺にも及
んだ。知らぬ存ぜぬで突き通そうとしたが、お母さんは突如聞くのをやめた。
態度の軟化にこちらが戸惑った。
「いつか話せる時が来たら、お願いね。あそうそう。ちゃんと千佳にフォロー
いれときなさいよ」
台所からひょい、と顔を覗かせていうお母さん。
「だからさ──」
「嘘はもういいわ。言いたくないならそう言いなさい。許してやるわよ。智彦
も子供じゃないんだし。ねえ智彦?」
「何?」
「千佳のこと、いつか話してくれる? ……それとも絶対に話せないような内容?」
俺は逡巡した。
「話せる、かもしれない。もしかしたら、一生話せないかも」
一生他人に言えないような、重い楔を打ち込む可能性だってあった。そう思
えば、千佳の告白を受け入れられるわけがない。嫌われたとしても、断るべきだ。
俺が思いつめた表情をしてしまったのか、お母さんはふっと笑ってため息をついた。
「分かったから千佳の部屋いっときなさい。ほら」
「うん」
お母さんは小さく笑って、再び食器を洗い始めた。ガチャガチャ、きゅっき
ゅと食器や洗剤の音が聞こえてくる。俺は椅子から立ち上がり、千佳の部屋に向かった。
千佳の部屋のドア中央部には、コルク製ボードが据え付けられている。『外
出中』のボードが一番表に掛けられていた。いつもはマメに取り替える千佳だ
が、今日は流石に気が回らなかったらしい。
俺はドアを二度叩いた。が、部屋に誰もいないかのように、反応はなかった。
改めて二度、ノックした。数秒遅れて返事が来た。
「はい……お兄、ちゃん?」
千佳の声は弱々しかった。
「うん。ちょっと、いいかな?」
千佳からの返事はなかなかなかった。本当ならドアを開け、千佳の傍にいて
やりたい。だがそれは俺の役目ではない。
「駄目」
「そうか。なら、明日でもいいか? 話したいことがあるんだ」
「うん。明日ね」
「おう」
「ごめん。今、顔がぼろぼろだから会いたくない」
「うん」
「声も聞きたくないの」
「……」
「何で、お兄──」
「言うなっ!」
咄嗟に大声を出してしまった。一階のお母さんに聞こえるかもしれないから、
極力小声で話さなくてはいけないのに。
「お兄ちゃん」
「ん?」
「明日は……普通に戻るから。いつもの千佳に戻るから。もう言わないから」
「おやすみ」
「おやすみ。お兄ちゃん?」
「ん?」
「好き」
俺は返事をしなかった。聞こえなかったかのように、「おやすみ」とだけ言って自室に戻った。
自分の部屋に戻り、ベッドに倒れた。思い出してはため息をつき、ごろんご
ろんのた打ち回ってはため息をついた。
次の日、つまり今朝の千佳は何かが吹っ切れたかのように快活だった。昨日
の慟哭が嘘のようだった。戸惑いつつも、千佳に合わせて馬鹿話を始める俺。
本当は話したくなくて、会いたくないのかもしれない。一日で悲しみが薄れる
はずがない。だが、食卓を重くしたくはないのだろう。そういうことにした。
「決めたの。もう中途半端はヤだから。彼に悪いもん、それにお兄ちゃんの答え聞いてないよ」
今朝のテンションは、帰ってからも続いた。俺は、話し合うことを敢えて避
けていた。
「……後で話す」
「ヤダ、今言って」
「ヤダってあのなあ」
「イ ヤ」
「ガキ」
「ガキって言った方がガキです!」
俺は息を呑んでいう。
「お前なんか嫌いだ」
おどけた口調だった。だが千佳には伝わるだろう。俺がお前を受け入れない
ことを。二度と惚れたはれたの関係になるまいと伝えるためだ。
だが千佳には俺の言葉が効かなかった。
「信じられないよそんなの。言うなら私の目の前で言ってよ!」
俺はノブを掴んでドアを開いた。
廊下には薄い桃色のワンピースにエプロン姿の千佳が立っていた。お盆の上
には苺のショートケーキと淹れたての紅茶が載っている。
可憐で強気な、芯の通った美少女が目の前にいた。
「俺は」
刹那、「ウギャーーーーーーーーーーーー!!」という声が後ろから聞こえ
てきた。千佳の声がそれに重なる。
「え? ええええ〜〜〜〜!!」
俺が後ろを振り返ると、直人が開いた箪笥からリアルドールと共に部屋の真
ん中に倒れこんだ。ドレス姿の人形を厚い胸板、太い手首、暑苦しい顔で抱き
寄せたまま一緒に床にダイブする直人は、己が史上最悪のタイミングでバラン
スを崩した事を、一番よく知っていた。
人形は先輩のものだ。だから安易に潰してはいけない。人形に衝撃が当たら
ないように、不安定な体勢でも人形を死守する。そうすると、トモや千佳ちゃ
んに見えないように隠すことはできない。待てよ、隠さなければいいんだ。
落ち着け、俺。ちょっとヤバすぎるぞそれは。
他人に自分の性癖を見られた瞬間が頭の中にフラッシュバックしていった。
今回の事も、きっと想い出になるに違いない。だから千佳ちゃん、そんなに引かないで。
住友直人は混乱しながら、ばたりと床に倒れた。
倒れこむと同時にずおおぉん、と衝撃が床を伝わる。さすが体重86キロ。
「直人、お前……まだいたんだ」
「開けないって約束したじゃんか!」
直人がリアルドールに股間もろとも抱きつきながら、悲痛な叫びをあげる。
「すまん。すっかり忘れてた」
「ヒドイッ!」