「ふう、見えてきたな」  
「ええ……」  
翌日、俺たちは無事に天狗の里にたどり着いた。  
あれから、佳乃は何を言っても「はい」とか「ええ」とか相槌しか返してこない。  
 
そうこうしているうちに、絹代の屋敷の前にたどり着いた。  
「の、信幸殿! 佳乃も!」  
いつから待っていたのか、絹代が屋敷の入り口で、満面の笑みを浮かべて俺たちを出迎える。  
「やあ絹代。琢磨氏は……?」  
「うむ、昨日の昼過ぎに目を覚ましたかと思うと、今では寝込んでいたのが嘘のようだ。  
で、やはり佳乃の推測どおり、宗宏が原因だったのか?」  
「ええ、まあ……」  
俺の問いかけに答えながら、佳乃に話しかける絹代。  
佳乃は絹代に対しても、やはり曖昧な表情で、曖昧に答える。  
ま、どういう状況でも、素直に答えることは、出来なかったとは思うが……。  
 
「そうであったか。しかし、宗宏が原因で病とは、いったいどういうことだったのだ?  
しかも佳乃は何故、そんなことを知っておったのだ?」  
眉をひそめて刀の宗宏を見つめながら、佳乃に問いかける絹代。  
………どう説明する気なんだ、佳乃?  
「まあ、ひとことで言ってしまえば、呪いのようなもの、だったのですよ。  
われが、それを知っていたのは……かつて、聞いたことがあったから、です」  
などと心配した表情で佳乃を見ていたが、佳乃はしれっとした顔で答える。ま、嘘ではない、か。  
「の、呪いだと!? …………すると、まさかあの時の、かのう……」  
「ええ、おそらくは……」  
絹代は佳乃の言葉に驚きの表情を浮かべたかと思うと、一転して複雑そうな表情を浮かべる。  
それはそうかもな。何せ、あのとき一番大笑いしていたのは、紛れも無く絹代だったわけだし。  
「ふうむ……なるほどなあ。それはそうと、立ち話を続けていても仕方が無い。  
二人とも旅に次ぐ旅で疲れたであろう? 父上も待っておるし、中でゆっくりと、くつろいでくだされ」  
「あ、ああ……」  
やがて納得したのか、絹代は俺たちを中に招きいれようとする。  
正直言って、旅の疲れだけでなく、帰り道の佳乃のそっけなさに、精神的に疲れていた俺は、  
絹代の申し出をありがたく、受け入れることにした。  
 
「父上、信幸殿と佳乃が戻られましたぞ!」  
大広間に足を踏み入れ、大声で叫ぶ絹代。部屋の中央では琢磨氏が、  
初めて出会ったときと同じように、悠然と腰をおろしている。  
なるほど、体調は問題ないようだな。  
「おお信幸殿。ささ、こちらに腰をおろすがいい」  
「は、はい。ど、どうも」  
と、俺の顔を見るや否や、琢磨氏は目の前に座るように促してきた。  
俺は恐縮しながら、琢磨氏に勧められるままに、腰をおろす。  
「して早速だが、白菊は……?」  
そんな俺を見て、琢磨氏は満足そうに笑みを浮かべながら、俺に語りかけてきた。  
ああ、そういえば、琢磨氏は白菊を見ていないんだったっけか。  
「あ。こ、これです」  
「ふうむ………これが、あの白菊か……」  
琢磨氏の言葉にうなずき、俺は白菊を琢磨氏に手渡した。  
受け取った白菊を鞘から抜き、じっくりと刀身を見つめている琢磨氏。  
そういや、白菊は刀としての価値って、どんなものなんだろう?  
今度、な○でも鑑定団にでも出してみるかな?   
意外と中○誠之助あたりから、『E仕事してますね〜』とか言われるかもしれないし……。  
……いや、そんなことしたら、琢磨氏みたいに呪われるかもしれないな。やめとこ……。  
 
「……それにしても、白菊を手にしたことといい、我の病のことといい、  
さすが、絹代が見初めた男だけのことはある。約束どおり、絹代とのことを許そうではないか」  
「あ、は……はい」  
しばらくの間、白菊を見つめていた琢磨氏は、俺に視線を移し、ゆっくりと声をかける。  
………そうだった。白菊を手にしようとした理由は、それだったよな。  
これがお芝居だとバレたら、また顔を真っ赤にするんだろうな……。  
「さてさて、今夜はささやかだが、宴を催させていただこうと思う。  
そこで改めて、白菊をはじめとした信幸殿の数々の武勇伝、ゆっくりとお聞かせくだされ」  
「えっと………は、はい」  
う……何をどう話せ、というんだ? まさか「佳乃とヤリました」なんて、素直に言えるはずないだろ。  
「琢磨様、全快おめでとうございます。拝借していた宗宏を、お返しさせていただきます」  
などと考えていると、いつの間に俺の隣にいたのか、佳乃が琢磨氏に向かって、  
ひざまずくような姿勢で宗宏を捧げていた。  
「うむ。佳乃も本当に、ご苦労だったな」  
「はっ、恐れ入ります。……われはいささか疲れましたゆえ、これにて失礼させていただきます」  
宗宏を受け取りながら、琢磨氏は佳乃にねぎらいの言葉をかける。  
佳乃は琢磨氏に宗宏を手渡すと、頭を下げたまますっくと立ち上がり、俺たちに背を向けた。  
「そうか。信幸殿だけでなく、佳乃にもいろいろと話を聞きたいゆえ、宴までには戻ってくるのだぞ?」  
「はっ? ……は、はい」  
そのまま立ち去ろうとする佳乃だが、琢磨氏から声を掛けられると、  
体をビクンとすくませ、歯切れ悪そうに返事をしていた。佳乃だって、やっぱり話しづらいよなあ……。  
 
 
それから俺は、宴が始まるまでのしばらくの間、ゆっくり休ませてもらうことになった。  
が、頭の中は『武勇伝』を作り上げようとフル回転していたため、休めたかどうかは甚だ疑問だが。  
 
やがて、克弥をはじめとした長老たちが集まり、宴が始まった。  
 
いろいろな質問が飛んできたが、どうにか辻褄を合わせ乗り切った、ような気がする。  
佳乃は、俺の『武勇伝』に適当に話をあわせ、相槌を打ったり頷いたりしていた。  
正直、口を開かれると、たちどころに矛盾が生じて、皆から突っ込まれることになったと思うので、  
その判断には感謝している。だが、佳乃の俺に対する態度は、あくまでもそっけない。  
やがて、絹代に呼ばれて大広間から去っていったが、最後までその態度は、変わることがなかった。  
 
「信幸殿……」  
「き、絹代。どうしたんだい? こんな人気のない場所へ」  
宴が終わってから、絹代は俺を誘い出し、村はずれの森に呼び寄せたのだ。  
そういえば、絹代にはまだ、俺がただの人間であると、説明していなかったっけ。  
絹代の意図はともかく、これは、丁度いい機会なのかもしれないな。  
「本当に、ありがとうございます。わらわの無理な願いを聞いていただけて……」  
「い、いやそんな……まあ、結果オーライなわけだし」  
などと思っていると、絹代はおもむろに、俺にペコリと頭をさげてきた。  
実際、結果オーライだし、何をしていたのかって、白菊や佳乃とヤッただけなんだが。  
「そんなことは無い。過程はどうあれ、信幸殿は言葉どおり白菊を手にしただけでなく、  
呪いに苦しむ父上をも救ってくれたのだ。……本当に感謝しておる」  
俺の言葉に、ゆっくりと首を振りながら、絹代はきっぱり言った。  
う…参ったね。まさか、本当のことを言うわけにはいかないし、かと言って、  
ここまで評価されるには、まるで値しないのは、自分でも分かっているし……。  
「いやだから、それは……」  
「それで……御恩を返す前に、こんなことを言うのは、非常に恐縮なのだが、  
もうひとつ、わらわの願いを、聞いてはくれぬだろうか?」  
「な、何?」  
どう説明しようかと、口を開く俺の言葉を遮るように、絹代は語りかけてきた。  
こ、今度は何だというんだ? まさかとは思うが……本当に一緒になってくれ、と?  
いや、それはいくらなんでも、自意識過剰だろ。俺は固唾を呑んで、絹代の次の言葉を待った。  
 
「…………佳乃と、一緒になってはくれまいか?」  
「………………え?」  
どれだけの時間が経過したのか、絹代は俺をじっと見据えながら言った。  
思わず口をぽかんと開け、絹代を見返す。……よ、佳乃と一緒に!?  
「わらわは、信幸殿と佳乃が、一緒になってほしいのだ。今度はお芝居ではなく、本当に」  
「……………あ、あの…」  
ぽかんとしている俺の腕を取り、言葉を続ける絹代。……ほ、本気なのかよ?  
「実は、佳乃はこの村の者から、あまりよく思われてはいないのだ。  
佳乃もそれを自覚しておって、村の中ではいつも無表情で、感情を押し殺しておった。  
だが信幸殿には、最初の日こそは無愛想であったが、次の日からは打って変わって優しく接していた。  
あんな、佳乃の穏やかな表情を目にしたのは、生まれて初めてだった……」  
「………………」  
確かにあのときは、あからさまに対応が変わっていたからな。  
でも、その原因だと思われる出来事を知れば、そんなこと言ってられないだろうに。  
「……でも、信幸殿がいなくなってしまえば、佳乃はまた、いつもの無表情な佳乃に戻ってしまう。  
だがそれは、本当の佳乃の姿ではない。  
信幸殿に出会ってからの、ここ数日の優しい佳乃こそが、本当の佳乃の姿なのだと思う。  
わらわは今まで、佳乃には苦労をかけどおしで、佳乃のために何かをしてやった、  
などということは何も無い。だからこそ、佳乃には幸せになって欲しいのだ………」  
「えっと……」  
だが、白菊が元に戻ってからの佳乃は、ずっと俺に、そっけない態度を取り続けているんだぞ?  
 
「それとも、信幸殿にはもう既に、わらわたちの知らない、想い人がいらっしゃる、ということか?」  
「い、いや。それはないけれど……」  
彼女、か。就職して、会う時間が取れなくなった途端に、分かれちまったよ。ま、昔のことだけどな。  
というか、佳乃の気持ちを無視して、勝手に話を進めるんじゃないよ。  
「で、あれば問題は無いと思われるが………それとも、信幸殿は佳乃のことが嫌なのか?」  
「嫌だなんて……そんなことはないさ。でも、話が突然すぎるし、そんなことになれば琢磨氏が……」  
そう、そもそも俺がここに来たのは、『絹代の結婚相手として』だろ?  
なのに、『俺は佳乃と一緒になる』とか言ったら、俺はおろか、佳乃まで琢磨氏に殺されないか?  
「うむ、父上相手のお芝居のことだな? であれば、信幸殿が気になさることはない。  
わらわが無理矢理、信幸殿に一芝居うっていただくように、頼み込んだとしておけばよいのだ」  
「ちょ、ちょっとそれって……」  
「その場合、信幸殿が佳乃の想い人であったと、皆が思ってくれたほうが、こちらとしては都合がいい。  
わらわが何故、信幸殿を里に連れてきたのかの、言い訳も立つしな」  
「いや、確かに絹代が俺に頼み込んできたまでは、本当のことだけどさ、  
さすがにそこまで言えば、嘘になってしまうんでないの?」  
よく考えりゃ、絹代は嘘をつくと鼻が伸びるんじゃないのか? だったら簡単にバレるだろ。  
「なあに。信幸殿と佳乃が『いつ』想い人になったのか、を言わなければいいだけじゃ。  
ただ、それには信幸殿と佳乃が、本当に想い人になってくれなければ、まずいわけなのだが……」  
あっけらかんと答える絹代。確かに嘘ではないだろうけど……それ、佳乃が里に居辛くならない?  
 
「は〜……」  
不意に、茂みの奥からため息が聞こえ、人影が姿を現す。  
「な、なな……よ、佳乃!?」  
絹代はぱっと振り向き、人影の正体を確認すると、大声をあげていた。  
そう、いつからいたのか、そこには両腕を腰に当て、呆れ顔で立ち尽くす佳乃がいたのだ。  
「まったく………何をコソコソ話しておられるかと思えば、そのようなことを……」  
片手を額に当て、ゆっくりと首を振りながら佳乃はつぶやく。  
その姿は、心底呆れかえっているように見える。……実際、呆れかえっているんだろうが。  
「だ、だが佳乃、わ、わらわは、わらわはおぬしのことを考えて――」  
「われのことを真に考えている、というのであれば、まず絹代様御自身が、  
お一人で炊事洗濯くらい、こなせるようになってくださいまし」  
「うぐ……う…」  
抗弁しようとする絹代の言葉を遮り、きっぱりと答える佳乃。  
どうやら、思い切り痛いところを突かれたようで、絹代はたちまち目を泳がせて口ごもる。  
……でもま、佳乃の言うことは、もっともなのかもしれないけどな。  
「でなければ、われが安心して、信幸様の元へ行くことも、できぬでありましょう?」  
「え……?」  
次の佳乃の言葉に、俺は目を丸くさせた。……今、今何て言った?  
「いや……そ、その……な、何だか、わらわはお邪魔のようじゃな。それではこれで失敬!」  
「き、絹代様! ……まったく、本当に相変わらずな、お方ですこと……」  
絹代は、俺と佳乃の顔を、交互に見比べたかと思うと、そんなことを口走りながら、ぱっと身を翻した。  
そんな絹代を呆然と見送り、ふたたびため息をつく佳乃。……って、これって佳乃と二人きり?  
 
「あ…よ、佳乃……」  
えっと……何を言えばいい? 何故白菊と一体化したとき、表に出てこなかったんだ?  
何故、元に戻ってからは、ずっとそっけないままなんだ?  
「信幸様………わ、われは……」  
「な、ちょ、よ、佳乃!?」  
などと思う間もなく、佳乃は俺の胸に飛び込んできた。突然のことに、上手く言葉が言葉にならない。  
が、次の佳乃のひと言で、混乱していた俺の思考回路は、完全に破壊された気がする。  
「……われは、信幸様をお慕い申しております。初めて…初めて操を捧げた、あの夜からずっと………」  
「佳乃………」  
「わ、わかっています。でも、お願いです。もう少しだけ、このまま………」  
反射的に、俺は佳乃の肩をしっかりと抱きしめていた。  
佳乃は何を勘違いしたのか、俺にしがみつく腕に力をこめ、ゆっくりと首を振りながら、つぶやき続ける。  
「ずっと、ずっとこの想い、お伝えしたかったです、信幸様………ん、んんっ?」  
やがて顔をあげ、俺をじっと見つめながら佳乃は言った。  
俺は佳乃の言葉に、胸の中から何か熱いものが、じわりとこみあげてくるのを感じ、  
気がつくと佳乃のくちびるを奪っていた。  
「………佳乃。俺も、俺も佳乃のことが……大好きだ」  
「の、信幸様っ!」  
くちびるを離すと、次の言葉が自然と口から出てきた。まるで、それが当たり前のように。  
次の瞬間、佳乃は目から大粒の涙をこぼしながら、再び俺の胸に顔をうずめてきた――  
 
 
「さ、どうぞ。われ以外は、誰も住んでいませんので……」  
佳乃は、自分の家に俺を招きいれた。佳乃の家は、さっきまで話し込んでいた森の、すぐ近くだった。  
一番近い隣の家でさえ、結構距離が離れている。……こんなところに一人で住んでいたのか……。  
「あ、ああ。お邪魔します……」  
俺は何ともいえない感情を覚え、佳乃の家へとあがった。  
 
「信幸様。お茶でも、お煎れいたしましょうか?」  
「え? あ、ああ……」  
「そうですか。ではしばしお待ち……あ、の、信幸様!?」  
部屋にあがった俺に、佳乃が話しかけてきた。  
俺が返事をすると、佳乃は立ち上がって、台所へと向かおうとする。  
そんな佳乃を、俺は背後からしっかりと抱きしめた。  
「佳乃……愛してるよ」  
「の……信幸様………」  
耳元で、愛の言葉をささやく。佳乃は耳まで真っ赤に染めながら、俺に身体を預けてきた。  
 
「冷たいかい?」  
「え、ええ……」  
服を脱ぎ、布団に横たわった途端、佳乃はビクッと身をすくませた。  
俺の問いかけに、ゆっくりと首を縦に動かす。  
「そうか……だったら、すぐに暖かくしてあげるよ……」  
「あ、ああっ……」  
俺は、両手で佳乃の胸を軽く掴みあげながら、耳元でささやいた。  
佳乃は、俺の手の動きにあわせ、軽く身をよじらせる。  
「もう、乳首が勃ちあがってるぞ。イヤらしい身体をしているな、佳乃って」  
「ああ! そ、そんな……」  
手のひらで胸を揉み続け、親指で乳首をこねくり回しながら、俺は耳元でささやき続ける。  
子どもがいやいやをするように、弱々しく首を振りながら、否定の言葉を口にする佳乃。  
「でも、そんな佳乃も大好きだ………」  
「はああっ! ああんっ!」  
ささやきとともに、軽く乳首に吸いついた。  
佳乃は、両手で口元を押さえ、声を漏らさないようにしている。  
が、どうしても指の隙間から、押し殺したあえぎ声が漏れ出してしまう。  
 
「可愛い…可愛いよ、佳乃……」  
「そ、そんな! ま、周りに聞こえてしまいま……あ、ああっ!」  
そんな佳乃の、必死にこらえる姿に興奮してきた俺は、夢中になって、佳乃の胸に舌を這わせ続けた。  
さらに佳乃の両腕を引っつかみ、口元から手を強引に離させた。  
抗議の声をあげる佳乃だが、俺が乳首に軽く歯を立てると、たちまちあられもない声で、悶え始める。  
「大丈夫だって。どうせ、誰もいやしないんだろ?」  
「で、でも……はあ! あっ! ああっ!!」  
佳乃の手首を掴み上げたまま、今度はへその辺りを舐めまわしながら、佳乃に話しかける。  
それでも、佳乃はためらいの言葉を口にしようとする。そこで、へその中に舌を潜り込ませてみた。  
すると、佳乃は喘ぎ声を漏らしながらも、必死に身体をよじらせようとするが、  
俺が両手を掴まえているため、それもままならないようだった。  
「それにさ……俺が、佳乃の声をもっと聞きたいんだから、な?」  
「あっ! ああっ! ああんっ!」  
俺はそうつぶやくと、ふたたび佳乃のへそに、舌先を潜り込ませはじめた。  
 
「あ、ああ……の、信幸様………」  
下半身を、もぞもぞとせわしなく動かしながら、佳乃は俺に懇願するような声を漏らす。  
俺はゆっくりと上半身を起こして、辺りを見渡し……あ、丁度いいのがあるや。  
「?? の、信幸様?」  
さっきまで、佳乃が身に着けていた帯留めを手にした俺を見て、怪訝そうな声を漏らす佳乃。  
次の瞬間、俺は佳乃の両腕を腰の下に潜らせ、そのまま両手首をまとめて縛り上げた。  
「の、信幸様! な、何を!?」  
「なあに、また口元を押さえられたりしたら、佳乃の可愛い声が聞けなくなるから、ね」  
突然の俺の行動に、佳乃が目をぱっちりと見開き、驚きの悲鳴をあげる。  
そんな佳乃を見下ろしながら、俺はにやりと笑みを浮かべながら答えた。  
 
「そ、そんな! 信幸様! こんな…こんな……!」  
佳乃の抗議の声を無視し、両足をがばっと開かせると、ピクピク震える、女性の部分が顔を見せた。  
あれ? ……な、無い? 初めて交わったとき、確かに付いていたはずの男根が、無い。  
そういえば、白菊に身体を貸していたときも、付いて無かったよな……。何でだろう?  
などと考えながら、俺は佳乃の割れ目を指先で軽くなぞった。  
ただ、軽くなぞっただけなのに、指先は佳乃からあふれた蜜で、濡れそぼっている。  
「あっ! ああっ…! の、信幸様……」  
「へえ……凄い濡れてるよ。縛られて、興奮しちゃったのかな?」  
俺は半ば、あきれ返るような声で、濡れた指先を佳乃の目の前にかざす。  
「ち、違います! 信幸様、お、お願いです! もう、もう押さえたりしませんから! どうか、どうか手を…」  
指先がもたらした、微妙な刺激にうっとりとしていた佳乃は、  
俺の言葉に、はっと我に返ったように、顔を真っ赤にさせて、懇願してきた。  
「本当に?」  
「は、はい……ん! あっ! ああっ! あああっ!!」  
耳元でささやいてみると、佳乃はコクコクと、何度も頷いてみせた。  
と、そのまま割れ目に指先を潜り込ませてみると、途端に身悶えしながら、艶っぽい声を漏らす。  
「………まあ、せっかく縛ったんだし、もうしばらくそのままで、いいんじゃないかな?」  
「の、信幸様っ! ………あっ! あっ! ああんっ!」  
大げさにため息をつくと、佳乃は信じられないという表情で、俺を見返した。  
が、俺が佳乃に潜り込ませた指先を、前後に激しく動かし始めると、  
たちまち上半身を仰け反らせて、歓喜の声を漏らしだした。  
 
「はあ! ああっ、信幸様! ああっ! あっ! ああっ!!」  
佳乃の中に潜り込ませた指を、2本に増やして、中でもかき回すようにうごめかせてみる。  
すると、佳乃はうつろな目で、あえぎ声を漏らしながら、上半身をビクビク震わせていた。  
腰のところで後ろ手に縛り上げられ、胸を張っているような姿勢になっているため、  
上半身を震わせるたびに、形のいい胸がぷるんぷるんと上下左右に揺れ動く。  
これはこれで……癖になってしまうかもな……。  
「ん! あっ! あはあんっ!」  
思わず、ぷるぷる揺れる胸に吸いついてみると、佳乃の口から悲鳴交じりのあえぎ声がこぼれる。  
「の、信幸様! 信幸様! わ、われは…われはもう、もう……っ!」  
胸と割れ目から伝わる刺激に、佳乃は下半身を必死によじらせていた。  
意識してではないのだろうが、佳乃が身をよじらせるたびに、右太ももが俺の股間を擦りあげてくる。  
く……お、俺も我慢できないかも………。  
「よ、佳乃……。お、俺のも………」  
俺は、佳乃の顔にまたがるようにして、ギンギンに膨らんだモノを、佳乃の口に含ませようとする。が、  
「い……嫌、です……」  
弱々しく首を振り、拒否の言葉を口にする佳乃。  
……やっぱ、自分にもついているものを、口に含むのは嫌なのかね?  
 
「信幸様……お、お願いです……手を、手をほどいてください………」  
「手をほどけば……してくれるのか?」  
「……………」  
俺の問いかけに、佳乃は顔を赤らめながら、ゆっくりと首を縦に振る。  
「そ、そうか……わかったよ……。………う、ううっ!」  
またがった姿勢のまま、佳乃の腰に手を回し、帯留めをほどきにかかった。  
帯留めをほどき、佳乃の手が自由になった瞬間、モノから突き抜けるような快感がほとばしった。  
突然、佳乃が俺のモノを頬張りだしたのだ。  
「ん…んふ……んっ……んんっ……」  
唇をすぼませ、舌先が丹念にモノを撫で上げている。それだけで、ゾクゾクするような刺激が背筋を伝う。  
さらに、佳乃は自ら頭を上下させて、抽送までしはじめた。  
「く……よ、佳…乃……あ、ああっ!」  
今度は自由になったばかりの手で、モノを優しくしごき始めた。  
その力加減も絶妙で、口からは、思わずあえぎ声が漏れ出してしまう。  
……く…す、すげえ気持ちイイ……。こ、ここまで上手いのって、今まで相手したことなかったぞ……。  
 
「んっ……ん……っ……」  
「あっ! よ、佳乃! お、俺、もう、もう……は、離し……く…っ!」  
亀頭に軽く歯を立てたかと思うと、モノをしごくピッチを突然早める佳乃。  
限界が近づいてきた俺は、腰を浮かそうとしたが、佳乃がしっかりと、  
俺の腰に手を回してきたため、離れることが出来ない。  
同時に、佳乃がふたたび、頭を上下に激しく動かし始めた。  
偶然、佳乃の歯がモノに擦れた刺激がとどめとなり、俺のモノは佳乃の口中めがけて、射精していた。  
「んぶ! ん! んっ…ん……んふ…ん……」  
「あ…よ、佳乃………」  
ビクビクと震えるモノに、優しく舌を這わせながら、咽喉をならして吹き出す精液を飲み下す佳乃。  
俺は佳乃の口がもたらす刺激に、頭の中が真っ白になっていった。  
 
 
「はあ……はあ…よ、佳乃……」  
射精の勢いが収まり、ようやく佳乃はモノから口を離す。  
俺は肩で息をさせながら、ゆっくりと身体を起こした。  
「はあ…はあ……。いっぱい…いっぱい、お出しになりましたね……嬉しいです、信幸様………」  
身体を起こしながら、口の端からひとすじ溢れる精液を、  
手で口元へとすくいながら、本当に嬉しそうに微笑む佳乃。  
「ああ……佳乃………佳乃が欲しい……」  
そんな佳乃の姿に、まるで引き寄せられるように、俺は佳乃を抱きしめた。  
「信幸様……。こんな、われでよければ、いつでもどうぞ……ん…っ……」  
佳乃の返事に、背筋が震えるような感覚を覚えた俺は、迷わず佳乃のくちびるを奪っていた。  
 
「い、いく、ぞ?」  
「はい……。信幸様………」  
ふたたび仰向けになり、両足を広げる佳乃の割れ目にモノを添え、俺は確認するように言った。  
優しい笑みを浮かべたまま、コクリと頷く佳乃。  
その返事を確認したか否かのうちに、俺は佳乃の中へとモノを潜り込ませた。  
「ん…っ……」  
「あ! ああっ! はあっ!」  
ずぶずぶという音とともに、少しずつモノが佳乃の中へと潜り込んでいく。  
こみあげる刺激に、二人の声が弾む。やがてモノは完全に、佳乃の中へと姿を消した。  
「よ…佳乃……」  
「ああっ……信幸様………ん、んんっ…」  
さらなる一体感を味わおうと、どちらからとも言わず、お互いの名を呼び合いながら、抱きしめあった。  
そのまま佳乃のくちびるを奪い、舌先を佳乃の口中へと潜り込ませる。  
「んふ…ん……んっ…」  
「ん…んんっ……」  
佳乃の舌先が、俺の舌先に絡みついてきた。そのまま、俺の口中へと佳乃の舌が潜りこんでくる。  
口先をすぼませ、佳乃の舌に軽く歯を立ててみた。すると佳乃も同じように、俺の舌に軽く歯を立てる。  
俺たちは、しばらくの間飽くこともなく、お互いの舌を堪能していた。  
 
「動かすよ、佳乃」  
「…………」  
長い長い、そして熱いくちづけが終わり、俺はふたたび佳乃に同意をもとめた。  
佳乃は、相変わらず優しい笑みで、今度は無言で頷く。  
「んっ…あっ! あぁんっ……あはあっ………信幸様…信幸様……っ…」  
おもむろに、腰を動かし始めた。途端に、腰が抜けるような快感が、俺を包み込む。  
いや、快感に包まれていたのは、俺だけではなかったようで、佳乃もあえぎ声を漏らし始めた。  
「佳乃……佳乃っ……ん…っ……」  
快感にあえぎながらも、俺の名を呼び続ける佳乃がいとおしくて、  
俺は腰を動かし続けたまま、佳乃の名を呼び返し、そっとくちづけを交わした。  
「ん…んふ…っ……んふ…ん……っ……」  
一心不乱に腰を動かし続けていると、二人の結合部からは、ぐちゅっ、ずちゅっという音が響く。  
ときどき勢いあまって、モノが割れ目から弾きだされてしまうと、ぽんっという音すら混じってしまう。  
部屋の中では、結合部から届く湿った音と、二人の荒い鼻息だけが響き渡っていた。  
「あ…っ、あっ、ああっ…の、信幸様…あっ、ああっ、あっ、あああっ!!」  
さらに、俺がくちびるを離すと、佳乃の甲高いあえぎ声までもが、部屋のBGMに加わった。  
「佳乃…気持ちイイかい? 俺も…俺も、気持ちイイよ……」  
「ああっ! ああ、あっ! ああっ、の、信幸さまあっ!!!」  
その佳乃の声を耳にして、興奮の度合いを高めた俺は途切れ途切れに、佳乃の耳元でささやく。  
佳乃は、甲高い声であえぎ続けながらも、頭を何度もガクガクと頷かせていた。  
「よ、佳乃…佳乃……佳乃っ……!」  
「信幸様! 信幸様っ!!」  
やがて、俺たちはお互いの名を呼び合いながら、同時に絶頂に達していた――  
 
 
「なあ……佳乃?」  
「どうしましたか? 信幸様?」  
俺の胸枕で、夜空を眺めている佳乃に、俺は声をかけた。  
佳乃は、あの優しい笑みで、俺をじっと見つめ返してくる。  
「えっと……いや、なんでもない……」  
「もうっ、変な信幸様」  
――何故、あんな態度をとった? 何故、男のモノが生えていないんだ?――  
いろいろな疑問が頭をよぎったが、佳乃の微笑みを見た途端、質問をする気が失せてしまった。  
不思議そうな顔で、小首を傾げる佳乃。その目には、明らかに疑問の色が浮かんでいる。  
そう、そんなことどうでもいい。俺が今、佳乃に言いたいこと、言うべきことは、これしかないだろ。  
「いや…、あ、あのさ。佳乃、俺のお袋に会いたいって、この前言ってたよな?」  
「! は…はい……」  
俺の言葉に、はっと身をすくめたかと思うと、ゆっくりと頷いた。  
「会ってくれるか?」  
「は?」  
一瞬、言葉の意味が分からなかったのか、今度は目を丸くさせて、きょとんとした顔で俺を見る。  
「お袋に、紹介したいんだ。…………俺の嫁さんになってくれる人だ、って」  
「え……あ、そ、それって……」  
俺は佳乃の目をじっと見つめ、自らの言葉の意味を噛み締めるように、ゆっくりと言った。  
見る見るうちに、佳乃の顔が真っ赤に染まり、金魚のように、口元をパクパクと動かし始める。  
「佳乃、俺と一緒になってくれないか? ………それとも、人間相手だとダメか? ……よ、佳乃?」  
俺が話しているうちに、段々佳乃の顔が泣き出しそうになっていく。  
と、佳乃が上半身を起こしたかと思うと、そのまま一歩後ろに下がり、板張りの床の上で正座をした。  
何か……マズイこと、言ってしまったか? などと思いながら、俺も反射的に正座をしていた。  
 
「…………。と、とんでもない。こちらこそ喜んで、お受けさせていただきます、信幸様……きゃっ!?」  
「よ、佳乃……っ」  
しばしの間、お互い正座して、向かい合っていたかと思うと、佳乃は三つ指突いて、  
俺に向かってお辞儀をしてきた。感極まった俺は、顔をあげた佳乃に思わず抱きついていた。  
佳乃の口から、戸惑いとも、喜びともいえる、小さな悲鳴がこぼれだした。  
 
「の、信幸様……で、でも……」  
「でも?」  
俺の腕の中で、佳乃はか細い声で、ぽそりと口走った。その言葉を聞きとがめ、思わず問い返す。  
「先ほど、お話ししたとおりです。絹代様が、一人前に炊事洗濯が出来るようになるまで、  
われは絹代様から、目を離すことが出来ません。ですからもう少し、お待ちいただきたいのです……」  
「ま、待つって、いったい……」  
ああ、そういえば、そんなこと言ってたっけか。でも、あの調子じゃ、いつになることか……。  
「そう…ですね。今から季節がひと回りする頃までには、何とか……」  
「ひと回りって……大丈夫なのかい?」  
佳乃は俺の質問に、くちびるに人差し指を添えながら、夜空を見上げて言った。  
そ、そんなに早く”あの”絹代が、炊事洗濯をこなせるようになるのかね?  
「ええ。われとて一刻も早く、信幸様と一緒になりたいのです。もう、甘やかしたりはいたしませぬ」  
俺の疑問に、佳乃はにっこりと微笑んだ。  
さっきまで俺に見せていた、優しい笑みとは少し違う、どこか冷たさがこもった笑みを浮かべて。  
………正直言って、少し怖いかもしれない。  
「ああ、分かった。でも、時々は会いに来るよ。佳乃に会いに、ね」  
「はい……いつでも、いらしてください。お待ちしております……」  
俺の言葉に、今度はさっきまでと同じ、優しい笑みを浮かべながら、佳乃は答える。  
そのまま、佳乃とくちびるを重ねながら、俺は思った。  
佳乃を怒らせることは、絶対にしないようにしよう――と。  
 

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