「さて……と」
佳乃と別れ、ようやく携帯のアンテナマークが出る場所まで、下りてきた。
いくら休暇が残っているとは言っても、一週間も無断欠勤してしまえば……どう考えてもクビだよな。
仕方がない、これも自業自得の結末だ。その代わり、佳乃と出会えたのだし、悪くは無いさ。
さて、とりあえず会社に……は、非常に電話しづらいから、同僚に電話を掛けてみるか……。
「まあっ、さっきも頑張ったと思ったら、もうこんなに敏感に反応して♪
本当にゴメンね。長い間、構ってあげられなくて」
僕の両足を抱きかかえ、その付け根に生えているモノに向かって、アイリスはつぶやく。
今週は、仕事がてんやわんやの忙しさで、結局、夜のお勤めを果たすことが、ほとんど出来なかった。
おかげで今日は、その分を取り戻さんという勢いで、こんな目に遭わされているわけでして……。
それにしても、アイリスの言葉どおり、敏感に反応している僕のモノったら……何といえばいいのやら。
「ちょ、ア、アイリス……あ、あうっ」
お願いだから手加減して、と言おうとしたが、モノを優しく撫でられ、思わずあえぎ声が漏れ出す。
「ん、よしよし。今日はたっぷりと、相手してあげるからね〜♪」
まるで、小さい子どもをなだめるような声で、モノに語りかけながら、チュッチュッと口づけをするアイリス。
………ここまできて、まだ『たっぷりと』ってことは…今日は、覚悟を決めねばならないのだろうか。
「んふ…ちゅぷ……ん…っ……はむ…ん……っ…」
「あ、ああ……ア、アイリスっ………」
アイリスはおもむろに、僕のモノを根元までくわえ込んだ。途端にこみあげる刺激。
そのまま、顔をゆっくりと上下に動かしながら、舌先をカリ部分に絡ませてきた。
ああ……ホント、ホント気持ちイイ………。一瞬、別の世界が見えかけたその時――
♪あーる日、金太が歩いていると〜♪
……いきなり携帯が鳴り響く。この着メロは……会社の誰か、だ。
まさか休日だってのに、システム障害ですか? 正直、出たくは無いんだけど仕方ない……。
「くう……っ…、ア、アイリス…ちょ、ちょっと待って、で、電話が……」
「ん〜? 小さい御主人サマ〜? 大きい御主人サマはホント、わがままですね〜♪」
携帯に向かって手を伸ばす僕には目もくれずに、僕のモノに向かって話しかけるアイリス。
そこまでされると……少し寂しい……。
「ご、ごめん……はい、もしもし……ああ? 山内か!? 何やってたんだよ、今まで?」
『ああ、悪い悪い。ちょっと旅に出てた。やっぱ俺、会社クビになった?』
アイリスに、侘びの言葉を述べながら、僕は電話に出る。……と、相手は行方不明仲の同僚だ!
思わず声を荒げ、電話の相手に問いかけたが、同僚はあっけらかんとした口調で答える。
一週間ずっと音信不通で、突然向こうから連絡が来たかと思えば、いきなりこの態度。
この男、いっぺん脳みそ解剖したろか。
……よく考えりゃ、僕がアイリスに毎晩、夜のお勤めを果たす羽目に陥ったのは、
半分は、この同僚のせいなんだよね。
彼に誘われ、風俗に行ったその日の晩、そのことをアイリスに責められてしまったのだ。
もっとも、アイリスは『風俗に行ったこと』を怒っていたわけではなく、
『風俗には足を運ぶのに、自分は相手をしてくれないこと』に怒っていたようだった。
おかげで、その後は毎晩のように、夜のお勤めが待っていたりするわけでして。
でもまあ、今では僕自身がアイリスに、身も心も溺れていたりするんだけど。
「クビ? なりたかったのか? って、片山が送ったメール、見てなかったのかよ?」
『片山から? ああ、見てねえや。何かあったのか?』
しかも、別の同僚が送ったメールも見てないし。
「まったく……何を考えてるんだ、お前は。……いや、実は片山がさ、お袋さんを危篤にして、
お前は今週いっぱい……う、うわあっ!?」
ため息をつきながら、同僚が送ったメールの中身を説明しようとして……突然、
下腹部を襲う刺激に、声を裏返させてしまう。ゆっくりと、下腹部を見てみると……。
アイリスが、再び僕のモノの先端を軽く咥えながら、右手でモノをしごきあげていたのだ。
「ちょ、ちょっと、アイリス……」
「ふうんだ。御主人サマは、勝手に電話してていいよ〜。
私は私で、小さい御主人サマと、寂しく一緒に遊んでいるから〜。ね、ちっちゃい御主人サマ♪」
抗議の声を漏らすが、アイリスはモノをしごきあげたまま、ちらりと僕を見たかと思うと、
ちょっぴりふて腐れたような表情を見せ、再度モノに話しかける。………あ、あのう。少しは構って。
「う…ア、アイリス……」
『お、おい! お袋が危篤だって!? おい、よく聞き取れないぞ、何があったんだ!?』
僕の途切れ途切れになった声を聞いて、同僚が電話の向こうで声を荒げる。
あの同僚が、こんなに動揺するの、初めてだな。
ま、ああ見えて、母親は大事にしているらしいから、当然かもしれないが。
「ん? いや、何でも…ない、こっちの……話さ、……で、ううっ……」
僕はアイリスから逃れようと後ずさりするが、アイリスはじりじりとモノを咥えたまま、僕を追いかけてくる。
また、手でアイリスの頭をどかそうとしても、片手がふさがっているし、
絶え間なくモノから刺激が伝わってくるため、力がまったく入らない。
……ちょ、も…やばいかも……今週の後半は、シテいなかったせいか、少し敏感になっているし……。
「とにかく、お前さんは今週は休みって…ことに、なって……あ、っ……るんだ……。
詳…しい、ことは……片山から、の……メールを…見、ろおっ!?」
アイリスの悪戯から逃れるのを諦めた僕は、同僚にそれだけ言い残し、
本日8度目の絶頂に達しながら、電話を切った。
「はあ……はあ…はあ……。ア、アイリス……」
「んふふっ。御主人サマ、興奮しているのかな〜? 小さい御主人サマ、元気一杯だったよ〜♪」
電話を放り投げ、アイリスに向き直った。そんな僕を見てアイリスは、舌なめずりをしながら微笑む。
そのあまりにも、無邪気な笑みを目にした途端、僕は訳の分からない感情がこみあげ、
気がつくとアイリスを押し倒していた。
「きゃっ♪ いや〜、御主人サマが怒った〜♪ 悪戯されちゃう〜♪」
押し倒されたアイリスは、その言葉とは裏腹に、嬉しそうな口調で僕を見上げる。
「ア…アイリス……あ、ああっ…アイリス……」
何度果てても、今なお勢いを保っているモノを、アイリスにあてがい、ひといきに潜り込ませる。
アイリスの中は、すでに何度も僕を受け入れていたため、熱くて柔らかく、
適度に僕のモノを締付けてくる。……ああ、気持ちイイ……。
「ああっ! ああんっ! 御主人サマ! 御主人サマんっ!」
僕は夢中で、アイリスに腰を打ちつけていた。アイリスは嬌声とともに、僕に体を絡ませてくる。
……いつもエッチでは、アイリスに主導権を握られるんだ。たまには、こんなことがあっても……。
「はあうっ!?」
そう思ったのも束の間、下腹部から別の刺激がこみあげ、僕は思わず悲鳴をあげた。
アイリスが、尻尾をすぼまりへと潜り込ませてきたのだ。しかも前触れも無く、突然に。
「あ…か……は…ああっ……」
容赦なく、僕の中へと潜り込んでくるアイリスの尻尾。……こ、こっちは今日初めて、だし……。
僕は腰を動かすのも忘れ、全身を痙攣させながら、呻きとも、喘ぎともとれる声を漏らし続けていた。
「よい……しょっと。御主人サマの中って…熱くって柔らかくって……
それでもキュッキュッって締めてきて、すっごい、気持ちイイんだあ……んふふっ……」
「うあ……あ、アイリス………」
体の上下を入れ替え、僕の上に馬乗りになりながら、アイリスは僕の両頬を抱えて微笑む。
もちろん、尻尾を僕の中でうごめかせ、なまめかしく腰を上下に揺さぶりながら。
……そのセリフ、さっきアイリスと繋がったときに、僕が抱いた感想だよ……。
「御主人サマ……大好きですよ〜。……んふ…ん……んんっ……」
「んぐ…ん……っ………」
嬉しそうな笑みを浮かべ、アイリスは僕のくちびるを奪う。
くちびるをふさがれ、鼻息を荒くさせながらも、アイリスをしっかりと抱きしめ、僕は思った。
ああ、結局今日も”僕がアイリスに”抱かれちゃうのね………。
………な、何だったんだ、今のは? 声が震えていたのも然ることながら、お袋が危篤だって!?
それに関して、別の同僚がメールを送っていた、とかなんとか言ってたっけか。
とりあえず、それを見てみるとするか。メール問い合わせ……っと。
♪ペロペロペロ♪
………あ、本当に着ていた。なになに……。
【課長には『お袋さんが危篤で1週間くらい休む』と報告しておいた。
たまにはゆっくり休め。ついでに、おみやげは忘れるなよ。片山】
ううむ。俺が本当に遭難していたら、どうしてたんだろうか? とりあえず、こいつにも電話すっか。
『はい、もしもし?』
「もしもし、みなみちゃんか? 山内だけど、片山いる?」
『……すみません、今運転中なので、ちょっと待ってもらっていいですか? すぐ折り返しますから』
「あ、はいはい」
俺は電話を切り、向こうから掛かってくるのを待つことにした。
あいつはあいつで、彼女とドライブ……か。俺もいつか、佳乃と一緒に………。
♪ピリピリピリピリピリピリ♪
お、掛かってきた。
「もしもし、片山? 悪いな、デート中に」
『いや、それはいいんだけど、いったい何やってたんだよ、長いこと。メール見たかい?』
「ああ。悪かったな、ちょっと長旅に出てた」
そう……長旅だったよな。しかも徒歩の。
『長旅って……唐突に何があったのさ?』
「ん、いろいろあったのよ。とりあえず、生きて戻ってきたから、明日は会社に行くから」
天狗に遭った、なんて言っても信じちゃくれないだろ。ま、いいけど。
『そっか。一応、メールのとおりに課長に言っておいたから、辻褄は合わせといてよ』
「分かった分かった。というか、勝手に人のお袋を殺すなよ」
そう、そのメールだよ、俺がいいたいのは。
クビを救ってくれたのはありがたいが、よりによって、何て理由なんだ。
『ん、他にいい理由が思いつかなかったんだよ。それに、まだ殺していないし。
大体、あのヅラだったら、そうでも言わなきゃ休みくれないでしょ?』
「ああ、それは言えるかもな。……それじゃ、デートの続き、楽しんでくれや。じゃあな」
さて、今日まで休み、か。話すべきこともあるし、久々にお袋に会いに行くかな……。
そんなわけで、久々にお袋に会いに行った。
当たり前のことだが、お袋は同僚のメールとは関係なしに、元気そうだった。
突然、俺が尋ねてきたことに驚いていたようだったが、『結婚したい女性がいる』と話したら、
それ以上に驚き、目を丸くさせながらも喜んでいた。
ただ、一緒に連れて来なかったことに、多少怒っていたようだった。
……仕方ないだろ。俺だって、今すぐにでも連れてきたかったが、佳乃には佳乃の事情があるわけだし。
さらにお袋は、佳乃がどんな女性なのか色々と聞いてきた。
俺は素直に、佳乃に関して知ってることを話した。――ただ一点、『人間ではない』ということを除いて。
お袋は俺をじっと見つめ、『何があったとしても、大切にしてあげなさいよ』と、ひとことだけ言った。
どこか憂いを秘めた、寂しげな声で――お袋自身、結婚生活が上手くいっていたとは言えないだけに、
やはり、どこか思うところがあるのだろう。何となくそう思った。
その後、俺は村の名産品を、会社の連中のお土産用として、
適当に買い漁り、一週間ぶりに無事、自宅へと辿り着いた――
「おはようございます」
「お、おはよう。どうだった、お袋さんは?」
翌日、会社に出ると、先に来ていた係長が俺を迎える。……何だか、心苦しいのだが。
「え? ええまあ、大したことはなかったようです。すみません、そんなので一週間も休んでしまって」
「そんなの、なんて言うものじゃない。家族は大事にしなきゃならないぞ」
「あ、はい、どうも……」
俺の言葉を聞きとがめ、係長が眉をしかめて言った。『家族は大事に』か……。
「おはようございま〜っす。……って、あれ? もしもし? あ、新條? ………何?
あ、ああ、分かった。お大事に」
などと考えていると、片山が現れた。かと思ったら、携帯を取り出し、誰かと話をしている。
相手は……どうやら俺が昨日、最初に電話した同僚のようだが……。
「……係長、今度は新條が、朝起きると動けないようで、休むそうです」
『今度は』って、妙な含みを持たせるなよ。というか、動けないって……昨日の電話の時から、
ちょっと様子が変だったが、何か関係あるのか?
「動けない? 何だ、そりゃ?」
「さあ? どうしたんでしょうかね?」
係長が片山の言葉に、目を丸くさせている。片山もまた、肩をすくめていた。まさか、なあ……。
「……ふう」
「うふふっ。御主人サマったら、会社休んでまで、私と一緒にいてくれるんだ♪ うっれしいっ」
電話を放り投げ、ため息をつく。そんな僕に体を絡ませ、嬉しそうに微笑むアイリス。
「ア……アイリス………」
「大丈夫、昨日はあんなに頑張ってくれたんだから、今日は一回だけでいいよ♪」
「ちょ……い、一回って………」
「あとは……今日はずっと、こうしていたいな……って」
アイリスは、怯える僕をよそに、頬をほんのり赤く染めながら、僕の胸に顔をうずめる。
僕はかろうじて動く手で、アイリスの頭をそっと撫であげた――