半年後――5月の連休に入り、俺は久々に佳乃の住む山を訪れた。
冬の間は、深い雪に覆われているため、行くことが出来なかったし、4月は仕事が忙しかったのだ。
正直言って、今も佳乃が待っていてくれてるかどうか、少し不安な気持ちが混ざっていた。
何せ、理由はともかくとして「また来る」と言いつつ、半年も音沙汰が無かったのだから。
「えっと……確か、このあたり、か……」
佳乃と別れたあたりの場所に辿り着き、お守りを握り締めながら、登山道を外れていった。
「あ……」
庵が見えてきた俺は、思わず声が漏れる。庵のすぐ横の井戸に、幾つかの人影が見えたのだ。
「ううむ、だいぶ緩んできたとはいえ、まだまだ冷たいのう」
「そうですね。でも、だからと言って、お湯で洗ってはいけませんよ?」
井戸から汲んだ水を、隣の桶にあけ、両手に息を吹きかけながら、人影の片方――絹代がつぶやく。
そんな絹代に、もう片方の人影――佳乃は優しく声を掛けている。
後ろ向きなので、その表情は見えないが、多分、いつもの穏やかな笑みなのだろう。
「分かっておる、分かっておるが……」
絹代は、手をゴシゴシ擦り合わせながら、なおもぼやき続けている。
「佳乃! 絹代!」
俺はこらえきれずに、大声で二人の名を呼んだ。
佳乃は一瞬、ビクンと体をすくませ、ゆっくりとこちらを振り向く。
「お、おお! 信幸殿!」
「の……信幸様……!」
絹代がぱっと顔をあげ、笑顔で俺に向かって手を振る。
いっぽう、両手を口に添え、信じられないという顔で、俺を見つめる佳乃。
だが俺は、もっと信じられない佳乃の姿を目撃して、固まってしまった。
「よ…佳乃? そ……そのお腹…も、もしかして?」
そう、佳乃のお腹は、ぷっくりと膨れていた。まるで……。
「は、はい……。の、信幸様のお子を…授かりました……」
顔を赤らめた佳乃は、お腹をゆっくりと撫でながら答える。
しばしの間、俺は声ひとつ出せずに、立ち尽くしていた。
「あ、あのう。お互い、久方振りに出会えて嬉しいのは分かるが、
中に入ったほうが、落ち着いて話せるのではないか? わらわは夕餉の仕度をせねば、ならないしの」
「え? あ、ああ、そうですね。の、信幸様、ど、どうぞ中へ」
どれだけそうしていたのか、不意に絹代が俺たちに声を掛けてきた。
佳乃も、絹代の意見に同意して、俺に庵に入るように勧めてくる。
「あ、ああ。ありがと、佳乃、絹代……」
俺は、真っ白になった頭の中で、そう答えるのが精一杯だった。
「俺の子が……中に…」
「はい。われが操を捧げたお相手は、信幸様ただお一人でございます。
……紛れも無く、この子は信幸様のお子です。」
庵の中で、佳乃のお腹を撫でながら、俺はつぶやいた。
佳乃は、そんな俺の手を軽く握りかえしながら、コクリと頷く。
いや、それに関しては、佳乃のことを信じているけどさ。
「それにしても……いつだろ?」
思わずぽつりとつぶやく。
確かに佳乃相手には、何度も中出ししていたから、命中してもおかしくはないが……。
などと思っていると、佳乃から思いもよらないひと言。
「……わ、われには、何となくではありますが、いつ授かったか、心当たりが……」
「えっ!? い、いつ?」
身に覚えなら、山ほどあるんだが、さすがにいつ命中したか、までは見当もつかないぞ。
やっぱり、女は男と違う”何か”を持っているのかねえ? それとも、それが天狗のなせる業か?
「あ、あのとき……信幸様が、白菊を手にされたときも、そ、その……営みに、及びましたが……」
顔を赤らめ、口ごもる佳乃。そういえば、そんなこともあったよな。
あのあと、どうしたわけか、白菊が佳乃の中に入り込んでしまったんだっけか。
「あれ以来、われの中で殿方としての部分が、姿を現さなくなっているのです。だから、もしかしたら……」
そういえば、白菊に体を貸していたときも、佳乃の家でコトに及んだときも、
別れ際に抱いたときも、佳乃の男根は姿を現していなかったが……。あ、あれ? だとすると?
「………お嫌ですか?」
「え?」
俺が黙り込んでいると、佳乃が不安げな表情でポツリとひと言。
一瞬、意味が分からずに、思わず聞き返してしまう。
「お嫌ですか、と聞いたのです。われが子をなしたことが」
「い、いや、そんなことないさ。だって、俺と一緒になってくれるんだろ?」
「あ………。で、では何故……?」
結婚するのなら、いずれ子どもが出来る。ただ単に、その順番が逆になっただけ、さ。
そんな俺の答えに、佳乃ははっとした表情で俺を見つめながら、ふたたび疑問の言葉を口にする。
「ん。確かあの時、白菊の心が佳乃の中に入り込んでしまったよな。あれも関係あるのかな、と思ってさ」
「……い、いえ。多分それは関係ないと思います。あのときは……いえ、止めましょう。
もう終わったことなのです。信幸様が、われを娶ってくれると、仰っていただけた今は……」
「おいおい、そんなこと言われると、かえって気になるよ。どういうこと――」
意味ありげにつぶやきながら、俺に体を預ける佳乃。
そんな佳乃に、さらに俺が問いかけようとした途端――
「さて、夕餉が出来上がったぞ。信幸殿も、わらわの料理がどんなものか、口にしてみてくだされ」
まるで、俺の言葉を遮るように、絹代が鍋を抱えて部屋に入ってきた。
……ううむ、仕方ない。またいつか、聞くことも出来るか。……に、しても絹代が料理? 大丈夫か?
絹代は半年前に比べ、料理の腕はかなりあがっているようだった。
やはり、佳乃が本気を出して、教え込んだ成果なのだろう。
夕食を食べてからは、3人で半年前の出来事や、今までのいろいろなことを話し合っていた。
そのうち、日はすっかり暮れ落ち、今日は庵に泊まることになった。
「あ…の、信幸様……」
夜中、目を覚ました俺は、隣に眠っている佳乃をそっと揺り起こした。
佳乃は、眠たげな目を擦りながらも、ゆっくりと上半身を起こす。
「……よ、佳乃……な…いいだろ?…………」
「そ、そんな……お、お腹にお子がいますのに……」
佳乃の肩を抱きすくめながら、下腹部に手を伸ばした。
俺の手を掴みながら、佳乃は戸惑い気味に小声でつぶやく。
「大丈夫さ。たまにはスルことしなかったら、子どもが出てくるときに、佳乃が辛い思いをするらしいぞ?」
「……そ、そうなんですか?」
「ああ、そうらしいな」
佳乃が心配そうな顔で、俺をじっと見つめる。正確なことは俺もよく知らない。
だが、正直言って俺自身が、佳乃とコトに及びたかった。
……妊娠している相手とイタすのは、人としてどうかという話も、あるかもしれないが。
「で、でもここでは……き、絹代様が……」
それでも佳乃は、ちらりと隣の部屋を見やりながら、小声でささやき続ける。
佳乃の言うとおり、襖一枚隔てた隣の部屋では、絹代が眠っているはずだった。
勿論、そんなことでひるむ様な俺ではない。……自慢できるかどうかは、謎ではあるが。
「大丈夫だって。前なんて、目の前でヤッてたけど、気づかなかったじゃないか。だろ? それに……」
「あ、あのときは……あ、ああんっ」
俺の言葉に抵抗の意を示そうとするが、下腹部と胸に手を這わせると、佳乃は途端に悶えだした。
「体は正直に反応しているぞ、佳乃」
「の、信幸様……あ、ああ…ああっ……」
耳元でそうささやくと、佳乃はイヤイヤと軽く首を振りながらも、口からはあえぎ声を漏らし続けていた。
「ふうん、やっぱり子どもがいるせいか、胸が張ってきたな」
「あ……は、恥ずかしいです…信幸様……あんっ……」
佳乃の服をめくりあげ、豊かな胸をじっと見つめる。うん、前よりも張りがあるし、大きい気がする。
軽く乳首に吸いついてみると、佳乃は甘えた声をあげながら、悶えだした。
「でも、感じ方は変わってないみたいだな。これじゃ、子どもに乳をやるとき、大変じゃないか?」
「の、信幸様! あ、ああっ! ああっ! んっ!」
言いながら、俺は片方の胸にむしゃぶりつき、残ったもう片方の胸を、左手で軽く掴みあげた。
それにしても……本当に、前よりも敏感になってないか?
「子どもに乳を与えてる最中に、感じだしたりしないように、今から訓練しておこうか?」
「あっ! は、ああっ! の、信幸様、信幸様っ!」
胸から口を離し、背後に回りながら、今度は両手で佳乃の胸を揉みしだく。
そのまま牛の乳搾りのように、乳首を同時に捻りあげると、
佳乃は上半身をビクンと仰け反らせながら、たちまち甲高い声であえぎはじめる。
「おいおい、絹代が目を覚ますんじゃなかったのか?」
「は……あ…。の、信幸様……い、意地悪です……あ、ああっ!」
そんな佳乃を見て、呆れ気味につぶやく俺の言葉に、佳乃は真っ赤な顔をこちらに振り向かせ、
くちびるを尖らせながらも、歓喜の声をあげ続けていた。
「佳乃……俺のも、シテくれよ……」
しばらくの間、佳乃の胸を愛撫していた俺は、不意に佳乃から離れ、両足を開いて座り込む。
そこには、既に完全に勃ちあがったモノが、先端を透明な汁で湿らせながら、ピクピク震えていた。
「は、はい……。むぐ…ん……んぐ…ん…んんっ…ふっ………」
俺の言葉に、佳乃は素直に頷き、四つんばいになって俺の元にひざまずくと、
そのまま根元までひと息に、俺のモノを咥えこんだ。
かと思うと、舌先をモノに絡ませ、ゆっくりと顔を上下に動かし始めた。
「ああ……イイ…イイよ……佳乃………」
さらに、頬がへこむほどの勢いで、モノを吸いたてようとする。
佳乃の口がもたらす、あまりの快感に、俺は思わず声を漏らしていた。
「ん…んふ……んっ…ん…んんんっ………」
俺の声が聞こえたのかどうか、佳乃は夢中になって、顔を上下に激しく揺さぶりだした。
あまりの激しさに、佳乃の口の端から唾液があふれだす。
「ふん……ん…っ…んっ……」
「うあ…あ……よ…佳…乃…っ…も、もう俺……」
佳乃はモノの先端を咥え込んだまま、あふれだした唾液を右手にまぶし、
そのままモノに塗りたくって、懸命にしごきあげていた。
こみ上げる刺激に、思わず腰を浮かせながら、俺はうめき声をあげる。
や、やばい……これ、もうイッちゃうぞ………。
「はひ……いふでも…………どふぞ…」
「な、よ、佳乃……う、ううっ!」
モノを咥え込んだまま、佳乃は俺を見上げてつぶやいた。ついでに、モノをしごく勢いを強めて。
次の瞬間、俺はあっけなく佳乃の口の中で、果ててしまっていた――
「それじゃ…いくぞ………」
「……は、はい……。で、でも本当に、本当なんですか?」
四つんばいになった佳乃の背後に回り、お尻を両手で押さえながらつぶやく。
佳乃は顔だけをこちらに向け、不安げな表情で質問をしてきた。
「ん。昔聞いた話ではそうらしいぞ。というか、こんなにぐしょぐしょなのに、止めること、できるのか?」
俺はそう答えながら、佳乃の割れ目に指を潜りこませる。
佳乃の割れ目は、先ほどの俺の愛撫のせいなのか、それとも、
俺のを咥えたので興奮したせいなのか、すでにしとどに濡れそぼっていた。
まあ、真偽のほどは定かではないが、佳乃がこんな状態なら、しない道理は無いだろう、うん。
「あ、ああんっ……の、信幸様……ま、また、そんな意地悪言わないで…あ、あんっ……」
「……っ!」
懇願する、佳乃の返事が終わるか終わらないかのうちに、俺はモノを佳乃の中へと突き立てた。
モノが根元までもぐりこむ前に、佳乃の中で何かにぶつかったような感触を覚える。
これってやっぱり……ぶつかっているのは…………だよなあ。
一瞬、そんなことをちらりと考えたが、モノをとおして全身に痺れるような刺激が、
凄まじい快感となって駆け巡り、そんな考えが吹き飛んだ俺は、夢中になって腰を動かし始めた。
「あっ! ああっ! ああんっ! の、信幸様っ! 信幸様あっ!」
「よ…佳乃……す、凄え気持ちイイ……」
腰を動かしたまま、佳乃に覆いかぶさるようにして、胸に手を伸ばした。
佳乃は、俺の手をしっかりと握り締めながら、甲高いあえぎ声を漏らしだす。
「の、信幸様っ! あっ! ああっ! ああ、ああんっ!」
甲高い声を漏らしながら、佳乃は自ら腰を振り乱し始めた。
もはや、隣の部屋で絹代が寝ていることも、気にならないくらいの乱れっぷりだった。
「ああっ……よ、佳乃…佳乃……あ、ああっ……」
「……あっ! ああっ! のっ、信幸様、信幸様っ!」
一方の俺もまた、腰の動きとは別の快感が加わり、胸を揉みしだく手にも、思わず力がこもる。
「…あっ、ああっ、ああ、ああっ、ああっ! ああっ! あああんっ!!」
「く……う………よ、佳…乃…愛してる、愛してるっ……」
やがて、佳乃は上半身を仰け反らし、ひときわ甲高い声とともに絶頂に達した。
佳乃が絶頂に達した途端、俺もまた全身を震わせながら、佳乃の中へと射精していた。
「ああ……の、信幸様のが…中に……あ、熱い……」
俺の手を握り締めながら、佳乃は恍惚とした表情でつぶやく。
「……あ、あんっ? の、信幸様……?」
そんな佳乃の上半身を、繋がったままの状態で、ゆっくりと抱えあげると、
佳乃は俺のほうを振り返り、怪訝そうな顔でこちらをじっと見つめてきた。
「佳乃………愛してるよ、これからもずっと」
佳乃をじっと見つめながら、耳元で愛の言葉をささやくと、佳乃の顔はたちまち真っ赤に染まった。
「の、信幸様……。わ、われは…われは、この世で一番の果報者です………っ…」
と、佳乃は自分のお腹を優しく撫でながら、優しく微笑む。その目に光るのは……涙?
俺は、その涙を目にした途端、引き寄せられるように佳乃を抱きしめ、そっとくちびるをふさいでいた――
「の、信幸様?」
「何?」
腕枕の佳乃が嬉しそうな声で、俺に話しかけてくる。俺は軽く佳乃の頭を撫でながら返事をした。
「………生まれてくる、お子の名前、どういたしましょうか?」
……しまった、何も考えて無いや。もっとも、子どもが出来ていたなんて、想像もしていなかったし。
「そ、そうだな……男の子と女の子と、両方の場合を考えないと、な」
「…………何となくではありますが、女の子のような気がします」
「そ、そうなの?」
あたふたと答える俺を見て、佳乃が自分のお腹を見つめながら、ポツリとつぶやく。
うーむ、やはり母親ってのは、そういうのを感じるのかねえ?
「……うふふっ、何となく、ですよ」
「何だよ、それ? うーん……俺たちの名前から、一文字ずつ取るってのは、どう?」
俺の顔を見て、うふふっと微笑む佳乃。そんな佳乃に、俺は肩をすくめながら答えた。
……安直といえば安直かもしれんが、俺たち二人の子どもだ、ってすぐ分かるし、な。
「そう……ですね。では男の子の場合は……」
「佳信?」
間髪いれず答えた俺の返事に、佳乃が眉を曇らせる。……何だ、どうした?
「あ、あのう、信幸様。そ、それじゃあ、われの名と、区別がつきづらくなってしまいます」
「ああそっか。じゃあ、佳幸ってのは?」
佳乃の言葉に納得した俺は、もう片方の文字を組み合わせた。
「ええ……いい名前ですね。では、女の子は……」
「幸乃、かな?」
「ええ。こちらも、いい名前。………いっそ、どちらの名前もつけたいくらいですね」
俺の答えに、嬉しそうに微笑みながら、佳乃はそんなことを言い出す。
そりゃあ無理だろ。……それに。
「なあに。子どもは一人だけ、ってわけじゃないんだ。次の子どもに、つければいいわけだろ?」
「あ……そうですね。信幸様の、おっしゃるとおりです」
俺は佳乃を抱き寄せながら、そう答えた。はっとした表情で俺を見返し、にっこりと微笑む佳乃。
「………なあ、佳乃」
「……何ですか、信幸様?」
「俺も……俺も幸せだよ、佳乃………」
そんな佳乃に、俺は笑みをかえしながら、耳元でささやいた。
佳乃は何も言わずに、俺の胸に顔をうずめてきた――
おしまい