「さて、と。ようやく今年も終わったかー……っと」  
「で、山内は今年はお袋さんのところに帰るのかい?」  
仕事納めも無事終わり、帰りの駅に向かいがてら、同僚の新條が俺に話しかけてきた。  
「ああ、そうだな。去年は当直で帰れなかったし、今朝お袋から電話が来て、何だか分からんが、  
『今年は絶対帰って来い!』とか言われたし、久々に田舎でのんびりさせて貰うよ」  
……そうなんだよなあ。お袋、電話口で妙に気合入っていたからなあ。何があったんだ?  
「ふうん。ま、ゆっくりと、骨休みしてきてちょーだい。仕事はきっちりと残しておくからさ」  
「くぉら」  
俺の返事に、新條は肩をすくめながら言った。……こいつなら、本当にやりかねん。  
「まあそれは半分冗談。……じゃ、よい年を」  
「ああ、よい年を」  
呆れ顔で答えた俺を見て、新條はにやりと笑いながら、別れの挨拶を送ってきた。  
……まったく、自分が当直だからって、なあ……。  
 
 
「ふ〜う。ん? 何だ、あの騒ぎは?」  
いつもと同じように帰りの電車に乗り込み、いつもと同じように自宅近くの駅に着き、  
いつもと同じように改札をくぐった俺は、いつもと違う光景を目にして、思わずつぶやき声が漏れた。  
駅の出口が何やら人だかりで、ごった返しているのだ。  
……まあ、俺には関係ないさ。さっさと家に帰ろう。  
そう思って、足早に通り過ぎようとした次の瞬間、  
 
「おお、信幸殿!」  
 
どこかで、聞いたことのある声を耳にして、思わず立ちすくんでしまった。  
……こ、この声は、もしかして……。  
「やはり信幸殿であったか! いやあ、探しましたぞ!」  
声をしたほう――すなわち、人だかり――を恐る恐る振り向くと、  
見覚えのある人影が、聞き覚えのある声で叫びながら、ぴょんぴょん飛び跳ねている。  
「へっ!? き……絹代!?」  
そう、山で出会った天狗の絹代が、人だかりの中で「やっほー」とばかりに手を振っていたのだ。  
もっとも、その格好は、かつて出会ったときと同じような、山伏の衣装ではなく、  
フード付きのブラウンのダウンコートと黒地のセーター、それにチェック柄のラップスカートという、  
どこからどう見ても、普通の人間と同じような服装だった。  
懐かしさに、人だかりを掻き分け、絹代のもとへ歩み寄ろうとした俺だったが、  
絹代の背後の男性の姿を目撃して、思い切り固まってしまった。  
「ふむ、信幸殿か。薫の勘は当たったようだの」  
「いえ、それほどでも……」  
「た……琢磨さんと、薫さん!?」  
絹代の父である琢磨氏が、隣にいる妙齢の女性――薫さん――に向かって、話しかけていたのだ。  
しかも、琢磨氏の場合、思いっきり山伏の格好で、錫杖まで手にしている。  
……こりゃあ、人だかりが出来るのも、無理ないよなあ……。  
 
「……な、な、何をやっていたんですかあ? あんな場所で?」  
俺は帰り道のタクシーの中で、後部座席の琢磨氏に話しかけた。  
……本来は、徒歩で十分な距離なのだが、あんな格好の琢磨氏がいたら、目立ってしょうがない。  
それに駅員がやって来て、面倒なことになる前に、速攻で離れる必要があったわけだし。  
「うむ。山が本格的に雪に覆われる前に、何としても信幸殿と佳乃にお会いしておきたくての」  
「は、はあ。そ、そう…ですか」  
後部座席で、悠然とした表情で返事をする琢磨氏。その言葉に、胸の鼓動が一気に高まった。  
……まさか、あのときの”お芝居”が、バレてしまったのか!?  
そう思った俺は、たどたどしく返事をするのがやっとだった。  
「すみません信幸様、私たちは普通の服を勧めたのですが、琢磨様がどうしても、と……」  
口をパクパクさせる俺に向かって、薫さんがペコリと頭を下げてきた。  
まさに、烏の濡れ羽色という表現がぴったりな、黒い髪の毛が揺れる。  
その薫さんは、髪の毛と同じく黒のロングトレンチコートと、濃いグレーのプリーツスカートを穿いている。  
ただまあ、手にしているでっかい鞄から、布に覆われた何本かの、  
細長い物が飛び出しているようだけど、それが何なのかは、気にするのは止めておこう。  
 
「同じことを何度言わせるのだ、薫よ。この服装は、我ら天狗一族が里から出るときに……」  
「ま、まあまあ父上。その話はまたあとで……」  
「何を言うか絹代。いついかなるときも、天狗としての自覚を持ってだな……」  
薫さんの言葉を耳にして、琢磨氏が聞き捨てならぬと言う表情で、説教を始めようとする。  
絹代が慌てて琢磨氏をなだめようとするが、琢磨氏の説教は止まろうとしない。  
「う、運転手さん、そこのアパート前でお願いしますっ!  
た、琢磨さん、その話はまたあとでゆっくりと。と、とりあえず、着きましたっす」  
「何? そうかそうか。さて、信幸殿と佳乃の子が見れるのだ。楽しみだのう」  
と、丁度アパートが見えたのを確認した俺は、慌ててタクシーを止めながら後ろに話しかけた。  
琢磨氏は説教をピタリと止め、悠然と笑みを浮かべる。……まったく、何と言えばいいのか。  
「はい、800円ね」  
「ええどうも」  
……お金を渡すとき、タクシーの運ちゃんが、こちらを哀れみの表情で見たのは、  
果たしてどんな意味があったのだろう?  
いや、意味は大体分かったのだが、あまり想像はしたくなかったというのが、本音なのだが。  
 
「ただいま」  
「あ、お帰りなさいませ、信幸様。お夕食は………た、琢磨様っ!?」  
呼び鈴を鳴らしてしばし。佳乃が玄関を開けるとともに、俺を笑顔で出迎える。  
だがその笑顔は、俺の背後の琢磨氏を目にして、たちまち驚きの表情に変わっていった。  
「久しいな、佳乃。わらわたちもおるぞ」  
ぽかんと口を開けている佳乃に向かって、絹代がひょいと顔を出しながら微笑みかける。  
「き、絹代様に、薫姉まで……ど、どうしたのですか?」  
佳乃はただ唖然とした表情で、つぶやくように声をあげていた。  
「どうもこうもない。絹代から、あの時の仔細を耳にしたのでな」  
「あ……あの時の、ですか……」  
琢磨氏の言葉を耳にした佳乃は、声を震わせながら、視線を床へと落としていた。  
 
「も、申し訳ありませんでした!」  
中に入り、琢磨氏に座布団を差し出した途端、佳乃は琢磨氏に向かって土下座をした。  
……そりゃそうだよな。嘘をついた挙句、山から離れて俺と一緒に暮らしているんだ。  
逃げたと思われても、仕方が無いよな……。  
が、次の琢磨氏の行動に、俺たちは我が目を疑った。  
「何を佳乃が謝る必要がある。謝らねばならないのは、こちらのほうじゃ」  
「な! た、琢磨様! お、面を上げてくだされ!」  
琢磨氏は座布団から降りたかと思うと、俺たちに向かって深々と頭を垂れてきたのだ。  
佳乃が慌てて、琢磨氏に声を掛けるが、琢磨氏はそのまま言葉を続ける。  
 
「何の。あの時、佳乃の想い人であった信幸殿に、ご無理を聞いていただいて、  
絹代の結婚相手の、お芝居をしていただいていたとか。  
そうとも知らずに、白菊の探索を命じてしまって、真相を耳にしたときは、震えが止まらなかったぞ」  
「え? あ、あのう……」  
その言葉に、佳乃は目を丸くさせて、琢磨氏と絹代を見比べる。  
「改めて、わらわからも礼を言わせてくれ。ありがとう、佳乃に信幸殿」  
と、絹代が俺と佳乃に、軽く会釈をしてきたかと思うと、琢磨氏に気づかれないようにウィンクしてきた。  
……そ、そういえば、いつだったか、そんなことを話していたっけか。  
「佳乃、お土産に佳乃の好物の、猪の肉を持ってきたよ。  
今夜は牡丹鍋にいたしましょう。皆様も、それで依存はありませんね?」  
「か…薫姉……」  
話は終わったとばかりに、薫さんが鞄の中から、薄い木の皮に包まれた肉を取り出した。  
薫さんも薫さんで、佳乃に向かって優しく微笑みながら、ちらりとウィンクしている。  
佳乃は驚きと感謝のない交ぜになった表情で、薫さんをじっと見つめていた。  
……というか、そんなもん鞄に入れてたのか、薫さん。  
「うむ。………それはそうと……ほほう、これが信幸殿と佳乃の子か」  
「あ……は、はい」  
琢磨氏は、薫さんの言葉に頷いたかと思うと首を巡らし、  
揺りかごの中で、手足をばたつかせている幸乃を目にして、ゆっくりと近寄っていった。  
「おお、よしよし……。うむうむ、佳乃に似て器量良しになりそうだな」  
「た、琢磨様……ご冗談を」  
幸乃を抱き上げ、顔をほころばせながら、琢磨氏がひとこと。  
困ったような、ほっとしたような表情を見せながら、佳乃は顔を赤らめていた。  
 
「と、ところで琢磨様。こちらへはいつまで?」  
「うむ。あまり長居しても、お前たちに迷惑が掛かるし、家を空けていても長老が煩いのでな。  
今年中には、お暇させていただこうと思っておるよ」  
夕食を食べ終え、食卓を布巾で拭きながら、佳乃が琢磨氏に問いかけた。  
日本酒を空けて、すっかり上機嫌の琢磨氏は、佳乃にそう答える。  
……え? そ、それって……。  
「あ、あのう……わ、われらは明日から、お義母さまの家に厄介になろうと思っていたのですが……」  
もの凄く言いにくそうに、琢磨氏に話し掛ける佳乃。  
……しまった。俺が代わりに言うべきだったよな、夫として。  
「ほほう、信幸殿の御母堂に? ご迷惑でなければ、我らもお邪魔させていただこうかの?」  
「え? そ、それこそ大丈夫かな? ちょっと……お袋に連絡してみるね」  
琢磨氏の言葉に、俺は思わず携帯電話を取り出していた。  
……会うのは構わないけれど、お袋の家はここより狭いぞ。  
 
「あ、もしもしお袋? 実は、佳乃の………親戚がうちに遊びに来てさ、  
俺たちと一緒に、明日そっちに行きたいって言うんだけど……大丈夫かな?」  
 
「ん? 信幸殿は、いったい何に話しかけておるのじゃ?」  
「えっと……あれは、遠くの人と連絡を取るための、道具なのですよ」  
「ふうむ。あんな小さな物で、しかも普通の声で相手に届くのか。便利なものじゃのう」  
俺が電話を掛ける姿を見て、絹代が怪訝そうに首をかしげ、佳乃が答える。  
……確かに、ああいう山の中じゃあ、目にする機会はほとんどないよな。  
 
『まあまあ、それホントなの? もう、何人でも連れてきなさいな』  
「……おいおい。泊まる場所、無いんじゃないのか?」  
電話の向こうで、お袋が嬉しそうに返事をする。  
『大丈夫大丈夫、それくらい何とかするから。いい? 何としても連れてくるんだよ?』  
「あ、ああ……分かった………それじゃ、また明日」  
「ど、どうだったのですか? 信幸様?」  
電話を切ると、食後のデザートにとリンゴの皮を剥いていた佳乃が、声を掛けてきた。  
「……えっと。何だかよく分からんが、大歓迎らしい」  
「は、はあ?」  
俺がそう答えると、佳乃は訳が分からない、という顔で俺を見返してきた。  
……しょうがないだろ。俺だって、訳が分からないんだからさ。  
 
 
「佳乃……佳乃……」  
「どうしましたか? 信幸様……」  
――夜、俺は佳乃をそっと揺り起こした。佳乃は寝ぼけ眼で俺を見返す。  
「俺……もう我慢出来なくて……」  
「そ、そんな、信幸様……と、隣の部屋に、琢磨様たちがいらっしゃいますのに」  
俺は佳乃の太ももを撫であげ、そのまま抱きすくめようとしたが、佳乃は身をよじらせて逃れようとする。  
確かに、ふすま一枚隔てた隣の居間では、琢磨氏たちが寝ている。  
だが、そんなことくらいで怯む俺ではない。……はっきり言って、自慢なんて出来やしないが。  
「何言ってるんだよ。佳乃だって昔、絹代がすぐ隣にいたってのに、オナニーしていたじゃないか。  
それに、お袋の家に戻ったら、さすがにもう出来ないだろ? 今年の姫納めってことで、な?」  
「ま、またそれを………まったく……信幸様ったら……っ、んんっ……」  
「んふ……んっ……っ……」  
佳乃は呆れかえりながらも、ゆっくりとネグリジェのボタンを外し始める。  
俺は、露わになった佳乃の胸に、そっと舌を這わせながら、両手で佳乃のパンティをずりおろした。  
 
「あ…っ、ああっ……の、信幸様……」  
「ん? もう感じているのか? 毎日幸乃におっぱいあげてて、慣れたんじゃなかったのか?」  
甘えた声を漏らす佳乃に、俺はそう問いかけ、乳首をチュッチュッと吸い上げる。  
右手はゆっくりと、佳乃の割れ目あたりを、さわさわと撫でまわしながら。  
「で……でも、の、信幸様…あっ、んっ……は…ゆ、幸乃と違……ああんっ……」  
「違うって? いったい、どう違うってのかな?」  
佳乃は喘ぎながらも、必死に答えようとしている。  
俺は佳乃の中へと中指を潜り込ませ、もう片方の胸を左手で揉みしだきながら、さらに問いかける。  
「うあ……あ、ああっ……の、信幸様は……そ、その……あ、あんっ……」  
声が声になってない佳乃。俺はさらに指の出し入れを激しくさせながら、佳乃の胸を吸い上げた。  
すると、口の中にほのかに甘い味が広がる。  
「んむ……ごく…んっ………でも俺の吸い方でも、ちゃんとおっぱいは出てくるぞ?」  
「……だ、だって……あ、あ……あ、ああんっ!」  
俺は両手をうごめかしながら、佳乃の母乳を飲みくだし、軽く乳首に歯を立てた。  
その途端、佳乃は全身を仰け反らして、軽く絶頂に達していた。  
 
「よ、佳乃……」  
「……の、信幸様……あ…ああっ……」  
「で、今日は前と後ろ、どっちがいい?」  
佳乃は絶頂に達した余韻に浸ったまま、俺の体に絡みついてきた。  
そんな佳乃の耳元で、俺はそっとささやく。  
「あ……そ、その…きょ、今日は……ま、前に、前にお情けを……」  
「へえ、前なんて久々だね。何かあったのかな?」  
顔を赤らめながら、ぽそぽそとつぶやく佳乃。そんな佳乃に、俺はわざとらしく問いかけた。  
「そ、そんな! そんなこと……ありません……」  
一瞬、ビクンと身をすくめたかと思うと、消え入るような声でつぶやく佳乃。  
「そういえばそっか。どっちでも構わない、イヤらしい女だもんね、佳乃って」  
「な! そ、そんな……」  
追い討ちを掛けるように、大袈裟にため息をつきながら、俺は言った。  
途端に、泣きそうな顔で俺を見上げる佳乃。……ちょっと、やりすぎたかな?  
「照れること無いさ。俺だって、そんなイヤらしい佳乃が大好きなんだから……んっ」  
「…ん、んふ……ん、んっ……んんっ……」  
俺は苦笑いを浮かべながら、佳乃に口づけし、くちびるの隙間から舌を潜り込ませる。  
すると佳乃は、待ってましたとばかりに、俺の舌に自らの舌を夢中になって絡めてきた。  
 
「じゃ……いくよ……」  
「あ…あ、の…信幸様……」  
くちびるを離した俺は、佳乃の頬に手を沿えながら、ささやいた。  
佳乃は、俺の手をそっと握り返し、じっとこちらを見つめ返したまま、ゆっくりと自らの両足を開く。  
「…っ、んっ……」  
「ああっ…あは、あっ……」  
手探りで、佳乃の割れ目を探り当て、ひと息にモノを潜り込ませた。  
途端に、二人の口から歓喜の声が漏れ出す。  
「……ああ、佳乃…いい…気持ちいいよ……佳乃……」  
「はっ、あ…あっ、ああっ…あんっ、ああ、あんっ、ああんっ!」  
ゆっくりと、円を描くように腰をうごめかせながら、うわ言のように佳乃に向かってつぶやく。  
佳乃の口からは、次々と喘ぎ声が漏れ出す。もはや、声を忍ばそうという気は、さらさら無いようだ。  
「佳乃……愛してる…愛してる、佳乃、佳乃……っ……」  
「…あっ、ああ、あんっ……むぐ…ん…んふ……ん、んんっ……」  
俺は佳乃をしっかりと抱きしめながら、腰を前後に動かし始めた。  
あまりの快感に涙がこぼれ、無意識のうちに、次々と言葉が漏れ出す。  
佳乃は、そんな俺を優しく抱き返しながら、くちびるを重ねてきた。  
「はあ……はあ、佳乃……佳乃っ……」  
「あ、ああっ……の、信幸様…信幸様……」  
少しずつ、腰の動きが激しくなってきた。それとともに、お互いを呼び合う声も甲高く鳴り響く。  
「くっ……イ…イクぞ………。よ、佳乃……」  
「ああっ、の、信幸様……あ、ああっ、ああっ、あっ、ああっ」  
やがて、二人が絶頂に達しようとした次の瞬間――  
 
「おぎゃーっ、ひく、ん、んっ、おぎゃーっ、おぎゃーっ」  
「な……ゆ、幸乃…?」  
「あ………よ、夜泣きの時間、ですね。さ、幸乃ちゃん、おいで」  
突然、隣で眠っていた幸乃が、大声で泣き出し始めた。  
佳乃は、我に返ったように、ゆっくりと体を起こし、幸乃を抱えあげる。  
……畜生、いいところで。何て親不孝な娘だ。  
「んぶ…ぐず……ぐずっ……っ……」  
幸乃はむずがりながらも、佳乃の胸に吸いつくと安心したのか、すっかりおとなしくなった。  
「まったく、幸乃ちゃんたら……っ」  
胸に吸いつく幸乃を、困惑しながらも、穏やかな笑みで見つめる佳乃。  
その穏やかな表情と、一糸まとわぬ真っ裸というギャップが、俺に妙な興奮を呼び覚ましていた。  
「よ…佳乃……お、俺……」  
「ひゃっ!? の、信幸様っ!?」  
背後から、幸乃が吸いついている胸とは逆の胸を揉みしだき、耳元でささやく。  
佳乃は背筋をビクンとさせたかと思うと、目をパッチリと見開きながら、俺のほうを振り返った。  
「まだ……まだイッてないんだ…いいだろ?」  
「の……信幸様…で、でも……あ、あんっ」  
 
軽く佳乃の耳に歯を立て、左手は佳乃の下腹部をまさぐりながら、俺はささやき続けた。  
佳乃は、口では抵抗しているが、体は快感を求めているのか、ゆっくりと両足を開き始める。  
「そんなこと言ってもな。佳乃だってまだイッてないんだし、このままじゃ我慢出来ないだろ?」  
両足が開いたのを確認した俺は、そのまま佳乃の割れ目へと指を潜り込ませた。  
さっきまでの交わりで、すでに濡れそぼっていた佳乃の割れ目は、  
ぬちゃぬちゃと音を立てながら、難なく俺の指を飲み込んでいく。  
「あっ……せ、せめて幸乃ちゃんに、おっぱいをあげてから…じゃ、あ、ああんっ」  
そう言いながらも、佳乃は幸乃を抱えたまま中腰になり、背後から貫きやすい姿勢になった。  
「いいよ。幸乃にも、夫婦の営みに参加してもらおうじゃないの……っ」  
俺は佳乃の腰を抱え、ひと息に背後からモノを突き立てた。  
「の……信幸さ…あっ、ああっ、あんっ、あ、ああっ、ああんっ」  
「……よ、佳乃………っ、佳乃おっ!」  
佳乃は片手で幸乃を抱えながら、片手で揺りかごにしがみつき、あられもない声をあげはじめる。  
一方の俺は、夢中になって佳乃に腰を叩きつけていた。  
「あっ! ああっ! ああっ! のっ、信幸様っ! あああっ!!」  
「くう…っ、イ…イクぞ…。よ、佳乃……佳乃っ!! くっ! うううっ!!」  
それからすぐに、俺たち二人は獣のような声をあげながら、絶頂に達していた――  
 
「んむ……ん、んっ……ん……」  
「よ、佳乃……」  
幸乃におっぱいを吸わせながら、首を横に向けて、真横に立つ俺のモノを咥え込んでいる佳乃。  
舌先をそよがせ、頬が凹むような勢いで、モノを吸い上げようとまでしていた。  
俺が「今日はしなくていい」と言ったのに、佳乃は「いつもしていることだから」と、譲らなかった。  
……確かにエッチの後は、いっつも口で綺麗にしてもらってたけど、なあ。  
「んふ…ん……っ、ん…んんっ……」  
「あう……くっ…よ…佳……乃…」  
さらに裏筋部分をほじくるように、舌先をうごめかせる佳乃。  
……こ、これ、いつもよりも、よっぽど激しくないか?  
思わず腰を引こうとするが、佳乃にしっかりと手を回され、逃れようが無かった。  
「よ……佳乃お…」  
モノが萎えるどころか、ふたたび膨らみ始めてきたそのとき――  
「……ん〜んっ。……はい、綺麗になりました」  
佳乃はぱっと口を離し、舌舐めずりをしながら、俺に向かって悪戯っぽく微笑みかけてきた。  
……も、もしかして、佳乃のささやかな復讐、なのか?  
 
「……な、なあ佳乃……」  
「どうしましたか、信幸様? ………さ、幸乃ちゃん。おねんねする前に、げっぷしましょうね〜」  
俺の呼びかけに、佳乃はにっこり微笑んだかと思うと、幸乃を肩にかつぎあげ、  
背中をぽんぽんと叩き始めた。……やっぱり、ちょっと怒っている、かな?  
「あの……その、ご、ごめん……」  
「?? ど、どうしたのですか、信幸様?」  
上目遣いに、佳乃に向かって謝罪の言葉を述べるが、佳乃はきょとんとした表情で俺を見つめる。  
……お、怒ってないの?  
「……そ、それはそうと、こ、今夜は、幸乃ちゃんが眠ったら……その…も、もう一回……」  
「え? あ、ああ……一回と言わず、今日は眠らせないよ」  
「ま……まあ、信幸様ったら……」  
戸惑いながら様子を伺う俺に、佳乃が顔を赤らめながら、耳元でぽそぽそとつぶやく。  
佳乃が怒ってないことに安堵した俺は、そっと佳乃の頬にキスしながら、そう答えた。  
 
 
「さあ幸乃ちゃん、おうた歌うから、おねんねしましょうね〜」  
幸乃を布団に寝かせ、手のひらで軽くお腹をはたきながら、佳乃は優しく微笑む。  
信幸は、幸乃の手をそっと握り締めながら、穏やかに微笑み、佳乃と幸乃の顔を見比べながら思った。  
……ああ、親子三人で川の字で寝るのって、悪くないんだなあ。  
 
もっとも、親が二人揃って真っ裸というのは、端から見たらどう思われるか、なのだが。  
 
「や〜わ〜らか〜な〜、そ〜よ〜かぜ〜、こ〜のかみを〜、ぬ〜らして〜♪」  
 
そう思うまもなく、佳乃が歌を歌い始めた。  
幸乃は、母親であり歌い手である佳乃を、じっと見つめている。  
信幸もまた、幸乃の手を握り締めながら、妻であり歌い手である佳乃を、じっと見つめていた。  
 
「おやすみ〜、た〜のしい〜、ゆめ〜、みて〜♪」  
 
やがて、佳乃が歌い終わった頃には、幸乃はすうすうと寝息を立てていた。  
佳乃は優しい笑みを浮かべたまま、幸乃を起こさないように慎重に抱え上げ、揺りかごに寝かせた。  
「……ふふっ。………の、信幸様。お、お待たせしました。で、こ、今度は、う、うしろに……」  
揺りかごの中で、すやすや眠る我が子を見て、笑みを浮かべたかと思うと、  
佳乃は顔を赤らめ、声をどもらせながら、夫のほうを振り返った……  
 
「……あ、あら?」  
……が、夫の姿を見て気の抜けた声を漏らす。  
 
「くう……すう…」  
 
信幸は体を横に向け、幸乃と手を繋いだ姿勢のまま、完全に眠りの世界に入っていた。  
――そう、佳乃の子守唄で眠りについていたのは、幸乃だけでは無かったのだ。  
 
「……うふふっ、仕方ない……ですね。お休みなさいませ、信幸様……」  
佳乃はしばしの間、あっけに取られていたが、信幸のあまりにも邪気の無い寝顔に顔をほころばせ、  
その頬に軽く口づけをし、優しく布団を被せながら、自らも横になり、そっと目を閉じた――  
 
 

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