翌日――俺たちは琢磨氏たちとともに、お袋の住む田舎へ向かうことになった。
まあ、道中はいわゆる規制ラッシュというもので、大渋滞に巻き込まれて、
着く頃にはすっかり暗くなってしまったが、無事に辿りつく事が出来た。
「ふ〜う。皆さんお疲れ様、着きましたよ………あ」
お袋の住むアパートの駐車場に車を停め、後ろを振り返りながらひとこと。
と思ったら、後ろの3人はぐっすりと眠りこけていた。
絹代などは大きな口を開けて、よだれまで垂らしている。
……ま、3人とも車なんて乗ったことないんだろうし、渋滞もひどかったし、当然といえば当然の結果か。
「か、薫姉。着きました」
「ん……? う、う〜ん……。絹代様、琢磨様、着いたようですよ」
「……ふ、ふあ〜あ………」
「………む? お、おおそうか。これは失礼した。どうやら、いつの間にか眠っていたようだな」
佳乃が薫に遠慮がちに声を掛けると、薫さんは軽く伸びをしながら、隣の絹代と琢磨氏を揺り起こした。
「えっと……はい、薫さん」
「あ、どうもありがとうございます」
リアゲートを開け、薫さんが持っていた謎の鞄を手に取り、薫さんに手渡す。
いつもの笑みを浮かべたまま、鞄を受け取る薫さん。……すんごい重いんだけど、大丈夫なのか?
「さて、と。そしたら荷物は俺が持つから、佳乃はそのまま幸乃を抱いてってよ」
「は、はい」
ふと顔をあげると、ベビーシートのベルトを解いて、幸乃を抱きかかえようとしている佳乃の姿が見える。
俺は荷物を両肩に担ぎ上げながら、佳乃に向かって声を掛けた。
「ただいま」
「どうも、ただいまです、お義母さま」
「まあまあ、いらっしゃいいらっしゃい。元気にしていたかい?」
玄関のカギを開け、中にあがり込んだ。
お袋は、佳乃と佳乃が抱いている幸乃を見て、たちまち相好を崩す。
……元気にしていたも何も、毎月会っているじゃないか。
「ん〜幸乃ちゃ〜ん、ば〜ばですよ〜」
「お〜い、お袋〜」
「ん? どうしたんだい?」
佳乃から幸乃を受け取り、上機嫌で幸乃をあやすお袋に、声を掛ける。
……このままじゃ、中に入れないだろうが。
「えっと……こちら、佳乃の叔父さんで、琢磨さん。こちらが従姉妹の絹代さんに薫さん」
「お邪魔いたす」
「はじめまして〜」
「どうも、はじめまして。すみません、いきなり大勢で押しかけたりして」
「いえいえ、こちらこそ初めまして。いつも信幸がお世話になりまして」
俺が半ば呆れ気味に、お袋にそう紹介すると、3人は三者三様にペコリと頭を下げた。
その言葉で、ようやく3人に気がついたように、頭を下げるお袋。
……琢磨氏は未だに”あの格好”だから、早く中に入りたいのだが。
「ところで、何があったんだ? 絶対帰って来いとか言ってたけど」
「うん、実は式の予約をしちゃってたからね」
部屋の隅に荷物を置き、ずっと疑問に思っていたことを口にした。
お袋は幸乃をあやしながら、俺のほうを見もしないで返事をする。
「へ? お袋、再婚するの?」
事も無げに言われ、思わず聞き返す。……再婚相手がいるなんて、聞いてないぞ。
だがお袋は、俺の言葉に呆れたように顔を上げ、あっさりと言った。
「何を馬鹿なことを言っているのですか。お前と佳乃さんの式に、決まっているじゃないの」
……ああ、そっか。俺と佳乃の……え?
「「…………はあ?」」
「お前、佳乃さんと一緒になって、幸乃ちゃんまで産まれたのに、まだ式も挙げてないでしょう?
どうせいつか式を挙げるのなら、幸乃ちゃんが産まれた今年のうちに、挙げてしまいなさいな」
声をハモらせ、お互い顔を見合わせている俺と佳乃に、お袋は言葉を続ける。
「……って、突然そんなこと言われても、こっちは何の仕度もしていないぞ」
「大丈夫大丈夫、全部こちらで仕度は整っているから」
ようやく気を取り直した俺は、お袋にそう問いかけるが、お袋はやはりあっさりと答えた。
……いや、そういう問題じゃなくてよ。
「でも、それにしても、それならそうと、ひとこと仰っていただければ……」
「何を言っているのですか。そんなことをしたら、そちらでもいろいろと気を使ってしまうでしょう?
それが嫌だから、あえて黙っていたのですよ」
困惑しきった様子の佳乃がつぶやくように、俺が思ったのと同じことをつぶやく。
だがお袋は、畳み掛けるように俺たち二人を見据えながら言った。
「う…あ……」
「…………お、お義母さま……。な、なんと申せばいいのか……」
ぐうの音も出ない俺と、感極まったのか声を詰まらせる佳乃。
お袋はそんな俺たちを見て、にこりと微笑みながら幸乃をあやしている。
……ううむ、佳乃じゃないけれど、何と言っていいのか……。
「ふむ。信幸殿と佳乃の式か……」
と、俺たちのやりとりを傍観していた琢磨氏が、立派な顎鬚をさすりながら、ポツリとつぶやく。
「あ、も、申し訳ありません。本来ならあなた方にも、ご相談を差し上げるべきだったのですが……」
「いやいや、それには及ばぬ。我等こそ、そこまで気が回らなかった次第。
御母堂のお心遣い、痛み入りましたぞ」
そのつぶやきを耳にしたお袋が、ぱっと顔色を変え、琢磨氏に向き直ってペコリと頭を下げるが、
琢磨氏は、ゆっくりと首を振りながら、両手を床に着き、深々と座礼をしてきた。
「そ、そう言っていただけると、こちらとしても……」
お袋は琢磨氏の言葉に、安心したように顔をあげ、声を詰まらせる。
……そうか、電話で”琢磨氏たちも絶対連れて来い”と言っていたのは、そういうことだったのか。
「なるほど、佳乃の式ですか……どうやら晴れ着を持ってきて、正解だったようですね」
「ふうむ、さすが薫じゃ。準備がいいのう」
ふと声がしたほうを振り向くと、にこやかに笑みを浮かべながら、
件の鞄から着物を取り出している薫さんと、妙に感心している絹代がいた。
……どうでもいいが、いったい何が、どれだけ入ってるというんだ、あの鞄は。
翌日――俺と佳乃は幸乃を薫さんたちに預け、お袋と3人で、式を挙げる神社に挨拶に伺った。
「すみません。明日こちらで、式を挙げさせていただく山内と申しますが、
宮司の若生さんを、お願いできますでしょうか?」
「あ、はあい。ちょっと待ってくださいねえ」
境内に入ると、大きな箱を抱えて歩いている巫女さんがいた。
お袋が声をかけるとその巫女さんは、箱を棚に置いたかと思うと、社の奥へとパタパタと駆けて行った。
待つことしばし、社の奥から先ほどの巫女さんと一緒に、宮司らしき人物がやってきた。
「あ、若生さん。このたびは、年の瀬のこんな忙しい時に、ご無理を聞いていただいて……」
「いやいや、礼には及びませんよ。こちらとしてもめでたいことで、今年を締めくくれるのですからね」
「本当に、ありがとうございます。で、こちらが息子の信幸と、お嫁さんの佳乃さんです」
やってきた宮司に、お袋はペコリと頭を下げながら、俺たちを紹介した。
「どうも、お世話になります」
「こ、このたびは、どうもありがとうございます」
「どうも初めまして。いやあ、山内さんから伺っていたけれど、本当に綺麗なお嫁さんですねえ」
「え? あ……い、いや、そんな……」
礼をする俺たちを見て、宮司が笑みを浮かべながらひとこと。
その言葉に、佳乃は顔を真っ赤に染め上げ、しどろもどろになっていた。
……でも実際、佳乃って下手なモデルも真っ青の、人間離れした美しさなんだよな。
まあ、人間じゃないと言えば人間じゃないから、当然と言えば当然なのかもしれないが。
「じゃ、お袋。俺たちはこれで」
「ええ、それじゃ」
一応、式の段取りを軽く教わり、衣装合わせも終わらせた俺と佳乃は、
まだ話があるからというお袋を置いて、二人で家に戻ることにした。
……本当は、俺も佳乃の白無垢姿を見たかったのだが、
本番までのお楽しみということで、お預けだったのだ。まったく。
「なあ、佳乃」
「はい?」
「せっかくだし、村の中を見て回っていかないか?」
帰り道、俺は佳乃にそう尋ねた。
……よく考えたら佳乃って、こっちに来てからは幸乃につきっきりで、
二人でのんびりするってことが、ほとんどなかったしな。
「……で、でも幸乃ちゃんが……」
「いいじゃないの。幸乃が心配なのは分かるけど、薫さんたちが面倒見てくれているんだし、
山に囲まれた小さい村なんだから、すぐに見終わるよ。たまには……な?」
予想通り、逡巡する佳乃の肩を抱き寄せ、俺は言葉を続けた。
……確かに、幸乃が心配と言えば心配だけど、パチンコに熱中する親みたいに、
車の中に置き去りってわけじゃないし、薫さんたちがいるんだし。
「……………そ、そうですね。たまには、そうさせていただきましょうか」
佳乃はしばらく考え込んでいたが、ぱっと顔をあげたかと思うと、
優しい微笑みを浮かべ、そのまま俺の手を握り締めてきた。
「ちょ、お、おい?」
「………たまには……よろしいですよね?」
「え……あ、う、うん……」
思いもよらない佳乃の行動に、やや戸惑っている俺を見て、
佳乃はやや照れくさそうにしながらも、じっと上目遣いでこちらを見つめる。
その目に射すくめられたかのように、俺はただカクカクと頭を頷かせ、佳乃の手を握り返した。
……まあ、これはこれで悪くないか。
――俺たちは、あれから二人で村の中を見て回った。
一時間に一本しか列車が来ない駅、
今にも崩れそうなアーケードが侘しさをそそる、駅前のボロい商店街、
そこからちょっと離れれば広がる畑と農家、
小高い山の上にある、ボロボロの校舎――すべてがガキの頃から、まったく変わっていやしない。
まるで、ここだけ時間に置き去りにされているような、そんな錯覚を覚えてしまうくらいだ。
「しっかし……ほんっと、何も変わってねえなあ…」
「ふうん、そうなんですか? でも、のどかでいいところですね」
思わず漏れるつぶやきに、手を繋いだままの佳乃が反応する。
……まあ、確かにそう言われれば、そうかもしれないが……物は言いよう、だな。
「あ……そうだ」
「え? どうしたのですか?」
不意にあることを思い立った俺は、佳乃の手を引っ張りながら、歩調を速める。
……どこも変わってないのなら、もしかしたらあそこも……。
佳乃は戸惑いながらも、俺の手を離さないようにか、握り締める手にぎゅっと力を込めてきた。
家の裏にある山に入り、山道を外れて林の中を、木々を掻き分け、
少しだけ積もった雪を踏みしめながら進んでいくと、突然視界が開けた。
「こ……こ、は?」
「俺の秘密の場所、さ。………やっぱり、ここも変わってないか」
視界が開けたそこには、ひときわ大きな一本の木が、聳え立っている。
その老木は、林を構成していた木々に比べて、背丈は低いものの、幹と枝は物凄く太かった。
しかも、根は大きく張り出していて、その場所には背の高い木が一本も生えていないため、
老木を中心にして空き地が広がっているのだ。
その光景は、あたかも一歩引いて直立不動で立ち尽くす衛兵たちと、
彼らに囲まれて玉座に腰掛ける、王のようだった。
「ガキの頃はよくわがまま言っててな、しょっちゅう家を飛び出しては、ここで夜を明かしていたものさ」
「まあ……お義母さまを困らせちゃ、だめじゃないですか」
老木の幹の根元、ぽっかりと開いた洞を覗き込みながら、俺は佳乃に説明した。
俺と同じように、洞を覗き込んでいた佳乃は、ぱっと俺のほうを見上げながら、軽く眉をしかめる。
「………ああ、そうだよな」
そうたしなめられた俺は、昔を思い出し、ふと遠い目をしながら答えていた。
……まったく、参観日に来てくれないことくらいで、何で家を飛び出したりしたんだか。
「あ……も、申し訳ありません」
「え?」
しばしの沈黙の後、佳乃の口から予想だにしない言葉が発せられる。
我が耳を疑った俺は、思わず佳乃を見返しながら、声を上ずらせていた。
「つ、つい、かようなことを口走ってしまいましたが、それは昔の話で、今はもう終わったことですよね。
それをわれが、今さら蒸し返すようなことを……」
「いや……そんな、佳乃が気にすることじゃないさ。事実は事実なんだし……よい……しょ、っと」
「あ、の、信幸様……?」
顔を伏せたまま、ぽそぽそと口走る佳乃の頭をそっと撫でた俺は、目の前の木によじ登り始めた。
突然の俺の行動に、呆気にとられる佳乃をよそに、俺は一番下の最も太い枝に辿りついた。
「佳乃も……こっち来いよ」
「え? あ、は……はい…」
枝に腰掛けて下を見下ろすと、ぽかんと口を開け、俺を見上げる佳乃がいた。
俺は、そんな佳乃に向かって手を伸ばしながら、微笑みかけた。
すると佳乃は戸惑いながらも、するすると木を登り始め、あっという間に俺の隣に辿りついた。
……さすが天狗だけあって、俺よりも木登りが上手いのな。
「ど、どうしたのですか、突然?」
「いや、さ……それこそガキの頃は、ここでぼうっと景色を眺めていたな〜って思って、ね」
などと軽く複雑な心境に陥っている俺に、佳乃は怪訝そうな顔で問いかけてくる。
気を取り直した俺は、内心を誤魔化すように軽く咳払いをしながら、佳乃にそう答えた。
「ここで景色を……ですか。……うふふっ」
「な、何だよ。何か俺、おかしいこと言った?」
佳乃は、木々の隙間からわずかに見える、村の景色を眺めたかと思うと、くすくす笑い出した。
気になった俺は、思わず佳乃の顔を仰ぎ見ながら問いかける。
「え? いや……あの赤い屋根の家、お義母さまの家でしょう?」
「あ、ああ……」
片手で口元を押さえたまま、佳乃はもう片方の手を伸ばし、ある一軒の家を指差す。
そう、それは間違いなくお袋の家だった。……と言っても、中学までは俺の家でもあったのだが。
「何だかんだいって信幸様も、お義母さまのことが、気になっていらしたのでは? と思いまして……」
「………ああ、そうかもな。日が暮れるまで、ここでこうしてて、夜になったら洞で眠って……。
でも、今にして思えば、お袋にはここのことが、バレていたのかもしれないな……」
「え? なぜですか?」
思わず漏れるつぶやきに、佳乃は目を丸くして声をあげる。
「ん………あの頃は、着の身着のままで家を飛び出して、いっつもここで夜を明かしていたんだけど、
目が覚めたときには決まって、俺に毛布が被せられていたんだよね」
「……じゃ、じゃあそれって、信幸様が寝ている間に、お義母さまが?」
「………だろうな。まあ、お袋はそのことについては、何も言わないけれど」
「そう、だったのですか。………われも、お義母さまみたいな立派な母親に、なれるでしょうか?」
「ああ……きっとなれるさ。佳乃なら、きっと……」
自らの胸に手を当て、俺に軽く身を寄せながら、ぽつりとつぶやく佳乃。
俺はそっと、佳乃の肩に手を回しながら、そう答えた。
「そう……ですか。ありがとうございます……で、あ……あの、
の、信幸様…………こ、ここで…その……昨晩の続き…を……」
「………え? よ、佳乃…? ……う、うわっ」
俺の答えに、にっこり微笑んだ佳乃は、急にもじもじしながらも、
ズボン越しに俺の下腹部を優しく擦り始めてきた。
佳乃の突然の行動に驚いた俺は、思わず後ずさりしようとして、木から落ちそうになってしまう。
……こ、ここでって、いったい何があったんだ、突然?
「どうしたのですか? 信幸様だってあの時、われを外で抱かれたではないですか」
佳乃は片方の手で、木から落ちそうになった俺の手首を掴み上げ、
ゆっくりとズボンのファスナーをずりおろしながら、怪訝そうな目で俺をじっと見つめる。
……ううむ、かつてはファスナーを下ろすのにも必死だったのに、
変われば変わるものだ……って、そういう問題じゃなくてよ。
「え……いや、その……」
「それとも……こんなはしたない女は、お嫌いですか?」
なおも戸惑いの声を漏らす俺を見て、佳乃は寂しそうにつぶやく。
「嫌いなはず……ないだろう? ………っ」
あまりに儚げな、佳乃の表情にドキリとした俺は、
吸い込まれるように返事をしながら、そのままくちづけを交わしていた。
「んむ……ん…んふ…っ……」
「あ……く…っ…よ…佳乃……」
木の枝にしがみつくような姿勢で、俺のモノにしゃぶりつく佳乃。
俺は木から落ちないように、片手で木の幹を押さえ、もう片方の手で佳乃の頭を撫でながら、
ただひたすら、佳乃の口がもたらす刺激に悶えていた。
「……ちゅぱ…ちゅぷ……っ、んっ……っ……」
「うく……う、ううっ……、イ、イイよ…佳乃……」
さらに佳乃は、顔を上下に揺さぶりながら、舌先をモノの筋に絡めてきた。
あまりの快感に、思わず全身が仰け反ってしまう。
「ん……ん、………っ、ん……っ…」
今度は、モノから口を離し、右手でモノを優しくしごきあげながら、
舌を伸ばしてモノの先端を、チロチロと舐めあげてきた。
「よ…佳乃……も、もう俺……」
両足が地に付いていないため、踏ん張りが利かず、早くも限界が近づいていた俺は、
情けない声をあげながら、絶頂に達しようとしていた。が、そのとき――
「………しょ、っと」
「え? よ……佳乃!?」
不意に佳乃が俺から離れ、立ち上がった。
まさにイク寸前で止められた俺は、思わず情けない声をあげながら、佳乃を見上げる。
……ま、まさかいつも言葉でいじめているから、その仕返しだったりするのか!?
でもそれは、佳乃が顔を赤らめたり、恥じらったりする表情が見たかったりするわけで……
「信幸様……わ、われにもお情けを……」
「あ……あ、ああ……」
だが佳乃は、俺の心の声を気にする風でもなく、俺の両足に跨ったかと思うと、
ゆっくりとスカートをめくりあげながら、ぽそぽそとつぶやく。
俺は佳乃のとろんとした”女”の表情に、まるで魅入られたかのように、ガクガクと首を上下に動かした。
……いや、実際魅入られていたのだが。
「……で、では、頂戴いたします……」
俺の返事を確認した佳乃は、膝立ちの姿勢になりながら、右手を後ろに回し、
中指と人差し指で自らのすぼまりを広げて、俺のモノに押し当てた。
……え? ま、まさかお情けって……。さすがに後ろは、いきなりじゃきついだろう?
「…………!」
「! ……くっ、よ…佳乃、佳乃おっ!」
ちらりと脳裏に浮かんだ疑問も、佳乃が腰を落とした次の瞬間には、完全に吹き飛んでいた。
佳乃が息を詰まらせたような喘ぎ声をあげた瞬間、脳が麻痺するほどの快感が押し寄せ、
あっさりと絶頂に達した俺は、全身をビクビク震わせながら、佳乃の腸内目掛けて射精していたのだ。
「あ…は、ああっ……の、信幸様……信幸様……」
「う……っ、よ、佳乃っ……」
うわ言のようにつぶやきながら、ゆっくりと、大きく上下に腰を動かす佳乃。
まるで、たった今射精したばかりの俺の精液を、モノへと丹念に塗りたくっているかのように。
俺はと言えば、果てたばかりで敏感になっている、モノから押し寄せる刺激に、
ただひたすら涙を流しながら、悶えるしかなかった。
「の……信幸様…信幸様のが、中でぬるぬるして……あ、ああっ……」
少しずつ、佳乃の腰の動きが早く、小刻みになってきた。
それとともに、佳乃の口からつぶやきとも、喘ぎともとれる声が次々と漏れ出す。
さらに佳乃の動きとともに、木の枝がミシミシと揺れ動く。
「はあ………っ、の、信幸様……き、気持ちイイです……気持ちイイですう……っ……」
「よ…佳乃、佳乃……っ…お、俺も…俺も、気持ちイイよ……」
一方で俺自身もまた、2回目だと言うのにも関わらず、絶頂が近づいていた。
「あっ、ああっ、信幸様……信幸様あっ!」
「くううっ! あっ、ああ…よ、佳乃…っ!」
やがて俺たち二人は、悲鳴のような喘ぎ声とともに、
お互いの体をしっかりと抱きしめあいながら、揃って絶頂に達していた――
――俺たちは枝の上で、コトをなした後の脱力感に襲われ、お互いの身体を寄せ合っていた。
……これだけ太い木の枝が、『ミシリ』と不気味な音を立てなけりゃ、5回で止めたかどうかは謎だが。
「な、なあ佳乃」
「はい?」
「………前から思っていたんだが、いっそ、こっちに引っ越してしまおうか?」
俺の呼びかけに顔をあげて、優しく微笑む佳乃。
そんな佳乃に、俺は思い切って、かねてから思っていたことを口にした。
「は? なぜ?」
佳乃は俺の言葉に目を丸くさせ、きょとんとした表情をする。
「いや……なんとなく今住んでいる場所って、佳乃にとって過ごしやすいのかな? って思ってさ」
「わ、われにとって……ですか?」
「ああ。佳乃って、生まれてからずっと、あの山で暮らしていたんだろう?」
「ええ」
「だったら今のとこよりも、少しでもあの山に近いこっちのほうで暮らすのが、いいかな、って……」
「大丈夫ですよ」
俺の言葉を途中で遮るように、佳乃はきっぱりと答えた。
「で、でも佳乃……」
……いつだったか、『山を下りて人間と混じって暮らすことなんて、考えられない』と言ってたろ?
「われは大丈夫ですよ。せっかく、ご近所さんとも仲良くなり始めましたし、それに……」
佳乃は俺が心に抱いた疑問を口にする前に、そう話し出したかと思うと、急に言葉を詰まらせる。
「それに?」
「……それに今のままでも、信幸様がいつも、われを可愛がってくださるのですから……」
気になった俺が、じっと佳乃の顔を見つめながら問いかけると、
途端に佳乃は俺から視線を逸らし、顔を赤らめながら、そうつぶやいた。
「佳乃………。ずっと、ずっと愛してるよ」
「の、信幸様………。われも……われも、信幸様をずっと愛しております……っ……」
俺は、そんな佳乃がたまらなくいとおしくて、思わずそっと抱きしめながら、耳元でささやいた。
佳乃はゆっくりと、こちらを向きながら、優しく微笑んだ。
その微笑みに、釣られるように笑みを返した俺は、佳乃のくちびるを奪っていた――
「ただいま」
「ただいま戻りました」
「あら? 二人とも何やってたの? 私より先に帰るって言ってたのに」
家に戻るや否や、開口一番お袋が怪訝そうな顔で、俺たちを出迎える。
「ああ、佳乃に村を案内してたんだよ。今まで村の中をゆっくり歩き回ったこと、なかったし」
「ま。するとデート、ということですか?」
俺の言葉に、薫さんが口元に手を添えながら、にこやかに微笑む。
……いや、この人の微笑み以外の顔って、見たこと無いんだけどさ。
「か、薫姉」
「まあまあ、照れなくてもいいじゃないですか。ね、琢磨様?」
「う、うむ? ……まあ、たまには、な」
薫さんの言葉に、佳乃は少し慌てたように、拳を振り上げる真似をする。
だが薫さんは、あくまでにこやかに微笑んだまま、琢磨氏の方を振り返りながら言った。
幸乃をあやしていた琢磨氏は、いきなり話を振られ、面食らった表情をしていたが、鷹揚に頷く。
……それにしても、何でまたデートなんて言葉、薫さんが知ってるんだ?
「んぎゃ、んぎゃあ、んぎゃあ〜!」
「だあああ、よ、佳乃〜!」
と、突然、幸乃が大声で泣き出し始めた。幸乃を抱っこしていた絹代は、大慌てで佳乃に声を掛ける。
「あ。き、絹代様、申し訳ありません。さ、幸乃ちゃん、いらっしゃい」
声を掛けられた佳乃は、絹代の元へと歩み寄り、そっと幸乃を受け取った。
その途端、母親に抱かれて安心したのか、幸乃はピタリと泣き止んだ。
「まったく……薫や佳乃が抱けば、すぐ泣き止むのに、何でわらわが抱くと泣き出すのじゃ……」
「そうですねえ。どうしてでしょうかねえ」
幸乃の小さな手を軽く握りながらぼやく絹代と、にこやかに微笑む薫さん。
……二人と絹代の違い………まさか胸の大きさ、じゃねえよなあ……。
「さ、幸乃ちゃん、そろそろおねむの時間ですよ〜」
絹代と薫さんのやりとりを優しく見つめていたかと思うと、慈愛に満ちた表情で幸乃をあやす佳乃。
その表情からは、さっきまで木の上で見せていた、淫らな”女”としての表情は微塵も無かった。
俺は佳乃の表情の豹変振りに、何故だか知らないが、背筋に冷たいものが走るのを感じていた――