「た、大変お待たせいたした! ど、どうぞ中へ!」  
待つことしばし。突然扉が開き、絹代がこちらを向いて手招きをする。  
……にしても随分早いな。あんなに散らかっていたのに。これも天狗の神通力、か?  
「ん。そんじゃ、お邪魔しまっす」  
「さ、どうぞどうぞ」  
お言葉に甘え庵の中に入ると、そこは昔ながらの風情を思わせる土間が広がっていた。  
顔をひょいと横に向けると竈と洗い場があり、その上には神棚が飾ってある。  
……よく見りゃ、洗い場には食器が乱雑に積み重なっているし、神棚は埃まみれだ。  
まあ、俺の家もこんなもんだから、あまり偉そうなことは言えないんだがな。  
「ささ、早ようあがってくだされ」  
絹代に促されるままに、靴を脱いで部屋にあがる。  
畳敷きの部屋の真ん中に、これまた年季の入ってそうな囲炉裏がある。大きさは…8畳くらい、か。  
季節が季節だし、体が少し濡れているから、火を熾してくれるとありがたいのだが……。  
「どうぞこちらへ……。さて、とりあえず茶でも煎れるので、ごゆるりとくつろいでいてくだされ」  
囲炉裏端に座布団を敷いて、俺に座るように促しながら絹代はパタパタと土間へと駆けて行った。  
 
「……よい…しょっと……お、お待たせいたした」  
しばらくして、ヤカンと火打石を手に戻ってきた絹代。……おい、あんなので火を点けるのか。  
俺がそう思ってじっと見ている中、絹代はヤカンを自在鉤に引っ掛け、  
囲炉裏に点すための火を熾そうとして、火打石を打ち鳴らし………  
 
カチ…カチ、カチ…  
 
「あ、あれ…? 湿気てるのかな? な…なかなか……点かない…な………」  
火花は散るのだが、中々火が点せないようだ。……やれやれ。このままじゃ、カゼをひいてしまう。  
「ちょっとゴメンよ。………っと」  
俺はライターを取り出し、ほくちに火を点けた。たちまち、ほくちはパチパチと音を立て、煙を吐き出す。  
「な、なんと! さすが信幸殿! こんなにも簡単に火を熾してしまうなんて……!」  
「お…おいおい。そんな、気にするほどのことでもないだろう?」  
絹代は目を丸くして、俺と火の点いたほくちを交互に見つめる。俺は肩をすくめ、ほくちを薪に放り込んだ。  
「いや、さすが高位の方だ。我が里の住人でも、こんな力を持った者はいなかったというに……!」  
興奮冷めやらぬ様子で、絹代は俺の言葉に首を振りながら、感嘆の声を上げ続ける。  
そうか…よく考えりゃ文明の利器なんて、こんな山の中にある訳がないものな。  
だとすると、絹代がここまで感心するのも大袈裟な話じゃないのか……。  
そんなことを考えながら、俺は再び座布団の上に座り込んだ。  
 
「さて…沸いたか……な?」  
しばらくの間、二人で他愛無い話をしていたが、絹代がおもむろにヤカンの蓋に手を掛けようとする。  
……ちょ、ちょっと待て。そのまま触ったりしたら……。  
「う、うわっちぃっ!!」  
「な…お、おい、大丈夫か? …って、おいっ!」  
俺が止める間もなく、絹代はヤカンの蓋に素手で触れ、その熱さに跳ね上がる。  
そりゃあそうだろうな……思わずため息を吐こうとして、逆に息を飲んでしまった。  
絹代がバランスを崩して、そのまま囲炉裏へと突っ伏しそうになっていたから、だ。  
ちょ、ちょっと待てえ! 俺はすんでのところで絹代を抱え込み、どうにか囲炉裏へのダイブを阻止した。  
「あ、も、申し訳ござらん! そ、その……」  
「んなこと言ってる場合じゃない。すぐその手を冷やさないと……」  
図らずも、背後から抱きかかえる姿勢になり、絹代は何故か動きが固まってしまう。  
俺はそんな絹代を抱きかかえたまま、洗い場へと向かった。  
 
「あ……つ………」  
「とりあえずはこれでよし……と。ちょっと……しばらくそうやってな」  
水を満たした手桶に絹代の手を突っ込ませ、俺は部屋に戻った。  
確か、荷物の中に薬があったはず……。えっと……あ、あったあった。  
俺は薬が入ったスプレー缶を取り出し、軽くカシャカシャと振りながら絹代のもとへと急いだ。  
「………? な、何なのだ、それは?」  
「ああ、薬だよ。さ、手を出して」  
怪訝そうな顔を見せる絹代の手を取り、赤くなっている場所にスプレーを噴きつけると、  
見る見るうちに白い泡が噴き出し、絹代の手を覆っていく。  
「さて…これでひとまずは大丈夫かな? あとは手で引っ掻いたりしないで、しばらく我慢することだ」  
「ふうむ……先ほどの聖なる液体といい、これといい、何とも摩訶不思議な……」  
泡が固まったのを確認してから、俺は絹代の手を離しながら言った。  
絹代は軽く指先で、固まった泡をつんつんと突つきながらつぶやく。  
「い、いや。それはそうとして、とりあえず部屋に戻ろうや」  
「いやはや……まったく、かたじけない……何かわらわで、礼が出来ればいいのだが………」  
「まあ、困ったときはお互い様ということで。そんなに気にすることもないだろ」  
がっくりと肩を落とし、眉を顰めて小首を傾げる絹代の姿を見て、柄にもなく胸の鼓動が高まった俺は、  
それを誤魔化すように、絹代の頭を撫でながら部屋へと戻った。  
 
「それにしても…だ。信幸殿は一体どこで、かような技を身につけられたのだ?」  
バリバリと煎餅を食べながら、絹代は問い掛けてくる。  
う〜ん……何といえば、いいのやら………。  
「そうさな……別に修行がどうこうってわけでもなく、自然に身についたというか……」  
「何と! 修行が自然である、と。もはやそこまで達観されておるのか!  
いやいや、かような心掛けでおられるなんて……本当に、わらわは修行が足りないのう……」  
ズズズッと寂しそうにお茶を啜る絹代。………何だか、会話のポイントがズレてるような。  
「そ、そうだ。それで、先程の話に戻って大変恐縮ではあるのだが、  
わらわにも信幸殿のような立派なものが、生えてくると思われるか?」  
「う、う〜ん、どうだろうかねえ……」  
……生えるはずないだろ。と言いたくなるところを必死にこらえ、曖昧に返事をする。  
変なこと、教えてしまったかねえ? ………って、いきなり裾を捲りあげるな!  
「で、た、大変恐縮なのだが、今一度、確認していただけぬか?  
先程は雨のおかげで、途中になってしまったことだし」  
「あ、ああ分かった。………それじゃ、そのままじっとしててくれよ」  
座ったまま裾を捲り上げ、ゆっくりと足を開く絹代。  
股の間で、割れ目がヒクヒク動いているのを目にしたとき、俺の理性はあっけなく消え失せていた。  
「ん…っ……は…あっ……」  
両手でそっと割れ目を押し広げてみると、先ほど弄っていた名残なのか、透明な液がひと筋こぼれる。  
さらにその小さな口からは、早くもあえぎ声が漏れ出していた。……ここまで敏感なのも、珍しいな。  
 
「はあ! んっ! あ…っ……!」  
人差し指と中指を中に潜り込ませてみると、絹代は艶っぽい声とともに、腰をよじらせようとする。  
だが俺の目からは、まるで自ら腰を振り乱し、指を受け入れているようにも見て取れた。  
ちらりと顔をあげ、絹代のほうを見上げると、さっきと同じように目をぎゅっと閉じ、頬を赤らめている。  
そんな健気な仕草に妙に興奮してきた俺は、潜り込ませた指を中で軽く折り曲げてみた。  
「はああ! ああっ! くうんっ! んっ!!」  
柔らかいヒダ状のものが指先に触れた途端、絹代は上半身を仰け反らせ、押し殺した悲鳴を漏らす。  
同時に、割れ目の入り口がきゅっと締まり、俺の指を痛いくらいに圧迫してくる。  
ううむ……こりゃあ…中に挿れたら……たまらないかも、な。  
「くはっ! あんっ! はっ……!」  
ヒダを指でそっと撫でまわすと、それに合わせるように絹代は腰をもぞもぞと動かし続ける。  
割れ目からは透明な液体がしとどに漏れ出し、畳に染み込んでいく。……あとでシミにならないだろな?  
「くっ…んん……んはあ…っ……!」  
二本の指を一気に引き抜くと、ちゅぷっという音が響き渡った。  
突然刺激が中断されたことで、絹代は怪訝そうな声をあげながら、ちらりと俺のほうを見つめる。  
その目はさっきまで見せていた、元気一杯の女の子という面影をどこと無く残しながらも、  
一方で成熟した”女”としての妖しい光をたたえていた。  
この何ともいえないギャップに、欲望をたぎらせない男なんていないだろう――多分。  
 
「んっ! は…ああっ!!」  
親指と人差し指で、軽く肉芽を摘まみ上げてみると、とうとう絹代はこらえきれなくなったのか、  
そのまま後ろに倒れこんでしまった。……それでも裾を押さえてるのは立派というか、なんというか。  
「はあああっ!! あ! ああんっ!!」  
思い切って、今度は割れ目に舌を這わせてみた。絹代はビクンと体を震わせ、悶えていた。  
俺はと言えば、絹代の艶姿を目の当たりにして、下半身が痛いくらいに疼いている。  
体を起こしてズボンとパンツを一気に膝まで下ろすと同時に、完全に勃ちあがったモノが姿を現した。  
「あ…はあ……あっ?」  
「くう……っ……」  
虚ろな表情で、俺を見つめる絹代。俺は腰と腰を密着させ、モノを割れ目に擦りつけた。  
ただ軽く擦りつけただけで、痺れるような快感が俺を包み込み、思わず悲鳴が漏れてしまう。  
「うあ…あ……っ…あ…ああっ……」  
快感の波が押し寄せているのは絹代も同じようで、涙をボロボロ流し、  
腰の動きに合わせるかのように、あえぎ声が口からあふれ続けている。  
ダメだ……もう、我慢できねえ……。俺はモノを絹代の割れ目に押し当てた。  
そのまま腰を突き動かし、モノの先端が割れ目の入り口を押し開けた、まさにその瞬間――  
 
「ぷはあっ。まったく、何でいきなり大雨になりますかな? おかげで、ずぶ濡れになってしまいましたよ」  
突然襖が開いたかと思うとぼやき声がしたため、俺は思わずそちらのほうを振り向いた。  
そこには、絹代と同じような服装の女性が、苦笑いを浮かべながら立っている。  
この雨の中、傘も雨具も使わずに歩いていたようで、ずぶ濡れの服が体にピッタリまとわりつき、  
ややスレンダーだが、出るべきところはきっちりと出ている、見事な体型が露わになっていた。  
「………な…なな…な……」  
「あ…え……」  
と、俺と目があった彼女は、見る見る顔を真っ赤に染め上げ、口をパクパク動かしている。  
一方の俺も、言葉が言葉にならず、やっぱり口をパクパクさせるしかなかった。  
そんな気まずい空気の中、沈黙を破ったのは、のっそりと体を起こした絹代だった。  
 
「んあ……ど、どうした…の? あ……佳乃? どうしたのだ、いったい?」  
「き、絹代様に何をしているんだ! 貴様あ〜!!」  
絹代の声をきっかけに、佳乃と呼ばれた彼女が動いた。しかも、肩にかついだ薙刀を振りかぶりながら!  
……って、おい! 俺を斬るつもりか!? というか、ここには誰も来ないはずじゃなかったのか!?  
「わ! ちょ、ちょっと!?」  
「問答無用! この不埒者があっ!!」  
混乱する俺に向かって、佳乃は容赦なく薙刀を振りかざす。  
………嗚呼、人生短かったなあ……などと覚悟を決めかけたそのとき――  
 
「止めぬか、佳乃!!」  
絹代の凛とした声が響き渡ったかと思うと、佳乃の動きがピタリと止まった。  
首筋には、佳乃の握り締める薙刀の刃がしっかりと当てられている。  
もしこのまま刃を縦に引かれると、首筋からシャワーのように真っ赤な血が噴き出すことだろう。  
時代劇ではよく見る光景だが、間違っても自分自身で体験したくは無い。  
「し、しかし絹代様……」  
「うるさい! この者は、わらわが招いた客人じゃ。  
かような無礼を働くと、わらわが容赦せぬぞ! 今すぐに、その刃を退かぬか!」  
この状態で、違う意味で刃を引かれたら、俺って死ぬと思うんだけど。  
………まさか、やっぱりこのまま俺を殺す気なのか?  
「ですが絹代様、何故に人間などをこの庵へ……」  
「人間? 佳乃も目が曇ってしまったのか? 信幸殿はれっきとした天狗でござるぞ! ほれ!」  
「な! ちょ…ちょっと絹代様!?」  
尚も抗弁する佳乃を見て、絹代はいきなり俺のモノを握り締めながら叫んだ。  
佳乃は手にしていた薙刀を落っことし、真っ赤に染まった顔を背ける。  
「ほれ! 信幸殿は我々と違って、穢れが溜まるとこちらが膨らむのだ!  
それだけではない! こうして擦っていくと、聖なる液体を噴き出させるのじゃ!」  
言いながら、絹代はモノをしごき始めた。……あう…そんなこと…されたら……またでかくなって……。  
絹代がもたらす心地よい刺激に耐え切れず、思わず腰がひけてしまう。  
「き、絹代様……そ、それは………」  
「それも何も無い! 大体、おぬしは今日は何をしにここへ来た、というのだ!?  
わらわに意見をするのは、その後であろうが!」  
「あうっ!」  
指の隙間からチラチラとこちらを見ながら、ぽそぽそつぶやく佳乃に向かって、絹代が再び叫んだ。  
叫んだ弾みで、モノを握り締める手に力が篭り、その痛さに思わず悲鳴がこぼれてしまう。  
 
「も、申し訳ございませぬ。……実は、琢磨様からの書簡をお持ちしまして……」  
「何? 父上からと? それを先に言わぬか、まったく………」  
絹代の言葉に佳乃は、はっと何かを思い出したかのように、絹代の前に跪いた。  
「申し訳ございませぬ………。さ、こちらで………」  
「まったく……わらわが用がある時は姿を見せずに、こんな時だけ佳乃を使うなんて…………」  
すっかり畏まった佳乃は、懐から濡れてぐしゃぐしゃになった手紙を取り出し、絹代に差し出した。  
絹代は、それをひったくるように受け取り、ブツブツ言いながら手紙を読み始める。  
……………段々、顔つきが険しくなってきたんだけど、どうしたというんだ?  
「………信幸殿。不躾だがお願いがある」  
「ああ、はいはい。俺に出来ることなら、なんなりと」  
手紙をくしゃくしゃに丸めながら、絹代は俺の顔を見据えて言った。  
まあ一応命の恩人だし、ここで断ったりしたら、そのまま佳乃に殺されそうだしな。  
「信幸殿ならば、簡単なことじゃ。……………わらわと一緒になってくれ」  
「ん。それなら確かに簡単で………」  
「な、何だってーーーーーー!?」  
「な、何ですってーーーーー!?」  
佳乃と声がハモリ、思わず佳乃の顔を見てしまう。と、同じことを考えていたようで、  
思い切り目が合ってしまい、プイと顔を背ける佳乃。どうでもいいが、ここまで嫌うか普通?  
 
「な……ど、どういうことですか絹代様! 何を御乱心あそばしましたか!?」  
「ええい、無礼なことを申すな。わらわは至って平静じゃ。……………ほれ」  
大慌てで絹代に詰め寄る佳乃に、絹代は仏頂面のまま、先程の手紙を渡した。  
「そ、それでは失礼…………………………き、絹代様! こ、これは!?」  
絹代から手紙を受け取った佳乃は、畏まりながら手紙を読み………驚嘆の声をあげる。  
…………何が書いてあるか、非常に気になるのですが。  
「あ、ああ。信幸殿には事情を説明せねばなるまいな。これは失礼した。  
実はわらわの父上が、縁談を持ってきたのじゃ。だが信幸殿も知っての通り、  
わらわはまだまだ未熟者。父上には悪いが、結婚などまだまだ考えたくも無い!」  
………確かに、あんな部屋を散らかしたりしてたら、結婚生活は大変だろうな。  
「………そ、そういうわけで、信幸殿にはすまぬのだが、夫婦になるフリをして欲しいのじゃ。  
勿論この礼は、わらわが出来ることであれば、なんなりとさせて頂く!  
お願いいたす! どうか、どうかわらわの願いを聞いてくだされ!」  
突然俺の前に土下座する絹代。……どうすればいいというのだ、まったく……。  
「あ、いやそんな、いきなりそう言われても……というか、頭をあげてくれよ」  
「いいや! 絹代のこの一生の願い、聞いていただけるまで頭を上げる気にはなれませぬ!」  
俺がたしなめても、絹代は土下座したまま動こうとしない。  
……弱り果てた俺は、何も言えずにその場にへたりこんでしまった。  
 
「無理ですよ、絹代様」  
「な、何を申すのだ、佳乃!」  
佳乃がポツリとひとこと。絹代がぱっと顔をあげ、佳乃を睨みつける。  
「無理なものは無理、と申しているのです。先程も申し上げましたでしょう、このような人間に、  
形だけとはいえ、天狗の姫君を娶ろうなんて甲斐性が、あろうはずもないのですから」  
「「な…なな……」」  
小馬鹿にするような佳乃の言葉に、俺と絹代が揃って声を詰まらせてしまう。  
ちょ、ちょっと待て。天狗の姫君って、まさか絹代が………?  
「そなた……確か、信幸とか申したか。ささ、今回だけは見逃してやるから、早々に帰りなされ」  
ゆっくりと立ち上がり、襖を開ける佳乃。……確かに、ここで帰れば平和な日常に戻れる。  
絹代とは、元々が住む世界が違えば種族も違うんだ。それに、応えなければならない義理もない――  
そう思って、立ち上がろうとした瞬間、泣きそうな顔でこちらを見上げる絹代の姿が目に入った。  
「の…信幸殿………」  
…………天狗の姫君うんぬんはともかく、ここで退いたら男が廃る、よな。  
「分かった、分かったよ。……しばらくの間、一緒に暮らすことにするよ」  
「さ、さすが信幸殿! か、かたじけない! 絹代、この御恩は一生忘れぬ!!」  
「ふむ。どうやら話は決まったようですな。  
それでは琢磨様への御返事は明日にするとして、我は夕餉の支度をさせていただきますか」  
俺の言葉に、絹代はこれ以上ないくらい頭をブンブン頷かせながら、感謝の言葉を述べる。  
と、佳乃は先程までの、小馬鹿にするような態度から一変して、無表情のまま部屋をあとにした。  
………これは…思い切り、挑発に乗ってしまった、というヤツか……。  
まあ仕方ない。乗ってしまったのなら、最後まで乗り続けてみせる、さ。  
 
「うむ、久々に佳乃の夕餉を食すが、いつ食べても美味いものだのう」  
「かたじけのうございます、絹代様。それより……絹代様の方こそ、料理の腕は上達されたのですか?」  
「あ……そこはそれ、だ、ははは……」  
「ははは、じゃございませぬ。今回はさておき、いつかは絹代様も嫁入りされる身。  
炊事洗濯くらいまともに出来ねば、一緒になって頂ける殿方に申し訳が立ちませぬぞ」  
「わ、わかっておる、わかっておるわ……まったく………」  
食事中、2人は何やかやと話し込んではいたが、俺は会話に参加出来るわけでもなく、  
ただ黙々と目の前の料理を口に運んでいた。……薄味で、量的にも物足りないと思ったが、  
不思議なことに食べているうちに旨味が増し、お腹も膨れてきた。  
……まるで、どこか懐かしいお袋の味、という言葉がしっくりくるような料理だ。  
それにしても……部屋は散らかしっぱだわ、料理はまるでダメだわって…嫁入りしたくない理由って、  
どちらかというと、そっちにあるんじゃないだろうな?  
かと言ってこちらの世界にやってきて、お料理教室に通うとかって話でもないし、な。  
ま、そんなことはどうでもいい、や。  
「どうも、ごちそうさまでした。すっごく美味かったよ」  
「ああ、おそまつさま。あとは明日に備えてゆっくり休んでくださいな」  
俺の言葉に、そっけなく答える佳乃。……やれやれ、とことん嫌われたもんだ。  
 
「さて、とりあえず布団でも……」  
「あ、そ、そこじゃなくて、隣の部屋に布団があるから! そこから出す必要は無いぞ!」  
ご飯を食べ終え、何気ない会話を続けていた2人だが、佳乃が伸びをしながら立ち上がり、  
部屋の隅にある押入れに向かって歩き出す。絹代は何故か大慌てでそれを止めようとしている。  
「何を言ってるんですか。今日は我ら二人だけでなく、信幸殿もいらっしゃるのですぞ。  
それとも、三人で一緒に寝るとでも仰るのですか?」  
「あう……そ、それ…は……」  
怪訝そうな顔をして絹代に返事をする佳乃。………確かに、3人でってのは色々な意味で怖い。うん。  
「よいしょ…あ、あれ? おかしいな、開かない?」  
「あ…手伝おうか?」  
「うむ、かたじけない。それでは、合図とともに引っ張るぞ」  
佳乃は押入れを開けようとするが、何かが引っ掛かっているようで、なかなか開かないようだ。  
手持ち無沙汰にしていた俺が手伝いを申し出ると、佳乃は珍しく素直に応じてくれた。  
「よい…しょ……っと…わ、わあっ!?」  
「な、何だあっ!?」  
二人で一緒に襖に力をこめると、襖が勢いよく開いた。  
……だけでなく、中からガラクタやら何やらが次々とあふれ落ちてきた。  
その勢いに押され、思わず二人揃って倒れこんでしまう。  
「………き……絹代様!!」  
俺の上に乗っかったまま、佳乃は絹代に向かって叫んでいた。  
………そうか…随分早く片づけが終わったと思ったら、ここに押し込んでいただけだったのか。  
「……う……だから言ったのに……」  
「『だから言った』も何もございませぬ! 珍しくお部屋が綺麗だったと思ったら、  
こんなところに詰め込んでいたなんて! 今すぐ! お片づけくだされ!!」  
首をすくめてぼそぼそとつぶやく絹代を見て、さらに大きな声で佳乃は叫ぶ。  
というか、いい加減俺から降りて欲しいんだけれども。  
 
「ああ…う……」  
「返事は『はい』です!!」  
「は…はい………」  
「あっと……これは失礼いたした信幸殿。  
恐れ入るが、あなたにお泊りいただくのは、こちらになります。さ、どうぞ……」  
ひとしきり絹代を叱りつけたのち、言葉とは裏腹に、  
全然失礼をしたと思っていない表情で、俺を奥の部屋へと案内する佳乃。  
……やれやれ、結構可愛いんだから、これでもう少し愛想がよければねえ。  
などとは俺が、言う資格などあるわけないのか……。  
 
「おぬしには、こちらで寝泊りしていただく。ごゆるりと疲れを癒やすがよかろう」  
佳乃に通された奥の部屋は、真ん中に布団が敷いてあるだけの、3畳ほどの小さな部屋だった。  
正直、外で寝泊りしろとか言われるかと思ってたから、扱いとしては悪くないのかな?  
でもよく考えりゃ、逃げ出されないように、俺を奥の部屋に押し込めた、のか?  
いや、普通に窓があるから、そこから逃げようとすればいくらでも逃げられるし……。  
「えっと……どうもありがと………」  
「ひとこと言っておく。絹代様の客人ゆえに縄は掛けぬが、我はおぬしをまったく信用してはおらぬ。  
だが、ここから逃げ出したくば、いつ逃げ出しても一向に構わぬぞ。  
もっとも、迷いの霧の術を破ったうえに、我の手から逃れることが出来れば、の話だがな」  
とりあえず、俺が礼を言おうとしたが、それを遮るように佳乃は俺に釘を刺し、部屋を後にした。  
………それにしても俺の人生、これからどうなるんだろう?  
 

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