「さってと、今週も無事に終わったか〜」
「どうにかこうにか、ね。で、週末は久々に家族サービスかい?」
会社を出て、思いっきり伸びをする俺に、同僚の新條が話しかけてくる。
「そうだな〜。まあ、せいぜい3人で買い物に行ったり、近所の公園を散歩するくらいだろうけど」
「な、なんだそりゃ? それが家族サービスかい?」
「ああ。変ににぎやかなところに行くより、そういうほうがいいんだってさ」
首をコキコキ鳴らしながら答える俺を見て、怪訝そうな顔で俺を見る新條。
……まあ佳乃の場合、まだ街の中とか人が多いところは、慣れていないところがあるんだろうし、
幸乃も、まだまともに歩けるわけじゃないから、それでいいのは俺も同意なんだがな。
「ふ〜ん、そんなもんなのかねえ……」
「言ってるおまえはどうなんだ? カミさんとどっか行くとかないのか?」
「え? 僕? ……う〜ん、そうだねえ……」
天を見上げながらつぶやく新條に、俺は逆に問いかけてみた。
すると新條は、天を見上げたまま腕を組み、考え始める。
「ま、いいや。お前が下手に出掛けると、足の骨とか折ってくるしな。それじゃ、また来週」
「う……ま、またそれを……。ま、また来週」
かつて、新條が冬山に行ったとき、足を骨折して入院したのを思い出した俺は、
肩をすくめながら、別れの言葉を掛けた。
新條は、憮然とした表情になりながらも、手をひらひらと振り返し、反対側のホームへと去って行った。
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ、信幸様」
「………ど、どしたの? 佳乃」
いつもと同じように帰りの電車に乗り込み、いつもと同じように自宅近くの駅に着き、
いつもと同じように自宅に戻ってきて、いつもと同じように玄関を開けた俺は、
いつもと違う光景に、思わず固まってしまった。
そう、いつもなら幸乃を抱っこしながら、笑顔で迎えてくれる佳乃が、
今日は何故か三つ指ついて、深々と頭を下げながら出迎えてくれたのだ。
「先にお風呂になさいますか? それとも、お夕食にいたしましょうか?」
「え、えっと……晩ご飯が先、かな……」
「かしこまりました。さあ、どうぞ……」
呆然とする俺をよそに、佳乃は俺の鞄を手に取りながら、優しく問いかけてきたかと思うと、
俺の返事ににっこりと笑みを浮かべ、そっと手を差し伸べてくる。
思わず佳乃の手を握り返した俺は、手を引かれるままに、居間へと歩き出していた。
「いかがいたしますか? 一杯、お付けしましょうか?」
脱いだ上着を佳乃に渡し、ネクタイを緩めながら、夕食の支度済みのテーブルの前に腰を下ろす。
と、俺の上着をクローゼットに掛けなおした佳乃は、こちらに振り返りながら問いかけてくる。
「う、うん……」
「かしこまりました。少々お待ちくださいませ」
俺が戸惑いながらも返事をすると、佳乃はペコリと頭をさげ、台所へと歩いていった。
「さあ、どうぞ……」
「あ、ありがと……って、何かあったの?」
冷蔵庫からビールを取り出し、テーブルの角を挟んで俺の斜め前に座った佳乃は、
俺が手にした空のコップに恭しくビールを注ぐ。
夕食時に、佳乃にお酌をしてもらう――それ自体はいつもと変わらない光景なのだが、
まるで召使いか何かのような佳乃の態度に、何とも言えない気持ちがふつふつと湧き上がり、
我慢できなくなった俺は、思い切って問いかけてみた。
「はい……実は今日、幸乃ちゃんを連れて病院へ行ってまいりまして……」
「ああ、定期健診だったっけか。何か変わったこととか、なかった?」
ビールを注ぎ終え、瓶をテーブルに置いた佳乃は、ちらりと幸乃のほうを見ながら口を開いた。
その幸乃はと言えば、赤ちゃん用の小さな布団の上で、お気に入りの玩具を握り締めたまま、
すやすやと寝息を立てている。そんな幸乃の姿に、思わず目を細めながら相槌をうつ。
「はい、幸乃ちゃんは順調に育っているとのことで……で、わ、われも一緒に診ていただいて……」
「え? よ、佳乃も? どこか具合でも悪かったの?」
だが、佳乃の次の言葉に、俺は思わず佳乃のほうを仰ぎ見ていた。
……具合が悪いのなら、尚更こんなことをさせるわけにはいかないじゃないか。
「あ……いえ、じ、実はその……ふ、二人目が……中に……」
俺の驚きの表情を目にした佳乃は、戸惑いながらも顔を伏せ、そっと自らのお腹を撫でまわす。
「………え? ふ、二人目?」
「は、はい……」
予想だにしなかった言葉に、頭の中が真っ白になった俺は目を丸くさせ、鸚鵡返しにつぶやく。
佳乃はそんな俺を見返し、お腹に手を当てたまま、コクリと頷いた。
「本当なの!? おめでとう、佳乃!」
「きゃっ………あ、ありがとうございます」
次の瞬間、俺は自分でも無意識のうちに佳乃を抱き寄せ、祝福の言葉とともに軽く頬にキスをしていた。
突然のことに、佳乃は驚きの表情を浮かべながらも、微笑みを浮かべる。
「あぶ、ぶう」
「よかったな〜幸乃、おまえ、お姉ちゃんになるんだぞ〜」
「ま……あなたったら……」
と、俺の声で目を覚ましたのか、幸乃がこちらを見ながら不機嫌そうに、手足をじたばたさせている。
嬉しさで気分が高揚していた俺は、佳乃から離れて幸乃を抱き上げながら、話しかける。
幸乃は突然抱っこされたせいか、一瞬目を丸くさせていたが、すぐに笑みを浮かべ、
「ぱー、ぱー」と覚え始めたばかりの言葉を口にして、俺に向かって手を伸ばそうとしてくる。
そんな俺たちを見て、佳乃は口元に手を当て笑顔を浮かべている。
……笑顔は笑顔なのだが、どことなく苦笑いに見えるのは、何故なのだろうか?
「で、お袋には知らせたの?」
「あ……い、いえ。あなた様が、直接お知らせになったほうが、よろしいかと思いまして……」
幸乃を抱っこしたまま、振り返りながら尋ねてみると、佳乃は首を横に振る。
「何だよ、そんなに気にすることでもないだろうに……」
俺は軽く肩をすくめながらも、携帯電話を手に取って、お袋の番号へと掛けた。
……やっぱり我が家でも、俺の見えないところで嫁姑問題が発生しているのだろうか?
いや、あのお袋ならば、そういう問題は発生しそうになさそうなのだが……。
『はい、もしもし?』
「あ、もしもしお袋? 実は、二人目が出来ちゃったみたいでさ」
『まあまあ、本当なの? おめでとう。……信幸、明日は家にいるのかい?』
電話口のお袋は、俺の報告に声を弾ませたかと思うと、急にトーンを落として何やら問いかけてきた。
「ああ、休みだけど、どうかした?」
『うん、ちょっと大事な話があるから、明日そちらにお邪魔しようかと思ってね』
「大事な話? いったい何?」
『ちょっと電話ではアレだから、明日直接会って話すね。それじゃ、佳乃さんにも体を大事にって伝えといて』
「あ、おいお袋……ったく」
「ど、どうしたのですか?」
こちらとしては、単におめでたの報告をするだけのつもりだったのだが、
妙に気になる終わり方で、一方的に電話を切るお袋。
俺が妙な顔をしているのを目にして、佳乃が不安げな表情で、こちらを見ている。
「何だかよくわからんが、大事な用があるから明日こっちに来るらしい」
「は、はあ……何があったのでしょうか?」
俺がそう答えると、佳乃は訳が分からない、という顔で俺を見返してきた。
……正直、俺もお袋の考えはよくわからん。いつだったかは、『必ず帰って来い』とか言ってきて、
実家に帰ってみると、『俺たちの結婚式の予約をしていた』とか言い出すくらいだし。
「ん〜。子どもが出来た、と子どもが産まれた、と聞き間違えたか? ……いたた」
「ま、まさかそんな……」
宙を見上げて予想を口にしてみると、いきなり幸乃に頬っぺたをつねられてしまった。
そんな光景が面白かったのか、佳乃は口元に手を添え、笑みを浮かべながら返事をしていた。
「あ…あなた」
夜――俺は肩を軽く揺さぶられる感覚に、目を覚ました。
ふと見ると、佳乃が覆いかぶさるような姿勢で、俺の肩に手を添えていた。
「ん? ど、どしたの? 佳乃」
「その……お情けを…いただきたいと……」
半分寝ぼけた頭で問いかけた俺は、思いもよらない佳乃の答えを耳にして、一気に目が覚めた。
「お、お情けって……お腹に子どもがいるんだろ?」
「今さら何をおっしゃるのですか。かつて幸乃ちゃんがお腹にいたときにも、
あんなにお情けをいただいていたではありませぬか……」
俺の返事に、佳乃はため息をついたかと思うと、呆れ顔でつぶやくように答える。
そうつぶやく佳乃のネグリジェは、前がはだけていて隙間から、豊かな胸が見え隠れしている。
……ところで、「あんなに」のところで佳乃の声に、かなり力がこもっていたような気がするのは、
果たして俺の気のせいだろうか?
「い、いや、確かに、そりゃそうだったけど……」
「それとも……もう、こんなはしたない女は、お嫌いになられましたか?」
目のやり場に困りながらも、俺は目を泳がせながら返事をする。
と、佳乃はさらに身を乗り出し、俺に体をぴたりと体を寄せ、寂しそうに問いかけてきた。
「い、嫌なはず、ないだ……ん、んむっ……」
俺が言い終わる前に、佳乃はいきなりくちびるを重ねてきた。
さらに佳乃は自らの舌で、俺のくちびるの隙間を押し広げたかと思うと、
そのまま俺の口中へと舌先を潜り込ませてくる。
「ん、んふ……っ……んっ…」
佳乃の舌先が、俺の舌先に軽く触れ合った。その途端に佳乃は、
まるで求めていたものが見つかった、と言わんばかりの勢いで、自らの舌を俺の舌に絡めてくる。
俺もまた口先をすぼませ、潜り込んできた佳乃の舌に軽く歯を立てながら、夢中で舌を絡めていった。
「っ……。ん、んんっ」
しばしの間、お互いの舌を激しく絡めあっていたが、不意に佳乃が舌を抜き、
くちびるを離したかと思うと、ゆっくりと上半身を起こしてきた。
「よ、佳乃……」
「んふ……っ」
佳乃の、ぞっとするほど艶めかしい表情を目にした俺は、まるで金縛りになったかのように、
身動きひとつ出来ず、つぶやくように口を動かすのが限界だった。
そんな俺を見下ろす佳乃は、妖しく微笑みながら俺の両頬を手で抱え、
軽くくちづけをしてきたかと思うと、ふたたび体を起こし、俺のズボンへと手をかけてきた。
ふと見ると、俺のパジャマの上着はいつの間にかボタンが解かれ、素肌が露わになっている。
「あ……よ、よし…あっ」
俺が佳乃に声を掛ける間もなく、佳乃は俺のズボンを下着ごとずり下ろした。
同時に、半勃ちで先端が半分近く皮に覆われた状態の、俺のモノがその姿を現す。
「んふふ……っ、んんっ」
「あく…っ、よ、佳乃…っ、あっ…」
下着をずり下ろされた反動で、前後にぷるぷる揺れるモノを目にした佳乃は、
嬉しそうに微笑みを浮かべたかと思うと、おもむろに口に含ませた。
さらに左手でモノを握り締めながら、舌先をすぼませ、皮の隙間へと潜り込ませてくる。
「ちょ、よ、佳乃っ……く、う、ううっ……」
「っ、ん、ふっ、んっ、んふ、んっ……」
モノから伝わる刺激に、俺は全身を震わせながら、思わず佳乃の頭に手を添える。
佳乃は、俺の仕草を気にする風でもなく、それどころか逆に動きを激しくさせてきた。
「くふ……っ」
「佳……乃っ…」
やがて、俺のモノは佳乃の舌使いによって、ガチガチに勃ちあがっていた。
モノから口を離し、そそり立つモノを見て嬉しそうに笑みを浮かべる佳乃は、
舌を伸ばして尿道口を舐め上げたかと思うと、ゆっくりと体を起こし、俺の股間へと跨った。
「ん……んんっ、あ、はあ……あっ……」
「よ……佳、乃…」
騎乗位の姿勢になった佳乃は、震える俺の手を優しく握り締めながら、
モノに自らの股間を押し付け、ゆっくりと腰を前後に動かし始める。
「あっ、あは…ああ、あっ……」
上半身を軽く仰け反らせながらも、腰を動かし続ける佳乃。
俺もまた、佳乃の腰の動きに合わせるかのように、無意識のうちに腰を揺さぶり始めていた。
二人が腰を動かすたびに、擦りあわせる股間からは、ねちゃねちゃとした音が響いていたが、
そのうち痺れるような感覚が、下半身に襲い掛かってきた。
……もう、もうイッてしまうかも……。
そう思って、ひときわ強く腰を突き上げた瞬間――
「あ、ああっ。よ……佳乃?」
不意に佳乃が腰を浮かし、立ち膝の姿勢になった。
お互いの体が離れたことにより、モノへの刺激が中断された俺は、不満げに佳乃を見上げる。
「あ、あなた……も、もう……」
「く……っ、……」
そっと繋いでいた手を離した佳乃は、俺のモノと自らの割れ目へと手を添えながら、妖しく微笑む。
佳乃の意図を察した俺は、軽く手を添えられただけで、暴発してしまいそうな勢いをどうにか堪えて頷いた。
「んっ、あっ……ああっ、ああ……」
「あっ! あ、ああっ!」
俺が頷くや否や、おもむろに腰を落とす佳乃。
その途端、こみ上げる刺激に全身がビクリと震え、二人の口からあえぎ声が漏れ出す。
「あっ、あ、ああ、ああんっ……」
「う……っ、よ、佳乃……お、俺、もう……」
佳乃は艶めかしいあえぎ声とともに、腰を上下に動かし始める。
まるで少しでも長く、この刺激を味わいたいかのように、なぞるようにゆっくりと。
だが俺は、さきほどからの立て続けの刺激に、早くも限界に達しそうになっていた。
「あは……あっ、ああっ、あああっ……」
「うっ! うああっ! よっ、佳乃おっ!!」
俺の声が耳に届いたのか、佳乃は唐突に腰の動きを早めだす。
次の瞬間、俺は悲鳴交じりの絶叫とともに、佳乃の中であっけなく果ててしまっていた――
「あ……あは、あ……信幸様のが……中に……あ、ああ…っ……」
「く……ううっ、よ、佳……乃っ……」
俺が絶頂に達しても、佳乃の腰の動きは止まろうとしない。
虚ろな目で天を見上げ、パクパク動く口からは、うわ言のようにあえぎ声が漏れ出している。
一方の俺はといえば、達した直後で敏感になっているモノへと加えられる刺激に、
下半身がビクビク震えてしまっていた。
「あっ、あは、あんっ! あっ、ああっ!」
やがて、佳乃のあえぎ声が甲高く、断続的な悲鳴交じりなものへと変わっていった。
それとともに、佳乃の腰の動きが短く素早い動きへと変わっていく。
佳乃が腰を上下に動かすたびに、二人の繋がっている場所からぐちゅぐちゅという音とともに、
白濁した液体が溢れ出し、俺のふとももをつたって流れ落ちている。
「よ、佳乃……っ」
「あ…あな、た……あ、あっ、あああっ!!」
おもむろに、佳乃が俺の手を取り、自らの豊かな胸へと導いてくる。
俺は半ば無意識のうちに、佳乃の胸を激しく揉みしだき、その頂を指で挟みあげていた。
その途端、佳乃は上半身を弓のようにしならせ、悲鳴とともに絶頂に達していた。
「はあ……はあ、はあ……あ、あなた……」
「佳乃……」
佳乃は肩で息をさせながら、繋がったままゆっくりと俺の上へと覆いかぶさってきた。
俺はそんな佳乃をそっと抱きしめ、軽く頭を撫でる。
ほんのり上気している佳乃の肌は、玉のような汗がしたたり、情事の激しさを物語っている。
……いや、かくいう俺も汗まみれなのだが。
「…………あ。ゆ、幸乃ちゃん……」
不意に佳乃が顔を巡らせ、隣で横になっている幸乃に声を掛けた。
その幸乃はといえば、いつから目を覚ましていたのか、キョトンとした顔でこちらを見ている。
……いったいいつから見ていたんだ? この娘は。
「ん〜? お父さんお母さんがうるさくて、目を覚ましちゃったですか〜?」
佳乃は俺から離れ、幸乃を優しく抱き上げながら、微笑みかける。
……何気に物凄いことを言っている気がするのだが、気のせいだろうか?
「だあ」
「ん〜、ごめんなさいね〜。一緒にお風呂入るから、機嫌直してくださいね〜」
佳乃に抱き上げられた幸乃は、嬉しそうに笑みを浮かべながら、手をばたつかせる。
そんな幸乃に、佳乃は頬ずりとともに、こぼれんばかりの満面の笑みを返していた。
「そっか……親子3人、川の字で寝るのもあと少し、ってことなんだなあ」
風呂をあがってから、俺たちは幸乃を真ん中にして布団に入った。
上機嫌で俺の顔を見上げる幸乃の頭を撫でながら、俺はポツリとつぶやく。
「そう…ですね。でもその分、にぎやかになるってこと、ですよ。ねえ、幸乃ちゃん?」
俺のつぶやきに、幸乃の手を優しく握りしめていた佳乃は、
微笑みを浮かべて返事をしつつ、幸乃へ顔を寄せながら問いかける。
「にぎやかになる……か。佳乃は、大丈夫なの?」
「何が………ですか?」
そんな佳乃を見つめながら、俺は佳乃に話しかける。
佳乃は俺の問いかけに目を真ん丸に見開き、きょとんとした表情でこちらを見つめ返してきた。
「い、いや……これから、幸乃に手が掛かっていくだろうに、もう一人なんて……」
「ふう………何をおっしゃるかと思えば……。大丈夫に決まっているじゃありませんか」
あまりにも意外、という佳乃の表情に、俺は戸惑いながらも言葉を続けた。
だが佳乃は、大きくため息をつきながら呆れ顔で答え、幸乃に視線を移す。
「そ、そう?」
「ええ……だって、幸乃ちゃんがお腹にいるときも、生まれてからも、ずうっと……」
「ず、ずうっと?」
幸乃を見つめながら答える佳乃は、そこで一旦言葉を切り、ふたたび俺を見上げる。
こちらを見上げたときの佳乃の表情が、あまりにも真剣な表情だったので、
思わず俺はゴクリと唾を飲み込み、佳乃の顔を見返していた。
「……こんなに大きな子どもの面倒まで、見ていたのですから……。大丈夫に決まっていますでしょ?」
「え……あ、う………」
佳乃はしばしの間、真剣な表情のままで何も言わずに俺を見つめていたが、
不意に悪戯っぽく笑みを浮かべたかと思うと、そっと俺の手を取りながら小首を傾げる。
俺は返す言葉が見当たらず、視線を逸らしてしどろもどろに口を動かすしかなかった。
「ぱー、ぱー」
「うふふっ、これからも頑張ってくださいね、パ・パ」
「そ、その……が、頑張ります……」
俺の内心の動揺を知ってか知らずか、幸乃が嬉しそうに俺に向かって手を伸ばしてきた。
追い討ちをかけるように、佳乃も嬉しそうに声をかけてくる。
俺は幸乃と佳乃の手を握り返し、そう答えるのがやっとだった――