ピンポーン  
 
「はーい」  
「信幸かい? 私だよ」  
「ああ、母さんか。いらっしゃい」  
呼び鈴に応え、玄関の戸を開けると、そこには両手一杯に荷物を手にしたお袋の姿があった。  
「ふ〜う、お邪魔します。はい、これお土産」  
お袋は、俺に荷物を手渡し…というか押し付けながら、家に上がりこんできた。  
「いらっしゃいませ、お義母さま」  
「どうもどうも佳乃さん。このたびは、おめでとうございます。  
ん〜、幸乃ちゃ〜ん、幸乃ちゃん、もうすぐお姉ちゃんになるんですよ〜」  
と、部屋の中ではテーブルの上を付近で拭いていた佳乃が、ペコリとお辞儀をしていた。  
お袋もまた、佳乃に向かってペコリと頭を下げながら、声を掛けたかと思うと、  
椅子にちょこんと座っている幸乃を抱きかかえ、満面の笑みで頬ずりしながら話しかけていた。  
……って、昨日の俺とまったく同じリアクションだな。  
などと思っていると、どうやら佳乃も同じことを考えていたようで、俺とお袋を交互に見たかと思うと、  
口元を手で押さえながら、俺のほうを見て声を出さずに笑い出していた。  
俺は俺で、ただ立ち尽くしたまま、佳乃に向かって苦笑いするしかなかった。  
 
「……お〜い、お袋〜」  
「ん、どうしたんだい?」  
荷物を置いた俺は、それからしばしの間、お袋が声を掛けてくるのをじっと待っていたが、  
お袋はただひたすら幸乃とじゃれるのみで、こちらのほうを見向きもしない。  
とうとう、痺れを切らした俺は、お袋に声を掛けた。  
「何か、用があるんじゃなかったのか?」  
「ああ、そうそう。さ、閉めて閉めて」  
するとお袋は、途端に神妙な顔つきになったかと思うと、口と手で部屋の戸を閉めるように促してくる。  
訝しげに思いながらも、俺は言われるがままに、部屋の戸を閉めるべく再び立ち上がった。  
「で……やってきたのは、これなんだけどね……」  
部屋の戸をすべて閉めたのを確認したお袋は、俺たちに今度はテーブルの前に座るように促しながら、  
鞄の中から何冊もの通帳を取り出し、次々とテーブルの上に並べ始めた。  
「……って。こ、これ何!?」  
言われるままに、通帳の中身を確認した俺は次の瞬間、お袋に向かって叫んでいた。  
――何せ、どの通帳にも、ほぼ限度額一杯の数字が入っていたから、だ。  
「通帳」  
「通帳は分かってるよ! この通帳に印字された数字は、いったいどこから現れたか聞いてるの!」  
焦る俺を他所に、どこかピントの外れた答えをするお袋。その態度に、自然と声が大きくなってしまう。  
「そこまで大きな声を出さなくても、ちゃんと聞こえますよ。ご近所迷惑でしょ。ね? 幸乃ちゃん」  
軽く顔をしかめたかと思うと、首をかしげて幸乃に向かって声をかけるお袋。  
……いったい誰が、声を大きくさせる原因を作ったと思っているんだ。  
「で、お義母さま。この大金はいったい?」  
呆れて声が出なくなった俺の代わりに、不安げに眉を顰める佳乃がお袋に問いかける。  
佳乃も、人間の世界に住んで半年近く経つだけに、通帳に刻まれた数字の意味は、さすがにわかっていた。  
 
「うん、暮れにお前たちがうちに遊びに来たとき、佳乃さんのご親戚の方たちもいらしたでしょう?  
あのときに、髪の凄く綺麗な……そう、薫さんがどうしてもと言って、置いていかれたのですよ」  
「えっ……薫姉、が……?」  
意外な名を耳にして、佳乃が口をパクパクと金魚のようにうごめかす。  
……呆気に取られていた俺も、多分佳乃と同じような表情をしていたのかもしれないが。  
「ええ。これからは、そうそう会うことも出来ないだろうから、  
幸乃ちゃんたちに何かあったときのために、預かっていておいてほしい、と現金でどさっと」  
「そうなんだ」  
「そうなんだ、じゃないですよ。三が日は銀行が開いていなかったし、いざ銀行に預けはしたものの、  
気が気でないから、今度は通帳を肌身離さず持っていなきゃならなかったし……」  
お袋の説明に相槌を打つと、今度はお袋が立て板に水の如く愚痴っぽく話し始める。  
「そう……だったのですか。申し訳ありません、お義母さま」  
「あ、いや。佳乃さんや薫さんたちを、責めてるわけじゃないよ。  
気持ちは凄くありがたかったさ。……けれど、これをずっとあんな我が家に置いておくのは、ねえ」  
だが、佳乃がしんみりとした表情で頭を下げると、お袋は慌てて首と手を振り、視線を再び通帳に移す。  
「ふうむ」  
「で、昨日二人目が出来たって聞いたから、これから物入りになるだろうし、  
私がこうやって持っているより、お前たちに渡したほうがいいと思ってね」  
「う〜ん……」  
 
腕組みしながら考え込む俺に、お袋は首を軽く傾けながら、通帳を指し示す。  
確かに、これから出費が増えるのは間違いないわけだから、それはそれで助かる。  
しかしだからと言って、そう簡単に『はい、いただきます』と貰っていいものなのだろうか?  
それ以前に、薫さんはこのお金をどうやって手に入れたというのだろうか?  
 
「ばー、ばー」  
「はいは〜い。幸乃ちゃ〜ん、ば〜ばですよ〜」  
と、不意にお袋に抱かれた幸乃が、上半身を巡らせてお袋の顔を見上げる。  
途端にお袋は相好を崩し、幸乃の手のひらを軽く握って上下にぶんぶんと動かし始めた。  
お袋のその仕草から、『このお金のことはもう知らない』という態度が見て取れる。  
さすがに言葉を失った俺は、隣の佳乃を仰ぎ見てみた。  
だが佳乃もまた、何ともいえない表情で、テーブルの上の通帳をじっと見つめていた。  
 
 
「ね、ねえ。佳乃……」  
「は、はい……」  
夜も更けたが、目が冴えて眠りにつけなかった俺は、隣で横になっている佳乃にそっと声を掛けた。  
佳乃もまた、安眠状態とは言えなかったようで、あっさりと顔をこちらに向け、返事をしてきた。  
「ちょっと……聞きたいことがあるんだけど……。前に、薫さんが人間の世界で暮らしていた、  
って言っていたよね? その頃薫さん、いったい何をしていたの?」  
「さ、さあ。詳しいことはわれも……。何せ、われが生まれたかどうか、の頃の出来事らしいので……」  
「ふうん、そっか。そりゃあわかるわけない、か……え? あ、あのさ。薫さんって、いったい幾つなの?」  
佳乃の言葉に一旦頷きかけた俺だったが、新たに芽生えた疑問に、  
今度は思わず身を乗り出して、佳乃に尋ねていた。  
 
目の前の佳乃が生まれたかどうかの頃に、物事を覚えられるくらい人間の世界で暮らしていた、  
ということは薫さんは、大雑把に見ても佳乃の倍くらいの年齢に達しているはず。  
……はずなのだが、薫さん本人を見ていると、どうしてもそんな年には見えない。  
落ち着き払った振る舞いを割り引いても、せいぜい佳乃より少し年上かな? という印象しかなかった。  
この前正月に会った時に見た、数々の表情を目にしてからは、尚更その印象が強くなっていた。  
最初は、佳乃が『薫姉』と呼んでいたから、本当に姉妹なのかと思っていたくらいなのだ。  
 
「そ、それが教えていただけないのです。『女性に年齢を聞くものではない』と。でも……」  
「でも?」  
「……でも、われが物心をついてから憶えているのはずうっと、今と同じお姿でいらしたような……」  
「そ、そうか……」  
薫さんに対しての第一の謎が、第二の謎に繰り下がって思わず首を捻ってしまう。  
……というか、そもそもあの人の存在自体が謎だらけ、なのだが。  
 
でもよく考えたら、ああ見えて薫さんだって人間ではないのだから、  
何年もあの姿で留まっていても、おかしくは無いのかもしれない。  
だがしかし、何日か滞在しただけだったが、あの村では普通の人間の村と同じように、  
文字通りの老若男女が入り混じっていたはずだ。  
そんな中で、一人だけ何年も若い頃の姿で留まってしまうとか、ありえるのだろうか?  
昔、人魚の肉を食べたことがあるとか言われれば、信じてしまうかも。  
……その前に人魚というものが、本当にいるのかどうかは知らないけれど。  
と思ったが、天狗がこうして実在している以上、人魚だって実在しないとは言い切れない、か。  
 
「でも……正直申し上げて、複雑な気分です」  
「複雑?」  
佳乃のつぶやきに、俺は妄想の世界から現実の世界へと戻ってきた。  
言葉の意味が分からなかった俺は、軽く首をかしげて鸚鵡返しにつぶやき、佳乃の次の言葉を待った。  
「はい……。実は、われは子どもの頃は、薫姉が苦手だったのです」  
「へ? に、苦手?」  
あまりに意外な言葉に、頭の中が空っぽになった俺は、ぽかんと口を開けるしかなかった。  
佳乃は、そんな俺から目を逸らし、つぶやくようにゆっくりと語り始めた。  
「………あなた様もご存知のとおり、われはあの村で、半ば厄介者として育ってきました。  
村では、われを蔑む目で見る者や、あからさまに無視するような者ばかり、でした。  
……ですが、薫姉だけは違っていました」  
「……………」  
「薫姉は何があっても、どんなことがあっても穏やかな笑みで、われと接していただいていたのです。  
でも、その張りついたような笑顔が、子ども心に言い知れぬ不安を感じていたのを、今でも覚えています」  
「そ、そうだったんだ……」  
佳乃の告白に、俺は相槌をうちながら薫さんのことを思い出していた。  
 
初めて出会ったのは、お芝居を演じてくれと頼まれて、絹代の家に行った時だった。  
その後、佳乃のお腹に幸乃がいると知って、休日は出来るだけ山に通っていたのだが、  
佳乃を診に来ていた薫さんとは、その時に何回か会っていた。  
そう言われれば、薫さんってどんなときもずっと、あの笑みを浮かべていただけだった気がする。  
この前の正月で、悪戯っぽく笑みを浮かべたりと、表情をコロコロ変える薫さんを目にして、  
意外な一面を見た気がしたくらいだし。  
……そういえば、酒を呑ませてえらい目にあったような気もしたが、それはこの際忘れておこう。  
 
「でもそれも、子どもながらの幼稚な考え、だったのですけれども――」  
今度は思い出の世界に入っていた俺を、再び佳乃の声が現実の世界へと引き戻す。  
だが佳乃は、仰ぎ見る俺にかまう様子もなく、ただ言葉を続ける。  
「幸乃ちゃんを授かったと、わかったときだって……」  
「な、何かあったの?」  
幸乃と聞いて心配に駆られた俺は、思わず佳乃の肩を軽く揺さぶりながら問いかけた。  
佳乃が体調を崩したと思った絹代が、わざわざ薫さんを村から連れてきて診てもらって、  
そこで初めて妊娠していたのを知った、とは聞いていたけれど……。  
「は、はい。ただでさえ疎まれていたわれが、嫁入り前の身でありながら殿方と交わり子を身篭ったのです。  
当然、薫姉からはお叱りの言葉があると思いましたが………」  
「そうじゃなかったんだ」  
「はい。それどころか薫姉は、今まで見せたこともないような、穏やかで優しい笑顔をわれに見せて、  
『何も心配することはない、おまえは元気な子を産むことだけを考えなさい』と」  
「そうか……本当に、佳乃と幸乃のことを大事に思っていてくれてたんだね」  
「それだけではありません。あの時の、あのお芝居……薫姉には最初からお芝居だったと、  
ばれてしまっていたそうです………っ」  
「え? ど、どうしたの?」  
そこまで言って、急に佳乃は言葉を詰まらせ、うつむいてしまう。  
「え……い、いえその……、か、薫姉が仰るには、あ、あなた様を、村にお連れになった時、  
わ、われが……その、あ、あなた様のことを、そ、そういう目で見ていた、と………」  
「え、えっと……それって……」  
軽く握った拳を口元に寄せ、上目遣いに俺を見やりながら、ポツポツとつぶやく佳乃。  
 
思いもかけない佳乃の告白に、俺は頭の中が真っ白になった。  
薫さんが佳乃のことをそう見ていた、ということは佳乃も実際に俺のことを…?  
というか、俺たちのそもそも馴れ初めって……。  
 
「もっとも、冗談交じりな顔で『佳乃も、なかなかやるものだ』と言われたときは、  
何とお答えしていいか、わからなかったのも事実ですが」  
「えーっと、そ、それは、その……よ、佳乃?」  
軽く小首をかしげ、悪戯っぽく笑いながら語りかけてくる佳乃。  
俺は初めて出会った時、というかその日の夜、衝動的に佳乃を押し倒してしまったことを思い出し、  
しどろもどろになってしまったが、次の瞬間には戸惑い気味に声をあげていた。  
佳乃が、不意にうつむいたかと思うと、肩を震わせ、涙を流しはじめたのだ。  
……やっぱり、人間と一緒に暮らす羽目になったのを、後悔しているのか?  
一瞬、そんな考えが頭をよぎったが、佳乃の口からは思いもかけない言葉がこぼれ出してきた。  
「今にして思えば何故、われのことを子どもの頃からあんなに優しく見守っていただいて、  
あんなに心配していただいてくれていた方を、あんな風に思っていたのでしょうか……」  
「よ、佳乃」  
うつむいたまま、言葉を続ける佳乃に声をかけながら、俺は昔を思い出していた。  
 
……そういえば、俺も……母親には苦労を掛け通しだったしな……。  
 
「われは……恩知らずな女です……こんな、こんな女が母親なんて……」  
「佳乃」  
「あ、あなた……」  
しゃくりあげる佳乃の手をそっと取り、出来るだけ優しく語りかけた。  
涙交じりの佳乃の顔を目にして、そんな状況じゃないにも関わらず胸が高鳴るのを覚え、  
心を沈めるためにも、そっと深呼吸しながらゆっくりと語り始めた。  
 
「えーっと……何て言うか、上手く言えないけれど、それは佳乃に限った話じゃ……ないんじゃないかな」  
こう切り出すと、佳乃は寂しそうに小首を傾げる。そんな佳乃に構わず、言葉を続けた。  
「俺だって、今でこそ俺なりに、お袋を大事にしようと思っているけれど、  
子どもの頃は、そんなこと考えていやしなかったし、考えようともしなかったし、ね」  
「あ、あなた…も?」  
俺の言葉に、佳乃がさも意外そうな表情で、俺を見返す。  
「ああ。いつか、俺の子どもの頃の話、したことあったよね?」  
「…………は、はい」  
「俺も……子どもの頃、親父がいないことで色々あった時、  
口にこそしなかったけれど、もしかしたら、態度に表れていたのかもしれない。  
それでもお袋は、何があっても真っ先に俺のことを考えていてくれていた。  
だからこうして、今の俺がいることに感謝して俺なりに、……その、親孝行して過ごしているつもり、だ……」  
「…………」  
話している内に、胸からじわっとこみあげるものが出てきて、言葉が詰まってしまう。  
佳乃はそんな俺の頬に、そっと手を添えながら、俺の次の言葉をじっと待っていた。  
 
「でもお袋って、俺に孝行してもらうつもりで、俺を育てていたと思う?」  
「まさか……お義母さまが、そんなことを考えるはずが………」  
「うん。そして薫さんだって、恩がどうとかって考えずに、佳乃を見守っていたんだと思う」  
「佳乃だって、そんなこと考えて、幸乃を育てているわけじゃないだろ?」  
「はい……。で、でも……」  
「うん、佳乃が言いたいこともわかるさ。俺はまだ、お袋がああして元気だし、  
実際にしょっちゅう会えるから、佳乃とはまた、違ってくるけど」  
「だけど、どうしたって、過去に戻ることなんて出来やしないんだし、これから自分に何が出来るかを考えれば、  
幸乃と生まれてくるお腹の子を、大事に育てていけば、それも恩返しのひとつに、なるんじゃないの……かな?」  
「あ、あなた……っ!」  
俺の言葉に感極まったのか、佳乃が俺にしがみついてきた。  
俺もまた、佳乃をひしと抱き寄せ、しばらく抱き合っていたが、やがてどちらからとも言わず、  
抱きしめている腕を緩め、お互い顔を見つめ合い……そっと口づけを交わした。  
 
「あなた……」  
「佳乃……」  
唇を離し、お互いの名を呼び合う。さらに、軽くチュッチュッと軽い口づけを何度も繰り返しながら、  
俺は佳乃のネグリジェのボタンを外し始める。とろんとした目つきで、佳乃は俺の手元を見ている。  
「あ……あんっ」  
ネグリジェをはだけ、露わになった胸を軽く揉みしだくと、たちまち佳乃は艶っぽい声をあげながら、  
上半身をよじらせ始める。  
その隙に、俺はパジャマとシャツを脱ぎ捨て、上半身裸になり、再び佳乃を抱きしめた。  
肌と肌が触れ合い、佳乃の温もりと胸の鼓動が直接伝わってくる。  
「温かい……」  
「あ、あなた…っ…」  
思わず考えたことが口から漏れ出した。  
佳乃は、そんなつぶやきに顔を赤く染めながら、唇を寄せてくる。  
 
「…っ、んふ、んっ……っ! ……んっ!」  
口づけしたまま、佳乃の下腹部へと手を伸ばすと、途端にくぐもった喘ぎ声を漏らし始める佳乃。  
「うん…っ、ん…んふっ、んんっ!」  
下着越しに、佳乃の割れ目をなで続けるだけで、佳乃はひたすら喘ぎ声を漏らし続ける。  
――と、佳乃もまた、俺のパジャマのズボンへ手を潜り込ませてきた。  
「……っ、ん、んんっ……」  
「んっ、ん……んっ」  
口元では、お互いの舌を味わいながら、手はお互いの下腹部をまさぐりあい、  
その刺激に下半身をよじらせ、足を絡めあう。……も、もう我慢出来ないかも。  
 
「……っ、あ、あなた……も、もう…」  
「あ、ああ…」  
不意に佳乃が口を離したかと思うと、潤んだ瞳で囁きかけてきた。  
既に、佳乃の下着は割れ目から溢れる蜜で、糸を引きそうなくらいに湿っている。  
一方で俺もまた、佳乃の手がもたらす優しい刺激に耐え切れず、下着の先端を濡らしていた。  
 
「じゃあ…いくよ」  
「は、はい……」  
四つんばいの姿勢になった佳乃の割れ目に、そっとモノをあてがいながら声を掛ける。  
佳乃は、枕を抱きかかえながら、こちらを振り返りつつ返事をしてきた――と。  
「っ、あ、ああっ、あな、たっ……」  
俺は、割れ目に沿って、モノを擦りつけながら、腰を動かし始めた。  
期待した刺激と違うのか、戸惑い気味の喘ぎ声を漏らす佳乃。  
「あっ、あは、ああんっ…」  
腰を動かしながら、背後から佳乃の胸を揉みしだく。佳乃は枕をぎゅっと抱きしめ、身悶えしている。  
「…あ、っあは…あ、あなた……っ も、もう…っ」  
「ん? どうしたの?」  
喘ぎ声を漏らしながら、俺のほうを振り返る佳乃。その顔はどことなく、不満げな気配を見せていた。  
その理由が分かっているにも関わらず、俺は腰を動かしたまま、とぼけたように返事をする。  
「あっ……、お、お願いっ…あんっ、お、おちんちんを…ああんっ…」  
「え? おちんちんがどうし…あうっ!」  
佳乃の喘ぎまじりの懇願する声を堪能していた俺だったが、不意にモノに刺激が走り、声をうわづらせる。  
そう、佳乃は不意に俺のモノを握り締め、しごき始めたのだ。  
「…っ、い…意地悪……しないで、くださいいっ……」  
「わ、わかった…わかったから…ううっ」  
涙目の佳乃がしごき続ける、モノから溢れる刺激に、腰の動きも止まってしまう。  
「はい、あなた……」  
俺の返事を耳にして、佳乃はモノから手を離した。  
そのままそっと口元へ運びつつ、舌先で手のひらを舐めまわし、  
俺の方を見ながら妖しく微笑むのを目にした瞬間、俺の中で何かが弾けた。  
 
「ああっ、あんっ、あなたっ! あなたあっ!」  
「よ、佳乃! 佳乃っ!」  
俺は佳乃の腰を捕まえ、ひと息に割れ目にモノを潜り込ませた。  
佳乃の中は、今までの愛撫で完全に濡れそぼっていたようで、難なくモノを飲み込んでいった。  
同時に、二人の口からお互いを呼び合う声があふれ出す。  
「あっ、あああっ! あんっ! ああっ!」  
「っ、よ、佳乃っ!」  
俺が腰を突き動かすたびに、ぐちゅ、ずちゅ、という音とともに二人で喘ぎ声を漏らし続ける。  
 
「あなたっ、ああっ! あああっ! 信幸様っ! 信幸様っ!」  
「よ、佳乃、佳乃っ! イ、イク…イク、っ! 佳乃っ!」  
やがて、お互いの声を呼び合いながら、二人はほぼ同時に絶頂に達していた――  
 
 
「……あ、あなた……」  
「ん? 何?」  
腕枕の佳乃が、俺を見上げながら声を掛けてくる。  
「われが、幸乃ちゃんたちの母親であることを……応援してくれますか?」  
「ああ、勿論さ。前も言ったろ? 佳乃は俺の大事な嫁さんで、幸乃たちは俺の大事な子どもなんだから。  
佳乃も、俺が幸乃たちの父親であること、応援してくれるだろ?」  
不安げな表情で尋ねてくる佳乃に、迷わず答えた。そう、迷うわけがないし、俺だって同じ気持ちだ。  
「は、はい……あなた…っ あ、ありがとうございます…っ」  
俺の返事に、満面の笑みで応える佳乃。やっぱり佳乃は憂い顔より、笑顔がお似合いだ。  
 
……でも、エッチで主導権を握られると、なんだか悔しくなってきた。  
そう思った俺は、大袈裟に肩をすくめながら、あきれたように佳乃に語りかける。  
「しかし……母親になろうとならまいと、佳乃はやっぱりエッチ好きだよなあ」  
こう言えば、佳乃は顔を真っ赤に染め上げ、しどろもどろな表情になるはずだ。  
「ええ。大好きですよ」  
「え?」  
だが佳乃の口から出てきた、思いも寄らない言葉を耳にした途端、逆にこちらが固まってしまった。  
「……だって、あなた様には、こんなに可愛がっていただける上に……」  
ぽかんと口を開けたままの俺に、嬉しそうに体を摺り寄せながら、ちらりと隣の部屋を見る佳乃。  
戸が閉まっているその向こう側では、お袋と幸乃が一緒に寝ているはずだ。  
「おかげで、あんなに可愛い幸乃ちゃんまで授かったのですもの。  
これでどうして、嫌いになんてなれますか?」  
「え、えっと……」  
どう答えていいかわからず、しどろもどろになってしまう。まさか、こんな返し方をされるとは、まさに想定外だった。  
 
「これからも……ずっと、ずっと幸せにさせてくださいませ………っ」  
言いながら、俺の首元にしがみついてくる佳乃。俺は、そっと佳乃に口づけをしながら思った。  
 
――これからは、生活の主導権はすべて、佳乃に移ってしまうのか、な?  
 

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