―――白い
この薄暗い病室の壁もカーテンもベットのシーツも白い。
そこに横たわる少女の肌や髪の色までもが白い。
淡く色付くその唇と赤い瞳だけが、モノクロの世界でない事を主張していた。
「兄さん… 来てくれたんだ。」目を覚ましたばかりの妹が口を開く。
「悪い。起こしちゃったな」
「ううん、いいの。せっかく兄さんが居るのに寝てなんていられないもの」
そう言って彼女は笑ってみせた。
彼女 ―― 紗彩と俺との付き合いは、かれこれ16年になる。
俺より2年遅れて生を受けた彼女は、その瞬間から生死の境にいた。
生まれつき病弱な体、そして色素欠失。その肌と目は日光にすら耐えられない。
この病室と、窓から眺める太陽のない景色だけが彼女の知る世界だった。
いつものように他愛もない近況報告を交わす。
といっても紗彩には話題が少ないので、ほとんど俺が喋るだけなのだが。
そして―――
「兄さん、あのっ、その…」
彼女がふいに口籠もりながら俯く。
「ん、あぁ。身体拭こうか?」
黙ったまま頷く紗彩。これもいつものやりとりだ。
ゆっくりと服を脱がす。
何度となく繰り返してきた行為だが、徐々に女のそれへと成長する妹の身体に息を呑む。
不健康に白く華奢な身体。薄い胸には桜色の蕾が控えめに自己主張していた。
彼女の首筋を濡らしたタオルで撫でると
「んっ…」
ひんやりとした感触に声を震わせる。
そのまま腕へと伝い背中、腰と拭きあげる。
その間ずっと紗彩はかたく目を閉じ、連続的な刺激に時折肩を上下させた。
背面を拭き終えた俺は彼女の前にまわる。
肌はうっすらと朱に染まり、呼吸も乱れている。
その官能美にしばし目を奪われた。
「…兄さん?」
いつまで待っても訪れない次の触覚に、彼女が目を開く。
その瞳は不安だけではない光を宿して潤み、紅色を深くしていた。