「行ってきます!!」
バン、という大きな音を立てて俺は玄関のドアを開け、勢いよくとび出した。このままだと遅刻決定だな…、駅までは走らないとヤバい。
「ちょ、ちょっと弁当持ってないでしょ あんた!」
などと母さんが叫んでいたらしいが、まったく耳に入ってこなかった。
「あの…おはようございます」
「?あっ、冴南ちゃん、おはよう」
「あたし弁当持ってってあげますよ。どうせまた学校同じだし」
「も〜、いつも悪いわねぇ、じゃあ宜しく」
…んっ?なんか身に覚えのある気配が背後で…。
「波原――っ!弁当忘れてるぞ このバカっ!」
こっ、この声は永城!相変わらずでけぇ声だな。振り向くと…やっぱり永城が。
「ねー、冴皐くんったら また数学の補習?この前自信満々な顔して「今度こそ赤点脱出だ!」とか言ってたくせに〜、ダメじゃない」
勝ち誇ったような顔で、わざと俺の顔をのぞきこむようにして言う。…腹が立つな。
「うるせー、わざわざそんなこと言うために追いかけてきたんじゃないだろ。さっさと用件を言え。」
「弁当に決まってるでしょ。あんたのお母さんが呆れたような言い方してたよ。まったく…、数学の補習があるのすっかり忘れて寝坊してるんだから。」
だーっ、さっきから数学の補習ってうるせーな!苦手で何が悪いんだよ理系女!
「…そういう永城はこの前英語の補習受けただろ」
どうやら言葉に詰まったらしい。すごく悔しそうな目でこっちを見ている。はん、そんなことしたって何にもしてやんねーし変わんねーよ。大人気ないとでも何とでも言え。
「はい、弁当」
そう言って永城は弁当を差し出した。ヤケに素直なので少し疑ったが、特に弁当箱には変化がない。唯一変わったところは…、多分 永城のものだろう、小さいメモ用紙がついている。…どうせ紙に「バカ」とでも書いてあるんだろう。いつものことだ。
…なっ、何だこれ!
[ゴメン、いつもからかってばっかりで。だって素直になれないんだもん。…ほんとにゴメン。]…だとぉ!?何かの間違いだろう。と解かっていながらも思わず赤面してしまう俺。
…一瞬、永城が「ふっ」っと言った。目は髪で隠れて見えないものの、口がニヤけている。
まさか!裏には始めの予想通り、「バカ。早く学校行けよ 文系男。」の文字が。
「永城っ!なんだよコレ!」
「あ〜れ〜?あたしなんか相手にしてると補習に遅れちゃうんじゃないの?」
確かに。毎回同じことで口ゲンカするのも馬鹿らしいというのもあり、再び駅に向かって走り出した。いつになってもアイツ成長してないな…。いや、もしかして俺も?
「すみません!遅刻しましたっ!!」
先に補習を受けていた奴らの視線が、一気にこっちに向く。精神的に痛い。なにより、先生の説教が痛いのだが…。
「波原……、また遅刻か?理由言ってみろ」
「え、家に弁当忘れてきて(それから永城と色々あって)、電車が
「言い訳はやめろ。」
なんだよこの人!「理由言え」って言うから理由言ってんのに!人の話は最後まで聞こうよ。
「だから言い訳とかじゃなくて本
「言い訳も何も同じだろ。分かったから席に着け。」
「…ハイ。」
空いてるのが俺の席だろうな…。椅子を引いて座った。
「波原、波原…」
すぐ後ろの奴に肩をたたかれて小声で名前を呼ばれた。また怒られるのも面倒だと思い、無視していた。勿論、むこうもしつこく俺を振り向かせようとする。