窓の外の景色はもう如何にも秋、という景色だった。校庭の隅に植えられた銀杏の木がすっかり黄色にそまっている  
のが見て取れた。  
 毎年展開される風景。  
 黒板の前に立っている担任教師の抑揚のない出欠を取る声が、我が2−Bの教室に響く。   
「坂井、坂井達也」  
「はい」  
 この返事もいつも通り、変わることがない。と同時に何と無く、くだらなさを感じた。  
 教室を眺めながら思う。  
 何か変わったことでもないもんかねぇ。  
 いつも通りの自分、いつも通りの季節、いつも通りの学校、いつも通りの教室、いつも通りのクラスメイト――日々  
が楽しくないと言えば嘘になる。だけれど、この代わり映えのしない日々に少々退屈さを感じているのは事実だ。  
 いつの間にか担任の出欠を取る声が止まっていた。出席簿に向かって何か書き込んでいる。あとは日直の「起立、  
礼!」の言葉と共にいつも通りの日が始まるのである。  
 しかし、担任は日直に号令をかけさせることを促さなかった。  
 …どうしたのだろうか。誰か何かまずいことでもやらかしたか。   
「あー、えー、実はだな、今日は転校生を紹介する」  
 おおっ!とざわめく教室。誰もがその情報を察知していなかったらしい。  
 
「先生!男子ですか?女子ですか?」  
「女子だ」  
「おおぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉ」  
 教室中の男子が歓声を上げた。  
 女子の転校生!転校生!ものすげぇ美貌を持っててボンキュボーンの凄い転校生だったりして!もしかしたら、これが  
運命の出会いだったりして、彼女ができちゃったりして俺の学生生活イヤッホウゥゥゥゥゥッゥゥゥゥゥゥの幕開けかも!  
「では、入ってきなさい」  
 皆声を潜める。担任の声と共に扉が開いた。わくわくしながら視線を扉の方にやる。  
 入ってきた生徒を見た。  
 ……だめだこりゃ  
 ……………………何というか…………ちんまい  
 当の眼鏡をかけた女生徒は教壇のとこまで歩き、おもむろに黒板に名前を書いた。『佐藤美香』という漢字が黒板に記  
された。セミロングの髪を軽く揺らして振り返り、微笑みを浮かべた。  
「佐藤美香です、よろしくお願いします」  
 さっきまでの心の中の興奮は嘘のように鎮まっている。  
 見た感じ、前に立っている転校生の彼女は身長がちっこい。もしかしたら、150cmもないかもしれない… あと、つるぺた。  
 
 教室を見回した。大部分の男子生徒の興奮は収まっている。……少数派の男子からは「むしろ小さい方が全然オッケー  
!」という呟きが聞こえたような気もするが、聞こえなかったことにしておこう。  
 あー、だめだ。興味ゼロ宣言。俺はロリっぽいのは好みじゃないんだ。  
 机に頭を押し付けてぐったりする。  
 寝よ。  
「で佐藤の――だが……そうだな。うーん、……の横で良いか。おーい、坂井ー。ってこら、寝てやがる」  
 寝モードに入った耳におぼろげに何か聞こえる  
「起きろこんにゃろ」  
 べしっ、という衝撃と共に強制的に覚醒状態に移行させられる。顔をむくりと上げると目の前にひげもじゃの担任殿の顔が。  
「……グッモーニン?」  
「グッモーニン?じゃない。佐藤の席はお前の横とたった今決まった。とっとと椅子と机を隣の空き教室からとってきてやれ」  
 ………………俺の隣?…あのちんまい女が?  
「えー…どうせならボンキュボーンの女の方が嬉し」  
「何が言いたいのかよくわからんが、担任の権利で決定。佐藤の席は坂井の隣。佐藤、あの窓際に座ってる覇気のない  
男子の隣な、席」  
「はい」  
 …覇気の無い男子で誰かわかるのかよ。  
「よし。じゃ、長くなったがホームルームは終わり。日直、号令」  
「きりーつ、れーい」  
 担任が教室から出て行った瞬間、女生徒――佐藤が主に女子生徒によって周りを囲まれたのが見えた。  
 ま、転校生恒例の質問攻めか。  
 ……さて、今の内に机と椅子取ってきといてやるかな。   
 
 とりあえず、手頃な机と椅子を発掘して俺の隣に配置した。始業のチャイムが鳴り響いた。  
「えっと…坂井くん?」  
「ん?」  
  声をかけてきたのは勿論(俺の席は窓際なので自動的に横の席は1つしかないということになる)隣の席の佐藤である。  
「私、教科書まだ買ってないからまだ持ってないんだ、見せてくれない?」  
「ああ、いいよ」  
 黒板の上にある小さいスペースに張ってある時間割表を見る。  
 1時間目は国語か。魔窟状態の机の中から教科書を探す。……お、あったあった。  
 佐藤の机に教科書を置く。任務完了。我、コレヨリ睡眠学習に突入セントス。  
「あれ・・・?坂井くんは教科書見ないの?」  
「俺は良いんだよ、寝るから」  
「え!?ちょ、寝るって!?」  
「大丈夫、俺は国語のテストは勉強しなくても満点を取れるから勉強なんてしなくて良いんだ」  
 勿論ウソだ。心の中で舌を出す。  
「ま、とにかく良いから。ふわあぁぁ…」  
 寝る。おやすみなさいませ。   
 
 とゆうわけでさくっと今日も授業が終わった。転校生が来たという割には特筆すべきイベントが発生しなかった。昼休み  
以外、全部寝てたので眠気もさっぱりだ。  
「ホームルームはじめるぞー、席に着けー」  
 担任が教室に入ってきた。簡単な連絡事項。日直の号令。空気が弛緩。本日の業務は終了――と思ったが、生憎今週  
は掃除当番だった。  
 
 面倒だが仕方がない。とっとと終わらせて帰ってゲームだ。  
 黒板の掃除をしていると、教室の入り口の方で担任と佐藤が交わしている会話が耳に入ってきた。  
「佐藤、今日の授業はどうだった?ちゃんと付いていけそうか?」  
「はい、大丈夫です。前の学校と勉強の進行速度もあんまり変わりません」  
「そうかそうか。それは良かった」  
 あとは前の学校ではこうだった――という感じの他愛のない世間話だった。  
「と、そうだ。もう誰かに学校内の案内とかしてもらったか?」  
「食堂とかは案内してもらいましたけど、詳しくは」  
「そうか、じゃあ誰か暇そうで手頃なヤツに案内でもさせて――」  
 まずい。この近辺に下手にいたら間違いなく矢玉に上げられる。緊急離脱を――  
「お、坂井。丁度良い所に」  
 ……間に合わなかった。  
「とゆうわけだ。佐藤に学校内を案内してやってくれ。以上」  
「いや、先生。以上ではなく…」  
「何だ、何か用事でもあるのか」  
「いえ、別にないですけど……」  
 つるぺたのちんまい女じゃやる気がおきません、と言うわけにもいかねーしなぁ。  
「無いなら別に良いだろ。頼んだ」  
 担任はそう言うなりさっさと去っていった。  
 あーあ、早く終わらせるか。こうなったら。  
「じゃあ坂井くん、案内お願いね?」  
「了解仕った」   
 
 しかし、案内するといっても何の変哲も無い普通の学園のことである。これといった売りになるような場所があるわけで  
もなく、中庭、音楽室、工作室、体育館等普通に見て回るだけだ。  
 いや、1つだけ(多分)他とは違う所があった。  
「あとは…そうだな、屋上かな」  
「屋上?」  
「ああ、ここの学園は珍しいことに屋上が開放されてるんだ、植木とかもしてあるし、ベンチとかも置いてあるから昼休み  
に昼飯とか食いに出る奴も多いぞ」  
「へぇー、どこ?」  
「こっち」  
 階段を上り、一番上にある扉のノブを回した。キィという金属の摺れた音を発して扉が開く。丁度夕陽が沈むところで、  
屋上全体がオレンジ色に染まっていた。ついでに言えば、ここの学園は少し丘になっている所に建っているので、妙に見  
晴らしが良い。  
「わぁ…」  
 背後から佐藤の感嘆の声が聞こえてくる  
「どうだ、結構良いとこだろう?」   
「うん、いいね。ここ」  
 佐藤の短めの黒髪が風で流れた。佐藤は端に張られている頑丈な背の高いフェンスのまで小走りに駆けていって、景  
色を見ている。  
 何か小さい子供が目を輝かせて興味津々で眺めているように見えるな…  
 屋上のところどころに配置されているベンチに腰を下ろす。  
「坂井くん」  
「ん?」  
「今日は有難うね、色々と」  
「別に良いさ。隣の席のよしみだ」  
「まぁ、隣の席のよしみでこれからもよろしくね」  
「いえいえ、こちらこそ」  
 佐藤がぺこりと頭を下げた。俺も何となく頭を下げた。  
 その後、何だかおかしくなって二人して顔を見合わせて笑い、帰った。  
 
「佐藤、家はどっちの方角?」  
「こっちかな」  
 そう言って彼女が指し示した方角は俺が帰る方向と同じではないか。  
「これは偶然。俺の方向と同じだ」  
「じゃあ、途中まで一緒に帰ろ」  
「うむ」  
 特に否定する理由も無いので二つ返事で了承した。  
「そういや、坂井くん。今日の授業ほとんど寝てたけど……成績大丈夫なの?」  
「大丈夫だ。留年しない程度に点数は取れてる」  
「それって全然大丈夫じゃ…」  
「はっは。佐藤は心配性だなぁ、最低限で良いのだよ。こういうことは」  
 佐藤は呆れたような表情を見せた。  
 何か、眼鏡をかけてるのと背が低いというのと仕草も相まって……何か委員長って感じに見えるな(意味不明)  
 前に済んでたところとかの話をしながら大分歩いた。いつの間にか俺の家近くまで来た。話していると時間の経過は早い。  
 あれ、そういや。佐藤の家ってまだ着かないのか?  
 
「佐藤、もう結構歩いてきたけど、家どこらへんだ?」  
「あ、もう近くだよー。すぐそこ」  
「そか、俺の家はあそこの角の家だから。この辺で」  
「え」  
 佐藤は奇妙な声を上げて突然固まった。  
「…どうした?」  
「私の家、あそこなんだけど」  
 そう言って佐藤は指を指し示した。その先を見据える。  
 ……おいおいおいおい。ちょっと待てよ。そんな……まさか…  
「隣…同士?」  
これまた、随分と楽しいことになってきたなぁ、おい…  
 
 

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