「流志、準備はいい?」  
「う……うん」  
 
ここは羅漢道場の稽古場。その真ん中に少年少女が二人だけで見合って立っている。  
少女の方が幾分お姉さんのようで、背が高く体つきも大人だ。  
広さは六十畳だが、門下生全員で一斉練習すると狭く感じるスペースも今は二人だけ。  
空虚な感じがするぐらい広く、声の響き方も違和感を感じる。  
 
白の道着と紺袴に着替えた流志と琴奈がお互いの顔を見合わせた。  
琴奈は流志より4歳年上の少女で、流志と同じく羅漢師範に師事している。  
流志の方が先に師事しているので姉弟子ではないが、年上で武術の経験も深い琴奈に  
対し、流志は敬意を持って接している。その二人がこんな時間にひと気の無い道場で  
何をしているのか。  
 
それは一時間前に遡る――。  
 
 
         *         *         *  
 
 
一斉練習の後、流志は琴奈に声を掛けられた。  
「なんですか、琴奈さん」  
流志はにこやかに返事する。彼は琴奈の事が好きであった。  
武芸者なのに柔らかい人当たりと優しい接し方。そして、女性らしい魅力――邪な意味ではなく、  
男の子が憧れるお姉さん像として琴奈はピッタリだったのだ。  
 
「今日、これから何か用事ある?」  
「え? いえ、別に……」  
流志が答えると琴奈は流志を引き寄せ、耳元に顔を近づけた。  
(わっ……! わわっ!?)  
琴奈が近づくと流志はいつも困った表情をする。勿論、本当に困ってるわけではなく、  
照れてしまうのだ。琴奈はストレートの黒髪が綺麗な美人で、キラキラと光る黒曜石の  
様な瞳を見ると、それだけで流志の胸は高鳴ってしまう。  
 
(そ、それに――)  
 
「そっか、時間はあるのね? ねぇ、流志。私の居残り練習に付き合ってくれない?」  
琴奈が耳元で囁く。そうすると流志に密着するような格好になり――。  
(む、胸が肘に当たってるよ〜〜)  
琴奈さん近づきすぎだよ、といつも思う。外見はエレガントで澄ました美人のイメージだが、  
実際は気さくで人なつっこい面があった。特に子供達には自然なスキンシップで接する事が多い。  
 
(女の子はそれでいいだろうけど――)  
流志が思うとおり、妙齢の女性が無邪気にスキンシップを図ってくると、男の子は結構  
大変である。  
「い、居残り練習……ですか? ……むぐっ!?」  
「し〜〜〜〜〜〜〜っ! ダメよ、みんなにはナイショにしたいんだから」  
琴奈が武芸者とは思えない繊細な手で流志の口を塞いで注意する。密着するものだから、  
流志は琴奈に捕まったような体勢になった。琴奈の体から、少女から大人へ変貌を  
遂げた女性の匂いがする。  
 
(琴奈さん……いい匂い……)  
 
流志は思わず陶然となりながら、辛うじてコクコクと頷いた。受諾の意を表している。  
琴奈は嬉しそうに微笑み、「サンキュー♪」と耳元で囁いた。流志の顔が茹蛸の様に  
なってしまう。  
 
「じゃあ、みんなが帰った一時間後に……秘密練習をお願いね♪」  
用件が受け入れられたと見て琴奈が流志を解放し、ウィンクをして道場から出て行った。  
風に乗る鳥の様な、エレガントでしなやかな動き――後に残された流志は呆然としていたが、  
(琴奈さんが俺に――秘密の頼みを?)  
一体なんだろうと思いながらも流志は全く悪い気がしなかった。年上の綺麗なお姉さんが  
自分を頼りにしてくれている、そう思うだけでなんだか楽しくなってくる。  
 
――と。  
流志が琴奈の残り香の余韻に浸り、少しウキウキした気持ちで顔をほころばているその時。  
 
バキッ……!!  
 
柱の影で木製の模擬ナイフの柄をへし折った音がした。  
「…………る〜〜〜じ〜〜〜〜…………よくも私の手下の分際で〜〜〜」  
メラメラとどす黒い炎のオーラ(笑)を燃え上がらせながら、ブラウンの髪の女の子が  
流志を射殺さんばかりに睨みつけていた。  
 
……が、お姉さんの色香に惑った流志には全く気配すら感じさせられなかったw。  
 
 
         *         *         *  
 
 
「近接戦闘訓練――?」  
 
流志が思わず聞き返した。  
「うん、そうだよ。格闘戦が中心の闘い方がいいな。それで実戦練習をお願いしたいの」  
琴奈が流志を見つめる。その視線だけで流志ははにかんでしまうのだが、琴奈は気づいてか  
そうでないのか、ニコニコと微笑んでいる。  
 
「でも、琴奈さんはどちらかと言えば武器使いじゃ……」  
羅漢道場の格闘武技は武器の使用を認めている。無論練習には、模造刀などのイミテーションを  
使うが。琴奈はその武器戦闘のスペシャリストであった。間合いの長い武器を使いこなし、  
遠い間合いから華麗な操術で敵を翻弄する。接近戦得意の美衣とは正反対の戦法を得意とする。  
 
その琴奈が突然何故――?  
「だから、私はどうしても武器頼みになっちゃう時があって。近接戦闘も最低限基本はこなして  
おかないと、近い間合いに飛び込まれたら闘えないから……それに……」  
「……?」  
「基本をしっかりしないと、この前みたいな事があるとみんなに迷惑掛けちゃうから……」  
琴奈はそこで少し頬を染める。  
(あ……)  
流志は琴奈が何の事を言ってるのか、わかった。  
 
 
それは琴奈が大人の男性と組み手勝負をしている時であった。  
流石に接近戦では力で押されながらも、反応の良い防御と華麗なステップワークでなんとか  
互角以上に琴奈は戦っていた。流志も美衣と並んで琴奈の健闘に見入っていた。  
そして、相手の一瞬の隙を突いて琴奈が上段回し蹴りを放った時、一瞬早く相手の中段蹴りが  
琴奈を襲った。しかもそれがカウンターとなって回し蹴りを放った股間に命中したのだ。  
(☆◆%〇#……!!)  
声なき悲鳴を上げながら、琴奈はその場に倒れこみ、股間を押さえて悶絶した――。  
 
「でも、あれは相手だってわざとじゃないし、事故だから仕方が無いんじゃ……」  
「それはそうだけど……偶然の事故にしてももう少し気をつけることが出来たと思うの。  
遠当ての武器に頼ってるとどうしても生身の動きを実感しきれないかも、と最近感じ  
始めて……だから、近接戦闘の練習は積んでおきたいの」  
「で、でもどうして俺に……?」  
なんだかんだ言っても自分はやはりまだ少年の部類に入る。既に大人達と渡り合えてる琴奈の  
相手には役者が不足しているだろう。流志がそれを指摘すると……。  
 
「だからその……。この前の事で男の人と戦うのが、少し怖くなっちゃったの……」  
琴奈は正直に白状した。そのためにひと気の無い道場に流志を呼び出したのだ。今更隠しても  
仕方が無い。  
「なるほど――。俺ならまだ子供だし、少しは安心できるからですね……」  
少々複雑な気もしたが、琴奈のたっての頼みである。断る気はなかった。  
「うん……ゴメンね、無理につき合わせて」  
「いいですよ」  
流志は微笑んだ。実戦練習は嫌いではない。まだまだ自分には修練が足りないと感じてる  
彼にとっては女性とは言え琴奈の様な大人の武芸者と闘えるのは良い機会であった。  
 
「あ。だけど、流志」  
「はい?」  
「『安心できる』って言ったのは流志が子供だから、って意味じゃないからね」  
「琴奈さん……」  
「私は流志は大人の中で修練しても何の問題もないって思ってる。今日相手をお願いしたのは  
流志は組み手が上手だし優しいから『安心できる』って言う意味だから。誤解しないでね」  
琴奈は微笑みながらそう言った。  
「はい……」  
流志もニッコリと笑った。晴れ晴れとした笑顔だ。  
「そう、子供はそうやって心の底から笑わなきゃダメよ。愛想笑いじゃなくてね」  
琴奈がウィンクする。  
今、大人の中で修練しても大丈夫って言ったのに――と流志は思いながらも、琴奈の  
心遣いを嬉しく思った。  
 
しかし、組み手は流志が予想していたよりも厳しい展開になった。  
 
「ハッ! ヤッ!……タァ!」  
「クッ……!」  
気合の入った琴奈の左右の掌底から後ろ回し蹴りのコンビネーション。流志は防戦一方だ。  
「どうしたの、流志! 本気でやってる!?」  
(ほ、本気ですよ〜!)  
返事もロクに出来ないほどいっぱいいっぱいなのだ。辛うじて受けてはいるが、いつ  
決定打を貰ってもおかしくない。  
「相手が女だと思って甘く見てるからそうなるの!」  
「え……? ……あうっ!」  
流志の防御をすり抜け、琴奈の掌底が頬を打った。ぐわん、と視界が揺れる。  
「くっ……!」  
慌てて流志は飛び退り、間合いを取った。視界が戻ると琴奈の真剣な表情が目に入った。  
 
琴奈との手合わせが始まっても流志はやはりどこか真剣みが足りなかったかもしれない。  
(女の人に本気で打ち込むなんて……無理だよなぁ)  
どうしても最初はそう思ってしまった。  
琴奈はその流志の気持ちを悟ったに違いない。挨拶を交わすと即座に接近戦の間合いに  
飛び込み、猛ラッシュをかけてきた。  
美衣の様な直線的に突き抜ける攻撃ではなく、弧を描き、流れるようなコンビネーション。  
一発一発は強くないが、どれ一つとして軌道が同じものが無く、読みにくい。  
流志の顔つきもすぐに真剣になった。だが、一度受けに廻るとなかなか主導権を握れない。  
 
だが――。  
 
(琴奈さん、綺麗だ――)  
焦りが募る中でも、流志は琴奈の躍動感溢れる華麗な動きに目を奪われることもしばしばだった。  
まるで孔雀が舞うような――それも様々な動きを織り交ぜた乱れ舞である。  
練習でいつも見ているはずだったが、こうして対戦してみると、その美しさが更に良く分かる。  
 
「かかってこないの、流志!?」  
琴奈の厳しい声ではっと目が覚める。  
(そうだ――。琴奈さんは女だけど、俺なんかより全然実戦経験があるんだ)  
どちらかと言えば琴奈は遠隔武器使い。流志も剣使いだが、自分の得意な間合いで負けるわけ  
にはいかない。  
流志は気合を込める。闘気が面に出た流志を見て琴奈は微かに微笑んだ。  
「そうこなくちゃ……ね!」  
間合いを取った流志を追うように、旋回しながら流志との間合いを詰めると裏拳を叩き込む。  
 
(間合いでなく、流れを読む――)  
集中した流志には琴奈の手足の軌道が予測できた。さっき避けられなかった死角から裏拳が  
来る――下手に動かずそのタイミングを待っていると、それは来た。  
 
「……今だ!」  
さっきの様に相手の攻撃に対し下がらず、逆に自分から間合いを詰めると。裏拳を受け流し、  
琴奈の懐に飛び込む。  
そして自分の掌打をがら空きのボディに叩き込んだ。すると……。  
 
ぽよん♪  
 
「え……? あっ!」  
手にはマシュマロの様なふんわりと柔らかい感触が――。思わず、掌底を引いた。  
琴奈の胸がぷるん、と揺れている。  
「やん……」  
琴奈も思わず胸を庇う仕草。少し恥かしそうに頬を染める。  
「わ……そ、その……。ご、ごめんなさい」  
慌ててぺこりとお辞儀して謝る流志。背筋に冷たい汗が流れる。  
(こ、琴奈さん……プロテクター着けてないの……!?)  
格闘の練習だと言うからてっきり女性用の胸を覆うプロテクターを着けていると思ったのに。  
流志は掌で触れてしまった、その感触にドギマギする。  
 
「だめよ、流志。真剣に打ち込まなきゃ練習にならないでしょ?」  
琴奈が腰に手を当てて流志に注意する。  
「だ、だって……琴奈さん、プロテクターは……?」  
「そんなの着けてたら実戦練習にならないでしょ? 中はこれだけ……」  
いきなり琴奈は自分の道着の胸を開ける。  
 
「わ……わわっ!?」  
流志が思わず後退りした。  
「どうしたの、流志?」  
琴奈がきょとんとした顔で聞く。  
(どうしたも何も……)  
琴奈は年齢よりも若干大人びた体つきだ。胸の膨らみは丸く大きめで、道着の上からでも形が  
確認できるが、こうして胸元を広げられるとなおその大きさが良く分かる。それに、スポーツ  
ブラに覆われた白い肌が目に眩しい。まさしく大人のお姉さんそのものだった。  
困り顔で流志は焦る。思わず胸に視線が言ってしまいそうになるのを懸命に逸らそうとするが、  
つい何度も見てしまう。男の子にとってオッパイに目が行くのは当たり前の事だが。  
「ね? 何もつけてないでしょ?」  
ある程度見せつける(本人にその意志があったかどうかは不明だが)と、琴奈は何事も無かった  
ように道着の胸元を直す。流志は少なからずホッとしたが……。  
 
「下も防具無しだよ……見る?」  
今度は袴の紐に手を掛けた。スルリ……と袴の脇から滑らかな肌に張り付いている白い下着の  
紐が見えたが……。  
「わ、分かりました! もう十分です!!」  
流志が慌てて止めた。  
「そぉ? ……じゃ、いいか」  
琴奈は平然と袴の紐を結びなおす。流志はがっくりと疲れた表情で腰を落とす。  
琴奈が下に着けていたのはおそらくスポーツ用のアンダーショーツだろう。普通の下着では  
袴の結び目から見える可能性があるので面積の小さい物を着用する――。  
そんな話を聞いた事がある。  
(それを、琴奈さんが――)  
道着は露出こそ少ないが、動きによって体の線は結構分かる。琴奈の丸みの帯びた形の良い  
ヒップに小さなアンダーショーツがはりついただけの姿を想像し、流志は自分で困ってしまった。  
 
 
その様子を柱の影で見つめている、黒い瞳――。  
(何をしてるのよ、琴奈〜〜〜! 流志も流志よ! そんなに女の子の裸が見たいわけ?)  
どうやら柱の影からは二人が乳繰り合ってるように見えるらしいw。  
(こうなったら見てなさい。明日から、この美衣様自らがお色気攻撃であなたを虜にして  
やるから――!)  
どうやらこれがここ最近の美衣の過剰なサービス攻撃の布石になってたようだ。  
 
 
それはさておき――。  
 
(う〜〜ん……)  
流志はいきなり困ってしまった。琴奈は「真剣に打ち込んできて」と言うが、女の人の  
胸に本気の攻撃を当てるわけにはいかない。まあ、それを言えば顔だってそうなのだが……。  
「遠慮しないでって言ったでしょ? 本気で来て」  
「で、でも……。女の人が生身の胸に当たったら痛いんじゃ……?」  
流志が戸惑いながら言うが、  
「それは勿論。胸も痛いし、こことかを打っても痛いよ」  
琴奈は袴の股間を指差す。彼女は澄ました表情だが、流志はわざわざそこを指差して指摘する  
琴奈の仕草にちょっとドキッとする。  
「でも、それを怖がってちゃダメなの。私、この前ここを打って少し怖くなってるから、  
わざと上も下もプロテクターを外したの。逆治療法かな?」  
琴奈は悪戯っぽく笑うが、流志としてはそれはかなり困るかもしれない。羅漢道場の  
格闘武技は打撃ばかりではないとはいえ、最初の攻防は殴り蹴りの差し合いから始まる。  
股間はともかく、胸まで遠慮していては当て身を使って優位に立つことが出来ない。  
 
「じゃあ、お願いね。大丈夫、流志の事は信頼してるから」  
琴奈はさっきと同じ事を言うが、いざ胸に当ててみるとその期待に応えるのが難しい気が  
してきた。しかし――。  
 
「それじゃ再開するね。行くよ、流志!」  
琴奈はまだ構えきらない流志に掌打を打ち込んできた。先ほどの様に旋回しながらの華麗な舞。  
「あ……! ちょ、ちょっと!?」  
またも流志は受けに回らされる。しかし今度は先程よりは慣れていた。彼の類稀な動体視力は  
琴奈の弧を描く動きに瞬時に対応する。  
「こうして……こう!」  
流れる攻撃には流れる防御と反撃――。力を抜き相手の作り出す流れに乗って再び琴奈の胸元に  
飛び込む。――胸元?  
 
ぽよん♪  
 
「あん……♪」  
再び繰り返される光景。ぷるん、と胸が揺れ、琴奈は喘ぎ声を上げると胸を押さえる。  
(ま、またやっちゃった〜!)  
流志は再びさ〜〜っと身を引く。  
「う……あぅん……♪」  
(お、俺のせいじゃないよぉ〜〜!)  
胸を押さえて屈み込み、切なそうに胸を押さえて喘ぐ琴奈を見て流志は心の中で無罪を主張する。  
しかし、掌に残る柔らかな感触は彼が有罪である事を物語っていた。  
 
 
その様子を柱の影で見つめている、黒い瞳――。  
(る〜〜じぃ〜〜〜!!)  
美衣は再びどす黒い炎のオーラを……(以下略)。  
(そんなに女の子のオッパイがいいなら、この美衣様自らが――)  
 
 
上着のボタンを外し、ありもしないモノを覗き込んでいる美衣は置いといて――。  
 
「なんだか、組み手のタイミングでここに当たっちゃうね」  
暫くして立ち上がった琴奈が胸を擦りながらクスクスと忍び笑いする。エッチな悪戯っ子を  
優しくからかうお姉さんの表情――。流志は身の置き場がなく俯くばかりだ。  
「もう少し下を狙ってみたら? 蹴りとかも混ぜて」  
「え? あ……は、はい……」  
確かにさっきの組み手ではまた胸に当たってしまうだろう。その度に中断していては練習に  
ならないし、流志はストレスがたまる一方だ。他の男が見れば羨ましいストレスだが。  
 
(フフフ……。なんだか、おもしろ〜い)  
琴奈が流志の反応を見て内心思う。彼女自身、ある程度自分が男性達にどう思われているかは  
自覚している。気にならないと言えば嘘になるが、年下の男の子がどう感じるかを見るのは  
ちょっと新鮮な気分だった。  
(でも、きっとこれは流志だからだろうね)  
芯はしっかりしていても、基本的には気が弱く優しい少年――。  
(そんな子を手玉に取ったりしたら、私って悪いお姉さんかな?)  
思わず流志を見て忍び笑いをしてしまう。流志はそんな琴奈を怪訝な表情で見ている。  
 
「じゃあ、続けましょ……」  
「は、はい……」  
「行くよ……。ハッ……! ヤッ……!!」  
「うん? ……あっ!?」  
今度は琴奈は蹴りから入ってきた。飛翔するような躍動感のある回し蹴り。意表を突かれた  
流志は胸元にハイキックを貰ってしまう。  
「ぐっ……!」  
一瞬、息が詰まり体勢が崩れた。膝ががくりと落ちる。  
「チャンス!」  
追い討ちを掛けるように琴奈が流志に踵落しを放つ。しかし、それは流石に両手を交差させて  
頭上で受けた。そしてそのまま立ち上がる。  
「あっ……!?」  
今度は琴奈がバランスを崩した。蹴り足を掴んで上げられたようになり、慌てて体勢を立て  
直そうと素早く蹴り足を引いて踏ん張る。しかし、その隙を流志は見逃さず、琴奈の蹴りの  
レンジより内側に間合いをつめた。  
「もらった!」  
この位置にで掌底を放てばまたオッパイ直撃だ。そうならないように流志はお腹狙いの前蹴りを  
放った。しかし……、  
「だめよ!」  
流志が蹴りを放とうとした瞬間、琴奈はカウンターを狙い、前に出る。速い。  
「くっ……!」  
流志はとっさに出足を狙う蹴りに切り替えた。しかし、琴奈の出足が速く、狙いが狂った。  
そして……。  
 
くにゅ♪  
 
「はぁん……!」  
流志の蹴りが当たった瞬間、琴奈がまた喘いだ。  
(うわわっ!? や……やっちゃった……)  
大汗をかく流志。それもそのはず、彼の放った蹴りは本来の狙いを外れ、琴奈の股間に命中  
していたのだ。とっさに止めたのでアクシデントの時の様に思い切り強打はしていないものの、  
蹴り上げた足の甲が柔らかい感触で琴奈の大事な所に食い込んだ。  
 
「あ……ふん……♪」  
琴奈がやや内股になって股間を右手で押さえている。恥かしそうに頬を染め、困ったように  
左手の親指の爪を噛んでいる。潤んだ瞳はじっと流志を見ていた。見つめられた流志は気が  
動転しそうになる。  
 
「こ、琴奈さん……い、今のは……」  
「……流志のエッチ……」  
「い、いえ! そんなぁ〜!?」  
半ばパニック状態でオロオロする流志と恥かしそうに股間を擦る琴奈。幸い胸のときと同様  
そんなに痛くは無さそうだが、やはり男の子に大事な所を蹴られた事に琴奈自身もドキドキ  
しているようだ。  
 
「……わざとじゃないのね?」  
なんとなく警戒するように股間を守りながら恥かしそうに上目遣いで流志を見る琴奈。  
「も、勿論です! あ……あの……。痛くなかった?」  
「……うん、大丈夫。アクシデントの時みたいに強打はしなかったから。少し恥かしいけど」  
(今のだってアクシデントですよぉ〜〜!!)  
流志は叫びたい気持ちになる。  
 
 
その様子を柱の影で見つめている、黒い瞳――。  
(う……流石にここは、ちょっと……)  
美衣は躊躇う様子で恥かしそうに自分の股間のあたりを見つめる。  
(そう……流志って本当はすっごくヤラシイ子だったんだ……)  
『流志=むっつりスケベ』この式が美衣の単純明快な大脳にインプットされた。  
この事は後に生かされるだろう。……すぐにでもw。  
 
 
「ふ〜〜……。どうしてもこういう攻撃になっちゃうみたいね……。あ、わざとじゃないのは  
分かってるからね」  
琴奈が溜め息をつきながら言う。わざとじゃないのはわかってる、と言いながらも、なんとなく  
そわそわと胸と股間を守る仕草を見せているのは気のせいか……?  
(勘弁してくださいよ〜)  
流志は触ってしまった事そのものより琴奈の警戒心が見え隠れする態度に動揺する。  
自分は無実だと声を大にして叫びたかった。……しかし、触ってしまったのは事実なのだ。  
 
「仕方ないか……練習方法を切り替えましょう」  
琴奈が髪をかき上げながら言う。  
仕方ない、と言う言い草はちょっと気になるが、練習方法を変えてくれるのは賛成だ。  
流志はホッと一息ついたが……。  
 
「ここからは寝技勝負にしましょう」  
「…………。はい?」  
流志は目をパチクリする。  
「立ち技がこういうエッチな組み合わせになっちゃうんだもん。このままじゃ練習にならない  
でしょ? 私はいいけど……ね」  
余裕を取り戻したか、琴奈がクスクスといたずらっぽく笑う。  
「だから寝技だけでも鍛えておきたいの。協力してくれるよね、流志♪」  
唖然とする流志に、琴奈はニコッと微笑んだ。  
 
 
(寝技勝負って言ったって……)  
エッチな組み合わせで演習にならないのはこちらの方ではないか、とルージは思う。  
それが当たり前の様に思えるのだが琴奈はそう思わないのか……?  
 
「る〜じ〜、こっちよ〜♪」  
 
これから自分と琴奈は格闘技の寝技の練習をするのだ。すんごく誘っている声に聞こえるのは  
気のせいなのだろう。  
だが、横向きでしなを作る格好で寝技の構えをするのは止めて欲しい。気だるげに微笑みながら  
肘を突いて寝転んだ状態で流志を見上げる琴奈。流志はクラスメートが学校に持ってきて、  
女子たちの顰蹙を買いながら回し読みしているグラビア雑誌を思い出していた。  
 
「どうしたの? やろうよ〜♪」  
 
(気のせい、気のせい……)  
煩悩を振り払うようにかぶりを振ると、琴奈の方をあまり見ないようにして彼女の横に座った。  
「それで……どうするんですか?」  
コホン、と咳払いして目を逸らしながら聞く。頬を染めて照れてる可愛らしい少年を見た時、  
おね〜さんがどういう心境になるかを知る程には、流志は世慣れていないようだ。  
 
「そぉねぇ〜……どうしよっかな〜♪」  
流志の気のせいでなく琴奈の口調は小悪魔の様に悪戯めいていた。初々しい少年をエッチな煩悩に  
誘い込むほど琴奈も擦れてはいないが、それでもにんまりと悪い笑顔で微笑むと面白がるように  
流志の目の前に擦り寄ってきた。  
流志の目の高さからは胸元の合わせ目から白い肌が覗けそうになる。  
 
「お、俺が下になったほうがいいですよね?」  
辛うじて流志はそう言った。  
「どうして?」  
「だって、最初は琴奈さんが攻勢の方がやりやすいでしょ?」  
「そうねぇ……」  
琴奈は少し考えていたが、  
「やっぱり、私が下かな♪」  
と、言って仰向けに寝転がる。  
「な、何故ですか……?」  
困ったような表情の流志を見て小首をかしげながら、  
「だって、私、寝技ってどうすればいいか分からないもん……だから最初は流志が攻めて♪」  
そう言うと、ウィンクする。流志はまた意味も無い咳払いをした。  
 
「それになんとなく、女の子が下の方が色々と都合が良さそう……」  
「始めましょう。行きますよ」  
琴奈が何か言い出す前に流志は練習を再開する事にした。  
クスクス、と彼女が忍び笑いをするのを耳にしながら、流志は琴奈に覆いかぶさるようにして  
技を掛け始めた。  
 
 
         *         *         *  
 
 
とにかく、練習を再開してしまえば邪な気分を忘れて乱取りに打ち込めるだろう、と思っていた  
流志だが……甘かった。  
(ど、どうすればいいんだよ〜〜!)  
と、心の中で叫ぶ。  
とにかく――どこを触ってもぷにぷにのぽよぽよなのだ。  
上から覆いかぶさると、ポヨン♪と肘が胸に当たるし、背後から攻め込もうとするとお尻に顔が  
埋まった。その度に琴奈が小さく悲鳴を上げる。  
横からの攻めに至っては最悪である。抵抗する琴奈を抑え込もうとして肩と下半身に手をやると、  
柔らかい所が前腕部にくにゅ♪と触れた。  
「ひゃあん! ……そ、そこはダメ……」  
切なげに指を咥えて仰け反る琴奈を見て慌てて流志は技を解く。  
 
「はぁ……、はぁ……、ハァ……。だ、ダメね、私……。流志に好き放題に攻められて……」  
(いや、ちょっと違いますって……)  
顔が上気し、息を荒くしてぐったりとしている琴奈を見て、流志は困ってしまう。  
「それにしても、流志は上手ね。女の子との経験がないと思えないぐらい……」  
「な、何の経験ですか!?」  
「……? 勿論、寝技の事よ。……何の事だと思った?」  
「……なんでもありません」  
そういうオチである。  
 
「このままじゃ私、攻められっ放しね……」  
ややはだけた胸元を直そうともせずに琴奈は流志を見上げる姿勢になる。流志の位置からは白い  
スポーツブラと胸元の谷間が覗けてしまう。美衣には絶対ないものだw。  
「ねぇ、流志。私、必殺技を使っていい?」  
琴奈が幾分目に光を湛えて流志を見る。流志は胸元に目が行ってたのでそれに気づかなかった。  
「ひ、必殺技……ですか?」  
「うん、必殺技。これで男の人を倒した事もあるんだよ」  
琴奈は自身たっぷりに言う。しかし、それならば何故それを今まで使わなかったのだろう?  
流志がそれを指摘すると、  
「だって……。女の子がそんな事をするなんて……ね♪」  
琴奈は思わせぶりにチロリと舌を出す。  
「よ、良く分かりませんけど……使うのはいいですよ」  
そんなのがあればだけど――。流志は不思議そうな顔をしながらそう言った。  
 
この一言が彼の運命を大きく変える事になると知らずに――(大げさ)。  
 
「フフフ……言ったわね、流志……。では、遠慮なく♪」  
今まで流志の愛撫?に身悶えしていた琴奈がいきなり流志に襲い掛かった。  
「わ……! な、なんだ〜!?」  
抗う間もなく流志は琴奈に押し倒された。そのまま覆いかぶさってくるかと思いきや、琴奈は  
足を取る。あっという間に右足をホールドした。  
「くっ……! か、関節技ですね……!? 簡単にはやらせない!」  
流志が体を捻って開き首を固められているポイントをずらそうとする。しかし、琴奈はそんなの  
には目もくれず、もう片方の足も取った。両脇に流志の足を抱える形になる。  
「う……? こ、これは……!?」  
「流志……『電気あんま』って知ってる?」  
「でんき……あんま……? なんですか?」  
「やっぱり知らないか。早い子は小学生で経験してるんだけどな〜。フッフッフ……覚悟〜♪」  
「か、覚悟って……何を? ……ちょ、ちょっと待って!」  
琴奈はにんまりと微笑むと流志の股間に足を乗せた。慌てる流志だが、琴奈はそのまま右足を  
震わせていく。  
「だ、だめですってば! や、やめて……!!」  
「電気あんま、かいし〜〜!! だだだだだだだだだ……!!」  
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛〜〜〜〜〜!!!!」  
 
流志の悲鳴が道場にこだました。  
 
 
         *         *         *  
 

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