「よくも言ってくれたわね!!  
 哲也、あんた5年前のことを忘れたんじゃないわよね!?」  
「おいおい、過去を掘り返されて困るのは、美咲も同じじゃないのか?」  
 状況がわからない方のために説明しておくと  
口げんかの真っ最中、時々回りのものがこちらに向かって飛んでくるアクセントつき。  
先ほどから怒鳴り散らしているこいつは、一応、幼馴染で美咲という。  
名前からとんでもない想像をする奴がいるが  
例えるなら、その辺の道端に根性で花を咲かせるタンポポを想像してもらうといい。  
ちなみに5年前の事とは、口喧嘩で美咲を言い負かしたらそれを親に告げ口されて(以下略  
 さて、喧嘩の戦況はというと圧倒的に俺が不利。  
何せ、ここで言い負かしてしまうと俺の夕飯がなくなる。  
懸賞のチケットが当たったとかで、双方の親が泊りがけの旅行に行ってしまったのだ。  
俺は親に旅行中の生活費をもらおうとしたのだが  
「あんたにお金を渡したら、ろくな事に使わないだろうから、美咲ちゃんにお願いしたからね」  
そう言った理由で、美咲の家に飯を食いに来る羽目になってしまったのだ。  
最近は会うたび一戦交えてるので、来たくなかったのだが…。  
 
「こら!! なに言葉に詰まってんのよ!?」  
その台詞とともに何かが飛んできて、顔面に直撃した。  
激痛でしゃがんだ足元に落ちてたのは、俺の持ってきたジャ●プ(月刊)  
痛くて声も出ない、そこに追撃の台詞がかかる。  
「馬鹿じゃない? あれくらい避けなさいよね」  
 
「ってぇなボケ! お前みたいな男勝り、嫁の貰い手も無えよ!!」  
思わず5年前の禁句が出てしまったのだ。  
 
「じゃぁ、あんたが貰ってよ!!」  
 
一瞬、何を言われたのか解らなかった。  
美咲は  
真っ赤な顔をして  
こぶしを握り締めて  
 
泣いていた。  
 
5年前の場景が浮かぶ。  
いつもの喧嘩の乗りで言った言葉。  
当然返ってくるだろうと思った言葉は返って来なかった  
泣き出した美咲。  
泣きながら投げつけてきた指輪。  
あのおもちゃの指輪。  
 
あの時と同じだ、5年前は解らなかったけど今は解る。  
 
「貰うよ」  
俺の口から出た言葉はそれだった。  
「うそだよ。 あの時、私のこと嫌いだって、好きじゃないって・・・」  
美咲にとって5年前の俺の言葉はかなり大きな物だったようだ  
「好きだよ、あの時は解ってやれなくてごめん」  
そういって抱きしめてやる、いつもなら飛んでくるパンチはなかった。  
美咲はただ、泣いていた。  
 
結局、夕飯は出前の寿司になった。  
美咲に何が食いたいと聞いたら「お寿司」と答えたからだ。  
「昔っから、なぐさめる時はいつも食べ物だね」  
と余計な一言を貰ったのだが、気にしないでおく。  
美咲が食い物で機嫌を直すのも昔からだ。  
 
寿司を食べ終わる頃には美咲の機嫌はすっかり直っていた。  
「んでさ、私のこといつ好きになったのよ?」  
さっきまで、「やっぱお寿司には緑茶だよね」とか他愛も無い事言っていたのに  
急に変わるんだから女の子はよくわからん。  
…いつからなんて解んないけど、答えないと不味いんだろうなコレ。  
「完璧、好きだって思ったのはついさっき。」  
即座に突っ込みが入る。  
「何それ!! 私の好きだって気持ちをぜんぜん受け取って無かったって事?」  
ええそうですとも、あんたの表現は分かり辛過ぎます。  
いつもだったら、そんな感じの返し文句が口から飛び出るのだが、どうも勝手が違う。  
「最後まで聞けよな、たぶん好きなんだろうなって気がついたのは、一昨年ってとこだ。  
 一応、美咲がやってた事の効果はあったんだよ。  
 でもな、5年前の事があったし、俺の気持ちにも確信持てなかった」  
コレでどうですかとばかりに見つめてやる。  
見れば美咲は顔を赤くして、ふるふると振るえていた。  
やばい、また泣かした、いや怒らしたのか?  
 
「……うれしい」  
!? …声が美咲じゃない。  
いや、一応、美咲なんだけど、口調やトーンとかが全然、美咲じゃ無い。  
「すげぇ、マジ女の子だ」  
そう思ったら、つい口から出てた。  
一瞬の間があって、ちゃんと湯のみが飛んでくる、やっぱり美咲だ。  
「女の子じゃいけないって言うの!?」  
さっき美咲を抱いてた時に抑えていたものが湧き上がってくる。  
やばい、マジにどうにかなってしまいそうだ。  
「あのね、哲也。 これがほんとの私だよ」  
微妙にうつむいて目線をあわせようとしない、言ってる美咲も恥ずかしいのだろう。  
「哲也は本当の私は嫌い?」  
そう言って、こちらを向きなおし、俺を見つめる。  
「なんツーかさ、さっきから調子狂いぱなし。  
 いつもを違うおまえを見てさ、押し倒したいとか思ってる俺がいる」  
言ってから激しく後悔。  
駄目だ、絶対にコレはいつもの俺じゃない。  
「それが普通なんだと思うよ。  
 私が、今の私に気づいた時もそんな感じだった」  
頭を抱えてる俺に美咲が話しかけてくる  
「それに、私はそんな哲也だって好きだよ」  
顔を上げたら、美咲の微笑んだ顔が目の前にあった。  
唇を交わす。  
「これで良いんだよな  
 第一、悩んでる暇なんかないんだっけ?  
 明後日までしか時間無いからなぁ」  
そう言ったら、美咲はまた顔を真っ赤にした。  
 

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