一見、果てしないと思われる北海道の大草原を、日本防衛隊の旗を立てたトラックが
走っている。ちなみに日本防衛隊というのは、二千二十五年に勃発した第三次世界大
戦の時に発足された、祖国防衛を旨とした治安部隊である。
「米食いてー」
日本防衛隊第二大隊を率いる時任エリカは、黒パンを齧りながら言った。ここ半年ほど、
ロシアで作戦に参加していたので、米飯を摂った記憶がない。もっとも、長らく続いた戦争
で疲弊した日本に、戦地へ物資を届ける輸送力など無かった。
「時任少尉。もうそろそろ、旭川の辺りじゃありませんかね」
トラックを運転している島田規子伍長が指差す方向に、破壊された建物がいくつかあった。
エリカはその様子を見て、唇を尖らせる。
「つったって、お前、瓦礫の山しかないじゃん」
「爆撃、激しかったらしいですから・・・生き残った人は皆、内陸部の方へ逃げたそうです」
「あーあ、この有り様じゃ、あたしの生まれ故郷の東京は、草一本生えてないんじゃない
かな。せっかく、生きて帰れたっていうのに。なあ、娘ども」
エリカはトラックの荷台で眠っている隊員たちを見た。誰もが薄汚れていて、ライフルを抱
えながら寝ている。人数はわずか十五名ほどで、その全員がうら若き少女であった。
「ひでえ戦争だったなー」
世界各国による資源争奪戦に端を発した第三次世界大戦は、凄まじい消耗戦を展開
した。日本は徴兵制を復活させ、若い男を戦地へ送ったはいいが、おりからの資源不
足であえなく頓死。しかし、戦争はちっとも終わる様子を見せないので、止むを得なく国
を東西に分割し、関が原から西はアメリカと、東はロシアと組んだ。
その時、東日本は自衛隊に代わる治安部隊を結成する。これが、日本防衛隊であった。
若い男がほとんど死に絶えたので、当然、部隊の構成は女ばかりとなる。しかしこれも
次々と戦地で果て、今や部隊の平均年齢は14・7歳。ちなみにこの部隊を率いる時任
エリカは、最年長の十九歳であった。
「しかし、大隊のほとんどがやられるとは思いませんでしたね、少尉」
「まあ、ロシア軍の盾みたいなモンだったしな。あと、売春婦」
エリカがにやけながら、股の辺りを指でなぞった。実際、女ばかりの日本防衛隊は、そ
ういった需要によく応えていた。そのせいでロシア男の子を孕み、現地で離隊した兵士
もたくさんいる。
「千人は死んだよなあ・・・そうじゃなきゃ、たかだか少尉のあたしが大隊の長になるわ
きゃないものな」
部隊は元々、千人規模の物だったが、度重なる激戦でそのほとんどが骸と化していた。
エリカが大隊を率いているのは、そういった理由である。
「伍長、お前、ロシア男とどれくらいやった?」
「分かりません。百くらいですかね」
「あたしもそんなモンだ。白兵戦で傷まるけの体だけど、案外もてたよな」
「突撃の後なんか男欲しくて、素っ裸でロシア軍の兵舎に行きました、私」
「そうそう、わざわざ輪姦されに行ったりしてな・・・」
ふっ、とエリカは静かな笑いを見せた。戦地では理性が失われ、人が人でなくなる事が
多々ある。もしかしたら明日は命が無いなどと考えると、兵はどうしても狂いやすくなる。
その上、毎日が血みどろの戦いである。狂うな、という方が無理だった。
「おい、止まれ」
エリカが規子に停車を命じた。大通りを得体の知れない何かが塞いでいる。
「伍長、見えるか?」
「はい。ローパーですね」
「やっかいな相手だぞ、こりゃ」
大通りを塞いでいるのは、大木のような生き物だった。元々は植物だったが、遺伝子操作
によって生体兵器へ生まれ変わった、ローパーと呼ばれる化け物である。
「トラックで振り切れるか?」
「燃料が悪くて、無理です。時速三十キロしか出ませんから、ローパーの足の方が早い
でしょう」
「せっかく戦争が終わったってのに、ついてねえな。起きろ、娘ども」
エリカが荷台を拳で叩き、眠っている隊員を起こした。さすがに戦争慣れしているだけ
あって、十五人全員がすぐに目を覚ます。
「敵襲ですか、少尉」
「戦争は終わったんじゃ」
「ああ、戦争は終わったけど、その後始末がまだなんだよ。娘ども、降りな」
エリカは隊員に下車を命ずると、自分もトラックから飛び降りた。
「あッ、ローパーだ」
「あいつに襲われると、体液を吸われるぞ」
隊員は慄き、慌てふためいた。戦争帰りでろくな装備が無く、また弾も無い。それで、体
長三メートルはあろうかという怪物と戦わねばならぬのだ。恐怖で身が竦む思いに違い
ない。
「全員、着剣」
テキパキと銃剣を装着するエリカを見て、隊員は青ざめた。
「は、白兵戦ですか?まさか、ローパー相手に」
「自殺行為です、少尉」
隊員は膝を震わせながら叫ぶ。しかし、エリカは知らん顔だった。
「ここんとこずっと、戦闘が無かったから、ライフルは使い物にならん。油もさしてない
から、下手に撃つと暴発するぞ。分かったら着剣しろ」
そう言われて、隊員たちの顔から血の気が引いた。中には手を合わせ、死に支度をす
る者もいる。それほど、ローパーというモノは厄介な敵なのだ。
「あたしに続け。奴に五メートルまで近づいたら、散開して突っ込め。隙をつけたやつは、
オイルライターで火をつけちまえ」
エリカが身を低くして走り出すと、それに隊員が続き、更には対面にいるローパーも動
いた。しかし、その中で最も動きが敏捷なのは、ローパーであった。
「鞭が来るぞ、屈め!」
見た目はそのまま大木だが、ローパーは枝を自在に操り、鞭のように敵を攻撃する。
運が悪いと、その一撃でこの世とはおさらばになる。
「きゃあッ!」
エリカの後ろにいた隊員が、ローパーの枝に浚われた。屈むのが一瞬遅れ、攻撃を避
けきれなかったのだ。
「バカが!屈めと言っただろう!」
浚われた隊員は、十二歳の少女兵だった。エリカは少女を追い、ローパーへ迫る。
「助けて、少尉!」
「すぐに食われる訳じゃない、体を守ってろ!」
「イヤーッ!ズボンの中に、何か入って来ました!助けてーッ!」
少女兵は逆さづりにされ、ローパーの枝に生えている小さな触手に、下半身を狙われて
いた。一本の枝には生殖のために使われる細い精管があり、それが何本も束になって
ズボンの中に入っている。
「キャーッ!少尉、お尻の穴!穴に、何か入れられたァ!」
「こいつはオスのローパーだ。お前のウンコがいい肥料になるんで、そこに種を仕込む
のさ。良かったな、食われなくて」
エリカは叩きつけられる鞭のような枝をかいくぐり、ローパーの足元までやって来た。
根の部分が進化して足になっているので、見た目が何ともおぞましい。
「ちくしょう、これでも喰らえ」
エリカは銃剣で幹の部分を刺すが、ローパーは何の反応も示さない。それどころか、
固まって突進してきた隊員たちをひとり、またひとりと捕らえ、手活けの花も同然にし
てしまった。
「わーッ!」
「きゃーッ!助けてーッ!」
次々と逆さづりとなる隊員たち。しかし、地上三メートル付近で、果実のようにさらされた
彼女たちに成す術はなく、ただされるがままであった。
「こら、あかん」
十名ほどが捕まると、エリカはそそくさと逃げ出した。残りの五名だけでも生かして帰そう。
そんな事を思っていると、
「あッ、少尉が逃げたぞ」
「ひどい!私たちに特攻させといて、自分だけちゃっかり!」
と、逆さづりになった隊員たちが、怒り始めた。
「後で骨は拾ってやるから・・・ハハハ、ワリいな・・・ん?」
ローパーと捕われた隊員に背を向け、走り出したエリカの肩に、何かがとん、と乗った。
激しい羽音がするが、これは一体何かと振り向くと・・・
「うわッ!なんだ、こいつ?」
なんと、エリカの肩には、やけに大きな蜂が鎮座しているではないか。しかも、危なげな
事に、尻尾の先には生々しい肉の塊がある。一見して、それは生殖器と分かった。
「お、重い・・・」
蜂が羽ばたくのをやめると、エリカはその重みで地に膝をついた。すると蜂は腰を屈める
ようにして、生殖器と思しき肉の塊で、エリカの下半身に迫る。
「やばい・・・こいつも生体兵器のはしくれかな。おーい、誰か助けてくれ!」
先のことがあるので、逃げた隊員は誰も助けてくれなかった。そうしている内に、エリカの
ズボンがメリメリと音を立てて裂けはじめた。
「や、やばい!このままじゃ、あたしが一番、悲惨な目に・・・」
体を揺すったが、蜂は足でがっちりとエリカを包んで放さない。その上、腰をぐいぐいと前
に出し、野太い生殖器を人の女の中へ捻じ込もうとしている。
「やめて・・くれ・・・マジ、ヤバイ」
縫い目がほつれ、ズボンは真っ二つに裂けた。下着は支給品の安物なので、航空機のジ
ュラルミン並に薄い。だからすぐさま、ビリリと音を立ててこれまた裂けた。
「あ───ッ・・・」
エリカは目を見開いて、身悶えた。加減を知らない蜂の化け物は、渾身の力を込めて人間
の女を犯した。ちなみにローパーに捕らえられていた隊員は、触手に犯されながらも、口々
にざまあみろと叫んだという。
「えーと、あの蜂はローパーと同じで、日本で開発された生体兵器だそうです。いま、
ロシア軍のデータベースで調べました。一度作れば、資源の必要が無いので、ああ
いうモノをたくさん作ったみたいですね」
島田規子伍長は、通信端末を手に呟いた。目の前にはエリカを始め、十五人の隊員
が、呆然と座り込んでいる。幸いローパーは発情期で、生殖をメインに行ったために
誰も死なずにすんだ。巨大な蜂に襲われたエリカは、散々犯されたが、命には別状
なし。とりあえず隊は無事ではないものの、欠員は出なかった。
「お尻、イタイ。切れたかも」
「あたし、思いっきり種、出された。後でウンコしないと」
ローパーに後穴を犯された隊員は、比較的、軽傷。しかし、エリカは蓮根のように太い
肉塊で女穴を何度も犯されたため、がに股でしか歩けなかった。
「まあ、とにかく死人が出なかっただけ、マシとしよう。総員、乗車」
「へーい」
エリカの命で、隊員は再びトラックに乗り込んだ。規子が運転席に乗ると、隊員の誰か
が小さな声でドナドナを口ずさみ始める。今の気分にぴったりの歌だった。
「んじゃま、帰るとするかね。発進」
トラックは黒煙を上げ、再び帰路につく。しかし、彼女たちが無事に故郷へ帰れるかは
誰にも分からないのであった。
おしまい