───23日目 夜。 
荒野。何も無い荒れ果てた大地。ただ、3つ浮かんだ月がそこが異世界だということを証明していた。 
 
そこに、砂埃を上げながら走る車が1台。 
 
「・・・全く、こんなジープじゃ満足に眠れやしない。この砂埃、なんとかできないのか?」 
少年が文句を言う。少々立てている黒髪で、ジャケットにTシャツ、下はジーパンにスニーカーという格好。 
「我慢しろ。・・・ん?昭人、この前渡したゴーグルはどうした?」 
「・・・昨日飛んできた石で壊れちまった。」 
「運が悪かったな。まあ、頑張りたまえ」 
運転しながら大して同情もしていない様子でその老いている男は言った。 
老人と言うには若々しい口調で、まだかなりの量を残している白髪交じりの髪。 
ゴーグルをつけている目に刻まれている皺がその年齢を感じさせる。 
「もう少し同情心の入った言い方できないのか?新太郎のジジイよ」 
「無理だね。それと、俺をジジイと呼ぶな」 
まるで同世代の友人のように話すその姿からは、彼等が深い友情か何かで結ばれていることが見て取れる。 
「わかったよ、ジ・ジ・イ」 
諦めたのかどっかとイスに座りなおす昭人。そしてちらっと後ろに視線を向け、 
「あのついてくる化け物、どうする?やっぱり体力あるぜ、あいつら」 
後ろを走っていたのは、十数匹ほどの淫獣。いずれも怒りの表情に満ちている・・・ようにみえた。 
そう、昭人は人の顔をしている犯されている雌を見ると雄の淫獣にちょっかいをかけて、こちらに誘導していたのだ。 
「やっぱり人の顔してるとほっとけねぇよ。あの女達も可愛そうに」 
「もうすこし考えて行動してくれないと困る。何が『諸葛孔明以上の策士』だ馬鹿野郎」 
「気にしない気にしない。いざとなればこいつに御出陣願うさ」 
彼の手には少年が握るには似合わない物体、「銃」が握られていた。 
 
─ファブリック・ナショナル社製小型自動拳銃「FN Five-seveN」。 
アサルトライフルと変わらない650mの弾速を有し、かなりの貫通力を誇る。弾数は20+1。 
そんな物体が何故彼の手に握られているのだろうか。 
そもそもなぜ、彼等はこの荒野を走っているのだろうか。 
話は21日前、そう、あの日に遡る。 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 
暖かい日差しが心地よいあの日。 
昭人は山奥の新太郎の家に遊びに来ていた。 
彼は毎日新太郎の家に通っている。訓練に便利で、かつ妹が待っている自宅からそう遠くないからだ。 
 
昭人、──柊 昭人(ひいらぎあきと)は彼が扱う棒術の訓練をしていた。 
神木 新太郎(かみのぎしんたろう)は彼が違法に手に入れていた銃の手入れをしていた。 
そんな彼等にとって普通、であった日常は一瞬にして、「非日常」に変わった。 
 
3。 
 
2。 
 
1。 
 
 
0───。 
 
 
 
爆発音とともにすさまじい衝撃が起こる。 
 
爆風に吹き飛ばされる昭人。瞬間、受身を取り棒を構えた彼が見たものは─ 
───荒れ果てた荒野。どこまでいっても荒れ果てた荒野に思える世界。ただ、それだけだった。 
「なんだ、こりゃあ・・・?」 
構えを解かずに、あたりを見回す昭人。 
「なんだ今の爆発音は!昭───!」 
飛び出してきた新太郎が呆然とする。 
「荒──野?」 
「・・・ジジイ、俺らの家以外・・・なにもない、みたいだぜ」 
「こんなばかな───」 
新太郎がようやく我を取り戻し周りを見渡す。 
新太郎のいた家と、その周囲1m程度だけが、青々とした原っぱとなっていた。 
「・・・まぁた妹に馬鹿兄貴が心配かけちまうな・・・ったく」 
この時彼が考えていたのは自分の安全や、現在の状況、ではなく。 
ただ、昭人の家に残してきた妹の心配をしていた。そういう男なのだ。 
「──昭人、とにかく家に戻るぞ。とにかく状況を把握する必要があるし、捜索の準備もしなければならん」 
「頭の切り替えが早いことで・・・」  
 
電話、テレビ、ラジオ、その他通信機器類が一切使用できないことを確認した彼らは次に探索の準備を整えた。 
神木新太郎は、第二次世界大戦経験者である。彼はその後の惨状を嫌と言うほど見てきた。 
だから、過剰ともいえる備えをする。 
彼が所有する銃は3丁。ハンドガンの「FN Five-seveN」「コルトSAA」サブマシンガンの「FN P90」 
彼がどうやってこれらを入手したのかは昭人も知らない。ただ、いつの間にか持っていた。それだけだ。 
 
所持品は1か月分の食料、燃料。双眼鏡と、スコープ3個。トランシーバー5個。 
サバイバルナイフ。昭人の棒術用の棒2本(練習用、実戦用)。銃3丁。弾薬150発程度。 
──さらに驚くべきことに、グレネードを3発、所有していた。 
 
そして彼らは当ての無い旅に出た。 
3日目、彼らは淫獣に遭遇した。彼らが男2人であったのが幸いか、淫獣の方はあまり気に留めなかったようであった。 
だが彼らは違った。直感的に、奴等の調査に当たるべきことがわかっていた。 
 
1週間が経ち、淫獣についても大体のことがわかってきた。 
・雌を犯して妊娠させること、種を残すことを最大の目的とする 
・あまりにも若い雌は手を出さない 
・雌の匂いに反応する 
・集団で行動する個体は少ない 
といったところか。もちろんかなり慎重な調査をしているため真偽の程はわからないが、いい線はいっているのではないだろうか。 
次に彼らは、近くにあった森の探索に当たった。 
森の中では淫獣がかなりの量生息しており、食料も豊富。特に彼らが驚いたことは、森にあった食料はいずれも 
少量を食べるだけで満腹になることだ。調査は順調に思われたが、ここは彼らの縄張りであり、 
縄張りへの侵入者を彼らが放っておくわけはなかった。彼らは10分に1匹程度のペースで淫獣に襲われ続けた。 
さらに彼らは「銃声につられてやってくるかもしれない」という理由で銃無しでの戦いを強いられた。 
昭人の強さはもちろん新太郎も体術の使い手であるためなんとか撃退できているが、流石にこんなペースで襲われてはたまらないと 
早々と逃げ出すことにした。 
 
2週間後。彼らは小高い山の上にいた。双眼鏡で一帯の様子を観察しようとしたのである。 
「ついに見つけた・・・!人間の住んでいる場所を!」 
双眼鏡でそれを見ていた新太郎は感動のあまり体が震えるのを感じた。 
広い森の中に立つ人工的な物体。そう、それは同じくワープしていた海の花女学園であった。 
「でもジジイ、もう全滅してたりしたらどうするんだ?それと住んでる奴が人間じゃなかったら?」 
「見てみろ」 
「ん」 
昭人が双眼鏡を覗き込む。 
「なるほど・・・死んでりゃ明かりはつかないし、化け物にあんなでっかい建物作る技術なんて無いわな。」 
「そういうこと。・・・しっかし遠いな・・・時間かかるぞありゃ」 
「しかもここは入り組んだ山岳地帯ときてる。よく車でこれたよ」 
「ジープをなめてくれるなよ。さあ、いくぞ」 
「OK!」 
 
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 
 
「気にしない気にしない。いざとなればこいつに出陣願うさ」 
「あんまり銃弾使いたくないんだけどな・・・」 
「あんた銃弾が作れるんじゃないのか?」 
「どんなに根詰めても1日10発が限度だよ。ただでさえ弾丸が2種類必要だし片方は製造がクソ大変だしな」 
「げ・・・」 
しばし沈黙。 
「さぁて、見えてきたぞ」 
「やっとか!ようやく暖かい布団かなんかで寝られるわけだな」 
「・・・その前に、後ろをなんとかしないとな昭人?」 
「はいはい・・・俺がやりゃいいんだろ俺がやりゃ?」 
「撒けなかったらな」 
「了解」 
ジープは海の花女学園へ。この2人の男との出会いが、海の花女学園に何をもたらすのであろうか。  
 
 
23日目深夜 切り開きしフロンティア 2nd 
 
 
こちらは海の花女学園屋上。 
 
「こりゃあ大変だ・・・!」 
「・・・・・!」 
 
たまたま見張りに来ていてその様子を見た女子、唐沢美樹と高見沢麗子は驚愕の声を上げていた。 
こちらへ向かってくる淫獣の群れを目撃したからである。 
先頭に何か黒っぽい物体が走っているが、美樹と麗子はそれも淫獣と判断したようだ。 
 
── また見つけるとは、ラッキー・・・なのか? 
 
以前もこんな風に淫獣が押し寄せてくるのを美樹は見たことがあった。 
あのときより数が少なかったからか、そんな事をふと考えた。 
「アナウンスをしてくる!麗子はここで見張りを!」 
2回目であるので、美樹の指示は簡潔なものであった。そして返事を確認しないまま走り出す。 
 
「わかりましたわ!」 
麗子が指示に従うのを美樹が聞いていたかは定かではない。 
 
── くそ。またあんな戦いをしなくちゃならないのか──? 
美樹の脳裏にあのときの光景と、ベスの顔がふっとよぎる。 
── あの時のベス、強かったな。 
一瞬感傷的な気分になったが、すぐに気を戻して走り出す。放送室は、もうすぐだ。 
 
 
2分経つか経たないかというところでアナウンスが響く。 
深夜であったため寝ていた生徒もいただろうが、そんなことは気にしている場合ではない。 
大音量で放送したためほぼ全員が跳ね起きたはずだ。  
 
そして数分後、保安部の全員が戦闘の準備ができ、持ち場についていた。 
ただエンだけは出てこないので、保安部の非戦闘要員の女子に起こしに行ってもらっている。 
まあ、てっきりもう起きていると思い確認もせずに出てきた自分が悪いのでもあるが。 
あの放送で起きないなんて、エンはある意味すごいのかもしれないと皐月は思った。 
そして皐月は屋上を見上げ、トランシーバーを手にして連絡を取った。 
『ザザッ・・・ こちら黛。美樹先輩、こっちへ来るのはだいたいいつごろかわかりますか?』 
『あと・・・4,5分ってとこかな?周りにも、隠れている敵はいなさそうだよ。・・・メイ、がんばれよ』 
『ありがとうございます』 
 
前回の奇襲などの反省から、屋上に数人の見張り役を置き、トランシーバーで連絡をすることにしていた。 
今回は発見者である麗子と美樹が見張りに立っていた。 
 
「・・・数が少ないとはいえ、油断はできないな・・・」 
唯はナックルの調子を確認するように目をやり、独り言のように言った。 
 
シックスティーン・カルテット・・・いや、現在はトリオである─は激戦が予想される正門前に集まっていた。 
 
「そうね・・・でも、守るためだもの」 
伊織は言った。来るときにユウが自分も行きたいといってごねていたのだが、ミンに任せて自分は出てきてしまった。 
・・・ある意味、この前のストレングスとやらよりも大変かもしれない。あとで、お礼言わなきゃ。 
伊織はそう思った。 
「誰にも酷い思いはさせない・・・!」 
皐月も同調するように言う。決戦は刻々と近づくように思われた。  
 
 
「ジジイッ! どうだっ!?」 
昭人が少々焦ったようにどなる。 
「無理だ!あいつら速い!とても撒くのは無理だ!」 
新太郎が大きな声で返事をする。 
 
ジープは全速で走っていたが、相手も特に速い淫獣ばかりのようで、多少は離れようとも一向に撒ける気配は無い。 
 
「やるしかねえか・・・!」 
昭人が今では彼の愛銃であるファイブセブンを手に取り言った。 
「昭人!」 
「なんだ?」 
「1匹1発」 
「げ」 
新太郎が出した課題が厳しすぎるのか昭人は厳しい顔をした。 
「弾薬は節約しないとな。オーバーした分はお前が作れよ」 
「・・・」 
もちろん昭人に弾薬は作れない。不可能かかなり難しいかの2択だ。 
「・・・了解。あんまり揺らしたり曲がったりすんじゃねえぞ!それはオレのせいじゃないからな!」 
半ばやけっぱちでそういうと、片ひざ立ちの体制になって銃を構える。 
そして、一気に集中力を高める。音が聞こえなくなる。風の流れが感じられる。目標がはっきりと見える。距離は・・・30m程度。 
── ファイブセブンは確かに貫通力はあるがそのため威力は低い。あの硬そうな化け物どもを確実に殺すには──? 
 
数秒の間。 
 
─── 頭だ! 
 
瞬間、狙いを定め引き金を引く。腕に衝撃が走る。思わず、鳥肌が立つ。 
 
── いまだに、トラウマとして残ってんのか?・・・笑い話にもならないな。 
昭人が苦笑する。銃弾は、淫獣の頭を正確に捉え、淫獣が倒れて動かなくなる。どうやら銃は効果があるようだ。 
 
そして引き金を引くごとに、2匹、3匹と倒れていく。 
引き金を引くだけで、生物を殺せる道具。冗談じゃない。 
 
しかし。 
「昭人、あの建物学校だったみたいだ!花の海女学院だ!女子高だぞ!」 
新太郎が目ざとく気がついて言う。 
昭人が振り向く。もう、学校は目の前だ。 
「まずい!間に合わない!」 
昭人が叫ぶ。 
「なんだって!おい、急いでくれ!中には女の生徒ばかりなんだぞ!戦えるわけが無い!」 
新太郎が決め付けたように言う。──まあ、内部ではすでに準備ができているのであるが。 
「無茶言うな!これが限界だ!」 
「なんとかならないのか!」 
「・・・・・」 
昭人が目を瞑り、思考を巡らす。 
「おい!」 
新太郎がもう一度言う。 
「・・・・・わかった。門の前で、停止してくれ。止まりさえすればいける」 
「わかった!」 
 
すでに門までは50mを切っていた。  
 
 
「もうすぐです!気をつけてください!」 
静香が叫ぶ。保安部、警備員共に緊張が増す。 
外から音が聞こえる。獣の声だろうか? 
 
音が近づいてくる。いよいよ来るか、と思ったそのとき。 
 
キッという何か懐かしさを感じる音とほぼ同時に、爆発音のようなものが5,6発聞こえる。 
そして次の瞬間、静寂が訪れた。 
 
不思議だと思い皐月が右に目を向けると、唯と目が合った。 
「なんだ、あの破裂するような音・・・?それに、化け物はどうしたんだ・・・?」 
「さあ・・・・・?」 
首をかしげる二人。少したって、外から声が聞こえた。 
「おーい、誰かいるかー!おーーい!」 
「人間だ!害はないから開けてくれ!」 
これは。男の声だ!少年の、同世代の男子のような声と、こちらは幾分か年老いた声が聞こえてくる。 
 
「!!!!」皆がいっせいに驚く。その中で、唯は伊織がビクッと震えるのを見た。 
そして、皐月がトランシーバーで「正門を開けてください!」と警備センターに連絡する。 
「おい、メイ!何を!」 
唯が皐月の行動の早さについて行けず言う。 
「あのままではあの人達が襲われてしまう!早く開けないと!」 
「淫獣だったらどうするんだ!前にも喋れる奴がいたろう!」 
「その時はその時だよ!とにかく、助けないと!」 
唯は諦めたように正門に目を向ける。正門が徐々に開き始める。 
── 男の声だったようだけど、もし人間で、一緒に生活するようになったら、橘、大丈夫だろうか・・・? 
伊織のことを心配している間に、半分ほど正門があいていた。 
 
 
保安部と警備員達は正門の前まで恐る恐る近づく。 
「入っても?」という老人のような声が聞こえるが、返事をするものはいないので、再度同じ声が聞こえた。 
静香が「少々待ってください」というと、「わかった」という声が返ってくる。明かりは戦闘に必要だと思われるため学校からの明かり等を総動員していたためなんとか顔が見える程度だ。 
皐月は目を凝らして見た。彼らの後ろに車と倒れている淫獣が見える。彼らが倒したのだろうか?それにしては、体が綺麗だと皐月は思った。 
次に皐月は2人の顔を見た。薄暗いがだいたいは見える。1人は同じ年ぐらいのようだ。髪を立てていて、顔はいい方かな、と評価した。目があうと、表情を僅かに緩めて手を少し上げた。あわててこちらも軽く頭を下げる。 
もう1人は、老人にしては若々しい感じがする。55歳くらいかな、と思った。 
 
「それでは、話も聞きたいので中にどうぞ。・・・その前に、所持品の検査などもさせていただいてよろしいですか?」 
静香が老人に言う。相手が老人ということで、敬語で話している。 
「信用しきれない、ってことか。まあ、俺だったらそうするからな。わかった。車と荷物を持ってくる。」 
老人が了承し、車へ向かう。男子も一緒に歩き出す。 
唯が話しかけてくる。 
「あいつら、信用できる?強そうには見えないけど、なにかありそうだな?」 
なにか、か。何か一騒動ありそうだな。 
 
 
皐月はそう思ったが、まさかあのようなことになるとは、思ってもいなかったのである。  
 
 
24日目 深夜 切り開きしフロンティア 3rd 
 
 
「…で、この学校の状況について教えてくれないか?」 
昭人が校内を歩きながら言った。通路には7、8人の女生徒がいる。 
みなこちらを見てヒソヒソ何かを囁いていたり、変な物を見るような視線を送ってくる。 
 
「食料の確保や外敵などについて、ですね?」 
静香が言った。聞かれる事をあらかじめ予測していないと不可能な応答速度だ。 
 
「よーくわかってんじゃん。美人だし、言うことないな」 
昭人がそういって軽く笑う。 
新太郎が呆れた顔で昭人の方を見る。 
 
静香がそれを軽く流して説明している間に一行は会議室に到着した。 
会議室の中には静香、美樹、麗子、皐月、伊織、唯が入った。 
外では警備員の人間数名に待機してもらっている。 
 
「では、荷物をすべてこちらに出してください」 
「あいよ。…ええと、これとこれと…これで全部だ」 
静香の指示に従って2人はテキパキと荷物を出した。 
 
会議室は異様な空気に満たされていた。 
長テーブルが全て端にまとめられ、そこで皐月、伊織、唯の3人が昭人たちの荷物を調べている。 
昭人たち自身は中央のパイプイスに座っていて、少しはなれたところに向かい合わせに受験の面接のように静香が座っている。 
 
「それにしても美人が多いな…この学園。是非転入したいよ。…女装でもするかな」 
「…気にしないでくれ、こういう奴なんだ。で、状況についてはわかったんだが、君達…名前は?『君』、じゃ呼びにくいのでね」 
昭人がふざけて言った言葉を新太郎がフォローして言う。 
 
「(昭人、さっきからおかしいぞ…どうした?)」 
「(あんまり頭がよくない方が警戒されないだろう?大賢は愚に似たりって奴さ)」 
「(なるほどな…ただ、お前は愚そのまんまじゃないのか?)」 
 
「こちらもそちらについては何も知りません。まずは名乗っていただけないでしょうか?」 
静香が返事を返した。 
 
「了解。俺は神木 新太郎。今年で65歳だ。…SATって知ってるか?日本の特殊部隊みたいなもんなんだが」 
「ええ、知っていますけど」 
「俺はそれに所属していたんだ。だからと言うわけではないが体術等は得意だから役には立てると思う」 
「わかりました。…そちらは?」 
「柊 昭人。こっちのジジイから体術は学んでるけど、俺は棒術の方が得意かな。よろしく」 
「二人ともよろしくお願いします。さて、こちらの事ですが、私の名前は冴島静香と言って、先ほど説明した保安部の部長を務めていて─」 
 
*******************************************************  
 
 
そうして話が続いている頃。 
「エンがまだ来ないんだけど…どうしたんだろう?」 
荷物検査をしている皐月が心配したように言う。 
 
「ええと…まだ起きれないとか?…いや…さすがに無いかそれは」 
唯が荷物をあさりながら言った。 
「うわー…こんな棒で戦うんだ…ぃよっと」 
唯が出てきた木製の棒を軽く振り回す。 
 
「ちょっと…こんな所で振り回したら危ないよ」 
伊織が少々顔をしかめて言う。 
「ああ、悪い悪い(大丈夫かな、伊織…?)」 
唯が謝る。一見大丈夫そうに見えるが、男達の方を決して見ようとしないし、 
声が聞こえるたびに一瞬硬直するのを唯は見逃さなかった。 
 
皐月は出てきた鉄の棒を眺めていた。鉄パイプのように中心に空洞があるわけでもなく、 
ただの鉄の棒である。だが、皐月はそれにどこか違和感を感じていた。 
 
「(なにかおかしい感じがする…調べてみよう)」 
皐月が調べてみると、すぐに違和感の原因がわかった。 
「あの…これは?」 
 
違和感の原因は、棒の両端に仕掛けてある、仕掛けをいじると飛び出してくる刃だった。 
「ああ…。それは戦闘用の棒で打撃が効かないような奴を相手にする事を想定して作ったんだ」 
昭人が振り向いてあまり動揺もしない声で言った。普通想定しないだろ、と心の中で皐月がつっこんだ。 
 
昭人がそう答えた後、 
「(所で、銃は任せておいたけどどうしたんだ?見つかるとまずいぜ・・・特に俺)」 
「(大丈夫だとは思うけどな。とりあえず普通見つからないところに隠してあるが・・・)」 
そう話し合った。彼らは銃を隠しきれると踏んだのだ。 
 
だが、その思惑はすぐに破られる事になる。 
 
「あ…これ…って…!」 
伊織が驚いた声を出す。新太郎はそのときチラリと見えたその物体を見逃さなかった。 
「…っっ!!おい!……橘さん!そいつを取るんじゃない!」 
新太郎が先ほど説明された名前を思い出しながら叫んだ 
 
「ひっ!?」 
しかし、伊織は大声に驚いてそれを持っている手を上げてしまった。 
「しまった……………!!」 
 
「それ…って…もしかして…銃!?」 
静香がそれを見て驚いた声を上げた。完全に彼女の想定外の事態だ。 
一瞬会議室に静寂が訪れるが、それは怒声で打ち破られた。 
 
「まずい…!橘さん!今すぐ銃を置いてくれ!!早くっ!!!」 
そちらを全員が振り向くと、昭人を必死に押さえつけながら新太郎が叫んでいた。 
昭人がもがきながら伊織のほうに徐々に近づく。伊織は涙目になって震えている。 
「や…やめ…ろぉ!銃……を…置いて……くれええええ!!」 
昭人が叫ぶと、伊織は「いやぁ…!」と叫んで無意識に銃を、昭人に向けてしまった。  
 
彼の中で何かが、切れてしまった。 
 
「…くそっ!……ぐうっ!?」 
新太郎があわてて殴って正気に戻そうとするが、もう遅かった。 
新太郎が一気に吹き飛ばされる。 
 
「…」 
昭人が無言で伊織に襲い掛かる。 
「い……いやああっ!!!」 
「誰か、止めるんだ!」 
伊織が悲鳴を上げるのと同時に苦しそうな様子で新太郎が叫んだ。 
 
「いけないっ!」 
「おい、お前何を…!?」 
皐月と唯が間に割って入るが、依然こちらに突っ込んでくる昭人。 
抑えて止めようとするが、あまりの力に弾き飛ばされてしまう。 
 
「(なんて力なの・・・!人間の力じゃない!)」「(くそっ・・・!伊織が・・・!!)」 
静香と美樹、麗子にとっさに支えられた2人が思った。 
 
次の瞬間、ものすごい爆発音が会議室に響いた。警備員もあわてて入ってくる。 
伊織が震えで銃を暴発させてしまったのだ。昭人には当たっていないが、昭人はうずくまって頭を抑えている。 
「あ…ああ……」伊織が銃を落とし、茫然としている。 
 
それが最後の引き金を引いた。 
 
「あ、ああ・・あああぅ・・・ああ」 
昭人が奇声を発し立ち上がった。目は虚ろで焦点が合っていない。 
「アアアぁぁあぁぁ・・・ぁぅぅうぅうぅあ・・・!!」 
 
警備員が昭人を取り押さえようとする。 
「よせっ!俺に任せて逃げるんだ!死にたいのか!」 
やっと回復した新太郎が昭人の方に走りながら叫んだ。 
 
「アアァァッゥァアアァアアアアアァァァァ!!」 
「ぐぅっ!?」「きゃっ・・・!」 
昭人は警備員の腹部に強烈な打撃を喰らわせた。警備員2人が倒れる。 
 
「逃げろ!!」 
新太郎が叫びながら昭人に殴りかかる。が、間に合わなかった。 
 
「いやああああああああっ!!!」 
伊織の悲鳴が、会議室に響いた────。 
 
*******************************************************  
 
「完全に遅れたーっ!」 
エンプレスが食パンでも口にくわえて走ってそうなセリフを言う。 
彼女は皐月達が会議室に向かうところで起きて慌てて校庭に向かったのだが、 
すでに何処かに行ったと言う話を聞いてどこに行ったのか聞いて回っていたのだ。 
 
「エン、今度から耳を塞ぎながら寝ないように!…どうやったらあんな格好で寝れるのよ本当…」 
エンプレスを起こしに来た医療班の女子がエンプレスと一緒に走りながら言った。 
「わかってるよー!…あ、会議室ってあれでしょ!?」 
遠くのほうに人ごみが見える。 
 
「そうよ。…なんか騒がしくない?どうしたんだろ?」 
「!なんかあったのかも!オスが一緒だし!」 
エンプレスがさらに加速して走り出す。こうなると彼女に追いつけるものは誰もいない。 
 
「ちょ、待ってよー!待ってってばー!」 
彼女が慌てて言ったものの、エンプレスとはすでにかなりの距離を付けられていた。 
 
「到着!メイ、大丈夫!?」 
エンプレスが建物の中であるにも関わらず砂埃を上げてブレーキをかける。 
「………っ!?イオリ、どうしたの!イオリ!?」 
そこではちょうど伊織が医療班の別の女子におんぶをされて運び出されているところだった。顔に痣を作って、口から血を流している。 
 
「(……まさかメイ達も……!?)」 
エンプレスが人ごみをかきわけて会議室に入る。 
 
「本当に……すまない……!」 
「……………………………」 
 
会議室は重苦しい空気に包まれていた。 
土下座をして静香らに謝っている昭人とそれをどこか怒り半分同情半分といった目で見ている静香たち。 
だが、エンプレスはそんな空気には気づかず、怒りを燃え上がらせていた。 
 
「お前が……イオリを!よくもっ!!」 
爪を伸ばし昭人に飛び掛るエンプレス。 
「「「エン!?」」」 周りにいた静香らが驚く。 
 
「昭人ッ!危ない!」 
「!?」 
新太郎が叫ぶと同時に昭人がバッと立ち後ろに下がるが、爪がかすった。 
血が数滴地面に飛ぶ。 
 
「……この世界の人間か?」 
新太郎が隣にいた静かに話しかける。 
「…ええ、エンプレスといいます。…私達の仲間です」 
「ジっ、ジジイッ!助けてくれっ!」 
武器がない昭人が悲鳴をあげる。 
 
「自業自得だと思っておとなしく死んでな。骨は拾ってやるよ」 
新太郎があえてそういう。 
「くっ!65のジジイより先に死んでたまるか!すまないが……俺もこんな所で!」 
昭人が近くに立てかけてあった練習用の木製の棒を手に取り、間合いを取る。 
「気絶させてもらうっ!…悪いな」 
 
昭人が高速で自らの体を回転させながら棒での攻撃を行う。 
エンプレスがそれを避けながら攻撃を仕掛ける。 
周りはそれを見守る─いや、手を出せないだけだが─それはさながらリングのようになっていた。  
 
皐月や唯はその戦闘を見て(こいつ強い)と思った。 
静香は(「あれ」さえなければかなりの戦力になる)と思っていた。 
新太郎は「まったく…またやらなきゃいけねえか」とため息をついて、静香に耳打ちをする。 
(ええと…静香さん) 
(なんですか?) 
(彼女を軽く気絶させてもいいかな?…そうでもしないと、止まらないと思うが) 
(…………いいでしょう) 
(ご協力感謝する) 
 
新太郎は周りより一歩出たところに立ち、戦いを凝視する。 
 
昭人が自らの回転を利用した攻撃から腕のみを使った少々遅い攻撃に切り替える。 
新太郎にはそれが何を意味するかよく理解していた。 
── 隙を作ってからの、一撃必殺。 
エンプレスも手数が多い攻撃から大振りな攻撃に切り替える。 
 
そして、お互いが相手の隙を認識し、構えから突っ込む──! 
「行くぞっ!」 
「うりゃああぁぁあぁっ!」 
お互いの距離が近づき、あわや相打ちか──と思われた。が。 
 
「そこまでだ」 
「なんで…『また』…俺も…?」 
「悪い、ノリでつい」 
「…ぐっ」 
「うっ…!」 
 
声と同時に2人の間に新太郎が現れ、倒れこむエンを支える。 
昭人の方は支えなかったのでゴンという鈍い音がした。 
どうやらうまく飛び出して手刀を打ち込み気絶させたようだ。 
 
「─ふーっ、疲れた。…おい、誰か目を覚まさないうちにお嬢さんを保健室につれてってくれないか」 
あわてて医療班の女子が運び出す。 
「エン、大丈夫!?」 
「ん…。」 
「気絶させてるだけさ。大丈夫だ」 
新太郎が安心させる。 
「良かった・・・。急がないと!」 
 
エンプレスが運び出されるのを見て、新太郎は 
「最悪のスタートだな…」 
と、呟いたのであった。 
 
*******************************************************  
 
「え…、ここは…?」 
エンプレスが目を覚ます。 
 
(えーっと、確か会議室についてイオリが倒れてるのを見て… っ!) 
エンプレスがバッと飛び起きる。横には皐月が立っていた。 
 
「エン、大丈夫?気分とか、悪くない?」 
「……。ボク、負けたの?」 
「そうじゃない。一緒にいたあのおじいさんが止めたの」 
「…それを黙って見てたの!?あの男はイオリを…!」 
「違う、そうじゃないの!」 
「何が違うのさ!」 
「話を聞いて!エン、落ち着いて!」 
「…。」 
エンプレスが黙り込む。 
「確かにあの昭人って人は伊織を殴った。だけど、それは理由があるの。それは──」 
 
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話は伊織が殴られた時へと遡る。 
 
「なんてことを!…許せないっ!」 
「てめえよくも伊織を…!」 
回復した皐月と唯が再度昭人に突っ込む。 
 
最早止めるという生易しいレベルではない。皐月は桜吹雪を、唯はナックルを構えている。 
 
「あぁああああぅぁああっぁぅぅあああ!!」 
昭人がそちらを向くと突進をしてくる。目は焦点があっておらず、最早常人のそれではなかった。 
 
そして激突しようとしたそのとき─。 
 
「ストップ」 
「「!」」 
 
再度間に入った─いや、こちらが先であるからあちらにつけるべきだろう─新太郎に皐月と唯が驚くと同時に、 
新太郎の奥のほうでドサッという音が聞こえる。 
 
「いま、止めた」 
どうやら気絶させたようだ。 
 
「…!医療班を急がせて!」静香が我に返り医療班に準備をさせるよう指示する。 
 
「…何故この人はこんな事を?」 
静香は厳しい表情でそう言った。あの行動は誰が見ても正常な人間のやる事とは思えない。 
皐月も唯も、皆厳しい表情で見ている。 
 
「…言うしか、ないか。 …昭人、悪いな」 
新太郎が壁にもたれかからせてある昭人に謝る。 
 
「俺と昭人は、銃を使うんだがこいつは──『銃恐怖症』なんだ」 
「「え?」」 
まわりから疑問の声が上がる。そりゃそうだ。銃を使うのに銃恐怖症とはおかしな話である。 
「昭人は、目の前で両親を殺されているんだ。─銃で、な」 
「…!」 
動揺が広がるのが感じられた。 
「何故かはわからん。生き残ったのは昭人とその妹だけだった。だが、この事件で妹は塞ぎこんで数年精神科に数年通っていたらしい。」 
「だがこいつはあくまで元気に振舞っていた。妹に心配かけないために、だろうな」 
「しかしこいつもショックを受けていたようだ。公園で泣いていたところに、俺が声をかけたんだ」 
 
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「どうしたんだ?父さんにでも怒られたか?」 
「新太郎──。なんでも、ねぇよ」 
当時俺はいつも公園にいた─ホームレスではなかった事を断っておく─。 
いつしか近所の子供と仲良くなって、いわゆる若者の文化─というものには詳しいつもりだった。 
何年も公園で暇を潰していたから上は18歳、下は3歳までな。3歳に呼び捨てにされるのは、ちょっと変な気分だったけどな。 
その中でも気になっていたのが昭人だ。こいつは小さい子供の中で唯一俺に懐かなかった。 
それが気になっていたんだが、ちょうど公園でこいつを見つけたから話しかけたんだ。 
 
そして俺はこいつから話を聞いた。とても子供には耐えられないような事に俺は絶句した。 
 
「うっ…ぐすっ…うう…」 
「………」 
俺は黙って頭を撫でてやった。俺のことについても話してやったりした─まあ、それはどうでもいい─。 
それから俺らは仲良くなったよ。その頃こいつが「強くなりたい」と言ったからこいつを鍛えてやった事もあった。 
 
それから数年たって妹も元気になった。兄を見て自分も元気にならなきゃならないと気づいたんだろうな。 
 
「新太郎さん、お兄ちゃんをよろしくお願いします。──なんでも、一人で背負い込んじゃいますから」 
「そんな心配しなくてもいいぜ。俺は大丈夫だ」 
「そうだぜ。こいつはもう大丈夫だ」 
「そうですね。お兄ちゃん、迷惑かけないでね──。」 
 
それからもこいつは山奥の俺の家で鍛える事を忘れなかったよ。 
トラウマが発覚したのも、その頃だった。 
 
近所の悪ガキがこいつに喧嘩で負けてエアガンを持ち出したんだ。 
 
「このやろう!動くな!」 
「あ・・ぅ・・あ・・?!」 
「なんだ?こいつ急に弱くなったぞー?」 
「うぅぅあああーー!」 
「なんだっ!?うわああー!!」 
「あああああああああああああああああああああああ!!!」 
「止めろッ!」 
 
ギリギリで俺が止めてたから良かったものの、そうじゃなきゃあのガキども死んでただろうな。 
それまでこいつもこのトラウマの事に気づかなかったらしいな。相当のショックを受けてたよ。 
それからこいつは銃を使い出したよ。克服するため、だと。最初は大変だったが、信頼してる奴ならもっても大丈夫、ということらしい。 
こいつの暴走には段階があった。 
 
1に、銃を持っているのを見る。まだ声での牽制程度しかできないようだった。 
2に銃を向けられる。飛び掛って来るんだが、怯えがあるようで強くは無い。 
3に、俺と昭人以外が銃を撃つ。その恐ろしさは、さっき見ての通りだ。 
 
まあ、確認してないが、こいつの妹が撃っても大丈夫だろう。要はどれだけ信頼しているかだ。 
 
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「──とまあ、こういう所かな。」 
会議室は静まり返っていた。医療班の声が遠くに聞こえる。 
 
「だからこいつのやった事がしょうがない、とは言わない。むしろ俺らが悪い。」 
「──だけど、こいつを責めるのは、やめてやってくれないか。」 
新太郎が頭を下げる。 
「余計なことすんなよ、ジジイ。今回の事は、全て俺が悪いんだぜ?」 
「「!!」」 
昭人が目を覚ましていた。そして静香らのほうを向いて土下座をして、言った。 
 
 
「本当に……すまない……!」 
 
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「─というわけ。私はどうしてもあいつを憎めないよ。…エンもいろいろあったのはわかるけど、許してあげられないかな?」 
「……………わかった。ボクは許してあげるよ。─あのオスを。だけど、信頼したわけじゃない。」 
「うん──!」 
「…でも、イオリは許すって言ったの?ううん、それよりイオリは大丈夫なの?」 
「唯が説得したらしいの。許すけど、今は絶対に会えない、って言ってるみたい。私も会おうとしたんだけど、唯に断られたわ。」 
「──そう。あのオスたちは、ここに住む事になったの?」 
「賛成と反対で意見が真っ二つに分かれたけれど、部長の説得で条件付で許可されたみたい。」 
「条件、って?」 
「1に、化け物との戦闘には絶対参加。 
2に、校舎横の倉庫に居住する事。 
3に、監視をつけること─これは、医療班の女の子とかが交代でやるみたいだけど、名前は聞いてないわ。 
4に、銃は許可が下りないと渡さない事。2丁、ファイブセブンと、P90っていうのを持ってたみたい。」 
「銃──って?」 
「ああ、銃っていうのはね───」 
 
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一方こちらは校舎横の倉庫。 
 
「………いつか会えたら謝んねーとな」 
「気にするな。お前のせいじゃない」 
「違う、俺のせいさ…。それにしても、よく銃を隠せたな」 
昭人の手にはピースメーカー、いわゆるリボルバー。 
新太郎が隠していたのだ。 
「まあな。3つともとられたら危ないからな」 
「…ちょっと外出てくる。」 
「早めに寝ろよ。今、深夜だぜ。それと、もうすぐいなくなるみたいだが、まだ見張りのお嬢さんがいるみたいだぞ?」 
「大丈夫だ。裏から出る」 
「…無理するなよ」 
その言葉は、何に対し言ったのだろうか。 
 
「…ふう」 
学校の門の近くで落ち込む昭人。3つの月が昭人を照らしている。 
 
「お前か、レディーを殴った不届き者ってーのは」 
いつの間にか目の前には、やや茶髪の警備員。軽い調子だ。 
ていうか、レディーって言うか?と昭人は思った。 
「…あんたは?」 
「俺か?俺は雁屋俊介(かりや しゅんすけ)22歳。職業警備員。彼女募集中だ」 
「で、なんですか?」 
「いや別に。ただ、お前の噂が学校中に広まってるのを教えてやろうとね」 
「…なんで知ってるんですか?」 
「学校中に広まってたら知らない奴はいねえよ。色々あって男でも校舎入れるしな」 
「なんだ落ち込んでるな。煙草でも吸うか?」 
「結構です」 
「そうか。まあ、俺でよかったら愚痴でもなんでも聞いてやるぜ?」 
「…………それが──」 
昭人は何十分にわたり様々な事を喋ったが、彼は黙って聞いていた。 
信頼できるな、と昭人は思った。 
 
 
一時間後 
 
 
「あれだろあれ!勇者特急マ○トガイン!俺いい年だったけど見てたぜあれ!」 
「本当ですか!面白かったですよねー!」 
「なんだっけ登場セリフ!定刻どおりにただ今参上!だっけか?」 
「そんな感じ!そんな感じです!盛り上がりますよあれ!!」 
 
いつの間にか打ち解けてタメ口でバカ騒ぎ。 
この少し後、交代の警備員に見つかって2人は3時間ほどの説教を喰らうことになる。 
昭人は追加で静香らに2時間ほど、新太郎に2時間ほど。 
 
とにかくまあ、こうして彼らはこの学園へと到着したのである。  
 

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